蘇るガトリングマン

作者:baron

 L字型の建物に面した公園がある。
 明るい事ならば百貨店だと気が付く者も居ようが、夜遅くとあってはそうもいかない。
『ががが、がと、ガトリーング!』
 突如、知性も感じない様な絶叫が聞こえた。
 そいつは空を泳ぐ魚の中心に立ち、方々にガトリング砲を撃ち込むと言う厄介な奴だ。
『ばばば、ばきゅーん! ばるかんばりかんバトルガトリーング!』
 喋れども文章にならず、言葉を発せど理性も知性も感じない。
 そいつは人々を探して四方を歩み、ひたすらガトリングを撃ちながら町中を血で染めたのである。


「広島県広島市で死神の活動が確認されました」
 セリカ・リュミエールが地図を手に説明を始めた。
「死神といっても最近見られる強化された個体では無く、サルベージした対象と共に現れる個体です。罪人エインヘリアルと共に町を襲う姿が予知されたのです」
 広島市にある百貨店付近で以前に倒されたらしいが、そいつを変異強化して住民を虐殺しようとしているらしい。
 その目的はグラビティの収集であり、戦力として連れて帰ることだろう。
「この罪人エインヘリアルは拾ったガトリング砲を使って暴れ回る人物だったようです。その能力そのものは復活した様ですが、知性も理性もない存在として変異強化されました」
「まあ罪人エインヘリアルって、元からそんな奴が多い気がするけどね」
「犯罪タイプによるんじゃない? 命令効かないだけの奴も居るそうだし」
 ともあれ、この個体には知性も理性も無く、もちろん話題が通じない事は確かだ。
 そして下級死神が居るので更に面倒である。
「ケルベロスが駆けつけた時点で、周囲の避難は行われていますが、広範囲の避難を行った場合、グラビティ・チェインを獲得できなくなるため、サルベージする場所や対象が変化して、事件を阻止できなくなるので、戦闘区域外の避難は行われていません」
「そこがつらいところだよね」
「仕方あるまい。他に行かれては困るからな」
 セリカの言葉にケルベロスは頷き、作戦を考え始める。
「ただ、やり易い点もあります。下級の死神は知能が低い為、自分達が劣勢かどうかの判断がうまくできないようなのです。ケルベロスが上手く演技すれば、優勢なのに劣勢だと判断したり、劣勢なのに劣勢では無いと断してしまうということもあるでしょう」
「面倒な奴だけど虐殺なんてさせられないよな」
「せっかくみんなで叩き潰して回って居るのに、戦力の補充をさせる訳にもいかんしな」
 セリカは軽く頭を下げた後、出発の準備に向かうのであった。


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
叢雲・蓮(無常迅速・e00144)
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)
笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)
那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)

■リプレイ


「復活エインヘリアルとも結構戦ったなぁ」
「またサルベージか、厄介なものだね」
 那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)の用意した広域ライトの中から、シロクマ紳士が眩しそうに現れる。
 笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)はもうちょっと弱めでお願いします。とか言いながら溜息を吐いた。
「……せめて相手に理性があればなぁ。そりゃまあ迷意が無い方が戦いには有利かもしれんが」
「自我無き獣ですか、捨て駒と考えると同情します」
 鐐の言葉に霧島・絶奈(暗き獣・e04612)は頷いた。
 元より交渉の通じない相手ではあるが、それでも自分の意志で襲って来るならばお互い様だ。
 だが意志も無いままに誰かに利用されるというのは、闘争を好む彼女としても気分が良くない。
「にしてもエインヘリアルばかり復活させるね。ドラゴン復活させたほうが死神戦力充実しそうなのに」
「取引とか単にコストの問題じゃない? でも、そろそろ元を絶たないといけない気がするね」
 首を傾げる峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)の疑問に、摩琴は話を合わせながらライトの光量と位置を調整する。
 幾つか可能性はあるのだが、エインヘリアル化の影響であるとか、ドラゴンは強過ぎるとか、あるいは単に取引かもしれない。
 いずれの理由もありえる話だが、真相がどうあれイタチごっこを続けるよりは調査の手掛かりくらいは欲しい物だ。
「取引で何を得るのか興味は尽きませんが……。そこにどれ程の大儀があろうとも、同属同士で相争う様な正義に負けるわけにはいきません」
「まーそうだね。押しつけられた理想なんてノーサンキューだよ。お返ししてあげないとね」
 絶奈が得物を持つ指先に力を込めると、恵も軽く腰を落として身構えた。

