決戦沸血のギアツィンス~妄想と汚辱のそとに

作者:質種剰

●憂い女
 アパートの一室。
 ピンポーン。
「葉菜ちゃん、いるんでしょー?」
 ドアチャイムを鳴らして男が神経質そうな声を投げる。
 室内の女は、それを無視して暗い部屋の中、首を吊ろうとしていた。
「葉菜ちゃん、昨日のデート楽しかったねぇ」
(「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い……早く楽になりたい」)
 女——葉菜は、外にいる男から日々付きまとわれていたのだ。
 朝の通勤時には駅で待ち伏せをされ、昼はいつ働いているのかと疑問に思う量のメール攻撃に晒され、夜帰る時は後を尾けられる。元より内向的な葉菜の不安とストレスは日に日に増していった。
「葉菜ちゃんの作ってくれたお弁当美味しかったなぁ」
 男は妄想と現実の区別がつかないのか、独りで喋り続けていたが。
 不意にその声が止んだ。
「王女レリの命により、あなたを救いに来ました」
 かと思えばすぐ側で女の声がして、心臓が飛び出そうになる葉菜。
「あなたは、あなたを虐げた男を殺し、自ら救われなければなりません」
 語りかけてきたのは、軽装から覗く褐色の肌と顔の仮面が特徴のシャイターン、連斬部隊の一般兵である。
「きゃあ!」
 彼女の後ろを見て、葉菜が悲鳴を上げた。
 身の丈3m弱の女エインヘリアル、白百合騎士団の一般兵が、例のストーカー男を抱えていたからだ。
「あなたがエインヘリアルとなれば、この男に復讐して殺す事ができるでしょう」
 気を失っている男を団員に放り投げられ、シャイターンに唆され、葉菜は。
「そう……そうよね。こいつさえいなければ私は救われる……!」
 覚悟を決めて連斬部隊の兵に命を奪われ、エインヘリアルと化したのだった。
「こいつさえいなければ——!!」
 今まで自分を苦しめ続けたストーカー男を殺害する為に。


「シャイターンの選定により、エインヘリアルが生み出される事件が起こるでありますよ」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が説明を始める。
「シャイターン『連斬部隊の一般兵』は不幸な女性の前に現れて、その不幸の原因たる男性を殺すのと引き換えに、エインヘリアルとなる事を受け入れさせようとするであります」
 この取引へ応えて女性がエインヘリアルになると、そのまま男性を殺してグラビティ・チェインを略奪してしまう。
「皆さんには、この現場へお出向きいただき、選定を行う『連斬部隊の一般兵』と護衛のエインヘリアル『白百合騎士団の一般兵』の2体を撃破し、可能ならば、新たなエインヘリアルが生まれるのを阻止していただきたいであります」
 かけらは頭を下げて皆へ頼み込んだ。
「また、今回の事件では、敵勢力の増援の存在も根占・音々子(ねじまきヘリオライダー・en0124)殿が予知してくださいました」
 敵は、勇者選定を邪魔するケルベロスを襲撃して、仲間を守ろうと、精鋭部隊を送り込んでくるという。
「こちらの部隊の迎撃は、別のチームにお任せする事になりますが、もし素早く敵を撃破できましたならば、迎撃するチームの援護へ向かっていただけますようお願いいたします」
 その迎撃担当チームは、根占殿のヴァスティ号で現場へ向かう手筈であります——微笑むかけらだ。
「現場には、連斬部隊シャイターンと被害者のストーカー男性、導かれている女性の他、護衛として、白い鎧兜を着けた騎士風のエインヘリアルが1体付き添ってるであります」
 『白百合騎士団の一般兵』……珍しい女性型のエインヘリアルで、戦闘力は高くないようだが油断できない。
「白百合騎士団の一般兵は、手にした三叉槍を使って、ゾディアックミラージュ、スカルブレイカー、稲妻突きにそっくりなグラビティで攻撃してくるであります」
 一方、連斬部隊の一般兵は、ハンドアックスとシリンダー銃を用いて、惨劇の鏡像や跳弾射撃によく似たグラビティで攻撃してくる。
「また、幻覚作用によって催眠状態に陥らせる砂の嵐を解き放って、遠くの敵複数人を巻き込み斬り刻む、『幻砂蜃気楼』なる魔法グラビティも使うであります」
 今から準備すれば、導かれる女性——葉菜がエインヘリアルとなるのを受け入れる直前に、現場への突入が可能となる。
