人気者になりたい

作者:八幡

●怠惰と不満
 薄暗い、脱ぎ捨てた服や読み捨てた本などが散乱する部屋の中。
 だらだらと布団の上に寝転びながらスマートフォンを操作する女がいた。
 スマートフォンの画面に映るのは美味しそうな料理を囲む人々の幸せに満ちた写真。その中心に居るらしい人の投稿。
「くだらない話題ばかり……」
 そんな幸せそうな投稿に小さく舌を打った女は、自分の投稿欄を開き、今口にした言葉をそのまま書き込んだ。
 それから過去に書き込まれた女の投稿を読めば、なんだか毎日つまらないのは世の中が悪いからだとか、誰も私を分かってくれないだとか、他人の悪口だとかが延々と綴られて、
「はぁ、ちやほやされたい」
 女はスマートフォンを持つ手を大げさに床に置くと、目を閉じる。
 だが、自分は良く投稿をする方なのに何故人気が出ないのかと、何故誰も構ってくれないのかと、無理解な他人への苛立ちが募り……再びスマートフォンを見よう目を開けて、
「人気者になりたいか。分かった、俺が奪ってきてやろう」
 いつの間にか、フードを深々と被った男が立っており、女を見下ろすように布団の横に立っていた。
「え……」
 そして、突然の事態に言葉を失った女へ手を伸ばすと……女の夢を命ごと奪った。

 人通りの少ない夜の道を、一人の女と二人の男が歩いている。
 どうやら三人は飲み会の帰りのようで、上機嫌に歩く女を男たちが服が似合っているだとか、こないだの投稿良かったよだとか、ありがちなお世辞を並べていた。
 お世辞を言われた女も満更でもないらしく、そんなことないですよーなどと返しながら、それじゃ楽しい様子を投稿しちゃいますー? などとスマートフォンを取り出し、
「『夜は危ないから、送ってもらっちゃってますー♪』っと」
 男たちと三人仲良く並んで写真を撮ろうとする……が、一人の男の胸に人の身長ほどもある鍵が突き刺さっていた。
 きょとんとした顔で自分の胸に突き刺さった鍵を見つめる男が、鍵の伸びる先へ視線を向ければ、そこには深々とフードを被った男の姿がある。
「な……ん……」
 フードを被った男へ抗議するように伸ばした手は届かず……割れた水風船のように赤い液体を撒き散らしながら鍵を刺された男は倒れた。
 それから、何が起こったのかを理解する前に、もう一人の男も鍵を突き刺される。
 フードの男は二人目の男がゆっくりと自らの血だまりに崩れていく姿を見届けたあと、恐怖と驚きで息もまともにできずに固まっている女へと振り返り、
「お前の人気、貰ったぞ」
 満足そうに口の端を上げて見せた。

●人気者になりたい
「大変! ドリームイーターが事件を起こすんだよ!」
 小金井・透子(シャドウエルフのヘリオライダー・en0227)はケルベロスたちの前に立ち、大変だよと両手を振る。
「ドリームイーターは夢は語るけど、何もしていない人を殺して、その人になり代わって夢を叶えようとするんだよ」
「夢、ですか」
 透子の話を聞いていた、斬宮・紅緒(憧憬の雪路・en0267)は口元に手を当てて考える。
 夢を語るが何もしない……残念ながら良くあることだ。
 努力も、苦労もしないし、したくない。夢のための道筋すら他人任せで自分で動こうとはせず、日々を無為に過ごす。そしてそんな自分を誤魔化すように世間や人に責任を求める。
 それは怠惰に違いない。だが、そんな側面は誰しもが持っているものであり、それを理由に殺されてはたまらない。
「ドリームイーターはなり代わられた人が持っていた夢を実際に叶えている人を近場で見つけて、その人からドリームエナジーを奪うんだよ」
「その、なり代わられた方は助けられないのでしょうか?」
 ドリームイーターについて説明を続ける透子に、紅緒がふとした疑問をぶつけると透子は悲しそうに視線を落として、
「残念だけど、みんなが着く前に殺されちゃうから無理なんだよ……でも、他の人たちは助けられるから!」
 助けられないと断言するも、他の人については何とかなるからと期待に満ちた眼をケルベロスたちへ向けなおした。
「今回相手にしてもらうドリームイーターは、人気者になりたいっていう夢を叶えるために行動するんだよ」
 自分の言葉に頷いたケルベロスたちへ透子は話しを続ける。
「現れる場所は深夜の住宅街で、二人以上の人にちやほやされている女の人なんだよ。だから、そんな人を見つけて見張ればドリームイーターを見つけることができるんだよ。あとは、ケルベロスは一般の人に比べて夢の力が大きいみたいだから、みんなが代わりに囮になることもできるよ」
「ちやほやする側は、女性でも良いのでしょうか?」
 一般人の安全を考えてケルベロスが囮になるのも良いだろうが、その場合の性別に制限などあるのかと紅緒が確認すると、透子はうん! と首を縦に振った。どうやらそこに制限は無いようだ。
「このドリームイーターは、モザイクを飛ばして一人を包み込んできたり、モザイクを大きな口に変えて近くの一人に喰らい付いてきたりするんだよ」
 さらに透子はドリームイーターの攻撃方法について説明したあと、ケルベロスたちを真っ直ぐに見つめ、
「どうかこの理不尽なドリームイーターを倒してきて欲しいんだよ!」
 両手の拳を小さく握ると、何とか倒してきて欲しいとケルベロスたちに懇願した。


