血のにじむ特訓、舞い降りたのはヴァルキュリア

作者:ほむらもやし

●特訓は山奥で
 人里離れた山奥で、一人の男が、熱血マンガに影響を受けたような過激な特訓の日々を送っていた。
「ようし、やったぞ! ん、なんだこれは? ぬおう、誰か出てきたぞ!!」
 背中に縛りつけた丸太の重みに耐えながら絶壁を登りきった男が目にしたのは、渦を巻いて歪む空間、そして背中に光の翼をもつ鎧を纏った少女のような姿の妖精――ヴァルキュリアであった。
「すばらしい! すばらしいガッツです。ぜひ私たちの勇者になって下さい!!」
「よし分かった! 任せておけ!!」
「え、本当に良いんですか?」
 間髪を入れない即答に、ヴァルキュリアは自分の耳を疑い、思わず、聞き返してしまう。
「この伊吹一郎に二言はない。それから敢えて言わせてもらえば、君の抱きしめると折れてしまいそうな体や、無い胸もとても素晴らしいぞ、それに勇者っていうのも悪くない。熱い展開だしな」
 絶壁を登り終えて、最初に目にした胸の小さなヴァルキュリアは、彼の好みに、どストライクだったらしい。
「あはは、こんな私で良ければ、いくらでも抱きしめて下さっていいですよ。……では参りましょうか、勇者さまっ」
 
●事態は急を告げる
「……という感じで、ヴァルキュリアが『自分たちの勇者』として、一般人男性を連れ去ろうとしている」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、耳を傾けてくれたケルベロスたちに頭を下げると、現場は福岡県と大分県の境、日田から玖珠のあたりに広がる山岳地帯、人里離れた岩場であると告げる。
「連れ去られる男がどうされるのかは不明だが、指をくわえて見ているだけ、というわけには行かなだろう?」
 忘れていはいけないのは、敵対している相手が、何の落ち度もない一般人に、何をさせるかも告げずに連れ去ろうとしているという事実だ。
「それから、ヴァルキュリアの誘いに、頷いてしまった男性は、強い意思で約束を守ろうとする。普通に説得するだけでは、決意を変えさせることは困難だ。その上、説得しようとすれば、当然ヴァルキュリアも黙っては見ていない。男性の意思を変えさせないように、懇願する行動を惜しまないから、充分に注意していただきたい」
 説得に成功すれば、ヴァルキュリアは撤退するため、戦わずして、男性の連れ去りを阻止することができる。
 だが説得に失敗した場合、連れ去りを阻止するには、ヴァルキュリアを撃破するしかない。
「説得に重きを置くにしても、戦闘に重きを置くにしても、方針は現場で実際に行動する、あなた方が決めて置いてほしい」
 見た目は可憐だが、戦いとなれば、このヴァルキュリアは強い。
 充分な戦いへの備えがなければ、敗北する可能性もある。
「今回のヴァルキュリアの特徴は動きの速さと攻撃の苛烈さだ。ヴァルキュリアの槍を駆使した戦闘術は、単体へはもちろん、列への攻撃も決まれば、相当の痛手となる」
 他にも、自己回復も持っているから、勢いだけで一気呵成に倒すのは難しいと思われる。
「それにしても対象の男が、貧乳フェチとは……困りますわね」
 話を聞いた、ナオミ・グリーンハート(地球人の刀剣士・en0078)は胸の下で腕を組むと、しばし困り果てた顔を見せてから、表情を引き締める。
「状況は厳しそうですわ。でも、きっと何とかできる方法があるはずですわ」


参加者
三和・悠仁(憎悪の種・e00349)
村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)
貴石・連(砂礫降る・e01343)
キシュカ・ノース(眼鏡のウェアライダー・e02557)
アップル・ウィナー(レプリカントの降魔拳士・e04569)
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)
フォルトゥナ・コリス(運命の輪・e07602)
安詮院・薊(透明の・e10680)