 葉菜は目の前の男性への強い憎しみからエインヘリアルになる事を受け入れてしまうが、もしもケルベロスによる説得が成功すれば、導きを拒否してエインヘリアル化を防げるだろう。
「エインヘリアルとならなかった場合も敵は葉菜殿を攻撃しませんので、説得に成功した場合は、2体のデウスエクスと戦って撃破できれば、作戦は成功であります」
 だが、説得が失敗した場合、導かれた葉菜はエインヘリアルとなってしまう。
「エインヘリアル化した葉菜殿は、まずは男性の殺害を優先する為、説得に失敗しそうな場合は、男性を戦闘前に外へと運び出す必要があるかもしれません」
 葉菜がエインヘリアル化すると、連斬部隊シャイターンと白百合騎士団エインヘリアルは彼女を撤退させて、ケルベロスと戦う。
 そして、エインヘリアル化した葉菜も、戦闘には参加せずに撤退行動を優先する。
「撤退しようとする女性エインヘリアルを撃破するには、なんらかの作戦が必要になるでありましょう」
 かけらは断じた。
「迎撃チームは敵精鋭——沸血のギアツィンスと護衛の連斬部隊狙撃兵との戦闘を行う事になりますので、可能な限り素早くこちらの敵を倒して、駆けつけて差し上げてくださいましね……困難な状況ではありますが」
 万が一迎撃チームが敗北して、こちらの決着がつく前に敵増援が戦場へ現れた場合は、戦況を判断して撤退する必要がある。
「それでは、2体のデウスエクスの討伐と、できましたら沸血のギアツィンス戦の助太刀、よろしくお願いいたします」


参加者
星黎殿・ユル(青のタナトス・e00347)
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
神楽火・みやび(リベリアスウィッチ・e02651)
端境・括(鎮守の二丁拳銃・e07288)
ソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)
トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)

■リプレイ


 アパートの一室。
「いけません」
 凛とした声で、選定に身を委ねんとする葉菜を制止したのは、神楽火・みやび(リベリアスウィッチ・e02651)。
「確かにこの男は救いようのない愚か者です」
 みやびは、イリスの足元に転がるストーカー男を見下ろして言う。
「行動は醜く、心は卑しい。同じ女として、そして何より一人の人間として、こいつを許しておくことなどできませんね」
 声を荒げず淡々と言葉を紡ぐみやびだが、彼女のストーカーに対する激しい怒りは、刺のある語り口の端々からも伝わった。
「こいつには重い重い罰が必要です。葉菜さんが与えられたのと同じように、何日も何日も苦しんで、最後には自ら死を望むくらいの罰が」
 それは、みやびが他者の尊厳を踏み躙って己の欲望を満たそうとする人間を、デウスエクスと同じぐらい嫌いだからだ。
「本当?」
「この男は悪として、死よりも苛烈な正義によって裁かれなければなりません」
「そうね! 殺しても飽き足らないとはこの事よ!」
 葉菜の表情がパッと輝いた。
「選定は救いじゃないわ、死を忘れた存在にして争いの渦に放り込むサイテーの行いよ」
 続いて、トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)が、連斬部隊一般兵とイリスへ聞かせるように、毅然とした態度で言い放つ。
(「ごめんね、気が付いてあげるのが遅れて」)
 葉菜の正面へ回るトリューム。澱んだ目を真っ直ぐ見つめるも少し俯き、手をそっと重ねた。
「えっ?」
 接触テレパスで思惟を注がれた葉菜が驚く。ベルガモット系の香りが鼻を擽った。
(「……みんなおねえちゃんを心配して集まったの。ワタシ達におはなし、聞かせて?」)
 仲間をチラッと見やったトリュームの瞳には涙が光る。
(「おねえちゃんには一緒に泣く人も、一緒に戦ってくれる人もいるわ」)
 葉菜が両手で包まれた自分の手を見る。
 確かに2人へ頷くのは間違いかもしれない。だが、トリュームの言にも具体案を見出せない。
(「ほんの少しだけでもいいの、助けを求める勇気を出して」)
 黙する葉菜の体を抱き締め、トリュームは声を発した。
