時を導くのはそれぞれの人生

作者:ほむらもやし

●風の谷の時計工房
 機械式時計を専業とする、頑固者の時計工房がある。
 時計台の針が朝4時を指す。
 工房では昔から時を刻み続けていた古い時計たちが目覚めの時を告げ始める。
 壁に掛けた時計も芸術品のような柱時計も、みな元気に4時を指した。
 みな手入れをしなければ動かなくなってしまう繊細な時計だけど、愛して手入れしてくれる人がいる限り、動き続けることが出来る。

 ここはあなたの時を刻む機械を作る場所。
 いらっしゃいませ。自分だけの時間をお望みなら、いつでもお越し下さい。
 あなたが生まれた年に作られた歯車をご用意してお待ちしています。
 締め切り、納期、ノルマ、定時。
 いつから人は標準化された時間に管理されるようになったのだろう。
 あなたの時間はもっと自由なはずなのに。

「諏訪市にある時計工房がデウスエクスの襲撃を受けた」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)はあなた方ケルベロスに告げる。
 破壊されたのは工房のシンボルである時計台の発電機を回すための水路まわり。
 工房や時計台は無傷だったものの、人手も少なく、儲かっているとは言えない工房には直ぐに水路を直せる力は無い。
「……というわけで、手を貸してくれないかな?」
 水路を修復して、水がちゃんと流れるようになればできると、ケンジは言う。
「電気なら買った方が便利なのだけど、自分たちで作った電気を使いたいそうだ」
 心意気を評価するか難儀な人たちと考えるのかは人による。
 ヒール作業が終われば風の谷の散歩を出来る。
 山は秋の訪れが早い。
 今なら諏訪湖を臨む絶景を色づき始めた森の色と共に楽める。
 工房のワークショップでは自分で考えた時計をデザインできる。職人は気難しいから無理なものは無理だとハッキリ言うけれど、上手く行けばあなただけの時計が出来るかも知れない。
「え、僕の時計かい? よく遅れるから直せればいいのだけど……」
 ヒールを終えた後、ひと足早い秋の深まりをどのように楽しむかはあなた方次第。
 どうかこの日が良いものとなりますように。


■リプレイ

●序
 確りと気持ちの籠もったヒールが満天の星空が地上現れた様な幻想的な風景を作り出す。
 倒れ伏した首長竜が蘇るように破壊し尽くされた水路が修復される。だらしなく斜面を下るだけだった水流に秩序が戻った。
「如何かしら? これが私たちの出来る精一杯よ」
 相手は気難しいと拘りたち、その凛然とした生き様に思いを巡らせて、カーム・コンフィデンス(静かなる自信と共に・e00126)は精一杯の敬意を込めた。
「完璧です。ケルベロスさまありがとうございます!」
 白い水飛沫を上げながら水路に水が流れる様子を見て工房主も職人たちも満面の笑みを浮かべる。そして心の底からの感謝を込めるように深々と頭を下げた。
 自分たちでもやろうとしたけれど力が足りずに修復が出来ていなかった。正直な状況を打ち明けて、精一杯のおもてなしをさせて頂きたいと言う。
 かくして水路に導かれた水は動力と変わる。
 発電機が安定して動くまでに少し時間が掛かるが、是非工房にも立ち寄って欲しいと工房主は告げる。
「それじゃあ、ゆっくり歩いて行こうよ」
 玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)に声を掛け、新条・あかり(点灯夫・e04291)は歩き出す。
 差し出された小さな手が紅葉のイメージと重なって見えて大切にしなければいけない宝物の様に見えた。
 工房までの道のりはゆっくり歩いても30分ほど。
 連れ立って歩く者、ひとりで向かう者、動き方は様々だが目的地は同じ。
「ケンジさんも、いつもヘリオライダーの仕事お疲れ様です。ところでどんな時計をお願いするのですか?」
「僕はこれかな」
 バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)に応じて、ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)がポケットから取り出したのは文字盤の見やすさに特徴がある懐中時計。鉄道時計と呼ばれるものに似ている。
「随分長く使われているようですね」
「戦場は何が起こるか分からないからね。枯れた技術の方が安心だよ。微妙に遅れることもあるが」
 完璧で無くともある程度正しく動く時計さえあれば、誰とも全く連絡が取れない様な窮地にあっても時間を基準にできる。だいたい時間はどこでも同時に進んで行くものだから。
「へえそうなんですか。それでオーバーホールをされるのですね」
 小難しい話に付き合ってくれてありがとう。そうバジルに返しとケンジは上を見上げる。
 工房の時計台の鐘が鳴る音が聞こえた。

