禍骨襲来

作者:天枷由良

●遥か空
「『先見の死神』プロノエーよ」
「ジエストル殿。……此度の贄となるのは、そのドラゴンでしょうか」
「そうだ。お主の持つ魔杖と死神の力で、この者の定命化を消し去ってもらいたい」
 ジエストルと呼ばれた黒き竜は語り、引き連れる同胞に視線を注ぐ。
 プロノエーなる白磁器のように美しい少女もそれを追って、尋ねる。
 相手は、今にも息絶えそうな飛竜。
「定命化に侵されし肉体に強制的なサルベージを行えば、あなたという存在は消え去り、残されるのは、ただの抜け殻にすぎませんが――」
「……構わぬ」
 飛竜はただ一言、そう答えた。
 暫しの沈黙が揺蕩う。そして始まった儀式により、虚空に生まれた魔法陣が飛竜の身体を囲むと、怒りとも嘆きとも聞こえる咆哮が辺りに轟く。

「……サルベージは成功。定命化部分は残っておりません。ですが……」
「わかっている」
 再び訪れた静寂の中、ジエストルはプロノエーを制す。
「この獄混死龍ノゥテウームはすぐに、戦場に送ろう。その代わり――」
 完成体の研究は急いでもらうぞ。
 黒き羽ばたきの要求に、少女は何も答えなかった。

●ヘリポートにて
「富山県立山町に、新たな『獄混死龍ノゥテウーム』の襲撃を予知したわ」
 ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)は手帳をめくりつつ、広げた地図に印をつける。町役場を中心とした円は、見事に人家の大半を戦場へと巻き込んでいた。
「ノゥテウームに知性はなく、出現後は破壊と虐殺の限りを尽くすでしょう」
 敵の出現は間近に迫っており、人々を避難させる時間はない。
「すぐ現地に向かうわ。皆の全力で、ノゥテウームを迎撃してちょうだい」

 獄混死龍ノゥテウームは全長10メートルほどで、北東より飛来する。
 ドラゴンというよりは“骨そのもの”と呼ぶべき禍々しい姿であり、その異様さから一目でそれと判断がつくだろう。
 戦闘力はあまり高くないようだが、そこには“ドラゴンにしては”と注釈がつく。
 剥き出しとなった鋭い骨に、身体の何処からともなく吐き出される穢れた水流、そして灼熱の息吹による攻撃は、どれも油断ならない威力に違いない。
「ただ……ノゥテウームは戦闘開始から八分ほどで自爆死することがわかっているの」
 つまり、倒せずとも八分耐えられれば此方の勝利となる。
 自壊する理由までは定かでないが、それを今此処で探っているだけの時間も材料もない。
「もちろん、八分が経つ前に敗走するような事態になれば、人的にも物的にも多大な被害が生じるでしょう。それに、皆があからさまな時間稼ぎへと走ってしまえば……ケルベロスを脅威でないと判断したノゥテウームは、町の破壊と市民の虐殺を優先するかもしれないわ」
 八分で自壊という性質は頭の隅に留め置く程度で、まずは全力を尽くしてのノゥテウーム撃破を目指すべきだろう。
「気になることは多いけれど、この禍々しい竜に関して考えるのは、人々を守ってからにしましょう」
 ミィルは説明を終えると、すぐさまヘリオンへの搭乗を促した。


参加者
佐竹・勇華(勇気を心に想いを拳に・e00771)
狗上・士浪(天狼・e01564)
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)
ラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691)
氷鏡・緋桜(プレシオスの鎖を解く者・e18103)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)

