アイ・ドント・リヴ・トゥデイ

作者:鹿崎シーカー

 夜の天空、分厚い雲を突き抜けた先に、銀髪の乙女が浮遊していた。月光より白い肌に黒いマントと薄いグレーのワンピースを着、手には赤い宝石をはめた瀟洒な作りの銀杖を持つ。
 目を閉じ、周囲に蝶のような影を複数飛び回らせる彼女の前方。広がる雲海の一部が大きく隆起し始めた。雲の中から現れたのは、名状しがたい姿をした黒き竜。乙女は目蓋を開けぬまま、ルージュを差した口を開く。
「ごきげんよう、ジエストル殿」
「贄を連れてきたぞ、プロノエー。お主の魔杖の持つ力、今一度借り受けたい」
 言葉を返した黒竜の隣で、再び雲が隆起する。現れたのは巨大なシャチじみた姿のドラゴン。その体躯の各所は無惨に腐り果て、半開きの口からは苦悶の呼気が絶えず噴く。乙女はシャチ型の傍に寄り、鼻先に触れると穏やかに問うた。
「死せる竜が一体よ。これより、貴方の肉体を強制的にサルベージします。貴方は消え去り、残されるのは貴方の抜け殻にすぎません。それでもよろしいのですね?」
 シャチの口が僅かに開き、重いうめき声を漏らす。その様子を見ていたジエストルが口を挟んだ。
「戯れは止せ。そ奴の意志は既に決まっている」
「わかりました。それでは」
 プロノエーの掲げた杖が赤い閃光を放ち、シャチ直下の雲に青白い魔法陣を出現させた。魔法陣に捕らわれ、絶叫するドラゴンの体に陣から伸びた青い光が浸透し、肉体を汚泥じみて融解させる。
 陣に垂れ続けていた竜の溶解肉が止まり、泥肉を飲み干した魔法陣が収束消滅。青白い光の消えた上空に残されたのは、禍々しい炎と水を宿した骨格標本めいたドラゴンの姿だった。発光を止めた銀杖を下ろし、プロノエーが言う。
「終わりました」
「ご苦労。これはすぐに戦場へ送るとしよう」
 そこでジエストルの声音が低くなった。
「……時に、研究は進んでいるのだろうな?」
「ご心配には及びません。現在、完成を急いでいます」
「早く頼むぞ。同胞達の屍を、無為に費やさせてくれるなよ」
「はい」
 しっとりとお辞儀するプロノエーを一瞥し、ジエストルはドラゴンを連れて雲海に消えた。


「ど、ど、ドラゴンだーッ!?」
 資料を見、跳鹿・穫はその場で飛び上がった。
 某所の都市にて、ドラゴンが市民の虐殺に現れるとの予知が入った。
 ドラゴンの名は、『獄混死龍ノゥテウーム』。黒龍『ジエストル』が提供した、定命化による死が迫ったドラゴンを『先見の死神プロノエー』がサルベージすることによって生まれた、いわばドラゴンゾンビとでも言うべき個体だ。
 ノゥテウームは死に際のドラゴンから定命化した部分をそぎ落とし、無理やり新たなデウスエクスとして新生させた存在であるため、非常に不安定で力も弱い。が、弱いと言ったところでドラゴン。都市を潰し民間人を殺戮するには十分すぎるスペックを持つ。
 襲撃までは時間が無く、市民を避難させている暇はない。急いで迎撃地点に向かい、ノゥテウームを全力迎撃、これを撃破してほしい。
 戦場となる都市は、大きなビルが立ち並ぶビジネス街。ここのうちどこかのビル屋上に降下し、空から襲撃するノゥテウームを迎撃する形となる。人も多く、ビルを倒された日には大勢の死者が出るため、作戦は慎重に練るべきだろう。
 獄混死龍ノゥテウームは全長10mの骨の体を持っており、何故か地獄の炎と混沌の水を併せ持つ。体躯を生かした質量攻撃の他、砲弾状に固めた炎による砲撃・触手状にした水による斬撃を使って広範囲を攻撃してくる強敵だ。
 しかし、ノゥテウームは無茶なアンデッド化の影響ゆえか、体が非常に不安定で、戦闘開始から大体八分も経てば、地球の重力に耐えきれず自壊してしまう。つまり、ノゥテウームを直接打倒せずとも、八分耐えきればケルベロス側の勝利となる。油断はできないが、ここはひとつ念頭に置いていいかもしれない。
「一応、ノゥテウームは向かってくる相手を優先して攻撃するみたいだけど、脅威じゃないって判断したら街の攻撃を優先するみたい。正体については気になるところだけど、今は守るのが優先! 頑張って来てね!」


