死龍は猛り狂う

■リプレイ

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　昼間のオフィス街、そこは混乱に満ちていた。
「ガ、ギ、ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！！」
　スクランブル交差点の中心にいたのは、異形のドラゴン――獄混死龍ノゥテウームだ。体長十メートルのノゥテウームがスクランブル交差点にいる光景は、上空から見下ろせば遠近感を狂わせる感覚があった。現実と言うより、出来のいいジオラマでも見ている気分だ。
「何のつもりか知らないけど、いきなり街中まで襲撃とはいい趣味してるね」
　ヘリオンの中からその光景を見下ろし、ロベリア・エカルラート（花言葉は悪意・e01329）が言い捨てる。
「まったく、ドラゴン連中も形振り構わなくなってきて面倒くせぇったらありゃしねぇ。ほっといてもすぐ死んじまうらしいが、ほっとく訳にもいかねえ。悪いが、やらせてもらうぜ」
「獄混死龍だかなんだか知りませんがボクたちがぶっ飛ばしてやるのデス！　ロックに！！」
　言い捨てるアルヴァ・シャムス（逃げ水・e00803）、シィカ・セィカ（デッドオアライブ・e00612）も愛用のギターを肩に担いだ。ノゥテウームは、その凶悪な骨の腕を逃げ惑う一般人へと向けようとしている――それを許すわけにはいかない。
「知性も無く、戦闘力も低いドラゴンですか。８分で自滅するそうですけど、それを待つまでもなく倒してしまいましょう」
　ヘリオンの扉が開き、強い風を受けながらバジル・ハーバルガーデン（薔薇庭園の守り人・e05462）が言う。それに、ロベリアも同意した。
「ああ、適当にからかいながら逃げてれば勝手に自壊するらしいけど、好き勝手暴れてくれるヤツから逃げるのって趣味に合わないんだよねぇ……やるなら完全勝利しかないね、さっさと片付けようか！」
「ええ」
　口数少なく、しかしサラ・エクレール（銀雷閃・e05901）は確かなうなずきで答える。タンッ、とケルベロス達がヘリオンから、飛び降りていった。
　ビュオ！　と、風が体全体を吹き抜けていく。重力はすぐに彼らの体を掴み、地面へと一直線に――瞬く間に、ノゥテウームの頭上へと運んだ。
「ガ――――」
　ノゥテウームが、頭上を見上げる。携帯スピーカーから大音量で響くアップテンポの極に気づいたからだ。大音量と共に落下するテンペスタ・シェイクスピア（究極レプリカントキック・e00991）が、空中で前転を開始。そのままノゥテウームの頭上近くで足を伸ばし、横回転を加え――！
「究極レプリカントキック！！」
　ドォ！！　とテンペスタの蹴りがノゥテウームの頭頂部に強打する。しかし、ビクともしないノゥテウームはわずらわしいと言わんばかりに、骨の腕を振るってテンペスタを吹き飛ばした。
「ガ、ガガガガガガガガガガガガがガガガ！」
　自分を取り囲むように降り立ったケルベロス達を、ノゥテウームが牙を鳴らして威嚇する。この場に、それを恐れる者などいない。ロウガ・ジェラフィード（金色の戦天使・e04854）は、真っ直ぐに凛と言い放った。
「死神とドラゴンの真意は分かりかねるが、死した時間を弄び力無き者へ殺戮を振りまくというのなら、オラトリオとして許し難き所業。断じて思い通りにはさせぬ……！！」
　ノゥテウームが、ミシミシと全身に力を漲らせていく。弱体化しているとはいえ、ドラゴンはドラゴン。その圧力は、凄まじい。シルヴィア・アストレイア（祝福の歌姫・e24410）は、深呼吸を一つ言ってのけた。
「私の歌を聴けーっ！ってね♪」

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　不意に、ノゥテウームがアスファルトを蹴った。巨体が、軽々と前へ出る。振り払われる骨の腕が、前衛を薙ぎ払った。
