群竹アーミーズ

作者:天枷由良

●無言の進軍
 攻性植物が根付いたままの大阪城近く。
 人の手を離れ、朽ちていくばかりのビルの陰から、迷彩服姿が一つ現れた。
 それは銃を構えたままで頻りに周囲を見回し、やがて敵対する存在がいないことを確認すると、背後に向かって片手で合図を送る。
 まるで軍人のよう――いや、軍隊と呼ぶべきだったか。
 二つ、三つ、四つ……瞬く間に増えて、気づけば八つ。八つの迷彩服は統制された動きで互いの死角を埋めつつ、瓦礫やら看板やら放置された車やら、障害物の陰に隠れて確実に前進を続けていく。
 そこに得も言われぬ不気味さを感じてしまうのは、やはり彼らが“人の形をした人ならざるもの”であるからだろう。
 顔や手など、迷彩服に覆われていない部分から覗く緑色の肌。
 もとい、竹。
 かぶさっているわけではない。僅かに伺えた彼らの身体の一部は、竹そのものであった。

●ヘリポートにて
 ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)の説明は、まず先だって行われた大阪城への潜入調査に触れるところから始まっていた。
 敵地に踏み込んだケルベロスたちは誰一人欠かさずに帰還を果たし、幾つかの貴重な情報を持ち帰っている。この成果は、大阪城に陣取る攻性植物との戦いを進めていく上で役立てられるはずだ。
「――けれど、潜入チームの無事と戦果を喜んでばかりもいられなさそうだわ」
 ミィルは地図を広げると、大阪城周辺にペンを走らせた。
「ケルベロスの侵入を許したことで、攻性植物側も警戒の度合いを上げたようなの。大阪城から一般人が暮らす市街地までの間に存在する無人の地域――言わば“緩衝地帯”の部分に、竹の攻性植物の軍勢が展開していることが確認できたのよ」
 この竹軍団には、大阪城に接近するケルベロスの警戒と、支配領域を拡げるための市街地攻撃。二つの任務が課せられているようだ。
「そして早速、市街地へと進軍を始めている一部隊の動きを掴んだわ。彼らが緩衝地帯を抜ける前に撃破して、一般市民への被害を防ぎましょう」

 敵は八体。軍隊のような連携を取って隠密に進みつつ、索敵を行っている。
「構成は――黒い外套を纏った指揮官らしき“ジェネラル”と、大量の爆竹に似た装備を身に着けている“ボムソルジャー”が一体ずつ。そして竹槍を持った“ランスソルジャー”に、銃器と筍の弾丸を携える“ガンソルジャー”が三体ずつよ」
 今回の敵部隊は、ガンソルジャーが最前を進んで盾役を担い、その後をランスソルジャーが追随。ボムソルジャーが安全の確保された進路を中衛として進み、ジェネラルが最後方から総指揮を行う――といった形で進んでいるようだ。
 彼らはケルベロスの侵入がないことを確認次第、市街地へと攻撃を始めるだろう。
「規律ある進軍をする彼らの前に、無策で飛び出すのは無謀でしょう。不意打ちを受けたりすることのないように、此方も『隠密に行動しつつ、敵を索敵』しなければならないわ」
 敵を上回る隠密性を維持して索敵ができれば、奇襲を仕掛けて優位に立てるだろう。
 逆に、あまり考えなしの行動を取れば必ず敵に不意を突かれてしまうはずだ。
「竹軍団八体の戦闘力は、ケルベロス八人で互角とみられているわ。先に敵を発見して、奇襲を仕掛けた側が圧倒的有利になるのは間違いないでしょう」
 戦場となる緩衝地帯は無人の市街地であるため、その地形をうまく利用することができれば、敵に一歩先んじられるかもしれない。
 また、何処で戦闘が始まってもすぐに駆けつけられるよう、部隊を広く展開しすぎないことも重要になるだろう。
「竹軍団に負けないよう、此方もしっかりと連携して戦いましょうね」


参加者
水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)
エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
レスター・ヴェルナッザ(凪の狂閃・e11206)
除・神月(猛拳・e16846)
フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)
エドワード・リュデル(黒ヒゲ・e42136)
終夜・帷(忍天狗・e46162)