参加者
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
キサナ・ドゥ(カースシンガー・e01283)
ラリー・グリッター(古霊アルビオンの騎士・e05288)
旋堂・竜華(華炎の竜姫・e12108)
葵原・風流(蒼翠の五祝刀・e28315)
篠村・鈴音(焔剣・e28705)
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)
ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)

■リプレイ

 都市の空を、炎の巨影が彗星めいて斜めに突っ切る。地上の人々が怪訝に見上げる中、炎の遥か下方で滞空するヘリから飛び降りた風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)は着地と同時に走り出し立ち並ぶビルの屋上をパルクールじみて疾駆した。遅れて降り立った面々の内、キサナ・ドゥ(カースシンガー・e01283)は降ってくる炎塊を仰ぎ、口角を吊り上げた。
「よう、見てみろよ。こんな狭い空に棺桶の蓋が落ちてくるぜ。……冗談じゃねえ。黙って閉じてやるほど聞き分けよく死んでやる気はねぇだろ、お前ら!」
 これに対し、ゆらりと立ち上がったヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)が爪先で足場を叩きながら嘆息を返す。
「死ぬ気は無いが……やはりシビアな任務だな。逃がしてる暇は無し、相手も許してくれそうにないと来た」
「しかも、被害も出せませんからね。ヘビーなお仕事です」
 足元に炎の円環を生み出し、篠村・鈴音(焔剣・e28705)は腰を落として身構える。その隣でラリー・グリッター(古霊アルビオンの騎士・e05288)が抜き放った宝剣の先を天空の炎に向けた。
「それに、予知に出て来たという死神……前に聞いたデウスエクスかも知れません!」
「先見の死神プロノエー、でしたか。ノゥテウームは定命化対策したドラゴン失敗作という話でしたが……」
 葵原・風流(蒼翠の五祝刀・e28315)の声を圧縮空気の音が遮る。真紅の機械兵じみた姿に変身した橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)は両肩・両腰に装着した砲門を調整し、アイシールドに表示されたタイマーをセット。
「その話は後。今は街守るのが最優先! それじゃ、いっちょ頑張りましょうか! タイマースタート!」
 芍薬と鈴音を残して五人の姿がかき消える。炎環から噴き出した炎に呑まれた鈴音の髪が炎髪に変化! 外套めいて炎をまきつけ、刀握る手に力を込めた。同時に芍薬の砲口に紅焔が収束していく。
「疾れ! 熱風の刃!」
「ファイア!」
 炎の連続斬撃とプロミネンスじみた砲撃が落ちてくるノゥテウームと正面衝突! 爆炎に染まる空を消えた五人が跳躍飛翔する。
「Vallop!」
 叫んだヴィクトルの衣装がドイツ軍服じみた物に変わり、白い修道服をはためかせつつキサナが回転。同じくコマめいて回転する風流の剣が翡翠色の旋風を巻き起こし、ラリーの剣が閃光を放つ。下方に大剣を構えた旋堂・竜華(華炎の竜姫・e12108)は爆炎から這い出たノゥテウームへ挑戦的に微笑んだ。
「ごきげんよう。さぁ、一時の逢瀬を楽しみましょう!」
「刃に洗礼の輝きを! 邪悪を貫く怒涛の奔流……受けてみなさいっ!」
 咆哮するノゥテウームのドクロに拳・膝蹴り・炎の斬撃・光の刺突が同時に直撃した。だがノゥテウームは炎の翼を羽ばたかせて落下を敢行! 突入したビル屋上に爆発的な粉塵を上げつつハードランディングをかます竜の顔面を全力で抑える四人の内、ヴィクトルが声を張る。
「錆次郎ッ!」
 後方、離れたビルの屋上で側転からバク転を決めて着地した錆次郎は合わせた両手を振り上げた。光の粒子宿りしそれを、足元に打ちつける!
