●死と、新たなる生
天上に、美しい少女があった。雲海に揺蕩うように浮かび、何かの訪れに顔を上げた。
折れそうなほど細い四肢、雪のように白い肌と髪――淡い微笑湛える黒衣の少女の前に、現れたのは黒き竜。
「お待ちしていました、ジエストル殿。此度の贄となるのは、そのドラゴンでしょうか」
問うたは少女――『先見の死神』プロノエー。
「そうだ。お主の持つ魔杖と死神の力で、この者の定命化を消し去ってもらいたい」
ジエストルと呼ばれたドラゴンは重く頷く。その背後に傅くは、水晶の身体を持つドラゴンであった。
一見は――魔竜ほどではないにせよ――とても巨大で立派な竜であった。いずれもよく透き通った水晶によって構成されており、一種の芸術品のようでさえあった。
だが、よくよく見れば、それは外装のようなものであり、中心に一回り小柄でほっそりとした本体があることがわかる。
「これより、定命化に侵されし肉体の強制的にサルベージを行います。あなたという存在は消え去り、残されるのは、ただの抜け殻にすぎません。よろしいですね?」
「どうか、この呪われた身をお救いください。同胞のためにも、覚悟はできております」
水晶で作られたそれは更に深く頭を下げ、両者に同意する。
雲海に、光る魔法陣が描かれる。
水晶のドラゴンは苦悶の声を上げながら、それへと溶けていく――そして、美しかった肉体は失われ、おどろおどろしい混沌の液体と、獄炎を纏う存在へと変貌する。そこにかつての面影は、一切なかった。
その様を見届け、プロノエーはそっと息を吐く。
「サルベージは成功、この獄混死龍ノゥテウームに定命化部分は残っておりません。ですが……」
「わかっている。この獄混死龍ノゥテウームはすぐに、戦場に送ろう。その代わり、完成体の研究は急いでもらうぞ」
●防衛
集まったケルベロス達を一瞥し、雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)は『獄混死龍ノゥテウーム』なるドラゴンの襲撃を告げる。
予知によると、襲撃地点はさる地方都市の繁華街。それも昼間のもっとも人通りが多い時間帯――もし予知通りにドラゴンが現れた時、その犠牲者の数は計り知れないものとなろう。
「時間の猶予はない。市民の避難を促す時間もない――出来る事はただひとつ。貴様らに、急ぎ迎撃してもらう」
彼は淡淡と告げるも、その声音は極めて低かった。
ノゥテウームは知性を持たず、ドラゴンとしては戦闘力も低めだが、ドラゴンである事には違い無い。全力を以て戦わなければならぬ相手である。
それの全長は十メートルほど。呪いの水と地獄の炎に似たものを纏いながら、躍動的に動き、直接叩きつけてくる。
そして、もうひとつ重要な事として――このドラゴンは、戦闘開始後八分ほどで自壊して死亡するようだ。
その理由は不明だが、これはドラゴン勢力の何かしらの試みなのかもしれぬ。
「くどいようだが、ドラゴンにしては戦闘能力が低く、また自壊してしまうからといって手を抜けば、周囲の被害が出るだろう。例えドラゴンが消えようとも……そんなものを勝利とは呼ぶまい」
幸い、彼らは『強い』ケルベロスとの戦闘に積極的だ。ただし、ケルベロスが脅威にならぬと見なされれば、街の破壊を優先するだろう。
元より放っておけば、八分で消え失せる存在――それと全力で戦わねばならぬ理由が、ここにある。
「奴らの企みに乗るようで、気味が悪い面もあるが……だからといって、これを見過ごすわけにはいかぬ」
厳しい表情の儘、辰砂はそう零し説明を終えるのであった。
参加者 | |
---|---|
燈家・陽葉(光響射て・e02459) |
オルテンシア・マルブランシュ(ミストラル・e03232) |
火岬・律(幽蝶・e05593) |
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129) |
高辻・玲(狂咲・e13363) |
月杜・イサギ(蘭奢待・e13792) |
