我が命は故郷のために

作者:青葉桂都

●天上の儀式
 月の光が雲を照らす場所に、女が立っていた。
 黒いドレスに包まれた肌と髪は下方に見下ろす雲よりも白い。
 言うまでもなく、空の上に立っている彼女は人ではない。死神だ。
 女がゆっくりと目を開く。
 下方から2体の大きな影が近づいてきていた。
「お待ちしておりました、ジエストル殿」
 女が口を開く。声をかけられた相手……黒い体の各所を青白く光らせたドラゴンは、返答の代わりに鷹揚にうなづいた。
「此度の贄となるのはそのドラゴンですか?」
「その通りだ、『先見の死神』よ。お主の持つ魔杖と死神の力で、この者の定命化を消し去ってもらいたい」
 死神と竜の視線が示した相手はもう1体の竜。緑と黒のまだらな鱗を持つ竜だ。
「……ジエストル殿……プロノエー殿……。残り僅かの我が命……ドラゴニアのために……」
 風が吹くような音を喉から漏らしながら竜が告げる。
「では、これより定命化に侵された肉体より、強制的にサルベージを行います。あなたという存在は消え去り、残るのは抜け殻に過ぎません。それでもかまいませんね?」
 竜はもう言葉を発することなく、大きな顎を上下に振った。
 雲の上に青白く光る魔法陣が現れる。
 虚空に竜の絶叫がとどろいた。後には水を滴らせながらも炎を纏う、骸骨に似た頭部を持つ竜が残った。
「サルベージは成功。この獄混死龍ノゥテウームに定命化部分は残っておりません。ですが……」
「わかっている。このノゥテウームはすぐに戦場に送る。だが、完成体の研究は急いでもらうぞ」
 ジエストルはプロノエーの言葉にうなづくと、今やノゥテウームとなった竜をともなって雲の下へと消えていった。

●ヘリオライダーの依頼
 山形県にある温泉街にデウスエクスの襲撃が発生すると、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は告げた。
「敵は最近たびたび出現している獄混死龍ノゥテウームです。また、厄介なことに、襲撃までもう時間がありません」
 可能な範囲で避難活動を行うことにはなるだろうが、多くの死傷者が出てしまうことは間違いない。
「皆さんはへリオンで至急温泉街に向かい、ノゥテウームを撃破していただきたいんです」
 ノゥテウームは知性もなく、ドラゴンとしては戦闘能力も低めだ。
 だが、低いとはいえドラゴンだ。他種族のデウスエクスと比べれば強敵であることは間違いない。
「油断せず、全力で迎撃を行ってください」
 芹架は静かに告げた。
「敵の攻撃能力についてですが、まず炎を用いた攻撃が、近距離と遠距離の2種類あります」
 骨と化した腕に炎をまとわせて放つ近接攻撃は敵を炎上させる効果を持つ。また、炎弾を飛ばし、燃やした相手の命を奪い取って自らの命に変えることも可能だ。
 他に、体から滴る水を津波に変える遠距離攻撃もできる。この攻撃には敵を凍結させる効果がある。
「それから、重要な情報です」
 前置きしてから芹架は語り始めた。
「ノゥテウームが活動可能な時間はおよそ8分しかありません」
 8分が過ぎれば、敵は自壊し死亡する。
「自壊する理由は、現時点では不明です。ドラゴンの実験体なのかもしれません」
 大事なのは倒せなくとも、それだけの時間守りきるだけで勝つことが可能ということだ。
 もっとも、ケルベロスが敗北すれば、数分でもドラゴンは大きな被害を引き起こすことができるので油断は禁物だ。
 それに、守りを固めてばかりいると、ケルベロスが脅威にならないと判断して一般人を狙いに行く可能性もあるので注意すべきだろう。
「紅葉の季節に入って、温泉街はにぎわっています。その人たちを守れるのは、ケルベロスである皆さんだけです」
 どうかよろしくお願いしますと、芹架は頭を下げた。


