お祭りの季節が終わったら

作者:あかつき


 日が暮れかけた、森の奥にある廃棄家電置き場。そこには、祭りで使用されたらしい廃棄家電がごろごろと捨てられていた。その山をよじよじとよじのぼるコギトエルゴスム。そして、コギトエルゴスムはころりと一つの提灯の中に落ちた。次の瞬間。
「ヘイラッシャーイ!! ヤスイヨヤスイヨーーー」
 機械的な手足を生やしたダモクレスは、店の旦那が口にしていたであろう台詞を叫びつつ、頭から伸びるコードを振り回し、ここから10km先の町へと向けて、歩きだしたのだった。


 集まったケルベロス達に目を向け、雪村・葵は今回の依頼の説明を始める。
「エレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)の依頼で調査をしていたら、森の奥の廃棄家電置き場でお祭りの照明用提灯がダモクレスになってしまう事件が発生するらしい事がわかった」
 お祭りの照明用提灯は、古風ゆかしき蝋燭の提灯ではなく、中身はLEDライト。だからこそ、ダモクレスになってしまったのだが。
 提灯にはコードがついていて、提灯の外身とLEDライトの部分は固定されているらしい。外身の紙は中途半端に破れ、べろんと捲れているらしい。見た目は、提灯お化けに手足が生えたみたいな感じだ。
「ダモクレスは、コードをぶんぶん振り回したり、LED部分を強烈に発光させたりして攻撃を仕掛けてくる」
 なお、町までは10kmあるため、避難については問題は無いだろう。
「夏の間お世話になった提灯がダモクレスになってしまう……祭りには楽しい思い出がある人が多いだろうが、それが人を襲うとなると心苦しいな。早めにダモクレスを撃破し、被害が出ないようにしてきてほしい」
 葵はそう言ってケルベロス達を送り出したのだった。


参加者
土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)
志藤・巌(壊し屋・e10136)
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)
四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168)
月島・彩希(未熟な拳士・e30745)
エレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)
霧郷・千晴(晴天を望む金狐・e44393)
アメリー・ノイアルベール(本家からの使い・e45765)