■リプレイ


 ぱらり、と乾いた音に身を震わせて、水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)が周囲に目を配る。
 敵襲――ではない。音源は近くの建物から零れ落ちたコンクリート片。死角を補っていた三人の仲間たち共々、蒼月は胸を撫で下ろす。
 姿勢を低く保ち、辺りに気を払い、出来るだけ音を立てないように進む――言うは易く、行うは難し。普段とは違う行動、それに伴う緊張感は、ケルベロスたちに緩やかな消耗を強いている。
(「……黙ってるのって苦手なんだよなー」)
 口元から首あたりにむず痒いものを感じて、蒼月は唾を飲んだ。
 そして口を真一文字に結んだまま、開いた手を軽く上げて前後に振る。事前に取り決めた「進め」のハンドサインに従って終夜・帷(忍天狗・e46162)など後方警戒を務める“援護班”の四人が距離を詰めてきた後、蒼月ら“先行班”からは先頭を譲り受けたレスター・ヴェルナッザ(凪の狂閃・e11206)が窮屈そうに身体を縮めながら前進していった。
 行く手は右に折れている。レスターは角の雑居ビルにぴたりと身体をつけてから立ち上がって一息つき、四分円を描くように少しずつ動き始めると、路地にはみ出す寸前で顔の半分未満を一瞬ばかり向こうに露出させた。
 敵の姿は見当たらない。建物の陰、自動車の脇、折れた道路標識の傍――やはり動くものはない。
 援護班に「進め」と送って、今度は地図に目を落とす。
 半ばどころでなく廃墟と化してはいるものの、此処は大阪市民が暮らしていた土地。かつての名残は幾らでも見受けられる。
 それを手元の紙片と照らし合わせれば、現在地の確認は勿論のこと、緩衝地帯に踏み入る前の空からでは判別できなかった、より警戒すべき場所を抽出することも出来よう。
(「この先は脇道も多い。油断するなよ」)
(「わーってるヨ」)
 地図で示しながらの助言に不敵な笑みを返し、除・神月(猛拳・e16846)が曲がり角から飛び出していった。
 その身体は人の姿を保ったままだ。動物変身すれば小さくはなれるが、隠密気流を使えなくなってしまう。
(「ま、それくらいのことでパンダが竹に出し抜かれて堪まるかってんダ」)
 端から特殊能力に頼り切るつもりもない。低い姿勢での移動、遮蔽物の活用。イロハのイを押さえた上で気流を纏いつつ、神月は埃を被って色褪せた看板の陰に滑り込み、仲間に手を振った。
(「……地味、ですわね」)
 今しがた神月が通ったばかりのルートをなぞりながら、エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)はふと嘆く。
 それは行動ばかりでなく、ケルベロスたちの外見にも当てはまる。都市迷彩仕様のケルベロスコートにフェイスペイントまで施した姿は、華やかさの対極にあると言っていい。
(「とはいえ、新世代型レプリカントたるわたくしの優美さが、この程度のカモフラージュで本当に隠せているものかどうか……」)
(「だいじょぶだいじょぶ。心配無用でござるよ」)
 援護班のエドワード・リュデル(黒ヒゲ・e42136)から、言葉の代わりにそんな視線が送られた――ような気がした。
 お返しに意味もなく人差し指と小指を立てて、キツネサインを出してみる。……無意味な行為だという意図は無事伝わったらしい。やや締りのない表情で、エドワードはうんうんと頷いていた。
 そのエドワードの顔にも、凹んで影になる部分は明るく、鼻などの出っ張りは暗くと模範的な偽装が成されている。人の顔をそれと認識しづらくする手法が人外の輩にも効くのかは分からないが、やるだけやって損はあるまい。
 普段のエドワードなら着込むことはないコートも、その一つだ。着脱も簡単な魔法の上衣は、あらゆる武器防具を隠してくれる。
(「……どういう仕組みなんだろう……」)
 不意に生じた疑問をすぐに彼方へと流して、フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)はスコープを覗き込み、先行班の背中を追う。
 広げた両手ほどの幅を持つ偽翼さえ収める便利グッズについて考えるのは後でいい。今ここで求められているのは好奇心でも探究心でもなく、八人を一つとする協調性。一つを灰色の街に溶け込ませて零とする慎重さ。
(「そう、分かってはいるのですが」)
 あまり例のない状況での戦いに、テレビウムを伴って後方警戒に勤しむ霧島・絶奈(暗き獣・e04612)は薄っすらとした高揚を味わっていた。
 かつて――約三年も前になろうかという、かつての城ヶ島制圧戦を思い出すような高ぶり。些細な失敗が味方や大阪市民の危機に繋がるかもしれないことを考えれば、そのような想いを抱くのは少し不謹慎なのかもしれないが……しかし己の内に在る闘争心を欺くのは、常日頃から張り付けた笑みに価値を与えるのと同じくらい難しいのだろう。