■リプレイ


 富山県立山町。連なり続く山々を始め、豊かな自然に溢れる長閑な町。
 広がる秋空の彼方に、黒点が浮かんでいる。
「――走れ!」
「早く逃げるんだ!」
 急報に慌てふためき、着の身着のままで西方に駆けていく人々へと、ラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691)や氷鏡・緋桜(プレシオスの鎖を解く者・e18103)がヘリオンから呼びかけている。
 特に緋桜の声は『割り込みヴォイス』の効果でよく届いているのだろう。此方を見上げる人々はケルベロスが来たと知って、焦燥の中に若干の安堵を滲ませたようであった。
 しかし状況は芳しくない。遠く、辛うじてそれと分かるほどであった異形は瞬く間に迫り、破壊と虐殺の限りを尽くすべく悍ましい体躯を唸らせている。
「次から次へと、よくもまぁ……」
 峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)が嫌厭を交えて独り言つ。
「……薄気味悪ぃ奴だぜ」
「ああ。生きてるって言えんのか? ありゃあ」
 神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)も呟けば、狗上・士浪(天狼・e01564)が頷きつつ返した。
 異形――獄混死龍ノゥテウーム。これから八分の後に自壊するという髑髏の如きドラゴンは、既に強烈な死の香りを漂わせている。
 そこから士浪は、かつて飫肥城へと押し寄せた竜の群れを思い起こした。だが、あの骨竜たちでさえ此処まで忌まわしい雰囲気ではなかったはず。
「そんな姿に成り果ててまで、定命化を拒むか……」
 複雑な想いを噛みしめる士浪に代わって、緋桜が遣る瀬なく言った。
 それは偏に、彼が殺生を嫌い生命を尊ぶからなのだろう。
 だが如何なる事情があろうとも竜は侵略者である。故に誰しもが憐れむばかりではない。
「ドラゴンめ……また性懲りもなく!」
 ぎりりと音がするほどに拳を握りしめ、佐竹・勇華(勇気を心に想いを拳に・e00771)は怒りを露わにしていた。
 熊本滅竜戦から此方、竜とその眷属を見る度に湧き上がる激情。それに突き動かされるまま、真っ先にヘリオンから飛び出した勇華は、尚も哮る。
「お前等の企みはいくらでも叩き潰してやる! さあ、かかってこい!」
 ばたつくワンピースの裾を押さえるでもなく、桜花色のガントレットに包まれた左手を差し向ければ、ノゥテウームからも凄烈な咆哮が返った。


