秋波染まる黄金の泡

作者:六堂ぱるな

●Leb wohl!
 緩やかにU字を描くように配置されたブースでは、黄金や黒の麦酒がきめ細やかな泡をまといグラスを満たして人々の手へ渡っていく。好天に恵まれた週末のイベント会場は賑やかさを増して盛りあがっていた。だから少々騒々しいその場で上がった叫びが普通ではないと、人々が気付くには時間がかかったのだ。
 会場中央の大きなテントに空から飛来した巨大な牙が突き立ち、それが鎧兜をまとった骸骨のような三体の異形に分かれる。そして一斉に、悲鳴をあげた女性を斬り捨てた。
「ひ、ひい!」
 悲鳴が咽喉の奥でひっかかった男性を一刀両断にして、返り血を浴びたそれが嗤う。
『ク、ク、ハハハ! さあ、ワレらにドラゴンサマのタメのカテをヨコセ』
『ゾウオを、キョウフを、キョゼツをヨコセ!』
『ヨロコべ、オマエたちのグラビティ・チェインはヤクにタツ』
 人々が逃げ惑う。だがデウスエクスから逃げのびるには、人間の足では限界があった。
 一方的な虐殺は、動くものが居なくなるまで続くのだ。

●Prost!
 ビールといえばドイツ。それは新しいビールの醸造の幕開けを祝うために開催される秋のお祭りだ。今回よりによって竜牙兵が現れたのは、ドイツとの提携で行われるフェストの会場だった。
「……こいつは見過ごせねぇ事態ってやつだな」
 ぼそりと呟くアッシュ・ホールデン(無音・e03495)に力いっぱい頷いて、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)がぴょんと跳ねた。
「調査のお陰でわかったんですよ。お祭りで人がたくさんいたからですね、きっと!」
 美味しいビールと料理の出るお祭りを台無しにするとは、竜牙兵もいい度胸だ。
 だが会場に避難勧告をすれば、竜牙兵たちは別の場所へ向かってしまい、却って被害が大きくなってしまうだろう。いつものようにケルベロスの到着を待って、会場スタッフと警察が避難誘導を開始することになっているらしい。
「竜牙兵は三体いるんです。みんなゾディアックソードを使うみたいで、きっちりフォーメーションを組んでくるんで気をつけて下さいね!」
 会場中央の飲食用の大きなテントに突き立つ形で竜牙兵たちが降り立つ。包囲は容易だし竜牙兵たちも撤退することはないので、討ち漏らす心配はなさそうだ。
「なるほどねぇ。で、ねむの嬢ちゃん。大事なことを聞くが」
 普段からゆったりと余裕のある風情のアッシュの眼が、ここで初めて鈍く光る。
「フェストの会場にはどんなんが置いてあるのかねぇ」
「えっとですね、『老舗のピルスナーやシュバルツ、ヴァイツェン』が色々と、おつまみやお料理もたっくさんあるみたいですよ」
 苦みがしっかりして細かな泡の口当たりがいいピルスナー、フルーティで苦みの少ないヴァイツェン。麦芽をローストしたことで『黒』の名に相応しく、香ばしい香りとコクが特徴のシュバルツと、ビールは出店している10のブースでそれぞれ個性がある。もちろん呑めない人の為にソフトドリンクも用意されていた。
 パンフレットを覗き込んだねむがぱっと表情を輝かせる。
「ラクレットがけのフライドポテトとかシュニッツェルとか美味しそうですね! わわ、本場のプレッツェルとか、ブラウニーとか、お菓子もあるんですね!」
 定番のおつまみであるヴルスト(ソーセージ)とザワークラウト、変わったところでは焼いたアーモンドに砂糖やシナモンをまぶしたマンデルというお菓子もあった。
「さあ出発ですよ、ゴーなのですっ!」
「……あれ、俺今日空いてたっけかねぇ」
 ポケットから愛用の銀色のシガーケースを取り出しながら、アッシュが首を捻った。
 他に火急の用事がなければ向かってもいいだろう。竜牙兵という厄介事さえ片付けば、魅惑のビールと美味しい料理が待っている。


