病魔根絶計画~届かぬ想いの向かう先

作者:あかつき


 大学二年生の坂田・宏介はバイトの帰り、一人暮らしの自宅へと一人とぼとぼと歩いていた。手にはスマートフォンが握られている。高校の頃から付き合っている彼女に連絡を入れるために、画面をつけた。そして、スマートフォンを見たまま角を曲がったところで、とすんと肩に誰かが当たった。
「あっ、すいません。大丈夫ですか?」
 相手が、どさりと地面に倒れた。その衝撃で、被っていた広いつばの帽子が落ちる。その身体からは、至る所から腕に似た肉瘤が生えていた。
「宏介くん……待ってたよ。でもね、私、捻挫しちゃったみたい……。ねぇ、手当てしてよ」
「さ……桜井……お前、なんで」
 桜井・春子。同じ学部の、女子学生。何回も何回も宏介に告白をしてきては、何回も何回も断って、最近少し静かになったなぁ、と思っていた相手。でも、最近買い物に行ったスーパーで会ったり、電車に乗るときに会ったり、なんか変だなぁ、とは思っていたのだけれど。
「宏介くん、ねぇ助けてよ……起こしてよ。家、近くでしょ? 歩いて5分もかからないでしょ?」
「お前……まさか……」
 ストーカーしてたのか。それを察した宏介は、スマホを取り出し素早く警察の番号を入力し、発信ボタンを押したのだった。


「今回は、皆に病魔を倒してもらいたい。というのも、病院の医師やウィッチドクターの努力で、『悲腕症候群』という病気を根絶する準備が整ったからなんだ」
 雪村・葵は集まったケルベロス達に説明を始めた。彼が説明するところによれば、現在、この病気の患者達が大病院に集められ、病魔との戦闘準備が進められているらしい。
「皆には、この中で特に強い、『重病患者の病魔』を倒して貰いたい。今、重病患者の病魔を一体残らず倒す事ができれば、この病気は根絶され、もう、新たな患者が現れる事も無くなるそうだ。勿論、敗北すれば病気は根絶されず、今後も新たな患者が現れてしまうだろう」
 デウスエクスとの戦いに比べれば、決して緊急の依頼という訳ではないが、この病気に苦しむ人をなくすため、ぜひ、作戦を成功させて欲しい。葵は、ケルベロス達にそう言った。
「今回の被害者の名前は桜井・春子。彼女は同じ大学、同じ学部に通う坂田・宏介に片想いをしていた。告白もしたが断られ、それでも諦めきれない思いがエスカレート……、ストーカーと化してしまったという経緯がある。今でも彼女は病室で、宏介くんに会わせて、宏介くんに会いたい、彼もきっと私に会いたいと思ってる……早く彼に会わせて。春子さんは、そう言っているらしい」
 春子さんは、元々引っ込み思案で、大学に入学したときすごく不安だったようだ。そんな中、最初に声をかけてくれたのが宏介だった。
「この病気で重要なのは、患者の恋する対象への執着を薄めてあげること。事件の被害者となった男性の人格や立場などを踏まえて、『これこれこういう理由で、彼とは付き合わない方がいいよ』という説得を、患者が納得できるように行うことができれば、個別耐性を得られる。この『個別耐性』を得られると、戦闘を有利に運ぶことができる。個別耐性は、この病気の患者の看病をしたり、話し相手になってあげたり、慰問などで元気づける事で、一時的に得られるようだ。個別耐性を得ると病魔から受けるダメージが減少するので、戦闘を有利に運ぶことができるだろう」
 病魔は、恋心を燃やして攻撃してきたり、生えた腕を使って攻撃をしてくるらしい。なお、病魔の召喚は、もしメンバーにウィッチドクターがいない場合には病院の方で手配してくれるので、問題は無い。
「自業自得と言えなくもないが……それでも、病魔に苦しめられて良い訳はない。彼女を始め、この病気で苦しんでいる人を助けてあげてほしい」
 そう言って、葵はケルベロス達を送り出したのだった。