「おねえちゃん、ワタシ達を、みんなを頼って!」
「要らない!」
 突然トリュームをドンと突き飛ばして、叫ぶ葉菜。
「頼って何になるの? 私が欲しいのは同情じゃない! 具体的な解決策なの! 一分一秒でも早くそいつから解放されたいだけ!」
 凄まじい剣幕に8人がたじろぐ。
「どちらの助けを選んでも辛い戦いが待ってると思うわ。でもね、自分で選んだ道なら、どんな困難にも立ち向かえるわ」
 すると、ソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)が最終決戦モードに変身、50年以上生きたオラトリオとして威厳の溢れる姿で、葉菜を諭した。
(「ただ受け入れるのでなく自分で道を決めることが出来たなら、人でもエインヘリアルでもこの子は大丈夫だと思う」)
 葉菜のエインヘリアル化を阻止せんと皆が必死に策を練る中、勝手に自らの価値観を押し通し、葉菜へ選択権を委ねるソフィア。
「だから手を伸ばしなさい! 伸ばした分だけ世界は変えられる!」
 先程の葉菜へ負けじと大喝した。
(「ハナちゃんはそのまま助けても、ただ降り掛かってくるものをパンクするまで受け入れ続ける日々になるんじゃないかしら……」)
 嫌なことは『嫌』って言えて、辛かったら『助けて欲しい』って言える子になってくれればいい。
(「例えデウスエクスになったとしてもね」)
 その鷹揚さは、ソフィアの年齢を考えれば決しておかしいものでは無い。
「デウスエクスであるエインヘリアルが生きる為には、地球人を殺し続ける必要があるぞ……」
 しかし、日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)がツッコむ通り、デウスエクスの誕生を見逃す事は、葉菜やストーカーのみならず他の一般人までもが被害に遭う可能性を増やす事態に他ならない。
「彼女を救いに来たというけど、王女レリとやらはどうやって窮状を知った?」
 蒼眞は連斬兵を冷めた眼で見据え、奴らの救済を傘に着た欺瞞へ、追及の矛先を向けた。
(「……絶対にやらないにしても、今回の件を確実に対処するなら、まず葉菜を問答無用で殺害、なんて方法に思い至る俺はろくな人間じゃないだろうな……」)
 そんな鬱屈した感情を抱えていても、振る舞いだけは普段通りに石英で小檻の乳を堪能してきた蒼眞である。
「善意だけで救いたいのなら黙って先にストーカー男を始末する手もあっただろうに」
 鋭い指摘も、葉菜からイリス達への疑念を抱かせるに、通常なら十二分な内容だったろう。
「本人の手で決着を、という事だとしてもナイフの一本も渡せば充分だろうに、何故エインヘリアルになる必要がある?」
 ただ、葉菜へ直接語りかけるのを他の仲間へ任せきりにしたのは、説得の難易度から考えても相当危険な賭けと言わざるを得ない。
「定命の人生は不幸ではないぞ」
 蒼眞は、イリスらへ断言してみせて、ふと気づいた。
(「……いや、デウスエクスにとっては、定命は何より避けたい不幸か」)
 少なくとも、連斬兵やイリスへ楔となって突き刺さるには程遠い、蒼眞の言う幸せが伝わってこない簡素な言葉だった。
「葉菜さん、今まで一人で頑張ってきたんだね。吐き出すところもなくて、助けを求めることもできずに……」
 シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)は、葉菜へ彼女らしい共感の姿勢を示した。
(「溜まった辛い気持ちを吐き出すことで、少しでも楽になれたらいいな」)
 真摯に葉菜を気遣うシルだったが、彼女の胸中を察するにはどこかズレている。
 その証に、葉菜は幾ら話すよう促されても口を開こうとしない。
「これからは、わたし達が相談に乗るから、何かあったら、気楽に言ってほしいな」
 けれども、何かの助けになればとケルベロスカードを渡さずにいられないシル。
「確かに、ひどいことした人は報いを受けないとダメだけど……だからといって、殺すなんて」
 また、シルも葉菜の望むところを決して理解していない訳ではない。
「……それよりもっと苦しんでもらわないと、ね」
 にっこりと黒い笑みを浮かべる面差しからは、同じ女にしか解らない昏い情念——葉菜の尽きぬ怨みを我が事のように感じ取ったが故の怒りも、確かに伺えたのだ。
