自壊へのカウントダウン

■リプレイ

●せめて名誉ある最後を
　高知県東部にある香南市。
　のいち駅付近へと降り立つケルベロス一行は程なく、遠方にそのドラゴンを発見して。
「定命化するのが嫌だからって、改造までするのですか……」
　白く長い髪に金の瞳を持つヒマラヤン・サイアミーゼス（カオスウィザード・e16046）はドラゴンの姿に、顔を引きつらせてしまう。
　全身が崩れて骨のようになった獄混死龍ノゥテウームは炎と水を纏い、身悶えしながら暴れている。
「完ペキ失敗作やん。しかも味方の」
　ドラゴンへと接近しつつ、白虎のウェアライダー、八蘇上・瀬理（家族の為に猛る虎・e00484）はその姿に本音を漏らす。
「こんなんまで現場投入とか、ドラゴン連中もいよいよなりふり構っとられんようなってきたんかな」
　だが、激しく骨の腕を振り回す敵はデウスエクスに代わりはない。
　ライトブルーの鱗が目を引く竜派ドラゴニアン、中条・竜矢（蒼き悠久の幻影竜・e32186）は近場の人にケルベロスカードを渡し、すぐさま離れるように伝える。
「市民を逃し切る猶予はない、か……」
　トナカイ種のウェアライダーであるミチェーリ・ノルシュテイン（青氷壁の盾・e02708）もガントレットで構えを取りつつ、一般人を護るようにドラゴンの前へと立ち塞がった。
「上等です。我が身全てが人々を守る盾だと証明してみせましょう」
　そう言い放つミチェーリの後方では、白い肌に青いポニーテールを揺らす少女、トリューム・ウンニル（碧き天災の運び手・e61351）も自身をアピールして相手を威圧する。
　ケルベロスを威嚇してドラゴン。その姿に、知性はまるで感じられない。
「既に意識は残って無い様なのですが、せめてドラゴンとして戦って眠らせてあげるのですよ」
「竜の強さは力にあらず、強さ、生存、勝利の全てを求める飽くなき求道の精神なり」
　接敵して悠然と構えるヒマラヤンの手前で、ケルベロスコート姿へと変身していた黒住・舞彩（鶏竜拳士・e04871）が周囲の地元民を勇気付けながらも、ドラゴンの姿を目にして。
「……だったわね。竜牙兵ドラゴンスレイヤー。これも、そうなのかしら？」
　彼女が自身の左腕に呼びかけると、左腕の地獄と同化した剣は大きく燃え上がってその返答としていたようだ。
「……やる事やって帰ろぅ」
　こんな状況でもマイペースなゴスロリ少女、ラトゥーニ・ベルフロー（至福の夢・e00214）はミミックのリリを囮に立て、自らは大儀そうにふらふらと戦場となる街を見回す。
「上手く使えそう？」
　前線に近づく舞彩は、事前に渡した自身の使っていた仕込み長銃の調子をミチェーリに確認する。
「ありがたく使わせていただきます」
「なら、いきましょう！」
　それを装着したミチェーリの返礼を耳にした舞彩は黒い旋風を巻き起こし、右目、左腕、右脚の地獄を勢いよく燃え上がらせて相手へと突撃していく。
「オオオォォオオオォォ……」
　朽ちかけるドラゴンは全身をバタつかせ、ケルベロスへと向かってくる。
「……誇り高き竜に、どうか安らかな眠りを」
　真白の髪に白皙の青年、エレオス・ヴェレッド（無垢なるカデンツァ・e21925）が小さく祈りを捧げると、持参してきたタイマーのアラームをそれぞれ４分、７分、８分後にセットして。
「……始めましょうか」
「絶対に被害は出しません。守り切ります！」
　エレオスの言葉に合わせ、右手に日本刀、左手に砲撃形態のハンマーを所持する竜矢も大きく翼を広げて加速し、ドラゴンへと攻め入るのだった。

●竜の侵攻を食い止める為
　先んじて仕掛けようとするメンバーも多いケルベロスだったが、状況が整わずに先制攻撃とはいかない。
