ミッション破壊作戦～ザッツ・オール・ライト

■リプレイ

　開かれたヘリの扉から八つの影が飛び出した。目下に広がる青い海とドーム状のバリアに包まれた孤島。陽光きらめく海を見下ろし、卜部・泰孝（ジャンクチップ・e27412）はつぶやいた。
「ったく……ひでえもんだぜ。気合い十分、意気込んでみたはいいが、コインは裏目と来やがった。勝利の女神ってやつぁ、どうも空気読めねえらしい」
　その時、彼の頭上で失笑。カーネリア・リンクス（紅天の華・e04082）と牧島・奏音（マキシマムカノン・e04057）が苦笑いを浮かべ、茶化すように言う。
「いつ微笑んでもらってんだよ。いっつもスッてるっつー話だけど？」
「そのあと若奥様にたかってるって噂もセットになってるよねー。結構有名だよ」
　二人を見上げ、何事か言いかける泰孝を手を叩く音が制止する。両手を合わせた太田・千枝（七重八重花は咲けども山吹の・e01868）は、赤い外套をはためかせながら穏やかに諭した。
「はい、おしゃべりは一度その辺で。続きは帰ってからです」
「そうだね。……でさ、誰から行くの？」
　腰に刺したグラディウスに手を置き、凍月宮・花梨（魔剣使い・e39540）が周囲を見回す。そんな中、伏見・勇名（鯨鯢の滓・e00099）と橘・楓（ウイングわんこ・e02979）が先に出る。
「んう、じゃあぼくが行く」
「私も……」
「では、その間お守りしますね」
　深園葉・星憐（天奏グロリア・e44165）が言い、ローズピンクの水で薔薇装飾の盾を生み出す。直後、泰孝の振り上げたジャンクアームから鎖でつながれたグラディウスが飛び出し、白い輝きを放ち始める！
「神様よお！　未来に思いを馳せンのは良い事だが、地に足のつけなきゃ夢物語で終わっちまうぜ。つまり先ばっか見てるテメーらの進軍はここで終了！　俺達のチップは命！　テメーらはこの島チップに一勝負といこうじゃないか！」
　その両サイド、楓が真っ直ぐ下に突き出す形で、勇名は大上段に掲げる形でそれぞれのグラディウス構えた。同じく白く発光し始め、バチバチと電光を散らす剣！
「あなた達にだって譲れない理由はあるのかもしれない……でも、だからってあなた達の行いを許すわけには行きません……！　私が望むものは……誰もが自由に歌い、自由に夢を追い求め……誰もが笑って前を向くことの出来る世界……！　その世界を守る為に……私は闘おう……歌い続けよう……！」
「……んう。ぼくのこころと、じゃすてぃすーも、ゆるさないって、いってる。この熱いのが、たぶん、おこってるってこと、なんだ。これいじょう、勝手させない……この島、島のひとに、かえす。ちからをかして、グラディウス……！」
　光が一気に膨張し、三人は白い流星と化す！　陽光煌めくバリアに接近するその瞬間、彼らはグラディウスを繰り出した！
「勝った方向が総取りだ！　スタートの合図はコイツだぜ！」
　ドームの一部が真っ白に爆発！　雷轟、そして白い炎が瞬時に広がり、地鳴りじみたサウンドを響かせる。振動して海がいななき、孤島の木々が激しくざわめく。轟音の中から響く旋律と、楓の歌声。
「『絶望の闇の中でも、恐れず前に進もう。この胸の想いを信じて』」
　透明感のある声に、ガラスじみた破砕音が溶けていく。だが稲光の反対側、遠くから急速に接近する影あり！　二本角を備えたフルフェイスヘルム、鈍色に光る騎士鎧。幅広の剣にサーフィンめいて乗った巨漢、デュランダル騎士は禍々しいオーラを身にまとう。
「おのれ犬共……一度ならず二度までも！　今日という今日は生きて帰さん！」
　刃の根元付近を踏みしめ、急激に加速する騎士！　その進行方向に猫めいて降り立ったカーネリアはガントレットを上空に向けた。猫目の宝石が放ったビームが雲を貫通して消えた直後、雲海が紅色に染まる。
