ワッフル! ワッフル!

作者:一条もえる

 この町では、パンケーキブームが起こっていた。
 それまで知られていたのが、開業50年を誇る老舗喫茶店のパンケーキ。もっちりしっかりした、長年愛されてきた変わらぬ味である。
 ところが、その近くに先日開店したのがパンケーキ専門店。ふうわり軽い、天使のパンケーキを名乗る新勢力である。
 新規店ということもあって、地元の情報誌やローカルテレビ局にも紹介された。その恩恵というわけでもあるまいが、老舗店の方も同様に取り上げられて一段と知名度が増した。
 ライバル関係を煽られた両店だったが、別に悪いことではない。連日それを目当てに訪れる客で賑わっているのだから。
 店は賑わい、客は美味しいものをいろいろ選べる。誰にとっても嬉しいブームだった。
 とある一室で、その様を憎憎しげに眺めている者を除いては。
「この町には今、パンケーキという悪魔の料理が蔓延っている! 嘆かわしいことである!」
 ビルシャナは、集まった10人ほどの信者たちに向けて憤った。
「焼き菓子の至高とはワッフルである!
 パンケーキなどというノッペラボウの外面には、なんの主義主張もない!
 焼き型によって縦と横の線が交差する様、それは人と人とが交差して睦みあう様! すべてはその交差が生み出すのである!」
「そうだ!」
「そうだー!」
 信者たちは目の前の異形の者になんの疑問も抱かず、拳を振り上げて呼応した。

「もぐもぐ……。
 おいし~い! こんなおいしいワッフル、食べたことない♪ 世界一ね~」
「……そう? ありがとう」
 満面の笑みで焼きたてのワッフルを頬張る崎須賀・凛(ハラヘリオライダー・en0205)。
 それは少し言いすぎではないかと思うものの、これだけ褒められればネリシア・アンダーソン(黒鉛鬆餅の蒼きファードラゴン・e36221)も悪い気はしない。
「もぐもぐ……。
 おかわりいい?」
 ……とはいえ、次から次へと焼くのが追いつかないのは勘弁してもらいたいが。
 もらうものはもらっているから、仕事といえば仕事である。
 焼きあがるのを待っている間に、凛が事件を説明する。
「ビルシャナになっちゃった人が布教を始めて、信者を増やそうとしているの。
 放っておけばビルシャナの勢力はどんどん大きくなって、襲撃事件にもつながっちゃうと思う。
 だから今のうちに倒しておきたいのよね」
 生地の焼ける匂いが鼻腔をくすぐる。うっとりと笑顔を浮かべた凛だったが、表情を改めて。
「ビルシャナの教義っていうのは、『ワッフルこそ至高』」
 それを聞いたネリシアが、ピクリと身を震わせた。
「近くにパンケーキ屋さんができたから、対抗意識なのかもしれないわね。どっちもおいしくてそれで幸せ、でいいんじゃないかと思うんだけどなぁ」
 ともあれ、ビルシャナはその教義で信者を獲得しつつあるようだ。
 ビルシャナの言葉には強い力がある。ケルベロスならざる一般の市民では、それに抵抗できまい。
 ワッフルを出す店の店員だったり、無類のワッフル好きだったり、そもそも『ブーム』を疎ましく思っている者たちなのだろう。洗脳される下地があったということである。
 ビルシャナが撃破されれば彼らは元に戻るが、その影響下にある間はビルシャナに従って襲い掛かってくるだろう。
「心酔しきって信者になることを防ごうとしても、単なる説得じゃあ心に届かないでしょうね。
 ビルシャナの主張を根底から覆すような、インパクトのあるものじゃないと……」
 深刻な表情を浮かべていた凛だったが、
「はい……どうぞ……」
 新たに焼きあがったワッフルの山が前に置かれると、パァッと表情を明るくした。
「もぐもぐ……。
 ビルシャナたちが集まっているのは、閉店しちゃった喫茶店ね。1階が店舗、2階が住宅になってるタイプ。老舗喫茶店やパンケーキ屋さんからは少し離れてるみたい。
 その1階に集まって、盛り上がってるみたいだから……みんな、がんばって!」
 凛は「ごちそうさま」と手を合わせて、あっという間に空にした皿を片付け始めた。