　１０ｍもの巨体にもかかわらず、素早く動くドラゴン……獄混死龍ノゥテウームに対し、ヒマラヤンが僅かに早く砲撃形態としたピコピコハンマーから砲弾を飛ばす。
　その砲弾の直後、ウイングキャットのヴィーくんが飛ばす尻尾のリングを相手の口元に絡めるが、ドラゴンの動きは止まることなく炎のブレスを吐き掛けてくる。
　その炎を浴びる前衛陣の１人、瀬理も身体に燻ぶる炎で身を焦がしながらも相手目掛けて凍気を纏わせた杭を打ち込む。
「分かりやすい怪獣退治でええな！」
　ただ全力でグラビティを叩き込んでいく彼女に続き、翼を広げる竜矢がこれ見よがしに右手の日本刀で大きく弧を描いて相手の体を切り裂いた。
　とはいえ、見上げるほどに巨大な相手だ。
　渾身の攻撃を与えたところで、１、２撃ではさほどドラゴンも意に介する様子すら見られない。
「疲れそぅだし、リリに頑張ってもらわなぃと」
　本格的に戦闘が始まっても、遊撃役となるラトゥーニは前線へと投げ飛ばした自身のミミックに任せ、自らは見つけた瓦礫の物陰で身を潜める。
　しぶしぶといった態度とはいえ、ラトゥーニは黒い鎖を伸ばして相手を締め上げようとしていた。
　同じく、遊撃として動く舞彩。
「ケルベロスがきたわよ、と！」
　しっかりと自らをアピールする彼女は、無手に見えた右腕から放出した力を鎖に変えて放つ。
　それを相手の体へと巻きつけて動きを少しでも止められたのなら、舞彩の思惑通りと言えた。
　壁となるミチェーリが『仕込み長銃【リストライフル】』を携え、エネルギー光線を発射する。
　舞彩とミチェーリは見事に連携攻撃を決めつつも油断せず、さらに攻撃を仕掛けていく。
　さて、獄混死龍ノゥテウームは戦闘開始から、８分で自壊してしまう。
　それまで、攻撃を続けてドラゴンを抑えれば十分ではあるが、メンバー達はそれを是とはしない。
　今回のチームは、誇り高きドラゴンのままで眠りにつかせようと考え、もしくはそれに同調する者が多い。
　確実に相手を倒す為、エレオスはタイムキーパー役も兼ねている。
「皆さん、大丈夫ですか？」
　それだけではなく、人々を護る為にと参戦しているエレオスは仲間の傷を気がけて回復役にも当たっていた。
「ああ　どこまで歩んだら　わたしの想いは届くでしょう」
　男性の彼だが、響かせる歌声は美しく澄んだソプラノ。
　失われた愛しい想いを歌うその曲は、世界を愛するケルベロス達を癒していく。
　ボクスドラゴンのギョルソーもその癒しを受けつつ、同じ列のケルベロス達へと自らの属性注入をしてくれていた。
　主のトリュームもまた回復、支援を行う為に動き、まずはオウガ粒子を浴びせたメンバー達の感覚を研ぎ澄まさせる。
　その上でトリュームはできる限り仲間の傷を塞ごうと、用意してきたヒールグラビティを仲間へと振り撒いていく。
　立ち上がり、メンバーそれぞれが自らの立ち位置で役割を果たそうと動く中、ノゥテウームはなおも呻き声を上げて。
「オオォォオオォオオオォオ……！！」
「大技、来ます！」
　威力の高い相手の一撃を懸念し、竜矢が仲間へと注意を促す。
　その直後、敵は自身の体から溢れる水を集め、大砲のように撃ち出してきたのだった。

●竜の力を肌で感じて
　獄混死龍ノゥテウームから放たれる水の大砲は、その一撃だけで致命傷となる威力がある。
　主立って敵の攻撃を受けるミチェーリは戦場に仲間を立たせ続けることを意識し、重装甲のガントレットを活かしたカバリングへと率先して入っていく。
　３体いるサーヴァント達もまた守りを固めてカバーに入るが、ドラゴンの攻撃は広範囲に渡ることも多く、瞬く間に体力をすり減らしてしまう。
「がんばれがんばれ」
　けなげに身を挺するミミックのリリを後ろから応援しつつ、ラトゥーニは黒色の魔力弾を撃ち出す。
「リリは強い子」
