ロボット達の資材調達作戦

作者:そらばる

●ロボット達の襲撃
 白昼の工場に、爆発音が響き渡った。
「な、なんだこいつら……」
「ダモクレス!? まずい、逃げ――」
 危機を察した作業員は警告を発する前に、鋭利なつるはしによって脳天をかち割られた。
 ジリリリリリリ! 警報音が工場中をつんざく。阿鼻叫喚で逃げ惑う工員たち。
 つるはし、トンカチ、スコップを携えた歩行ロボットがコミカルな動きで彼らを追い立てる。鮮血が舞い散る。
 惨劇を尻目に大型のライドロイドが工場を解体し、資材を確保していく。その間、他の歩行ロボットや戦闘仕様のライドロイドは他からの襲撃に警戒を怠らない。
 ほどなく資材を満載に積み込んだライドロイドが踵を返すと、血まみれの歩行ロボットと共に魔空回廊へと吸い込まれた。他のロボットたちの姿もまた警戒を切らさぬまま、次々と空間の歪みへと撤退していくのだった。
 警報音鳴りやまぬ、破壊と惨劇の工場を置き去りにして。

●ダモクレスの資材調達
「皆様のご活躍により、ダモクレスの海底基地破壊は成功を収めました。今後、死神が使役していたディープディープブルーファングは製造されなくなりましょう」
 戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)は穏やかに微笑むと、ケルベロスの海底基地破壊の成果の詳細を開示し始めた。
「ダモクレスが行っていた研究の全容は明らかにはなっておりませぬ。が、死神との関係は一方的な供与ではなく、ダモクレス側にもなんらかの目的があったものと推測されますゆえ、今後もダモクレスの動向には注意が必要でございましょう」
 さらに示唆されたのは、ダモクレスの資源採掘基地の存在。
「これもまたいずこかの海底に存在する様子。資源採掘基地を発見して破壊することができれば、ダモクレスの大規模な作戦行動を掣肘することも叶うやもしれませぬ」
 そして、海底基地が破壊されたことにより資材補給がままならなくなったダモクレス勢力に、新たな動きがあるという。
「ダモクレスによる、工場襲撃事件にございます」
 工場建設に従事していたダモクレスが人間の工場を襲撃し、資材を奪うという事件が予知されたのである。
 作業用であるがゆえに戦闘能力は高くないが、数は多い。資材の強奪とケルベロスへの警戒、グラビティ・チェインの略奪を狙った作業員の襲撃などを手分けして行うなど、統制のとれた行動を行うため、油断はできない。

 現れる敵は3種、計8体。
 戦闘用ライドロイドが1体、作業用ライドロイド2体、歩行ロボットのシモーベが5体の混成部隊である。
「戦闘用ライドロイドは3体のシモーベと共に、ケルベロスの襲撃を警戒して防衛を行います」
 戦闘用ライドロイドはケルベロスが邪魔をしなければ、戦闘状態になっている他の戦場へ救援に向かう。
「シモーベ2体は、襲撃先の工場の作業員などを襲撃して、グラビティ・チェインの獲得を目指します」
 この2体は複数のケルベロスの襲撃を受けた場合、ケルベロスへの攻撃を優先し、作業員への攻撃を諦める。
 が、襲撃してきたケルベロスが1人だけだった場合、1体でケルベロスと戦い、もう1体が作業員を攻撃しようとする。
 襲撃工場が予知と変わってしまうため、事前の作業員の避難はできない。
「戦場候補地が4カ所に分断されることになります。襲撃地点は予知されておりますゆえ、『戦闘用ライドロイドとシモーベ3体』『作業員を襲うシモーベ2体』『1体目の作業用ライドロイド』『2体目の作業用ライドロイド』の4カ所の任意の地点に駆け付け、戦闘を行うことが可能でございます」
 どこをどういった配分で襲撃するかはケルベロスの裁量に任される。
 また、戦場と戦場を移動するたびに2分間が経過するため、そこも踏まえて作戦を練るべきだろう。
「2体の作業用ライドロイドは、各々別方向から工場を襲撃し、資材を略奪して撤退しようと致します」
 この2体は襲撃から7分経過後、持てるだけの資材を持って移動を開始する。9分が経過すれば、大量の資材が魔空回廊へ搬入されてしまうだろう。
「作業用ライドロイドの資材確保完了から、魔空回廊への移動に1分、大量資材搬入の作業時間に1分を要します。戦闘中には資材搬入は行えませぬゆえ、搬入中に攻撃を仕掛けて戦闘状態に持ち込むことで、撤退を阻止することが可能でございましょう」