参加者
クロノ・アルザスター(彩雲のサーブルダンサー・e00110)
ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)
山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)
イスズ・イルルヤンカシュ(赤龍帝・e06873)
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)
似鳥・朗(連ならぬ枝・e33417)
愛澤・心恋(夢幻の煌き・e34053)

■リプレイ

●竜の襲来
 温泉街の一角で悲鳴が上がったのは、ケルベロスたちが降り立ったすぐ後のことだった。
 落下するような速度で竜が迫っている。
「戦闘が始まるから逃げろ!」
 叫んだのはルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)だ。
 黒豹の少年が放った判断力を奪う精神波に影響されている人々は、我先にその場を離れようとする。
「こっちだよ! なるべく落ち着いて、急いでここから離れて!」
 山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)もそう呼びかける。
 彼女は地球人で、他の者たち以上に人々の好感を得やすい。
 パニックに陥った人々は彼女の指示をよく聞いてくれた。
「涼子ちゃんも誘導よろしくね! 朗も頼んだよ~」
 ルアはショートカットのボーイッシュな少女だけでなく、軍服をまとった男にも声をかけた。
「ああ、わかっている。戻ってこられないようにしなくてはな」
 似鳥・朗(連ならぬ枝・e33417)は立入禁止のテープをはりながら、2人と同じく人々へ声をかけていた。
 3人が戦場付近の人払いをしている間に、他のケルベロスたちはノゥテウームの降下地点へと急いでいた。
「……死神の実験体が次々と送り込まれてきますね」
 呟いたのは、神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)だった。
「死にかけのドラゴンを次々と変異させてけしかけてくるなんてな。手を変え、品を変え、ほんと死神って野郎は色々やってくれんぜ」
 応じたのは、彼女と同じ色の髪と瞳を持つ弟だ。
「戦いに勝つには、相手が嫌がる事をすんのが常道とはいえよ。負けるつもりはねぇけどな」
 神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)の言葉に鈴は頷く。
「ここでわたし達に倒されるのも計画の内みたいで嫌な気分だけど、見過ごす訳にもいかないよね」
 今度は煉が首を縦に振った。
「必ずノゥテウームをここで食い止めなくちゃいけませんね。私たちが体を張れば、それだけ人々を守れるのですから、頑張りましょう!」
 力を込めた言葉で、愛澤・心恋(夢幻の煌き・e34053)も同意する。
 風のごとく軽やかな歩みで前進しながら弓を構える。
 狼頭のハンマーを手に、煉も前進する。
「彼の献身の竜に永久の眠りを」
 後衛の鈴は2人から少し引いた場所で羽扇を構える。
 今やノゥテウームは地上とほぼ同じ高さまで降りてきていた。
「死んでも守りたいもの。……守りたかったものがあるのは貴方達だけじゃない」
 もう言葉を解することもできない敵へと、鈴は告げる。
「まさか、こんな所まで出て来るとは……早々に倒さなければな」
 イスズ・イルルヤンカシュ(赤龍帝・e06873)は赤一色でまとめたその姿で、気を引くためにあからさまな動きで敵の前に進み出る。
 誘導に回っていたルア、涼子、朗の3人は逃げ遅れた人がいないか確認しているようだ。警察はまだ、この辺りまでは来ていない。
 立ちはだかるケルベロスたちへ、ノゥテウームは腕を振り上げた。
「いいわよ、残り8分の命だもの、思い残しの無い様全力で暴れなさいな。ただし、私達相手限定だけどね」
 クロノ・アルザスター(彩雲のサーブルダンサー・e00110)が襲いかかってくる脱け殻の敵へ投げかけた言葉が、戦いの始まりを告げた。