「ムッ!?」
「行かせやしねえよ。篁流射撃術……『天雷雨』ッ！」
　空から赤い極太のビームが放たれ騎士をめがけた。だがデュランダルは剣ごと回転跳躍してこれを回避。スノーボーダーめいて飛翔する彼の肩にワイヤーフックが噛みついた。騎士より高所に陣取り千枝は高速縦回転しながら接近！
「篁流格闘術！　『垂雪』！」
　交叉した騎士の腕にかかと落としが直撃！　全力で振り抜かれた蹴り足に突き落とされたデュランダルはバリアすれすれを浮遊して着地。そこへアサルトライフルを構えた奏音が駆けこむ。
「奏音ちゃん！」
「オッケー！　千枝さん！　食らえ、篁流射撃術！」
　足場を蹴って騎士鎧の懐に飛び込んだ奏音は銃口を押しつけ、引き金を引いた。
「『貪狼』！」
　銃声が鳴り鎧の胴に小さくひび割れた。わずかに後ろへ押された騎士はヘルム奥の瞳を光らせ、足蹴にした剣の切っ先を跳ね上げる！　背を反らして避けた奏音の腹にボディブローが突き刺さった。
「あがッ……！」
「なんのッ！」
　奏音を殴り飛ばすデュランダル！　弾丸じみて飛ぶ彼女を追う騎士の前、立ちふさがった星憐がローズピンクの水で盾を作り刺突をガード！　踏ん張るも騎士は止まらぬ！
「くぅっ！」
「無駄だ！　我が疾走を阻むもの無し！」
「それはどうかな!?」
「何……」
　わずかに顔を上げる騎士。星憐の後方、跳躍した花梨は真紅の光をまとった両手を突き出す。その手に赤い炎が球形を成した。
「御業よ、敵を焼き払う炎を放て！」
　放たれた炎に照らされた騎士は刺突で星憐を押しのけて制動をかけ、剣の腹を盾にする。炎が命中・爆発！　着地した花梨に星憐が覆い被さる。
「危ない！」
　星憐の背中を飛翔した大剣が割る！　矢の如く飛ぶ剣は白い爆炎を貫き楓のグラディウスを跳ね飛ばした。
「ひゃっ……！」
　楓の手から弾き飛ばされ、グラディウスが光を失う。慌てて柄につないだヒモを手繰る楓を余所に空中を垂直に上昇する剣を、跳躍したデュランダルがつかんでスクリュードライバー！　残った爆炎の中心に突入した次の瞬間、爆炎は四散し勇名と泰孝が吹き飛ばされた。
「ぐおッ！」
「んぎゅっ……」
　バウンドする二人の手中でグラディウスの光が消滅。沈黙した小剣を腰裏に止めた勇名は、代わりに恐竜の足じみたパーツをつけた機械砲を二門展開。騎士の足元に狙いを定めた。
「ずどーん」
　砲門が小型ミサイルを発射！　振り向いた騎士の巻き込み花火めいて爆発を起こす。カラフルな爆発を挟んで反対側、泰孝はグラディウスを飲み込ませたジャンクアームを砲形態に変形させた。
「ついでにこいつも持ってきな！」
　砲口が青白い閃光を放ち冷気を散らしてビームを繰り出す。火花を斬り裂いて現れた騎士は光線に剣を突き出した！　光線をＹ字に裂きながら直進するデュランダルは砲門もろともジャンクアームに刃で貫く。巨腕の肘まで食い込む大剣。しかし泰孝はニヤリと笑う。
「捕まえたぜ」
　泰孝のアームの肘辺りから銀の触手が生え、大剣ごと裂けた腕を締め上げた。騎士が引くも剣は動かぬ！　兜の奥で目を見開いた彼の周囲を星憐、千枝、勇名が囲んだ。薔薇色の水がマスケット銃めいた形に、陰陽紋の二丁拳銃に光が、二門の機械砲がうなりを上げる。
「この見島には、少ないながらも人が住んでいました。彼らの平穏な生活を脅かし、追い出したこと、許せません！　ここから出ていってもらいます！　ここは、この地で暮らしていた人々の為の土地なのですから……！」
「空を見上げる時、不安や恐怖、絶望を強いられている人達がいます……でも、私達が希望になってみせます！　そしてデュランダル！　もう逃がしはしません！　ここで彼岸へ送って差し上げます！」
「しゅうちゅうほうか、ずどーん」