■リプレイ

●説得開始
「その契約、ちょーっと待ったです!」
 崖を登り終えた、村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)の声が響き渡る。
「む、何か用か? 眼鏡のエルフ!」
「私の名前は、村雨・ベルです。いきなり眼鏡のエルフとは失礼でしょう!」
 特訓男子の熱苦しい雰囲気に心ならずも影響され、うっかり言い返してしまったが、ヴァルキュリアが怖い目つきでこっちを見ているので、取り繕うように作り笑顔を見せ、敵意がないことを示す。
「良い笑顔だ。だが、このドラマチックな勇者誕生の瞬間に、水を差すというのも、いかがなものかな?」
「名乗られても、名乗り返さないというのも、どうかと思います」
「む。これは一本とられた。ならば冥土の土産に聞かせてやる。我が名は勇者、伊吹一郎!」
「冥土とは、どういう意味ですか、聞き捨てなりません、そもそも冥土とは死後に行く世界のこと、意味を分かっているのですか、分かっているのかといえば、そこのつるぺたの彼女についてゆけば、何をさせられるのか知っているのですか?」
 ベルも勇者とされた者が、どのような運命になるかについては正確に知らない。だが一郎が、弱い者を守るヒーローに憧れているのだとすれば、説得の突破口になるかもしれない。
「なんだ、そんなことも知らないのか? 勇者は強くてかっこいいに決まっているだろう!」
 全然答えになっていなかったが、魔道に堕ちたと称する頭脳を駆使して思考し、瞬時に帳尻を合わせながら言葉を続ける。
「スバラシイデス、一郎さん。あなたはテストに合格しました。そんな心がけでいるというのなら私たち、ケルベロスが協力を惜しみません。共にか弱い女子を守るヒーローになりませんか?」
 乳の美しさを強調するように胸の下で腕を組み、一瞬口調が変になったが、即座に修正し、何かの組織の美人秘書のようにベルは告げる。そして前に進んで、一郎の手を取ると、それを胸の谷間へ挿し入れさせる。たいていの男であれば、堕とされてしまうところだったが、一郎は即座に首を横に振る。
「せっかくの申し出だが、俺はこちらの胸のない子の勇者になるんだ」
 言いながら、谷間から手を引き抜き、反対側の手にすがりつく、ヴァルキュリアをわざとらしく抱擁する。
「だいじょうぶ。眼鏡のおばさんの言いなりにはならない」
「な、なんですと……?!」
 巨乳のよさに目覚めさせようと、恥も外聞もかなぐり捨てた、捨て身のパフォーマンスであったため、そのショックは計り知れない。そして勝ち誇ったような目線を向けながら、ぺったりと一郎に抱きついている、ヴァルキュリアを見ていると、無性に悔しくなってきて、もう一度その腕を引っ張り寄せようと、にじり寄るように前に進む。

「まあまあ、ベルさんは落ち着いて下さい!」
 瞬間、その間に割り込むように入ってきたのは、バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)。とりあえず、暴れだしそうなベルへの対応は、ナオミ・グリーンハート(地球人の刀剣士・en0078)に任せて、言葉を続ける。
「はい、そこのお兄さん! 胸の無い女性がお好きなのでしょうか? 私だって胸の無い部類に入ると思いますけど、私では不服でしょうか?」
 女声を駆使して、言いながら、腰や胸板の薄さを強調するように可愛らしくポーズを取り、にっこりと笑顔を作ってウィンクしてみせる。
「不服だ!」
「え? よく聞こえなかったのですが……」
 一郎の即答に、バジルの表情が、驚きの色に染まる。
「だって、君、男じゃないか!」
 バレるはずのない、バレないようにした、完璧な女装のはずだった。
 実際一般的なの女の子よりも可愛らしく見える。声も仕草も完璧に演じ切っているし。なのに。どうして、こんな熱苦しい男に見破られるのか、そう考えると、ふつふつと情けなさと怒りが湧き上がってくる。
「なぜ、そう言い切れるのですか?」
 地底深くに溜まるマグマの如き怒りを孕んだ声で、バジルはゆっくりと問い返す。説得には関係なさそうな気もするが、女の子として説得しているのだから、これも説得の一部である。
「ふっ、分かっていないようだな。君のように、完璧に、可愛らしすぎる子が、女の子であるはずが無かろう」
「うっ……」
 その瞬間、バジルは、一郎の言わんとすることを理解した。
 男でも女の子よりも上手に女性のキャラのコスプレをすることはできる。それはあくまでも女性のキャラであって、日常にいる女性とは別の次元の存在なのだ。
「毎日観察していると分かるのだが、貧乳の子の胸が、たまに不自然に膨らんで見えることがあるんだ。たぶん特別な下着を着けているか、パットを入れているかだろう……」
 つまり、人間の女の子とは、どこか至らない部分を持っている。それを不器用に補おうとしたり、意図に反して露になってしまうから、そこにしびれたり、萌えを感じたりする。だがバジルの女装は見た目や仕草は洗練されているものの、巧み過ぎたがゆえに、かえってあざとく見えてしまったのかもしれない。
「だが、少年、君の女装も、大変素晴らしかった。こんな場所での出会いでなければ、見抜けなかったかもしれないな」
「でも、そこのヴァルキュリアに手を貸すということは、あなたの大好きな、本物のつるぺたの女の子をも敵に回すことになりますけど。それでも宜しいのでしょうか?」
 バジルの言葉に一瞬、戸惑いを見せた一郎であったが、刹那の逡巡の後に、きっぱりと返した。
「そうなるとは言い切れんだろう?」
「あのう。一郎さん。そろそろ参りませんか?」
「おお、貧乳の女神よ。今は、男同士の大事な話をしているところだから、待っていてはくれないか?」
「……うう、わかりましたよう。でも絶対に心変わりしたとか、言わないで下さいよ」
 一郎の迷いを感じ取って、なんだか嫌な予感しかしないと言った感じに眉毛を『へ』の字に下げて、ヴァルキュリアが情けない表情で懇願する。