 そんな絶奈を含めた援護班と、先行班が交互に移動を繰り返して暫く。
(「――!」)
 十字路で何度目かの警戒動作を行ったレスターが、その瞳に敵の姿を捉えた。
 銃を構えたガンソルジャーだ。視線が合う前に頭を引っ込めて、すぐ合図を送る。「敵発見」のサインを受けた援護班も警戒を強める中、レスターは幸いにも日陰であったことを利用して、鏡で先を見やる。
 通りの向こう側左手、二つほど隣の路地から現れた一体が後方に腕を振ると、つれて二体目、三体目の銃兵が顔を出した。
 そのまま此方に向かってくる。他の兵はまだ見えないが――予知に鑑みれば路地の向こうにいるはず。
(「上手く回り込めば、ジェネラルを討てるかもしれねえが……」)
(「ちっとばかし位置が悪ぃナ」)
 地図をなぞるレスターに、神月が渋面を返す。接近する敵の前を縦断するのはさすがに無謀ゆえ、後背を狙うなら来た道を戻ってから大きく迂回するしかないが、銃兵以外の敵はまだ未確認。後に続く彼らの動き次第では、道半ばで露見する恐れも十分にある。
 一方、この場で待ち構えたままなら、まだ此方に気づいていない銃兵を出会い頭に叩けるだろう。
 より大きな利を得るべく危険を冒すか、それとも――と、その判断を下す一押しは、間近に来ていた援護班の絶奈と帷から為された。
(「無理をせず、一番手前の敵から狙うとしましょう」)
 指揮官を驚かせてみたい気もしますが……と、絶奈は笑みを湛えたまま囁く。
 帷も頷いた。これぞ忍びと言わんばかりに寡黙な帳はそれ以上に何をするでもなかったが、示された同意を覆すほどに強硬な姿勢を見せる者もいない。
(「決まりでござるな」)
 そんな意味を込めて、縦に首を二度ばかり振ったエドワードの両眼が、恐ろしく冷ややかな光を宿した。