椿木・旭矢(雷の手指・e22146) |
錆・ルーヒェン(青錆・e44396) |
●憐
風がざわめき出す――ケルベロス達が視界に捉えたのは、巨大なドラゴンの骨格だ。絶えず流れる混沌の水で受肉し、更に地獄の炎を揺らめかせている。
かなりの遠さからでも視認できた竜影は、ぐんぐんと大きくなっていく。あの速さならば、衝突まではあと僅か。
間に合った事に、四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)はまず安堵する。
後はケルベロス達が戦い続ける限り、背後の人々を守ることができる。
「わァお、すっごいドラちゃん『こせいてき』ってンだよね、ゾクゾクしちゃうなー!」
錆・ルーヒェン(青錆・e44396)の素直な感想は、同時に強烈な皮肉であった。
「有為転変は世の習い――この星の摂理、ようく骨身に染みてるようで」
オルテンシア・マルブランシュ(ミストラル・e03232)が薄い笑みを刷く。ミミックのカトルも今は主の傍でじっとその時を待っていた。
「定命化で死にたくないから、体を強制的にサルベージなんていう方法を取ったのに、それで結局……僕達に倒されても倒されなくても死ぬなんて」
燈家・陽葉(光響射て・e02459)の声は、囁きに近かった。
「永遠の命を持つ存在は定命を忌まわしいと感じるのか。永遠に生きるなんて、それこそ呪いではないのかな」
石榴石の瞳を細め、月杜・イサギ(蘭奢待・e13792)は嘆息する。
「そしてその命を捨ててまで死と契約する……おぞましいね」
外見の美醜は観点に依るとはいえ――選択そのものが彼には奇異に映る。
とはいえ、それだけだ。元より相手の背景など微塵も気にならぬ性質。斬って捨てる相手に興味は無い。
「自壊すら恐れず、空虚な存在と変わり果てようとも、仲間の為に命を賭す――その在り方は、見事なものだ」
余裕のある笑みを浮かべた高辻・玲(狂咲・e13363)の言葉に、平時通りむっつりとした表情で、椿木・旭矢(雷の手指・e22146)は首肯する。
定命者であれば理解できぬ命の使い方を――時にデウスエクス達は甘受する。
それを摘むのが、ケルベロスであれば。
――来たわ、というオルテンシアの言葉に皆が動く。
突風が、ケルベロス達を襲う。此処まで全速力で飛行していた其れが、ぴたりと彼らの前で止まったのだ。
反動で起こった旋風に、建造物は儚く削れ、土埃と呼ぶには粗い煙が戦場を覆う。
既にケルベロス達は各各思う位置に展開し、一撃目に向けた動作を始めている。
「此処で退けなければ、明日は我が身です」
隙の無い構えをとりつつ、火岬・律(幽蝶・e05593)がきわめて冷静に言う。そうだ――静かに呼気を整えた旭矢は、獄混死龍ノゥテウームの正面に向き合い、告げる。
「我が身を捨ててこの場に臨んだあんたの覚悟だが、残念ながらここで食い止める――お相手願おう。名も姿も失った哀れな竜よ」
●開戦
巨大な頭蓋がぐわりと口を開いて、突進してきた。
混沌の水で形成されている牙自体が、ケルベロス達の背丈を超える凶悪な刃。
千里は茶より緋へと変じた瞳で臆さずそれを見据え、千鬼を手に、前へ跳ぶ。彼女とは別の方角へ進み出た律、カトルと合わせ、押しとどめる。
竜が駆った後には、無造作に破壊された瓦礫が降る。
その中で、陽葉は大きく息を吐き、吸って――唄い出す。
「世界を開く時を望んでいた。世界と歌う時を待っていた。小さな小さな緋色の囁きが、やがて全てを導いた」
力強く戦場に響く歌声と共に、世界創世の炎が広がる幻想が仲間に届くと――呼応するようにカラフルな爆風が、傷を負ったものたちの背を彩る。
オルテンシアの全てを見通すような視線は、何事も逃すまいと戦場全体に注がれていた。
「私の能力で…戦局を変えてあげる…」
囁くは千里。彼女が力を差し向ければ、仲間はささやかながら重力から解き放たれ、敵を重力で縛る――援護を受けたイサギは瓦礫を蹴り上げ、竜の頭上まで舞い上がる。翼を広げて僅かに滞空し――直刃で無骨な印象のある日本刀を軽く返す。