 今回の作戦は、敵ダモクレスを撃破しつつ、敵の資材略奪を阻止することが目的となる。
 被害者を出さぬことはもちろん重要だが、一時に全てを達成しようとすると、戦力が足りなくなるかもしれない。
「移動にかかる時間、敵の動きなどを念頭に置いて、皆さまなりの作戦を導いてください。成功を祈ります」


参加者
不知火・梓(酔虎・e00528)
雨月・シエラ(ファントムペイン・e00749)
ロウガ・ジェラフィード(金色の戦天使・e04854)
狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
レオン・ヴァーミリオン(火の無い灰・e19411)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)

■リプレイ

●虐殺阻止
 白昼の工場に、爆発音が響き渡った。
 つるはしを手に、コミカルな動きで作業員を襲うのは、二体の人型ロボット『シモーベ』。
「な、なんだこいつら……」
「ダモクレス!? まずい、逃げ――」
 混乱する作業員たちを狙って、鋭利なつるはしがギラリと輝き――しかし振り下ろされるその瞬間、冴え冴えとした凍結光線がシモーベの背に叩きつけられた。
 シモーベ達は攻撃動作を中断し、慌てて背後を振り返った。その瞬間、凍結を喰らった一体の顔面に、今度は魔法の光線が正面から照射された。
「……この前海底基地を破壊したと思ったが、まだ他にも残ってんのか」
 呆れたような、くたびれたような声音でぼやくのは、煙草代わりの長楊枝をくわえ、バスターライフルを構えた不知火・梓(酔虎・e00528)。
「グラビティチェインだけならまだしも、資材まで奪いに来るなんて、ね」
 傍らで、雨月・シエラ(ファントムペイン・e00749)は魔法の輝きを収束させ、ドラゴニックハンマーを変形させながら呟いた。
「……よっぽど懐具合が悪いのか、それとも、もっとろくでもないこと企んでるのかな」
「さあなぁ。どの道、他の基地が見つかるまでは、地道に資材を奪うダモクレスを潰さにゃぁなんねぇ訳か」
 二人が淡々と言葉を交わす間、シモーベ達の一つ目レンズが警戒色に明滅し始めた。二体の注意はすでにケルベロスに集中しており、作業員たちはほうほうの体で逃げのびていく。
 ジリリリリリリ! 警報音が工場中をつんざく。
「んじゃまぁ、役に立たねぇどころか、危険な機械の破壊と行くかね」
 二対二のガチンコ勝負。梓は長楊枝を吐き捨てたのを合図に、戦いへと意識を切り替えた。
 虐殺を邪魔されたお礼とばかりに、つるはしを掲げたシモーベがガショガショと関節を駆動させながら襲い来る。一気に距離を詰め、跳躍から振り下ろされる凶悪な鈍器。
 しかし梓はその一撃を紙一重で躱し、すかさずDes Teufels Augeの砲口を敵陣後方へと差し向けた。引き金を引くと同時に照射された魔法光線が、急遽築かれた土嚢の一角を貫き、その後ろで傷を癒していたもう一体を撃ち抜く。
 撃たれた一体は大慌てでまだ無事な土嚢の裏に身を潜めようとする。が、
「逃がさないよ……」
 狙いすましてシエラの放った竜砲弾が、土嚢ごとシモーベを爆砕した。
 派手な土煙と共に土嚢の後ろから追い立てられるシモーベ。無数のハンマーをでたらめに投げつけ牽制してくるが、悪あがきでしかない。
 Gelegenheitを正中に構え梓は一句詠ずる。
「斬り結ぶ、太刀の下こそ、地獄なれ。踏み込みゆかば、後は極楽、ってなぁ」
 試製・桜霞一閃。斬撃と共に飛び往く剣気は、表面を傷つけることなくロボットの内部機構へと浸透し、動力部で一気に解放される。その衝撃はシモーベの内部を粉々に砕き、二度と動きだすことを許さなかった。
 残るは一体。もはや二人の敵ではない。一体を撃破した経験から、より効率化して浴びせられていく銃弾と砲弾のグラビティ。猛然と敵を追い詰めていく。
「ちょこまか動くヤツは苦手……だけど!」
 二度目のつるはしが梓を襲撃した瞬間、シエラは大剣と大槌を振りかぶった。
「だけど……お前の動きはもう慣れた!」
 Close to heaven。極限まで高められた感覚神経、運動能力及び反応速度をもってして肉薄し、己の限界を超えた致命の一撃を叩き込む。
 シモーベは胸部装甲ごと内部を粉砕され、あっという間に活動を停止した。
 ものの四分間での終幕である。二人はすぐさま次の戦場への移動を開始した。
「連絡は?」
「……回線が不安定だね。通話状態が切れてる。かけ直してもコール二回ですぐ切れたよ。もう繋がらない」
「そうかい、着信だけでも行ってればいいが。次からは通信機器に頼るのはなしだなぁ」
 二人は設備や機材を足場に、工場内を自在に駆け抜け、次の戦場へと急いだ。