 臨戦態勢を整え、耳を澄ます。
 荒れた路面を踏みしめる軍靴の音が、少しずつ近づいてくる。
 あと十歩。……三、二、一。
(「今だっ!」)
 蒼月が路地へと躍り出たのを皮切りに、レスターと神月が続く。
 さらにエルモアが飛び出すと、銃兵たちの視線を集めた彼女は堰を切ったように高笑いを響かせる。
「やはりわたくしの美しさは隠しきれなかったようですわね! ――ですが!」
 真の輝きを放つのはこれからだ。そう言わんばかりに両手を広げたエルモアは、特殊兵装“カレイド”六機を宙へと散りばめた。
 浮遊する鏡のような物体に囲まれて、銃兵たちは明らかに困惑しながら武器を空へと構える。
 撃ち落とすつもりらしい。だが発砲音が鳴り響くより早く、蒼月の放つ螺旋氷縛波が竹の一体を氷像へと変えた。
「仲良くぞろぞろピクニックかヨ。おやつもちゃんと持ってきたカー?」
 狼狽える他の銃兵をせせら笑い、神月は一気に氷漬けの竹へと猛進。降魔の力を込めた腕を引いて、腰を少し落とす。
「噛み応えありそーだシ、じっくり味わってやんヨ!」
 一撃。下から突き上げるように打たれた掌底は、銃兵の懐から全身へと凄まじい衝撃を伝播させた。
 敵が神月の期待に沿えず、脆くも崩れる。不意打ちの効果が会心の一撃という形で表れたのだろう。
 それは打撃のみならず、射撃にも当てはまる。エルモアが揺蕩うカレイドに幾度も反射させたレーザーは銃兵の視線を玩弄した後、左背部を貫いて大穴を穿った。
 ぐらり、と敵の身体が揺れる。
 その隙に飛び込み、レスターが銀炎纏う右腕を一閃。竜骨より作られた大剣“骸”の刃と炎で竹を裂き、焼き尽くす。
「……流石は竹だ、良く斬れ良く燃える。バラして竹竿にでもするのが似合いじゃねえか」
「竿より炭にした方がいいんじゃないかな!」
 レスターの呟きに、沈黙の軛から解き放たれた蒼月が溌剌と答える。
 しかし、それも束の間のこと。一人残された銃兵は後退を始めつつ、武器の矛先を空から地上へと向け直して散発的な射撃を行った。
 蒼月は再び口を閉ざしてレスターの前に立ち、エルモアもまた神月を庇って迷彩色の頬に一条の傷を負う。
 そこでさらなる速攻を掛けるべく、援護班の四人も戦場に踏み込んだ――が、一連の応酬で非常事態を察した竹軍団の残りも、槍兵を先頭に路地の向こうから姿を現した。
 奇襲と呼べるのは此処までだろう。しかし厄介な盾役を二体も屠り、優位に立ったケルベロスたちに焦りは生じない。
 猛進してくる竹槍兵の向こうに爆弾兵を認めた蒼月は、侘しい制圧射撃を受け流しつつ長剣で地に守護星座を描く。
 エルモアは無人治療機を飛ばして、浅い傷を受けた端から癒やしていった。
 一方で銃撃が二人の足を止めていると見るやいなや、槍兵たちは三本の竹槍を揃えて突き出し、ひた走る。
 そのまま突撃してくるつもりなのは誰の目にも明らかだが――。
「竹はパンダに喰われて終わりダ、って事を教えてやんねーとナァ?」
 飛んで火に入るか鴨が葱を背負ってか、ともかく神月の瞳に、敵の動きは只々都合の良いものとしか映らなかった。
 片腕を天に掲げるや否や、空を厚い雲が覆う。色濃くなった陰に口元を歪めた神月の腕は、程なく敵へと向けられる。
 瞬間、凄まじい風が街中を駆け抜けた。まるで巨龍の息吹にも似た一薙ぎに槍兵たちの進軍は阻まれ、最後の銃兵も木の葉の如く弄ばれた末に地面へと叩きつけられる。
 そして起き上がる間もなく、畝る銀の炎に喰らいつかれた。
「……戦争ごっこはもう終わりか?」
 なおも剣先から銀色を迸らせて、レスターが敵群を睨めつける。
 銃兵は瀕死。槍兵は体勢を立て直す最中。
 そして爆弾兵は――両手にぶら下げた爆竹の束を振り回し、ケルベロスたちへと狙いを定めた。
「やらせない……」
 ケルベロスコートを脱ぎ捨てた勢いで小さな攻性植物を右肩に乗せ、広げた偽翼から青蛍石の杖を取ったフローライトが機先を制する。
「悪いけど……乱心してくれないかな……」
 とつとつと語る間に、フローライトの杖から放たれる特殊な波長は爆弾兵を侵していく。
 だが、でっぷりとした体躯の爆弾兵は既のところで干渉を脱したらしい。一度は放る先に迷っていた束を再び振り回すと、ケルベロスたちの立つ方に力強く投げた。
 反応した絶奈がテレビウムを盾役として押し出しつつ、杖を翳して雷壁を作り上げる。それに触れた爆竹が次々と派手な音を鳴らして爆ぜ、舞い上がった埃が戦場に靄としてかかる。
 不明瞭な視界の中、遠くから竹刀の叩きつけられる音が何度か響いた。
 最後衛の将官が銃兵と槍兵に合図でも送っているのだろう。
「……どれ、教育してやるか」
 ニヤリと笑って、エドワードが弓を射る。
 妖精の祝福を受けた矢羽は、段々と晴れていく戦場の彼方に消えた。
 それが見えていたのだろう。立ち直った槍兵たちが一斉に槍を構え直して走り出し、突撃を援護すべく銃兵が引き金に指をかける。
 しかし膝撃ちの姿勢を取ろうとした銃兵は、中途半端な格好で動きを止めた。
 その足下には螺旋の手裏剣が突き立っている。そして背後には――靄に紛れて飛び、エドワードの放った矢による祝福を受けた帷の姿。
 そこに至るまで感じられなかった殺気を一身に浴びながらも、振り返ることすらできない銃兵が微かに戦慄くのを無表情のまま見つめ、帷は逆袈裟に刀を振るった。
 裂かれた竹が前のめりに倒れていく。地面にぶつかってからんと音が響いた時、介錯を務めた忍びは霧のように失せていた。


