己の身を死神に捧げた竜

作者:なちゅい

●先見の死神と魔竜の使徒
 そこは、日本のはるか上空。
 白い雲が浮かぶその上に、3体のデウスエクスが集まる。
「お待ちしていました、ジエストル殿」
 この場所で待っていた1体、黒衣の少女といった出で立ちをした『先見の死神』プロノエーが出迎えた相手は、ドラゴン達だった。
 1体は暗色の身体を持ち、知略・謀略を好む竜、ジエストル。
 それが連れてきたのは、定命化の影響か、死に瀕して限界が近づいているドラゴンだった。
「此度の贄となるのは、そのドラゴンでしょうか」
「そうだ。お主の持つ魔杖と死神の力で、この者の定命化を消し去ってもらいたい」
 応えるのは、ジエストル。すでに弱ったドラゴンは同意はしているものの、自力で返答すら出来ぬようだ。
「これより、定命化に侵されし肉体の強制的にサルベージを行います。あなたという存在は消え去り、残されるのは、ただの抜け殻にすぎません。よろしいですね?」
 プロノエーの問いにドラゴンが頷く。
 その目はまだ死んでいない。最後の最後まで、己の命を同胞の為に使ってほしいという意思が感じられた。
 ジエストルもやってくれとプロノエーに促すと、プロノエーは早速儀式を始める。
 雲の上に青白い魔法陣が浮かび、ドラゴンを光が包む。
「おお、おおぉぉおおぉおぉお……!」
 すると、ドラゴンは苦悶の声を上げ、肉体が溶けてしまう。
 程なくして、そこには炎と水を纏った自我を持たぬドラゴンが残される。
「サルベージは成功、この獄混死龍ノゥテウームに定命化部分は残っておりません。ですが……」
「わかっている。この獄混死龍ノゥテウームはすぐに、戦場に送ろう。その代わり、完成体の研究は急いでもらうぞ」
 プロノエーとジエストルの会話の間にも、見る影もなく姿を変えたドラゴンは唸り声を上げていたのである。

 新たな事件が次々に起こっており、ケルベロス達の情報収集に奔走することになる。
 ヘリポートには現場へとケルベロスを輸送すべく、ヘリオライダーが説明も兼ねてその来訪を待っている。リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)もその1人だ。
「来てくれてありがとう。早速依頼の話をしても大丈夫かな」
 頷くケルベロスの中には、雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)の姿もある。彼女はほのかに微笑んだが、すぐに表情を引き締めて話を始めた。
 福島県会津若松市に、ドラゴン『獄混死龍ノゥテウーム』の襲撃が予知されている。
 襲撃までの時間はほとんどなく、市民の避難は間に合わない状況だ。
「このままでは、多くの死傷者が出てしまうよ」
 説明後に、急いでヘリオンで迎撃地点へと向かうとのこと。皆に獄混死龍ノゥテウームの撃破を願いたいとリーゼリットは言う。
 獄混死龍ノゥテウームは知性が無く、ドラゴンとしては戦闘力も低めだが、ドラゴンである事には違いは無い。
「強敵であるのは間違いないよ。全力で迎撃してほしい」
 全長10mほどある獄混死龍ノゥテウームはクラッシャーとして、炎ブレス、混濁の水、骨の腕という3種のグラビティを使いこなす。
「あと、獄混死龍ノゥテウームは、戦闘開始後8分ほどで自壊して死亡してしまうようだよ」
 この為、目的としては獄混死龍ノゥテウームの撃破、もしくは8分間の交戦かつ耐久となる。
 自壊する理由は不明だが、ドラゴン勢力の実験体である可能性が高いのかもしれない。
 勿論、8ターンで自壊するからといって、その前にケルベロスが敗北してしまえば市民に多大な被害が出るので油断は禁物だ。
「相手はケルベロスとの戦いを優先するようだけれど、自壊するからといって放置したり、手を抜いたりすれば、市街地の襲撃を優先する恐れがあるよ」
 ただ、守るだけの戦いでなく、ケルベロスが脅威だと思わせるような戦いが必要だ。
「禍々しい骨のようなドラゴン……死神を思わせるようなこのドラゴンの討伐を、どうかよろしく頼んだよ」
 リーゼリットは最後にそう告げてから、自らのヘリオンに乗るようケルベロス達へと促すのだった。


参加者
ヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)
御門・愛華(竜喰らい・e03827)
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)
ククロイ・ファー(ドクターデストロイ・e06955)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)
鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)
レヴィン・ペイルライダー(四次元のレボリューション・e25278)
刈安・透希(透音を歌う黒金・e44595)