■リプレイ


 夕暮れ時の森の中を、ケルベロス達は廃棄家電置き場へ向けて歩いていた。
「そろそろかのぅ……では、わらわは先に行くぞ」
 ぶわ、と光の翼を広げ、アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)は橙色の空へと飛び上がる。
「見つけ次第、戻るのじゃ!」
 ばさばさと翼を羽ばたかせ、飛んでいくアデレードを見送った後、残ったケルベロス達に月島・彩希(未熟な拳士・e30745)が言う。
「周りに一般人がいないかどうか、確認してくるね」
 一応、町までは10kmあるとの話だが、万が一が無いとも言い切れない。そう言いながら、彩希は木々の間へ分け入って、迷い混んだ一般人がいないかどうか確認に行った。
「それにしても……提灯のダモクレスですか」
 アメリー・ノイアルベール(本家からの使い・e45765)が、ぽつり、と呟いた。
「絵本で見たおばけみたいですね」
 目を細めるアメリーに、霧郷・千晴(晴天を望む金狐・e44393)が肩を竦めた。
「まぁ……提灯お化けみたいな感じだけど、季節外れだよね」
「提灯、ねぇ……。提灯ってのは、不思議とホッとする明かりだよな。実家じゃ祭りの度に、玄関に飾ったモンだ。懐かしさを感じなくもないが……」
 そう溢す志藤・巌(壊し屋・e10136)。しかし、実際に現れたダモクレスはホッとする明かりを放つ提灯ではない。千晴が言ったような、提灯お化けもどきだ。
「見た目が提灯お化けじゃあな……」
 お盆というには遅すぎる登場に、巌はうーんと唸る。
「提灯の付喪神……にしちゃ、ちょっと情緒がないよね」
 腰の黒鈴蘭の柄に手をかけて、四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168)が左右に視線を向けた、その時。
「いたのじゃ!」
 急降下してきたアデレードが叫ぶ。それとほぼ同じタイミングで、木々を薙ぎ倒しながら提灯型ダモクレスが現れた。
「提灯さん……来ましたね!!」
 提灯お化けのような姿を認め、土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)はルーンアックスを構える。
「ヘイラッシャーーーーイ!!!」
 LEDライトをちかちかさせるダモクレスに、アデレードは身構えつつ、呟く。
「ぬぅ……さっきも思ったが、ハロウィンでもないのに提灯の物の怪が出るにはちと気が早いのではないかのぅ……」
 とはいえ、放っておいては邪悪なる者たちの活動の一助になってしまう。アデレードは少し険しい顔をした。
「仕方もなし、少し正義をなすとするかのぅ」
 そう溢しつつ、アデレードは吸魂の大鎌を構えた。
「夏の素敵な思い出を彩ってくれる役目の提灯に、悲しい影の思い出を作らせるような事をさせる訳にはいきません。提灯自身の為にも、全力で止めてあげましょう」
 気合いを入れ、エレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)は幻影棍を構え、地面を蹴る。
「幻影で縛り付けてあげますね」
 幻影に惑わされ、明後日の方向に意識を向けたダモクレスへ、針で刺すような鋭い蹴りを打ち込んでいく。
「ヤスイヨォォ!!!」
 べろん、と剥がれた和紙をそれとなく手で戻しながら、ダモクレスは崩れた体勢を立て直そうと足を踏ん張った。
「しかし、最近の物の怪はLEDとは風情もへったくれもないのぅ……。それはそれとして邪悪なる者よ、生まれて間もなくて悪いが……悪の萌芽は花を付ける前に積まねばならぬ。神妙に覚悟せよ!」
 物の怪というには大分メカニカルだが、とにかくアデレードはダモクレスに人差し指を向け、宣言する。そして、アデレードは体勢を立て直したダモクレスへと超重量の一撃を放った。
「イラッシャアァァァ!!!」
 アデレードの一撃により中途半端な所で区切れた鳴き声と、重たいものが地面に落ちた音。そして、その重たいものが地面を滑っていく音が、連続して森に響く。
「何かしらの被害が出る前に倒しておかないとね」
 言いながら、千晴はその身に纏ったオウガメタルからオウガ粒子を噴出し、仲間達の超感覚を覚醒させていく。
「人に迷惑をかける前に、片付けてやる」
 べしゃりと地面に倒れているダモクレスへと、巌は距離を詰め、そして。
「地獄の底まで落ちていけ」
 上段への突き、下段への蹴りを繰り返し、最後に踵落としを叩き込んだ。
「ヤスッ……イヨォ……!!」
 めりこんだ身体をじたばたさせるダモクレス。
「全く……次の祭りまで寝てりゃいいのにさ。これじゃ、喧嘩祭だ」
 言いながら、地面を滑るように走る幽梨は、柄を握り、ダモクレスを鋭く見据える。そして、鞘から抜き放つと同時に、ダモクレスを一閃。緩やかな弧を描き、輝く刃はダモクレスの口の辺りを斬り裂いた。
「アアァァァァァ!!!」
 ダモクレスは叫びながら、その場で手足を振り回す。
「なんだか、子どもが無邪気に遊んでくれと駄々をこねているみたいです」
 呟きつつも、アメリーには手加減をする気は全くないが。アメリーはエクトプラズムを操り疑似肉体を作り出し、仲間達の援護に当たる。
「ヘイラッシャーーーーイ!!!!」
 ダモクレスは叫びながら、突然起き上がり、ぶんぶんと両手を回し、そして。
「ラッ…………シャーーーーーイ!!!!!」
 ダモクレスが両手を広げ大の字になった瞬間、ピカーーーーー!! っと、魔法の力を帯びた眩い光が辺りを包む。
「ぐっ……!!」
 前衛へと向けられた魔法の光に、巌は腕で顔を覆う。
「見えねえ……!!」
 ぐ、と歯を食い縛りながら、巌は光の中から目を細め、左右を見る。とはいえ、視界は良くなく、隣のアデレードも眩しくて苦しんでいるのくらいしか確認できない。しかし、この威力と立ち居振舞い、こちらが被る被害から考えて、敵は中衛だろう。ダメージと眩しさで膝を突きつつも、巌は仲間達に合図を送りながら、その旨を大声で伝達した。
「わたしがみんなを守ってみせるんだから!!」
 その光の中、草木の向こうから戦闘の気配を感じて戻ってきた彩希が、走ってくる。その声と勢いに、ダモクレスの眩い光がすっと消えた。
「アカツキ、回復よろしくね!!」
 声をかけながら、彩希はヌンチャク型に変形させた如意棒でダモクレスへ打撃を与えていく。
「アッ! ガッ、ガゴガゴ!!!」
 めきっ、とダモクレスの胴体辺りを大きく殴り付けた。
「お祭りの舞台を文字通り輝かせていた提灯さんですから、本当は皆さんから笑顔を奪いたくない……そう思っている筈です。止めて差し上げましょう」
 ダモクレスを見据え、岳はルーンアックスを振り上げ、飛び上がる。
「えいっ!」
 大地を穿つ一撃により、ダモクレスは吹き飛んだ。


