決戦沸血のギアツィンス~虎の尾を踏む女たち

作者:土師三良

●闘士のビジョン
「ケルベロスどもめ……なぜ、生きる価値もないゲスな男なんぞに味方するのだ? 奴らには人の心というものがないのか」
 夜の市街地を女が疾走していた。
 ただの女ではない。白銀の甲冑を纏い、大きな戦斧を担いでいる。身の丈は三メートルほど。
 そう、エインヘリアルだ。
「しかし、この沸血のギアツィンスが来たからには、もう好きにはさせんぞ! これ以上、レリ様を悲しませないためにも!」
 怒りの声をあげて走り続ける女丈夫の後には別の女が無言で付き従っていた。長銃を携えたシャイターンである。
 やがて、二人は広い空き地に足を踏み入れた。『生きる価値もないゲスな男』が殺されようとしている現場まであと少し。
「待ってろよ、イリス」
 同胞の名を口にして、エインヘリアルは足を速めた。
「私が行くまで持ち堪えてくれ」

●音々子かく語りき
「クソみたいな男に虐げられてる不幸な女性の前にシャイターンが現れて、クソ男を殺すことと引き替えにエインヘリアルの勇者に生まれ変わらさせようとする――そんな事件が何度か起きてることはご存じですか?」
 ヘリポートに緊急召集されたケルベロスたちの前でヘリオライダーの根占・音々子が語り始めた。
「それと同種の事件が起きることを小檻・かけらちゃん(麺ヘリオライダー・en0031)が予知してくれました。今回、シャイターンが選定した相手は葉菜さんというかたでして、キモいストーカー野郎につきまとわれてるんですよー。そこで葉菜さんをなんとか翻意させて、彼女の前に現れる女性型エインヘリアルたちを倒さなくてはいけないのですが……それについてはかけらちゃんの予知に従って別のチームが対処してくれますので、皆さんにはその援護をお願いします」
 援護が必要になるのは、エインヘリアル側にもまた援護要員がいるからだ。勇者選定に介入するケルベロスたちの魔手(?)から同胞を守るべく、第四王女レリの命を受けた精鋭部隊が送り込まれてくるのである。
 なんらかの作戦をおこなっているデウスエクスの勢力がケルベロスの妨害に遭い、泥縄式に対抗手段を講じる――そのような流れは今までにもあったが、自軍の被害がまだ少ないうちに対抗手段を取ったのはこれが初めてかもしれない。おそらく、レリ王女は非常に部下思いであり、現段階での被害を『まだ少ない』などと認識していないのだろう。
「敵の増援は二人。女性型エインヘリアルの『沸血のギアツィンス』と、『連斬部隊』なるものに属しているシャイターンの狙撃兵です。彼女たちが葉菜さんのアパートに行くルートは予知済みですので、その途中にある空き地に待機して迎撃してください」
 迎撃といっても、ギアツィンスは幹部クラスの強敵であるため、一チームだけで倒すのはまず無理だろう。
 しかし、今回の目的は敵を倒すことではない。
 時間を稼ぐことだ。
「皆さんはギアツィンスをできるだけ長く足止めしてください。その間に、葉菜さんのアパートにいるチームが勇者選定の事件を解決してくれるはずです。そして、もし手早く解決できたら、皆さんのところに駆けつけてくれるかもしれません。二チームでギアツィンスに対処すれば、撃破の可能性もちょびっとだけ見えてきますねー」
 逆に勇者選定の事件が解決する前にギアツィンスの突破を許してしまえば、アパート側のチームが窮地に陥ることになる。責任は重大だ。
「少しでも長く堪え忍ぶために守りを重視するか、援護が来てくれた時に備えて敵にダメージをしっかり積み重ねておくか、あるいはもっと別の方針で臨むか……どの道を選ぶにせよ、厳しい戦いになるかもしれません。でも――」
 音々子はグルグル眼鏡をキラリと光らせて声を張り上げた。
「――皆さんなら、できます!」


参加者
青葉・幽(ロットアウト・e00321)
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)
フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)
タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)
七宝・瑪璃瑠(ラビットソウルライオンハート・e15685)
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)
ユノー・ソスピタ(守護者・e44852)
木恒・赤成(ヴォルペスパダッチーノ・e60902)

■リプレイ

●騎虎之勢
 夜の市街地。
 大小二つの影――沸血のギアツィンスと連斬部隊の狙撃兵が空き地に駆け込んできた。
 この空き地を抜ければ、すぐにたどりつくだろう。ストーカーの被害者である葉菜が住むアパートに。同胞のイリスがケルベロスたちと戦っている場所に。
「待ってろよ、イリス。私が……むっ!?」
 独白を断ち切り、急停止するギアツィンス。狙撃兵も立ち止まり、素早く片膝をついて長銃を構えた。
 八人の男女が行く手を塞いだのだ。
 エインヘリアルのギアツィンスの目から見れば、その全員が小さな存在だったが、それは物理的な大きさだけの話である。
 うちに秘めたるものは決して小さくも弱くもない。
 彼らはケルベロスなのだから。
「助けが必要な女の人たちを見つけてくれてることには感謝するんだよ」
 と、ライオンラビットの人型ウェアライダーの七宝・瑪璃瑠(ラビットソウルライオンハート・e15685)が言った。
「でも、そんな人たちを増やさないためにも、この先には行かせないんだよ」
「ふざけるな!」
 ギアツィンスが吠えた。
「女たちに助けが必要だと判っているなら、何故に彼女たちを苦しめるゲスな男どもを救おうとするのだ!? 貴様らには人の心というものがないのか!」
「べつにゲスの味方をするつもりはないが――」
 ユノー・ソスピタ(守護者・e44852)が得物を抜いた。孔雀の武器飾りがついたバスタードソード。
「――おまえたちの好きにさせるつもりもない」
「ふざけるなぁーっ!」
 先程と同じ叫びを先程よりも大きな声で発して、ギアツィンスは戦斧の石突きで地面を刺し貫いた。癇癪を起こして地面に八つ当たりをしたわけではない。それはグラビティ。石突きが刺さった場所を起点にして衝撃波が扇状に広がり、ケルベロスの前衛陣にダメージとパラライズの状態異常を与えた。
「ふざけてんのはどっちだかねぇ」
 後衛に陣取っていた人派ドラゴニアンの相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)が跳躍した。
「てめえらの好き勝手でやってきて、てめえらの好き勝手で略奪して、てめえらの好き勝手でさんざか人を殺してきたくせによぉ。てめえらこそ、人の心ってもんがねえのか、おい?」
 空中で髑髏の仮面を装着し、スターゲイザーをギアツィンスに見舞う。
 命中と同時に横手で連射音が響いた。ライドキャリバーのこがらす丸のガトリング掃射。銃弾の雨を浴びせた相手はギアツィンスではなく、狙撃兵だ。
 ガトリングの咆哮が止むと、小気味よい音が聞こえ、激しい砲声がそれに続いた。北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)がドラゴニックハンマーの『トランスマッシャー』から竜砲弾を発射したのである。砲声の前に聞こえた音は『トランスマッシャー』の回転式弾倉が何分の一回転かした際に生じたものだ。
「そちらの凶行を見過ごせば、犠牲の連鎖が続くのは明白」
 と、計都が語ってる間に竜砲弾は狙撃兵に命中した。
「いつか、俺の親しい人にまで被害が及ぶかもしれない。だから、ここで食い止めさせてもらいます」
 煙が晴れ、狙撃兵の姿がまた現れた。片膝立ちの姿勢のまま。ドミノマスクをつけているので表情は判りづらいが、少なくとも口許に感情は現れていない。