(「とりあえず、話ができる状況に持ち込んだのは、僥倖でしょうか、でも、ピントがずれていると言うか、つかみどころがありませんね」)
 様子見を決め込みつつ、攻略法を考えていた、キシュカ・ノース(眼鏡のウェアライダー・e02557)の目線が、一郎と交わる。
「そこの眼鏡の女も何か言いたげだな?」
 とりあえず、手を振って反応を見定めつつ、
「あ、はい? うーん。ぶっちゃけ、何のためにこんな特訓をしているのですか?」
「ケンカに勝って、好きな女の子を勝ち取るために決まっているだろう!」
「へー、そうなのですか? それじゃ、その子を差し置いて、そこのヴァルキュリアと旅立っても、問題ないわけですか?」
 無造作に揚げ足をとって返した言葉だったが、電撃を受けたように、一郎の表情が硬直する。
 その心の動揺を、感じ取ったキシュカが、好機とばかりに言葉を続けようとした瞬間、
「一郎! しっかりして、眼鏡っ子の色香なんかにだまされないで!」
「お、おう、心配するな、男は簡単には約束を違えない」
 落とすには、一押し足りなかったかと、キシュカは舌打ちする。
 ベルへの反応などから、判断すれば、色香を交えて、押し続けたとしても効果は薄いだろう。ただし、特訓の動機が分かったのは大きいと総括して、キシュカは口を閉じる。
「……にしても。こいつも純情な男をたぶらかして悪いやつだね、どうも」
 沈黙、そして誰に言うわけでもなくボソリと漏らしたのは、安詮院・薊(透明の・e10680)。
「何だと? 俺はたぶらかされてなんていないぞ!」
「やれやれ。因みにお前、そこのヴァルキュリアが、何をさせようとしているのか知っているのか?」
「勇者だ!」
 肩を竦めて言い放つ薊の、斜に構えた態度に、一郎はムッとした視線を向けて来る。
「そうだ。勇者――英雄になる、ということが、どういうことか、実際にどういうことになるか……お前は分かっているのだろうな? 分かっていないなら、辞めたほうが懸命だ」
「ご忠告ありがとう。だが、心配無用だ」
 一郎の誇らしげな様子を見れば、大観衆に声援で迎えられるような華々しさや、このヴァルキュリアと共に苦難を乗り越えるようなイメージを抱いていることは、聞くまでもなく直感できる。
 だが多くを語っても、自分では説得には寄与できないと、早々と判断した、薊は口を閉じて、まるで戦いに備えるように、周囲の地形に視線を巡らせる。

 時折、一郎の心を揺さぶることには成功していたが、ヴァルキュリアによる懇願は強力で、心変わりには至っておらず、説得は決め手を欠くままに、終わりのない泥沼のような長期戦の様相を見せ始めていた