■リプレイ

●ただ朽ち果てる竜を前に
 ケルベロスが向かったのは、福島県会津若松市。
 敵影を捉えられぬまま、黒い翼を羽ばたかせて着地した螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)。
 彼はそのまま流星の一撃を蹴りこんでやろうとも考えていたが、降下のタイミングで敵影を捉えられず、すぐさま周囲を見回す。
 その間も、続々とメンバー達が宙から降り立ってくる。
「戦争から大分経ちますが、相変わらず、ドラゴンは脅威ですね……」
 銀狐のウェアライダー、スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)は付近に市民の姿を見つけ、避難を促してからさらに仲間達へと呼びかけた。
「自壊する竜とはいえ、倒せるよう頑張りましょうね!」
「そうだね、撃破を狙うよ」
 着地した金髪の少年、ヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)はライドキャリバー、ディートに乗って仲間の護りにと立ち回る心積もりだ。
 ふわりと薄茶色の翼で降り立つ雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)も、全力で仲間を支えるべく参戦している。
 その時、前方で大きな破壊音が聞こえて。
「一体、何を作り出すつもりなんだか……」
 これ以上、市街地へと侵攻させまいと、中性的な外見をした歌手、刈安・透希(透音を歌う黒金・e44595)が敵のいる方角へと駆け出す。

 メンバー達が駆けつけた場所では、警察の誘導もあって地元民が足早に避難を進めている。
「これがドラゴン……」
 そんな中、仲間と共に透希が見上げたのは、道路で暴れる巨大な竜「獄混死龍ノゥテウーム」。
「オオォオォオォオォオ……!!」
 低い唸り声を上げる敵の前に、メカ耳をつけた幼女、鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)が進み出て。
「おっす! あちきっす! そして、こいつが羽猫のマネギっす!」
 招き猫を思わせる姿をしたウイングキャット、マネギがにゃあと挨拶すると、敵の赤い瞳が五六七とマネギをねめつけてくる。
 すると、セイヤが敵を睨み返して。
「そんな姿になってまで、俺達から平穏を奪いたいか……ドラゴン共ッ……!!」
 敵はすでにそれに応える知性すら持たない。ただ、その体が朽ちていくのを待つのみ。
 だが、心のどこかで最後の最後まで、同胞の為に力を尽くそうと考え、脅威と感じるケルベロスを威嚇してくる。
「仲間の為に、その身を捧げる誇り高き竜」
 こんな禍々しい姿と成り果てた竜を前に、御門・愛華(竜喰らい・e03827)はワイルド化した右目を一度閉じた後、鋭い眼光を相手に向けて。
「敵対するものとして全力で抗い打ち倒すことで、貴方への弔いとします」
「頼りにしてるぜェ! 愛華ちゃん!」
 そんな信頼できて頼れる可愛い彼女に、鳥をモチーフとした姿をしたレプリカントのククロイ・ファー(ドクターデストロイ・e06955)が激励する。
「オオォオォオォオォオォォォオ!!」
 すると、敵は全身を動かして跳躍し、ケルベロス達へと襲い掛かってきた。
 それを確認した地球人の青年、レヴィン・ペイルライダー(四次元のレボリューション・e25278)はゴーグルを下ろして。
「全力でぶつかってやる! 『撃破』狙いだ!」
 レヴィンはその体が朽ち果てるのを、ただ待ちはしない。
 地獄となった右目を燃え上がらせた彼はリボルバー銃を手に、仲間と共に仕掛けていくのである。