●祝、営業再開
 工房の中は前もっての話通り几帳面さを感じさせる空間デザインだった。
 ショールームと製作スペース、こぢんまりとしたホールにテラス、訪れたケルベロスたちが集まるにはちょうど良い広さだった。
 金属の歯車や針、目に見えないほどの精密なねじ、文字盤、宝石の様に透き通った板状の素材、名前も分からない機能も想像出来ない様な部品の数々が見える。
 純粋な好奇心から、交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592)は幼い少年の様に瞳を輝かせる。
「できるだけ頑丈な時計が欲しいのです。出来ますか?」
 今身につけているものは頂いて早々に壊してしまった苦い思い出がある品。地球に来てから貰った大切な品ではあるが、これからも戦いの中で使い続けるには不安がある。
 それに生まれた年の歯車ってロマンチックで素敵だから、思い切って新調したい。
 とびきり頑丈なのもOKだと告げると、腕組みで傾げ顔の、エリアス・アンカー(ひだまりの防人・e50581)が話しに参加してくる。
「俺は腕時計は頑丈なデジタル派、機械式についてはからっきしだ。機械式の何が良いのか色々教えてもらおうか?」
 まず電池が不要。自動巻きは腕や身体の動きを、ゼンマイ巻きのエネルギーに変える。磁気に強く低温や高温、過酷な状況で使うなら電気回路に依存しない機械式はリスクを低減できる。
 無論直接衝撃を与えるなら機械式では無い方が強さでは勝るだろうが、時計の役目は基準に近い時間を刻むこと。そして此処で作れるのは機械式だけと職人は言う。
 エリアスは思案顔の麗威を見遣り、こういうのはどうかと作例アルバムの写真を指し示す。
 文字盤はビッグフェイスのスタイルで、数字フォントや時間を示す針は視認性良くと言う感じ。但しビッグフェイスはベゼルを薄くする場合が多いため強度面の懸念が出る。職人はそのあたりを擦り合わせようと言ってくる。
「なるほどデザインは機能も兼ねるのだな」
 麗威は頷きつつ、着けていた時計を外す。
 白基調のテイストはそのままに文字盤は黒、針を金と銀、秒針を灰色にする。今まで時を刻んできた時計を継ぐ証にしたいと言えば、職人はメモ書きのスケッチを拵えて、それを元に麗威とエリアス、時計職人の3人でさらにデザインを詰めて行く。
「すごい迷うけど、ベルトは革もいいよなァ」
 革の素材感は時計のメタリック感を和らげる。ガラス面の光沢が目立つビッグフェイスの文字盤と組み合わせるなら革は自然な選択だし、カラーリングも自由だ。紅葉の季節をイメージした赤や黄も選べれば、文字盤の色に合わせた白や黒のモノトーンでも良いだろう。艶を持たせるかつや消しにするかステッチを入れるか入れないかでも印象は異なる。
「――矢張り今使っている時計のベルトを使えないかな?」
 思い入れのある贈り物だからと告げれば、ベルトの幅に合わせて職人はデザイン画を作り直す。
「思いつきで決めてるわけじゃないんだな」
 そのやりとりを見ながら、腕組みをしたままエリアスは頷く。
 このような職人の作った物と考えれば、物は長く大事に使うのは当たり前のことと思えた。
 心臓部に使う歯車の一つはもちろん誕生年に作られたとされる物、オウガとして定命化した現在、あとどれだけの時間を生きられるかは想像もつかないけれど、これから思い出を丁寧に記憶に刻んで行きたいと笑顔を見せる。
「今日は付き合ってくれてありがとうな?」
「俺も面白いものを見せて貰ったぜ」
 応じてエリアスは麗威の肩に軽く拳を当てる。

