生まれ出るは獄混死龍

作者:澤見夜行

●定命化を覆す
 それは空。遙かな空の高み。
 天高い雲の上に一人の女性――『先見の死神』プロノエーが待ち構えていた。
「来ましたね」
 視線を向けた先、黒き獣のようなドラゴンが、一体のドラゴンを引き連れて現れる。
「お待ちしていました、ジエストル殿。此度の贄となるのは、そのドラゴンでしょうか」
 プロノエーの言葉に、ジエストルと呼ばれたドラゴンが答える。
「そうだ。お主のもつ魔杖と死神の力で、この者の定命化を消し去ってもらいたい」
 ジエストルが言うと、付き従うドラゴンが言葉を走らせる。その声はどこか弱々しい。
「この残り少ない命、ドラゴン種族の勝利と礎になるのであれば惜しくはない。どうか役に立てて欲しい」
 プロノエーがこくりと頷く。
「結構です。これより、定命化に侵されし肉体の強制的サルベージを行います。あなたという存在は消え去り、残されるのは、ただの抜け殻にすぎません。よろしいですね?」
 プロノエーの最後の念押しに、二匹のドラゴンが同意する。
 すると、雲の上に、魔方陣が描き出される。それは死神がサルベージするときに描き出す魔方陣の輝きだ。
「うぅ……グォォォ……」
 贄となったドラゴンが苦悶の声を上げる。
 肉体が溶けていき、混ざりくねると新たな一匹のドラゴンが生み出されていった。
 魔方陣の輝きが消えると、プロノエーがジエストルに言葉をかける。
「サルベージは成功、この獄混死龍ノゥテウームに定命化部分は残っておりません。ですが……」
「わかっている。この獄混死龍ノゥテウームはすぐに戦場に送ろう。その代わり、完成体の研究は急いでもらうぞ」
 プロノエーは静かに瞑目し答えとするのだった――。


 パタパタと慌ただしく入ってきたクーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)が番犬達に事態の説明を開始した。
「大変なのです、和歌山県白浜町に、ドラゴン『獄混死龍ノゥテウーム』の襲撃が予知されたのです。
 襲撃までの時間が少なく市民の避難は間に合わないのです。このままでは多くの死傷者がでてしまうのですよ!」
 ならば、急がなければと番犬達は準備を開始する。
「獄混死龍ノゥテウームは知性が無く、ドラゴンとしての戦闘能力も低めなのですが、ドラゴンである事には違いないのです。間違いなく強敵であるので、全力の迎撃をお願いするのですよ!」
 続けて敵の詳細情報が伝えられる。
「敵はドラゴン一体、配下などはいないのです」
 全長は十メートル。炎と水を操り、骨による薙ぎ払いも行ってくる。
「これは重要情報なのですが、獄混死龍ノゥテウームは戦闘開始後八分ほどで自壊して死亡する事がわかっているのです」
 つまり、ドラゴンを撃破するか、或いは八分の経過まで耐え切れれば番犬達の勝利となる。
「自壊する理由は不明なのですが、ドラゴン勢力の実験体である可能性が高いかもしれないのです」
 勿論、自壊するからといって、その前に番犬達が敗北してしまえば市民に多大な被害がでるだろう。油断は禁物だ。
 資料を置いたクーリャが番犬達に向き直る。
「敵は、皆さんが戦闘を仕掛ければ、皆さんとの戦闘を最優先にするようなのです。
 ただ、皆さんが脅威にならないと思えば、市街地の襲撃を行う危険性があるのです。
 八分間、守るだけでなく敵に脅威を与えるような攻撃も必要なのです。
 どうか、皆さんのお力を貸してください!」
 クーリャはそうアドバイスを告げ頭を下げると、最後にぼそりとつぶやいた。
「禍々しい骨のようなドラゴン……。まるで、死神のような姿なのです……」
 ドラゴンと死神。
 新たな脅威が発生したようにも思えた――。


参加者
カトレア・マエストーゾ(幻想を紡ぐ作曲家・e04767)
熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)
ガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)
レグルス・ノーデント(黒賢の魔術師・e14273)
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)
人首・ツグミ(絶対正義・e37943)
夜巫囃・玲(泡沫幻想奇譚・e55580)
蟻塚・ヒアリ(蟻の一穴天下の破れ・e62515)