参加者
鈴代・瞳李(司獅子・e01586)
ズミネ・ヴィヴィ(ケルベロスブレイド・e02294)
アッシュ・ホールデン(無音・e03495)
玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)
グレイシア・ヴァーミリオン(夜闇の音色・e24932)
アミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)
アイザック・オルティース(ルカン・e46078)

■リプレイ

●フェストの前菜は短めになりました
 巨大な爪が会場に突き刺さる。響き渡る警報にパニックになりかけた人々は、一斉にヘリオンから降下してきたケルベロスたちを見た。
「楽しくて美味しいイベントを邪魔するなんて、わたし達が許さないよ!」
 手のひらサイズの天球儀のスイッチを押しこみながら、マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)が宣戦布告した。飛び散った星が次々と誘爆して竜牙兵が巻き込まれる。次いでラーシュが浴びせたブレスから、一方の竜牙兵がもう一方を庇った。こちらが庇い手のようだ。
「見事な秋空に無粋な暗雲とは。綺麗に散らしてみせるとしようか」
 鈴代・瞳李(司獅子・e01586)が構えた縛霊手の掌底から眩い光が撃ち放たれ、庇われた方の竜牙兵を吹き飛ばす。転がる骸骨のような身体に、アッシュ・ホールデン(無音・e03495)の紫煙がゆらり流れていった。
「手繰る糸は手繰る意図。抗うならば足掻いてみせな」
 またしても庇い手の竜牙兵が立ち塞がった。蛇のように絡みつく紫煙は揮発する毒。
 苦悶する隙にアイザック・オルティース(ルカン・e46078)はグラビティを集中させた。言葉、音に込められた力が、障害を打ち破る力を引き出していく。
「疾れ」
 湧き上がる力にマイヤがアイザックを振り返り、サムズアップ。
「アイ、ありがとー!」
『ジャマをするカ、ケルベロス!』
 怒号などお構いなし、彼女の相棒の撫子がスピンして竜牙兵の足を轢き潰した。狙撃手の竜牙兵が振りかぶった剣撃はアッシュの首を落とさんとしたが、火線に割り込んだ玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)が代わって引き受ける。その間にアミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)がビオラの花咲く髪を揺らして人々に警告した。
「ここはあたし達ケルベロスに任せて! 美味しい時間を必ず守ります!」
「どうかお気をつけて!」
 逃げ去る中にもケルベロスを気遣う人はいた。テントの屋根を蹴ったアミルが、中空から竜牙兵に重い蹴りを食らわせる。
「一刻も早くやっつけちゃいましょ。あたし達にはヴルストが……人々の声援がついてるわ!」
 おっと。はばたいて前衛に加護をまとわせた相棒のチャロは、しっかりしろとばかりにアミルの肩を前脚でとんとんした。
「大丈夫よチャロ、あたしは正気」
「覚悟してね」
 囁くようなズミネ・ヴィヴィ(ケルベロスブレイド・e02294)の声は艶めいて響いた。思い起こし力を奮い立たせるのは、かつての彼が放った言葉。
(「お前アンジェリカの声真似とかできる? あれ凄いエロくて。目を閉じて聞けばガチ萌えすると思うんだけど。な!」)
 ――次の瞬間、彼は物理的に星になった。いや、星にした。『右ストレートでぶっとばす』の名にしおう気迫は、後衛たちに加護を打破する力を与える。
「空気が読めないなら倒して退場させるのみだねぇ」
 竜牙兵自体を足がかりに宙を舞ったグレイシア・ヴァーミリオン(夜闇の音色・e24932)が呟くなり、星が落ちるような蹴撃は庇い手の竜牙兵を打ちのめす。
『カくなるウエはオマエたちカラ!』
 怒りの声をあげた竜牙兵が剣を振り上げ、星の輝きを冷気に変えて前衛へ叩きつけた。氷に皮膚を侵されながら玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)もエリミネーターを構える。
「折角のお祭りを邪魔されるわけにはいきませんね。楽しんでいる人達のためにも、確実に撃破しましょう……!」
 薙ぎ払いは二体の竜牙兵をとらえ、その攻撃力を減衰させた。

