残滓は妄念となりて

作者:坂本ピエロギ

 中学生にとって、2学期というのは忙しい時期だ。
 体育祭に文化祭、部活動の大会に中間期末テスト。学校生活の華とも言えるイベントは、おおよそこの数ヶ月に集中する。
 そんなわけで、中学生として生活を送るケルベロスであるノルン・ホルダー(若枝の戦士・e42445)にとっても、この頃は校内の行事が増え始める時期。
 この日、彼女は学校でちょっとした用事を済ませ、家路を急いでいる最中だった。
「~♪」
 薄暗くなった夕闇を、ノルンは鼻歌交じりに小走りで駆ける。
 猫科のウェアライダーに備わる軽い足取りは、いつしか家の近道へと入り込む。
 そこは人気のない、一本道の道路。
 大きな木々が葉を散らす、薄暗い道を駆け抜けようとして――。
 ふと、足が止まる。
「……あれ?」
 視線の先に、小さな人影が見える。
 黒髪に黒い猫耳。そして色濃く漂う――死の気配。
「デウスエクス……死神!」
 中学校に通う年頃でも、ノルンの潜った修羅場は数知れない。
 瞬時に身構える若きケルベロスに死神は音もなく歩み寄り、言った。
「ようやく見つけた。『一族』の者」
「――!!」
 街灯に照らされた死神の人相を見て、言葉を失うノルン。
 そんな彼女に向かって死神は手にした鎌を振り被ると、
「根絶やしじゃ。ベルザの名において」
 そう告げて、ノルンへと襲いかかるのだった。

 死神によるケルベロス襲撃事件が予知された――。
 ヘリポートに集うケルベロス達を迎え入れ、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)はそう告げる。
「襲撃を受けるのはノルン・ホルダーだ。此方でも何とか彼女と連絡を取ろうと試みたが、全て失敗に終わっている。もはや敵との戦いは避けられんだろう」
 苦渋の表情を浮かべて、王子は言う。
 敵は強力なデウスエクスであり、優秀な戦士のノルンといえど一対一では勝ち目は薄い。と言うよりも、このままでは敗北は時間の問題だ――と。
「だが、今から現場に急行すれば間に合うはず。お前達はすぐにホルダーの救援に向かい、襲撃してきた敵を撃破してほしい」
 敵は『ベルザ』という女の死神だ。ノルンと同じ猫科のウェアライダーをサルベージした存在らしく、いかなる理由かノルンを殺害しようと企んでいるという。
「ベルザはホルダー個人というより、彼女の一族に対して強い恨みがある様子だが……あいにく私の予知では詳しい事までは分からなかった」
 ベルザの武器は黒い大鎌だ。猫科らしい敏捷な動きを活かし、舞うように戦場を駆けながら標的の命を鎌で刈っていくという。
 現場はベルザの手によって人払いが為されているらしく、周辺に二人以外の人影はない。時刻は夜だが、街路一帯には街灯があり、視界は十分に確保された状態だ。
 襲撃場所はノルンの通学路上を少し外れた街路で行われる。ヘリオン降下ポイントを直進すれば、すぐにノルンとベルザの元に辿り着くだろう。
「ベルザが何を憎み、何のためにホルダーを襲ったのか、それは分からん。だが、いかなる理由があろうともデウスエクスを放置するという選択肢は我々にはない。ホルダーのことを見捨てるという選択肢もだ。では、出撃するぞ!」
 そう言って王子は、ヘリオンの操縦席に乗り込むのだった。


参加者
八代・社(ヴァンガード・e00037)
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)
三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)
ラプチャー・デナイザ(真実の愛を求道する者・e04713)
立花・吹雪(ウラガーン・e13677)
ノルン・ホルダー(若枝の戦士・e42445)
ダンドロ・バルバリーゴ(冷厳なる鉄鎚・e44180)