■リプレイ

●降り立つ骨竜
 和歌山県白浜町と言えば、海、山、川と夏を満喫できる観光地であり、秋が近づくこの時期であっても訪れる人が多い場所だ。
 そこに、デウスエクス最強の種族たるドラゴンの襲来が予知された。
 現地に到着した番犬達は、避難することもできず不安に染まる市街地を前に敵の襲来を待ち受ける。
「こんなことでもなければ、夕日を望む円月島を眺めながら一曲作りたかったものだけどね。まあそれは終わってからにしようか」
 作曲家でもあるカトレア・マエストーゾ(幻想を紡ぐ作曲家・e04767)が噂に聞く観光スポットの名前をあげて、微笑んだ。強敵であるドラゴンとの戦いを前に、程よく緊張をほぐす。
「ドラゴンも観光するような緩さがあればいいのにねー。
 実験体……滅私奉公的な戦力投入……結構ブラック企業だよねー」
 冗談めかして言う熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)は肩を竦めて苦笑する。話に聞けば、今回のドラゴンは自らの命を種族のために差し出したという。
 そんな自己犠牲の精神を持つような相手が敵というのは、空恐ろしいものだと感じた。
「しかし勝っても負けても爆発して死ぬドラゴンじゃ負ける甲斐もないよな。
 ドラゴンも随分退屈な勢力になったもんだ」
 市民達の不安を払拭するように、景気づけに最終決戦モードに変身しているガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)軽口を叩く。退屈というが、それが相手を下に見ている発言ではないことは、この場にいる番犬達にはよく分かっていた。強敵への当てつけのようなものだ。
「しかし、ドラゴンが死神と策動するとはな。
 仲間の為だったら、敵である者すら利用してってか」
 なりふり構わず――とは思えないが、ドラゴン達の思惑が気になる、とレグルス・ノーデント(黒賢の魔術師・e14273)が白銀のチェーンが揺れるモノクルに触れた。
「命を糧に、実験体となるか。
 勝ったところで戻るも叶わぬ道を選ぶとはな。敵ながら天晴れである」
 予知されたドラゴン『獄混死竜ノゥテウーム』は定命化によって命尽き果てる直前のドラゴンであった。死神の力を用いてそれを克服し、ドラゴン種族の未来へと繋げる生き様を、服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)は感心する。
 しかし無理な力によって生み出された獄混死竜は定められた自壊による死が待っている。
 どこか寂々とした気持ちを感じさせるものだが、人首・ツグミ(絶対正義・e37943)は「くふ」と嘲笑を浮かべる。
「自壊、ですかーぁ……。くふ、
 残念ながら、その程度では罪を濯ぐに値する懲罰とは成り得ませんねーぇ?」
 蒙昧なる自己満足の内に死へと恭順する前に、自分達の手で全てを粉砕して差し上げると息巻いた。
「ドラゴンって連中は、どうも昔の武将みたいだね――」
 勢力のためならそこまでするのか、と蟻塚・ヒアリ(蟻の一穴天下の破れ・e62515)が淡々と感心する。
 言葉を続けようとしたその時、ヒアリの頭から生える触角のような何かがぴょこぴょこ動いた。
 それは風の微々たる動きを、振動を感じとって、
「――噂をすればそんな敵武将が来たようだね」
 振り向いたヒアリの視線の先、獄炎の翼を広げ、骨を剥き出しにした邪竜が猛スピードで舞い降りる。
 一般的な竜の姿からは大きくかけ離れた異形の竜。
 その姿を前に、夜巫囃・玲(泡沫幻想奇譚・e55580)が顔に装着したお面を抑えて武器を抜く。
「そんな姿になってもなお同胞に尽くすその意気や良し。
 その命の最後の灯、艶やかに彩ってやろう! ……なんてね、けひひっ」
 独特の怪しい笑いを零す玲。ヒシヒシと感じる凶悪なプレッシャーを前に、心の緊張を解す。
 獄混死竜が、その骨の首を大きく擡げ、番犬達を睥睨する。
 種族の為に、実験を成功させる為に、戦いを求めていた――。
 グギギォォォ――!
 骨片を響き慣らし、独特の咆哮を上げる獄混死竜。
「来るぞ――!」
「さぁドラゴンの討伐劇、開演といこうか」
 地獄の炎と、混沌の水を撒き散らす、死を待つ獄混死竜が、番犬達に襲いかかった――。

