進軍のバンブーアーミー

作者:波多野志郎

 大阪の緩衝地帯の市街地、その路地を駆けていく迷彩服の一団がいた。無人の路地を、素早く気配を消して走っていく。
 曲がり角で、先頭にいた者が立ち止まった。振り返る事なく、緑色の掌を仲間達へ。そのハンドサインに、一団はビタリと一時停止したように動きを止めた。一糸乱れぬ統率だ。
 先頭が、指で丸を作り立てた右手で進行方向を指し示す。GO、のハンドサインだ。その合図に、足音を殺しながら一団は先へと駆けていった。
 一人一人が、人間の形はしているものの別の生き物だ。正確には、竹の攻性植物である。周囲を警戒しながら、攻性植物の集団は一路市街地へと向かっていった……。

「大阪城への潜入作戦は無事成功し、貴重な情報を持ち帰る事ができたのですが……」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、そこで言葉を切ると解説を続ける。
「ただ、大阪城への侵入を許した事で、攻性植物の警戒レベルもあがってしまったようです」
 現在、大阪城周辺の警戒区域に、竹型の攻性植物の軍勢が展開されている。竹型の攻性植物たちが、大阪城へ接近するケルベロスを警戒すると共に、大阪市街地への攻撃を行い、支配エリアを拡大させる事を目的に動いているらしい。
 敵の数は八体、軍隊のように連携を取った彼らは隠密行動をしつつ索敵を行っている。
 竹刀と銃で戦うバンブージェネラルが一体。爆竹のような爆弾を使う、バンブーボムソルジャーが一体。竹槍で戦うバンブーランスソルジャー三体。竹製のアサルトライフルを装備したバンブーガンソルジャー三体――計八体だ。
「この八体が大阪城周辺の市街地の探索を行った後、ケルベロスの侵入が無い事が確認された場合、大阪市街地への攻撃を開始するようです」
 敵は隠密行動をしつつ、索敵によりケルベロスを発見しようとする。なので、こちらも隠密行動をしつつ索敵により攻性植物を発見する必要がある。
 八体の攻性植物は連携して戦闘を仕掛けてくるので、戦闘力はほぼこちらと互角だ、
「ですので、先に敵を発見して奇襲をしかけた側が圧倒的有利になるでしょう。大阪城周辺の緩衝地帯は無人の市街地となっていますので、その地形をうまく利用できれば、有利に戦えるかもしれません」
 時間は昼間、遮蔽物が多い環境だ。いかに奇襲して、有利に持ち込むかが勝敗を分ける。
「このままでは、市街地に被害が広がります。そうなる前に、対処をお願いします」


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
ゼレフ・スティガル(雲・e00179)
樫木・正彦(牡羊座の人間要塞・e00916)
巽・真紀(竜巻ダンサー・e02677)
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)
尾神・秋津彦(走狗・e18742)
レヴィアタン・レクザット(守護海神龍・e20323)
ロスティ・セヴァー(身体を探して三千里・e61677)