 彼方に死神の燐光、そして夜中に響き渡る銃声を聞いたのだ。
『どどばんどどば、ずどどばーん!』
「……なんか、壊れた機械みたいな、喋り方なんだけど。これ、本当にエインヘリアル、なんだよね……」
 空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)は思わず我が耳を疑った。
 別にエインヘリアルに乙女チックな理想なんぞ抱いて無いが、これはちょっと不意打ち過ぎる。
「んうー。ひてーはしない」
 その言葉に伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)は頷いた。
 壊れた機械と言う意見には同感だ、だって彼女にも自覚はある。
「あー。何か食べるかい? 生憎といまは一種類しか無いけれど」
「いまはいー」
 鐐の遣いに勇名は首を振るった。
 お菓子を食べている暇は無い。でもちょびっとだけモフモフしたいぞ。
「食べている暇も驚いている暇なんて無いですよ。此方は数十億の人類が、共に同じ方向を向いて星の命運を背負っているのですから…」
 情けは人の為ならず、悪意は己に帰るものである。
 絶奈は背負った絶望と共に走り出し、造り物めいた笑顔を浮かべて進み出た。
 夜の闇の中からライトの明かりの中に吸い寄せられるように、絶望を押しつける為にエインヘリアルへ殴りつける。
「まあ、敵には、代わりないし……ね。……薙ぎ、倒す」
 無月はその攻撃に続くのではなく、あえて後ろの死神たちの元へ飛び込んだ。
 槍を撫でるように横薙ぎし、腰を軸に跳ね上げて軽くあたったかのように演出する。
「まずはこっちからだっけ」
 鐐はエインヘリアルの前でチラ見しながら通り過ぎ、後ろ髪を惹かれるフリをしながら組みついた。
 その様子はまさしく鮭を獲るクマそのもの。
 言葉に出したことで野生と作戦の間で右往左往しているフリ。
 こうしてケルベロス達は不備を見せつけつつ、まずは進路を遮ることに専念して行く。


『あばばば、ばきゅーん!』
「う、うわっ……と、とっと」
 西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)は面くらいそうになる自分を制御しようとして、途中でソレを放棄した。
 二歩・三歩と下がりながらガトリング砲に耐えて行く。
「だ、大丈夫、西村さん?」
「問題無い訳ではないですが、大丈夫です。私……、ディフェンダーなので……これが私の仕事なので……」
 摩琴が確認すると正夫は取り繕うのを止めた。
 実際痛い、しかし耐えられない訳ではない。そして相手を調子付かせる演技が必要なのだから、士気を保つために耐える必要も無い。
「あわわっ! 痛いよね? 待っててすぐ治すから!」
 摩琴は慌てて治療するフリをしながら、冷静に傷を確認する。
 相手は攻撃役ではないので、まあ連続して今くらいの攻撃を受けなければ大丈夫だろう。
 だから急場凌ぎの回復と合わせて、範囲治療。その本質はあくまで攻撃補助の方がメインだ。
「ふーっ。ふー……よしょっと」
「わー痛そうだねえ。やっぱり先に倒さないと駄目かも」
 正夫が斧を杖代わりに立ちあがり、気合いを入れ直してルーンを輝かせる。
 そして足を引きずりながら振りあげるのを見てから、恵は火炎球を放って援護の攻撃を行った。
 赤々と炸裂する炎に紛れて、正夫は刃を振り降ろす。
「……んう。そっちがガトリングがががー、なら、こっちもどかーん」
「あんな感じな敵が街中に行ったら大変なの!! ここでやっつけるのだよ!!」
 勇名と叢雲・蓮(無常迅速・e00144)は顔を見合わせること無く突撃して行った。

 おねーさん達に恰好良い所を見せる為、まずは蓮の方が率先する。
「まずは死神から、集中攻撃なのだよ!」
 蓮がパチンと格好良く指を鳴らして合図をすると、チェーンがバラバラに成って空へ浮かび上がる。
 するとソレは前衛を迂回し、天の河がシャワーになったかの如く降り注いでった。
 怪魚を押し流そうと鎖とグラビティの奔流を叩き付け、死神が顔を出した所へ……攻撃が来ることは無かった。
「うごくなー、ずどーん」
「おおい、狙いはこっちじゃなかったのかいっ!? そっちぃ?」
 勇名は死神では無くエインヘリアルの足元に小形のミサイルを発射。周辺まとめて吹っ飛ばす。
 思わず鐐が後ろを向いて、毛むくじゃらの首筋がニョキっと動く。
 女性のウナジを愛でるのはセクハラだが、ウェアライダーの首筋はモフモフしても問題無いかもしれない。
「んーと。やっぱりそっちにも必要なのかな……」
「こっちこっち! だからこっちって言ってるのだよっ!」
 鐐はナイフでVの字斬りを浴びせ、エインヘリアルの足元をグッサグサ。
 それに対し蓮がプンスカ怒ったふりをしながら、僅かな隙をついて暗黒の光を瞬間的に放って死神達を貫いたのであった。
「んう、やりたいよーに、やるし」
 と勇名は抗議を無視しながら重砲撃でどっかーん。
 それにしても思うのだ。なんで蓮はワンコのウェアライダーではないのだろう。
 せっかっくまだ行くんだと散歩で主張する子犬の様だと思ったのに。
 そのことに不満を覚える勇名であった。