「私たちは、ただ地球人だからという理由で加害者の男性を守っているわけではありません」
 フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)がギアツィンスに語りかけながら、狙撃兵へと肉迫した。
「それに手段は違えど、被害者の女性を救いたいと思う気持ちは私たちも同じです」
 赤いバトルオーラに真紅の炎を纏わせて手刀を繰り出し、狙撃兵を十字に切り裂く。
 しかし、狙撃兵は表情を変えることなく、無言で長銃のトリガーをひいた。フィルトリアに反撃したわけではない。撃ち出された弾丸はギアツィンスに命中したのだから。傷を癒し、攻撃力を上昇させる魔法の弾丸。もっとも、フィルトリアのグラビティ『断罪の紅十字(ギルティ・クロス)』によってアンチヒールを付与されたため、治癒力は低下しているだろうが。
「ヒール勝負といくんだぜ!」
 人派ドラゴニアンのタクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)がフロレースフラワーズのステップを披露した。碧色を帯びた白銀のフェアリーブーツの力によって花弁のオーラが舞い散り、傷ついた前衛陣を癒していく。
 その中でも最も大きなダメージを受けていた(他の者を庇ったのだ)ユノーに瑪璃瑠がアニミズムアンクの『夢』を向けて、大自然の護りを施した。
「麻痺は消えたかな?」
「消えたようだ」
 パラライズの呪縛からの解放を感じながら(瑪璃瑠はメディックのポジション効果を得ていた)、狙撃兵に美貌の呪いをかけるユノー。
「戦うのは嫌いじゃないが――」
 ユノーの動きに合わせて、狐のウェアライダーの木恒・赤成(ヴォルペスパダッチーノ・e60902)も狙撃兵に美貌の呪いを仕掛けた。
「――女が相手ってのは、どうにもやり辛いな」
「どちらもただの女ではないけどね」
 ギアツィンスと狙撃兵を交互に見ながら、自身もまた『ただの女』ではない青葉・幽(ロットアウト・e00321)が呟いた。
 そして、半秒ほど迷った末に(どちらを最初に攻撃するのか決めていなかったのだ)アームドフォート『Pterygotus』の砲門をギアツィンスのほうに向けた。
 だが、そこから放たれた地獄の炎弾をギアツィンスは難なく躱し、幽に戦斧を振り下ろした。
「その程度の力で私を倒せるとでも思ったか!」
(「思ってないわ」)
 激痛と衝撃に耐えながら、幽は心の中でギアツィンスに答えた。
(「アタシたちの目的はアンタを倒すことじゃなくて、アパートにいる仲間たちのために少しでも長く時間を稼ぐことなんだから」)

●暴虎馮河
 そう、ケルベロスたちの目的はあくまでも時間を稼ぐこと。
 彼らは攻撃の手数を犠牲にすることも厭わずに治癒に力を割いた。
 もちろん、まったく攻撃しなかったわけではない。ギアツィンスの牽制役の竜人(とサーヴァントたち)と治療役のタクティと瑪璃瑠以外の面々は可能な限り、狙撃兵にグラビティをぶつけた。攻守に渡ってギアツィンスを援護する狙撃兵を放置していては、とても時間など稼いでいられないからだ。
「ここに命中させられますか、名スナイパーさん?」
 胸元に描かれた白い三重丸を親指で示しつつ、空いているほうの手を狙撃兵に突き出す計都。その手の中で『トランスマッシャー』が吠え、砲弾を吐き出した。
「いけ、ヴァイスマハト!」
 赤成の声に応じて、ブラックスライム(ブラックではなく、白と紫だったが)の『ヴァイスマハト』が槍状になり、狙撃兵を追撃した。
 次の瞬間、銃声が響き、赤成の頬をかすめて弾丸が飛んだ。『ヴァイスマハト』に腹部を抉られながらも、狙撃兵が長銃で反撃したのだ。
 彼女が狙った相手は計都だった。胸の的を示す行為(『的からの挑発(プロヴォーク・ターゲット)』というグラビティだ)によって怒りを付与されたのかもしれない。
 しかし、計都の前にフィルトリアが立ち、己が身を盾にして弾丸を受けた。