　三方向からの一斉砲撃！　デュランダルは足と上半身をひねり、泰孝ごと剣を振り回して全弾迎撃、そのまま泰孝の胴を蹴り上げアームを千切る！
「ごあッ……！」
「うぬッ！」
　蹴飛ばされた泰孝が勇名に衝突。剣を足場に叩きつけジャンクアームを壊した騎士の左右、素早く距離を取った千枝と星憐はグラディウスを手に取った。
「星憐さん！」
「はい！」
　二人が足元に小剣を突き入れ爆轟を生む！　白い炎と雷の波に挟撃される形で飲まれた騎士。だが純白の光は内側から爆ぜ飛び、赤黒いオーラの暴風によってかき消されてしまう。剣に乗って垂直上昇したデュランダルは高高度でＵターンを決め、風圧で体勢を崩した千枝を流星めいて強襲！
「これ以上の狼藉は許さん！　死ねぇぇぇいッ！」
　全身に禍々しいオーラをまとって突進を速めるデュランダル！　そこへ低姿勢で疾駆するカーネリアが銀籠手の指に大量の銀針を挟む。
「やらせねえよ！　篁流射撃術！」
　渾身の大ジャンプから高速回転！　千枝とデュランダルの間に入った！
「『霧雨』ッ！」
　投射された銀針が対空射撃じみて騎士を狙う。デュランダルは左右にスライドしてこれを避け、オーラを大剣の切っ先に集中させた。肉迫してきた剣を抱え込んで止めたカーネリアは斜めに落下！　バリアに足を着けハードランディングする彼女の腹に刃が食い込み、血をにじませる。
「クソッ！　止まれ、このッ！」
　その時、騎士は剣の上で後転ジャンプした。振り上げた片足にオーラをまとわせ、大剣の柄に蹴り込む！
「穿つッ！」
「ごはぁッ!?」
　カーネリアがくの字に折れ曲がり吐血！　着地した騎士は剣をつかんで振り抜き、カーネリアを斜めに斬り下ろした。袈裟掛けに裂けた和服の隙間が鮮血を放つ！　地についた刃をスイングしたデュランダルの首狩り斬撃！
「リアちゃんッ！」
「一人、討ち取ったりィッ！」
　大剣がカーネリアの首を跳ねる寸前、騎士の顔面が爆発した。よろめき、後ろに数歩下がる騎士にライフルをぶっ放しながら奏音が走る！
「や―――ら―――せ―――る―――かぁ―――ッ！」
　ポケットから出したピンを口で引き抜いて放った手榴弾を、奏音は回し蹴りで蹴り飛ばす。首を振り、顔を上げた騎士の目に発光する爆弾が飛び込んだ。
「ぬうッ！」
「食らえ篁流射撃術！　『砕け星』ィッ！」
　ライフルから一発の銃弾が飛翔し、手榴弾に命中。顔面を押さえ騎士はフラフラとたたらを踏む。
「目がッ……！」
　零距離爆破を浴びせられたデュランダルの太ももに、花梨の垂直落下ストンプが直撃する。ミシミシと脚甲を軋ませながら、腰に差した刀を引き抜く。
「疾走阻む者無しだって!?　じゃあその素早い動きを封じてあげるよ！　ついでにっ！」
　逆手に構えた刀が振り下ろされ顔を上げた騎士兜の覗き穴に突っ込んだ。花梨はそのまま深く刺さった刀をねじる！
「傷口を抉られると痛いよねー！」
「ぐおおおおあああああああああッ！」
　絶叫する騎士からバク転で離れる花梨を闇雲な剛剣がかすめ、服と肌に裂傷を刻む。血の滴を散らす花梨をを包み込み癒やす光と楓の歌声。
「『守りたいものがあるから。目を逸らさずに、この想い信じて』」
　戦場に吹く風の如き朱色の光。続いてメロディを変化させた楓は、曲調とトーンを変えてメドレーに移る。
「『君の声が地図になる。大丈夫。もう迷わない』」
　光が朱色から黄金色に変わり、仲間達に降り注ぐ。徐々に縮小する深手に触れつつ、カーネリアはグラディウスを取り回した。
「今がチャンスだ。やるぜ奏音！」
「いいけど……大丈夫なのリアちゃん？」
「平気に決まってんだろ！」
　青ざめながらも不敵に笑うカーネリアに、奏音も覚悟を決めた顔でグラディウスを振り上げる。
「凍月宮さん！　やるよっ！」
「オッケー！」