「ははは！　これはきっついデスね！」
　まず感じたのは衝撃で、次に痛みがやって来る。骨が軋み、肉が悲鳴を上げる――シィカはそれでも笑って見せて、ギターをかき鳴らした。
「レッツ、ドラゴンライブ！　ロックにオンステージなのデスよー！！　イェーイ！！」
　ウォーグと手毬の残霊が現われ、竜たちの歌が天高らかに奏でられる。シィカの天穹へ至れ、竜たちの唱（ドラゴニック・ライブ・センセーション）に合わせてシルヴィアが立ち止まらず戦い続ける者達の歌を歌い上げた。
「私の歌で、みんなを守ってみせる……っ！！」
　シィカとシルヴィアの歌が、戦場を盛り上げる。その歌に攻防を強化しながら、アルヴァが夕星ーユウヅツーの柄に手を伸ばした。
「はん！　ドラゴンの絞りカスの分際で、イキってんじゃねぇぞ！」
　ザン！　とアルヴァが放った居合の一閃が、霊体のみを捉える衝撃波となる。衝撃を物ともせず、ノゥテウームが前に出た。
「ギ、ガ、アアアアアアアアアアアアア！！」
　振るわれる骨の尾を、アルヴァは跳躍でかわす。即座に納刀し、アルヴァは着地。なおも追いすがろうとするノゥテウームへ、ロベリアが砲撃形態に変形させたドラゴニックハンマーから榴弾を発射し、着弾させた。
「イリス！」
　ロベリアの声に、ビハインドのイリスが赤いマントをひるがえしノゥテウームの前へ降り立つ。そして、恭しく一礼したイリスがアスファルトの瓦礫をポルターガイストでノゥテウームへ叩きつけていった。
「ガ、アア！！」
　瓦礫を骨の腕でガードし、ノゥテウームが吠える。おどけたステップで挑発して逃げるイリス、追うノゥテウーム。その隙に、空を舞ったロウガが急降下――漆黒の刀身に雷をまとわせ突っ込んだ。
「瞬きの刃、初手を制し全てを制す！！」
　ロウガの生命と輪廻の剣-Chrono Saver-による雷刃突が、骨と皮のノゥテウームへと突き刺さる。バチン！　と電撃がノゥテウームの巨体を走った、そのはずだ。
「――！」
　しかし、ロウガは知る。知能のないノゥテウームの赤い瞳が、自分を無感動に見詰めてくるのを。
　ゴォ！　とノゥテウームが体を震わせる。それだけで突風が巻き起こり、周囲に破壊が撒き散らされる――ただそこにある、それだけで周囲を滅ぼす……それこそが、ドラゴンだと言わんばかりに。
「行くぞぉ！！」
「先ずはその機動力を封じてあげますよー！」
　テンペスタとバジルが、同時に跳ぶ。テンペスタは空中で横回転、鋭い回し蹴りを。バジルは横断歩道の信号を足場に更に高く跳び、飛び蹴りを。テンペスタの旋刃脚とバジルのスターゲイザーがノゥテウームを捉えた。
「――――」
　そして、一瞬でサラがノゥテウームの懐へ滑り込む。サラの銀雷閃のオウガメタルが銀の鬼へと姿を変え、その巨大な拳でノゥテウームの顎をアッパー気味に殴り上げ――。
「……これほどか」
　殴り抜けず、拳を止められた銀の鬼にサラは呟く。体長十メートルという暴力的なサイズ差。それに伴う質量差は、圧倒的だ。
「ガ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ！！」
　ノゥテウームが、吠える。怒りもなく、憎悪もなく、悲嘆もなく――そして、そのどれとも取れる響きを持つ咆哮が、逃げる一般人達の足を鈍らせた。草食動物が肉食動物の間合いにいるのと、同じだ。本能が逃げられないと察してしまえば、足がすくみ体が硬直する――だが、足が鈍っても止める者は少なかった。
　何故なら、戦場に歌が響いているからだ。ケルベロス達が戦っている、その事実が彼らの背を押す。
「絶対、行かせないんだから！」
　シルヴィアの覚悟と決意の宣言を、踏み砕こうとノゥテウームは前へ出た。