 ギアツィンスの衝撃波と同様、その弾丸もパラライズを伴っていたが――、
「顔には出してないけど、たぶん、あの敵はもうフラフラだぜ。あと一息なんだぜ」
 ――タクティが『死上なる慈愛(シャリテ・デートル・スル・ラ・モール)』を発動させて、ポジション効果によるキュアでパラライズを消し去った。
 彼に目顔で謝意を伝え、フィルトリアはバスターライフル『フレースヴェルグ』を構えた。白い銃身からフロストレーザーが伸び、狙撃兵を刺し貫く。続いて、計都が轟竜砲を発射。赤成が拳銃型バスターライフルから特殊弾丸『カースバレット』を連射。
 そのような激しい連続攻撃に晒されながら、狙撃兵はまた長銃の引き金をひいた。敵を攻撃するためではなく、ギアツィンスを癒すために。今度は怒りに影響されなかったらしい。
「見上げたものだな」
 称賛の言葉を送りつつ、ユノーが狙撃兵の胸にケイオスランサーを突き入れた。
「だが、これで終わりだ」
 スライムの槍が引き抜かれ、赤黒い血が流れ落ちていく。
 この期に及んでも狙撃兵は無表情だったが――、
「申し訳ありません」
 ――と、初めて声を発した。残されたギアツィンスに向かって。
 そして、砂のように崩れ去った。
「すまぬ」
 ギアツィンスもまた狙撃兵に詫びた。一瞬、憤怒の形相に沈鬱な影が滲んだ。しかし、攻撃の手は休めない。タクティのミミックが具現化した武器を躱し、あの衝撃波をまた放った。
「一人になってもまだ戦うつもり?」
 少なくないダメージを受けながらも、幽が『Pterygotus』の格闘用ブレードを用いて達人の一撃を放つ。
「当然だ」
 ギアツィンスは戦斧でブレードを受け流した。
「尻尾を巻いて逃げ帰ったとあれば、ミュゲットに嗤われるわ!」
「だけど、もし、アンタがここで倒れたら? 部下思いのレリ王女とやらは――」
「――きっと、悲しむことでしょう」
 と、フィルトリアが後を引き取った。
 彼女の言葉に頷き、幽は語り続ける。
「そう、悲しむわ。アンタたちもアタシらも泣きもすれば、笑いもする。同じ人の心を持ってるのよ。だから、歩み寄れる余地があるかもしれない」
「ああ、余地はあるとも!」
 ギアツィンスが戦斧を地面に叩きつけた。今度のそれはグラビティではなく、純粋な怒りの動作だ。
「貴様らがゲス男の首でも差し出して、レリ様に恭順の意を示せば、いくらでも歩み寄ってやるわ!」
「バーカ。そういうのは――」
 仮面の奥で冷笑しながら、竜人が弓を構えた。ワイルドスペースから召喚した光の弓。
「――『歩み寄る』とは言わねえんだよ。寝ぼけてんじゃねえぞ」
 影で構成された矢が弓から放たれ、ギアツィンスを射抜いた。
「やっぱり、こっち側の善意は通じないようだな。判ってはいたけど」
 そう言いながら、赤成が喰霊刀の『リョクリ』で凶太刀を繰り出した。
「まあ、しょうがないんだぜ」
 タクティが肩をすくめ、フローレスフラワーズを舞い踊った。
「善意だの正義だのは立場によって変わるんだぜ。もしかしたら、例のストーカー男でさえ、自分のやってることを正義だと信じているのかもしれないんだぜ」
 そして、心中で付け加えた。
(「もっとも、そんな正義は俺にはとても理解できないんだぜ」)

●放虎帰山
 ギアツィンスの猛攻によって、ついに一人目の脱落者が出た。
「すまん。後は任せた……」
 その言葉を残して戦闘不能になったのはユノー。
「うん! 任されたんだよ!」
「でも、俺たちはヒールで手一杯なんだぜ。狙撃兵が残した加護を消してる余裕がないんだぜ」
 瑪璃瑠とタクティが仲間たちを癒した。前者は義兄の残霊とともに『月夜の天使(マグノリア・ヘプタペタ)』を演じて、後者は幾度目かの『死上なる慈愛』によって。
「そんなもん、俺が引き剥がしてやんよ」
 竜人が竜爪撃で敵のエンチャントをブレイクした。
 それでもギアツィンスのほうが圧していることに変わりはない……はずなのだが、彼女の顔には焦りの色が浮かんでいる。
