アリス・イン・カタナフィールド

作者:弓月可染

●アリス・イン・カタナフィールド
 突然に。
 そう、実に突拍子もなく、アリス・オブライエン(シャドウエルフのヘリオライダー・en0109)はこう宣った。
「『天誅』って、素敵な言葉ですよね」
 無論の事、そんな台詞をいきなり聞かされた周囲の者達は呆気に取られるばかりであり――困惑の視線に気づいたアリスが慌てて説明を始めるまでの間、生暖かい沈黙が場を支配する。
「あ、その、時代小説をいくつか読んだのです。幕末が舞台の」
 要するに、乱読気味の読書家である彼女が幕末剣豪物に手を出し、すっかり影響されてしまった、というところか。華奢な少女が動乱の時代を駆け抜けた英傑に想いを馳せる、それは微笑ましい風景であるはずだった。
 だが、幾人かは知っている。このヘリオライダーは意外にも、いきなりスポーツチャンバラを始めたり、ケルベロス達の実戦訓練に参加しようとしたりする、外見に似合わぬ行動派であるという事を。
 つまり。
「……と、いうことで、皆さんも幕末に行ってみませんか?」
 ――ほら、始まったぞ。

●天誅!
「もちろん、幕末と言ってもタイムスリップする訳じゃありません。幕末の京都をモデルにした、テーマパークの催し物なんです」
 昨今の幕末ブームに合わせ、映画の撮影にも使われるテーマパークで行われているイベント。それは、幕府派または討幕派の志士に扮し、京都を模した町で出会えば斬らんの剣戟を繰り広げる、大チャンバラ大会だった。
「刀や槍、あるいは棍棒や薙刀。得物は全部ウレタンですから、叩いても平気です。けれど、結構ずっしりと重いので、本物の武器に近い感覚なのだそうですよ」
 一般人も参加するイベントだが、ケルベロスの数が揃えば時間を区切って貸し切りにも出来る。だが、その場合であっても、普段自分が使っている得物の持ち込みは不可。当然ながら、グラビティの使用も禁止だ。
「貸し切りに出来るなら、本当は、西洋剣や銃があっても構わないんです。けれど、皆さんの武器を持ち込むと、私が参加できなくなってしまうので……」
 そこだけは申し訳なさそうに告げるアリス。けれど、皆で参加できそうだと思えば、浮かぬ顔も柔らかく緩んで。
「ちょうど、文化の秋、スポーツの秋、ですから」
 小さな声で、天誅しませんか、とはにかんでみせた。


■リプレイ


「拙者、名乗る名など持たぬ素浪人――なれど」
 いざ尋常に、勝負。
 そう得意満面に見栄を切ったゼレフに、景臣は得物と噛み殺しきれぬ笑いを向けた。あれは褒めて欲しい目だ、多分時代劇でも勉強してきたのだろう。
 それならば、と景臣は声を張る。
「名も名乗らぬ無礼者、この刀の錆となれる事を光栄に思いなさい」
 それが合図。先に踏み込んだのは、浅葱に染め抜かれた羽織の景臣だ。斬るというよりも叩きつける様な太刀。辛うじてゼレフが初撃を弾けたのは、鉈にも似た厚手の刀故か。
「……流石本職」
 そう呟いて、銀髪の素浪人は刀を右に傾ける。死角への警戒――いや、牽制か。相対する男も意図に気付いたか。
 瞳の藤色を、喜悦に染めた。
「その太刀筋と泣き黒子、噂に聞く藤守組隊長か!」
「藤守組……こほん、無名と言えど貴方も中々の腕前で」
 生き残るは唯一人。この一撃にて――いざ!
「元刀剣士の力量をお魅せしよう」
 艶やかなる藍の浴衣。ディークスが上段に刀を構えると同時に、白く抜かれたフェネックが身じろぐ様に歪んだ。
「えぇ、一騎打ち、と参りましょう」
 浪人姿のレフィナードもまた、中段に槍を構える。しん、と張り詰める空気。一交で仕留める、という必殺の気迫。
 ぴたり剣先と穂先が向き合い――踏み込む。たん、と地面を蹴ったのは同時だった。次の瞬間響く、ばこーんと鳴る軽い音。
 振り返る。目が合う事数秒、思わず二人は噴き出した。
「そういえば、昨日誕生日でしたね。改めておめでとうございます」
「ああ、ありがとう。レフィ」
 いつしか、満ちる闘気はどこかに消えていた。
「強襲時間北極熊!」
 その近くでは新選組同士の決戦がいきなりクライマックスハイであり怪獣大戦争。
 レイドタイム・ホッキョクグマという叫びと共に、千が柄の先で強引に吾連の刀を払い、石突を突き込んだ。
「――流水ノ形!」
 だが、彼は返す刀を下から合わせ、反りで石突の勢いを流す。名付けて『スルースキル』――しかし、吾連の掌は衝撃を逃がしきれてはいない。
「流石、最強の動物技使い……! よし、俺の全てをこの一撃に賭けるよ!」
「吾連も格好良いし手強いのだ! いざ尋常に勝負である!」
 暫時見つめあう二人。そして。
「究極銀河西郷どん愛犬(アルティメット・ギャラクシー・ツン)!」
「逆鱗起動・終末(げきおこスティックファイナリ……)痛っ!」
 高速の穂先が、吾連の胸を突く。敗因――舌噛んだ。