「殺すより苦しめる方法があるのね? だったらどうしたら良いか、早く教えて!」
 葉菜はシルの共犯者の笑顔へ多少なりと心を開いたのか、さっさと具体案を出せとヒステリックに叫んだ。
「ぶん殴ってみぬかの?」
 すかさず端境・括(鎮守の二丁拳銃・e07288)が口を挟んでから、
「今日まで助けに来られず、すまぬ」
 真摯な眼差しで葉菜を見つめ、頭を下げた。
(「恐らくシャイターンらの語る救済も、きっと彼女らにとっての真実……即ちその方法でしか救われなかった子たちなのじゃろう」)
 そう思うからこそ、括の謝罪は葉菜へだけ向けられたものではない。
「のぅ、其奴をぶん殴ってみぬかの?」
 遣る瀬無い気持ちを抱えつつ、先程の誘いを繰り返す括。
「やるわ」
 葉菜が愉悦に瞳をギラギラさせて頷く。
「其奴に都合の良い甘い夢に浸らせたまま終わりになぞせず、葉菜の痛みを、好いてなぞおらぬという現実を、その手で知らしめ妄想を砕いてやるのじゃ」
 括は、ストーカー男への怒りを煽るべく葉菜を唆した。
「それは、今の、人である葉菜にしかできぬことじゃ」
 葉菜をエインヘリアルにさせず、ストーカー男を殺させもしない、それでいて彼女の鬱屈を晴らす方法として、括が捻り出したのが暴力だった。
「でも、殴るだけなんて痛みで起き上がって殴り返してこない? やっぱりやり返されないよう息の根止めなきゃ!」
 喋っているうちにストーカーの反撃が恐ろしくなったのか、恐慌状態に陥る葉菜。
「恐ろしいなら手を取り傍にいよう。仕返しはこの身に代えてもわしが護ろう。責は全てわしが負うから」
 葉菜の肩を軽く掴んで、落ち着かせる括。
「或いは、手本が入用かの?」
「……うん」
 括は男が死なない程度に一発ぶん殴った。
 バキィ!
「良い気味!」
 葉菜が素直に歓喜した。
「で、貴方は長く苦しんだのに、彼を一瞬で楽にさせていいの?」
 もっと殴って欲しそうな葉菜へ、ソフィアが改めて問いかける。
「じわじわと長く償わせないと勿体無いわよ。彼を起訴するなりしてさ」
「起訴?」
「そう。彼の社会的立場を完膚なきまでに破壊するの」
 その方面で出来る事は協力するわよ——自信満々に豊かな胸を張るソフィア。
「そんな事本当にできるの?」
「できますよ。社会的信用の高いケルベロス8人が貴女の味方です」
 はっきり言い切って請け負ったのは、ソールロッド・エギル(々・e45970)だ。
「要は男がいなくなればいいのでしょう。ならば消しましょう」
(「1人暮らしの女性にとって、男はとても不快で、怖かっただろう……何せ、ドアの前で喋り続ける男を隣人さえ気に留めない社会だから」)
 男だけに留まらない怒りを押し殺しつつ、ソールロッドは葉菜を少しでも安心させようと笑顔を作る。
「現実と妄想の区別がつくようになれば——否、妄想の程度が酷ければ純粋に罪へ問われるよりも社会からは遠ざかります」
 もしも治れば『妄想男』は永遠に消える。そんな精神的な更生、治療の道もあるのだと。
「病院でも良いし、うちの悪の組織で責任を持って調教しても良いのです」
 それは嘘でも綺麗事でもなく、必要なら本当に色々やってのけるのが自分だ。
 葉菜へそう信じさせるべく、転がるストーカーを麻袋へ突っ込むソールロッド。
「それとも貴女が男の前から消えますか? 貴女は平穏な生活に戻れます」
 とケルベロスカードを渡すのも忘れない。
「メアドを変えて引っ越しもして、職場も変えるなら紹介できますよ」
 万事任せて貰えれば手伝います——宣言する彼は確かな強者だ。
「引っ越しや転職が簡単にできるなら頼りたいわ。でもそれより先にそいつの社会的立場の破壊を」
 答える葉菜だが、男の妄想を治すと息巻くソールロッドでは己が復讐心は満たせまいとも感じて、折角その力を持ってるのにと惜しんだ。
「本当に辛かったと思うけど良く耐えたね……でももう大丈夫」
 星黎殿・ユル(青のタナトス・e00347)は、片手に六法全書を携え、どんな雑音にも負けぬ大音声を発した。
「ボク達と一緒にストーカーを捕まえて社会的に抹殺しよう。ストーカー規制法第2条第1項第1,3,5号で該当するものばかりだ」
 パラパラと形だけ六法全書を捲りながら、淡々と罪状を諳んじるユル。
「先ずは警察に行き接近禁止命令、役所では支援措置申出をし、その間に弁護士を雇って其れや其の家族を相手取って民事裁判を起こそう」