参加者
鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)
土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
舞阪・瑠奈(モグリの医師・e17956)
レッヘルン・ドク(診察から棺桶まで・e43326)
天羽・猫助(女好きの子供の護り手・e66435)

■リプレイ


「宏介くん……」
 医師と看護師に連れられたケルベロス達が、病室の扉を開ける。一番最初に見えたのは、正面のベッドの上で踞り、呪詛のように呟く桜井・春子の姿。
「宏介くん?!」
 扉の開いた音に勢いよく振り向いた春子は、ケルベロス達の姿を見て肩を落とした。
「宏介くんじゃ、ない。貴方達、宏介くんに会わせてくれる?」
 涙を流し、そう語る春子。聞いた通りの様子の春子に、ケルベロス達は互いに顔を見合わせた。
「なるほど」
 そんな中、最初に口を開いたのは、舞阪・瑠奈(モグリの医師・e17956)。彼女は振り返り、廊下で待機していた医師に言う。
「状況はわかった。では、他の医師や看護師達に、事が終わるまで部屋に入るなと伝えておいてくれ」
 そう言う瑠奈に、医師は眉を潜めた。
「わかりました。患者のことが、少し心配ですが」
 その場を離れようとする医師を、鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)が小声で呼び止めた。
「悪いんだが、あんたは廊下で待機しててくれないか? 病魔を分離したら、春子を部屋から逃がす。そしたら、春子を安全なところまで避難させて欲しい。勿論、あんたや春子さんに頼めるか?」
 ヒノトの頼みに、医師は大きく頷く。
「任せてください。では君は他の者達に病室に近づかないよう伝えてくれ」
 医師はそう看護師に指示を出し、自身は扉の横に立つ。それを見てから、ケルベロス達は病室へと足を踏み入れた。
「宏介くんに連絡を……スマホ、貸して?」
 ベッドから身を乗り出す春子に、土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)が一歩、また一歩と近付いていく。そして、ベッドの横まで辿り着き、春子に言う。
「なるほど、聞いた通り……貴女は、坂田宏介さんに思いを寄せておられるのですね」
 そう言う岳に、春子はゆるゆると首を横に振る。
「思いを寄せている? いえ、愛しているのよ。私は、宏介くんを愛しているの」
 確りとした口調でそう語る春子に、岳は首を横に振った。
「我々ケルベロスが調査したところによると、宏介さんはアンダーグラウンドの人間と付き合いがあって、女性を水商売とかいろんなところで働かせて、そのお金でパチンコ競馬とギャンブル三昧……お酒を飲んでは女性へ暴力を振るう、それが彼の正体なんですよ」
 つらつらと語る岳を、春子は静かに見つめている。勿論、宏介のそうした事情は全て真っ赤な嘘だ。そうした話をケルベロスという地位を利用して信じ込ませる事により、幻滅させて恋心を忘れさせる。それが、岳の目的だった。
「大学に来ているのは、得物となる女性を物色する為です。女性に優しく声掛けをしてそれをきっかけに絡めとる、それが宏介さんの手口なんです」
 岳がそこまで続けても、春子は何の反応も返さない。ショックで何も言えなくなったのか、それとも別の感情が内に秘められているのか。判断はつかないが、それでも岳は続ける。
「貴女も危機一髪でした、警察にマークされていたので告白を断ったようですが、そうでなければ貴方も餌食になっていました」
 言い終わり、岳が小さく息を吐いた、その時。
「ふふ……」
 春子が笑い出す。そして、心底面白そうに口許を歪め、言う。
「そんな事言って、私の愛を試すつもり? 私は宏介くんをずっと見てたのよ。宏介くんの事は全部知ってるの。あの性悪女に良いように騙されてた事も知ってる。宏介くんが、パチンコも競馬もギャンブルもやらないって事は、私が一番知ってるわ。それに、私は宏介くんの事を信じているもの」
 そういう春子は、清々しい程の笑顔を浮かべる。
「恋の病は草津の湯でも治せない……とはいいますが」
 この恋の病は、自分達でどうにかなりそうだ。レッヘルン・ドク(診察から棺桶まで・e43326)は一つ咳払いをし、春子を見つめる。
「ご存じだとは思いますが、残念ながら彼には彼女がいます。貴女とは付き合えないでしょう」