「確かに……ワッフルは……お菓子としても主食としても最高なものだけれど……」
 ネリシアは渋面を作って呟いた。


参加者
ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の甲冑騎士・e02187)
シャルロット・フレミス(蒼眼の竜姫・e05104)
遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)
ロザリア・レノワール(黒き稲妻・e11689)
ルリィ・シャルラッハロート(スカーレットデスティニー・e21360)
ネリシア・アンダーソン(黒鉛鬆餅の蒼きファードラゴン・e36221)
瑠璃堂・寧々花(甲冑乙女・e44607)
ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)

■リプレイ

●至高のワッフル
 ヘリオンの内部は甘い香りで満たされていた。
 各人がそれぞれ、様々な焼き菓子を持ち込んでいたからである。
「これはお腹が空いてきてしまいますね」
 ロザリア・レノワール(黒き稲妻・e11689)が笑う。
「そうね、美味しそう。楽しみだわ」
「シャ、シャルラッハロートさん……。私たちはお茶会をしに来たわけでは……」
「わかってるわよ、そんなこと」
 ルリィ・シャルラッハロート(スカーレットデスティニー・e21360)がフン、と鼻を鳴らすと、重々しい鎧の上になぜかエプロンを羽織った瑠璃堂・寧々花(甲冑乙女・e44607)は身をすくませた。
 ちょっと口調が強すぎたと思ったのか、
「怪獣一食、ビルシャナを片づけてから、ね」
 と、ルリィは微笑む。
 腕組みして椅子にもたれていたシャルロット・フレミス(蒼眼の竜姫・e05104)が、ぽつりと呟く。
「嗅いでるだけで、幸せになる香りね」
「そうですね。どちらも美味しくて大好き♪ これでいいと思うんです。こんな争いなんて、不毛です!」
「ビルシャナ以外は皆、わかっているんだがな……」
 憤る遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)の傍らで、ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)は深々とため息をついた。
「ネリシアの手前もあるし、ワッフルを貶めるのははばかられるが……かといって、敵の主張に納得するのも、な」
「面倒だけど、なんとかしなくっちゃ、だね」
 ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の甲冑騎士・e02187)が横手にちらりと目をやって、肩をすくめた。
 出発してもなお、ネリシア・アンダーソン(黒鉛鬆餅の蒼きファードラゴン・e36221)は機内の設備を使って黙々と作業を続けている。
「なんで機内にこんな本格的な……ま、いいや。さすが、本格的だね! すごい上手!」
 感心するヴィをよそに、ネリシアは片手で割った卵をボウルに入れて、泡立て器で混ぜる。
 グラニュー糖、塩、そして牛乳と素早く入れていき、また混ぜる。ふるった薄力粉とベーキングパウダーを入れて、さらに混ぜる。
 溶かしたバターを加えて最後に混ぜると、生地はすっかり滑らかになった。
 ワッフル型と小さなフライパンとを同時に出して、それぞれで焼いていくと、機内に漂う甘い香りはいっそう濃くなった。
 問題の閉店した喫茶店は、老舗店やパンケーキ屋からは少し離れたところにある。その建て込んだ商店街を避けてヘリオンは少し離れたところに降下し、一行は徒歩で現場へと向かった。
 1階が店舗、2階が住宅になっている、いかにも商店街といった建物である。
