秋の長雨も、雲上では関係ない。見上げれば蒼穹、見渡せば雲海――だが、白皙の乙女は瞑目して静かに佇む。その腕に抱えるのは、妖しい輝き帯びた魔杖。
「……お待ちしていました、ジエストル殿」
徐に振り返った乙女は、禍々しいフォルムのドラゴンを迎える。
「此度の贄となるのは、そのドラゴンでしょうか」
「如何にも、『先見の死神』プロノエー」
ジエストルと呼ばれたドラゴンは、傍らを見やる。鰭を数多引きずり蹲る――恐らくは、海竜。だが、鰐の如き大顎から漏れる喘鳴は、棲み処より遠く引き離された所為ではない。
「例に漏れず、お主の魔杖と死神の力で、此奴の定命化を消し去って貰いたい」
「承りました。ですが、未だ先の例に漏れず、定命化に侵されし肉体の強制サルベージは、個々の存在を消し去り、残されるのは、只の抜け殻のみ。それで、宜しいですね?」
「嗚呼……我は、直に、潰える。何も成し得ぬ侭、座して朽ち果てる屈辱、だけは……」
冷徹な宣告にも、のろのろと首肯する海竜に迷いはない。プロノエーは魔杖を掲げる。
――――!!
雲海に描かれる魔法陣。その只中で、瀕死の呈であった海竜は断末魔の叫びを上げる。その肉体は苦悶の声と共に溶けてゆき――骨に炎と水を纏う異形に再構成されていく。
「サルベージは成功、この獄混死龍ノゥテウームに定命化部分は残っておりません。ですが……」
「それも承知の上。此奴はすぐ戦場に送ろう。既に少なからずの同胞を献じておるのだ。お主には、完成体の研究を急いで貰うぞ」
「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
ヘリポートに集まったケルベロス達を、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は静かに見回す。
「ヘリオンの演算により、明石海峡大橋にドラゴン『獄混死龍ノゥテウーム』の襲撃が察知されました」
正確には、大橋を渡ったばかりの淡路島側にあるサービスエリアが標的で、大きな施設は常に賑わっているという。
「襲撃まで時間がありません。周辺の封鎖や一般人の避難が間に合わず、このままでは多くの死傷者が出てしまうでしょう」
ケルベロス達は可及的速やかにヘリオンで迎撃地点に向かい、獄混死龍ノゥテウームと対峙する事になる。
「獄混死龍ノゥテウームは知性が無く、ドラゴンとしては戦闘力も低めですが……それでも、ドラゴンです。強敵なのは間違いありませんので、全力で迎撃に向かって下さい」
獄混死龍ノゥテウームは、サービスエリアの広々とした駐車場に現れる。自動車も停まっているし一般人は建物に避難して貰いながらとなるが、綺麗に舗装された駐車場ならば、存分に戦えるだろう。
「獄混死龍ノゥテウームは、全長約10m。骨に炎と水の肉を纏ったような異形です。骨の尾で薙ぎ払い、炎の弾幕を張り、水の顎で食らい付きます。威力は総じて高いでしょう」
又、重要情報として――獄混死龍ノゥテウームは、戦闘開始後8分程で自壊、死亡する事が判っている。
「自壊の理由は不明ですが……ドラゴン勢力の実験体である可能性が高いですね」
つまり、獄混死龍ノゥテウームを撃破するか、或いは、自壊するまで耐えきれば勝利だ。だが、その前にケルベロスが敗北してしまえば、一般人に多大な被害が出る。敵が何れ自滅するからといって油断は禁物だ。
「尚、敵はケルベロスとの戦闘を最優先とするようですが……脅威にならないと判断されれば、一般人の虐殺に走る危険性があります」
8分という時間は防戦一方ではなく、獄混死龍ノゥテウームにとって脅威となるような攻撃も必要だろう。
「それにしても、骨のドラゴンとは……まるで、死神のような姿でした」
呟きに懸念を滲ませて、創は「ご武運を」とケルベロス達に一礼した。
参加者 | |
---|---|
寺本・蓮(幻装士・e00154) |
ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720) |
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859) |
隠・キカ(輝る翳・e03014) |
四辻・樒(黒の背反・e03880) |
月篠・灯音(緋ノ宵・e04557) |
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558) |
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973) |
●淡路SA――正午、戦闘開始
ケルベロス達の到着は、正午の数分前。曇天から、雨が降り出していた。
「小雨か……」
頬に掛かる雨粒は微細。視界を妨げはしないだろう。
「戦闘に支障ないが、足元には気を付けなければな。灯、無理はするなよ」
四辻・樒(黒の背反・e03880)の気遣いに、ニコリと笑む月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)。
(「樒はああ言うけど、仲間は守ってみせるのだ」)
今回の灯音は「盾」だ。この戦いも「守りたい」思い出にしてみせる。
「さて、頑張りますかねっと」
愛刀「千景」の柄を撫で、キリッと表情を引き締める寺本・蓮(幻装士・e00154)。8分は、短いようで長い時間だ。
「エルスちゃんと組むのは久々だね。今回もよろしくね!」
だが、知己の挨拶にも、エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)の応えはない。人形めいた横顔は曇天を睨み――よく見れば、唇が微かに動いている。
「……ドラゴンは死すべし、殺すべし」
呪詛の如く、繰り返し繰り返し。凍り付いた漆黒の眼差しから、殺気が溢れんばかり。
(「お前らの情義も決意も何も、何1つ興味ない……侵略する者を侵略される者が同情など、するものか!」)
――――!!
エルスの情念を詰るように、突如轟く雄叫び。燃え上がる少女のバトルオーラの向こうに、骨に炎と水を纏う異形――獄混死龍ノゥテウームが降臨する。
「これが、ドラゴン? ……業が深いな」
ドラゴンと死神の共闘、とも言える状況が苦々しい。同胞の為、死神に自らを捧げたドラゴンに対しても、霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)は些かなりとも複雑な思いを抱える。
(「……が、それはそれ。戦場で相対した以上は『敵』であり、『滅ぼすべきもの』に過ぎませんから」)
努めて冷静、冷徹に。己の中で囁く声は聞こえない振りをして。
(「既に壊れたデウスエクスは壊せない。先に死神に奪われた力は奪えませんから、ね……」)
「ここに来たのは、自ら切り捨てた一部、って訳か」
常は表情乏しい篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)も、眉を顰めている。佐久弥はレプリカントだ。かつてその身は廃棄物を集めて出来た。人に捨てられ拾われて心を得たが故に、獄混死龍の有様が心の柔かな部分に棘を刺す。
「……既に死に体なのだね」
ギクシャクと動く骨龍を、ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)は痛ましく見上げる。
「その状態で尚、戦いを選んだ姿に敬意を表するよ」
「同情する暇があれば後ろを見なさい。守るべき者が私達の後ろにいるわ」
エルスの尖った声音に、ノーフィアは無論と頷く。彼女とて無辜の矛で楯と自認する。死力には死力で、惨劇は全力を以て止める決意だ。ボクスドラゴンのペレも、相棒の頭上から降りて臨戦態勢を取る。
「だれかを傷つけるなら。きぃは、デウスエクスをこわすよ」
――――!!