「あっ、これ結構ヤバいんじゃないですかね」
「範囲攻撃か。なかなかきついなっ……! 明燦~助けてくれー」
 嘘でしょ……。あるいは馬鹿な……。
 同じ属性の攻撃が繰り返された時、正夫と鐐は顔を見合わせて相談しそうになった。
 ケルベロスでは決してやらない愚挙であり、これにワザと当たるの? それとも回避すればいいの? と箱竜の明燦にすらアイデアを求めたくなる。
「ガトリング対策の防具は用意したけど当たったらやっぱりきつい……。でもこれは別の意味でキツイ」
「ですよね……」
 恵がジャンプして弾丸を飛び越えハンマーを振りかざしたのを見習って、正夫は小さくジャンプを繰り返す。
 この年で縄跳びとかハードル走はキツイですねと苦笑しながら、斧を構えてホップステップジャンプ!
「まるで……踊る……みたい? 蓑踊り……だったっけ」
「蓑踊りってなんか恰好良さそうなの。こんなことならボクもディフェンダーやっておくべきだったのだ」
 無月は無表情の裏でアームドフォートを起動させて居る時に、ブーンとか言いたくなった。
 一方、蓮はジタンダ踏みながら皆の注目を集めるオジサンに嫉妬する。
 だが覚えて置くが良い。蓑踊りとは本来、拷問の事である。実はノリの良い無月に騙されてはいけない。
「ダメ、そっち自分たちで何とか出来る?」
「んうー。くまさん……」
「だ、だいじょうぶ。庇った分は大したことないし、息が切れただけ、だから」
 摩琴は思わず限界を感じた。主に腹筋が限界である。
 何のかんのと言って犯罪者ダモクレスは強力で、巨大ダモクレスやドラゴンよりもコスパが良いと思われた。
 だがしかし殆ど脳筋な彼らを変異強化したら、まさかこれほどとは思わなかった。
 効率なんか無視した攻撃をしてくるし、当たった時はかなりダメージが大きい。しかしながらコレでは別の意味で困る。
「みんなの情熱に一陣の風を! アンスリウムの団扇風!」
 摩琴は自分の腹筋が来る限界を誤魔化す為に、みんなにも気持ちを分けてあげる。
 越後の軍神さまだって言ってるわ、はらすじに候って。
「急遽手を組んだ事もあって、連係不足が祟って居るわね……」
 もちろん、敵の事だ。
 絶奈に味方をけなす趣味は無いし、同じ状況でもケルベロスには相互に協力し合う態勢も、定番の作戦と言うものもある。
 もし特化型の能力はあるけど苦手分野は心元ない仲間が居たら、摩琴がやったように援護を行うだろう。
「でも此処で負ける訳にはいかないわ。少しずつでも倒して行かないと」
 これは本当の事だ。不満があるとしたら愉しい闘いにならないことくらい。
 指先に紫電を灯してエインヘリアルにぶつける。
 やはり闘うなら強敵が良い。戦闘力その物に不満は無いのにと、敵が知性を持って居ないことを心の底から残念に思った。