 これといった策はない。一行は、正面から扉を開けて中に乗り込んでいった。
「ワッフルが至高であることを知らしめるため、パンケーキなる愚劣な食物には正義の鉄槌を……なんだ、貴様らは!」
 それは、ビルシャナの演説が絶頂を迎えんとするときであった。
 すぐに体勢を整えたビルシャナは、閃光を放って襲い掛かってきた。
「確かにワッフルは、食べ歩きやちょっとしたおやつにはちょうどいいわ」
 痛みに耐えつつ、信者たちに語りかけるシャルロット。後ろでネリシアが、
「うぅん……主食にだって……」
 と、言い掛けるが、
「待て。いま言うとややこしい」
 と、ジークリットにたしなめられる。
「だからって他者が悪ってことはないでしょう?」
 シャルロットの後を、鞠緒が受けて続ける。
「そうですよ! どの美味しさも甲乙つけがたいですし、つける意味もありません!」
「そうだね、たとえばドーナツとか。あ、食べる? おいしいよー?」
 ヴィはヴィでドーナツをこれ見よがしに信者どもに見せ、
「焼き菓子の至高といえば、バウムクーヘンに決まってるでしょ!
 職人手作りの一品よ。その年輪には、アカシックレコードにもつながる宇宙の真理が刻まれているのよ!」
 と、ルリィはふんぞり返った。
 寧々花が信者どもに示したのは、皿に盛り付けたパンケーキ。
「わ、私は、お絵かきしてみました。最近はいろいろな色のチョコペンがあって、楽しいですよ? みなさんも、いかがですか?」
 凸凹のあるワッフルでは、できないことである。
 ところがビルシャナは鶏冠を震わせて、
「愚か者が!」
 と、一喝する。怒声で建物が揺れた。
「万物の至高たるワッフルを凡百とともに語るか!
 かかれ! こやつらはパンケーキなぞを擁護する、悪魔の手先ぞ!」
「おおーッ!」
 信者たちが飛びかかってくる。
「えぇい、わらわらと!」
 ジークリットは舌打ちしつつ、襲いかかってきた信者の横っ面をはり倒した。奥歯が砕けて、血とともに口からこぼれたが……これでも加減はしている。
「これじゃ……、説得どころじゃ……ない」
 ネリシアもロザリアも襲い来る敵を払いのけながら、顔をしかめた。
「狐色に焼けた生地に、様々なトッピング。どちらも美味しいんだから、メープルシロップかけて、おとなしくいただきなさい!」
 ロザリアは信者の腕をねじ上げながら、叫ぶ。
「こういうのはどうですか?」
 信者どもの鼻先に差し出したのは……鯛焼き?
「いいえ、これもワッフルですよ。焼き型がなかったので、鯛焼き型ですけど。どうですか? ワッフルなら食べてもらえますよね?」
「こっちも……あるよ」
 ここでネリシアが、機内で焼きあがったばかりの品を差し出した。
 メイプル仕込みのワッフルと、メレンゲ仕込みのスフレパンケーキで具を挟んでいる。具は2種類。ストロベリーソースやホイップクリームがサンドされたものと、ベーコンエッグとレタス、それにチーズが挟まれたものだ。
「……ワッフルはもともと、パンケーキから派生して発展したモノ……。パンケーキが悪魔の料理なら、ワッフルも……貶めることになるよ?」
 ジッと、敵群を見据える。
「そういえば、日本にはドラヤキだってあるのよね」
 と、信者を蹴飛ばしながらルリィ。
「生地はパンケーキに似てるけど、中に挟むものによっていろいろな味が楽しめるわ。まさに焼き菓子の母よね」
「漢字で書いたら……両方とも『鬆餅』と言うくらい……ふたつは似たもの。比べること自体、間違ってる……。
 さぁ、この2種類のパッフルを食べて、ふたつの食感が調和してること……知ってもらうから」
 ネリシアが差し出してくるそれは、見ているだけで涎が垂れてくるほど魅力的である。
 信者たちの中には思わず生唾を飲み、手を伸ばしそうになった者もいる。