たどたどしく幼げな言葉に、ドラゴンの咆哮が重なる。
こくりと小さく息を呑み、隠・キカ(輝る翳・e03014)は玩具のロボットを大事に懐に仕舞う。
(「あの子は、自分がこわれるってわかってるのかな? わかってるなら、どうしてたたかうの」)
少女の役割は狙撃とタイムキーパー。だが、アイズフォンを使おうとして止めた。戦闘の最中、片眼を瞑るのは流石に危険。掌上に立体画像を示すにも、彼女の両手は武装で塞がっている。
「あなたは、こわれてしまうの? なのに、たたかうの?」
だから、自身の行動を数える事にした。キカはケルベロス達の中でも実戦経験が浅い。恐らく8度の行動の後、ドラゴンは自壊するだろう。
「だいじょうぶ、ちゃんと見ててあげる。あなたが生きてたこと、その姿も全部」
●確たるの意義
「ケルベロスだよ、お前の相手はここにいる!」
高い声音が響き渡る。前衛へ守護星座を描きながら、憎悪と敵意を剥き出したエルスの表情は鬼気迫る。
竜と呼ぶにも冒涜的な体躯をくねらせ、駆け寄るケルベロスらを睥睨するノゥテウーム。
「黒曜牙竜のノーフィアより獄混死龍ノゥテウームへ。剣と牙の祝福を」
自らの右腕に古の鋼竜の魂を降ろすノーフィア。具現化された巨腕と爪を、勢いよく振り下ろす。その軌道を、ペレの青焔のブレスが正確になぞった。
「これは……」
ノーフィア達に続き、白と黒、対照的なバスターライフル2丁を両手に構えてフロストレーザーを放つ和希。射線の果てを見届けると、眉を顰めたまま、肩越しに声を掛ける。
「四辻さん、メタリックバーストをお願いします!」
元よりその準備を調えていた樒は、すぐさま漆黒のロングコートからオウガ粒子を放出する。光り輝くそれは前衛へ降り、味方の超感覚を覚醒させんと。
(「灯は私が支えてみせる」)
最愛を第一に考えるその信念故か、オウガ粒子が効を発したのは灯音含むディフェンダー3名。強化の率は期待値を超えたが、クラッシャー2人の為、樒は急ぎ掛け直す体勢を取る。
「私の樒には触れさせないのだ」
降りたて、出でよ白癒――最愛を想うのは灯音も同じ。よりどころを守り抜かんと、灯音は周囲一帯に守癒の濃霧を顕現する。
一方で、佐久弥は迷いを見せる。残る自身以外の手は2人。ふと蓮と目が合う。クラッシャーの一撃は、命中すれば大きいが……。
「僕も支援を」
エンチャントとて、常に発動するとは限らない。樒に続き前衛にメタリックバーストを重ねる佐久弥。
――――!!
居丈高に轟く咆哮。蓮は思わず唇を噛む。今回集ったケルベロスは、歴戦ばかり。手数の半ばは強化に割かれたにしろ。
(「まさかノーフィアも和希も、回避されるなんて!」)
確かに眼力が示す命中率は、常より相当に低い。となれば、敵の位置取りは。
「キャスター、ね」
キカの言葉に否やはない。ギョロリと動く敵の眼球を睨み、身をたわめた蓮はアスファルトを蹴る。
――――!!
緩やかな弧を描く斬撃。美しい波紋と鋭い切れ味を誇る古刀は、急所のみを的確に斬り裂く――当たりさえすれば。
「くっ!」
炎の先を斬り払うも、ぞろりと翻った骨躯は詰めた間合いよりもう1歩先。届かなかった僅かに歯噛みしながら、蓮は最後の1人を見やる。
「あなたも、だれかのために、たたかうの?」
その問いは、果たしてドラゴンに届いたか。夏空の青に異形を映し、キカはひっそり呟く。
「動いちゃだめだよ、もっと痛いから」
黙奏光閃――眩い閃光の如き幻覚が、無数の光槍を以て四肢を刺し貫く妄想を見せる。キャスター相手でも確たる命中叶う、少女の得意技。
「馬鹿な!」
息を呑むノーフィア。ドラゴンは、無傷だった。スナイパーの狙い済ました一撃を、脳内へ侵入せんとした幻覚を、混沌の水顎が噛み裂いたのだ。
そう、喩え十全に命中を見込める技であろうと、グラビティによる相殺があり得る。稀なるタイミングが、今回ばかりは最悪となった。
グルゥゥ――。
初手、無傷で過ごしたノゥテウームは、興が削がれたと言わんばかりに首を巡らせる。