■リプレイ


 大阪の緩衝地帯の市街地、その無人の街をケルベロス達は慎重に進んでいた。
(「山での狩猟もそうですが、獲物に警戒しながら進むのは心身を消耗するもの。それに相手は統率の取れた群隊であり、互いに狩り合う立場――厳しい任務になるでしょうな」)
 尾神・秋津彦(走狗・e18742)は白地図に筆を走らせながら、周囲に油断なく視線を走らせる。地図は入手できたが、ここは緩衝地帯と言えど敵の本拠地が近い場所だ。念には念を入れて、問題ない。
(「が、狼の本領を見せるは今ですぞ」)
 問題は、向こうも警戒しているという事だ。これが狩猟であるのなら、確かに狩人同士の狩り合いというのは正しい認識だ。
 無人である、という事は互いに気配を殺す事が困難であるという事だ。小さな物音、違和感、異常――それをより見逃さなかった方が、先手を取る。単純な技量だけではなく、運の要素も絡む状況だ。
(「こういった場所での戦闘経験は初めてだ。連携は欠かせない。足を引っ張らぬよう最善を尽くそう」)
 普段の戦闘よりも神経を張り巡らせて、レヴィアタン・レクザット(守護海神龍・e20323)は仲間達の後に続いた。ケルベロス達は並列縦隊、二人横並びで先へ進んで行く。
「――――」
 先頭のサイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)が、ハンドサインで仲間達を一度止めた。曲がり角でまずは音を確認――クリア。太陽の位置を確認、影や足跡を確認――クリア。曲がり角から先を確認――クリア。
 かつて本職だった事もあり、サイガの動きに淀みはない。樫木・正彦(牡羊座の人間要塞・e00916)に先頭を譲り、仲間達を先へ。その間周囲を警戒しながら、曲がり角を過ぎると最後尾についた。
「…………」
 正彦は身をかがめ、壁に寄る。市街地というのは、意外に死角が多い。一般の道路に何故ミラーが設置されているのか、それを考えればよくわかるだろう。市街地戦の基本だ、その死角を移動に用い、窓や視界の通りやすい場所を避けていく――それを正彦はよく心得ていた。
(「……この辺りにはいなさそうです」)
 ロスティ・セヴァー(身体を探して三千里・e61677)が、身を一層かがめる。混沌の水と地獄の炎の上半身と翼が目立ってしまうという自覚があるからだ。その後ろで、巽・真紀(竜巻ダンサー・e02677)が背後に気を配っていた。
(「普段と勝手が違うぜ」)
 戦いの緊張と、警戒の緊張は明確に種類が違う。戦いが流動的な状況を把握し続ける動の緊張だとすれば、警戒はいつ変化が起きるか覚悟し続けなくてはならない静の緊張だ。
「――!」
 不意に、ゼレフ・スティガル(雲・e00179)がハンドサインで仲間を止める。その指先で建物の影を指差し、三本指を立てた。
(「いましたねぇー」)
 二体のバンブーランスソルジャーと一体のバンブーガンソルジャーを確認しても、フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)の笑みは変わらない。灰色の見栄えだが、これも山の獣狩りのようなもの――常に平静に自身を保ち、気を長く持つ鉄則をフラッタリーは心得ていた。
 何より、まだ三体しか確認できていないのだ。残る五体に見つかっては意味がない――秋津彦が地図と白地図を確認しながら、ハンドサインで仲間達へと指示を出していった。