　普段、リリの扱いが雑なラトゥーニだが、本人も必要だとは考えているのだろう。
　盾となって耐えてくれるメンバーがいるからこそ、攻撃役も全力でグラビティを発することができる。
　瀬理が巻き起こす氷結の螺旋を敵へと浴びせかければ、竜矢は竜鎚から砲弾をドラゴンへと叩きつけ、できる限り相手の足を止めようと試みていた。
　舞彩も死せる竜から流れ落ちた血液「屍竜絶血」を竜頭の捕食モードとして敵の体を食らいつかせ、敵ドラゴンの動きを封じ込めようとしていく。
　とにかく、素早く暴れ狂う敵を抑え、できる限りダメージを与えたい。しかも、８分という制限時間の間に、だ。
　ミチェーリはサーヴァント達と共に皆を極力庇い、最悪１人だけでも立ち続けられるよう盾役の役目を果たそうと身構える。
　その間も彼女は攻撃も行い、敵の頭と体の継ぎ目を仕込み長銃【リストライフル】で撃ち抜いていく。
「オオオォオオォオオォオ……！」
　残る鱗を剥がされてその身を崩しながらも、ドラゴンは骨と化した腕で殴りかかってくる。
　狙われた翼猫のヴィーくんを庇うように、敵の真横から特攻してきたトリュームの箱竜ギョルソーが強烈な腕の一撃を浴びて姿を消してしまう。
　それを確認していたトリュームは敵の攻撃を受けた仲間へと鎖で魔法陣を描き、魔導金属片を含んだ蒸気を噴射していた。
「４分経過です」
　アラームが鳴ったことでエレオスは仲間に伝えつつ、前線メンバーの為に緊急手術によって傷の回復に注力する。
　その時、不意にケルベロス達から目を逸らそうとするドラゴン。
　ヒマラヤンはすかさず、両手に纏ったオーラを遠隔操作可能な大きなガントレットに変えて。
「町の人達に、手を出させるわけにはいかないのですよ！」
　力の限り、ヒマラヤンは巨大な相手をガントレットで殴り倒そうとした。
　だが、ドラゴンはその場に留まり、大きく口を開いてブレスを吐き掛けてくる。
　瀬理は裂帛の叫びを織り交ぜながらも攻撃を続け、氷結の螺旋を敵へと浴びせかけていく。
　その際、彼女は相手の見切りも気にかけたローテーションでグラビティを使用し、最後の１分で自身の決め技が使えるよう調整もはかる。
　火力役が安定して攻撃を命中させるようになってきたことで、竜矢は攻撃パターンを変更していく。
　理力を込めた妖精の靴から、竜矢は星型のオーラを目の前の竜へと叩き込み、敵の体表面をさらに破壊していった。
　しかし、ダメージは重なってはいるものの、無情にも時は過ぎて。
「７分経過です」
　エレオスが仲間達に２度目の伝達を行うのである。

●自壊への秒読みを止めるべく
　獄混死龍ノゥテウームの自壊まで、あと２分。
　なかなか動きを止めることない竜は、またも強力な水大砲を発射してきた。
「再び、大技来ます！」
　竜矢の声に応じ、身を投げ出したのはミミックのリリ。
　度重なる広範囲攻撃の後での一撃は重く、リリは姿を消してしまう。
　サーヴァント２体が姿を消していたが、ケルベロス達は皆戦えている状態だ。
「一気にいきましょう」
　再度「想捧」を歌って仲間を癒していたエレオスは総攻撃チャンスと見て、そう呼びかける。
　自身のミミックを確認しながらも、ラトゥーニは威力重視の虚無魔法を発していく。
　だが、消えはしまいと耐え切ったドラゴンは同胞の脅威を１つでも多く排除しようと、骨となった腕を叩きつけてきた。
（「定命化で死ぬよりは、仲間の為にかな」）
　必死な敵の姿に舞彩もその想いを察するが、地球に住む者として民間人の命を奪わせるわけにもいかない。
　彼女は無手に見えた地獄の左腕から出現させた小型の竜殺しの剣に闘気の雷を纏わせて右手に、左腕はそのまま地獄の炎を纏った剣を握って。
「せめて、戦っての死を与えてあげましょう」