 初手から厚い加護を仲間にかけ、攻撃手の竜牙兵へ攻撃を集中させた一行だったが、庇い手の竜牙兵によってダメージは分散した。だが手練れが数分もかければ、仕込みは済ませられる。
 戦況を俯瞰していたズミネは、仲間を癒す薬液の雨を降らせながら決断を下した。
「仕留めましょうか」
 その一瞬、瞳李とアッシュは阿吽の呼吸で庇い手の竜牙兵を挟撃した。縛霊手で殴打を見舞い、同時にしかけた霊力の陣で自由を奪うや、毒液は揮発し漂う毒煙となって竜牙兵を捉え呑み込む。
「こういうお祭りごとって楽しい声で賑わうからいいんだよぉ? 恐怖の声で賑わっても楽しくないでしょ? ったく……憎悪とか恐怖とかやめてよねぇ……」
 もがき苦しむ竜牙兵に、Ghiacciaioを携えたグレイシアがにやりと笑った。
「その首、掻っ切ってあげるよ」
 放たれたのはチェーンソーにも見える一対の槍が繰り出す、無数の刺突。竜牙兵の頭蓋がとび、崩おれる体と共に塵となって消える。
『おお、おのれ!』
 怒り叫ぶ竜牙兵へユウマは簒奪者の鎌を放った。回転する刃が骨じみた体を砕き裂き、彼の手元へ戻ると同時に、高く跳んだアミルがルーンアックスを頭蓋に叩きつけた。
「食の楽しみもないんだもの、デウスエクスは寂しいわねぇ」
 割れんばかりのダメージは、チャロのひっかきで更に深まる。破れかぶれの竜牙兵がユウマを狙ったが、彼はエリミネーターで鮮やかに受け流した。
「そんな攻撃に当たるほど鈍ってはいませんね!」
 その後ろでマイヤが羽ばたいて翼を広げる。ラーシュの体当たりで足が止まった隙に、罪そのものを焼き尽くすような聖なる輝きが迸り、身を焼く炎と身を蝕む氷に覆われた竜牙兵は膝をついた。
『ワがナカマを、オマエたち……!』
 取り残され憤る竜牙兵に、アイザックが厳然と告げる。
「アンタ達にくれてやる物なんて何一つ無いわ、それに誰も倒させない」
 歌声はデバイスで増幅され、幾重にも響きが重なっていく。定めからの解放を求める歌は竜牙兵の攻め手を封じ込めた。
「文句があるなら掛かってきなさいな、三下風情が」
 もはや戦局は覆らない。アッシュの夜鴉が狙撃手の竜牙兵を切り裂きトドメをさすのに、それから二分しかかからなかった。