●生にすがり破壊する竜
 全身が溶け、炎と水を纏っただけの骨と成り果てたドラゴン。
 巨体にもかかわらず、獄混死龍ノゥテウームは狂ったように街を暴れ、素早くケルベロスへと飛びかかってくる。
「オオオオォオオオォォオオォオ!!」
 骨となったその腕を大きく横薙ぎに振り払い、ケルベロス達の身体へと打ち付けてきた。
 前線メンバーの身体を襲う一撃に、ディートを駆るヴィットリオももろとも強く殴打されて地面をもんどり打ちそうになる。
 それでも彼は態勢を整え直し、まずは炎を纏ったディートが特攻して相手へとぶつかっていく。
 その瞬間にヴィットリオが鉄塊剣で斬りかかり、グラビティによって斬撃痕を凍りつかせた。
「全力で、皆さんを支えましょう!」
 後方に位置取るスズナは前線へとミミックのサイを送り、仲間の盾となるよう指示を出す。
 サイがエクトプラズムで作り出した武器で、山のように巨大な相手の体に斬りかかると、スズナ自身は「紅の八塩・改」を手に仲間の周囲へとカラフルな爆発を起こす。
 回復役となる小柄な彼女は虚勢を張りながらも、精一杯仲間を手当てしようと気合を入れていたようだ。
「私達の全力を以て、御相手します」
 そうして、仲間に鼓舞してもらった愛華は左腕の包帯を解き、混沌を纏う地獄の左腕を露わにして。
「私の爪で貴方の鱗を貫かせていただきます。……いくよ、ヒルコ」
 自らの左腕に呼びかけた愛華は、その左腕についた鉤爪で相手の巨体を切り裂かんと風と共にドラゴンの身体を切り裂く。
 裂かれた傷口が瞬時に凍る。傷みは確実にドラゴンの身を自滅へと近づけているはずだが、相手はその苦痛すらもほとんど示さない。
 獄混死龍ノゥテウームへ、続いて仕掛けていくのはセイヤだ。
 普段は冷静な態度の彼も、ドラゴンが相手となれば怒りと憎悪の感情をむき出しにし、古流武術による拳と刀術を併用した戦闘スタイルで戦いを挑む。
「貴様等は全て叩き潰す……必ずだッ!」
 一度流星の蹴りを避けられていたこともあり、セイヤは降魔刀「叢雲」を抜き、憎憎しげに緩やかな弧を描いてドラゴンへと切りかかっていった。
「何の実験か知らねえが、市街地襲って満足して自壊すんじゃねえよォ!」
 続いて、テンション高く相手へと叫びかけるククロイは、今すぐここで止めを刺さんと仕掛ける。
 とはいえ、一撃で倒せるような相手ではない。また、彼も自身の役回りを十分心得ていた。
「凍えながら、朽ち果てろッ!!」
 刃全体に赤い光のラインを施したチェーンソー剣「モディファイズ」を、ククロイは相手目掛けて振るう。
「投影『地球人』! 超力刃一閃ッ!!」
 それはさながら、地球人の繰り出す「達人の一撃」を思わせる。
 さらに、レヴィンが間髪入れずに流星の一蹴を浴びせかけたことで、凍った体の一部を砕かれたドラゴンは僅かに呻く。
 それに、ククロイがさらに気分を高めて。
「弱らせて殺しやすいようにして殺すッ! それがジャマーである俺のお仕事だァッ!!」
 同じく、ジャマーとして多少気性荒く立ち回る透希は、相手の行く手を阻む。
「生にしがみついているだけの屍にしか見えないが……」
 自壊を待つだけの相手のはずだが、それでもドラゴンは己の身が動く限り破壊を続け、地球人を手にかけていくのだろう。
 そんな敵を野放しにする気など、透希にはさらさらない。
「自壊はさせない、私達の手で葬る」
 己の拳をウォンバットのそれに変えた彼……もとい、彼女は、相手を強く殴りつけて相手にプレッシャーを与えようとしていく。
 しかし、敵は更なる攻撃をと竜のブレスを吐き掛けてくる。
 仲間に浴びせかけられる炎を、回復役となるリュエンが雷の壁を築くことで防ごうとしていたようだ。
「しっかり気を引きつけついでに、きっちりぶちのめすと吉と見たっす!」
 そのリュエンに回復役を託した五六七。
「同じ死ぬでも、ケルベロスの手でやっつけとくといいことある気がするっす! よーし、気合入れて行くっす!」
 彼女は翼猫マネギを仲間の盾として動かせ、自らは狙撃役として後方から相手を狙う。
 初撃は竜鎚から砲弾を撃ち込んでいた五六七だが、さらに相手の侵攻を止めようとくのいちルックに変身する。
「正義のケルベロス忍軍! 出動っす!」
 ツインテールとなった五六七は忍び猫のマネギと共に、まず相手の目玉へと手裏剣をぽいぽい投げ飛ばし、さらに口の中へとマキビシを投げ入れ、相手の頭上に火薬玉を投下する。
 さらに、彼女は『魔竜王より 地球侵略ダメゼッタイ』と書かれた誤情報の密書で、相手の顔を殴りつけていく。
 ありとあらゆる忍の技を目の前のドラゴンへとぶつけ、五六七は動きを止めようとしていた。
 そこで、ククロイがさらに相手の体を強く蹴り付けて衝撃を与えると、相手の動きが僅かに止まる。
「オォオオォオオォオオ……!!」
 ケルベロスに脅威を覚えるドラゴンは、一層強くメンバー達を睨みつけてきたのだった。

