ドーリィガール

作者:件夏生

●ライクアドール
「お人形のごときふんわりゆめかわ少女の巻」
「はー……抱いている人形そっくりな静かで無表情な娘すき……」
「あのパステルイエローの少女でござるな。拙者ら好みの従順な下僕に改造し、他の勢力に高く売り込むでござるよ」
「お人形のごときふんわりゆめかわ少女以外いらぬの巻」
「わかりみ……邪魔者は殺し娘を確保……」
「ついでにグラビティ・チェインもいただくでござる。しからば各々方、仕事の時間にござる!」
 照明の陰から飛び出した3人の螺旋忍軍が荒々しく少女を担ぎ、進む先にいた人間を殺して通る。
 パステルイエローの服の美少女は、人形を抱きしめ震えたまま、悲鳴も上げられず撮影スタジオから連れ去られた。

●ヘンタイニンジャ
「皆さん大変です。螺旋忍軍の一派『影羽衆』が好みの少年少女を誘拐し、配下に改造しようとしています」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)が集まったケルベロスに語り掛ける。
「今回狙われるのは東京の撮影スタジオ。人形の愛好家達が、人形と同じ衣装で撮影するオフ会を開きます。『影羽衆』はこの中から一人を誘拐し、洗脳と改造を施して他のデウスエクス勢力に売る予定です。罪の無い人が襲撃されるのも、どこかのデウスエクス勢力の配下が増えるのも許す訳には行きませんね」
 時計の表示をイマジネイターが見上げる。
「襲撃の時刻は昼の11時。撮影スタジオにはオフ会メンバーとスタッフ合わせ10人がいます。あ、先に避難活動をしてしまうと影羽衆は他の場所に少年少女を探しに行ってしまいますから、避難は影羽衆が襲撃してからお願いします。スタジオの出入り口はドアと非常口の二カ所です。そして」
 イマジネイターが人差し指を立てた。
「『影羽衆』は、その場にいる少年少女の中で最も外見が好みな1人を狙います。今回の場合は『人形のように着飾ったおすましな子』ですね。皆さんの誰かが人形のように着飾って静かにしていれば、影羽衆はケルベロスを狙いに来る率が高まります。条件が合えば性別が男でも構わないようです。人形やぬいぐるみ、サーヴァントを抱いていれば場に溶け込めそうですが、お持ちでなければこちらで用意しましょう」
 イマジネイターは一度頭を下げる。
「すましていても無表情でも、狙われた少女には心があります。外見だけ見ている連中に改造され心を失わないよう、影羽衆を必ず倒して下さい。どうか、お願いします」


参加者
光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124)
千手・明子(火焔の天稟・e02471)
葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)
八尋・豊水(イントゥーデンジャー・e28305)
紺崎・英賀(自称普通の地球人・e29007)
ルフィリア・クレセント(月華之雫・e36045)
之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)
椚・暁人(吃驚仰天・e41542)

