バンブーアーミーは侵略する

作者:波多野志郎

 軍隊とは一個の生き物である、そう語る者もいる。個々が己の役目を果たす、それは手が手の、足が足の、目が目の、耳が耳の役目を果たすのと同じように一つとして動くからだと言われている。
 それを現すように、大阪の緩衝地帯の市街地を竹の攻性植物達が進んでいく。慣れたハンドサイン、警戒行動、市街地を低い体勢をたもったまま素早く移動していた。
 会話はない。必要がない。これこそが一個の生物、地上に出て別れているように見えてその根は地下で繋がる竹のように――人がいる大阪の市街地へと向けて、竹の攻性植物達は向かっていった。
 もしも、この竹の攻性植物達が市街地へとたどり着けば――その結果は、火を見るよりも明らかだろう……。

「大阪城周辺の警戒区域に、竹型の攻性植物の軍勢が展開が確認されました」
 真剣な表情で、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はケルベロス達へ切り出した。
「彼らは、大阪城へ接近するケルベロスを警戒すると共に、大阪市街地への攻撃を行なうつもりです。どうやら、支配エリアを拡大させる事を目的としているようです」
 連携を行なう、八体の攻性植物だ。彼らだけでどれだけの命が奪われる事になるのか――そのような事を、決して許してはならない。
「ですので、皆さんには緩衝地帯の市街地で竹型の攻性植物を対処してほしいのです」
 ただ、問題がある。それは、竹型の攻性植物達が警戒しながら進んでいるためだ。
「攻性植物達は、隠密行動をしつつ索敵を行っています。こちらが先に発見されれば、向こうは奇襲をかけてくるでしょう。そうなってしまえば、こちらが大打撃を受けてしまいます」
 連携を取る敵というのは、厄介だ。一度流れを掴まれてしまえば、一気に追い込まれるだろう。
「ですので、こちらも隠密行動をしつつ索敵により攻性植物を発見する必要があります」
 八体の竹型の攻性植物達は、戦闘能力はほぼこちらと互角だ。だからこそ、奇襲を仕掛けた側が圧倒的に有利となる。いかに相手にバレず、こちらが先に発見できるかが勝敗を分ける鍵となる。
「大阪城周辺の緩衝地帯は、無人の市街地です。その地形をうまく利用できれば、有利に戦えるかもしれません」
 敵は単体の近接と射撃を行なってくるバンブージェネラルが一体。広範囲に爆発する爆弾を投げてくるバンブーボムソルジャーが一体。近接の単体に高い攻撃力で攻撃してくるバンブーランスソルジャーが三体。遠距離の広範囲に銃撃してくるバンブーガンソルジャーが三体――計八体の集団となっている。
「この攻性植物を駆逐する事が出来れば、大阪城への再潜入なども可能になるでしょう。どうか、よろしくお願いします」


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)
チーディ・ロックビル(天上天下唯我独走・e01385)
ロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
鍔鳴・奏(あさきゆめみし・e25076)
速水・紅牙(ロンリードッグ・e34113)
クロエ・ルフィール(けもみみ少女・e62957)