「というわけで首よこせやイッヌぅー!」
「ぎゃー、何が『というわけ』ですか!」
 名乗るは副長、鬼の白羽。黒を好む佐楡葉も、今日は薄藍の羽織を纏って先陣を切る。そのいじめっ子っぽい瞳が捉えるのは、大太刀を担いだ秋津彦だ。
「幕末にバーサーカー登場ですぞー!?」
「あれは、いっそ囲んで叩いてしまえばいいんじゃないでしょうか?」
 さきがけの騎士の二つ名に反し、そんな事を言い出すアシュリー。色の褪せた着流しでも妙な可愛さがある所こそ、メイデンの真骨頂という事か。
「しかし、それでは幕府の狗の様ではないか」
「気にしない気にしない。勝てば官軍です」
 意外にも役に入り込んでいるシュネカに、あまり設定を固めていないアシュリーがけしかける。それもそうだな、と竜人の少女は凛々しく頷いて。
「目にものを見せてやろう。天誅!」
 佐楡葉へと斬りかかるシュネカ。だが、その前にシュラが立ち塞がる。
「名付けて、衝角の打ち――!」
 下段から刀を跳ね上げる、八尺の棍。
「油断があったな、竜人の子よ」
 絡み合う視線。が、その間に騒々しい二人が突っ込んだ。
「ワシは一本槍のペイ助! 智慧捨徒ー!」
 薩摩訛りの新選組がチェストと叫んで槍を突く。そんな矛盾の塊のペインが相対すは、襷掛けに袴の絢爛なる少女剣士。
「天才美少女妖剣士、千鳥ちゃん参戦です!」
 テンションを上げに上げた千鳥の二刀がびゅんびゅんと風を切る。
「ひゃっはー! 首置いてけ―!」
 縦横無尽に跳ね飛び回る彼女に、槍の間合いを活かせぬペインは防戦一方で。
「うおおお! 燃えるのじゃ怒倭亜不魂!」
「そうだよ、後ろに退く新選組じゃない」
 ぶん、と重く弧を描いた薙刀の一閃。遅れて舞う髪は螺鈿の輝き。千鳥をいなしペインを助けたティユは、そのまま秋津彦を迎え撃つ。
「そこに見えるは近藤ティユ! いざ、手合わせ願いますぞ!」
「白羽の剣を潜り抜けたか秋津彦!」
 薙刀と太刀が交錯する。彼の放つ尾神一刀流奥義『切り落とし』の一撃が、ティユの得物を弾いた。
 だが。
「来るなら来い! 一刀両断してやるよ!」
 勢いのままにぐるりと巡り、振り抜いたティユ。ずばん、と音を立てて秋津彦が叩き落された。
「ふぇー、みんなやるなぁ……」
 激闘に目を丸くするアシュリーだが、彼とて見ているだけではない。具体的にはバーサーカー狩り。
「そこっ!」
「っ! 突っ走ると孤立しますねコレ!」
 アシュリーの鋭い貫銅を間一髪で受け、しかし佐楡葉は足を止めた。
「意地が命より重い者だけついてき、あうっ」
 そして止まったら的である。格好も付けられずぽこぽこ袋叩きにされる佐楡葉。
「局長……ワシは、勇猛じゃったか? 男前じゃったか?」
「千鳥ちゃんは戦場の風となるのです、びゅびゅーんと!」
 がくり倒れたペインを背に、新たな敵を求める千鳥。そして、シュネカとシュラの戦いも、終わりを告げようとしていた。
「怯むものか、いくぞ棍棒使い!」
「攻めてこい、全部受け止めてやるぞ!」
 呵々大笑するシュラの懐へと飛び込み、横薙ぎに斬るシュネカ。その頭上から、唸りを上げて棍が振り下ろされ――。
 ぽこんと鳴った。