『ぶるあああ!』
 不利を装い確実に倒す為、あえて時間を掛けて繰り返される戦闘の中で、偶然不運な事もある。
 何度目かの咆哮をあげるガトリングを、たまたま盾役がカバーリングに失敗したのだ。
「さて、今日も元気にレッツゴー!! なのだよ?」
 見て見て! 効いてないよ~!
 蓮が血まみれになったおでこをフキフキしてると、額から禍々しい紋様が描かれ始める。
 第三の眼とか邪神の紋様と化でも恰好良いのだよ? とか期待してると、即座に仲間から追加の治療が飛んでくる。
「もう少しで倒せそうなのに! 惜しいなぁ」
「そうなのだっ! ボクがこの手で何とか出来た筈なのにっ……」
 摩琴が流体金属を使って傷口を覆うと、蓮は悔しそうな顔を居た。
 何しろ本当にあとちょっと言うところだったのだ。
 ババーン! と一気に倒せていた筈なので、悔しく無い訳が無い。
「えい、えい」
「あ……汚い花火……ね」
 ここで勇名は戦場を素早く確認し、死神があとちょっとという情報に納得した。
 ミサイルが爆発して打ち上げられる怪魚を見ながら、無月は槍を振るってホームラン。
 穂先の大きな部分を使って残りの死神を打ち砕いたのである。
「これで演技は要らなくなったね」
「仮に撤退条件だったとしても、先に倒せるわ」
 摩琴の言葉に絶奈は頷いて、目の前に魔法陣を直列に多重展開した。
 ここからは遠慮は不用。お互いにやらされ仕事は終わりにしよう、力いっぱい闘うのみだ。
「……今此処に顕れ出でよ、生命の根源にして我が原点の至宝。かつて何処かの世界で在り得た可能性。『銀の雨の物語』が紡ぐ生命賛歌の力よ」
 直列並起する魔法陣は、それ自体がセフィトロにも似ている。
 現われたモノを掴めば、螺旋を描いて立ち上がるDNA・MAPに手を付ける科学者であるかのようだ。
 彼女が手にした『槍』は定命を持たない対象へ大いなる猛威を振るい始める。
『ずががが!』
「っ! 痛いには痛いことには変わりないけどね。でもまあ演技が無いだけでも助かるよ」
 鐐は自慢の毛並みが燃えあがるのを感じながら、牙をむいて踊りかかった。
 相撲を取る様な体勢で組みつき、仲間達の方にエインヘリアルの体を強引に向けさせる。
 そしてナイフを手に腹を探るのだが、まあそこまではもう必要ないだろう。
「大分削ってるから、あと二・三回ってとこかな」
「そうですか。年食ってるのは代わりありませんが、こちらも本領発揮と行きましょうかね」
 恵が星の様な闘気を撃ち込むと、正夫はスピードを載せて斧を振り抜いた。
 そして斧を投げ捨てながら、拳を引いた時……。誰かが風の様に飛び込むのを感じる。
「これが最後の一撃なのだよ!」
 蓮の拳が風の様に唸り、雷電が咆哮と共に突き抜けたのだ。
 豪雷が縦では無く横につきぬけて、エインヘリアルはこちらに向けたガトリングを墓標代わりに倒れたのであった。

「まずはお疲れ様。長い戦いだったのだ」
 蓮は皆を代表してご挨拶、ペコリと頭を下げた。
 別に頭を撫でても良いんじゃよ? と瞑った目でチラ見すると……。
「ん? 触りたいなら構わんぞー?」
「ち、違うのだー!」
「んうー。くまさーん。どっかーん!」
 鐐が御腹を叩いてばっちこーい。
 否定する間もなく勇名が体当たりして来たので巻き込まれてしまった。
「でも、今回の敵はすっごい頭悪かったね。攻撃力も凄かったけど」
「死者蘇生はデウスエウスであっても完全には出来んのだろうな。出来るなら死を畏れる必要も無いものな」
 摩琴の言葉に鐐は頷いて、チビッコやらサーヴァント達をあやしつつ答えて行く。
「相手も万能と言う訳でも無いのでしょう。仮に万能であったとしても、グラビティの消費を考えれば全力を振るい続ける訳にもいかないでしょうし」
「んー。だからエインヘリアルって訳かあ」
「そこが救いよね。私達は負ける訳にはいかないし、相手も高潔な勇者ばかりじゃないから。さて、ヒールして帰りましょうか」
 正夫と恵の話を拾いながら、絶奈は薄い笑顔のままヒールを始める。
 できれば強い敵と心行くまで闘いたいと思いつつ、戦いではそんな贅沢は言えないと矛盾を抱えたまま。
「13・59・3713接続。再現、『聖なる風』……あ、誰かそこのお願い」
「ヒール、ないから。こっち手伝う……ね」
 恵が印を切って左手を青白く輝かせると、清らかな風が通り抜ける。
 無月が壊れた壁やら残骸を持ち上げると、そこは何も無かったように悪い影響が消え失せて行った。
 何もかもが元に戻った訳ではないが、朝になれば人々の生活が穏やかに送れれば良いなとケルベロス達は思うのであった。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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