市街地に舞う獄混死龍の炎

■リプレイ

●死龍舞い降りる
　炎を纏い、全長１０メートルほどの死龍が和歌山県に舞い降りた。今にも崩れ落ちそうな姿は、痛々しくも感じられる。しかし、炎を吐き出し咆哮を上げる姿は、儀式を受ける前の猛々しい姿を思わせた。
「ダモクレスのメカ鮫、弱い立場の女性のエインヘリアル化、カツオとマグロの死神と来て……今度はドラゴンまで？　近頃のデウスエクス共は本当にどうなっているのよ……？」
　円城・キアリ（傷だらけの仔猫・e09214）がブツブツと呟く。
　とは言え、ぼやいてばかりもいられないと思う。ここまで色々な動きがあるという事は、何か良くない事が起こりそうな気がするのだ。
　その姿を見て、アリス・ティアラハート（ケルベロスの国のアリス・e00426）は沈痛な面持ちを浮かべる。
「ドラゴンさん……そんなお姿になってまで……」
　目の前の獄混死龍の姿は、それほどまでに痛々しい。
「死せる龍が己が命の最後に残りし炎を燃やして、人の営みをその炎で燃やし尽くさんとすか」
　矢野・優弥（闇を焼き尽くす昼行燈・e03116）は腕を組んで獄混死龍ノゥテウームの炎を見つめた。
「あまり上手くないね。言い回しも状況も」
　ここで食い止めることが出来なければ、街は火の海。多くの犠牲が出てしまう。それは、夢見が悪いと思うのだ。
「随分と醜悪な見た目だな」
　ノチユ・エテルニタ（夜に啼けども・e22615）はチラリとノゥテウームを見上げ、間合いを計りながら武器を手にした。
「こんな姿に身をやつしても、種族への献身に捧げるとは、敵ながら天晴というべきか」
　カルナ・ロッシュ（彷徨える霧雨・e05112）も、痛々しい死龍の姿をじっと眺める。
「でも、僕はそういうの、あまり好きじゃないですね」
　思う通りには、させない、と。
　仲間達と同様に木霊・ウタ（地獄が歌うは希望・e02879）も死龍の姿を見上げた。
「竜たちも必死なんだな」
　確かに、仲間達のために自分を犠牲にする根性は見上げたものだと思う。だが、自分達ケルベロスの牙は地球と命を守るためにあるのだから。
「負けられないぜ」
　ウタが言うと、伏見・万（万獣の檻・e02075）は顎に手を当て一度頷いた。
　ここから先に行かせるわけにはいかない。
　時間切れを待つのも性に合わない。
「って事で、さっさと畳んで喰っちまおうや」
　どうにもこうにも、マズそうな雰囲気でもある。
　ノチユが小さく頷いた。
「下手に爆発でもされたら困る。潰そう」
　何としても、被害は阻止しなければならないのだから。
「せめて……私達の手で……」
　アリスが胸の前で腕を組んだ。
「――勝つわよ」
　仲間を促すようにキアリが声をかける。
　ケルベロス達が戦いの場へ走り出した。
　月霜・いづな（まっしぐら・e10015）はミミックのつづらに持ち場を指示しながら仲間達の後ろに構えた。
「――お相手いたしましょう、あわれな竜のかた！」
　見上げる死龍は崩れそうな身体から炎を吐き出している。
　そして、戦いに入ろうとする仲間達へ声をかけた。
「みなさま――どうぞ、ご存分に！」
　皆を癒す役として、仲間を支えきる。
「ひとつとて、失わせはいたしませぬゆえ！」
　ケルベロス達は頷き合い、巨大な死龍へと立ち向かっていった。