「今は亡き太閤殿下のために、豊臣の世は私が守る!」
 創英の前に現れた、がしゃがしゃと甲冑を鳴らす鎧武者。精一杯奇襲のつもりらしいエリザベスが、高らかに名乗りを上げて道を塞ぐ。
「まるで隠れてはいないし、石田三成が剣豪だったとも聞かないが」
 彼女の台詞からモデルの当たりを付け、大方時代を混同しているのだろうと察する創英。それ以上はあえて触れず、彼はぴたりと左平突きの型を構えた。
 その切先が示すのは、金髪の鎧武者ではなく。
「まったく、前に出過ぎじゃき。……おんしゃあ間合いどころじゃないが」
 エリザベスの前に出た、一人の浪人。その腰には未だ鞘から抜かぬ刀。腰を屈め、地を払うような姿勢を取った真也が、蒼髪の剣士に狙いをつける。
「石田治部だって強いんだから! 創英、お覚悟ー!」
 侮られたと感じたか、いきり立つエリザベス。だが、その背中を叩きつける様な衝撃が襲った。
「赤城の山も今宵限り、虎徹ちゃんは良く斬れる!」
 それは、棒高跳びの様に跳んだエステルの槍。柄で殴って崩す事を狙った彼女は、身軽に距離を取ったかと思うと無防備な背に穂先を突き入れる。
「天誅ーっ!」
 黒いだんだら羽織から伸びた細い腕に伝わる衝撃。楽し気に細められる柘榴石の瞳。エステルの穂先を、片手で背に回したエリザベスの刀が受けとめていた。
「片手で受けるとは流石……さあ、私達も始めようか」
「幕府の人斬り犬が、このワシを斬れるか――見物じゃ」
 そして男達もまた。神速の突きと不可視の居合が交錯する――。