●並行する時間
「あたしの贈った腕時計、大事にしてくれてるんだね……嬉しいな」
 ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)は、水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)の手首を見てパッと目を輝かせた。
「そのよ。おかげさまというか、この年になって、時間の大切さってのが、身に染みて解るようになったよ」
「ほんと?」
「本当だぜ。ヴィヴィアンと一緒にいる様になってから、沢山の時間を刻んできたけど……。ただ、最近よ、ちょっと、怖くなってな」
「こわいってなに?」
 深く考えずに言った。
 しかし怖いという言葉の持つネガティブな意味合いからかヴィヴィアンの顔色が悪くなる。
 ……あれ、気まずい?
「いや、ここの所、時間が過ぎるのが、早くなってる様な気がして……。どんな時でも、時間を確認できるようにしたいんだ。ひょっとしたら、俺の周りを流れる時間だけ、凄く早く過ぎていて、一人だけ、取り残されてるんじゃないかって思えてな」
 だから新しい懐中時計が欲しいと思っていた。激しい戦いの中でも、過酷な状況でも壊れることも無く、常に時を知ることが出来るように。
 今も日本のどこかでデウスエクスと戦っている者がいて、戦禍に住み処を追われた人たちが苦しんでいる。考えたくも無いが、自身やヴィヴィアンも戦いの中で命を落とす可能性は常にある。
「……鬼人は一人じゃないよ。たとえ世界に取り残されたとしても、もし世界の最後の一人になったとしても……あたしはちゃんと鬼人と同じ時間の中にいるから」
 歳月を経ても変わることなく共に時を刻みたい。願いよりも強い祈りを込めて2人は時計を求める。
 鬼人が望むのは、シンプルな形の銀の懐中時計。開閉式の蓋の写真入れの中には大切な人の写真が入れる。どんなに過酷な状況でも決して止まらず、大切な人と同じ時を刻み続ける。
 一方、ヴィヴィアンが言うのは月と薔薇をあしらった置き時計。
 月は変わらずに巡る時を、薔薇は咲き散りを繰り返す、生命の象徴だろうか。
 いつも傍らに、或いは二人が帰るべき場所に在ってヴィヴィアンと鬼人が共に刻む時間を見守り続ける。
 そう締めくくってヴィヴィアンが掌中に取り出したのは愛用の懐中時計。
「これは良く手入れされていますね」
 そのレベルひとつとっても気に懸けて大切にしているかは分かる。
 その思いに釣り合う様、確かな物を作ってみせる。二人の心臓の音と同じように生きた時を刻めるようにと、職人は全力を尽くすと約束する。
「ではデザインはその様に針にはお二人の誕生年に作られたものをそれぞれ使いましょう」
 瞳を細めるヴィヴィアンの掌に懐中時計が戻される。2年前のクリスマスから共に時を刻み始めた、鬼人から貰った大切な懐中時計。
「これからは、何時でも同じ時を感じられるな」
 体温を感じられるほどに身体を近づける鬼人、場所を忘れて二人の温かな世界に酔い痴れそうになる。
 時計が完成したら、また時を重ねよう。