■リプレイ


 大阪の緩衝地帯、無人のはずの市街地をケルベロス達は進んでいく。
「異常ナシ……引き続き索敵を行います」
 都市迷彩用ケルベロスコートに身を包んだクロエ・ルフィール(けもみみ少女・e62957)が、建物の影から周囲を確認する。その宣言に、秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)はうなずき、KAL-XAMR50 “BattleHammer”を肩に担いで素早く動いた。
(「分かれた班とあまり離れないようにしないと」)
 結乃は音と風向、影に気を配りながら物陰を経由していく。ふと、小さな影が建物の影に隠れるのに気づいた――翼飛行で空を飛ぶ、イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)だ。
(「まだ、発見できません」)
 イリスは家の屋根の上から、ハンドサインで情報を渡す。ただ、空を飛べば目立ち、攻性植物達に発見されるリスクが大きかっただろう。しかし、イリスはその点もきちんと考慮している。事前に調べた現場の天気は曇、灰色の空に隠れるような色合いの服を選んでいた。加えて隠密気流を併用、隠れやすい建物の影を中心に捜索しているため相手からも視線が通りにくいという利点があった。
(「……とはいえ、慎重に行きませんと」)
 空を飛ぶというのは、ハイリスクハイリターンな作戦だ。見つけやすく、見つかりやすい。運次第では、こちらが先に発見されかねないだろう。
(「出会い頭にばったり遭遇! とかなんねーように慎重にな」)
 チーディ・ロックビル(天上天下唯我独走・e01385)は、動物変身を織り交ぜて物陰を進んでいく。
(「あれ? どうしたデス?」)
 アパートの屋上に降りて、シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)は振り返った。マンションのベランダで望遠鏡を構えていたロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)のハンドサインに気づいたからだ。
(「……向こうの方を、確認できますか?」)
(「了解デス」)
 シィカも双眼鏡で、確認する。信号機の止まった十字路、そこを一瞬で駆け抜ける人影――より正確には、人の形に似た影を複数発見したのだ。
 ロベリアに確認したという意志のハンドサインを送ってから、シィカは家の塀の隠れていた速水・紅牙(ロンリードッグ・e34113)も手の動きで返答する。
(「いたらしいぜー!」)
(「了解」)
 鍔鳴・奏(あさきゆめみし・e25076)も音もなく移動する一団を迷彩フード越しに確認、仲間達と連携を取っていった。
(「奇襲を仕掛けた方が有利、とは解り易い」)
 だとすれば、こちらは先手を打った事になる――奏は、極力音を殺しながら配置へとついた。


 竹製の銃を構えた攻性植物が、先頭を行く。そのすぐ後には、槍を構えた攻性植物が二体――先頭が前へ、後の二体が右と左を。それぞれがそれぞれの死角を補う、隊列行動では普通にある陣形だ。普通、というのはこの状況では重要である。何故なら、必要であり必須であるからこそ普遍的な手法だからだ。
 だが、それはあくまで索敵という手段においてだ。攻性植物にあってケルベロス側にないものは、ない。だが、逆はあるのだ。
「少し重くなりますよ!」
 すなわち、飛行能力――立体的な戦場における、頭上を取るという圧倒的アドバンテージ。見つかりさえしなければ、これは大きい。
「――!?」
 上空から一直線に舞い降りたイリスが、上を警戒した攻性植物をスターゲイザーで地面に叩きつける! これに、前を警戒していたバンブーガンソルジャーが振り返り、横にいたバンブーランスソルジャーが顔を上げた。この間、一秒にも満たない。だが、この刹那がすべてを分けた。
「派手に行くぜ!」
 振り返ったバンブーガンソルジャーの背中に、盛大に紅牙が轟竜砲の榴弾を叩き込む。爆発に、バンブーガンソルジャーの体が宙に浮いた。
「おっと、こっちもだ!」
 タン、と一歩で加速を得たチーディが間合いを詰める。まさに、チーターのそれだ。一歩目から最高速度に乗った降魔真拳が顔を上げた直後のバンブーランスソルジャーの腹部をアッパー気味に殴打、体を浮かせ――。
「――参ります!」
 太陽の大盾を眼前に構えたロベリアが、真っ向から三体の攻性植物を押し潰す! ドゴォ! と爆発のような音を響かせ、アスファルトに亀裂が走った。ロベリアの盾と鎧の重量を活かした上空からの突撃、キャバリアランページだ。
 ミシミシミシ……! と攻性植物達の体が、軋みをあげる。それでも、なおも立ち上がろうとする攻性植物達に、二つの7.62mmガトリングの凶悪な銃口をクロエが向けた。
「狙い撃つ……! 7.62mmガトリング弾の威力を……! ガトリングデストラクション!!」
 ガガガガガガガガガガガガガガガ! とバンブーガンソルジャーを穿っていく。舞い踊る膨大な薬莢、その数に正比例した数の銃弾がバンブーガンソルジャーを削り殺した。
「――!」
 二体のバンブーランスソルジャーが、竹槍を構えて前に出た。その動きに合わせ、シィカがバイオレンスギターを掻き鳴らす。
「レッツ、ドラゴンライブ! やっと賑やかにキメられるのデス! ロックにいっくデスよー! イェーイ!!」
 歌うように、諳んじるように、その吐息は炎へ変わる――シィカのドラゴンブレスがバンブーランスソルジャー達を飲み込んだ。そして、家の屋根でKAL-XAMR50 “BattleHammer”を構えていた結乃が引き金を引く。
 ヒュガ! と結乃のバスタービームが、炎ごと貫いてバンブーランスソルジャーの一体を撃ち抜き、倒した。残るバンブーランスソルジャーは、後方へ跳ぶ。背後には、仲間の攻性植物達が迫っている。合流するつもりだ。
「お願い!」
 結乃の声に応えたのは、ボクスドラゴンのモラだ。真っ白な毛玉の体当たり、タックルにバランスを崩したバンブーランスソルジャーに光の翼を暴走させ、全身を光の粒子に変えた奏が、追いすがった。
「させるとでも?」
 これが最善だ、そう確信した奏のヴァルキュリアブラストによってバンブーランスソルジャーを完全に破壊した。
 直後、二体のバンブーガンソルジャーが牽制の銃弾を撃ち込んでくる。間に合った、合流させる事なく、前衛を打ち潰した。この優位は、大きい。
 だが、まだ終わっていないのも事実だ。
「――!!」
 バンブーボムソルジャーの爆竹爆弾が、盛大に破裂した。