「だ、駄目なのだ!」
ゴウと燃え上がる地獄の炎。無数に象を結んだ焔弾が、弾幕を張るが如く迸る――今しも、一般人の避難が進む商業施設目掛けて。
●我が命滅びるまで
8分間耐え凌ぎ、撃破も目指す――その意気や良し。だが、どんなに強力な厄も、大火力も、命中しなければ無為となる。そして、ノゥテウームがケルベロスを「戦うに足る強敵」と認識しなければ、その攻撃は周囲に、一般人に向けられる。
相殺が起こるのは確かに稀だ。キカとて戦闘の場数は踏んでいる。だが、確実に打撃を与え続けなければ被害が拡大する状況に在って、その『確実』を見込める狙撃者が唯一であったのは――。
「う……く……」
「灯!」
高熱に焙られた施設のガラスが溶け落ち、周囲で人型が幾つも灰燼に帰す――辛うじて庇った少年が、腕の中で身動ぎした。荒い息を吐き、灯音は駆け寄った警備員に託す。
「この子はお任せするのだっ!」
ダブルジャンプでとんぼ返り。背中の火傷がジクリと引き攣れたが、すかさず禁断の断章を紐解いたエルスに脳髄を賦活され、痛みが遠のいた。ペレにも暗夜の属性をインストールされれば、盾なる身に活力が戻る。
「樒、バックアップ頼む!」
「了解!」
再度、樒のメタリックバーストが前衛へ。これ以上、遅れを取る訳にはいかない。
「さぁ、行こうか。同輩たち」
付与されれば、ジャマーの強化は心強い。よりクリアとなった視界を認め、佐久弥も攻撃に動く。愛おしくも憎らしい、トモを守る為に。そして、自分で自分を切り捨てた輩を討つ為に――呼び掛けに応えた「餓者髑髏」と「以津真天」、両の鉄塊剣より湧く廃棄物の残霊達。ヒトに害なす輩を地に縛り付けんと。
ノーフィアのスターゲイザーが奔る。蹴り砕かれた骨格にキカの轟竜砲も今度は命中し、ホッと息を零した。
「もう少し……!」
足止めが重なれば、手数はケルベロス側が圧倒的。早晩、キャスターとも渡り合えよう。ジリジリした焦燥を堪え、和希はゼログラビトンを射出。蓮は追加ダメージを狙い、達人も斯くやの鋭い斬撃と刺突で敵を正確に捉えんと。
(「定命化した所をサルベージして、残った部分がこの劣化ドラゴン?」)
やはり達人の一撃を繰り出しながら、眉を顰める灯音。間近で見れば尚更、ノゥテウームの姿は最強種族の威風に遠い。
「ある意味それも、治療と言えなくないが……っ!」
骨尾が振るわれ、何とか踏み止まる。
「半分アンデッド風情が舐めた事をしてくれるのだ!」
ちなみに、ディフェンダーの庇う挙動は反射的で、特定の攻撃を見越したり、誰かを目して庇う余裕はない。だからこそ、盾が潰えぬよう、エルスも今は回復に専念する。
「……死に損ないの癖に」
眼力で命中率は量れても、ダメージの程までは判らない。見定めるのは癒し手の観察眼だ。戦況把握を心掛けるエルスは、頑健技の通り難さから敵の得手を察する。なれば、彼奴の打たれ強さも。
「そう言えば、服破りって」
「僕だけですっけ」
オウガメタルの友を見やり、和希は苦笑を浮かべる。元より力技は不得手な方。無理に使っても非効率だ。
「まあ、撃破は可能なら、の話ですから」
器用に肩を竦めながら、蓮はクラッシャーの火力で敵の注意を引く事に専心する。
「5回目」
弱みを見せぬよう凛と顔を上げ、キカは自身の攻撃を数え上げる。戦いも後半に入れば、漸く命中率も安定してきたか。
声を掛け合い、ケルベロス達は只管に武威を振るう。対して、ノゥテウームの挙動は咆哮さえも機械的。地獄の焔で弾幕を張り、骨尾で薙ぎ倒し、混沌の水顎で喰らい付く。
「篠さん!?」
「今っす」
無造作に射線に割り込んだ佐久弥の声音は淡々として、却って頼もしい。頷き返した和希も又、冷気纏うコンバットブーツを冷徹な挙措で一閃した。
●断末魔の果て
淡い白金が靡き、虹色に煌めく。稲妻帯びた超高速の突進と共に海皇銛を突き立て、キカは徐にカウントする。
「これで、7回目」
――――!!
