病魔根絶計画~妄想を追いかけて

作者:質種剰

●手
 喉から手が出る。
 たまらなく欲しいものを前にした時の心情の比喩だが、この病室から出られない女にとっては、決して比喩で収まらなかった。
 身体の至る所から腕が何本も生やし、本物の両の腕が壁を掻き毟るのに合わせて、うぞうぞと宙でもがいていたのだ。
 正確にはこれらは腕ではない。腕の形をした肉瘤である。
「どうしてこんな所に閉じ込めるの……早く帰らないと彼が寂しがるのに!」
 女は奇異な肉瘤よりも頭を占める不満があるようで、毎日泣き暮らしていた。
「麻麻(まお)くん、麻麻くん……助けて……ここから出して、早く会いたい……!」
 まるで麻麻なる男が女の夫か恋人でもあるように呼び続けている女だが、現実は違っていた。
 麻麻という珍しい字面からも判るように、それは本名でなく芸名。
 女はヘンプ×リネンというインディーズバンドのボーカル麻麻の熱狂的なファンだった。
 ファン心理が拗らせた恋心に変わった事で一気にストーカー化し、麻麻の留守中勝手に自宅へ忍び込んだ為に、通報されて病院へ搬送されたのだ。
「私は麻麻くんの彼女なの! 恋人なのよ! なのにどうして引き離されなきゃならないの!」
 現実の見えていない女は、麻麻から迷惑なファンを通り越した危険人物と思われている事実に、一切気づいていない。


「此度も皆さんにお願いしたいのは、病魔の討伐であります」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が説明を始める。
「病院の医師やウィッチドクターの方々の御尽力で、病魔『悲腕症候群』を根絶する準備が整ったのでありますよ」
 現在、悲腕症候群の患者達が大病院へ集められ、病魔との戦闘準備を進めている。
「皆さんには、その中でも特に強い、『重病患者の病魔』を倒して頂きたいであります」
 今、重病患者の病魔を一体残らず倒す事ができれば、悲腕症候群は根絶され、もう新たな患者が現れる事も無くなるという。勿論、敗北すれば病気は根絶されず、今後も新たな患者が現れてしまう。
「デウスエクスとの戦いに比べれば、決して緊急の依頼という訳ではありません。ですが、悲腕症候群に苦しむ人をなくすため、必ずや作戦を成功させてくださいましね」
 かけらはぺこりと頭を下げた。
「さて、皆さんに討伐して頂く『悲腕症候群』についてでありますが……」
 かけらの説明によると、悲腕症候群とは巨大な手が変形したような節ばった翼を持つ青年の姿をしているそうな。
 顔を覆う白く長い髪の後ろからは無数の腕が生え、肩から繋がる両腕には無数の切り傷が目の如く開いて、どれも血の涙を流している。
 悲腕症候群は『悲恋狂いの腕』を伸ばして、敵1人へ頑健性に優れた破壊を齎す。
 また、後頭部に生えた無数の腕で対象を鷲掴み、そのまま捕まえ縛りつけてグラビティの精度や反射神経を鈍らせるという。
 加えて、理力に長けた『燃え上がる恋の痛み』を広範囲に撒き散らし、敵複数人へ拗らせた恋心が具現化した炎を傷口に燃え移らせるという。
「もし、戦闘前に悲腕症候群への『個別耐性』を得られたなら、戦闘を有利に運べるでありますよ」
 個別耐性とは、今回ならば悲腕症候群患者の看病をしたり、話し相手になってあげるなどの慰問によって元気づける事で、一時的に得られるようだ。
 中でも、『患者の恋する対象への執着を薄めてあげる』のが肝要だ。
「患者さんが恋心を拗らせて最大迷惑をかけている麻麻殿のお気持ちを上手く代弁なさって、この恋は決して叶う事がない……と理解させて差し上げられれば良いのですけれど」
 ため息をつくかけら。
「個別耐性を得ると『この病魔から受けるダメージが減少する』ので、どうぞ積極的に狙っていってくださいね」
 かけらはそう補足して説明を締め括り、ケルベロス達を激励した。
「どうか、悲腕症候群で苦しんでいる患者さんを助けて差し上げてくださいましね。病魔を根絶するチャンスでもありますから……」