●止めたままの時間
 陣内にはかねてより気になっていることがあった。
 あかりが肌身離さず持っている懐中時計が、まだ幼く小さな手には余る大きさであることだ。
 しかもそれが時を止めたまま、いつも同じ時間を指している違和感。
 修理しないでいるのには、きっと理由がある。
 初めて気づいた時も、軽い気持ちで触れてはいけないと思って何も言わずにいた。
 あかりがそこに込めているのは、恐らくは俺にも痛いほどわかる祈りだ。
 想像していたように――。
 普通に歩けば、そんなに時間が掛からない工房までの道のりをたっぷりと時間を掛けてやって来た。
 しかし、あかりは今、自分で時計工房の扉を開けようとしている。
 歩みを遅くしても、歩き続ければいつかは目的地に着く。
「直してもらったらどうかな。――お父さんの時計」
「……そう、だね」
 僕の手には大きすぎる、この時計は「あの日」から止まったまま。
 修理することもせずに、それでも身に付けていたのは、
 いつか又あの愛おしい日々を取り戻せるようにと、
 あるはずだった続きの時間を、止めてさえいれば、そこから再開できる気がして、
 ずっとずっと祈り願っていたから。
 でも恐らく、それはもう永遠に叶わないから。
 振り向く刹那、憂いを孕みつつも、優しく細められた深い翠色の両眸が見えた。
 いつも傍にいて、
 千年先まで一緒だと呟いて、
 一緒に手を汚してくれたひと。
 もしお父さんが此処に居たら何と言うだろうか、思いを巡らせて、前を向き直し工房の中へと進む。
 あかりの決意は愛しい時間と決別するためじゃない。
 大好きなお父さんだった人がのこしてくれた時計と、これから先の時間を一緒に過ごすためのもの。
 ――僕も一緒に歩みたい。
 一歩ずつでも前へ。
 触り慣れた感触を確かめるように、時計の鏡面をもう一度撫でる。
(「さようなら、僕のおとうさんだったひと」)
 あかりは大きく深呼吸をしてから工房内を見渡した。そして気難しそうな職人に声を掛ける。
 止まった時間が再び動き出せば困難にもぶつかるだろう。
 だけど、立ち止まっていては見ることが出来なかった地平には見知らぬ希望もある。
 そんなあかりの様子を見守りながら、陣内は思う。
 ……とても陳腐すぎるから口にできやしないけど。
(「お父さんだった人がいたから、君はここにいるんだ。だから『彼は、君の中に生きている』」)
 時計の修理には調査が必要なため、時間を要する。
 修理を終えるまでには最短でも一週間以上、大切な時計を長いこと預かることになって申し訳ないと、職人は深々と頭を下げた。

●至高の工芸
 外観は銀地の懐中時計だが、天体図柄の蓋を開くと濃紺に銀を散らした夜空の文字盤。
 中央には北極星イメージの淡い青石。
 12と6の位置に満月と新月を置き、それぞれへと至る満ち欠けを数字代わりに配し、
 金の長針短針と銀の秒針の巡る――こんな一品。
 カームの要望には職人技だけでは無く美術的な技も必要で複数の職人が手がけることとなった。
「私にとって世界は月の様なものよ」
 ハッキリとした声で語るカームの一言一句をメモに書き留めながら、職人は文字盤の中心に北極星をあしらうならば、蓋の裏側には南天を描いてみますかと返してくる。
 北半球の星座がギリシャ神話に因むものが多いのに対して、南側は大航海時代以降に名付けられた影響か動物や鳥の名前が多い。意匠の統一性を鑑みるならどうか、思案を重ねてカームは考えを返す。
「細かい所も大事だけど、満ち欠けを繰り返しながら都度積りゆく様々なものを糧に日々を歩みゆく。……そんな巡りの象徴として、月のイメージに重きを置きたいの」
 込められた思いが本物なら応える職人も本気だ。耐光性を考慮して有機染料の色料は避ける。貴重な天然鉱石由来の顔料を選ぶ。千年の時を刻んでも色あせることが無いように。
「ありがとう。最高の物ができそうね」
 技術の粋を反映すると職人は約束する。整備方法については磨き方とベルトの交換ぐらい。
 但し青色顔料に硫黄と化学反応しやすい弱点がある。コーティングはするが決して硫化ガスや温泉水のような硫化物を含むものに晒してはいけないと念を押した。
「承知したわ。共に時や想いを終の刻まで分かち合ってくれる子。……叶えてくれそうね」