「実戦でも知識が役に立つトコ見せろよ、ミリオタ」
 真紀は正彦の肩を叩き、壁歩きで建物を昇っていく。それに対して戦化粧を顔を汚し、コートへ都市迷彩姿の正彦は笑みを返した。余裕ではない、恐怖を笑みで塗り潰したのだ。
「僕の戦争に付き合ってもらうぞ」
 向こうは、こちらに気づいていない。八体の確認と位置を把握、配置についたサイガが肩をすくめた。
「兵士vs兵士の戦いにお互い大変ね」
 秋津彦が、小さくうなずく。それに応えて、レヴィアタンがバイオガスを使用する。戦場の様子を見えにくくするバイオガスの効果に、敵の動きが止まる――おかしい、そう気づいた時はもう遅い。
「竹裂ノ音、盛大nI響カ世マセ!!」
 サークレットが展開、金色瞳が開眼させ狂笑を浮かべたフラッタリーが、脈動する十一焔を振るいファイアーボールを放った。対応できず、巻き起こる爆発に攻性植物が飲み込まれ――サイガが跳んだ。
「ほいっと」
 軽い調子の声と、楔穿ち断つ漆黒の爪が地面に突き立てられた轟音が同時に響く。重力震動波が、ファイアーボールの炎ごと衝撃を撒き散らした。
「――ッ!?」
 だが、攻性植物側もただ攻撃に晒されている訳ではない。炎に焼かれ、衝撃に吹き飛ばされながら散開――しようとした。
「12ゲージ、受けてみろ!」
 しかし、既に正彦が間合いを詰めている。ソードオフショットガン、その名の通り銃身を切り落としたショートバレル・ショットガンが、散弾をばら撒く。1インチにも満たない鉛玉の雨が、竹に突き刺さり軍服に穴を開けていった。
 二体のバンブーランスソルジャーが、地面を蹴る。間合いを開けようと言うのだろう、後退するバンブーランスソルジャー達ごと、絶望の黒光が足を止める――真紀のライジングダークだ。
「逃がすかっての」
 建物の上から、真紀はライフルを担いで移動する。撃ったら走る、狙撃手の常識だ。
「変わった見た目してるねえ――八対八で平等、恨みっこ無しだよ」
 ゼレフが随を振りかぶり、豪快に振り回した。ドォ!! とゼレフのゲイルブレイドが巻き起こした暴風に、バンブーガンソルジャーがパキパキと砕け散る。
「いい音だね。こういうの――破竹の何とかって言うんだろう?」
 笑うゼレフに、二体のバンブーランスソルジャーが駆け込もうとする――だが、遅い。ケルベロス側は、万全の準備を整え終えているのだ。
「行くぞ!」
 レヴィアタンが横回転、尾によるグラインドファイアの薙ぎ払いが一体のバンブーランスソルジャーの胴を焼き切り、秋津彦の喰霊刀による雷をまとった刺突がもう一体のバンブーランスソルジャーを貫いた。
 秋津彦は刀を抜く動作から返す刃で、バンブーランスソルジャーを文字通り唐竹割りに一刀両断する!
「竹はよく試し斬りで真っ二つにしてきました。八本くらい纏めて断ち切ってくれますぞ!」
 秋津彦の気迫を込めた宣言に、しかし攻性植物側は乗らない。全員が一度後退、体勢を立て直した。
「もう爆発を起こそうとも問題ありません、……この勢いのまま行きましょう!」
 ジャラン! とロスティのケルベロスチェインが、地面に守護の魔法陣を描く。八対八が、一気に八対五へと変わった。奇襲のアドバンテージは、ケルベロス側が取ったのだ。
「はハはHAハ刃はハHA刃!!」
 フラッタリーが狂笑を上げ、額の弾痕から地獄の炎を溢れ出させ地面を蹴った。あー、肩が凝った!、とサイガは肩を回し、言い放つ。
「さぁ、存分に殺し合おうか!」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドン! と連続した鈍い爆発音が、鳴り響いた。
「――――」
 バンブーボムソルジャーの爆竹型爆弾だ。小さな爆発の連鎖で巨大な爆発を起こす自慢の爆弾だ。
「……今、治しますっ」
 ロスティの地獄の炎と混沌の水が、レヴィアタンの傷を焼き尽くし洗い流す。ヘルカオス・ハイパーヒーリングを受けて、レヴィアタンがバンブーボムソルジャーへと迫った。
「この程度か!」
 レヴィアタンが空中で前転、尾の一撃をバンブーボムソルジャーの頭部分へ叩き込む。ミシリ、と竹が重圧で軋む中、ゼレフが踏み込んだ。
「ホームランと行こうか」
 随のフルスイング、ゼレフのグラビティブレイクがバンブーボムソルジャーの腹部を強打、吹き飛ばした。
 地面を一度、二度と跳ねたバンブーボムソルジャーが、壁にぶつかって止まる。なおも立ち上がるバンブーボムソルジャーに、サイガは笑う。
「竹の癖して活きがイイじゃん?」
 バンブーボムソルジャーは、眼前のサイガに爆弾を放る。零距離、自身も受けかねない危険な距離での爆発が巻き起こった。炎と衝撃が荒れ狂う、しかし、サイガは止まらない。より笑みを濃いものにして、ルーンアックスを叩きつける!