「ふふふ……今宵もこの妖刀団長殺しが血に飢えています」
「た、頼もしいけど殺さないでね!?」
 冗談ともつかないリートの台詞に、隊長役の千鶴が顔を引きつらせる。だが、これから始まる戦いの予感は、彼女を高揚させていた。
「さ、来たね……やるなら徹底的に勝ちに行っちゃお!」
 見れば、とてて、と走って来る少女の姿。見慣れたうずの耳の向こう、幾人かの浪士の姿が現われる。
「せ、先生お願いします!」
 思ったより必死な様子のうずが駆け込む先は、あまり体格の変わらない涼香の背。だが、ずい、と前に出た彼女の得物は、侮れぬ威容を示していた。
「はっはっは。どぅれ」
 無表情にぶん、と振り回すまさかりは、ウレタンなれど当たればただでは済まぬ迫力。双方の陣営からおお、と声が漏れる。
「やられたい相手からかかってきなさいー」
「なら、あなたはわたしがお相手するわ」
 果敢に切り込むは洋装のカタリ。フランス風の軍服を靡かせる彼女は、ここは喰い止めます、と背の少女たちに言い残す。
「わたしは安達原カタリ、改めて土カタリ歳三よ!」
 涼香の懐に飛び込まんと加速するカタリ。だが、彼女は何かに気付いたかの様に刀を脇に立てた。一瞬の後、二本の小刀が刃を叩く。
「釣り野伏に気付いたか?」
 それは、身を潜めていた帷が千鶴の目配せを合図に仕掛けた奇襲。本職の忍者そのままの身のこなしで距離を開け、再びカタリを狙おうとして。
「くっ、油断か」
「まさか卑怯とは言うまいな?」
 その帷を襲う黒袴。我関せずの風情で堂々と通りを歩いていたラハティエルが、突如太刀を抜き放ち斬りつける。
「敵前逃亡は切腹! 殺伐とした幕末なのにイイ感じの奴等も全員切腹!」
「……奥さん居ませんでしたっけ?」
 ラハティエルに突っ込みを入れて、アリスもまた細身の刀を構えた。京華とミリムが追いつき、その両脇に並ぶ。
「じゃあ千睡さん、あっちは任せた! やっちゃえ!」
「ははは、討ち取られんようにせねばなぁ」
 軽々と大太刀を振り回す、精悍なる豪傑。手加減無用とばかりに三人へと斬りかかる千睡の剛剣が、迎え撃たんとしたアリスの得物を弾く。
「いざ尋常に、天誅!」
「待て待て待てー! 御用改めである!」
 いささか時代の異なる名演と共に飛び出したのは京華。割って入って短刀を構え、しかし流石に受け流すには厳しいかと思い知らされる。
「こ、こうなったらやってみせるよ!」
 唸りを上げて振り下ろされる大太刀を、すぱん、と両の掌で受け止める。これぞ真剣白羽取り、奇跡的に成功した京華の方が目を丸くする有様で。
「ぬうん!」
 そのまま力ずくでぶん投げられるのである。それを唖然と見るアリスの背から、かけられる一言。
「――後ろから失礼」
 はっ、と振り返った時にはもう遅い。普段のボディーブローの代わりに小刀を構えたリートが、紫の瞳をにぃ、と歪ませる。はい一本、と軽く突き刺そうとして。
「人斬りめ、天誅!」
 体当たりする様に突っ込んできたミリムをがっしと受け止める。リートの戦術ならば避けたいところだが、生憎今逃げれば千睡が囲まれてしまうのだ。
「大網さん、こっち!」
「リート様……!」
 短棍を握りしめたうずが、この乱戦に助太刀すべく戦場を駆け抜ける。囮を務める程の足の速さ。小柄な身体を活かし、するり、と邪魔な敵味方を掻い潜って。
 ミリムへと走り寄るうず。けれど、其処には助けられたアリスが刀を構えている。
「通して下さい!」
「通しません!」
 両陣激突する乱戦。その只中で、ただ一人千鶴だけが敵に狙われてはいなかった。
「もしかして私何もしてない?」
 だが、その台詞がフラグだったか、突っ込んでくるラハティエル。
「大将首を御所望で?」
「やはりああいうやり方は私には似合わんよ。正々堂々たる戦いこそ戦場の華!」
 ぶつかり合う太刀と太刀。楽し気に頬を紅潮させる彼に、千鶴はくすりと微笑んで。
「勝ったら焼肉食べに行こう!」
「それは、力が入りますね!」
 無表情にそぐわぬ弾んだ声で、斧を叩きつける涼香。この難敵に挑むのは、西洋剣を刀へと持ち替えたミリムだ。
「未李武流、壱の太刀! 天誅」
 頭上がから空きの涼香を襲う兜割り。だがその、ずばん、と振り上げられたまさかりに捉えられ。
「やーらーれーたー」
 錐もみ回転ですっ飛んでいく姿を見送りながら、カタリは周囲を確認する。千睡には再び京華が。ならば斧の相手はまたわたしかしら、と息を整えて。
「京の都でのヒトごろしごっこ。もう少し楽しみましょ?」
「旨い焼肉がかかっているのでな」
 死角から詰め寄った帷へ、なまめかしい視線を投げるのだ。