■リプレイ

●醒めない夢
 ケルベロスのノルン・ホルダー(若枝の戦士・e42445)には、憧れの戦士がいる。
 戦士の名はベルザ。ノルンが幼い頃、母や皆から語り聞かされた偉大な女性。
(「ベルザ様……」)
 一族の先祖にして闘神三姉妹の次女である彼女は、ノルンがケルベロスとなった今も憧れの戦士だった。特別であり続ける女性だった。
 しかし――。
「ベルザ……様……?」
「ふふ……」
 今、ノルンの目の前にいる相手は。
 死神となって、ノルンとその一族を滅ぼそうとしている相手は――。
「ほんとにベルザ様なの?」
 絞り出すような声で問いかけるノルンに、死神はただ冷笑を返すばかり。日の落ちた路の街灯に照らされた女性の姿は、どう見てもベルザそのものだ。
「ゆくぞ」
 ノルンの問いにベルザは大鎌の斬撃をもって答えとした。袈裟がけの一閃を運よく躱し、少女はなおも擦れる声で問う。
「根絶やしって、本心なの?」
「よう躱した。これはどうじゃ」
 言い終えるや放たれる、ベルザの横薙ぎ。避けきれず、右腕からうっすらと血が滲んだ。間合いを読まれ始めている。
「どうして? なんで? わからないよ……」
 反射的にシャウトを飛ばし、ノルンは悟った。
 これは夢ではない。現実なのだと。
(「戦う? わたしが? ベルザ様と……?」)
 呆然とした面持ちで、ノルンはふらふらと剣を構える。振り慣れたシュヴェルトラウテが恐ろしく軽い。目の前の相手に勝つイメージが、どうやっても沸いてこない。
 鎌を構えたベルザが音を殺して距離を詰め始める。ノルンの首に狙いを定め、攻撃に踏み切ろうとした、その時――。
「待ちなさい! 私の戦友に手出しはさせません!」
 聞きなれた声が背中から聞こえた。立花・吹雪(ウラガーン・e13677)の声だった。
 振り返るよりも早く、吹雪はノルンに駆け寄ると、
「大丈夫ですか、ノルンさん!? ケガはありませんか!?」
「う……うん。ありがとう、来てくれて」
「いえいえ! ノルンさんを助けるためにも頑張っていきましょう。ね、皆さん!」
 吹雪の言葉に、駆け付けた仲間達は次々に頷いた。
「承知にござる吹雪殿! 猫っ娘の一族を滅ぼさせる訳にはいかない故、助太刀致す!」
 ラプチャー・デナイザ(真実の愛を求道する者・e04713)がドンと胸を叩いた。普段こそお調子者で口数も多いラプチャーだが、ひとたび戦いとなれば彼は頼もしい戦士となる。
「ノルンさん。ひょっとして、あのお方と面識が?」
「うん。実は――」
「……そうでしたか。分かりました、あの方を解放して差し上げましょう!」
 ノルンから話を聞いた土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)は相棒の『トポ』をかざし、雷光壁の詠唱を開始する。
「助太刀するぜ、ノルン。おまえの戦いを、おれたちが最後まで見守ろう」
 声の主は、八代・社(ヴァンガード・e00037)。
 野生の肉食獣を思わせる彼の記憶には、かつて仕事を共にしたノルンの姿が残っていた。与えられた役割を確実に果たす、信じられる仲間――そんな姿が。
(「いろいろ思うところもあるだろうが――本懐を遂げさせてやりたいもんだ」)
 この戦いで社が担う役割は、敵の行動阻害だった。自らの仕事を完璧に果たすべく、社はブラックスライム『Jormungandr』の牙をベルザへと向ける。
「貰うばかりでは強欲と思われる。それではちと癪だ」
 続いてダンドロ・バルバリーゴ(冷厳なる鉄鎚・e44180)が己の体を盾として、ノルンを庇うように前列に陣取った。かつて宿敵と相対した時、仲間のケルベロス達に助けられた恩義を今度は自分が返す。それが彼の戦う理由だ。
 武器を構え、陣形を組むケルベロス。その先頭に立つノルンにベルザは視線を向けて、
「ふふふ……新手がどうした! すべて焼き滅ぼしてくれようぞ!」
 顔に湛える冷笑と共に、炎の演舞を舞い始めるのだった。