●命を賭した咆哮
 その異形な髑髏より地獄より沸き立つ炎が撒き散らかされる。
 肌を延焼させる悪魔の息吹から抜け出せば、そこに待ち受けるは身体に浸食する混沌より湧き上がった水の奔流だ。
 あらゆる力を打ち消し流すその濁流に呑まれながら、しかし番犬達は武器を手に獄混死竜へと立ち向かっていく。
 八分。
 予知された獄混死竜の自壊までの時間だ。
 ただ耐えるだけならば簡単だが、番犬達を相手にする価値なしと判断すれば、獄混死竜の強大な力は市民へと向けられてしまうだろう。その場合の死傷者の数は想像するだに恐ろしい。
 番犬達は、耐えきることを前提としながらも、この凶悪なドラゴンを倒しきるつもりでグラビティを叩きつけていく。
「これより先は通行止めだね。
 八分間お付き合い願いますよー」
 まりるが手にした武器を砲撃モードに切り替えて、竜砲弾の雨を降らす。
 地面に釘付けにされた獄混死竜の側面へと回り込み、身体を捻ると、理力籠めた星形のオーラを蹴り込む。
 獄混死竜を構成する骨に叩きつけられたオーラが、その強固な表面にヒビを刻みつけた。
 素早く戦場を駆けるまりるの動きに獄混死龍は翻弄される。
 その隙を突き、仲間達が獄混死竜へ襲いかかった。
「もはや名誉も誇りも、残るはその残骸に過ぎぬか。
 ――互いに引導を与えぬ理由はなし! ここが貴様の終点じゃ!」
 無明丸が疾駆する。
 快活な笑い声を戦場に響き渡らせながら、握った拳を無遠慮に叩きつける。
 拳を振るうごとに生み出される時すらも凍結させる弾丸が獄混死竜の肉体を穿ち、さらにその上から叩きつけられる拳は凍傷を齎す光線となって、幾重にも突き刺さる氷の刃を生み出した。
 対象を阻害する事に特化した無明の凍てつくグラビティの数々が、獄混死竜の身体を蝕んでいく。
 動くたびに痛みを伴う氷の楔が幾重にも広がっていく。
「行きますよーぅ!
 自分達を無視できるとは、思わないでくださいねーぇ!」
 今回火力役として前衛に立つツグミが、溜め込んだオーラを獄混死竜に向け放つ。相手に食らいつくオーラの弾丸は避けようとする獄混死竜に追いすがり、その骨の肉体にぶつかれば文字通り噛み付くようにして衝撃を与える。
 確かな手応えに、ツグミは目を細め口の端を釣り上げた。
 日夜悪の粛正に励む正義の味方――但し、その善悪の基準は洗脳によって歪んだ主観十割――なツグミだが、今の所はデウスエクスをイコール悪と捉えているようだ。
 その微笑の奥で、この邪悪を振る舞う竜をどう粉砕するか、恐らく様々な手段が提案されているに違いなかった。
「炎に水と、節操のないドラゴンだ――アドウィクス!」
 サーヴァントのアドウィクスに指示を出しながら、ガロンドがグラビティを纏い戦場を舞い踊る。
 仲間達を癒やす花びらのオーラが舞い散り、焼け付く炎を消滅させていった。
 ガロンドはサーヴァントと共に仲間を守るディフェンダーだ。
 メディックであるカトレアのフォローをしながら、守護の盾として仲間を庇い、その被害を減らしていく。
 仲間の攻勢を維持するための立ち回りだが、これは間違いなく仲間の背を押した。
 勢いに乗った番犬達が、次々と技を放ち獄混死竜にダメージを与えていく。
「……ったく、面倒な攻撃ばっかりしてきやがって。
 死ぬならとっとと死ね! 引導は俺らが渡してやる! 骨野郎が――!」
 ぶちぶちと文句を垂れながら、しかししっかりと仕事をこなすレグルス。
 獄混死竜の背後を奪い肉薄すると、流星を纏うその身を捻り、重力の楔打ち込む一蹴を叩き込む。