●フェストをお楽しみください
 会場の被害は屋台が三台吹っ飛んで、アスファルトに豪快な穴があいた程度で済んだ。そのためヒールが済むとフェストはすぐに再開された。
「さて、折角だし祭りを堪能していくとしますかね」
「オレも行くよぉ」
 瞳李と二人で力仕事を片づけたアッシュが息をつくと、屋台を若干ファンシーに生まれ変わらせたグレイシアが笑った。
「聞き慣れない言葉が多いですね」
 メニューの内容に戸惑うユウマの横で、マイヤがため息をついた。
「いい匂いがするから、お腹が減ってきちゃった」
「ああ、大変だわ。こんなに魅力的な肉料理が並んで……!」
「あのララバイさん。よだれが」
 とても控えめにズミネがツッコんだが、アミルの耳には入っていない。 屋台に並ぶドイツ自慢の肉や芋料理、鉄板の上で焼けるヴルストやシュニッツエルの香ばしい香り。
 10ある屋台それぞれに個性の違うピルスナー、ヴァイツェン、シュバルツがある上、フルーツを使ったビアカクテル系もあってどれから飲むか迷うところだ。
「好みとしちゃピルスナーかシュバルツだが……」
「私はヴァイツェンかな。ああでも、まずはヘレスで慣らすもいいし……」
「どのビールが一番美味しいか飲み比べとかしたいなぁ」
 グレイシアのぼそりとした呟きに、ザルを通り越してワクの類のアッシュとそこそこ強い瞳李は顔を見合わせた。
「折角の機会だし飲み比べしときたいとこだな」
「なるほど、飲み比べか。乗った」
 気のせいだろうか。今、飲み比べの意味が若干ズレた気がする。気のせいだよね。
「皆ビール飲むの? いいなあ……」
 混ざれないマイヤが残念そうで、瞳李は考えた末にぽんと手を打った。
「アプフェルショーレがシャンパンみたいでオススメだぞ」
 簡単に言えばリンゴジュースの炭酸水割だ。せっかくのフェスト、普通のジュースよりそれっぽい飲み物がいい。
「あぷふぇ、アプフェルショーレ? わあ、美味しそう、飲む!」
「ビールの味の違いはよくわからないので、自分もそれにしますね」
 マイヤだけでなくユウマも気に入ったようだ。
「ヴルストとかシュニッツェルとかポテトとかヴルストとか頂きましょうね!」
 ヴルストが2回出てきたアミルが、ジョッキを受け取りながらぐっと拳を固める。
 呑む前にお土産を確保したいアイザックは、一通り屋台を試食して回った。買っては撫子に積み、また買って。ふと振り返ると、お土産が撫子の上に小山を成している。
「……えっと、流石に少し買い過ぎちゃったかしら?」

 瞳李とアッシュ、グレイシアはいいテンポで飲んで、時折ビール談義をしている。
「アミルやユウマは何食べてるの?」
 ラーシュを肩に乗せて興味津々に話しかけてくるマイヤに、ユウマは椅子を勧めて笑顔で歓迎した。
「ヴィヴィさんがべた褒めでしたので、ヴルストを」
「本場の方が作られたものね。とても美味しいのよ」
 同じテーブルでズミネも太鼓判を押す。彼女と屋台の主の話を聞いて、興味がわいたユウマも買い求めてみたのだ。長いクルムバッハ風やカレー粉をまぶしたカリーヴルスト、テューリンゲンの少し辛いものなど色々ある。
「ポテトの他にヴルストにもチーズ掛けたら、もっと美味しくなるかも?」
「間違いないわ。お肉にチーズが美味しくないわけがないもの」
 マイヤに頷くアミルの前にはヴルストとシュニッツェル全種類、アイスバインにフライドチキンばかりか、牛タンや合鴨のスモークも並んでいる。うん、全部肉。
「これ全部食べられるの?」
 横の椅子で呆れた顔のチャロをよそに、細い肢体と皿を見比べて目を丸くする少女にアミルは肩を竦めてみせた。
「逆に考えて? 皆さんが食べてなさすぎなのよ、番犬は体力つけなきゃ」
 肉料理は片っ端からヴァイツェン片手の彼女の小さな口の中へ消えていく。香辛料の香りが食欲をそそるアイスバインはユウマも気に入ったようだ。
「これはほどよい塩味ですね」
「このザワークラウト、よく漬かってます。どこで手にいれました?」
 屋台へ行ったズミネが売り子の女性と話している。酢を使わないのに酸味があるのはよく発酵しているからだ。酸っぱさが肉料理の脂を消し去り食欲を増進させる。
「へえ、あなたが? 見事、いい塩梅の出来です」
 朗らかなズミネの声を聞きながら、アミルはカリカリに揚がった仔牛のシュニッツェルにナイフを入れつつ微笑んだ。
「勿論スイーツも忘れないわよね、女子の皆さん!」
 目をきらきらさせてネタを振る彼女に、女子一同が重々しく頷いた。
 チョコレートどっしりのブラウニー、ビールを使った大人のプリンも気になるし、ローストアーモンドをキャラメリゼしたマンデルも買っていかねばなるまい。
「マイヤ! 飲んでるかー?」
 ひととおり飲みたいビールやカクテルを味わった瞳李が、飛びつくようにしてマイヤとアイザックをハグした。
「わあ!」
「わっ!?……ご機嫌ですね」
 マイヤが歓声をあげ、ちょうどシュヴァルツをあおったところだったアイザックが目を丸くしたものの、笑ってハグで応えた。
「うんうん飲んでるよ! これ甘くて飲みやすいの」
 アプフェルショーレがすっかり気に入ったマイヤはもう二杯目。炭酸は重めの食事の後味をすっきりさせるのにもいい。
「相変わらず可愛いなー。ちゃんと食べてるか?」
「うん。ラクレットのかかったポテトフライも美味しかったよ! ヴルストのサンドイッチも!」
 ぱりっと焼かれたニュルンベルクのヴルストのジューシーさは驚きで、肉ともチーズとも相性のいいポテトも格別。小さなヴルストに甘いマスタードをたっぷり塗って、掌ほどの小さなパンで挟んだサンドイッチは幾つもいける。
「皆いい飲みっぷりで楽しいな」
 美味しいビールと仲間との時間を満喫できて、瞳李も気分がいい。