 銃兵の穴を埋めるべく、将官が頻りに守勢の指示を出す。
 それを受けた槍兵たちはテレビウムを突いていた竹を引っ込め、寄らば刺すとの態勢を維持しながらも後ずさっていく。彼らの動きを援護するつもりなのか爆弾兵はじりじりと前に出て、一際大きな爆竹の束を取り出すと――何を思ったか、押しつぶすように抱きしめた。
 不意の自爆に、テレビウムを治療していた絶奈の手も止まる。
「……そう……『敵』は……『あなた自身』かもしれない……」
 偽翼の背後に広がる魔法陣から光を溢れさせつつ、フローライトが顔色変えずに言った。
 逃れきったように思えた精神干渉が爆弾兵を蝕み続けていたのだろう。自らが何をしたのか未だ理解できない様子の爆弾兵は立ち尽くしたままで、矢継ぎ早の攻撃を受けると大の字に倒れた。
 そこに帷が音もなく現れ、氷結の螺旋でトドメを刺す。凍りついた大柄な体躯は溶けるようにして塵と化し、消え失せていく。
 残るは槍兵と将官。その将官が今度は攻勢の指示らしきものを出していたが、ちぐはぐな指示にも律儀に従って突進を始めた槍兵たちは、絶奈が解き放った“親愛なる者の欠片”に尽く飲み込まれていく。
 もがき苦しみ、這々の体で抜け出した頃には将官の指示による陣形など跡形もない。最後衛に立つメディックといえば治癒一辺倒な仕事にも思えるが、一度攻撃に出ればこうして敵を崩す切っ掛けにもなる。
「それでも前進たぁ、甲斐甲斐しいでござるねぇ」
 これで指揮官が有能なら。ちらりと将官に目をやった後、エドワードは槍兵の一体に向けて砲撃を仕掛けた。
 敵の足が止まる。しかしエドワードは前進せず、砲撃を続ける。無理やり突破を図ろうとする槍兵が進み出せば少し引いて攻勢を強め、気圧された敵が後ずさればそれを追ってなおも撃つ。
「デュフ、デュフフフ!」
 嫌がらせって楽しい。相手が自らの掌でコロコロと転がる快感を存分に味わい、エドワードは堪えきれず声を漏らした。
 それに反撃することもできないまま、レスターの炎や神月の拳までもが槍兵を襲う。集中攻撃が一体、一体と確実に敵の数を減らしていく。
「……この分だト、オマエも大したことなさそうだナ?」
 竹刀と竹の銃を構える将官に歩み寄りながら、神月が拳を鳴らした。
 もはや勝敗は決しているが――敵に退く気配はない。
「ま、ここで尻尾巻いたら先に逝った連中が泣くでござるよ」
 エドワードが頷き、棍棒のような何かを構える。
 それが火を吹いてから程なく、最後の竹兵も灰色の街中に散った。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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