●火力封殺
 時は戻って、工場襲撃開始時。
 工場の屋外では戦闘用ライドロイドと三体のシモーベが、つかず離れず周囲を哨戒していた。
 物陰からその姿を確認し、六人のケルベロス達は頷きあう。
「じゃあ行こうか。頼りにしてるよ?」
 レオン・ヴァーミリオン(火の無い灰・e19411)の言葉を期に、皆が一斉にダモクレス達へと走り出した。
「この工場の略奪を許したらダモクレスの勢力がより強まってしまうかもしれない……」
 誰よりも速く地を蹴り殴り込んだのは、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)。
「そうはさせません! 工場の日常と工員さんの安全を守ってみせます!」
 裂特攻鈍器。多量の地雷と爆発物を巻き付けた使い捨て鈍器が、盛大に爆発を起こしてシモーベ達を激しく巻き込んだ。
「おー! 敵がいっぱいっすね! いっぱい戦えそうっす!!」
 嬉々として声を上げながら、雷纏い深々と踏み込む狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)。楓さん特製ドデカ注射器による超高速の突きが、一体のシモーベの神経回路の一部を焼き切った。
「ああ、僕のことは取るに足らない塵と思ってくれて結構。――気づいた時には、何もかも手遅れだろうがね」
 挑発的な言葉を投げつつ、ジグザグに変形させたナイフの刃で同じ個体に斬り込むレオン。
 ケルベロスの襲撃に素早く反応した戦闘用ライドロイドへ、ロウガ・ジェラフィード(金色の戦天使・e04854)は日輪の戦靴を駆り距離を詰める。
「昂る星、地に投げ堕ちて立ち進む手足を断つ!!」
 流星煌めく踵落としが戦闘用ライドロイドの脳天に直撃した。
 その隙に、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)の照準が、傷だらけのシモーベを捉えた。
「ロックオン完了、です」
 神経を接続した神州技研製アームドフォートを体の延長のように操り、主砲を一斉発射。連続攻撃を浴びたシモーベはあっけなく頭を飛ばして機能停止した。
 先制を許し、早々に戦力を削られたダモクレス達は激しく一つ目レンズを明滅させながらも、すぐさまケルベロスの動きに対応した。二体のシモーベは無数のハンマーをばら撒き前衛を牽制。戦闘用ライドロイドから放たれる真っ赤なレーザービームは陣営を縦断し、最後尾に陣取るマルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)へと延び迫った。
 しかしレーザーが照射されるすんでで割り込んだのは真理だった。レーザーの余熱に身を焼かれながらも顔色は変えない無表情のまま、マルレーネの無事を確かめる。
「大丈夫ですか、マリー」
「……ええ。君も、あまり無茶はしすぎないで」
 同じ無表情の向こうに何がしかの感情の揺らぎを窺わせながら、マルレーネは光り輝くオウガ粒子で前衛を癒し、超感覚を覚醒させていく。
 滑り出しは順調だった。土嚢の後ろに隠れる治癒に少なからず手間を取られつつ、残りのシモーベを堅実に排除していく。
「時間が! 惜しい! 削り消します!!」
 二巡目には、ミリムの作り出した不可視の虚無球体が、二体目のシモーベの上半身をかき消し、
「霧に焼かれて踊れ」
 三巡目には、マルレーネの焼霧嵐舞陣が酸性性の桃色の霧で三体目のシモーベの全身を溶かし、そのままスクラップ状態にした。
 シモーベを問題なく撃破し、敵は戦闘用ライドロイドのみ。
 しかしここからが、厳しい戦いの始まりだった。