●激しいブレス
　死龍を取り囲むように布陣したケルベロス達は、すぐに戦いを始めた。
　すでにできるだけ一般人には声をかけ、避難を促している。
　アリスはケルベロスチェインを地面に展開し、仲間を守るよう魔法陣を描いた。
「死神さん達……一体どんな実験を行おうと……？」
　疑問は多々ある。
　だが今は、目の前のノゥテウームの撃破を狙っていく。
　最前列で戦う仲間達に守りを与え、アリスは再び走り出す。
「なら、俺も強化からだなァ」
　万はアリスの動きに合わせて前衛の仲間達の背後にカラフルな爆発を起こした。爆風を背にした仲間たちが勢いづいたように敵に向かっていく。
　カルナは自らの魔力を圧縮して、不可視の魔剣を作り出した。また自爆のドラゴン。おそらく時間稼ぎのようなものだろうか。だが、思う通りには決してさせない。
「さて、楽しませてもらいましょうか」
　不可視の魔剣が空を舞い、ノゥテウームの身体を目指す。
「穿て、幻魔の剣よ」
　カルナの声と共に、死龍の身体を抉った。
　反対側からはノチユが敵との距離を詰めてきている。
「なんの為にその姿になったんだ？　それは、お前の意思か？」
　小さな疑問への返答はない。もとより、返答がないことは分かっていた。目の前の巨体との距離を更に詰める。今にも崩れそうな身体から漏れるように炎が渦巻いていた。
　かまわず地面を蹴る。死龍の身体まで跳び、狙い研ぎ澄まされた一撃を放つ。
「地獄の炎と混沌の水を司ったなら、僕らが送ってやるよ。――地獄が待ってる」
　そう言って、敵の身体へ攻撃をぶつけた。
「――ァ、アァアアアァアッ」
　ノゥテウームが吼える。身体を仰け反らせ、自らに向かってくるケルベロス達をはっきりと見た。
「炎が来るかもしれないわ」
　仲間に注意を促しながら、キアリはオルトロスのアロンに仲間を庇うよう指示を出す。同じく、優弥もすぐにビハインドのミズキシュターデンに盾になるよう促した。
「分かりました。さあ、私の後ろへ」
　アリスは急いで仲間を庇うように前へ出る。
　ノゥテウームは巨体をゆすり、大きく口を開いた。そして、炎を吐き出しながら首を振る。
　炎が戦場に降り注いだ。前衛の仲間たちは、炎の渦が目の前に迫ったようにも感じる。
「大丈夫でしょうか」
　背に庇われていたカルナが心配そうにアリスを見た。
　アリスが頷いて仲間に回復を求める。激しい炎が身体に纏わりつき、皮膚を焼いているようだ。
「了解よ。それにしても、さすがドラゴンね」
　分身の術でアリスを癒しながらキアリは周辺の炎を見た。知性が無く、ドラゴンとしては戦闘力も低めだと聞いていたが、炎のブレスの勢いは凄まじい。
「皆の回復は任せたわ」
　キアリがいづなを見た。
「はい。みなさまを、支えてみせます」
　頷いたいづなは全身の装甲から輝くオウガ粒子を放出し、傷を負った仲間へ向かわせる。光の粒子が仲間を包み込み、傷を癒した。守る力も付加されているというのに、炎で焼かれた傷は深い。
　癒し手二人は仲間の傷を確認し、互いの回復範囲を確かめ合う。８分間、仲間と全力で戦えるようにと。
　ケルベロス達は攻撃を受けても、攻撃の手を緩めない。ドラゴンの吐き出した炎を裂くように流星の煌めきが走った。ウタがエアシューズを煌かせ、駆けているのだ。
　地球に魂を引かれたのなら、そのまま定命化してしまえばよかったのにと思う。
「地球に抱かれたら、また違う風に命を、地球を感じられたろうにな」
　思い切り地面を蹴り、跳び上がった。
　目の前の死龍は何も答えない。
「ふん。抜け殻に何を言っても無駄ってか」
　その輝きで運命を切り拓くように、蹴りを炸裂させた。
　輝きがもう一筋、戦場を裂く。
「この邪法はどうも奴を思い出してしまう。ここは久しぶりに龍の力を以て龍を狩りますか」
　ドラゴンの頭上まで一気に跳び上がった優弥は、空中で足を回転させ落下する勢いも乗せて敵を蹴り上げた。
　獄混死龍ノゥテウームが唸る。
　だが、致命傷を受けたわけではない。それは、ケルベロス達も同じだった。
　激しい戦いは続く。