「真紀、撃ち込め。後は僕が切り込む」
「おう!」
 正彦の指示に、真紀のフロストレーザーがバンブーボムソルジャーを撃ち抜く。ビキビキ、と体が凍りついていくバンブーボムソルジャーに、正彦は恐怖を飲み込んでやればできるのだという強い思いを込めた刃の無い鉄の塊を、叫びと共に振り下ろした。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「!?」
 バキン! と正彦の大器晩成撃が、バンブーボムソルジャーを粉砕する。その瞬間を狙って、バンブーガンソルジャーが正彦に狙いをつけ、引き金を引いた。
「させませんぞ!」
 その銃弾を、秋津彦が庇う。即座にバンブーガンソルジャーへと疾走、秋津彦がハウリングフィストの一撃をバンブーガンソルジャーへと叩き込んだ。
「此レ為Ruハ珠玉ヲ飾リシ矛ノ逆事。アS∀マノ猛リヲ顕現ス。火ト硫黄ヲ以テ、アメツチヲ地獄ニ還サン」
 フラッタリーがアスファルトに野干吼を突き立てた瞬間、広範囲を地獄化し獄炎が奔流として地面の割れ目から吹き上がった。
「そろそろ押し切れそうです……!」
 残る攻性植物は三体、ケルベロス側の猛攻が終始戦況を掌握していた。八対八でほぼ互角、初手で三体を落とされ、ましてや陣形を大きく崩されたのだ。もしもケルベロス側が初手に三人落ちたとしたら? そう考えればこれがいかに大きかったか理解できるだろうか。
 戦力で劣り、連携もままならない。その状況で攻性植物側ができることは少なく、ケルベロス側もそれをさせるつもりはなかった。だからこそ、その結果は想像よりも早く訪れた。
「突っ込むからフォロー頼む」
「お任せを」
 背中合わせだった正彦が突っ込む気配を感じて、秋津彦が振り返った。振り返りざま、正彦の背後につき――迅業の抜き打ち、絶殺の妖気を籠めた刃でバンブーガンスソルジャーの両足を断ち切った。
 倒れ込むバンブーガンソルジャーを、正彦がゾディアックソードで上へと吹き飛ばした。
「真紀!」
「ナイスパスだぜ!」
 空中のバンブーガンソルジャーを、真紀が建物の屋根から跳ぶ。自らを一つの弾丸として放つ飛び蹴り、真紀のスターゲイザーがバンブーガンソルジャーを粉砕した。
「さて、そろそろこっちも終わらそう――か!」
 か、の一言と同時に、ゼレフがバンブーランスソルジャーの懐に潜り込む。冬浪を敵の脇腹へ――ゼレフは前に出る勢いを利用して、そのまま大きく切り裂いた。
「行きます!」
 ロスティのオウガメタルが鋼の鬼へと代わり、その巨大な拳をバンブーランスソルジャーへと振り下ろした。竹の槍でガードされるものの、構わない。ロスティの戦術超鋼拳が、バンブーランスソルジャーを打ち砕いた。
 これで、残るは一体のみ――!
「後はお前だけだ」
 レヴィアタンのパイルバンカーの一撃を、バンブージェネラルは竹刀で受け止める。だが、威力は殺しきれなかった。腹部へ届くレヴィアタンのイガルカストライクに、バンブージェネラルは後退する。
 だが、フラッタリーとサイガがそれを追う。バンブージェネラルの牽制の銃弾は、牽制にならない。フラッタリーは歯牙にもかけず、サイガは漆黒の爪で弾いていき――。
「――死NE」
「ニンゲンごっこはおしまいだ」
 フラッタリーの野干吼の獄炎をまとった一撃が、サイガの降魔の力を以て手にした獲物を振り下ろした力任せの打撃が、バンブージェネラルを容赦なく燃やし尽くし、粉砕する!
「塵は塵に、ってな」
 サイガの言う通り、風に舞う塵となって攻性植物がかき消えていった……。


「……はぁ」
 戦いが終われば、恐怖がぶり返してきた。落ち着くために、正彦は一服する。
「この敵の破片、何かに使えそうですね……槍にでも加工してもらいましょうか」
 ロスティは、竹の破片を手にそうこぼす。それを聞きながら、ゼレフはある方角を見て、目を細めた。
「偵察兵が居るなら次は――」
 その視線の先には、見えてはいないが大阪城がある。攻性植物達が陣取るそこで、何か動きがあるはずだ。だからこそ、この攻性植物達も市街地を攻撃しようとしていたのだから。
 何にせよ、これは前哨戦だ。一つ一つの小さな戦果が、次に繋がる。その事を、ケルベロス達は誰よりも理解している――だからこそ、負けられない。今を生きる命のために、そして未来の戦いのために……。

作者:波多野志郎 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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