●闘神乱舞
 戦いは、ベルザの斬撃によって幕を開けた。
「食らうがよい!」
「オット、そうはいきまセーン!」
 炎の舞からノルンを庇い、パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)の身が、たちまち炎上する。
「なんの……っ! ディフェンダーは倒れないのがオシゴトデス!」
「今治します! 雷光の守護を!」
 分身の術で、雷光の壁で、ベルザの攻撃に抗するパトリシアと岳。
 続くダンドロが【鉄心】で己の重力鎖を金色の盾となし、傷ついた仲間達を保護する。
「ホルダー殿、全力でいけ! 手を抜いて勝てる相手ではないぞ!」
「う、うん……」
 ノルンはダンドロに頷いて、剣神技・神皇滅牙を発動した。
「剣神……解放……!」
 剣の英霊をその身に降ろし、仕掛けるノルン。
 数多くの強敵を葬ってきた剣神の斬撃は、しかし容易くベルザに避けられる。
(「そんな……」)
 自分を覆う吹雪の百戦百識陣をぼんやり眺めながら、ノルンは肩を落とす。戦わなければ駄目だ――そう叱咤する心に、未だ体が応じてくれない。
「死神も、何とも悪趣味な真似をするねえ……いやはや」
「ノルン殿、何があろうと戦うのみにござるぞ!」
 三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)のオウガ粒子を浴びたラプチャーが、破剣のルーンを社に宿す。
「ダンスのお相手にこいつはどうだ、お嬢さん?」
 標的を捕食せんと襲いかかる、社のブラックスライム。ベルザは身体を捕縛する魔手にも動じる事なく、漆黒の大鎌をノルンめがけて斬り下ろす。
 道路に飛び散る鮮血。その傷をブレイクルーンで癒しながら、岳はノルンを気遣う。
「ノルンさん……大丈夫ですか?」
「……わたしは……」
 額の血を拭うノルンの瞳にブレスレット『フォーチュナー・ホープ』の輝きが映った。
 脳裏をよぎる、かつて戦った敵の言葉。
 それは少女の魂に染み渡り、その心に再び希望の火を灯す。
「うん、ありがとう――やれる」
 ノルンは岳に頷いた。
 いま、言葉は必要ない。何故ならベルザは自分の憧れた戦士であり――。
(「わたしも同じ、戦士だから」)
 ノルンは腕を獣化させてベルザの間合いに飛び込むと、掌に溜めこんだグラビティを全力で叩きつけた。
「このおぉぉっ!」
「ぐうぅ……っ!」
 ダメージを殺しきれず、呻き声を漏らすベルザ。その手応えは、ノルンの持つ戦士の血を一気に呼び起こした。
「ベルザ様、覚悟!」
「ふふふ……そう来なくては」
 ベルザは社の月光斬にその身を捕縛されながらも、いっそう妖艶な笑みを湛え、しなる体で猫のような舞を踊り始た。
「回復する気デスカ? そうはイキマセン!」
「刀だけが能じゃないという所を見せましょう!」
 パトリシアのブーストナックルが、吹雪の霊力で生成した弓の一射が繰り出され、ベルザの身を打ち砕き、射貫いてゆく。
「ふう。愛と憎しみは表裏一体、とは良く言うのでござるが……」
 衰えるどころか益々精彩を増してゆくベルザの動き。それを見たラプチャーは溜息ひとつと共に跳躍し、ルーンアックスを大上段から振り下ろした。
「実際に目にすると気分の良いものではないでござるね!」
「ふふ。粗い一撃じゃな」
 鎌で斬撃を逸らし、直撃を裂けるベルザ。だが、ラプチャーの攻撃は誘いだった。
「残念、本命はこっちなんだよねえ」
「かかったな、死神」
 千尋の殺神ウイルスが、ダンドロの戦術超鋼拳が、ベルザの治癒を阻害し、その守りを服と共に剥ぎ取ってゆく。
「くくく……くっくっくっ……」
 傷を増やし、次第に追い詰められゆくベルザ。しかし彼女はそんな窮地を楽しむように、なおも冷酷な笑みを浮かべて戦の舞いを踊り続ける。