「久々に手応えのあるモノを斬る、それは私の悦びでもある――楽しませてもらうよ」
浮かべた微笑と、太刀筋は嬋媛。
しかし呪詛を載せたそれは、見目よりも重い。鮮やかな一閃で炎を裂き――水に包まれた。芯を捉えぬ感覚に柳眉を跳ねて、竜を蹴り上げ、退く。
彼と入れ替わり、竜砲弾が轟く。
撃ち方である旭矢は、敵をじっと注視していた。強烈な一撃と、確実な一撃――いずれも混沌の水に波紋を立てたが、傷は浅いように見えた。
「壊れちゃうって、アンタも用済み? 気の毒だねェ」
友人の肩でも叩きに行くかの如く、ルーヒェンがそれに無遠慮に近づいていく。
気の毒だけれど、だからといって素通りは許さない。唇を笑みの形に歪めた。
「街、壊れたら寝るとこ無くなっちゃうねェ――それに」
彼にとって形在るモノが毀れることは必然ではあるが、それでもなんだかイヤだなァ、と思う事はある。
竜の鼻先近く。錆びた両脚、高い踵が奏でる音がぴたりと止め。彼は両腕を広げ、囁く。
「行かないで――何処にも」
そして、触れる。
どろり溶け出す影がなぞるは歪な足枷のかたち――骨まで砕かんと、竜の尾を重く縛る。
何処まで重力がそれを縛ったか。
試すように、踏み込むは玲。数歩を刻んで付けた加速を載せ、雷の霊力を帯びた鋒を繰る。貫く一刀は同じく、纏う水に沈んだ。腕に伝わる重い感覚に、彼も潔く一度退く。
「なるほど、手強いですね」
眼鏡の向こう、深紫の瞳を細め律がそっと独りごちると、陽葉へ金無垢のシグネット・リングを向けた。
カウントダウンは始まった――後は定刻までに、屠れるか。
●錯
竜の尾が暴れる。炎が塵を焦がし、得も言われぬ悪臭が広がる。
これで「ドラゴンとしては弱い方」か、律はふっと息を吐く。光の盾がありながら、一撃で両腕が焦げた。接触時に感じた苦痛よりも状態が悪いのは、同時に生命力を持って行かれたためだろう。
「處を變ふるによりて名を變ふる。浮世の名聞は今此方、今彼方。――こい、こい。」
オルテンシアは朗々と謳い、その指先はカードを翻す。
くるりと返した其れが示す啓示は、殃か慶か――いずれにせよ、彼女の起こした小さな風は、陽葉の歌によってより強く。彼の傷を上書きするように癒やした。
「戦場を広く見渡せる場所から誰一人欠けぬよう死力を尽くす……こういう戦い方もあるのね」
余りある重責に眩暈がしそう――自らが零した言葉に、思わず口元に笑みが浮かぶ。
いいえ――知っていた。けれど、『あの日』から我知らず避けていた。
「今一度、今度こそ。誰一人欠けることなく努めてみせるわ」
主の決意に応えるように、カトルも竜へと食らいついていく。その姿に、彼女は今度こそ不敵な色の微笑を向けた。
「殊勲、期待してるわよ」
果敢に飛び込んだ小さな背を追って、流星の煌めきが落ちる。
「はァいドラちゃん、ヨソ見はウワキと見なしちゃうよン。退屈させないから目一杯遊んでってねェ!」
戯ける言葉とは裏腹に、ルーヒェンの脚は竜の形を形成する水を散らす。
彼が弾けたその鈍い輝きを楽しげに見つめる横を、旭矢が駆った。
踏み込む前から振りかぶり、速攻で撃ち込んだ彼のドラゴニックハンマーの軌道は、竜であれ不可避なものだった。
進化の可能性を奪う超重の一撃は、強かに其れの頭部を捉え、巨大な全身を戦慄かせた。
「充分に効いてるみたいだな」
手応えあれど、表情は変えず。彼はただ深く頷く。
それでも念のためにと陽葉が戦場に広げた輝くオウガ粒子の下、イサギが地を蹴る。
「当たらぬなら当たるまで斬るだけさ」
彼はいっそ狂気に似た――美しい微笑を湛えた儘、仕掛ける。
己の役割はただただ相手を削ること、思うが故に、突出し、省みぬ。
「余所見をしてはいけないよ。私が狙っているのだからね」
白銀の軌跡を描き、刃が飛翔する。地から彼が描く美しい残像は其れの顎を下から貫く。
まだまだ、深く。刃を押し込もうと手に力を籠めた時。
「右です――」
警告を発する律の声が妙に鮮明と響いたのは、混沌に覆われた腕が、彼を厭うように薙ぐ所作を、イサギも同じく予見したからだろう。