 ギュガ! とバンブーランスソルジャーが竹槍を振るう。その鋭い刺突を、ロベリアは腰を落とした体勢で盾で受け流していった。
「――フッ!」
 ロベリアが引き戻される槍に合わせ、盾を突き出す。体勢を崩したバンブーランスソルジャーに、結乃の狙撃が重ねられた。
「ほんとのチームワークっていうのをを、見せてあげちゃおうっ!」
 ダン! とバンブーランスソルジャーの右膝が魔法光線に撃ち抜かれる。がくり、と膝が抜けるように前のめりになったところを、ロベリアが翼を広げて急上昇した。
「貫け!」
 そこからの、一気の急降下――ロベリアのランスチャージが、バンブーランスソルジャーの頭から刺し貫く! その落下と重量を利用した一刺しに、バンブーランスソルジャーがぺしゃんこに押しつぶされた。
 そこに、バンブーガンソルジャー達の広範囲の銃撃が放たれる。その銃弾をイリスは疾走、音さえも置き去りにする拳の一撃をバンブーガンソルジャーの顔面に叩き込んだ。
「まだです!」
 言葉通り、イリスはそこで終わらせない。拳を叩き込んだ勢いで、そのまま前へ、前へ、前へ! 一気に、住宅の壁までバンブーガンソルジャーを押し切った。
 バンブーガンソルジャーは、逃れようと上で跳ぶ。だが、バンブーガンソルジャーの視界が空中で急激に回転した。
「ッ!?」
 何が起きたのか、理解できない。ただ、体を撃ち抜く衝撃があって――何かに打撃を受けた、それを悟る前にその声が、当然のように告げられた。
「見えねぇだろ? てめぇは俺の歩みにすら追いつけねぇってこった!!」
 視界の隅を、炎がかき消えていく。それだけだ。世界最速を僭称するチーディが編み出した歩法――狩猟豹の残火(アフターバーナー)。『見えた』のは、踏み出した瞬間に置き去りにされた地獄の炎のみ。地面に落下する前に、バンブーガンソルジャーは絶命していた。
 だが、バンブーガンソルジャーは絶望していない――これでいい、とさえ思っていた。何故なら――ドォ!! とバンブーボムソルジャーの、爆竹爆弾がケルベロス達を巻き込むように爆発したからだ。
「今日のステージは貴女のためのもの………だから、聞いてほしいデス! ボクの歌を! 届けてみせるデス!!」
「傷を癒します! フローレスフラワーズ!」
 シィカの全身全霊、全力全開の渾身の一曲が奏でられ、クロエが舞い花びらのオーラを舞わせる。そして、奏が衣服や装束、鎧に強大な力を注ぎ込んでいく。
「無事に帰れるように、おまじない」
 シィカの聖唱-神裏切りし十三竜騎-(ノブレス・トレーズ)が、クロエのフローレスフラワーズが、奏の鎧聖降臨奥義(ガイセイコウリンオウギ)が――即座に、仲間達を回復していった。それに合わせ、フォローするようにモラも属性インストールで回復を飛ばす。
 その隙に、バンブージェネラルは割り箸鉄砲のような拳銃を構える。見た目こそ冗談のようだが、へたなグラビティより威力がある――だが、それを紅牙が許さなかった。
「させないぜ!!」
 紅牙の放つ氷結の螺旋を受けて、バンブージェネラルが後退する。その動きに、チーディが叫んだ。
「追うな!!」
 その叫びに、仲間達も動きを止める。攻性植物達も、動きを止めて即座に散開した。追えば、追った者を攻性植物達は囲んでいただろう、チーディはそれを見切っていたのだ。
「サンキュー、チーディ」
 紅牙も、踏みとどまって仲間に礼を言う。チーディも紅牙も前のめりなタイプだ、だが、連携を取って集中砲火してくる相手を敵とした時、狙われかねない位置でもある。連携対連携の戦いとは、個々ではなく全体を見回せる視点こそ必要なのだ。