「一人でも倒して威勢を示せば、恐れをなして退くだろうと踏んでいたが……なぜ、貴様らは退かぬ? 我らのように重いものを背負ってるわけでもないくせに!」
「あうっ!?」
 怒りを込めて振り下ろされた戦斧を受けて、幽が倒れ伏した。
「これでも退かぬか! まだ退かぬのか!」
 力尽きた幽を蹴り飛ばし、ギアツィンスはケルベロスをねめつけた。グラビティとして通用しそうな猛々しい眼光。
 しかし、未だ地に立つ者たちも倒れ伏した者たちも怯まなかった。
 いや、彼らばかりではない。
「遅くなって悪かったね」
 凛とした声が響いたかと思うと、その声の主である白衣姿のレプリカントを含む八人の戦士が現れた。アパートのある方角から。
「き、貴様ら……」
 戦士たちを見やり、呻くように呟くギアツィンス。
 そして――、
「うぉぉぉぉぉぉっ!」
 ――いきなり怒号を発した。
 悟ったのだろう。
 その八人が、アパートにいたケルベロスたちであることを。
 自分が間に合わなかったことを。
「ギアツィンス! あなたの思惑通りにはさせないんだから!」
 アパートのチームの一人――小柄なシャドウエルフ少女が叫んだ。
「形勢逆転ですね」
 と、フィルトリアが穏やかに声をかけた。
「矛を収めていただけませんか」
「黙れ!」
「ねえ、ギアツィ……」
「黙れと言った!」
 フィルトリアに続いて瑪璃瑠が語りかけてきたが、ギアツィンスは怒声で拒絶した。聞く耳など持つはずもない。彼女にとって、目の前のケルベロスたちはただの邪魔者から『イリスの仇』に変わったのだから。
 しかし、怒りに任せて攻撃を加えてくることはなかった。先程の幽やフィルトリアの言葉によって、葛藤が生じたのだろう。イリスたちの仇を討ちたいが、八人もの新手を相手にして勝てるとは限らない。そして、万が一、自分までもが倒れてしまったら、レリ王女が……。
「覚えていろよ、ケルベロス!」
 数秒の逡巡の末(本人にとってはとても長い時間だっただろうが)、ギアツィンスは叫びとともに地を蹴り、飛び退った。
 両の目から血の涙を流しながら。
「いや、たとえ貴様らが忘れても、私が必ず思い出させてやる!」
 着地と同時にまた飛び退り、また飛び退り……それを幾度か繰り返してケルベロスたちから十二分に距離を置き、女戦士は背を向けて走り去った。
「必ずな!」
 その姿が皆の視界から消え、捨て台詞の余韻も消えた。彼女が残した殺気は濃密な霧のようにまだ戦場を満たしているが。
「やれやれ」
 見えざる霧を手で払いながら、竜人が溜息をついた。
「猪突猛進な脳筋女だと思っていたが――」
「――退くべき時に退ける程度の知恵と理性はあったみたいね」
 倒れたままの状態で竜人の独白の後を引き取った幽の傍に白髪のシャドウエフルの少年が膝をつき、ヒールを施した。
「大丈夫ですか?」
「あんまり大丈夫じゃないけど……助かったわ。ありがとう」
「葉菜さんはどうなりました?」
 と、計都がアパートのチームに尋ねた。
「心配ない。選定を拒否して、今は警察へ行きたがっている」
「そうですか」
 黒ジャケットの青年の答えを聞いて安堵の表情を見せる計都。
「葉菜さんの件はめでたしめでたしかもしれないが、ギアツィンスとの間には禍根が残ってしまったな」
 さして残念でもなさそうな顔ををして(実際、残念とは思っていなかった)赤成が言った。
「八方丸くは収まらなかったけど、ボクはこの結末も受け入れるんだよ」
 と、力良い声を出したのは瑪璃瑠。
「それがボクたちが弁えるべきギアツィンスさんへの礼儀だと思うから」
 女勇者が走り去った場所に向かって、少女は静かに一礼した。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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