「てぇぇぇぇいッ!」
 接地した両手の平から暴風めいて吹き荒れる光の粒子! 竜を真っ向から押し止めんとする仲間達の背を押し、ビルを削られた端から修復・武家屋敷じみた形で再生させる。打ち込んだ鉄拳に渾身の力を込めてキサナが叫んだ。
「止まれええええええッ!」
「オオオオオオォォォォォォォ!」
 不気味な声を上げながら頭を振り上げるノゥテウーム! 吹き飛ばされた四人に代わり風流がドクロの顔面めがけて急降下、二刀を振り抜いて左目を斬り抜いた。
「せああッ!」
 燃えるキックに顎を撃ち抜かれ、竜の背中がわずかにのけ反る。直後、ノゥテウームの顔面を薄緑色の液体が包みシャチの頭部をかたどって大口を開けた。放たれた炎弾が鈴音を爆破! さらに胴体から生やした複数の触手で神速のラッシュを繰り出す! 芍薬が防御態勢で割り込み、ラリーが剣を振り回して触手と激しく斬り結ぶが二人の体にたちまち複数の裂傷が現出。
「くうッ……九十九! 回復!」
 黒地にメイド服を着たテレビウムが赤い画面を激しく明滅させながらツールナイフを振って応援。だが同時に触手の一本がラリーの剣戟を弾き、別の一本が彼女の首を斬りに行く! 触手斬撃は首の皮一枚を裂いて静止。喘ぐように上向いたノゥテウームの体にどぎついピンクの光がまとわりつき、禍々しい文字をかたどる。
「『目をそらされるより早く、吐息の距離でささやくの。空気に染みた体温、首筋、胸元、滑り落ちてく―――さあ、私の肉を汚して?』 」
 口元に十字架のロザリオをあてがったキサナが凶悪な微笑みを浮かべて歌う。硬直の隙に走ったヴィクトルはハードカバーめいたガジェットを大砲に変形させて腕に装着、ノゥテウームの下顎に照準を合わせた。
「そこだ! Schießen!」
 砲撃! その瞬間ノゥテウームが真後ろに高速移動し砲弾が空を切る。背中から後方のビルへ伸ばした触手を使い、ワイヤーアクションじみて移動するドラゴンの体からキサナの光が剥げ落ちる。代わりに巻きつく炎を宿した八本の鎖! 縛鎖の上を疾駆した竜華は回転跳躍!
「私の炎からは逃げられません。さぁ咲き誇れ、炎の華よ……!」
 天高く掲げ噴火させた大剣を振り下ろした! 剣はシャチの頭部を両断してその下のドクロに爆炎の華を開かせる。うなりを上げたノゥテウームが大きくのけ反り、炎の翼を広げて軽く飛翔。大振りのヘッドバットで竜華を撃ち抜きビルの屋上に叩きつける! 屋上から下層階まで走るヒビ。全力疾走した錆次郎は光の粒子まとう手を伸ばす!
「間に合ええええええッ!」
 必死で伸ばした手が崩壊しかかるビルに辛うじて触れ、足元から和装建築に変えていく。変化が屋上に達し、五重塔じみて尖った屋根に跳ね上げられる巨大なドクロ。横向きになった風流は高速回転し車輪の如くノゥテウームの体を駆け上がりながら斬り裂き頭部から跳躍。がら空きになった胴体に拳を握ったキサナが仕掛けた!
「うおらあああああああッ!」
 渾身のボディブローが炸裂! 身を折るノゥテウームの顔面へ飛んだヴィクトルは手にした機械仕掛けの戦槌で横面を殴打した。明後日の方を向くノゥテウームはギョロリとヴィクトルをにらみ空高く伸ばした触手を振り下ろす!