●薄氷戦場
 戦闘開始から四分が経過した頃合い、スマホの着信音が戦場をつんざいた。が、マルレーネがスマホに出る前にコール音は中途半端に途切れてしまった。
「……B班から着信。電波が悪くてもう切れてる」
「応援要請? 向こうのシモーベ倒したんだ、早いっすね!」
 言いながら、全力で斬り込む楓。個体ごとの強さはさほどではないのが、楓としては残念なところだったが、戦力比を考えると決して侮れない戦いだった。
「こちらから出せる戦力は、私と……」
「僕が行こう」
 あらかじめ決めていた方針にのっとり、マルレーネとレオンが増援に出ることが即決される。
「ここの敵は我々が抑える。行ってくれ」
 どこか克己的な響きを帯びた声音で請け負うと、ロウガは頭上に構えた生命と輪廻の剣に闘気と魔法力を籠め、全力で斬りかかった。
「目的が何であろうと……戦う力持たぬ民は害させぬ。そして、何も奪わせたりなどさせるものか……!!」
 烈光雷命破。強力な爆発が武装を破壊しながら敵を押し込め、黄金に光り輝く魔力の剣がさらに力を削いでいく。
 途切れることなく降り注ぐグラビティが敵を押しとどめ、確保された退路を抜けて二人は戦場を離脱した。
 問題はここからだ。
「シモーベは片づけたけど、こっちも戦力は減ってるし……ってことは、手ごわい戦いになるっすね!」
 戦闘狂の本能に火が付いたようにキラリと目を輝かせ、敵に突っ込む楓。楓さんの遊び道具(バール編)が、ライドロイドの装甲を容赦なく突き破る。
 敵の抵抗も激しかった。チェーンソーがケルベロスの防備を斬り裂き、レーザーが炎によって体力を減退させ、盾による強力な突進攻撃が凄まじい衝撃をもたらしてくる。普段戦っているデウスエクスに比べれば火力も数段落ちるが、癒し手を欠いているケルベロスに余裕はない。
「古きオラトリオの闘志の加護を……」
 溜めたオーラを飛ばして治癒に回るロウガ。徐々にその頻度は上がっていく。
 厳しい戦いが続いた。予断を許さぬ戦況のさなか、確実なのは、当初の見込み通りの撃破は不可能だろうということだった。
「――時間です!」
 戦いながらもチラチラと手元の腕時計を気にしていたミリムが、限界とばかりに声を張り上げた。
「! プライド・ワン!」
 真理の短い呼びかけに応えたライドキャリバーが素早く旋回し、ミリムの前へと滑り込んだ。その周囲には真理の飛ばしたドローンの群れが索敵支援陣形で取り巻き、傷を癒していく。
「ライドキャリバーには一度乗ってみたかったのですよね……最高速度は時速何キロまで出るのでしょうか?」
 仲間たちが敵を押しとどめている隙にプライド・ワンに乗り込むミリム。乗り慣れない人間を乗せての走行に慎重になりながら、プライド・ワンは徐々に速度を上げ、戦場から離脱した。
 これで残るケルベロスもいよいよ三人。
「回復に手を割く暇はないですね……」
 真理は咲き誇る白の純潔の純潔を捕食形態へと変化させ、敵に喰らいつかせた。注入される毒が敵の消耗を促進させていく。
 苦しい戦況の中でも、楓の瞳は爛々と輝いている。
「いいっすね! 戦いはこうじゃなくっちゃ!」
 伝承奥義・昇華『無銘の一閃』。師より伝授された剣技を研ぎ澄まし、ただ一振りに己の全てを賭けて切り払う。
 限界を間近に迎えながら、なおもチェーンソーを振り下ろす戦闘用ライドロイド。
「厳しくとも……退いてなどいられない!」
 回転する凶悪な刃を盾で受け止めながら、ロウガは弱きを守る使命感を燃やす。
「時を焼き尽くす神の竜よ、其の力を今!!」
 掌から放たれたドラゴンの幻影が火を吹き、ライドロイドを業火に閉ざした。
 九分間に及ぶ戦闘用ライドロイドとの死闘は、薄氷の勝利にて幕を閉じたのだった。