「眩しかったなあ……」
 千晴はそう呟きつつ、ごしごしと目元を擦る。それから、血染めの包帯を取り出した。
「怪我はあたしが治すから安心してね」
 回復する対象は、特にダメージが大きかったと見える巌。
「っ、助かった」
 巌は立ち上がりながら、体勢を立て直す。そして、顔を上げてダモクレスへ視線を向けた。ダモクレスはゆっくりと身体を起こすと、左右に身体を揺らし、和紙をひらひらとさせた。
「あいつ……何してんだ……?」
 その様子を見て、眉間に皺を寄せた巌の横から、エレスは幻液を伸ばす。幻影を帯びた鋭い突きは、ダモクレスの脇腹付近を大きく抉る。そこから流し込まれる毒に、ダモクレスは唸りながら震える。
「何をするつもりであろうと……それより前に倒してしまえば問題はありません」
 がくりと傾くダモクレスへ、アメリーは手を伸ばす。そして、すぅと小さく息を吸い、そして。
「双魚宮の証聖者よ、彼の者を侵す魔を灌ぐです……les Poissons」
 魔力で生み出されたのは、冷気を纏う二匹の大きな金魚。金魚がダモクレスの周りを泳ぐ様子は、さながら夏祭りのようだ。
「もっとお祭りを楽しみたかったですよね」
 ダモクレスではなく、ダモクレスにされてしまった提灯の為に、アメリーは祈るように呟く。その想いを乗せた二匹の金魚は、身に纏う冷気でダモクレスの邪気を洗い流していく。
「ギ……ギギギィ……」
 軋む音を鳴らしながら、がたがたと震え体勢を崩していくダモクレス。
 ボディの和紙は元よりも更にぼろぼろになり、心なしかLEDの灯りも弱くなってきて、いよいよ夏の怪談話の様相を呈してきた。そんなダモクレスを見て、彩希は僅かに顔をしかめる。しかし、そんな気弱な事も言っていられない、と一人決意を新たにし、ぐっと拳を握りしめて、地面を蹴る。
「いくよ!! サポートはよろしく、アカツキ!!」
 頷くアカツキの援護の元、彩希はオウガメタルを纏った拳をダモクレスへと叩き込む。その一撃を受け、べしゃ、と地面に倒れたダモクレス。
「……やったか?」
 幽梨が呟き、目を細めたその時。
「ヤ……ヤヤヤヤヤ……」
 最後の力を振り絞るように、ダモクレスはその身体をぶるぶると激しく震わせる。その振動は、身体を包む和紙を波のように伝っていく。
「ッッッスイヨォ!!!!!」
 ダモクレスが叫ぶと同時に、身体を包んでいた和紙が弾け、ケルベロス達へと襲い掛かる。
「っまずい!!」
 鞘で正面を庇うようにしながらその射線上へと身体を捩じ込む幽梨。鞘で素早く衝撃を左右に受け流していくが、如何せん数が多く、動きが不規則だ。
「ぐっ」
 庇う事に専念する幽梨に、アデレードも翼を広げ加勢する。
「っ……なかなかに、しぶとい物の怪じゃ!!」
 ドラゴニックハンマーを使って防御に徹するが、広範囲に渡る攻撃を全て防ぐ事は難しく、他の仲間達のダメージもゼロでは無い。
「貴方の灯の元で幸せに過ごされていた人々の事を、どうか思い出して下さい!」
 攻撃を止めるべく、岳は叫び、ファミリアのモグラさんはオパールの体をしたモグラの絵が描かれたカードに変化する。
「ヤッ……ヤスイ、ヨォ……」
 果たして岳の想いが届いたのか、はたまた飛ばす和紙が尽きたからかは解らないが、ダモクレスの攻撃が止んだ。その隙を突き、岳はカードリーダーにモグラのカードを読み込ませる。
「モグラさん、行きますよ! ジュエルモール、ドライブ!」
 幸福の石言葉を持つモグラの力に一撃は、和紙の剥げたダモクレスのLEDに直撃する。
「ラッ……シャ……」
 ぱたりと地面に倒れ、それでもまだじたばたと足掻くダモクレスへ、巌は駆ける。
「じゃあな……提灯お化け!!」
 次は、真っ当に、お祭りの提灯として会える事を祈りつつ。巌は聖なる左手で、ダモクレスを引き寄せ、そして右手で渾身の一撃を叩き込む。LEDライトは、燃えるように砕け、跡形もなくなった。