 レッヘルンは、真っ直ぐに春子を見つめ、そう告げる。先程、春子は宏介の彼女を性悪女と言っていた。その上で騙されている、と言ってはいた。それは一種の逃避に過ぎないだろう。本当は、彼女はしっかりと解っている。それを他人から指摘されれば、認識も変わるかもしれない。
「宏介くんは騙されているの!」
 投げ捨てられるシーツを見るともなしに眺めつつ、レッヘルンは続ける。
「今、どのようなお気持ちですか? もし宏介さんの恋人さんに悪い感情を持っているのなら、それがあなたが宏介さんに避けられる理由の一つです」
「避け……っ!! そ、そんな事あるわけ無いでしょう?! 宏介くんは忙しいんだから!!」
 充血した目を見開く春子に、瑠奈が問う。
「あの男性が、疲れていた時、忙しい時、悩んでいた時、君は何をしていた」
「わ、私……は……」
 言葉を無くし、酸素を求めるように口をぱくぱくと開閉させる春子。そんな春子に向け、瑠奈は小さく首を傾げる。
「何か、助ける様な事をしたのか?」
 瑠奈の問いに、春子は首を横に降った。
「それは……私……見て、いて」
「ずっと見続けるだけで何もしなかっただろう」
 瑠奈の指摘に、春子はベッドの上で後退りする。
「そんな女、私なら願い下げだ。振られて当然だ」
 瑠奈を睨み付け、春子は枕を投げつける。
「違うっ! 私は……何も出来なくない!! だから、告白して……何度も!! だけど、あの女が、邪魔なの、だから!!!」
 声の限りに叫ぶ春子に、ヒノトが穏やかに、頷いた。
「何度も気持ちを伝えるぐらい本気だったんだな。でも、わかってるんだろう? 宏介にも、その気持ちを向けてる人がいる。それは春子じゃない。春子と出会う前から付き合ってた、『彼女』だ」
 春子は両手で頭を抱えた。
「何よ、みんなして! 彼女、彼女って……宏介くんは真面目で、優しい人なの! だからあの女は!」
 髪を振り乱し、春子は頭を左右に振る。そんな春子に、ヒノトはなるべく優しく、穏やかに、続けた。
「宏介が誠実な人だってわかってるんなら、他の誰かを選んで 彼女を見捨てるような人じゃないとも気付いてるだろ? 誰かをひたむきに好きになれるのは凄いことだ。そんな春子を好きになる人が、この先きっと現れるぞ」
 ヒノトの言葉に春子の動きは止まるが、頭を抱える両手は離さず。数秒の沈黙の後、春子はぽつりと溢す。
「私から、宏介くんを取り上げようとするの? なんで? 私、宏介くんが大好きなのに……宏介くんだけだったのに。私に、話しかけたくれたの……あんなに、優しく……」
 ぱたり、と春子の手がベッドに落ちる。項垂れ、ベッドを見つめる春子に、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)が問う。
「春子さんは宏介さんのことが大好きなんだね? 彼に会ったらどうするんだ? 嫌々な彼をハグ? キス? 押し倒す? それでも嫌々なら殺して自分だけのモノにしちゃう?」
 ミリムの問いかけに、春子が顔を上げる。噛み締めた唇は、思いの丈を示している。たかが話しかけられただけで、と思っていたが、そのたかが、がどれだけ彼女を救ってくれたのか。
「春子さんに掛ける言葉がでない笑顔も無い、苦悶と憎悪の表情しかない肉塊になった宏介さんでも良い?」
 春子は、ミリムに向けて、ゆるゆると首を横に振った。
「そんなの、嫌。宏介くんには、私を見てほしい……笑って……欲しい……」
 春子が鼻をすする。しかし、涙だけは溢すまいと眉間に皺を避け、ぎゅっと目を瞑った。そんな春子に、天羽・猫助(女好きの子供の護り手・e66435)は言う。
「宏介さんは一途で誠実、アルバイトも夜中まで頑張ってマジでいい男っす。でも、今彼には彼女がいるっす。解ってるんスよね」
 春子は頷かなかった。だけど、解ってるから、こんなに辛そうなのだろう。
「どう思ったっすか。辛く……なかったッスか。何で自分じゃないのって怒りが沸いてこなかったっすか。悲しく、ならなかったッスか」
「かなしい」
 小さな小さな返事。きっと、嘘偽り無い春子の気持ちだ。
「なら、春子さん自分の気持ちに嘘ついちゃダメッスよ。悲しいとき辛いときは誤魔化しちゃダメッス。ちゃんと泣かないとダメッス。泣いてスッキリしたら一緒に遊びに行きましょう」
 そう笑いかける猫助に、春子は固く固く閉じていた瞼を開いた。その瞬間、その目尻からぽろりと涙が溢れる。
「好きなの……好き、だったの……」
 堰を切ったように溢れていく涙は、ベッドに落ちてはシミを作る。その様子を見て、瑠奈とレッヘルンは互いに顔を見合わせる。
「そろそろだな」
 そう言う瑠奈に、レッヘルンは頷き。
「病魔を召喚します」
 レッヘルンの言葉に、ケルベロス達はそれぞれ、身構えた。