「一郎お兄ちゃん。顔色が良くないよ? お水、いかがですか?」
 ムードに合わせて口調も穏やかに変えつつ、アップル・ウィナー(レプリカントの降魔拳士・e04569)は、コップに水筒の水を注ぎ入れながら、ゆっくりとした足取りで一郎に近づき、大きく男らしい手にコップを握らせた。
「傷だらけの手、いままでずっとひとりで、すごくハードな特訓をしていたんだね」
「ありがとう! いやあ、それほどでも……あるぞ」
 ちょうど喉が渇いていたと、水を飲み干した、一郎の顔が、晴れやかな笑みで満ちる。その笑顔は人里離れた山奥で、この世に存在することすら忘れていた女の子の優しさや気遣いを実感した喜びに満ち溢れていた。本来であれば、水を与えただけに留まらない好印象となるところだったが、それを意識していなかったところが悔やまれる。
「お兄ちゃんは、ヒーローになりたいのでしょう。戦う術を持たない女の子を守るヒーローじゃないの?」
「まったくその通りだな」
「確かに、好いた女子を勝ち取るため、それほどまでに、己に厳しくあることが出来る姿、私も尊敬に値すると思っていました」
 会話の流れに合わせて、三和・悠仁(憎悪の種・e00349)は、同じ男性の立場からみた、見解を告げると、一郎も素直に褒められてうれしいと言った感じで、表情をほころばせる。
「でも、そこのヴァルキュリアと一緒に行くことは、侵略者の側に着くことですからね」
 過日の鎌倉での戦いの話を引き合いに、一般人にもわかるように、悠仁は自分自身の認識している、ヴァルキュリアとエインヘリアルの関係性について告げる。
「つまり、俺の思っている勇者と、君の言う勇者には違いがあるということか?」
 死者の魂から、エインヘリアルを導くなど、一郎にとってはにわかには信じがたい話ではあり、加えて、ヴァルキュリアの言う勇者がどのようなものかに不明であり、一郎が連れていかれた後にどうなるかについては不明であるため、今現在、自分の意思で喋り行動できている一郎が、自分の意思に反して侵略者になってしまうということに、リアリティを感じることはできなかった。
「それでも、勇者になりたいというのなら――」
「ああ、戦場であうときは、お互いに正々堂々、全力で戦おうぞ!」
 結果、アップルも悠仁も、一郎から、かなりの好感を得たにも関わらず、説得は不調に終わってしまう。
 本当に説得は可能なのだろうか? ダメならヴァルキュリアを倒すしかない。そんな緊張した空気すら漂い始めていた。
「まあ、ボクだって、皆の足を引っ張らない程度には、やれるよ」
「困ったときは、仰って下さいっす。……言われなくても、ヒールは掛けるっすよ」
 そんな戦いの気配を敏感に察知して、応援に駆けつけてくれた、アシュリー・ウィルクス(幻異・e00224)と、漆黒の髪に赤い瞳を持つ、シャドウエルフの2人が、ひそかに布陣する。

 戦いへの備えが進む一方で、まだ何か手があるはずだ。諦めるのは、やれることを全てやってからと、大部分の者が説得を続けている。
「まって、そんな軽い気持ちのままで、勇者になったら、本当に、次回予告。『伊吹一郎死す』になっちゃうよ」
 ここまで口を閉ざしていた、フォルトゥナ・コリス(運命の輪・e07602)が、懸命な声を上げる。
「美しいお姉さん。心配してくれてありがとう。だがこの伊吹一郎は簡単には死なない」
「それでも、お願い、行かないで伊吹君! あなたが今行ってしまったら、残された家族や友だちは、どうなるの?」
「しかし、男子たるもの、志のために故郷を離れるべきこともある」
「誰のための志よ。みんなとの繋がりは、まだ残ってるでしょう。特訓が終わったら帰るつもりなんでしょう。引き返すのだって勇気でしょう。生きてさえいれば、どんな夢だって叶えられるチャンスはあるんだから!」
 フォルトゥナの容姿は確かに一郎の好みにストライクであったが、それだけで心変わりをすることはあり得ない。なぜならば、ヴァルキュリアも同等の容姿を持っているのだから。
「わかったわ、でも、一郎さん、ストップ! その勧誘に乗ったら、人間として終わりよ!」
 貧乳フェチ――嫌な予感しかしない相手故に、最後まで口を閉ざしていた、貴石・連(砂礫降る・e01343)が涙ぐましい覚悟を小さな胸に抱いて口を開く。
「いいですか? そこにいる、ヴァルキュリアが必要としてるのは、あなたじゃなく、あなたの『魂』だけなんだから」
「さっきの青年が言っていた、エインヘリアルとやらのことか」
 先ほどの悠仁の説明を思い起こしつつ、一郎は返す。
「ハッキリとしたことは分からないけど、とにかく碌なことにはならないのは確かよ」
「戦いの定めを背負う勇者か……それはそれでカッコいいかもしれんな」
 ここまでの反応は今までのやり取りから、予想済み。だが、連は先に、一郎が特訓の動機を打ち明けていたことを見逃していない。
「強くなってから、お付き合いたい相手がいたんじゃないの?」
「む、なぜそれを」
「他人に、勇者にしてもらって、手に入れた力なんかで、自信をもって、彼女に告白なんてできるのかしら?」
 事前の限られた情報の中から『告白したい相手』の存在を見抜いていた、連にとって、一郎の浅はかな打算を見抜くことなど造作もないことであった。
「うぐぐ……これでは俺が卑怯者になってしまうじゃないか」
 直後、一郎は、苦しそうな、うめき声と共に、両膝を地について頭抱える。
「しっかりしてください。勇者さまっ、どうしたのですか?」
 打算を否定できない時点で、一郎の説得は完全に成功したのだった。