■リプレイ

●ドールアップ
 撮影スタジオに人形愛好家が集う。物腰は穏やかに、所作は丁寧に、あいさつを交わし可愛い人形とお揃いの衣装について話に花を咲かせる。
 椚・暁人(吃驚仰天・e41542)は怪しまれない程度に周囲を伺い、避難経路を確認していた。赤いストールに指をかけて緩める。普段使いのストールと違い、抱えた人形に合わせてアジアンテイストの刺繍が入った薄手の物を巻いているが少し違和感がある。緋と黒と生成り色で構成されたインドの王子風な仮装をしている。ミミックのはたろうも蓋を閉じて、主人に似合いの宝箱の小道具として近くに控えていた。
 警戒されていると知りもせず、照明の陰で品の無い囁きがかわされる。
(「レベル高い……尊い……」)
 パステルイエローの衣装の少女はこれから撮影を行うアンティーク調のソファの上に足を揃えて座っていた。膝の上に女の子の人形を乗せて、リボンの角度を撫でつけて直す。
(「おっほ! あの子はどうでござるか」)
(「大人しそうに見えるの巻……ん?」)
「やあ、同じ色だね」
 紺崎・英賀(自称普通の地球人・e29007)がユニコーンのぬいぐるみを抱えて声を掛ける。パステルイエローのテーラードジャケットに、甘い光沢のフリルシャツを合わせている。大粒のボタンがアクセントになり、少女と並ぶと併せのように見える。特別なお洒落を楽しんでいる様子は親しみやすい。
「卵焼きをイメージしたの。あなたも?」
 くすりと笑って少女は思い入れを語る。英賀は控えめに相槌を打って応じる。
(「はー……おしゃべりいらね。隣の男のがいい……」)
(「よく吟味するでござる。反対隣の女性もなかなか」)
 黒髪に飾る大輪の菊花からリボンが頬に流れる。どこか幼げな花柄の着物は、赤ではなく大人びた薔薇色でまとめられ倒錯的な妖しさで引きつける。レース襟から白い首筋をちらりと見せて人形を手に立つ和ゴスの千手・明子(火焔の天稟・e02471)であったが……。
「卵焼きになめ茸入れるの? あなた渋いわね」
 少女と英賀の会話に一瞬素を見せていた。
 光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124)は内心『あっ』と思い目をぱちぱちさせたが、表情にはおくびにも出さず造花を飾ったブランコの上で小首を傾げた。パステルピンクのワンピースの上にペールブルーのゆったりしたボレロを羽織り、タイツに包まれた膝の上で小さな小鳥のぬいぐるみをそ頼りなく両手で支えている。
(「俺この子がいいの巻!!」)
(「あっちの子もいい……。つらみ……」)
(「あっちの子って『子』でござるかあ?」)
 襲撃者の指した方角には八尋・豊水(イントゥーデンジャー・e28305)がいた。喪服めいたデザインのゴシックな紫のドレス。たおやかな腕に重ねられるレースと憂いの眼差しを隠すヴェールは黒。何より目を引くのは、全く同じ服装に身を包んだビハインドの李々。少し小柄なその姿を、マネキンに見立てて抱き寄せている。完成度が高いのだが、どうしてもベテランのオネエ様というキーワードが影羽衆の脳裏をよぎる。
(「あっあっ俺の推しはあっち……」)
 豊水の向こう側、撮影スタジオの隅にルフィリア・クレセント(月華之雫・e36045)が大人しく木箱に座っていた。ヘッドドレスの両端に黒のリボンが揺れる。モノトーンのドレスに金髪が映える。同じく黒のリボンで飾られた狐のぬいぐるみと並んでいると、ショーケースに並べられた人形と見間違えてしまいそうだ。
(「こっちも人形らしいの巻……!」)
 黒地に銀杏の柄の着物を着こなしているのは葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)。人形よりも艶やかな黒髪が目を引いた。帯は夕日を思わせる橙。更に鮮やかな紅は小さな唇の色。感情を見せずに佇む姿の内に、深い憤りを隠しているとは誰も思うまい。
(「今日は当たりでござるな。拙者はこっちの少女を推すでござる」)
 影羽衆の潜む照明とソファの間にさりげなく割り込んだ之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)が目に留まる。淡い紫苑色のロリィタ服が小柄な体をふんわりと包む。小さな指輪もピカピカのブーツも幻想的に調和している。ヴァナディース人形もそっくり同じ服装でしおんの腕の中にいる。
(「一人を選ぶの巻。相談ごにょごにょの巻」)
(「わかる……わかる……」)
(「……決まりでござるな。いざ、突撃でござる!」)

●ノックアウトニンジャ
 三人の影羽衆が飛び掛かったのはしおんだった。
「きゃ……っ!」
 一人が螺旋の力を帯びた掌でしおんの喉元を抑えて脅す、残る二人が大きな手裏剣を振り回し周囲に斬りかかる。と、血飛沫の代わりに金属音が響いた。明子の『白鷺』、豊水のオウガメタルが手裏剣を止めた。
 一般人が展開についていけないのを見て取り、英賀は武器を抜きながらパニックテレパスを伝播させた。
「とにかく逃げて!」
 混乱しながらも逃げ場を探す人々を、あらかじめ非常口を確保していた暁人と壁際から出入り口を抑えたルフィリアが誘導する。ついでにケルベロス達の人形を連れて行ってもらう。
 苦しげながらも影羽衆を刺激しないようじっとしているしおんの視線に睦が気づいた。スカートの裾を機材に引っかけたパステルイエローの服の少女に寄って助け出す。
「グラビティの素が! せめて素材の子だけは絶対にお持ち帰りでござる!」
 大きく頷きあってからしおんはフェアリーブーツの魔力を解き放った。勢いよく影羽衆の尻を蹴りつけて跳び、虹の軌跡を引いて踵を振り下ろす。
「ぐはっ!? お主もケルベロスでござったか!」
 跳び退ったしおんが軽く喉をさする。
「こほ……っ、ドールを着飾って愛でるのは大変な苦労なんですよ。ドール愛に目覚め、衣装を作る喜びで定命化するなら許さないでもないですが」
「完成品を改造するのがいいし……愛とか人格なんていらないし……伝われ……」
 殆どダメージは受けていないものの、しおんは不快そうに口を結ぶ。代わりに進み出たかごめがしおんへと気力を分け与えながら毅然と言い放つ。
「思い通りになる人形が欲しいならダモクレスの拠点にでも行きなさい。奪われていい命なんてないわ」