「ぐおッ!」
 ヴィクトルごと触手を叩きつけられ粉塵を上げる屋上へ、ノゥテウームの開いた大口が三連火炎弾を吐き出す。炎の前に駆け込んだ芍薬は砲撃を集中させて一発を破壊! 両手から出現したブレードをX字に振るい二発目を斬り、三発目を前にクロスガード。爆発した炎弾から弾き出され足場を転がった芍薬に複数の触手による突きが襲いかかった。
「ちっ……!」
「橘さん!」
 割って入ったラリーの剣に逸らされた、周囲の床に突き刺さった。一声を吠えたノゥテウームは炎の翼を羽ばたかせて飛翔。アンカーじみて触手を突き立てたまま上空に浮きたち、空から炎弾を連発! 激しい連続爆発に包まれる屋上で、鈴音と炎弾を防ぎながらキサナが毒づく。
「だークソッ! 下に居ても上に居ても面倒だなオイ!」
「こっち向いてくれてる分にはいいんですけどね。周りがどうにも……あと何分ですか?」
 爆炎を斬って振り返る鈴音。焦った様子で応援する九十九を背にした芍薬は砲撃で炎を相殺しながらタイマーに目をやった。
「自壊まで? 今四分三十秒切ったところ! ッ!」
 相殺しきれなかった炎が芍薬を飲み込んで爆発! 足元に宝剣を突き立てたラリーは屋上中に黄金の光を拡散しながら頭上のノゥテウームを見上げる。
「あと半分ちょっと! 風陽射さん! ヒールは間に合ってますか!?」
「なんとかねぇ! これ以上派手にやられると、流石に手が回らないけど……!」
「悠長にはしてられませんね……」
 炎を大剣で打ち払いった竜華はノゥテウームに手を伸ばす。八本の鎖が炎弾の群れを貫きながら空を抜き、竜の各所に絡みつく。ドクロの頭部を交叉して縛り上げた鎖が口を無理矢理閉ざした瞬間、竜華は伸ばした手を握って強く引っ張る!
「まだまだ。この舞踏、燃え尽きるまで!」
 両脚裏に炎を宿してロケットじみて高高度跳躍! 燃える大剣を振り上げる竜華に対し、ノゥテウームはビルに突き刺したままの触手を波打たせ自分の体を引き寄せた。目を見開いた竜華は流星めいて突進してくるドラゴンの頭に爆炎の剛剣を叩きつけるが勢い止まらず!
「竜華の嬢さん!」
 機械具足をジェット噴射してジャンプしたヴィクトルがノゥテウームの鼻面に蹴りを打ち入れる。翼を広げて駆けた風流がビルに刺さった触手の一本を斬って加速、二本目を断ち直角に曲がり回転斬撃で三本目を取った。そのまま四本目へ飛びかかりこれも切断! アンカーを失いノゥテウームの落下速度が僅かに緩む!
「今です!」
「おう!」
 声を張った風流の横を駆け抜けキサナがビルの間を飛び越えながら疾走。三棟目に着地したところで反転し急制動をかけ、炎翼を羽ばたかせて速度を上げるノゥテウームの腹を仰いだ。大きく屈んだ彼女の足場がひび割れる。
「懲りもせずに落ちて来てんじゃねええええええええッ!」
 裂帛の気勢を上げて跳び、拳を握って高速で回る。竜巻じみて回転数を上げたキサナはたちまち水と炎に包まれた骸骨の腹の下に到達し、遠心力を乗せた拳を叩き込んだ! 液体と火花が爆ぜ、ノゥテウームの巨体が仰向けにひっくり返る! 目を白黒させたノゥテウームは眼球をギョロリと動かし体の側面から伸ばした触手で竜華の鎖を切断。絡みついた残りを横に回って振り払い、翼を広げてフラフラとケルベロス達から離れるように飛行。渋滞を起こした道路の上空を突っ切り、反対車線のビルに背中から倒れ込むようにぶつかった。重低音に錆次郎が色めき立つ。
「まっ、まずいよ! 急いで向こうまで行かないと……!」
「待ってください錆次郎さん! 何か変です!」
 ラリーが引きとめると同時、低くうめくノゥテウームの全身が黒煙を上げ、大量の火の粉をまき散らし始めた。さらに肉体を作る水が沸騰、溶けだした一部がビルの壁面を伝って滴る。息も絶え絶えとなったノゥテウームはケルベロス達をにらんで咆哮! 直後、その背中から三対六本の触手が飛び出し、先端をバネのように螺旋状に変えて背後のビルにあてがった。触手に凹まされたビルから走る蜘蛛の巣状の亀裂! 八人の顔が一気に引きつった。
「危ない! 皆さん伏せてッ!」
 鈴音が声を張り上げた直後、飛び出したノゥテウームの巨体が八人の立つビルに激突!傾かせていく。斜面と化すビルの床に捕まる彼らの前に巨大なドクロが顔を出して爆炎を溜めたアギトを開口。赤橙色の光に照らされ、キサナが歯噛みをする。
「このッ……化けもんがッ……!」
 煌々と燃えながら吹き荒ぶドラゴンのブレス。爆炎に両手を突き出した芍薬はアフターバーナーを翼のように噴出しながら熱波の暴威を押し止めていた。
「獄混死龍だかレンコンシチューだか知らないけど、そんな苦しそうな姿で良くここまでやるわね。そろそろ大人しくしてもいい頃だけど!?」
 その時、芍薬の背後から後光めいて黄金の光が放出される。全身から溢れる光を宝剣伝いにビルへ流し込むラリーは毅然と両脚を踏みしめ、錆次郎と足場のビルを全力ヒール!