参加者
エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)
ペテス・アイティオ(誰も知らないブルーエンジェル・e01194)
ラズ・ルビス(祈り夢見た・e02565)
神薙・灯(正々堂々真正面からの不意打ち・e05369)
栗山・理弥(見た目は子供中身はお年頃・e35298)
ルフ・ソヘイル(秘匿の赤兎・e37389)
加西・裕香(言霊写し・e40803)
ニャルラ・ホテプ(彷徨う魂の宿る煙・e44290)

■リプレイ


 病室。
「この人のこの行動は病気のせいなのか元からなのか、どっちなんだろうなぁ」
 神薙・灯(正々堂々真正面からの不意打ち・e05369)は不思議そうに首を傾げるも、地球人特有の親しみ易い雰囲気を振り撒きつつ入ってきた。
「こんにちは。神薙と申します」
「こんにちは! 俺はルフ! ケルベロスっすよ!」
 ルフ・ソヘイル(秘匿の赤兎・e37389)も人懐っこい笑みを浮かべ挨拶する。
(「誰かを夢中になることは悪くはねぇっすけど、恋人と思い込んでその人を困らせるのはいけねぇっすね」)
「こんな所に閉じ込められて嫌だったっすよね……話したいことあれば沢山聞くっすよ」
 義憤を胸に秘めてにこにこと気さくに接するルフには、絹江の溜まった鬱憤を吐き出させようとする優しい魂胆が。
「麻麻さんについてよくしらないので教えてもらえませんか?」
 そして、麻麻の話題なら見知らぬ他人の自分でも心を開いてくれるかと選んだ灯の判断は正しい。
「まぁ麻麻にご興味が? 麻麻はインディーズで10年活動してきた後アニメのエンディングでメジャーデビューしたの。取り立てエンジェル抵当かた3期の」
 ルフが身を入れて話を聞き、相槌を打つ。
「私、麻麻の売れる為なら仕事を選ばない向上心も好き。アニメのボックスも全部買ったわ。麻麻は私の全てなの!」
 絹江は灯の思惑通り、彼のどこが好きかや自分にとってどんな存在かを、聞いていない事までべらべら喋り倒した。
「ああ、借金苦と女性問題のアニメ……自分は以前女性問題で身も細る思いをしまして」
 話の合間に、自分の失敗談も披露する灯。
「幼馴染に女友達と良い雰囲気な所を見つかって、2人の前で土下座する羽目に」
 前門の未来人、後門のウーロン茶、あれは怖かった——と溜め息をついた。
「だから麻麻の夕飯作る為に待ってたのに……麻麻、ちゃんとご飯食べてるかな。私心配で!」
 絹江は絹江で喋り続けているが、現状の不満や愚痴は、病院に収容された不服へ尽きるようだ。
「すげぇ詳しいっすね! でも、それはアイドルとしての麻麻くんだけで……アイドルじゃないときの麻麻くんのことは出てくるっすか?」
 ルフは柔らかく言及する。絹江の耳に少しでも残るよう、ゆっくり聞き取り易い声量を心がけて。
「当然! 彼は寝る時マッパでAVは熟女モノが好き、インスタント麺は鍋食いかストレート食いのズボラ……それから」
 ムキになって答えれば答えるほど、絹江の知る麻麻はメディアから得た物ばかりだと露呈していく。
(「どれもラジオやテレビのバラエティ番組で本人が言った内容……やはり麻麻さんの情報は公称の範囲を出ていない」)
 灯やルフはそう見極めた。
「裕香はね、彼と同じ世界で奮闘中の歌い手、なの」
 加西・裕香(言霊写し・e40803)は控えめな態度で話し始める。
「貴女は、彼の気持ちが分かる?」
 彼と同じ世界——芸能界で頑張っているという裕香は、絹江へ短く問いかけた。
「貴女の言葉は嬉しいもの、だけど……貴方がくれるものは今彼を痛めつけてるの」
 もし自分が麻麻だったら、と必死に感情移入して彼の苦しみを共感しようとする努力は伝わってくるが、いかんせん裕香の言葉は簡潔に過ぎて拙さすらある。
「嬉しいけど、相手の気持ちを考えない人は迷惑そのもの」