 もはや退路は無いと悟った影羽衆は、ござる口調の一人を中心に集まり再度仕掛けてくる。
「目標、あの間延びした話し方のです」
 ルフィリアの指さす先に皆が照準を合わせる。対して影羽衆は反攻を予想しておらずまとまりがない。
「ロリ少女に仕返しでござる!」
「元気っ子の方が許せないの巻!」
「俺を指差した……!」
 散開して手裏剣を取りまわす三人を前衛が受け止めながら、ケルベロスはぼそぼそと話す螺旋忍軍に詰め寄る。
「そこの意味わかんない忍軍、う! ご! く! なーっっ!!」
 淡色のカーディガンをはためかせ、鮮やかな桃色の翼に圧縮した風圧で睦が一直線に飛ぶ。その姿はさながら乙女天使大砲(ミサイルガール)。演技をかなぐり捨てた拳が影羽衆の面を割り、勢いで頭蓋がゴムボールのように床に打ち付けられて跳ねる。
「ほらほら、これで終わりなの!?」
「あ……ひ……っ」
 顔面もめちゃくちゃになり、面が無くとも誰だか分からない有様だ。しかし腐っても忍。しおんの蹴りを転がって避ける。
 新品のロリィタ服に血を滲ませ、プレッシャーを受け続けたしおんがふっと息を吐いた。
「動きが重そうね」
 横目に見たかごめはすらりと刀を抜き、揃えた二本の指で峰をなぞる。蓄えた怨敵の魂を力に変えて、指先を凛と払い負傷者へと捧げる。内側から漲る力を感じてしおんはかごめへと頷いた。
「ありがとうございます」
「大丈夫ですか?」
「ええ、行けます」
 はたろうが転げた影羽衆の腕を思い切り噛んで引き留める。この間に暁人はグラビティを硬く密に織り込んでいた。
「影を縫い、喰らい付け! 暗流縛破!」
 敵を指す腕に民族調の衣装がふわりと翻って従った。掌から迸るグラビティチェインは鎖の姿をしており、瀕死の忍軍の死角を取る。だが、忍軍ははたろうを引きずりながらぐるんと向きを変えて逃れようとする。
「そこ……な……!」
「……っ! 螺旋の力は、キミ達のような奴には……!」
 もう片手も添えて更にグラビティを籠めた。鎖が消失する寸前、再度軌道を変えてやっと影羽衆の胸に届く。
 声も無く消失する忍軍に喜ぶのはまだ早い。間髪入れずにルフィリアが残りの忍軍に目標を変える。ござる口調を守ろうとする『~巻』口調が相手だ。床にどかりと立てたハンマーが変形する。
「ファイア、ですよ」
 砲弾が忍軍を照明機器に打ち付ける。

 集中攻撃を受ける忍軍を見て、同じ轍を踏む物かとござる口調の忍軍が、大きな動作で勢いをつけて回し蹴り風を起こした。セットや照明がなぎ倒されて光の下に埃が舞う。
 振袖を上げて口元を抑えた明子の眼前にもう一人の忍軍が飛び込んだ。
「驚いたかの巻!」
 毒に濡れ光る手裏剣が明子の利き腕を深く裂く。毒を含んだ血が着物を一段と深い色に染め、白い手から刀が零れ落ちた。……と思いきや、もう片手が落ちて来た柄を握り、逆手の構えで忍軍の胴を真っ二つに分ける。日々の鍛錬による迷いない一撃は小手先の脅かしでは揺るがない。