 飛び退ろうとする獄混死竜の動きを、そのモノクルの下の瞳は逃さなかった。極限の集中力が集い、逃げようとする獄混死龍の空間を爆破する。
 次々と破裂する空間が、攻めに回ろうとする獄混死竜の動きを止め、その機会を奪っていった。
「さあさあ、彼岸はこちらだよ。渡し賃は持ったかい?」
 周囲の建築物を足場に、立体的な機動で獄混死龍に迫る玲。
 竜の背目がけて上空より滑空し、放つは流星の墜落。叩きつけられた蹴りの一撃に獄混死竜が背を折り、地面に釘付けられる。
 だが、獄混死竜もただではやられない。暴れるように首を擡げ地獄の炎を吐き散らした。
「やりますねぇ!
 流石はドラゴン、全力で行かせてもらいますね」
 攻撃の余波で愛用のお面が吹き飛び素顔が空気に触れる。極度の人見知りからお面がなければ呼吸もままならなかった玲だが、最近はそれも改善されてきたようだ。
 そのまま体勢を整えると、再度獄混死龍へ向け加速した。
 その背後から、ヒアリの手によって紙兵が散布される。
 耐性を齎す紙兵が仲間を守護するのを確認すると同時に、ヒアリが獄混死竜へと肉薄する。
「大きな図体で、蟻でも踏みつぶす気持ちなのかもしれないけど、蟻の力を甘く見ないでほしいね」
 無表情で淡々としながら、言葉を饒舌に走らせるヒアリ。その小さな全身を大きく動かし、大地をも叩き割る痛烈な一撃を放つ。
「――ぎっちょんぎっちょん」
 続けざまにヒアリは、蠱術の極み――持てる蟻の情報全てを束ねた影を具現化する。
 オキナワアギトアリのように百八十度に開かれる影の顎が、空気を破裂させる音立てながら獄混死龍の身体を抉り刈り取るように閉じられた。
「強大な敵との戦闘には、ふさわしい音楽ってものがあるだろう?」
 カトレアが、手にした楽譜にグラビティチェインを注げば、空気を振動し流れ出すのはクラシック調の楽曲だ。
 自作曲「飛龍に告ぐ」。仲間を鼓舞し、士気を高める鮮烈な楽曲が、傷付いた仲間達を癒やし、戦う力を与えていった。
 作曲家であるカトレアの独創的なグラビティの旋律は、強大な敵である獄混死竜に立ち向かう上で、その背を支える治癒の力として番犬達を支え、力を漲らせていた。
 仲間達のフォローを受けながらも、確かにこの仲間達を支えていたのは、カトレアの生み出した楽曲の旋律に他ならないのだ。
 戦いを彩るバックミュージックは、その戦況の変化と共に、盛り上がりを見せていく。
 獄混死龍。
 死を運命づけられたそのドラゴンは、持てる全ての力を奮い番犬達に挑み戦う。
 その猛攻は番犬達に幾度となく土を舐めさせ、圧倒的な力であることを思い知らせていく。
 だが、それは同時に番犬達の力が脅威であり、獄混死龍が手を抜くことのできない相手で在る事を知らしめていた。
 長いようで短い八分という時間の中、獄混死竜は一度たりとも番犬達から視線を外すことはなかったのだ。
 そして時は、その時を迎えようとしていた。
「そろそろ覚悟を決めてもらおうかな」
「ここまで来て市街地に向かおうとするなよ――覚悟を決めてもらおうか」
 ガロンドとレグルスが、獄混死竜へ向け疾走する。
 放たれる獄混死竜の攻撃を、ガロンドはよく見ていた。一撃を躱し、迫り来るレグルスに向けた二撃目をその身を挺して庇いながら加速し、追い詰め、手にしたハンマーを叩きつける。
「虚空を開け水霊の門 今新たなる契りによる氷雪の力束ねん 心冷たき王妃よ 天すら凍てつかさんとする裁きの力にて我が敵を蹂躙せよ!!」
 その後ろから、レグルスの生み出した鋭利な氷の刃が、槍嵐となって獄混死竜に降り注ぐ。
 幾重にも穿ち貫く凍てつく槍が、その骨の身体を蝕み砕いていく。