●希望と共に
 ベルザの舞いが、体の負傷を塞ぎ始めた。
 社の与えた刀傷が、ノルンの与えた爪跡が、まるで時を巻き戻すように消えていく。
「む……ちとまずいでござるね」
 牛乳瓶底の眼鏡を正し、呟くラプチャー。
 このままでは直に状態異常も除去されてしまう。敵に立ち直る機を与える前にBS耐性を剥ぎ取らなければ――。
「デナイザさん、これを!」
 そんなラプチャーの心中を察したように、岳は魔法のルーンで彼を包み込んだ。
「おお土竜殿、感謝でござるよ!」
「こいつの切れ味、味わってみるか?」
 ラプチャーと社の、破剣を帯びた攻撃がベルザを襲う。
 地面を抉り叩きつける、疾風の如きラプチャーの旋刃脚。竜巻のような渦を描き、服ごと身を切り刻む社のデスサイズシュート。
 その間も、全力で切り結ぶベルザとノルンの視線は、お互いに一時も離れない。
 ベルザはノルンの一撃を鎌で逸らし、さらにラプチャーと社の攻撃をガードするも、二人の猛攻はBS耐性を容赦なく剥ぎ取った。
「これは好機デース! GOGOGO!!」
「死神よ。その大鎌、封じさせてもらう」
 パトリシアの指天殺がベルザの体を穿つ。その身を石のように重くさせる死神へ、更なる追撃をバスタードソードで叩き込つけるダンドロ。体重と速度を乗せた一撃が、ベルザの鎌の刃をこぼれさせる。
「どうした? その程度――」
「つれないねぇ、こっちも振り返っておくれよ」
 ベルザの背後から仕掛けたのは『光剣抜刀黒燭天蒟』を発動した千尋だ。振り返るベルザの脇腹に腕部レーザーブレードユニットの手刀をねじ込みながら、ニヤニヤと挑発の笑みを浮かべた千尋が語り掛ける。
「例え理性を焼き切ってでも。なんてね?」
「ぐっ……貴様……!」
 怒りの目で千尋を睨み、炎舞のステップを刻み始めるベルザ。だが、体中に浴びた傷と、積み重なった状態異常の影響故か、その動きには微かな焦りが見て取れる。
「ノルンさん!」
「分かった、吹雪お姉ちゃん!」
 吹雪の放った超音速の稲妻突きがベルザの動きを鈍らせた。石化をもたらすノルンの魔法光線に胸を射貫かれ、ベルザの口から真っ赤な血が吹きこぼれる。
「……っ!」
 こみ上げる思いを抑え込みながら、ノルンはなおもベルザと切り結ぶ。今まで鍛えた技、積み上げた経験、磨いた直感。戦士ノルンの全てをぶつけながら。
 刃を封じられ、服を破られ、麻痺と石化の積み重なったベルザは瞬く間に劣勢に陥った。傷だらけの体を操り、死に物狂いで放つ炎の演舞から、千尋は即座にノルンを庇う。
「おお、熱い熱い。やってくれたね?」
 ドリルのように回転する腕部を突っ込んでベルザの服を破り取った。苦痛の声を漏らしたベルザめがけて、ゲシュタルトグレイブを手に斬りかかる吹雪。
「大事な戦友を死なせはしません!」
 あえて相棒の刀を握らず、支援に徹すると決めた彼女が狙うのは、ベルザの肩口の傷だ。吹雪の狙いは寸分過たず傷口を押し広げ、ベルザを状態異常の沼へと引きずり込む。
 そこへ、さらなる追撃を叩き込まんと仕掛ける者がいた。
「これが拙者の気持ちでござるよ……さあ、切り刻まれろでござる!」
 ラプチャーだ。
 黒く鋭い負の刃、『憎悪の刃は貴方次第』が直撃し、ベルザが激痛に身をよじる。
(「拙者の役割はここまでにござる。決着はノルン殿が――」)
 ちらとラプチャーが視線を送った先では、ノルンが剣神を降ろし始めていた。
 その凛々しい佇まいに、先程の弱弱しい様はない。ラプチャーは安堵のため息をつき、
「さあ若枝の戦士殿。彼女を偉人として、送ってあげようでござる」
「我等の役目はここまでだ。ホルダー殿、運命に決着を」
 大鎌を支えに立ち上がるベルザに溜め斬りを叩きつけたダンドロが、ノルンを振り返る。
 続くようにパトリシアが、岳が、分身の術とライトニングウォールでその傷を塞ぐ。
「悔いの無いようにヤルがイイデース!」
「さあ、後は頼みます!」
 仲間の声援に小さく頷いて、ノルンは更に意識を集中した。
 シュヴェルトラウテを手に神経を研ぎ澄まし、己が体を剣と為す。剣神を宿したノルンは厳かに口を開いた。
「ベルザ様。この手の希望と勇気を以って、あなたの魂を解き放ちます」
 愛剣に宿る獅子座の星辰が、ベルザの顔を照らす。
 その顔に浮かぶのは、恐怖と怒り。ベルザをサルベージした死神の、断末魔の苦悶だ。
「おのれ……小娘ェェェェェ!!」
「のろいぜ、死神」
 背後を取った社が、撃鉄を起こした。
 社は死神が振り返るよりも早く、
「Boost……on!」
 己が肉体を魔術で賦活し、アルファルトを蹴って突撃。
 がら空きの背中めがけ、リボルバー銃二挺の弾丸をありったけ叩き込む。
 敵に送るのは銃弾。仲間に送るのはウインクだ。
「ラストの一撃は、おまえの仕事だ」
「ありがとう。感謝いたしますわ」
 会釈を返した小さな剣神は、ベルザの間合いへ容易く入り込んだ。
 振り下ろされる大鎌は、神皇滅牙の剣閃で吹き飛んだ。がら空きになる、死神の胴。
 至高の斬撃は過たず死神を斬り、そして――。
「ベルザ……様……?」
 ノルンは見た。
 死神の束縛から解き放たれた刹那に見せた、ベルザの顔を。
「……あ……」
 まるで永い夢から覚めたような、安らかな顔。
 それは戦士ノルンがずっと思い描いた、憧れの戦士の顔そのものだった。