 壁も回復手段も失った最後の一人へ番犬の牙が次々に迫る。
 とはいえ、積極的に攻撃を受け続けて来た者達の負傷も大きい。英賀はかごめの動きを見て分担し、豊水に調整した電流を注ぐ。おずおずと先輩の横顔を覗いた。
「豊水さん、聞かなきゃいけないことを、どうか……」
 肉体を活性化された豊水が頷く。
「李々」
 ビハインドに声を掛け、揃いの姿の二人が同時に動く。両手を翳した李々が金縛りで忍軍を引き留める。舌打ちする忍軍へ向け、殺気に満ちた底冷えのする目で向かい合う豊水が腹にナイフを突き立てる。
「他の奴に聞きそびれたわ。あんた……」
 傷を抉りながら耳元に何かを囁くが、期待した反応はなかった。
「ぐ……ぅ、知らない、そんな奴知らないでござる! やめろ、やめ……っ」
「そう、さよなら」
 腹の中でもう一度ナイフをぐるりと回して、足掻く忍軍から豊水が離れる。
「まだ動けるのかよ!」
 暁人が更に電撃を与え、はたろうが幻覚で惑わしてこれでもかと動きを制限していった。
「これだから……自己主張のある奴はクソでござる……」
 血を吐きながらまだ靴の車輪を蹴立てる忍軍の前に、ゴシック衣装の狐のぬいぐるみが両手を広げて立ちはだかった。その後ろへと視線を向ければ、人形のように涼しい表情をしたルフィリアがいる。しかし紫の瞳の奥には軽蔑の色があった。
「人は人形では無いのです。あなたのお相手はりっ君ですよ、変態さん」
 狐のぬいぐるみが尻尾を揺らして拳法めいた構えを取る。動きの鈍った忍軍へとぴょんと飛び掛かれば、掌底で打ち、投げ技からの組付きで捕らえ、抜け出した所を闘気の渦で巻き込み、足元から潰していく。
「に、人形の分際で……ござぁぁぁああああ!!」
 大好物の人形めいた少女に手が届かぬまま、全ての影羽衆は消滅した。

●ドールファン
 騒ぎの落ち着いた撮影所に人々が戻り、ケルベロス達に口々に礼を伝える。あまりに頭を下げられるので、睦が明るく提案した。
「じゃあ、これから皆一緒に撮影会しようよ! いい写真ができたらもう謝りっこなしだよ♪」
 次々に賛成の声が上がり、ヒールを行うルフィリア、豊水、暁人も俄然力が入る。
「なんか、幻想化した方が似合っているかも」
 暁人の呟きにルフィリアがこくりと頷く。
「このクッション、りっ君と撮るのです」
「はたろうも一緒に入っていいか」
「どうぞですよ」
 先程まで機敏に戦っていたぬいぐるみの周りを、はたろうがぽてぽてと歩いて眺めている。

 豊水は一息ついた後に、壁にもたれている英賀に気が付いた。
「お疲れ様。大丈夫?」
 話しかけられると青年はすぐに姿勢を正す。
「大丈夫です! ただ……」
 後ろめたそうに英賀は口を開いた。
「俺も、螺旋忍軍に攫われた事がある。あまり覚えてはいないけど……、上手く、眠れない日があって」
 心臓の上を押さえる英賀の肩に豊水が両手を乗せる。
「……。大丈夫よ、英賀くんのお陰で今日も勝てたわ。これからも……螺旋忍軍は、私が倒すから」
 だから今日は、楽しい思い出を作りましょう。そう促されて英賀も撮影の輪にゆるりと加わる。

「ドール服にこの生地の薄さは最適ですね。ふふ、こちらのつまみ細工は人形とだと大きく見えます」
 負傷以外の化粧直しやほつれのチェックをしながらも、しおんは心から趣味トークを楽しんでいた。ふと目に入ったのはかごめの姿。人々を助けられた感慨に耽っている所に近づいた。
「あら、かごめさん、少しそのままにお願いします。秋らしい色ですね」
 かごめの後ろに回って帯を直す。着物の話にかごめも小さく微笑んだ。
「ありがとう。秋らしく寒くなって来るから、そろそろ着物用のコートも出さないとですよね」
「やはり合わせやすい色ですと……」
 しばらく会話していると、暁人から呼びかけられた。
「全員で集合写真撮るんだって、こっちに!」

 少年少女がおめかしし、はしゃいでいる様子を明子がにこにこと眺めていると、忍び寄った睦がすぽっと肘の内側に腕を通し、強制的に腕を組んで最前列に歩き出す。
「ええっ! ちょっと睦ちゃんっ!」
「一緒にお写真撮ろう☆」
 睦の笑顔に明子はふるふると首を横に振る。
「やっぱりこの服恥ずかしいわよ。私は美少女OGなのよ!」
「似合ってるからいいじゃん。あきらちゃんと一緒じゃないと私も撮らないもん♪」
 頬を膨らませる睦に根負けし、明子も頬を赤くしながら人形と並ぶ。
「私も似合ってると思う」
 パステルイエローの衣装の少女も微笑を浮かべた。
 こうして撮影会は、華やかな写真で締めくくられたのだった。

作者:件夏生 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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