(「そうか……私は怪我など恐れないが……『あの子』が悲しむ顔は見たくない」)
その一念が脳裡を過ぎった事で――自分でも驚く程、身体が素直に退いた。
「私も、随分と変わったものだ」
それに自嘲の響きはあれど、口元に刻んだ笑みは悪いものではなかった。
彼の代わりにその爪の前に飛び込んだのは、千里。風を斬り裂く剛爪は、彼女の緋眼に呼応した緋色の盾が弾く。それでも摺り抜け裂ける傷と、その身を蝕む氷の呪いからは逃れられぬ。
「守りは……任せて……」
それを彼女は静かな言葉に乗せて、自ら奮う。あくまでも冷静に、淡淡と。
「頼りにしているよ」
小柄な少女の横を、玲が跳んだ。攻撃直後の無防備な姿勢を空の霊力を纏う剣戟が襲う。
剣風が混沌の水を吹き飛ばし、その機動を更に下げる。
随分と当たりが確りしてきた――オルテンシアが素早く全体の状態を見極め、千里に風を送った。
「先行きは視えたわ。後はより良い結末を」
●葬
ケルベロス達は直接的な守りを厚くし、攻撃を当てる事に専念した事で、早々にノゥテウームの優位性を奪った。中衛を担う陽葉が、仲間の集中を高める事を優先したことも大きい。
六回目のアラームがその経過を報せる頃、敵は随分と見窄らしい姿になりつつあった。
その身を覆う混沌の水は、今は重要そうな部位に集中して留まり、殆どは骨を剥き出しにしていた。纏う炎は激しくも、傷付いて無数の亀裂を走らせた姿では心許ない。
それでも竜は彼らに向け、強い戦意を滾らせ睥睨している――律もまた、それから目を逸らさず、ひたと睨めた。
(「元がどんなに澄み美しい姿であったか想像もつかないが」)
今の崩れた死肉の如き、情念に焼かれるかの如き姿が――落涙のように見得て。
「だが、宿願の為であれ、私怨の為であれ。明日の生に命を賭けたは互いに同じ」
彼らが、彼が背に庇うものは『哀れ』で譲れるものではない。
ならばせめて、敬意をもって戦い、殺意をもって手にかける。
「――黒塚に、鬼籠もれりと言ふはまことか」
鮮血状の霊力を、自らと仲間に放つ。
狂う鬼が如く、血を奮わせる力を受け止め――玲と、イサギが並び仕掛ける。
先じて玲の振るった斬撃は、高く掲げた先からゆるり緩く月の輪郭をなぞるように。
「君の覚悟は見事だと思う……だけど、御免ね。死に花を咲かせる事は許さない。君はこの先には通さない――此処で朽ち果てて貰うよ」
穏やかな声音に宿る、慈愛と矜持。しかし滑り込む刃は、鋭く重い。
対し――イサギはただただ相手を刻むべく、美しい輝きを放つ銀髪を踊らせた。
手前で跳躍から、黒翼を広げ、滑空する。
「相手が死にかけだろうと、慢心はしない。だが、これは『効く』よ」
無数の霊体を憑依させた白刃が尾となり、空に眩い軌跡を残す。地と天より迫った両の刃は、混沌の水を掻き分け、斬り落とす。
どろり、落ちる水は血液の如く。
竜が大きく身を捩って暴れた尻尾を、エクトプラズムでカトルが押さえ込む。獄炎に包まれたが、小さな身体はじっと堪えている。
「時は来たれり、かしら――構わず仕掛けて」
この子は私が、オルテンシアが請け負い、攻撃を促す。
「そうだね、これで終わりにしよう」
陽葉は陽光の瞳を敵に注ぎ、愛用の和弓を引き絞る。流麗な所作から、きりりと立てる弦の音で状態を判断し、放つ一矢。
素早く放ったとは思えぬほど、それは的確に、尾の付け根を貫いた。
一度瞳を閉じた千里が、ぱちりと見開く――輝くような、緋色の瞳がそれを見つめると、楔のように撃ち込まれた矢の近くが爆発する。
騒々しい戦場の中、呼気を整えた律が、静かな動作で柄を下げた。
「我が身は最後の一瞬まで。塵の一片と変わり果てるまで。望みの為に捧げ切ったと――誇って逝くといい」
地を蹴れば、いつしか抜刀した剣先に雷気が宿る。
彼の鋭い突きが尾の半分を砕く――崩れつつある竜へ、ルーヒェンは朗らかな声をかける。
「ボロボロだねェ。でも俺も……どーせなら勝ち鬨上げたいしねェ?」
……やれなきゃ、また用無しに戻っちゃうじゃんねェ?