●幸せな焼き菓子
 ところが。
「元々が、母が、なんだというのだーッ!」
 ビルシャナの炎が襲う。凄まじい炎熱はネリシア渾身の一品を焼き尽くして、炭としてしまった。
「なんてことを!」
 悲鳴のように声を上げた寧々花は、身を屈めてビルシャナに組み付こうと突進した。しかしビルシャナは跳び下がり、破壊の光を放ってきた。圧力に押され、寧々花はたたらを振む。
「く……」
「貴様らの言葉が証明した! パンケーキとは、未完成で愚劣な物! ワッフルこそ悪魔の腹を食い破って生まれ出た、至高の食品よ!」
「おぉ~ッ!」
 ビルシャナの怒声に、信者どもが再び盛り上がる。
 確かにネリシアたちの言は正論である。彼女のものをはじめとする菓子が、たいへん魅力的なことは疑いようがない。
「しっかりと刻まれた縦と横の交差! 緯線と経線! x軸とy軸! 行と列! すべてはそこから始まるのだ!」
 が、問答をしているようでいて、結局のところ、敵はこちらの話をまともに聞いていないのである。これでは道理も通らない。
「メチャクチャだよ。どっちも、ドーナツや他の焼き菓子も、小麦粉や卵からできた仲間みたいなものじゃないか」
 ヴィは敵の炎を長剣で弾き返しつつ、呆れてため息をついた。
 その剣が、さらなる攻撃を仕掛けようとしたビルシャナの腕を打った。鮮血が埃だらけのテーブルに飛び散る。
「パンケーキがのっぺらぼうだとか、焼き型で作られた交差がどうのと大層なことを言うならな!」
 ジークリットが敵の急所に刃を食い込ませ、怒鳴る。
「ぬぅッ?」
「その教義に反しないものを見せてやる! サクサク感もいいが、口の中で溶けるふわふわの舌触りも悪くはないぞ?」
 ジークリットが示したのは、網目底のフライパンで焼かれたパンケーキである。そこには確かに、きれいな格子模様がついていた。
「馬鹿め~ッ!
 見た目は同じ格子模様の焼き菓子かもしれんが、貴様の見てくれだけの格子模様と違い……ワッフルオリジナル格子模様は……!
 鍛え方が違う! 精根が違う! 理想が違う! 決意が違う!」
 ビルシャナは拳を握りしめ、その閃光がケルベロスたちに襲いかかる。すさまじい衝撃に、ケルベロスたちはたまらず呻き声を上げた。
 しかし鞠緒は、顔をしかめながらも立ち上がって、
「……皆さんにばかり作っていただくのでは申し訳ないので、わたしも作ってみました」
 と、美しく焼きあがったワッフルをビルシャナや信者どもに差し出した。
「ほほぅ、感心なことだ。ようやく我が教えを理解するものが現れたか。では……」
「ごちになりまーす!」
 ビルシャナは笑い、全員が一斉にかぶりつく。しかし……。
「ぶほぉ! なんだこれ? 固い! 苦い! なんか変に甘い!」
「サクッとして、それでいてネットリしてる……!」
「不味い! なんだ、この不味いワッフルはぁッ!」
 ビルシャナが口の中からワッフルを吐き出し、怒鳴った。
「不味い? いまワッフルが不味いとおっしゃいましたか!」
 鞠緒が大げさに声を張り上げる。突きつけるのは、レコーダー。音量を最大にして、何度もその声を再生してみせる。
「不味い、不味い、不味い……!」
「聞きましたか皆さん? この方、ワッフルは至高とか言いながら不味いと言いましたよ!」
「ちょ、ちょっと待て! 不味いのはお前の力量の問題であって……!」
 ビルシャナは(当然と言えば当然の)抗議をしたが、鞠緒は聞く耳持たず、
「重大な裏切りですよ、皆さん!」
「不味い、不味い、不味い、不味い、不味い、不味い……!」
 と、再生を繰り返した。室内に、わんわんとその声が反響する。
 わけがわからない。わからないが、その気迫に気圧されてか、信者どもが後退りする。そしてついに、蜘蛛の子を散らすように外に飛び出してしまった。
「なんだか……お疲れさま。こういうとき、日本の諺でなんて言っていいのかわからないわ」
 ルリィが、何ともいえない表情で肩に手を置いた。せめてできるのは、美しく舞い踊って花びらのオーラを降らせ、仲間たちを癒すことだけである。
「いいんです。わたし、やっぱりうまく作れなかったみたいなので……それが役に立つなら」
 心なしか目尻に涙が浮かんでいたが、
「これが終わったら、小麦粉パーティですッ!」