 その物恐ろしい叫びを、人々へと向けさせるわけにはいかない。
 勇華に続き、ケルベロスたちは次々と空に身を躍らせる。
「姉ちゃん、無理すんなよ」
 降下の最中、煉は姉に向けて呼びかけた。
「大丈夫。……と言いたい所だけど」
 重傷から回復して間もない神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)は、僅かな逡巡を挟んでから答える。
「そう言ってくれるなら頼りにさせてもらおうかな。でも、レンちゃんも無理しないでね」
 わたしが言えた口じゃないけれど。
 姉が言外に仄めかしたものを表情から察したか、煉は短く返事をして、自身の胸を軽く叩いた腕で勇華を指し示した。
 それに気づいた勇華からも、鈴を気づかうような視線と頷きが返ってくる。以前とは幾らか雰囲気が違うようにも見えたが、彼女の本質は変わっていないのだろう。
 そして力量をよく知る友の存在は、戦場においてとても頼もしいもの。
「さぁ、いくぞ!」
 勇華もまた、神白姉弟と――。
「皆様はボクが護るであります!」
 もう一人、共通の友人であるクリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)の大きな盾を掲げた姿から少しばかり落ち着きを取り戻して、気持ちを新たに吼えた。
「自爆も虐殺もさせない! その前にわたし達がお前を倒す!」
「全力で、貴様に相応しい死に様をとどけようっ!」
 勢いに乗ってラギアも声を上げる。
 そうして表した戦意は、他の仲間たちにも伝播していく。
「――ほらよ、受け取れ!」
 地に降り立つなり、士浪が砲撃形態のドラゴニックハンマーから竜砲弾を放った。
 それは空を裂き、僅かな弧を描いて打ち当たる。ぐわり。死龍の巨躯がうねり、髑髏は赤黒い瞳で此方を見据えながら高度を下げる。
 一先ず、此方に敵意を向けさせることには成功したようだ。後は絶えず攻撃を当て続けてさえいれば、無辜の民草に危害が及ぶことはないはず。
 その為に必要なのは――眼力で見える数値を高めること。
「大地に眠る祖霊の魂……今ここに……闇を照らし、道を示せ!」
 鈴が神秘の羽扇を振るう。途端、現れた光り輝く狼の群れは実り豊かな田畑の隙間を駆け抜け、一目散に死龍へと向かっていく。
「レンちゃん!」
「任せろ!」
 群れが何を示すものなのか。それを最も早く理解できるのは、やはり弟であろう。
 煉は姉の呼びかけに応じて、腕と一体を成す狼頭のハンマーに意識を注ぐ。程なく撃ち放たれた破壊の力は光狼たちを追うように飛んでいくと、大地に舞い降りた死龍を穿って動きを鈍らせた。
 さらに続けざま、髪をかき上げることで意識を切り替えた緋桜がスーパーボールを放る。
 しかし敵の侵攻を食い止めるべくばら撒かれたそれは、広く散らばったが故に殆ど意味を成さず消えていった。
 代わって、死龍から炎が繰り出される。
「姉ちゃん下がれ!」
「ボクの後ろには通さないのであります!」
 地を舐めるような炎にも臆せず、煉とクリームヒルト、そしてクリームヒルトのテレビウム“フリズスキャールヴ”が壁を作る。
 自然の草花も人の住処も、等しく飲み込んでいく重たい炎は二人と一体の身を焦がすが、彼らは元より盾として戦場に立つ身。一時炙られた程度では後ずさりもしない。
「それがボクの役割! ボクが護れば、皆様が必ず!」
「――うおおおおおおっ!!」
 厚い鎧と大盾で熱を凌ぎ、上方に小型無人機を散らしたクリームヒルトの後ろから、彼女の期待通りに勇華が大地を蹴り上げて跳んだ。
 炎を越えたその足は死龍に触れる寸前、身体の中心から巻き取るような捻りを加えられ、鞭打つように靭やかで鋭い蹴りとなって襲いかかり――直撃。
 そして入れ替わりに、ラギアが上から降った。髑髏を打ち砕かんと力強く振り下ろされた鴨頭草の剛斧“ドラゴンフィスト”は、正しく名の通り竜の剛拳が如き威力を存分に発揮して、死龍の身体を地に沈めた。
 さらに一拍、間を挟んで光の剣を具現化した恵が斬りかかる――が、側面から隙を突いたはずの一太刀は、悶えながらも繰り出された死龍の爪とも翼とも呼べぬ奇怪な部位に阻まれ、惜しくも届かない。
 だが、恵も侵略者相手に大人しく引き下がりはしない。
 剣がダメなら――と、目にも留まらぬ速さで礫を放つ。その攻撃に派手さはないが、受けた死龍は今まさに吐き出そうとしていた穢らわしい澱みの制御を失い、誰に向けるまでもなく霧散させてしまった。
「今だ!」
 すぐさま勇華が間合いを詰め直し、右手に取り付けたパイルバンカーの芯を殴りつけるようにして突き立てる。
 低く重たい衝撃音が返った後、髑髏の表面が薄白く染まった。それは士浪の撃ち放つフロストレーザーによってより色濃く厚くなり、煉の蹴りによって砕け散ると、元より少ない死龍の時間を情け容赦無く奪い取っていく。
「――――!」
 死龍が、また一際大きな叫びを上げた。
「そんなナリでも、体蝕まれる感覚ってのは分かんのか?」
 バスターライフルに次弾となるエネルギーを溜めつつ、士浪はじっと敵を見据えて呟いた。
 勿論、答えはない。だが悶える死龍の姿に、士浪は自らの問いを是だと断じる。
 その直後、ラギアの伸ばした黄金に輝く如意棒が、敵の身体の一部を抉り飛ばした。
 ともすれば美術工芸品のような美しさを備えるそれは、まるでラギアの手元から神罰の雷が放たれたかのように一瞬で伸び、そして返る。その一撃は、一刻も早く異形を屠り、苦しみから解き放とうという力強い決意に満ちていた。
 しかし此方が幾ら同情的であろうとも、死龍にそれを感じ取るような理性は残っていない。身体を大地に打ちつけ、恨みのような呪いのような叫びを振り撒きながら、一度散らせた澱みを再び体内より生み出して、ケルベロスたちへと解き放つ。
 それに立ち向かうのは、またも煉とクリームヒルト、フリズスキャールヴ。
 彼らの気合すらも砕き飲み干さんと、澱みが押し寄せる。触れた瞬間、黒々しく粘り気のある液体は炎と違う焼けるような痛みを全身に走らせる。
 そしてじわり、じわりと少しずつ二人と一体を侵していく。皮を溶かし、肉を削ぎ、己を守り形作るものを一枚一枚引き剥がしていく――そんな感覚が、ゆっくりと彼らを苦しめていく。
 或いは、定命ならざるものにとっての死の恐怖とは、このような感覚なのかもしれない。永久に在るはずの己が、得体の知れないものに穢され、失くなっていく――。
「俺の蒼炎は、この程度で絶えやしねぇ!」
「翼よ、治癒の光を纏うのです!」
 穢れを振り払うように煉が吼え、クリームヒルトは光の翼を大きく翻した。
 意地で燃え上がった蒼い炎を翼の輝きが包み、傷を癒やしていく。盾として奮闘する彼らを支えるべく、鈴もボクスドラゴン“リュガ”の力を借りながら、再び光り輝く狼の群れを呼び出して、屠るべき敵の姿を照らし出す。
 その余波に乗り、緋桜が死龍の真正面へと飛び込んだ。
「……俺は力無き者を守る為に、全力でお前を打ち倒す!」
 言葉と共に右の拳を叩きつける。単純であるが故に強烈な達人級の一打が、髑髏を砕き割る。
 さらにもう一発。引いた拳に力を集めて、一気に叩きつける。
「それが――この一撃が、俺の想いだ!」