●死竜の猛攻
 振り上げられたノゥテウーム巨大な腕に炎が宿った。
 イスズへと振り下ろされた腕が彼女を吹き飛ばし、赤衣をさらに赤く染める。
「この程度で倒れると思うな!」
 手痛い一撃を受けながらも、イスズは武器を握って叫ぶ。
 クロノは突撃していく仲間たちを視界に入れつつ、後方から敵に狙いを定める。
「まぁ、定命化に抗って種族の為に死ぬって言うのも、それはそれで全然ありな考え方だとは思うけどね」
 グラビティで気圧を操り、仲間を巻き込まぬ軌道でレールを造り上げる。
「それが関係無い悪意ある連中の利益になったり、関係無い良き人達を害したりってのは見過ごせないなぁ」
 彼女は【彩雲剣】アルヴァーレを敵に向けた。
「さぁ、行くわよノゥテウーム! ドラゴンの誇りを私達に見せてみろ!」
 弾丸のように飛び出したクロノは前衛の仲間たちを追い越してノゥテウームに近づく。
 風の加護を受けた彼女の刃は、そのまま竜を貫いた。
「最後に大暴れしたいって言うなら、ま、付き合うわよ」
 刃を引き抜き、離脱しながら彼女は敵へと声をかける。
 煉の放つ砲撃が、続いてノゥテウームの足を止めた。
「大地に眠る祖霊の魂……今ここに……闇を照らし、 道を示せ!」
 鈴が生み出した狼型のエネルギー体が仲間たちに敵を追跡する力を与えた。
 さらに心恋が仲間たちを守りつつ、色とりどりの爆発を起こして鼓舞している。
 ノゥテウームは、どうやらケルベロスたちを脅威だと認識したようだった。
 体の上半分を炎上させながら、下半分でからは水を滴らせている。
 その水がふくれあがり、津波と化した。
 心恋は先ほど攻撃を受けていたイスズをとっさにかばった。
「……イスズさん、ご無事ですか?」
「ああ、助かった。悪いな、心恋」
「……いいえ。弱めとはいっても、ドラゴンだけに油断はできませんね」
 一瞬だけ間を置いてから、彼女は柔らかな表情をイスズに向けた。
 言葉を交わしながら、心恋はテレビウムのメロディが煉をかばっていたことを横目で確かめる。
 鈴がまた狼のエネルギー体を作り出して支援してくれたものの、2人分のダメージはけして軽くない。
「体力には余裕を持たせておきたいですからね。私も、メロディも」
 歌姫の領域を身にまとい、彼女は罪を肯定する歌声を響かせる。
 その歌に合わせて、メロディの画面には応援動画が映し出された。
 背後からイスズが飛び出していく。
「図体が大きいだけではな!」
 強化した爪で竜を切り裂いた。
 戦いが続く一方で、避難活動を行っていた者たちは逃げ遅れた者がいないか確認していた。
「どうやら問題はなさそうだな」
 少し遅くなったが警察も戦場近くまで到着している。
 ルアは朗の言葉に頷くと、ノゥテウームへ視線を向けた。
「あんな風になってさ、なにが楽しいんだろうね?」
「彼らにも譲れないものがあるのだろうが、自我をなくしてまでとは……共感はしかねるな」
 何の気なしに聞いた言葉に、難しい表情で朗は応じてきた。
「なんにしても、襲うだけ襲って自爆とか自分勝手にも程がある敵には好きにはさせないよー!」
 涼子が叫んで突っ走っていく。
「確かにね。8分しかないんだから、急いで合流しなくちゃ」
「ああ。抜け殻のような敵とはいえ油断はできない。被害を出さないためにも一刻も早く撃破しよう」
 ドクロの竜に接近すると、その異様な姿が目に入る。
「うわー、グロテスク」
 涼子が言った。
 少女が放った蹴りから炎が巻き起こり、地を這って敵へと襲いかかる。
 炎を追ってさらに距離を詰める彼女が煉の横に並んだ。
 ルアは少し後ろで立ち止まり、タイミングをはかって改めて飛び出した。
「ホントにね。そんな姿になってもかなえたかった想いがあるんだろうけど……」
 至近距離から跳躍しながらルアは大きく息を吸い込んだ。
「それでも、邪魔させてもらうよ!」
 グラビティを乗せた大声は衝撃波となって敵を打った。
 一瞬動きを止めた敵に朗が呪符を向け、地獄の炎を浴びせかけていた。
「お待たせー」
「……まだまだ時間はあります。全力で……倒しましょう」
 少しだけ気後れした様子見せながらも、心恋が残り時間を仲間たちに告げる。
「ありがと、心恋ちゃん。がんばるよ!」
 笑顔を仲間に向けながら、ルアは敵の動きを効率よく縛る気をうかがった。
 ルアや朗が加わって敵の攻撃をさらに弱体化させるが、さすがは腐ってもドラゴンというべきかいりょくはまだまだ十分高い。
 だが、心恋とメロディ、それにクロノのライドキャリバーであるエアに加えて、涼子も仲間をかばってその威力を分散させている。
 それと同時に、攻撃の手も休めるわけにはいかなかった。
 ノゥテウームの注意を引き続けることも、大事な仕事だからだ。
 津波が今度は後衛へと襲いかかる。
 鈴は忌まわしい気配をまとった水を浴びながらも、また狼のエネルギー体を作り出す。
「リューちゃん、涼子さんを回復してあげて」
 ボクスドラゴンのリュガに指示を出しつつ、彼女は狼たちを操る。
「逃げた人たちのほうに向かうことだけは避けないと……」
 狼は追跡を得意とし、敵の移動する先を感知する。
 支援の甲斐あってか、今のところ全員の攻撃が続けて外れるような事態には陥っていない。
 敵はおそらくクラッシャーだ。
 強力な攻撃を浴びるケルベロスたちを鈴とリュガは支え続けた。