 獄混死竜が大気を震わせる咆哮を上げる。その身を引き裂くように生み出された骨牙が番犬達に襲いかかる。
「おっと……当たったらどうするんですか!
 そろそろ時間もアレなので、お開きと致しましょうか――!」
「骨しか無い竜なんてバラバラにしても意味なさそうだけど――解体しちゃうね」
 玲が骨牙の薙ぎ払いに肌を切り裂かれながら、前にでる。その背をヒアリが追う。
 玲の持つ妖力纏った刀が、瞬閃たる輝きを持って幾重にも斬撃を放つ。静かに、そして艶やかに、骨の肉体を切り裂くその光景は――嗚呼、まるで冥界の雨の様。
 そこに、暗き影を武器に纏わせて、ヒアリがこの日何度目かになるか、『蟻の顎』を閉じる。餌を解体する蟻のように、何度も繰り返し、獄混死竜の肉体を噛み砕いていった。
「クライマックスは華々しく――」
「一気に攻めるよ!」
 カトレアの奏でる旋律が、その背後に『御業』を生み出して、攻めへと転調する。
 『御業』の一撃が獄混死竜の身体を木っ端とすると、そこを狙ってまりるが飛び込む。
「誰にも 何処にも 何時かは 廻(もとお)れ――」
 天命すらも味方に付けて、己の意思で突き出した拳の力は、登り坂をも逆転させる。
 相手を逃すことは無い必中の一撃が、砕けた骨の身体を、更に破砕する。
「さあ! いざと覚悟し往生せい!
 ぬぅあああああああーーーッッ!!」
 無明丸が走る。思い切り力を籠めて、思い切り走って、思いっきり近づいて、思い切り振りかぶって――そして全身全霊のグラビティで発光する拳を叩きつける。その顔を殴られた獄混死龍が大きく揺らぎ、体勢を崩した。
「くふ。
 それでは、さようなら、ですよーぅ」
 ツグミが一足飛びに地を蹴って、電光石火の蹴りを叩き込む。揺らぐ獄混死竜が大地にその身体を横たえると、ツグミは止まること無く追撃へと移る。
「自分は貴方を救いません。願いもしないし祈らない。
 ええ、ええ。神の手など払いのけましょう。それが貴方の結末ですよーぅ♪」
 因果なくとも応報せよ。救いの手に奪われる前に。
 形成された大鎌が、獄混死龍の『悪』を刈り取る。刈り取られたソレはツグミの魔力によって齎された業火に焼べられ焼却された。
 絶大なダメージを受け、獄混死龍がその身を震わせる。
 そうして、時の針は戦闘開始から八分を差した。
 獄混死龍が、全ての力を注いで、咆哮を上げた――。

●自壊
 番犬達の力は十分に獄混死龍を倒し得るものだっただろう。
 だが、今回のケースでいえば、八分の内に倒しきるには、あとほんの一歩足らなかった。
 とはいえ、悲嘆することはない。番犬達の力は獄混死龍にとって脅威に価するものであり、市街地へとその力を向ける余裕などなかったのだから。その事実を、番犬達は喜ぶべきだろう。
 獄混死龍の身体が、砂塵のように崩壊する。そうして、その中から一際輝く丸い宝石が落ちた。コギトエルゴスムだ。
「あっ――!」
 デウスエクスの死の形であるコギトエルゴスムが、音を立てて割れ、真実、死という結果をまざまざと見せつけた。
 消えゆく獄混死龍を眺めながら、無表情にヒアリは言葉を零した。
「完成体の研究……何の完成体だろう。
 定命化の影響を受けないドラゴンの、ということだろうか。
 何にせよロクなことではなさそうだ」
 言葉を空へと運ぶように、一陣の風が吹いた。

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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