●死に物狂いの戦い
 周囲は警官隊が素早く人的避難に当たってくれ、戦闘区域からは遠ざかってきてはいる。
 事前情報によれば、相手の自壊に要する時間は8分ほど。
 ケルベロスとしてはその間、交戦を続けるだけで良いが、ドラゴンに並々ならぬ執念を持つメンバーも多く、この場でのメンバーを目指そうとする。
「確かに速い。けれど、動きが短調です」
 愛華もその1人。彼女は敵の攻撃を躱しつつ、相手を分析していく。
「あなたの弱点は見抜きました」
 すでに相手の弱点を見定め、愛華は獄竜の左腕に混沌を纏わせる。
「パワーにはパワーで」
 破壊力を伴って攻撃してくる相手。ならばこそ、こちらも単純な破壊力で相手を打ち砕くのみだ。
「さぁ、ここからお互い根競べといきましょうか」
 威力ある攻撃でどちらかが倒れるまで、愛華は攻撃を続ける。自壊などそもそも眼中にすらない。
 狂ったように、ドラゴンは混濁の水を飛ばす。
 セイヤはそれを遠方に飛ぶのを防ぎつつ、相手を毅然と見据えて。
「俺の仲間も一般の人々も……これ以上傷つけさせはしない……!」
 ただ、ここは素早い相手に対する為に我慢のとき。
 着実に流星の蹴りを浴びせかけ、セイヤは素早い敵の機動力を奪おうとしていく。
 ククロイもまた、相手の混濁の水に注意を払う。
 少しでもドラゴンの動きが止まれば、彼は完全に敵を止めてしまおうとチェーンソー剣「モディファイズ」を大きく振り回して。
「肉を斬って骨も絶つ!!」
 仲間の傷を斬り広げるように、ククロイは相手の巨体を深々と切り裂いていく。
 そして、レヴィンもまた仲間を護るべく敵の撃破を目指し、オウガメタルを纏わせた拳で強かに殴りつけていった。
 手応えは十分ではあるが、死の縁にあっても腐っても鯛、いやドラゴンと言うべきか。
「なにぃ!?」
 シリアスな場面でも時に地の声を上げてしまうのは、レヴィンの天性か。
 それでも、レヴィンは表情を引き締め、さらにエアシューズでドラゴンの巨体へと蹴りかかっていく。
 敵の周囲では、ディートで戦場を走り回るヴィットリオが攻める仲間のカバーへと回る。
 ただ敵のアームや混濁の水を浴びて仲間を庇うだけでなく、彼はディートに激しくスピンさせて相手の身体を轢き潰そうとしていく。
 ヴィットリオ自身もディートの庇い漏れに対処して動き、その上で精神を集中させて相手の腕に爆発を巻き起こす。
 主に傷つくヴィットリオや、ミミックのサイらが傷つけば、スズナは治療へと当たっていく。
「傷を癒せなくて、心霊治療士なんて名乗れませんからね!」
 周囲からは市民の姿がなくなっているので、彼女も自身の仕事に注力する。
「応えて、檳榔子黒(びんろうじぐろ)っ!」
 スズナは手にする青みを含む黒い杖は傷つくメンバーと自身と大自然を霊的に接続し、仲間の傷を瞬く間に塞いでしまう。
 それを見て、リュエンも電気ショックを飛ばして仲間の癒しを続けていたようだ。
 さて、敵も自壊が近いことに加えて、ケルベロスの度重なる足止めグラビティを受けたことで徐々に動きを鈍らせてきている。
 五六七はそれも合って攻撃パターンを変更させ、轟竜砲と先ほどの忍の術を使い続けることになる。翼猫マネギも翼を羽ばたかせ、全力でケルベロスをサポートしてくれていた。
 ――仲間の攻撃の手が途切れぬように。
 透希はそれを意識して炎を纏う蹴りを相手の巨体へと叩き込み、さらに獣の拳で殴りつける。
 仲間達の手厚い回復支援もあり、透希は攻撃に集中できていた様子だ。