 だからこそ、奇襲という一方的なアドバンテージが活きてくる。その優位を保ったまま、ケルベロス達は終盤まで戦況を支配していた。
「行きますよ」
「おう」
 前へ突っ込むロベリアに、チーディがうなずく。太陽の剣【獅子王】、その赤黒く輝く刃をロベリアは渾身の力でバンブーボムソルジャーへと振るった。バンブーボムソルジャーの巨体が、一歩後退する。そこに一瞬で踏み入ったチーディが、足に降魔を宿した前蹴りを叩き込んだ。
「遅ぇ!!」
 バンブーボムソルジャーが、吹き飛ばされる。そこに待ち受けていたイリスが、眼前に魔法陣を展開した。
「時空歪めし光、汝此れ避くるに能わず!」
 空間を歪曲させた、光弾の一射。イリスの『漆』の魔弾・歪光(ディストーテッド・ライト)が、バンブーボムソルジャーの太い腹部を貫いた。そして、内側からバンブーボムソルジャーが破裂する!
「残りは二体、じゃあ、一掃するか!」
 奏が冥府深層の冷気を帯びた手刀を、横一線に放った。ビキビキ……! とバンブージェネラルとバンブーガンソルジャーの胸元が切られ、凍てついていく。その直後、バンブーガンソルジャーをモラのブレスが捉えた。
 バンブーガンソルジャーは、たまらず交代しようとする――すぐさま、紅牙がグラビティチェインを用いて形成した苦無を放った。
「……もう、どうなっても知らないからなっ!!」
 苦無が突き刺さった直後、ギュガ!! とバンブーガンソルジャーの体の中で苦無が曲がり、ねじれ、爆発四散した。そのあまりにも痛そうな技に、スパイラル・スパイクを放った紅牙自身も痛そうな表情を見せた。
 そして、その間に結乃のsix sense snipe(シックスセンススナイプ)が、バンブージェネラルの胸部を撃ち抜いた。
「……捉えるっ」
 超集中からなる狙撃の一撃に、バンブージェネラルは膝を揺らす。それでも、竹刀を杖に倒れる事を拒んだ。
「よし、間に合った!」
 クロエの声と同時、シィカが駆け出してバンブージェネラルへと跳んだ。
「時間よ止まれ……!! 発動……! ディスティニー・オブ・マキナ!」
 クロエが展開した魔法陣――時の魔術―Destiny of machina―(トキノマジュツディスティニーオブマキナ)によって、バンブージェネラルの動きが完全に止まる。
(「……この瞬間だけは時間を私色に塗り替える……っ」)
 数秒間、バンブージェネラルの周囲の時間が止まったかのように――だからこそ、シィカの燃え盛る蹴りに、反応できない。
「終わりデス!!」
 ズザン! とグラインドファイアの一撃が薙ぎ払われた瞬間、時が動き出した。バンブージェネラルは炎に包まれ、まさに薪のように崩れ落ちていく。
「残念だったな。俺達の方がチームワークは上だったようだよ」
 奏の言葉に、反論する者はいない。それが、戦いの終わりを意味していた……。


「……え? あ! ああ!!」
 カチカチカチカチ……、時計の針が止まらないような気がしたクロエが息を飲む。戦いは終わった、それが安堵に繋がらない。
「連携してくる相手への対応も、考えていかないと、だねー」
 結乃のため息混じりの言葉の意味を、誰もが理解していた。奇襲が成功した、その前提の結果なのだ。それがなく、真っ向うからぶつかれば同等。逆に奇襲されていたら? そう考えれば、完勝であっても課題がない結果とは言えないだろう。
 勝ったからこそ、次の戦いに思いを馳せる――それこそが勝者の権利であり、義務なのだろう……。

作者:波多野志郎 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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