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　暴威が、その力を存分に振るう。電柱が、街路樹が、停まっていた車が、ただノゥテウームが動くだけで紙切れのようにちぎれて宙を舞った。
「グギ、ガガガガガガがガガガ！」
「炎よ、高く立ち昇りなさい！」
　ノゥテウームの前進を阻むように、バジルが炎をまとう後ろ回し蹴りを放つ。鋭い炎の蹴りは、ノゥテウームの皮を焼き切った。バジルが、ノゥテウームを蹴って後方へ跳んだ。
「今です！」
「時を喰らう戦の竜よ、その力を示せ！！」
　ロウガの呼びかけに応えるように、天使の翼を持つ黄金竜が姿を現わす。黄金竜はバサリ、と翼を広げ、黄金の炎をノゥテウームへと叩きつけた。
「グ、ガ――」
「喰らう、デス！」
　足が止まったノゥテウームの顔面に、シィカが全体重を乗せてドラゴニックハンマーを振り下ろす！　ガゴン！　と激突音がして、シィカのハンマーは弾かれたもののノゥテウームがのけぞった。
「ちったぁ痛がれ、クソ竜が！！」
　アルヴァがオーバースローで、オーラの弾丸を投擲した。気咬弾はノゥテウームに突き刺さり、鈍い爆発音を轟かせる。それに合わせ、テンペスタが駆け込んだ。
「ダブルぅスパイラルっ――」
　パイルトンファー：L-eftとパイルトンファー：R-iGht、左右のトンファー型パイルバンカーからエネルギー粒子を噴出、テンペスタは粒子で螺旋を描き突撃する！
「――バンカー！！」
　ゴォ！！　とテンペスタのダブルスパイラルバンカーが、ノゥテウームを後退させた。ガギギギギギギギギギギギギ！　とアスファルトが削れ、ノゥテウームの巨体が下がっていき――。
「来ます」
　最初に、ソレに気づいたのサラだ。押されるノゥテウームの口の端から、炎が溢れているのに気づいたのだ。そして、後退したことで――後衛を、すべて炎の範囲におさめ、ノゥテウームは炎のブレスを吐いた。
　視界が、真っ赤に染まる。その中を、ロベリアが駆けた。
「回復を頼むよ！」
「ええ、任せて♪」
　ジャラララララララララララン！　とロベリアはケルベロスチェインでノゥテウームの尾を絡め取り、回り込んだイリスが鎌を振るう。その隙に、シルヴィアがメタリックバーストで後衛を回復させていった。
「ガ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！！」
　ノゥテウームが、尾を振るう。その動きを見切って、サラは伯耆国安綱に無数の霊体を宿して袈裟懸けに振り下ろした。
「効いてる、いけるよみんな！」
　シルヴィアが仲間達を鼓舞するように、よく通る声で言う。ケルベロス達の攻撃を無視できないノゥテウームは、この戦場に留まり続けていた。その間に、一般人達の避難も進んでいる――だが、それも薄氷の優位だ。
「まだ、追いつけるだろうしね。こいつも」
　ロベリアは、状況を正確に把握している。百人単位の人間が、十分にも満たない時間で避難できる距離など、たかが知れているのだ。この体長十メートルの獄混死龍ならば、一分あれば多くの命を奪えるだろう――それは、実際に戦っているケルベロスが一番理解していた。
　だからこそ、最後まで気を抜けない。そして、誰もがノゥテウームの自壊を待つつもりなどなかった。
「グ、ガアアアアアアアアアアアアアアアアア！！」
　ロウガへと、ノゥテウームが骨の腕を振るう。それに対して、ロウガは赤・青・紫・黒・白の五色の花弁を生み出した。
「刃に舞うは末期の華、踊り狂うは刹那の剣風、乱れ華やぎ美しく――生命の理、この刃にて封ず！！」
　ロウガの輪舞【至封蓮華】（プリズム・フロスティア）の薔薇の剣戟が、振り払われるノゥテウームの腕を斬り飛ばした。大きく、ノゥテウームが体勢を崩す。そこへ、シルヴィアの歌が鳴り響いた。