それは誰にも聞こえぬ程小さな囁き。青褐に蔭る金の瞳は、何処か遠くを見、
「あと……あの子の笑う場所、なくなっちゃうし?」
その一言を隠したのはバールが風きり唸る音。身体を斜めに反らし、彼は思い切り振りかぶる。
全力で放たれたそれは、散々に痛めつけられた骨尾を根から砕く――だが、追撃の手は、止まぬ。
「さあ受けてみろ……ただではすまさん……!」
旭矢が放つ――雷の剛腕という名の通り。
ひとつの腕のように絡み合った数多の稲妻が、竜を穿つ。
全身に雷光を奔らせ、地に叩きつけられた竜を待っていたのは、深紅の薔薇。
「もう二度と目覚めぬ眠りの底へ、送って差し上げよう……全てを――」
告げ、玲はするりと前に出る。
足運びも居抜きの所作も、何もかもが静かであった。
ひたと見据える花と同じ色をした眼差しは穏やかで、然れど刺す光には刀剣に勝る鋭さが宿っていた。
――真髄にして心髄を、さぁご覧あれ。
結ぶは一瞬、気付けば彼は竜の頭から尾まで、駆け抜けていた。
そして、小さな鍔鳴りが響く。
「――お休み」
●誓
竜は崩れ落ちて消えた。残るは戦闘の疵痕を残す街だけだ。
「これで何を……研究できたのかな」
陽葉がぽつりと零す。さあ……千里は小首を傾げる。
彼女が追う仇敵と、予知にあった死神――その関係を、掴んだつもりではいる。だがそれへ、いつ辿り着けるのか。
未だ足りない、愛刀を撫でて、彼女は唇を結ぶ。
「しかし、次、これよりいっそう強いのが来たら、凌ぎきれるのだろうか……?」
不意に旭矢が零した一言に、イサギは不敵な笑みを浮かべた。
「私としては、歓迎すべきことだね」
「力の限り、護るだけです」
修繕箇所を見繕いながらの、律の簡潔ないらえに、柔らかな微笑みを浮かべた玲が頷く。
「敵が何を企てようとも、幾度牙を向こうとも、護り続けてみせよう――そして必ず、禍根を断ってみせよう」
変わらぬ表情の旭矢は皆をじっと見つめた儘、そうか、と頷く。
「――俺もケルベロスとして、爪を研いでおかねばならん」
仲間のやりとりを眺めつつ、ルーヒェンは考える。
――立派なケルベロスは、人間とは違うのかなァ。
「ンー、わかンないや」
図らずも広々とした空を仰ぎ、両腕を突き出し、身体を伸ばした。
「お疲れ様。最後まで一緒に戦えたわね」
誉めてくれと言わんばかりに跳ねたカトルをオルテンシアは撫でる。
東の果てを見据え続ける――誓霄に口づけ、彼女は幾度でも誓う。竜に死を撃ち込んだものとして戦い抜くことを。
作者:黒塚婁 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年10月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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