 過ぎ行く時間の中、獄混死龍ノゥテウームの体は明らかに崩壊が進んでいた。
 相手には破壊の力の通りが良いことは分かっていたが、愛華は見切り対策も兼ね、己の地獄の左腕へと混沌の水と地獄のエネルギーを集中、融合、圧縮させて。
「地獄の炎と混沌の水、自分の体で味わって下さい」
 それを愛華は竜のブレスとして、燃え上がる炎と水を操る敵へ放射していく。
 魂すら削り取る力に怯みはしたが、まだドラゴンの体は完全に崩壊しない。
「すぐ死ねッ!! 今死ねェッ!!!」
 ククロイも止めを刺そうと、高速回転させた腕で殴りつけていく。
 ドラゴンは呻きながらも己の身の崩壊と、ケルベロスの攻撃に耐え続ける。
「全弾プレゼントしてやるよ!」
 レヴィンも全身に装填させた重火器から、ありったけの弾丸を装填して撃ち放つ。
 弾薬代は馬鹿にならないが、ある意味これで倒せるならば安いもの。
 しかし、敵はしぶとく活動を続ける。
 リュエンも回復の手を止めて時空凍結弾を発射し、相手を牽制し始めていた。
「オオオォオおぉオオォオオおぉお……」
 叫び声すら乱れを感じるメンバー達。敵の体の崩壊は近い。
 それでもなお、敵はブレスを吐き掛けてケルベロスを倒そうと力を振り絞る。
 ヴィットリオはディートと共にそれを堪え、激しいスピンに加えて地獄の炎で燃え上がる鉄塊剣を叩き込む。
 続いて五六七が己の忍の術でドラゴンを攻め立てていくのと同時に、攻撃に転じたスズナも護符を握り込んだ右手を振りかぶって。
「お願いだから、当たって下さい!」
 ミミックのサイがばら撒く愚者の黄金に紛れ、スズナは相手の体にその護符を撃ちこみ、相手の体内へと直接衝撃波を叩き込む。
「オおおォォオおぉおオォオォお」
「跡形も無く砕け散ればいい」
 あと一息。それを直感で悟る透希も燃え上がるエアシューズで蹴りかかり、敵の身体を地獄の炎で燃え上がらせる。
 そして、漆黒のオーラを全身に漲らせたセイヤが右腕で黒龍を象り、一気に攻め入る。
「魔龍の双牙で朽ち果てろ……ッ!!!」
 強く拳を打ち込んだ直後、セイヤは拳に纏う黒龍のオーラを一気に解放し、敵の体へと喰らいつかせていく。
「オオぉぉおぉおオオォォ……」
 自壊を待たずして獄混死龍ノゥテウームの体が崩れていき、跡形もなくこの場から消え失せていったのだった。

●護りきった街で
 デウスエクスの影がなくなった街で、ケルベロスは修復作業へと動き始める。
 愛華も混沌を纏う左腕を振るい、周囲へと癒しをもたらす。傍では、リュエンも電気ショックを飛ばして修復の手を進めていた。
 手作業で瓦礫を取り除くセイヤはその最中、敵の残骸などから何か手がかりがつかめないかと調査を行うも、敵の体はほとんど消えていてめぼしい成果は得られなかったようだ。
 張り詰めた糸が切れたスズナは脱力感を覚えるも、なんとか気力を振り絞って市街地や人々のヒールへと動き始める。
 彼女の起こす優しい風は戦いの爪跡を幻想で埋め、現地の人々の沈んだ空気を晴れやかなものに変えていく。
「憎悪や恐怖は敵の思うツボだもんな」
 ゴーグルを額の上まで上げたレヴィンも現地の人々を安心させようと、隣人力を使いながら語りかけて人々を安心させていく。
 彼もまた、自身向けのヒールのみ所持した状況だった為、手作業で修復の手伝いを行っていた。
「ん、片付けはこんな感じか」
 ある程度、片付けが終わったタイミングで透希もまた地元民の少女へと声をかけて。
「大丈夫、もし同じことがあったとしてもケルベロスがみんなと街を護りに駆けつける」
 本当と問い返すその少女へ、透希は歌を歌い始める。
 誰もが知る歌ではあるが、美しい声色で響かせた彼女の旋律に、少女もうっとりと聞き惚れていたようだ。
 先ほどまでディートに乗ったままで気力を放っていたヴィットリオは、そのまま戦場付近の街を走っていて。
(「それにしても、死神やダモクレス、エインヘリアルだけじゃなくてドラゴンもキナ臭く動いてきてるか……」)
 近いうちに何かとんでもないことが起きなければいいがと、ヴィットリオは平穏を取り戻した街を見回しつつ危機感を募らせるのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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