「永い永い時の果て、世界に届け、私達の想い。魂よ響け、この世界中に。私達が願うのは星の未来。未来掴む為、さぁ、闇を祓おう……♪」
　守護者に祝福を与え、破壊者を討ち滅ぼす聖歌、シルヴィアの地球の祝福（ホシノシュクフク）が強大な魔力砲撃を放った。ノゥテウームの巨体が、宙を舞う。その瞬間、バジルが小刀【Blue Rose】を引き抜いた。
「このナイフを見て下さい、貴方のトラウマを想起させてあげますよー！」
　ビクリ、とノゥテウームの体が震え、動きが止まる。直後、シィカが上を取ってからの両足のスタンプ――スターゲイザーを叩き込む！
「これがキミへのレクイエムデス！　心して聴くのデス！　このロックを！！」
　巨体が地面に叩きつけられる轟音と共に、シィカがかき鳴らされる。
「さて、そろそろキミの出番は終わりだよ、っと」
　音楽に合わせ、ロベリアとイリスが駆けた。
「燃え滾れ私の地獄。ロバ耳王の呪いはこの手の中に……さあ。溶けろ、沸き立て！　切り刻め！」
　ロベリアの両手の炎に寄って溶けた黄金の剣による変幻自在の連撃と、イリスの鎌による連撃がノゥテウームを切り刻んでいく！
「ガ、ガガ……ガ……」
　なおも立ち上がろうともがくノゥテウームへ、ビルの外壁を駆け上って跳んだテンペスタが迫った。
「ガ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！！」
　ノゥテウームは、テンペスタを炎のブレスで迎撃する――しかし、テンペスタは止まらない！
「間合いを詰めるっ、攻撃はライフで受け流すっ！！」
　ようするに、ただ耐え切ったテンペスタが、両拳、脚部を覆うように緑のエネルギを解放した。
「プラズマドライバー・アクティブ！！　肘打ち、裏拳、正拳、連打連打ぁ！！　　剛腕粉砕ぃい、必殺！！　レプリカント・ファントム！！」
　プラズマ化した杭を仮想力場にて生成、肘打ちから繋がるコンボでノゥテウームを打ち上げ、テンペスタはアッパーカットを打ち放つ。ノゥテウームが、尾を動かそうとした瞬間、左右からアルヴァとサラが跳んだ。
「派手に……いっけぇぇーっ！！！」
　シルヴィアの歓声に応え、アルヴァとサラは共に刀の柄に手を伸ばし――。
「一の太刀を疑わず」
「我が閃光、その身に刻め！我が剣閃、汝の全てを斬り伏せる！！」
　アルヴァの二太刀不要（ニノタチイラズ）とサラの秘奥義【真一閃】（ヒオウギシンイッセン）、二つの居合の斬撃が、ついにノゥテウームを十字に切り裂く！
「何、一つあれば事足りるってな」
　カチンッ、夕星ーユウヅツーを納め、アルヴァはそう告げた。

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　自壊を待つまでもなく、ノゥテウームを倒した――しかし、サラの表情に笑みはない。
「手強い敵でした」
　八分ギリギリでの勝利であり、強敵であった事は間違いないのだ。それは、周囲の惨状が教えてくれた。
「ふぅ……やられたか。ただ倒せば良いってだけじゃないし、楽じゃないね」
　この惨状を直さないと、とロベリアが言うより早く、シルヴィアとシィカが声を上げた。
「それなら名案があるよ♪」
「デスデス！」
　――それから数分後、オフィス街に歓声が響き渡った。シルヴィアとシィカの突発ライブが始まったからだ。
　音楽により、街と人々が癒やされていく。それこそが、ケルベロス達があげたもう一つの戦果だったのかもしれない……。

作者：波多野志郎	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年10月3日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 5
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