 バタン、と全書を閉じた瞬間、ユルの豊かな胸がたゆんと揺れた。
「働いていないのにお金があるならばその資金源も断ち、安易に殺してしまうよりも生きるのすら辛くなる罰を与えようよ? 一緒に解決させよう?」
 一緒に、と言うのはストーカー規制法が親告罪でなく、被害者以外でも訴えられる事を指している。
 また、いずれ限界のくる接見禁止命令だけに頼らず、民事提訴すれば男の家族まで巻き込んで大騒動にできる、と展望を語ったユル。
「私、警察に行く! そいつを死ぬより辛い目に遭わせて社会的に抹殺する!」
 警察、役所、裁判と実現可能な策を具体的に教えたお陰で、遂に葉菜を導きの魔手から救った。
「余計な事を……」
「邪魔が入りましたね」
 連斬兵とイリスは迷わず8人へ向かって襲いかかった。
「さて……王女の説得、うまくいくとよいが……」
 砂嵐からトリュームを庇いつつ、括が呟く。
 主を守って三叉槍の穂先が操作パネルに突き刺さったのはヒガシバだ。
「あなた達の罪は、見せかけの救済で彼女の真なる自立を阻んだことよ」
 ソフィアは連斬兵達へピシャリと言い放つや、翼から聖なる光を照射。
 シャイニングレイを収束させたかの如き光芒は、連斬兵の罪を直接焼く事で苦痛を齎した。
「人の弱っている所を惑わすなんて……そんなこと、許せないからっ!」
 怒りも露わに連斬兵を睨みつけ、高々と跳躍するのはシル。
 刹那、白銀戦靴『シルフィード・シューズ』の羽がふわりと開き、まるで空を翔けるかのような飛び蹴りを見舞った。
「俺の道はおっぱいダイブ、そして落下と共にある!」
 蒼眞は残霊の小檻へおっぱいダイブして石英から蹴落とされるという一連の流れを再現。
 そのまま連斬兵の胸に頭から飛び込み、更には胸当てへ手を突っ込んで好き放題を始めた。
「今度のぉーブキはコレ! さーん、にー、いち…オープン・ユア・ハァァート!!」
 分解したオサレアイテムを機械腕へと変形させて、唸り輝かせながら発射するのはトリューム。
 細身の腰に組みついたHEART-CGは高圧電流を流し込み、遂に連斬兵の息の根を止めた。
「昼は悪の手先、夜は邪恋に耽る善人、その正体は属性てんこ盛り駄天使〜」
 ソールロッドは仲間の英雄譚——かどうか怪しいが即興で誰かを讃える歌を披露。
 前衛陣の傷を癒すと共に、彼らの異常耐性を高めた。
 残ったイリスを仕留めるべく、8人は攻撃の手を緩めない。
「やここのたりと。くさぐさ祓い清めし我が参道、脇目くれずに疾く来やるのじゃぞ?」
 比礼に似た尾を引く御業を弾丸に込めて、両手の拳銃でイリスを撃ち抜くのは括だ。
「キミ達の遣り方は人として生きてきた彼女達の頑張りを抹殺するだけで、救ってはいないんだよ」
 ユルはバスターライフルから凍結光線を浴びせて、イリスの熱と体力を奪う。
「さて、デウスエクスの方。貴方たちは人の法の外にいますから、遠慮はしません」
 冥府から召喚した水の塊を、イリスの頭目掛けて素早く叩きつけるのはみやび。
「私は貴方たちの行いに、死をもって報います」
 死者の声が染み込んだ冥府の海水はイリスの自由だけでなく、宣言通りにその命をも奪った。
「今ならまだ間に合うかも……」
 急いでアパートの外へ飛び出す8人。
「うぉぉぉぉぉぉっ!」
 彼らを待ち受けていたのはギアツィンスの大地も撼わす怒号であった。
 顔に傷持つ少女や兎耳の女の子が懸命に何か訴えようとしても、もはや『イリスの仇』を我が目で確かめたギアツィンスは聞く耳を持たず、黙れと撥ねつけるばかり。
「覚えていろよ、ケルベロス!」
 終いには悔しさに歯噛みしながらも決して背は向けずに飛び退った。
「いや、たとえ貴様らが忘れても、私が必ず思い出させてやる!」
 両の目から血の涙を流しても尚、捨て台詞を吐いては何度も地を蹴って撤退していく。
「必ずな!」
 怒りに我を忘れたようでいて、敵を背中を見せないのは彼女の最後の矜持だろうか。
 ケルベロス達はギアツィンスの足音を遠くに聞きつつ、互いの無事と葉菜の安否を確認しあった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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