 と、苦渋の表情を浮かべるビルシャナに向けて、ヤケッパチのようにブラックスライムを叩きつけた。その大口から、転がるようにしてかろうじて逃げ延びたビルシャナ。
 しかし、
「逃げるということは、あなたもパンケーキを認めるということよ」
「とっとと〆て、不毛な戦いに終止符を打ってしまいましょう!」
 シャルロットの飛び蹴りが命中し、敵は椅子とテーブルをなぎ倒しながら吹き飛ばされる。ロザリアが生み出した虚無球体は、その後を正確に追いかけて胸板に命中した。
「うごごごご……!」
 すべてを消滅させようとする球体を精神力で押し戻し、ビルシャナは立ち上がる。
 ケルベロスたちの攻撃が次々と襲いかかるが、ビルシャナは全身の羽毛を真っ赤に染めながらも、立ち上がってきた。
「おのれ~ッ!」
 閃光が再び、ケルベロスたちを包む。
「ネリシアのパッフルの恨み、思い知ってよね!」
 ヴィは仲間たちを庇って光を浴びつつも、
「計画ヲ実行スル」
 極小ブラックホール生成プログラムを起動させ、敵のエネルギーを奪い返した。
「この身に消して消えぬ魂の鎧を……!」
 同じく仲間を庇った寧々花の甲冑が、敵からの圧力に抗するように弾け飛ぶ。
「物理的な鎧がなくとも……この魂に鎧を纏う限りは、私は甲冑騎士です!」
 下段から切り上げた長剣が、敵の脇腹を割く。
 浅い。しかし、シャルロットとロザリアが追い討ちをかけた。
 シャルロットの太い尾が敵の足元をなぎ払い、たまらずよろめいたところにロザリアが、
「励起。昇圧、集束……発雷!」
 大気から集め、プラズマ化させた電子を叩きつけた。
「ぐおおおおぁッ!」
「美味しさは型にはまってはいけません。そう思いませんか?」
 敵はそれでも『清めの光』を発して力を取り戻そうとしたが、
「この物語は、緩慢な死へのカウントダウン……」
 鞠緒が放っていた『死に至る夢』が、それを許さない。
 敵は苦し紛れに炎を放ったが、
「窮鼠レモンを噛む、とはいかないわよ!」
 ルリィの放つ癒しの力が、その炎を打ち払っていく。鞠緒のウイングキャット『ヴェクサシオン』も、翼をはためかせてそれを援けた。
 敵はもはや満身創痍。
 しかし、
「次にワッフルが焼きあがるときが、貴様らの最期だ!」
 ケルベロスたちは敵を取り囲んでいたが、彼らはここに2階があるということを、意識してはいなかった。敵は階段に飛び移り、駆け上がる。
「逃がすかッ! 風よ……哀しき業を背負う者を天に還らせよ……烈風ッ!」
 重力を帯びた風の刃がビルシャナに襲いかかる。危うく逃れられそうだったが、これまでに受けた傷のせいか敵は足をもつれさせた。
 おびただしい血が辺りに飛び散ったが、反撃の炎も襲いかかった。真正面からそれを浴びたジークリットが、階段を転がり落ちる。
 だが、十分に敵から時間を奪ったと言うべきであろう。
「グラファイトとネリの力のすべてを……叩き込む。力を貸してね、グラファイト」
 オウガメタル・グラファイトを全身に纏ったネリシアが、目にも留まらぬ攻撃を叩き込んでいく。
 最後に宙返りしたとき、敵は大の字になって倒れ、二度と動かなかった。

 辺りは再び、甘い香りに満たされていた。
 ネリシアが作り直してくれたパッフルを口にした一同はしばし、言葉も出なかったが。
「……今まで、もったいないことをしていたわ。ほとんど食べたことがなかったなんて」
 と、シャルロットがため息をついた。
「いいなぁ。俺もこれ、挑戦してみようかな」
 ヴィがまじまじと見つめる。
「難しそうですね」
 趣味を同じくする寧々花が笑う。
「食べ比べるのも、悪くはないだろうな」
「食べ放題ですね」
「小麦の国ぐんま生まれだから。全部大好き♪」
「紅茶で口をすっきりさせないと、ね」
 ルリィが湯気の立ち上るカップを、ジークリット、ロザリア、そして鞠緒の前に順々に置いていく。
 その光景を眺めていたネリシアは、
「ワッフルが好きなら……せめて、食べて感想……言ってもらいたかったな……」
 空を見上げて、呟いた。

作者:一条もえる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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