「っと、食い物も結構あるが……さて、土産にするにゃ何がいいかね」
 旅団の仲間や娘に買っていかなければ。ズミネを見つけて近づくと、彼女は屋台の売り子にヴルストを褒めちぎっているところだった。
「ふふっそれは見事。このヴルストなど絶品です」
 屋台をのぞくアッシュの横に、ひょこりとマイヤが顔を出す。
「お土産探し?」
「マイヤの嬢ちゃん、気になるのあったら言ってくれりゃこっちで出すぜ? その代わり、土産によさそうなのあったら教えてくれりゃ助かる」
 あげる相手が判ったマイヤはふふっと笑みをこぼした。
「きっと、甘いお菓子なら喜んでくれると思うな。いちごブラウニーとか試食あったよ」
「試食は大事だものね。マイヤちゃんも一口どうかしら?」
「わあ、嬉しい!」
 お酒の合間にブラウニーをつまんでいたアイザックが一切れ差し出す。それを見ていたグレイシアが問いかけた。
「あっちの屋台にも試食あったかなぁ?」
 アイザックがええと頷きを返す。鼻歌まじりにテーブルを立つグレイシアと入れ違いで、上機嫌の瞳李がやってきた。
「ほら、アイもラクレットかけ生ハムも美味しいぞ?」
 つまみ・オン・ラクレットをあれこれ試しているようだ。瞳李から生ハムのトレイを受け取ったアッシュは、撫子に山積みのお土産の中にもブラウニーの包みがあるのに気がついて、穏やかな笑みを浮かべた。
「アイの嬢ちゃん、そりゃうちの娘への土産か? いつも遊んでもらっててありがとなぁ」
「此方こそ、素敵な娘さんと遊ばせてもらえて嬉しいわ」
 アイザックが笑みを返す。土産と聞いた瞳李は、ラクレットがたっぷり乗ったポテトフライの皿を彼に押しつけた。
「このチーズを土産にしたら娘も喜ぶだろうし、試食は大事だぞ」
「ああ大事だな」
「アッシュも酒ばっかりじゃなくて食べろ食べろ。食べないとお前もハグの刑だぞ!」
「ハグの刑ねぇ……? やってもいいが後で照れで自爆しそうだけどな」
 記憶が飛べばまだしもだが、彼女はそれほどお酒に弱くない。明日の反応を見たい気もするが、さて、と微笑むアッシュの横でアイザックも悪戯っぽく笑った。
「……面白そうだし私も混ざろうかしら、なんてね」
 仲間たちの騒ぎを背に、グレイシアは真剣にお土産になりそうなものを吟味していた。
 姉が喜びそうなもの。甘いものやヴルストもいいかもしれないが、屋台の一番端には直輸入のディアンドルネックレスも並んでいる。デザインはいかにも可愛らしくて、グレイシアの悩みは更に深くなった。

 人を脅かす魔は朽ち、黄金の酒の泡とともに消えるのみ。
 人々の楽しげな喧騒の中、ケルベロスたちも実りの味を楽しんで帰ったのだった。

作者:六堂ぱるな 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
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