「倒れさせません! 千里ちゃんのため、正義のため……何より、この都市の人々のため! 絶対に負けるわけにはいかないんですッ! 風流ちゃん! 向こうのビルのヒールをお願いします!」
「任されました」
 金色に輝くビルから飛び立った風流がノゥテウームを飛び越え翡翠色の光をまとわせた二刀を振り回した。連射された斬撃の乱舞が崩壊しかけたビルに連続して命中、時間を巻き戻すように修復していく。その後方でノゥテウームの吐く炎を竜華と鈴音が突破し肉迫! 大剣と刀が燃え上がる!
「この程度では燃えません。もっと熱く!」
「これが……本当の灼熱ですッ!」
 炎熱の二閃が竜の両目に打ち込まれ、爆炎の柱で天を突く。炎を止めて絶叫し、のけ反るドラゴン。その身をビルに括りつけていた触手が沸騰するように膨れ上がり、破裂! 支えを失った巨体がビルから剥がれ、渋滞を起こした車道に落下を開始する。それを追ってビル屋上から壁を垂直に駆け下りる巨大な猫型ガジェットにまたがり、ヴィクトルは煙と液体を爆ぜさせながら落ちていくノゥテウームを追いかけた。
「自壊の影響か。走れKatzennagel!」
 猫そのものの声を上げ、ガジェットが足を速める。わずかに遅れて錆次郎もまた鬼気迫る表情で壁面を全力ダッシュ! 前のめりで息せき切る彼の隣をキサナが通り過ぎ、猫がジェットの尻尾をつかんだ。ノゥテウームを追い越した機械猫は回転跳躍して道路に着地。車を上手く避けつつ車道に踊り出、頭上を見上げる。尻尾を離して飛び降りたキサナは口元に十字架を添えた。
「レクイエムをくれてやる。『紅く染まった貴方の素肌。私に沁みる暖かさ。声、涙、溶けて流れ込んで来る―――さあ、私の肉を汚して?』 」
「受け止めろ!」
 響き始める澄んだ歌声。猫型ガジェットはどぎついピンクの煙に包まれたノゥテウームに向かって二本脚で立ち上がり、両の前脚で骨の巨体を受け止める。そこへ合流した錆次郎は展開した胸部から生やした砲塔に青白いエネルギーをチャージ!
「誰も殺させないよぉっ! 全力でぇ……構え! 発射ぁっ!」
 真上に放たれた太いビームが巨大な背骨を撃ち抜き自由落下する巨体を下から支えた。機械猫の爪と光線、歌声に覆われた竜骨にヒビが広がる。一方仰向けになったノゥテウームの上空、身を投げた芍薬、竜華、鈴音の三人が空中で身構える。
「冥土の土産よ! 地獄の底に送り返してやるわ! エネルギー充填200%!」
「炎よ、葬送の華と成れ……!」
「骨の髄まで焼き尽くしますッ!」
 握り込んだ機械の手の平、八本の鎖で刃を編み上げた大剣、口を切った刀がそれぞれ太陽コロナじみた輝きを放つ。三人は隕石の如く垂直に落下! 激突と共に叩き込まれた手、鎖、刃が爆炎を叩き込んだ!
「インシネレイト・オーバーロードッ!」
 骨身に流れ込んだ炎がドラゴンの脊髄を走り全身を巡る。中から膨張を始めた骸骨に入った無数の亀裂が炎混じりの閃光を放ち、ビッグバンめいて爆発四散! 全方位に吹き荒れた熱風に煽られ粉々に砕け散るビルの窓ガラスが下方の人々に降り注ぐ寸前で風流とラリーの光がガラス片全てに行き渡り、元の場所に還す。
 爆炎が完全に消え去った時、パラパラと散る骨片を残してノゥテウームは跡形も無く消え去っていた。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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