　一気に相手へと肉薄し、舞彩は相手の体を十字に切り裂いていく。
　総攻撃とあって、ミチェーリもまた自身の決め技で仕掛ける。
　冷気のオーラを圧縮、実体化させた氷の杭を己のガントレットに装着して。
「この一突きで穿ち抜く！　露式強攻鎧兵術『氷柱』！」
　高速射出された氷杭は相手の体深くにまで食い込み、その体内で砕け散ってしまう。
　回復に当たっていたトリュームもまた、ここぞと攻勢へと出て腕を掲げた。
「さーん、にー、いち……オープン・ユア・ハァァート！！」
　纏っていたアイテムが光って唸る機械腕に変形すると、強く輝いた直後にトリュームはそれを発射する。
　ロケットブースターで加速した腕は相手へと取り付き、高圧電流を浴びせかけていった。
　エレオスも仲間に続いて星型のオーラを浴びせかけるが、ドラゴンはなおも戦場にその存在感を示して。
「オォオおぉおオォオぉぉォ……！」
「８分、時間がありません」
　ノゥテウームが吐き掛けてくる炎に耐える前衛陣を見ながら、エレオスが残り時間を仲間達へと伝えていく。
　ケルベロス達も持てる力の全てを、目の前のドラゴンにぶつける。
「疾走れ逃走れはしれ、この顎から！　……あはっ、丸見えやわアンタ」
　ここぞと瀬理は自らの虎の本能を解放し、力を纏わせた戦篭手で力の限り殴りつけていく。
「竜を持って敵を制す……。たとえ、この身が変わってしまっても！」
　それまで仲間のおかげもあり、大ダメージを避けていた竜矢。
　彼は自らのドラゴンの因子を解放し、かぎ爪となった腕で殴りかかっていった。
　少しずつ崩壊するその体へ、翼猫ヴィーくんが素早く引っかいたのに続いて、ヒマラヤンが再度両手に纏うオーラを大きなガントレットへと変えて。
「コード・トーラス！」
「おぉおオォオォオぉぉォォ……」
　正面からヒマラヤンがあらん限りの力でドラゴンの顔を殴りつけると、ついに獄混死龍ノゥテウームの体が崩壊する。
　自壊ではなく、ケルベロス達のグラビティによって完全に崩れ、塵と成り果てる敵にエレオスは祈りを捧げていく。
「おやすみなさい……良い夢を」
　それにしてもと、ヒマラヤンは考える。
「何かの研究をしているみたいなのですが、『それ』が完成したら、どうなるのですかね……？」
「ドラゴン……」
　それを聞いた竜矢も、ドラゴン勢力の動きに警戒を強めるのだった。

●修復作業を進めて
　ドラゴンの討伐後、ケルベロス達は現場の状況を確認する。
　現場の被害はゼロとはいかなかったが、負傷者を確認したエレオスは「想捧」を歌って傷つく現地の人々を癒し、舞彩も黒い鎖で魔法陣を描いて破壊された街を幻想で埋める。
　トリュームも逃げる際に怪我を負った地元民へと花びらのオーラを舞わせて癒しに当たり、さらに周囲の建物へと金属片を含む蒸気も浴びせて修復に当たってもいたようだ。
「早く帰りたぃ……」
　復活した自身のミミックに乗るラトゥーニも面倒くさがりながら、地面から抽出した魔力で癒しに当たってはいたらしい。
　作業も程なく終わり、ケルベロス達は皆帰路へとついていく。
「土産に何買うて帰ろかなー」
　スマホで地元の名産を調べる瀬理は、鰹のたたきや芋けんぴといった商品を眺めながら、友人への土産を物色し始めていたのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年10月7日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 9／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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