●戦い激化し
　ドラゴンの狙いが市街地に向かわないよう、ケルベロス達は攻撃の手を緩めることは無かった。敵の攻撃は苛烈だったが、そのたび庇い合い、回復し戦線を保つ。
「♪Flowery Princess Heart Style♪　――チェンジ・ハートスタイル……！　――♪Heart Strike♪」
　アリスがハートスタイルに変身する。スペードのAをスラッシュし、ドラゴンを斬り裂く。
　こんな姿になってまで、これがこの龍の望んだことだというのだろうか？　問いかけには、勿論返答は無い。
　獄混死龍ノゥテウームが身体を反転させた。
「おっと、まだ切り裂かれ足りねェってか」
　万は走って敵の身体を駆け上がり、己を構成する獣を幻影として呼び出した。足場は悪いが、敵の傷口はしっかりと見える。
「引き裂け、喰らえ、攻め立てろ！」
　万の掛け声と共に、飢えた獣達がノゥテウームの傷口目掛けて駆けていく。獣達は真っ直ぐ傷を狙い、容赦なく食らい付く。敵の傷が食い荒らされ、更に広がった。
　カルナは切り裂かれ、傷を負ってなお攻撃の姿勢を崩さない敵を見て口元に笑いを浮かべる。
「その醜い体で街に出られると皆さん驚きますから、すいませんが、ここから先は通行止めです」
　ドラゴニックハンマーを構え敵の身体の下から隙を突いて躍り出た。勢いを止めぬよう、思い切り武器を振り上げ一歩踏み込む。
　ドラゴンが身体を低くした。次の攻撃がくるかもしれない。構わず、ハンマーを振り下ろした。
　打ち付けた場所から、敵の身体が凍りつく。
　続けてノチユが武器に纏わせた地獄の炎を敵にたたき付けた。
「やっぱり、硬いな」
　手ごたえを確かめるように呟いた。敵の肉体を破壊するような攻撃は通りづらいと感じる。
　戦場を駆ける仲間を見た。仲間達も概ね同意見のようだ。
　その時、ドラゴンが自身に取り付いたケルベロス達を振り払うように身体をゆすり、尾の部分で薙ぎ払いをかけてきた。前衛の仲間たちは、庇える者は前に出て庇い、何とかやり過ごす。
「いづな、いける？」
「キアリさま、はい、みなさま癒せないほどの傷ではありません」
　キアリといづなは声を掛け合い、仲間達の元へ走った。
　前衛の仲間たちは、敵の攻撃を間近で受け、傷も積み重なっている。だが、まだ戦える状態を保ていると感じた。
　ケルベロスチェインを地面に展開し、仲間達を守るよう魔方陣を描く。魔方陣から湧き出た癒しの力が前衛の仲間の傷を癒し、盾となって仲間を守る。
　いづなは全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出し、仲間達を包み込んだ。
　二人で協力して回復しているので、過不足無く癒せていると感じる。ただ、どうしても癒せない傷は募るし、特に仲間を庇ってきたサーヴァントたちは多少不安は残るが……。
　それでも今は戦える。
　傷を癒され、走り出す仲間の背を見ていづなは、ほっと息を吐き出した。
　死龍もなお、戦い続けるようだ。
「命を守る俺達だからこそ、あんたみたいにあっさり生を投げ出す奴に負けるわけにはいかないぜ」
　そう言うと、ウタは紅蓮の輪舞を構えた。
「踊ってもらうぜ？　お相手は地獄の焔摩だけどな」
　武器を振り抜くと、断罪の業火がドラゴンを襲う。火の粉がきらきらと舞い敵を攻めた。
　次いで優弥が龍と六芒星の刻印された特製のシャーマンズカードを取り出した。
「古に伝わる八柱の龍王よ。汝が真名と魄の盟約において、命ずる」
　目の前の敵を見据え、朗々と詠唱を開始する。
「大いなる龍の息吹を以て、我が眼前の敵を滅ぼせ」
　優弥の呼びかけに応じ、八体の竜神が召喚された。龍王達が氷の嵐を巻き起こす。荒れ狂う嵐がノゥテウームを飲み込むように襲い掛かった。
　攻撃の手があるサーヴァントたちも、次々に攻撃を繰り出し敵の体力を奪っていった。