●説得終わって
「すまない。君の申し出は、とてもうれしいのだが、これだけたくさんの人に引き留められては、ついてゆくわけには行かない」
 頭を抱えたままの姿勢から、一郎は渾身の力を込めて、地面に額を叩きつけ、土下座スタイルで謝罪した。
「一郎さんが、そう決めたのなら、それでいいですよ。気にしないでいいですから、頭、上げて下さいね」
 誠意を感じたのか、がっかりしたのかは不明だが、穏やかに応じるヴァルキュリア。
「本当にすまない」
「ですから、もういいですってば!」
「声を掛けてくれてありがとう! さらばだ。ヴァルキュリアの女神よ。俺もがんばるよ!」
 言いながら、連の身体を背後から抱き寄せるようにして、両手でその胸のあたりに手を当てる。
「なにするのよ! このエッチ!! うう、ベッカにもまだ触ってもらったことないのに……」
 確かに、服越しに触られる覚悟まではしていたが、説得が終わった今、お触りさせる義理はないとばかりに、連のパンチが唸る。
「おお、いいパンチだったぜ。目が醒めたぜ」
 悪びれもせずに立ち上がる様子に、怒る気も失せる。
「はい、これでも飲んで元気だしてなの」
 そして、フォルトゥナは控えめな胸元から、取り出したドリンクを差し出すと、一郎は大はしゃぎ。
 そんな、ケルベロスらと一郎のカオスだが、楽しげな様子をみながら、ヴァルキュリアは、ほんの短い間、不思議な微笑みを向けて、切なげに首を横に振った。結局ケルベロスたちの言葉には何一つまともに応えないままに。
 誰もが会話を諦める中、ベルが最後とばかりに疑問を投げつける。
「まって……よかったら、なぜ勇者が必要なのか教えてはもらえませんか?」
 やはり、その言葉に応えることなく、ヴァルキュリアは黙ったまま、数秒、顔をジーッっと見返すのみ。
 だが。
「……もしかしたら、あなたたちこそが、私の求める勇者だったのかもしれませんね」
 複雑な表情を浮かべ、ヴァルキュリアはそれだけ言うと、姿を消す。
「私たちが勇者? どういう意味ですかね」
「解釈は様々にできますが……漠然として分かりません」
 疑問は残ったが、ターゲットの連れ去りを阻止し、理想的といえる形で成し遂げた一行の胸に安堵が訪れる。
「なんて偶然かしら? 山に遊びに来たら事件が起こっていたなんで、びっくりなの」
 そして帰り支度を始めた、一行の前に、人懐っこい声と共に、フィア・ルシフェリア(星の記憶と歩む少女・e19823)が現れる。同時に、ドリンクで元気いっぱいになった一郎が駆け寄る。
「おおう、素晴らしい。ここは危険だ。さあ、お兄さんと一緒におうちに帰ろう!」
 もしかすると、この男だけは、ずっと山籠もりをさせておいた方が、世のため人のためだったかもしれない。
 とんでもない男を助けてしまったかも、そんな複雑な思いを胸に、でも晴れやかな表情で、ケルベロスたちは一郎と共に街の方を目指して、山を降り始めるのであった。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年11月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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