「う……」
 春子はゆっくりと目を開ける。そこにいたのは、異形の化け物。
「っ?!」
 目を見開き、ベッドから滑り落ちそうになる春子を、ヒノトが支える。
「とにかく、春子は逃げていてくれ!」
 頷き、促されるままに春子は扉の方へと逃げていく。
「好きと思った人と付き合えない。普通なら次の好きを探したり諦めたりするけど、こうなってしまうのも病魔のせいかな?」
 素朴な疑問を口にしつつ、ミリムはケルベロスチェインで床に魔方陣を描き出し、仲間達に守護を与えていく。レッヘルンに喚び出された病魔は、たくさんある腕を、ゆっくりと春子の背後へと伸ばしていく。
「行かせません!!」
 そこへ、岳の重力と星の煌めきを宿した飛び蹴りが炸裂した。
「ぐがっ」
 肩付近に入った蹴りで、病魔はその場に倒れ込む。
「何……」
 振り向いた春子の背を押して、ヒノトは病室から春子を逃がす。
「あとは頼む。春子、すぐに片を付けるから心配しないでくれ!」
 春子と、春子を託した医師が頷くのを見て、ヒノトは扉を閉め、病魔に向き直る。
「面倒なのを引き受けたな」
 内心後悔しつつ、瑠奈は仲間達へと目を向ける。どうも今のところ回復の必要は無さそうだ。判断し、瑠奈はケルベロスチェインを病魔へと伸ばす。
「静かにしていてくれ」
 ケルベロスチェインは瑠奈の意思に従って、病魔を縛る。
「こう、すけ……くん……」
 締め上げられながらも、病魔の口は彼の名を紡ぐ。
「ナノミン!」
 レッヘルンの声で、サーヴァントのナノミンが病魔に向けて、ハート光線を発射する。
「さっさと片付ける!」
 ぐらりと身体をふらつかせる病魔へ向けて、ヒノトが澄んだ輝きを放つ赤水晶のロッドを向ければ、ロッドは瞬き程の間も無く大切な相棒であるネズミへと姿を変じる。
「アカ、頼んだ!」
 アカはヒノトの意思に頷き、魔力を帯びて病魔目掛けて真っ直ぐに飛んでいく。そして、ばしゅっと勢いよく病魔へ突進する。
「がっ……、わ、たし……わたし……、は……!!」
 泣くように声を震わせて、病魔はその腕を近くにいた岳へと伸ばす。異形の幾多の腕は、救いを求めるように足掻くように、岳の腕を掴もうとする。
「っ……!!」
 慌てて飛び退く岳を尚も追いかける腕。その前に、レッヘルンが身を捩じ込む。
「ぐっ!!」
 岳へ伸ばされていた幾多の腕が、レッヘルンの腕を、足を、身体を掴み、締め上げる。
「やめるっス!!」
 それを見て、猫助は病魔へと意識を集中する。その集中が極限まで高まった時、病魔の頭が突如爆発する。
「ぐが」
 ふらりと後ろに倒れ、病魔の手がレッヘルンから離れていく。
「回復は任せてくれ」
 瑠奈がそう声を掛けながら、レッヘルンへと回復を施していく。
 残ったダメージは、ナノミンが寄り添って回復する。これで、回復可能なダメージは殆どレッヘルンに残ってはいない。
「助かりました」
 レッヘルンの横を駆け抜けながら、岳がそう声を掛ける。そして、岳は床を蹴る。
「誰かを好になる、その純真な気持ちに付け込む非道は許せません!」
 叫びながら、岳はファミリアロッドを構える。
「モグラさん、行きますよ! ジュエルモール、ドライブ!」
 ファミリアのモグラは宝石の身体を持つモグラのカードへと変化する。純真無垢の石言葉を持つ宝石モグラの力をリードして、岳は高重力の一撃を病魔へと叩き込む。
「愛……して……」
 病魔はばたりと倒れ伏し、それでもまだ、その腕は、愛を求めて天へ向けて伸ばされる。そんな病魔に、レッヘルンはぐっと拳を握り締め。
「恋心を暴走させる病魔よ、疾く去れ!」
 想いを込めた一撃に、病魔を灰塵も残さず消え失せたのだった。