●搬入阻止
 その数分前。
 作業用ライドロイドは資材を詰め込んだ頑丈な網を引きずりながら、戦場を懸命に走り抜けていた。
 その背後から追いすがるのは、梓、シエラに加え、合流を果たしたレオンとマルレーネだった。
 梓とシエラの二人が作業用ライドロイドと交戦を開始し、一分と経たず増援組が合流したのだが、攻撃を仕掛ける前に作業用ライドロイドが撤退のための移動を開始してしまったのだ。
「せめて資材搬入を食い止めないと……!」
 焦燥がケルベロス達の間に広がっていく。
 必死に逃げる作業用ライドロイド、必死に追うケルベロス。ほどなくその前方に、空間の歪みが見えてくる。さらに奥からは、より多くの資材を引きずって駆けてくるもう一体の戦闘用ライドロイドの姿も。
 二体の搬入を阻止できるかどうか。緊迫するケルベロス達の耳に、遠くからエンジン音が届く。
 高速で突っ込んでくるのは、ライドキャリバーにまたがったミリムだった。
「やらせません、よ……!」
 慣れないバイクの上でバランスを取りながら、ミリムは虚無球体を作業用ライドロイドにぶつけた。魔空回廊直前で資材の網を切られ、あわあわとつんのめる作業用ライドロイドを、プライド・ワンが突撃で追い打ちをかける。
 あちらの作業用ライドロイドの搬入作業はこれで止まった。他の四人は魔空回廊手前で一時停止した手負いのライドロイドを背後から強襲していく。
「止まりなぁっ!」
 荒々しい声を上げて、太刀一振りで剣気を敵に叩きつける梓。反射的に返ってきたダイナマイトが激しい痛みと出血を強いるも、ますます戦いの興奮を煽っていく。それは、今己が生きているという実感。
「絶対に、止める」
 マルレーネは強酸性の桃色の霧で敵の装甲を溶かしていく。色がピンクだからといって、その威力、侮るなかれ。
「自前の海底工場だのなんだの潰されてもめげないことで……折れるような心がないのは機械の利点だね」
 ぼやきつつ、レオンは術を展開する。
「だからまあ、此処で砕けるものは砕いておこう。後の憂いを断つために、って感じで」
 悪性因子・無限縛鎖。具現化した地を這いずる鎖の影が、敵を殴打し機動力を奪い去る。
「悪いね。全部持って行かせる訳にはいかないんだ」
 シエラは大槌を掲げて作業用ライドロイドの頭上に跳躍した。
「っていうか、この星じゃ人のウチから物を取ってくのは犯罪だよ!」
 振り下ろされた超重の一撃が、敵の進化可能性を奪い、凍結の花を咲かせた。
 ……だが、敵を撃破に追い込むには、あまりに時間が足りなかった。
 戦傷に覆われた作業用ライドロイドは、それでもなお自律稼働の余力を残し、片腕で持てる程度のスクラップだけを抱えて魔空回廊に撤退してしまった。
「待て!」
 ケルベロス達は必死に追いすがろうとするも、元気なままのもう一体が盾になって視界を遮る。そのライドロイドもまた、グラビティが届く前に早々に魔空回廊の向こうに姿を消してしまった。ちゃっかり、ほんの一抱えの資材を両腕に担いで。
 残されたのは、破壊された工場と、辺りに散乱する資材の山。
「まあ、物は壊れた持ってかれたーとかあるけど、人員被害なし。今回はそれで良しだよ」
 レオンが沈みがちになる空気を切り替えるように皆に声をかけた。
 作業用ライドロイドの二体は逃したものの、資材搬入は阻止し、戦闘用ライドロイドを含む敵戦力は撃破、作業員は多少の軽傷者が出た程度。
 経験と勝利を得て、一軒の工場を救った番犬たちは新たな戦いに備えるのだった。

作者:そらばる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。