 拳と髑髏の接触面を起点として、衝撃が大気を震わせた。
 先の一打など比較にならないほどの威力を秘めた緋桜の“闇拳”は、動きの鈍い死龍を見事に捉えて、溜めに溜めたダークエネルギーなる力を余すところなく死龍の滅びゆく肉体へと注ぎ込んだ。
 ……が、それと同時に。死龍の爪もまた、緋桜を穿つべく狙いを定めていた。
「――っ!」
 咄嗟に後方へと身体を流すも、不意を突かれた状態で10メートルもの巨体から逃れるのは至難の業。一撃貰うのもやむなし、せめて少しでも受け流すことで深手を負う事態だけは避けようと、緋桜はさらに後ろへ倒れ込むように動く。
 ――視界に、光の翼が過った。
「そうはさせないのであります!!」
 地を這うように飛び、クリームヒルトが緋桜と死龍の間に辛うじて滑り込む。
 間一髪。それだけに受けるための態勢も整わず、重鎧と大盾で身を固めた少女は最も強力な攻撃をまともに喰らう。今しがた飛んできたばかりの道を、クリームヒルトは飛んできた時とは比べ物にならないほどの速度で転がっていった。
「クリームヒルトさんっ!」
 さすがに看過できず、勇華が駆け寄る。すぐに腕を上げて応じた様子から深い傷ではないことが見て取れたが、守勢に全力を傾けるクリームヒルトですら弾き飛ばす死龍の爪は、果敢に攻め立てていたケルベロスたちから気勢を削ぐのに十分な脅威だった。
 防具耐性の合致しない自分が喰らっていたのなら――そう思えば、幾ら好戦的な意識に切り替えている緋桜でも踏み込みが浅くなる。威力より正確さを重視した選択も裏目に出て、再び放り投げたスーパーボールはやはり大した意味も成さずに焼き払われた。