「ここは済んだから他の所も見て回って来る。これ以上付き合いきれない」
 病室のヒールを終え、瑠奈は他の仲間達に別れを告げる。開けた扉から少し離れた長椅子で、春子と医師が待っていた。
「あの……!!」
 ほっとした顔の医師と、立ち上がる春子。何か続けようとする春子を、瑠奈は手で制した。
「いい。私は仕事をしただけだ」
 すたすたと春子の前を横切っていく瑠奈だったが、ぴたっと何か思い出したように足を止め、振り返る。
「そうだ料理のスキルぐらいは上げておけ。男は女の手料理には弱いのだ」
 そう言って、今度こそ本当に去っていく瑠奈の背中を、春子はじっと見つめていた。
「春子さん、文字通り憑き物が落ちましたか?」
 そんな春子へ、病室から出てきた岳が声を掛ける。
「あっ! あの、ありがとうございました……なんだか、嘘みたいにすっきりしてるんです。不思議ですよね」
 くす、と笑う春子の表情は、晴れやかで、愛嬌があった。
「きっとこれから素敵な男性との出逢いが沢山ありますよ。大学生活を目いっぱい楽しんでくださいね」
 そう笑いかける岳を押し退けるように、猫助が春子の前に立ち、言う。
「あの、春子さん! 自分とお付き合いしませんか?!」
「えと……その……」
 前のめりな猫助に、春子はうっと引き気味で視線をさ迷わせる。それでもじっと春子を見つめる猫助に、ヒノトが小さく息を吐く。それから、然り気無く猫助を引き離しつつ、春子に微笑む。
「大丈夫か? 辛いと思うけど、自然と前を向けるまでは無理しなくていいんだぜ」
 そう声を掛けるヒノトに、レッヘルンが続ける。
「元気になったようで何よりです。色々思うところもあるでしょうし、軽々に新しい恋を探せとは言えません。ですが、素敵な恋があるよう祈ります」
 そう声を掛けるレッヘルンに、春子は小さく頭を振る。
「いえ、もう大丈夫です。むしろ、いままであんまりにも周りが見えていなかったのかも、と思って……だから、色々見たり聞いたり、っていうのもしたいなって思ってるんです」
 そう返す春子に、ミリムが大きく頷く。
「じゃあ、ナンパしに行こうか!!」
「今から?」
「嫌なら」
 今度にしよう。そう言いかけたミリムに、春子はゆっくりと首を横に振る。それを見て、春子の腕を、ミリムが優しく引いた。こうして、春子の病魔は撃退され、新たな恋への一歩を踏み出したのだった。

作者:あかつき 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月10日
難度:やや易
参加:6人
結果:成功!
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