 ましてや麻麻と同じ業界へいるならいるで、どんなストーキング行為が迷惑なのか、絹江の仕業と判っている事柄やこんな迷惑行為もしているのではとの想像も織り交ぜて『貴方がくれるもの』の具体例を出していれば、はっきり迷惑さが伝わったに違いない。
 家への侵入以外にも、ライブの出待ち、ロケ現場への追っかけ、イベントでの空気を読まぬ声援、髪やお札が編み込まれた気味悪い贈り物など、幾らでも絹江を糾弾する材料は同じ芸能人なればこそ想像がついたろうに。
「彼のことが好きなら、相手の気持ちを考えて身を引くのが一番だと、そう思うよ?」
「麻麻の気持ちは私が一番知ってるし、私は四六時中24時間麻麻の切ない気持ちを考えて過ごしてるわ」
 残念ながら裕香の真摯な説得は具体性に乏しく、絹江へ伝わらなかった。
「好きなものを好きになりたくなる気持ちはわからないでもないですわ」
 ファン心理へ一定の理解を示すのはエニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)。
(「ですが、相手の意思を尊重できないような押し付けの愛は、愛とは言いません」)
 エニーケ自身が女性アイドルの熱心なファンで、恐らく彼女らの邪魔にならぬよう節度を弁えて応援してるからこそ、そう言い切れるのだろう。
「まあ! 貴女も麻麻好きですのね?」
「ええ、誰より愛してます恋人ですもの」
「彼の曲よく聴いていますがなんというか……心に響くものが感じられますわよね」
 エニーケは真剣な面持ちで、麻麻のファンらしく熱を入れて語った。
「でしょう。本当に素敵な曲を作れる人なんです」
 しかし、エニーケは妄想を甘く見ていたのかもしれない。
「私達ファンはどんな時でも応援してあげるのが彼に与えてあげられる最高の愛だと思いますのよ」
「麻麻も良いファンの方に恵まれて幸せです。有難うございます」
「貴女の好きは迷惑だと解っていても彼の為になる愛ですの?」
「あら失礼な迷惑だなんて。いずれ家族になる私の愛がどう迷惑だと?」
 ネットで結った後ろ髪も上品で看護服姿が凛々しいエニーケだが、絹江をファンだと括って話すには説得力が足りない。
 『迷惑なファンだと本人が解ってない』のだから、どこが迷惑だと具体例を突きつけねば、絹江の恋人ヅラを解く事は難しい。
「初めまして。看護師でケルベロスの、ラズ・ルビスと申します。こちらは、ミミックのエイドです」
 妄想のブレなさに内心困惑していても、礼儀正しい挨拶を欠かさぬのはラズ・ルビス(祈り夢見た・e02565)。
(「誰かに、それほどの想いを抱けること、私は心から素敵だと、素晴らしいと、そう思います」)
 麻麻への心配りを忘れまいと思うものの、根っからの看護師たるラズはまず絹江に寄り添って考える。
 過剰で行き過ぎで一方的な部分を重々承知していながら、
(「けれど、それでも。焦がれるほどの恋心……全てを否定するのは、あまりに忍びないから」)
 どうにかして健全に燃やして発散できる形に落ち着けまいかと、心から願わずにいられないのが彼女の良心だった。
(「ですが……」)
「絹江様。絹江様は、恋人という形でなければ麻麻様に好意を届けられない、のでしょうか……?」
 それでもラズは心を鬼にして、絹江の妄想を鎮めにかかる。
「恋人という形、って何?」
 初めて、絹江が困惑の表情を見せる。
「例えば、あくまで一ファンの範囲での応援ならば、誰に止められる事もありません、よね」
「恋人なの隠してファンのフリしろって事?」
「……それだけの、想い。病室内に燻るままで全く届けられないのでは、あまりに、悲しいですから、どうか今一度、考えてみてはいただけないでしょうか」
「成る程。恋人だって言ったら世間は騒ぐし警察にも信じて貰えない。けどファンのフリなら退院もできる!!」
 ラズは確かに『麻麻へ対してファンの範囲で応援しろ』と言って恋人ヅラを否定したのだが、彼女の優しさが裏目に出たのか会話は噛み合わない。