●虚ろなる竜の死
 回復手段を持たない敵は、徐々にその動きを制限されていった。
 振り下ろされる炎の腕でエアが薙ぎ倒されるが、まだ戦闘不能になるほどではない。
 クロノが半月の刃を持った斧をドクロへ振り下ろすのに合わせて、炎を巻き上げながら突進する。
 煉はその間に敵の目の前まで前進していた。
 もとより前衛として近づいて戦ってはいたが、今はさらに間近だ。
 ノゥテウームとは反対に、ケルベロスたちの能力は強化されていっている。
 姉が産み出した狼型のエネルギー体は敵の巨体が回避のために動く先を確かに示してくれている。
「俺はこのくらいの距離のが得意なんでね。一気にたたみかけさせてもらうぜ!」
 狼頭のハンマーを地獄の蒼炎が纏い、敵の赤い炎を吹き飛ばしながら強打した。
「俺は得意なわけじゃないけど、やらせてもらうよ~」
 続いたルアの声は軽く、手にしているのも手品用のステッキだった。
 だが、威力はもちろんふざけ半分などではない。空の魔力を帯びたステッキが敵の傷口をさらに広げる。
「こいつの思い通りになんてさせてやるもんか。最後までがんばろうね、れんくん」
 涼子も2人に続き、グラビティを乗せたガントレットで敵を打つ。
 他のケルベロスたちの攻撃と浴びながら、竜はまた津波を起こそうとしたようだった。しかし、動きが途中で停止する。誰かの仕掛けた麻痺の技が効果を現したのだ。
 隙を逃さずにケルベロスたちがしかける。
 回復役である鈴が御業から炎を放ち、耐えることを優先していた心恋も絶望しない歌で敵の怒りをかきたてる。
 イスズは守りを捨てて敵へと突進した。
「今が……貫く時!!」
 武門の家に生まれ、赤龍帝の二つ名を名乗る少女は、その名のごとく赤い体を矢のごとく加速する。
 前方で、爆発が起きた。
 朗が起こしたものだ。だが、爆煙を気に留めることなくイスズは敵の体をつかむ。
 光の腕でつかんだ敵に闇の拳を叩き込み、勢いのままイスズは敵の背後まで駆け抜けた。
 ノゥテウームの背で炎がふくれあがった。
 イスズの命を食らおうと炎が迫る。
 涼子はとっさに飛び出し、全身に炎を浴びた。
 腕を交差して体をかばうが、防ぎきれない炎が全身をあぶる。
「熱いなあ……でも、命は食らわせてあげられないんだ。代わりにボクのおにぎりでも喰らってみなよ、ノゥテウーム!」
 おにぎり型をしたガントレットが火を噴いた。ジェットエンジンで加速するおにぎりが、竜の顔面に大きなヒビを入れる。
 鈴が不可視の盾を作り出して守ってくれる。
 近くにいた心恋が歌い始めた。
「貴方だけに捧げる詩……身も心も、私の歌で癒します」
 捧げられた歌が、焼け焦げた涼子の体を癒してくれる。
「助かるよ。まだまだ戦えそうだ。時間が許せば、ね」
「今、6分が経過しました。残り2分です」
 涼子だけでなく皆に聞こえるはっきりした声で、心恋が告げた。
 聞いた仲間たちが、全力で攻撃をしかけていく。
「これで終わりだー!」
 イスズの爪が深々と敵を切り裂く。
 ノゥテウームがもはや倒れる寸前であることは明らかだった。
「あと、1分です!」
 叫びながら、心恋が涼子と共に巻き起こる津波から仲間をかばう。
「風よ! 私を導いて! ロンドバルデュリアー!!!」
 クロノが敵へと高速で突進する。
「仲間の為に命を投げ出す覚悟は見事をもう意識もねぇんだろうが、朽ちる前に俺の、俺達の全力で終わらせてやる」
 煉の言葉は最後に鈴と重なった。
 父親から受け継いだ姉弟の牙がノゥテウームへと食らいつく。
 心恋の歌が、涼子の拳が、ルアの伸ばしたステッキが、容赦なくぼろぼろの敵を削り取っていく。
 それでもまだ、ノゥテウームは動きを止めなかった。
(「終わりのない命が、そんなに価値のあるものだろうか」)
 朗はなおも動く敵を見て、ふとそう考えた。
(「俺だったら、きっと長い時間の中で生に倦んでしまうだろう」)
 限られた命だからこそ、必死に戦うこともできるのだ。
 目の前で命を落とした、幼い妹の顔が脳裏をよぎる。
(「いつかお前にまた逢う時に、幸せな生だったと言えるように」)
 形見の符を介して、地獄の炎が吹き出した。
 ただ、己の信じる想いのままに燃やした炎が、ノゥテウームの巨体を完全に焼き尽くした。