●ケルベロス達の猛攻
　４分、５分と戦いの時間が過ぎていった。
　死龍の攻撃は凄まじく、癒せない傷が徐々に増えていく。
　敵が再び口を大きく開けた。
「でっけエのが来そうだぜ」
　万が仲間に注意を促す。
　次の瞬間、ノゥテウームが後列のケルベロス達に向かって炎を吐き出した。
　盾役の仲間が庇いに走る。
「アロン！」
　キアリが短く叫んだ。
　仲間を庇ったアロンの体力がつき、消えてしまう。
「すぐに回復をお願いします」
　自分を庇った仲間を気遣い、優弥が声をかけた。回復の手段を持つ仲間たちが声を掛け合い傷を癒す。
　アロンは消えたがキアリはそれでもしっかりと状況を見据えていた。手元の特製リストウォッチを確認する。
　６分目。
「時間よ」
　仲間達に、合図を送る。
　瞬間、ケルベロスたちが強く武器を握り直した。
　最初の取り決め通り、回復を補佐していた仲間達も、一斉に攻撃に転じた。
「押し切れる」
　攻撃を繰り出しながら、ノチユは手ごたえを感じる。
　勿論自分たちも無傷ではない。サーヴァントも一体失った。だが、敵の体力も尽きかけようとしている。
　それぞれが、出し惜しむことなく攻撃を繰り出し、敵を押し始めた。特にノチユは敵の弱点を探り効率良くダメージを与えている。
　ウタたちが与えた悪い効果を万がどんどん増やしていったのも大きいようだ。
「――アア、ァ、ァアアア」
　ノゥテウームが吼え、薙ぎ払いをかけてくる。
　庇える者は庇い、何とかケルベロス達は戦場に立っていた。再び、敵に猛攻を浴びせかける。１分の間に、削れるだけ敵の体力を削り落とした。
　これまで仲間の命を支えていたいづなも、攻撃に参加している。
「われらが、野辺の送りとなりましょう」
　いづながそう言うと、半透明の『御業』が敵の身体を鷲掴みにした。つづらは素早く敵に近づくと武装具現化を使い追撃している。
「私だって……護られてばかりじゃないです……！」
　アリスも回復の補助を止め、攻撃を仕掛けた。
　ノゥテウームが苦しげな吐息を漏らす。
　あと一押しだ。
　ケルベロス達は確信する。
　最後に、カルナが跳び上がり、敵の真上からドラゴニックハンマーを振り下ろした。
「せめて最期は安らかに逝きなさい」
　身体には癒せない傷がたまっている。だが、そんなこと気にする素振りも見せず、超重の一撃で敵の身体を打ち砕いた。
「――ァ」
　ドラゴンは、最後に小さく呻き、消えていった。

　戦いの場をヒールしながら、思うところは様々だ。
　今度こそ、ゆっくりと眠って欲しい。
　敵であれ、力を尽くして果てたなら、安らかに。
　それぞれが思いを込めて、戦いを終えた。

作者：陵かなめ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年10月10日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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