「もしかしたら恋人としての好きじゃなくて、ファンとしての好きなのかもって思わないっすか? 他の皆に何を言われたか思い返して欲しいっす」
 そこへルフが助け舟を出す。
「何それ、まるで私が麻麻の恋人じゃなくてファンみたいに」
 絹江は猛然と言い返したが、早口の声は上擦り裏返っている。
 自分の現実認識能力に疑問を抱いたのか、それとも恋人だと嘘を言い張るのへ無理を感じて動転したのか。
 どのみち絹江の根拠なき自信を打ち砕いたのには間違いない。
(「ここまで一途に愛せるって、なかなかできることじゃないとは思うけど……」)
 ニャルラ・ホテプ(彷徨う魂の宿る煙・e44290)は、愛用の煙管から心が落ち着くような爽やかな香りを燻らせつつ、口を開いた。
「彼にどういうことをしてあげたいの? ……もしかして、いつも近くにいて、いつも彼のために何かをしたいとか思ってない?」
 ゆっくりと、それでいて絹江の自己満足を暴き立てるべく、言葉を紡ぐニャルラ。
「そうだけど……」
「彼はバンドのボーカルよね? 歌を作ったり、ほかの人と合わせて歌う練習に、それを発表する場も必要よ」
「それ、は」
 絹江の目が泳ぐ。ニャルラの正論に太刀打ちできないと悟ったからだろう。
「あなたが彼と一緒にしたいことは、彼のバンドでの仕事をすべて奪うことになるわ」
 口撃の手を緩めないニャルラ。絹江の願望が麻麻の不利益になると言い放った思い切りの良さ——これぞ英断である。
「わかりやすく言うわ、あなたは彼を家に閉じ込めて、自分のことしか見ないようにしたいのよね……それを本当に望んでる?」
「ええ。ずっと麻麻の側に居たい……けど」
 絹江の声が震え出す。
「彼がそれを望んでいるとは、到底思えないのよね」
 ニャルラはバッサリと切り捨てた。
「……私、麻麻の音楽活動も応援したい……けど、ずっと彼の側に居たい」
 不安そうに呟く絹江。
「私、恋人失格なの……!?」
 恋人妄想を簡単には拭えずとも、絹江へ自分の行動が間違ってると認識させた——ニャルラの辣腕といえよう。
(「認知の歪みとかいうやつでしょうか、誰も幸せになれないしきっちり治すです」)
 ペテス・アイティオ(誰も知らないブルーエンジェル・e01194)は、ウーロン茶のボトルを喉を鳴らして一気飲みすると、
「はじめまして。ケルベロスのペテスです。こちらは恋人のりゅーくんです。アドバイザーとしてついてきてもらいました。よろしくお願いします」
 花も綻ぶ笑顔で脳内恋人を紹介して、絹江を唖然とさせた。
「麻麻くんって人は、あなたをどう呼ぶんですか?」
「夢ではいつも絹ちゃんって呼んでくれるの」
「麻麻くんの本当の名前とか、親の年齢は知ってますか?」
「……本名はちょっとド忘れして。本当よ、ずっと入院してるから私おかしくなって」
 ともあれ、早速激しく動揺する絹江へ現実を正しく認識させようと矢継ぎ早に質問するペテス。
(「妄想の恋に生きる女の子、絶対に放置しちゃいけないです。そんなの苦しすぎるじゃないですか。悲しすぎるじゃないですか」)
「わたしたちで助けてあげなきゃ。ね、そうですよね、りゅーくん」
 深い思い遣りに駆られて意気込む彼女自身が、本物の脳内恋人にべったりだとしたら世話は無い。
 尤も、絹江へ自らを客観視させる為のポーズかもしれないが。
「麻麻くんが、あなたにだけくれたプレゼントなんかありますか? あるなら身につけていますか?」
「ええ。ファンクラブ限定のパスケース」
「そうですか。名前を呼ばれた事がない、本名知らない、他のファンも持ってる特典……あなた、麻麻くんの恋人でなく只の他人です」
「そんな訳ない!」
「二人きりで行った思い出の場所ありますか? 具体的にどんなことをしましたか?」
「磯へ釣りに行ったわ。他の釣り人のおじさん達が気易く話しかけるから、私は近づけ……余り2人きりて感じしなくて」