●今はただ、疲れた体を休めるために
 やがて炎が消え、後には残骸だけが残った。
「死んでも守りてぇもんがあんのはお前らだけじゃねぇんだ。あばよ」
 煉が声をかけたときには、もう灰となってどこかへ散っていってしまう。
「無事、終わりましたね」
 心恋が大きく息を吐く。
「大暴れしてくれたけど、心残りなく逝けたのかしらね」
「脱け殻だったようだからな。残る心もないのかもしれん」
 クロノと朗が短く言葉を交わした。
「なんにしても、被害がなくてよかったよ。みんなが戻ってこられるように、テープを回収しなきゃね」
 涼子が戦闘前にはったテープを示す。
「温泉につかれるようにするなら、壊れた場所も復元しておいた方がいいだろうな」
 イスズがドローンを産み出して燃えたり壊れた場所を修復していく。
「つーか、せっかく温泉まで来たんだし、俺らも一っ風呂浴びてっても悪かねぇよな?」
 煉が言った。
「ルアもどうだ? ローカストの洞窟とか前にも一緒に戦った仲だし、たまには……つっても、近況報告くらいしか話すことないけどな」
「うーん、どうしよっかなあ。鈴ちゃんも一緒なら、悪くないかもしれないけど」
 声をかけられて、ルアは鈴を横目で見ながら思案顔をした。
「私も温泉は賛成です。できたらサーヴァントも一緒に入れる場所がいいな。……津波のせいで服ももうぐしょ濡れだし」
 オフショルダーのドレスを見下ろして鈴が呟く。
 防衛役で他の者以上に津波を浴びていた涼子と心恋も、思わず自分の服を見下ろしていた。
 皆、多かれ少なかれ濡れている。そして、炎も浴びたはずなのに乾いている様子はない。
 考えている間にも、湯治客は少しずつ街に戻ってきていた。
 ケルベロスの姿に気づいた者が、口々に礼を述べていく。
 もし残るとすれば、どうやらかなりにぎやかな時間を過ごすことになりそうだった。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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