 ダモクレスを倒した後、ケルベロス達は戦いの跡のヒール作業に勤しんでいた。
「うむ。この抉れた木はこんなもんで良いかのぅ」
 アデレードはヒールで直した木を確認し、満足げに頷いた。
「深夜じゃなくて良かったの……」
 安心して小さく息を吐きながら、彩希は小さな穴を埋めていく。実はお化けが嫌いだったりする彩希としては、今回の依頼はある意味ギリギリだったらしい。そんな彩希を元気付けるように、アカツキは彩希の足元をぐるぐる回っていた。
 一応大雑把に分別されていたらしい廃棄家電置き場だが、先の戦闘で少し山が崩れてしまっていた。
「この電子レンジ、こっちでいいか?」
 飛ばされたり踏まれたりした廃棄家電の片付けをしていた巌は、最後の電子レンジを持って仲間にたずねる。
「うん。良い……と、思う」
 周りのヒールを終えた幽梨が頷くと、巌は廃棄家電の山の上に電子レンジを置いた。
 粗方ヒール作業が終わったのを見て、千晴はぐっと伸びをする。
「真っ暗になる前に帰ろうかしら。今の時期は日が暮れるのが早いし」
 残った仲間達にそう声をかけ、一足早く帰っていく千晴を見送った後、岳はダモクレスが消えた付近で目線を伏せる。
「倒す事でしかお救いできず、御免なさい……」
 まずはそう謝罪し、祈る。
「お疲れ様でした。貴方が力を尽くして下さったお祭りは、笑顔溢れる幸せな時間は、思い出として、皆さんの心の中で、いつまでも輝く宝石のようにあり続けるでしょう。地球の重力の元どうか安らかに」
 そんな岳の横に、エレスとアメリーもゆっくりと歩いていく。
「今年の夏は、色々とありました。楽しかった出来事が、たくさん」
 言いながら、エレスは夏の出来事に想いを馳せ、そして、祈る。
「貴方の様な裏方の機器が頑張ってくれるお陰で、楽しい思い出と共に秋を迎える事ができました。ありがとうございます。安らかにお眠りください」
 そんなエレスの横で、アメリーも口を開く。
「物に魂があるのならば……来世は、もっと長く大事にされますように」
 かわいそうな提灯を悼む言葉は、紺色の空の下、 森の中に静かに響く。幽梨はそんな仲間達の祈りに耳を傾けつつ、森の木々をぼんやりと眺める。
 夏の終わりと、秋の始まり。夏が賑やかなのは、ダモクレスになってしまった提灯のようなもののおかげなのかもしれない。そうして、楽しく賑かな記憶を残し、夏が去り、秋が来る。緑から橙や黄色に変わる木々は、季節の移り変わりを知らせてくれる。
 秋の初めの黄昏時、ケルベロス達は夏の終わりに想いを馳せながら、森を後にするのだった。

作者:あかつき 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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