　刀を納め、グラディウスを抜いた花梨が足場に片手をついてブレーキをかける。三人の小剣が瞬く間に閃光を帯びた。
「そっちが切羽詰まっているってのは分からんでもないが、侵略を選んだ時点で同情なんざ出来ねぇぜ。地球はここで生きると決めた奴らの故郷なんでなぁ、不躾なお客さんはお暇願うぞ！　さあ、行くぜ相棒……腹の底から、魂込めるぜぇっ！」
「見島に巣食うデュランダル。本土に乗り込ませたりはしないよ」
「この島を足がかりに次の侵略するって？　そう上手く行くと思わない事だね！　あたしと同じ境遇の人が増えるような事はさせない！」
「させん！」
　再び大剣に乗った騎士が滑走！　その行く手に滑り込んだ星憐は右手に生成した黒球を発射した。頭を傾け紙一重でかわす騎士の側面に千枝が飛び蹴り！
「篁流格闘術、『吹雪』！」
「ぐぬッ！」
　脇腹にキックを食らい大剣の軌道がぶれる。さらにその後方から天高く飛び上がった勇名がミサイルを打ち出し騎士の足元、刀身の上で爆発させた。上がるカラフルな爆炎を見、泰孝は時間遡行めいて修復されたアームを展開して砲撃！　激しく揺らいでいた騎士が砲弾を食らって吹き飛んだ。
「ぐあッ！」
「んうー……邪魔、させない……」
　もんどりうって転がる騎士に仕掛ける勇名！　一方で三人のグラディウスの輝きが頂点に達する！
「島の人々の平穏の為に、必ずこの地を返してもらう。一度はダメージを与えたらしいし、今度こそ破壊してあげるね！」
「ぶっ壊れろよ、魔空回廊ッ！　地球から……」
『出て行けえええええッ！』
　同時に叩きつけられた剣から三度目の大爆轟！　天を震わせる号砲、巨大なヒビが入るバリア。攻め来る勇名と千枝の前で、身を起こす騎士の体をオーラが包む。直後、彼の姿がかき消え、勇名と千枝の後方に剣を振り下ろした姿勢で出現。二人の脇腹がバックリ裂ける！　足に力を込め、爆発めがけて走り出したデュランダルにアームから点棒を引き抜いた泰孝がブロックに入る。
「おおっと、行かせやしねえよ！」
　投げ放った数本の棒が肩や腹、足を射抜くが騎士は全速力で走り続け、泰孝を斬り伏せて猛進！　その体にローズピンクのツルが複数巻きつき、星憐の方へ力尽くで引っ張り寄せる。逆らわずに方向転換した騎士は左腕に薔薇装飾の剣を生み出した星憐と斬り結んだ！　一合、二合、三合と続き、騎士の斬り上げが星憐の剣を跳ね上げる！
「退けいッ！」
「あぐっ！」
　横薙ぎの一閃をあばらに当てられ星憐が吹き飛んだ。ツルから解放された騎士は跳躍からの前方回転！　そのまま一気に落下する！
「これ以上の狼藉は許さんと、そう言ったはずだッ！　ふんぬあああああああッ！」
　勢いを乗せた全霊の一撃がオーラの斬撃を飛ばし白い爆炎を真っ二つに斬り抜ける！　消し飛ばされた爆発からはみ出した三人に突撃する騎士と、そこに響く楓の歌声！
「『1人きりじゃない。たとえ化物になろうと、この手に握るものを信じて』」
　斬り込む騎士の頭上から氷塊！　騎士が足を止め、剣を真上に突き出して氷を破壊した隙に楓は歌いながら戦場を滑空。歌いながら奏音に目配せをした。悔しげな顔で手榴弾のピンを抜いた奏音はそれを地面に打ちつけて爆発させる。濃いスモークが辺りを覆った。
「目くらましか!?」
　騎士が剣を振り回し霧払い。煙が風圧にさらわれ晴れた時、周囲に点々と血の跡を残し八人の姿は消えていた。

作者：鹿崎シーカー	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年10月5日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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