「怯むな!」
 弱りかけた攻勢を今一度奮い立たせたのは、一角のドラゴニアン。
「破壊も虐殺も、やらせはしないぞっ!」
 ラギアは片手に斧を握り、もう一方の拳を固く握りしめることで仲間の身を案じる優しさに封をする。
 何故ならば。ラギアの役割が、少しでも多くのダメージを死龍に与えることであるから。
「おおおおっ!」
 高々と飛び上がり、気迫を込めて竜の剛拳を叩きつける。
 その一撃が、流れを再びケルベロスたちの元へと手繰り寄せた。
「レンちゃん、勇華ちゃん! 回復はわたしに任せて、攻撃を!」
 光り輝く闘気をクリームヒルトに分け与えつつ、鈴が声を上げる。
 弾かれたように二人が動き出す。死龍は再び、死へと歩み始める。

「――六分経つぞ!」
 腕時計のアラームで経過を把握したラギアが、全員に呼びかけた。
 しかし、その声色に焦りは感じ取れない。ケルベロスたちの猛撃を受けた髑髏は明らかに動きを弱めていて、今から逃げた人々に襲いかかることなど到底不可能だと確信が出来たからだ。
「だからって、てめぇが朽ちんのを待つ気なんざ、さらさらねぇよ!」
 吐き捨てるように言った煉が攻めに出る。その右腕に宿る焔が一際大きく揺らいだのを見やり、それまで支援に奔走していた鈴も弟の後を追う。
「お父さんの遺志は、想いはここにある。これがわたし達の絆!」
「受けて見ろ! この青き星の力、親父の奥義!」
 姉の白き光と、弟の蒼き焔。二つが形作る狼の咢。
 姉弟連牙『双星狼牙』。渾身の合わせ技が、髑髏を左右から削り取り――。
「……ちっ、浅い!」
 会心の手応えでなかったことに、煉が唸った。
 瞬間、死龍からもまた爪が伸びる。何としてでも一矢報いる……そんな気概でなく、ただ時の尽きるまで何かを破壊し続けるという、まるで救いようのない哀れな本能からだろう。
「そんなものは恐ろしくないのであります!」
 立ち直っていたクリームヒルトが再び盾となる。今度はしっかりと凌ぎ、健在を仲間たちに誇示してみせる。
 その隙に、恵が星型のオーラを死龍へと蹴り込んだ。
「―――穿て!」
 すかさず士浪も詰め寄り、螺旋回転する氣の奔流を星型の痕に捻じ込む。
 深く深く。抉り抜かれた死龍が、髑髏を擡ぐ。
「これで――終わりだ!」
 一閃。闘気を纏った勇華の左手が死龍を裂いた。
 刎ねられた武者の首のように、髑髏が力なくゴロリと転がっていく。
 それは程なく、ぼろぼろと崩れて、跡形もなく消え失せた。


 唾棄すべき異形が消え去り、町には長閑な空気が戻った。
 それ故に戦の痕跡は目立つ。ケルベロスたちは方々に散って、ヒールなど事後処理に当たった。
「みんな無事かな……無事ならいいんだけど……」
 手を動かしながらも、勇華は頻りに西の方を見やる。
 その表情がようやく穏やかさを取り戻したのは、諸々の作業が終わると同時に、戻ってくる人々の姿を認めた頃。
「ドラゴンの企み、今回はどうにか阻止できたね。よかった」
 胸をなでおろす勇華に、やっと少しばかりの“らしさ”を感じることが出来たような気がして、鈴も微笑みを返す。
「……でも、結局なんだったんだろうね、あれ」
 訝しむように言ったのは、恵だ。
 ノゥテウームによる破壊と虐殺は、確かに防いだ。
 しかし、それだけだとも言える。ケルベロスたちは何を失うこともなかったが、しかし何かを得られたわけでもない。
「早めに調べたほうが良いかも」
「……ああ」
 龍の散った方に黙祷を捧げていた緋桜が、神妙な面持ちで頷いた。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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