「成る程、釣りに行く麻麻くんをストーキングしたと」
「違う!!」
 一つ一つの返答へ細かく解説をして、妄想のベールをひっぺがすペテスは見事だ。
「麻麻さんはあなたを知ってます。迷惑な危険人物として。でもあなた自身には興味ありません」
「絶対違うもの……私が迷惑がられてるなんて……麻麻も私を愛してる筈!」
 ペテスの刺したトドメがショックなのか、身も世もなく泣き崩れるペテス。
 彼女の妄想世界は確実に崩壊を始めていた。
 さて。
(「この手の輩は相手に迷惑かけてる、っての自覚してねえからタチ悪いんだよなぁ……」)
 ショタコンの母や姉らから受けた仕打ちを思って苦い顔になるのは、栗山・理弥(見た目は子供中身はお年頃・e35298)。
「はぁ……でも引き受けたからにはやるしかねぇか」
 苛立ち紛れに頭をガシガシ掻く辺り、流石推理小説マニアとでも言うべきか。
(「俺はストーカー事件の解決を依頼された私立探偵……!」)
 そう自身を鼓舞する理弥は、プラチナチケットの力で麻麻の関係者を装って声を掛ける。
「麻麻さんなんだが……最近は『危険なストーカー女』が気になって音楽活動にも身が入らないみたいだな。『留守中に勝手に自宅に入られて、気味が悪くて家に居られない』らしい」
「え……それ、麻麻が言ったの?!」
 泣いていた絹江の顔色が一気に悪くなる。
「絹江さんは麻麻さんと恋人同士のつもりなんだろうけど、残念ながら麻麻さんにはそうとは思われてないみたいだぜ?」
 被害者の辛さとストーカーの話の通じなさの両方を心得た理弥だから、その口調は明晰だった。
「第一麻麻さんには恋人がいる……絹江さんじゃない、別の人だ」
 資料の中から1枚の写真を見せる。そこには麻麻と仲良さそうに腕を組んでいる女性が。
「誰よこの不細工はッ!」
 とうとう暴れ出した絹江を取り押さえながら、理弥は複雑そうな目を向ける。
(「調べなくても分かるぜ、麻麻さんの気持ちは……俺もおふくろや姉貴達に何度勝手に部屋入られて戦慄したことか……家族にだって入られたくねぇのに」)
 男性陣にベッドへ押さえつけられた絹江は、またシクシク泣き出した。
「このまま縋り付いてても、ますます怖がられてどんどん距離が遠ざかるだけだぜ」
 そんな彼女を優しく諭す理弥。
「まあ……まずは病気治して、そっからどうするか考えることだな」
 絹江は虚ろな目を天井へ向けて、
「さよなら麻麻……」
 と呟いた。妄想の恋が終わった瞬間である。


 ラズが病魔召喚を行うと、蝉が脱皮するかのように無数の腕の付け根から悲腕症候群が引き摺り出された。
「悲恋は終わらせてあげますわ。彼女が前に進むためにね」
 絹江を逃がしたエニーケが、地裂竜鱗砲槌【メーレスザイレ】の頭部の爪を開いて竜砲弾を撃つ。
「きっとこれからいい方向に進んでくれます」
 巨大スマホをぽちぽちして、景気良く無人飛行機を降らせるのはペテス。
「ウーロン茶じゃなくて申し訳ないですが……」
 灯は小型治療無人機で前衛陣の守りを固める。
 戦いは続く。
「行くぜ!」
 神業の如き速さでリボルバー銃を連射する理弥。
「……逃がしてあげません」
 ラズは強い麻酔薬を塗り付けたメスを複数投擲。
「我撃ち出すは白銀の蛇。その蛙をむしゃっと残さず食らい尽くせ!」
 ルフも銀弾を撃ち込むや否や大きい白蛇を嗾けた。
 裕香は自ら犠牲になる覚悟で、虚の力纏いし刃を斬りつける。
「君はもう、動けない」
 最後はニャルラが煙管をふかして悲腕症候群へ幻覚香・止を嗅がせ、神経を麻痺させるどころか命の灯をも搔き消した。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月10日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
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