●在りし日の思い出
 修復の済んだ街路に横たえられ、ベルザの遺骸はゆっくりと風化していった。
 音もなく崩れ去ってゆく戦士を悼み弔いながら、ノルンはぽつりと口を開く。
「ベルザ様、これで安らかに眠れるかな……」
「心残りはないでござろう。彼女という壁を、ノルン殿は立派に越えたのでござるから」
「うむ。ホルダー殿と戦うことは苦しかったろうが……最期は幸せであったろう」
 今は亡きベルザの魂を、ラプチャーとダンドロは悼んだ。もう二度と、死を迎えることのないように。
(「地球の重力の元、どうか安らかに」)
 隣でそっと黙祷を捧げながら、岳はベルザとノルンの邂逅に思いを馳せる。
 ノルンを呼び寄せたのは、死神の思惑だけなのだろうか?
 ベルザの遺志もまた、彼女に遭うことを望んでいたのではないだろうか――?
 ノルンがベルザの骸に視線を落としたのは、その時だった。傷だらけになった衣服の隙間から、紙のような何かが覗いて見える。
「これは……?」
「写真……みたいですね」
 吹雪の言う通り、それは古ぼけた写真だった。
 写っているのは生前のベルザとその姉妹だろうか。写真の裏に書かれた言葉を、ノルンは震える声でなぞり読む。
「『勇気と共に』……」
 写真に残されたベルザの表情。
 それはそのまま、彼女が最期にノルンに見せたあの表情だった。
「う……ううっ……」
 ノルンの視界が、じわりと滲む。
 全て終わったのだという思い。死闘を生き延び、ベルザが解放されたという安堵。
 抑えつけていた想いが涙となって、止め処なく溢れ出てきた。
「うわあああん。ああああああああああん」
 目を真っ赤にして、喉が擦れるほど叫んで、そうしてまた大粒の涙を流して。
 声をあげて泣くノルンを見守りながら、ケルベロス達は静かに祈りを捧げた。
 どうかベルザの魂が、いつまでもこの少女と共にあるようにと――。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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