●シンプルの美学
「時計のデザインを考えるのは初めてですので、よろしくお願いします」
「それでは腕時計にしましょうか、それとも懐中時計にしますか、他にも色々できますよ」
 バジルに応対するのは工房に2人いる女性の職人のひとり。
 仕様的に作れるのなら何を受けても良いと工房主から言われているらしく大張り切りである。
 後ろに束ねた赤髪に勝ち気そうな青い瞳、やけに元気でノリが良い様子に、古い知り合いの姿を思い出すような気がした。
「色々種類があるのですね、それではこれにします」
 製品のサンプル写真を纏めたアルバムを一通り繰り、バジルは心惹かれた物を指さすと持参した四つ折りの紙を開いて差し出した。
「春らしい素敵な絵ですね」
 職人の言葉に少し照れくさそうにはにかみで返しつつ続ける。
「文字盤にはこんな感じの桜の花柄をあしらって、綺麗な感じにできますか? シンプルな感じが良いです」
 職人はそんなバジルの紫の瞳を何度も見返しながらメモをとり、机上に広げた図案を元に仕様を整理して行く。
 ケルベロスが使うものだから、多少のことでは壊れないのは必須。
「実際に作るとそうなるのですね。それでは、お願いできますでしょうか?」
「おまかせください!」
 電子機器が動作を停止させられる過酷な環境下でも、公差範囲での動作を保証すると職人は平坦な胸を張る。

●ものづくりの深部
「小さな時計を作るのに、こんなに大がかりな機械を使うのだな」
 麗威と共に工房の中を見回っていた、エリアスが少し驚いたような声を上げる。
 工房主曰く、外注にすれば、幾何公差の都合上高くつきすぎるので自前でするようになったとか。
 歯車や針のような汎用部品はストックできるが、ベゼルや外装のような部品は二次元/三次元CADで設計しNC制御のマシニングセンタによって切削する。
 伝統的な手作業であれば何ヶ月も何年もかかっていた機械時計の製作が、デザイン・設計した時計をしてなお数週間程度で完成品出来るのには工作技術と機械の進歩があってこそ。
 反面、修理に関しては構造の解析もあるため、原因の特定に時間が掛かる場合は時間もかかると言う。
「ものを作るってこういうことなんだね」
 修理に時間が掛かると聞いて少し複雑な心持ちだったあかりも、その正確な理由を知ることが出来た。
 外装だけそのままに、大量生産された基板をそっくり入れ替えるだけの修理とは違う。
(「『おかえり』を言うのは、まだ先になりそうだな」)
 陣内は思わざるを得なかった。だから。あかりの時計が無い間は、動かなかった時間に「さよなら」を告げる為の準備期間にしよう。それは、これから先、長い歳月を共に過ごす為に大切な時間になるだろう。
「……と言うことは、あの時計台の部品も全部あなた方が作ったということね」
 カームのツッコミに、勿論だともと、工房主は頷き、好奇心のままに色々作り続ける人生だったと照れくさそうに後頭部を掻いた。
 加齢により時間が早く過ぎるように感じるのは、新しい感動体験が少なくなるからとも言われる。
「俺だってもっと新しいことに目を向ければ、時間が早いなんて、気にならないかも知れないな」
「今だって充分、これからも一緒に作って行こうよ」
「これからもよろしくな」
 ヴィヴィアンと共に過ごす今も初めての時間だ。鬼人はそれに気がついた。

 人生は長い歴史の時間で見れば水面に浮かぶうたかたのようなもの。
 浮かんでは消えるを際限なく繰り返している。
 数十億年を超える地球の時間と比較すれば十年など泡が弾ける刹那にも満たないだろう。
 だけどその刹那に他には無い自分の物語がある。
 陽は暮れて、湖に吹き下ろす風は強さを増している。
 どんなに強い向かい風でも、その先に希望があるなら立ち向かいたくなる。
 強すぎる風に打たれて笑うのは、そういう時かも知れない。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月7日
難度:易しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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