 殿方に負けないようにひみつの特訓をするのよ、と。
 そうはしゃぐ新緑の娘を、バンシーは弾んだ声で迎えた。
「レディにだって強さは必要だもの」
 殿方になんて負けないわ、と含み笑う。ええ、と返したセスの身体も、今日は随分と調子が良さそうだ。
「御話では……こんな感じかしら?」
「きゃあ! じょうずなのね、バンシー」
 触れるのも初めてな異国の武器。それでも薙刀を器用に取り回す年上の友人を、セスは手を叩いて褒めそやす。
「ふふ。嬉しいわ、セスさま。あなたの薙刀も、とても素敵よ」
 ――見惚れていたら、負けてしまいそうなくらい。
 ――今日は、いくらでもはしゃいでいられそう!
 揃いの着物に襷掛け。翠の女志士たちは、舞台の上で自分でない自分を演じ続ける。その傍らでは、見慣れた黒猫がのんびりと日向ぼっこ。
「おのれ、人斬りかっ!」
 物陰からの初撃を紙一重でかわし、フィストは腰に差した刀を抜いた。相対するはヴィクトル、彼女をねめつけるスカーフェイス。
「貴様に恨みはないが、死んでもらう」
「如何なる事情かは聞かぬが、まだ斬られる訳にはいかぬ」
 正眼に構えた浪人と、上段に得物を掲げた人斬り。攻める。攻める。斬り捨てんとするヴィクトルの殺気は、まるで演技を忘れたかの様で。
 押し込まれるフィスト。露になった隙。
「貰った! ――何っ!?」
 隙を突く者にこそ、真の隙が現れる。
 躍りかかったヴィクトルの脇を刺す、浪人の小刀。それが止めか、ぐ、と一声唸り、人斬りはその場に倒れ伏す。
 ――ありがとう、ヴィクトル。
 普段の柔らかい声が聞こえた気がして、地に伏した彼は唇を歪めた。
「さて、そろそろですか」
 赤地の絢爛、剥き出しの肌。薙刀を手にしているとはいえ、余りにも目立つ真理の花魁姿。流石に彼女を襲う者はおらず、ただ注目を浴びるばかり。
 いや。
「お命頂戴!」
 あえてその姿を曝したのは、黒の忍装束を纏ったくの一――マルレーネ。忍者刀とも言われる直刀を手に、屋根の上から襲い掛かる。
「……っ、お見通しです」
 だが、真理は片手で虚空を薙ぎ払って襲撃者を牽制し、大きく跳ねて忍者刀の間合いから逃れてみせた。一方マルレーネもまた、壁を蹴って薙刀を避け、そのまま派手なバク転で体勢を立て直す。
 そう、これは二人が仕組んだ大立ち回り。幾度かもつれ合う恋人達のダンス。
「お色気はくの一だけの技じゃないのですよ……ふふ」
 悪戯っぽくウィンク一つ、微笑んでみせる真理。その笑みは自分以外には向けられないと知っていたから、マルレーネは彼女の心を穿つべく駆け寄った。

「天に仇なす野良犬ども、裁きの時だ」
「あの、えっと、逆賊よ天誅を食らうがいい?」
 僕の考えた格好いいポーズ。
 常に微笑を絶やさないシィラも、キメたサイガを見て珍しく戸惑いを見せる。それでも律儀に真似をする彼女に、これだけで十分今日の価値がある、とティアンは喉を鳴らした。
「やるじゃないかサイガ」
「良いセンスじゃねーの狂犬」
 誰が狂犬だこのヤクザ、と毒づく先は、太刀を佩いた偉丈夫。そのキソラは、誰がヤクザだ、と佩いた太刀を抜き放ち。
「貴様らにこの神速の太刀筋が見切れるかな?」
 先手必勝、ぐん、と得物を叩きつける。迎え撃つサイガ。だが、余りにも勢いが違い過ぎ、まるで棍棒で殴りつけた様な音を立てて彼の刀はすっ飛んでいった。
「てめぇ、やってくれたなオラァ!」
「はいサイガ死んだ」
 思わず拳が飛ぶ彼と、ついでに蹴る姿勢になっていたキソラ。だが、死角から滑りこんだティアンが、手にした小刀をサイガに突き刺して。
「……ん、使い方が違うのか」
 逆手に突いたせいでひしゃげた小刀を捨て、今度は正しい持ち方でもう一本。サイガを救援に来たシィラの猛攻を、ティアンは間一髪で受け止める。
「カチコミってこんな感じなのかしら」
 大事なのは手数だ、と不慣れな刀を振り回すシィラ。乱暴な太刀筋は相手を圧倒し――だが、そこに突っ込んでくる質量の暴力。
「こ、これは無理ですね」
 思わず距離を取るシィラ。その時、目標を失ってたたらを踏むキソラに、回転しながら飛んできたウレタン刀が激突する。
「てかナニ投げてンの! てめぇ死んだだろ!」
「まだ死んでませーんセーフでぇーす」
 そんな二人を、仲の良い事だ、と肩を竦めて見やるティアン。ふと目をやれば、シィラが私達もやりますか、と目で問うている。
「当然。ティアンは負けず嫌いなんだ」
「ええ、気が済むまでやりましょう。負けたくないのは此方も同じですよ」

 天誅の声が響く、麗らかなる秋の一日。
 京都を模した街並みに、志士達の戦いはまだ終わらない。

作者:弓月可染 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月10日
難度:易しい
参加:38人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。