地獄の焔幕が後衛を舐める。ディフェンダーが一斉に動けた重畳。ノゥテウームの命も、いよいよ尽きようとしている。
だが、自壊を良しとせず、ケルベロス達は最後の一撃に渾身の力を振り絞る。
「お前の相手は、最期まで私達がさせて頂こう」
『銀槍』と銘した灯音のライトニングロッドが唸る。
「死を想え、死を受け入れろ」
灯音の達人の一撃と息を合わせ、漆黒に刃に空の霊力を纏わせた樒の斬撃が正確に傷口をなぞった。
この期に及んで、回復は不要。初めて攻撃に転じたエルスは、世界の隙間に渦巻く虚無の力を召喚する。
「紅蓮の天魔よ、我に逆らう愚者に滅びを与えたまえ!」
天魔崩霊爆――悪魔の如き黒炎は、猛烈な爆発を以て怨敵総てを焼き尽くさんと。
「8回目……キキ、きぃはまた、いのちをこわすよ」
エルスと息を合わせ、動いたキカの繊手が握るのは、いかついドラゴニックハンマー。既に大半を喪っているであろうドラゴンとしての「進化の可能性」、これを根こそぎ凍結させる超重の一撃こそ、少女にとっての最大火力。
「墜ちろ……ッ!」
和希のバスターライフルが、強烈な魔法光波を放つ。それを射線上に展開した魔法陣を透過する度、拡散、圧縮、加速、追尾の呪詛を経て、数多の魔導散弾が標的に殺到した。
「同胞よ――いまひとたび現世に出で、愛憎抱くトモを守ろう」
佐久弥が最後に選んだのも独自の技、付喪神百鬼夜行・地縛――物に宿る思念が応え、ヒトに害なす輩をより深く地球に引き寄せる。
「ヒトに愛され、捨てられ、憎み、それでもなおヒトを愛する我が同胞達よ――!」
歯車から顕れる鎧武者も、ベッドメリーの吊り飾りに浮かぶ看護婦も、かつて戦ったダモクレスのよすがだ。
「我が許に来たれ! 『第三幻装 終焉ヲ絶ツ者』」
蓮の髪が月光の如き銀に変じ、幻装なる異なる可能性の力を纏う。眼鏡外した眼は、瀕死の呈を睥睨する。
「これは人々を護るための戦いである」
宣誓の言葉と共に、天地開闢の聖剣を大上段に構える蓮。
「終焉を絶て、エンド、ブレイカー!」
刹那、光の軌跡が骨躯を両断せんと聖剣は一層輝きを増す。
「自壊で終わり、なんて結末も面白くないしね……我黒曜の牙を継ぎし者なり。然れば我は求め命じたり。顕現せよ、汝鋼の鱗持ちし竜」
そうして、ノーフィアの肘の先から、竜の頭部そのものに変じていく。
「我が一肢と成りて立塞がる愚者へと突き立てろ、その鋼牙」
ペレのボクスタックルに続き、剛竜の顎が獄混死龍の魂ごと噛み砕かんと迫る。
「やったか?」
殺到したケルベロス達の攻撃は、余さずノゥテウームに注がれた。触れた竜躯の尽くを破壊し、斬り裂き、魔力が爆ぜる。
ガアァァァァッ!
だが、それでも。初手のノーダメージが、頑健なる地力が、獄混死龍の生を全うさせる。
「くぅ……っ!!」
咄嗟に蓮を庇ったノーフィアの剛竜の顎と噛み合い、喰い千切った混沌の水顎が、腐汁と化して呈を崩す。
――――!!
轟く咆哮を最期に、地獄の炎が消え失せるやその眼球が濁り落ちる。骨格が音を立てて瓦解した。
暴れ尽くしたノゥテウームの骸は忽ち霧散し、海風に吹き散らされた。それを見送る事なく、ケルベロス達は商業施設に走る。人々の手当てと施設の修復に、ヒールグラビティが何度も使われた。
「これで何とかなったか」
「樒、お疲れ様」
寄り添う樒と灯音を、小雨が変わらず濡らしていく。漸く一息吐けば、今更のように秋雨の冷たさに小さく震えた。
「風邪を引く前に帰ろうか」
「そうだな……」
結果としては、周囲への攻撃を許したのは最初の1度のみ。それでも、犠牲と被害を防ぎきれなかった。勝利の余韻に苦さが混じる。
「戦う強さ、生きる強さ……もっと手に入れなきゃ」
今度こそ、迅速に殺す為に――エルスの決意は、小雨に紛れて誰の耳にも届かなかった。
作者:柊透胡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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