参加者
久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)
深月・雨音(小熊猫・e00887)
ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)
上野・零(シルクハットの死焔魔術師・e05125)
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)
一之瀬・白(闘龍鍛拳・e31651)
鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)

■リプレイ

●街灯の下
 物静かな住宅街。適度な間隔で設置される街灯は、明るすぎず暗すぎず、夜の街を無機質に照らしていた。
 そんな無機質な街灯の下、時間のせいか人通りの無い道を一人の女と二人の男が、まじかわいいね~だとかそんなことないですよーだとか言いあいながら歩いている。
「ここから先は危険、なので迂回してください」
 そんな男女の後ろから、ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)は声をかける。この先はドリームイーターの出現予想場所であるため近づかれると危険なのだと。
 だが、唐突に話しかけられた男女は小さく体を震わせる。こんな真夜中にいきなり少女から抑揚のない声で話しかけられては驚きもするだろう。
 自分を凝視し、幽霊でも見たかのような……とてもネットの海には落とせないような顔で荒い息を吐く男女をミントは無表情に見つめつつ小首をかしげていると、
「……私たちはケルベロスだよ……」
 上野・零(シルクハットの死焔魔術師・e05125)が男女に重ねて話しかけた。するとようやく事態を理解したのか、男女はミントと零へ礼を述べてから逃げるように走り去っていった。
「やれやれ、ちやほやされたいかボクには理解しづらいよ」
 零たちのやり取りを少し離れて見守っていた、豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)は走り去る男女の後姿を見送りつつ小さく息を吐く。
 目立ちすぎると覚えのない逆恨みを買ったりするし、波風立てずに生きるためには目立つことを避けたほうがいいと姶玖亜は考えるようだが、世の中には波風を立てたいと願う人もいるのだろう。もっとも、そう願うのであればそれこそ波風を立てるだけの労力が必要な訳で、
「何の苦労もせず、他人にはちやほやされたい等……そんな虫のいい話があってたまるか!」
 何の努力もせずにそれを望むことに、一之瀬・白(闘龍鍛拳・e31651)は少なからず苛立ちを覚える。何の対価も払わずに報酬を得ることは出来ないと、ストイックに生きる白は自覚しているのかもしれない。
「……じゃが、犠牲となった方も余達が守らねばならなかった人達。その犠牲を無駄にせぬ為にも、この場で片を付けてやらねばな」
 だからと言って望んだことの対価が自分の命であった上に、自分には報酬がないなどと笑えない冗談だ。
 この場で片を付けてやらねばなと、静かに独り言ちた白に頷いて――姶玖亜は囮を買った仲間たちへ視線を向けた。

 街灯の中をチリンチリンと音を鳴らして歩く。
 小さな歩みとともにふわふわと揺れる、長い銀色の髪と尻尾は街灯の中にあってもとても幻想的で……、
「なんとこの尻尾、極上のもふもふにゃ! 毛艶も美しく光っていて、毛並みも最高にゃ! これこそが、夢の尻尾にゃ! さすが紗羅沙ちゃん! いや紗羅沙様にゃ!」
 飾った鈴を鳴らすようにゆっくりと歩く、鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)の横から顔を出した、深月・雨音(小熊猫・e00887)は目を盛大にきらきらさせながら言う。
 そんな雨音の言葉に、紗羅沙が念入りにトリートメントしましたからねーなんて返していると、
「いや~、スラッと背高くてスタイルもよく、耳と尻尾は超ふわふわで、可愛い系のお姉さん。しかも巫女さんとか完璧超人かって感じだよな。まさに女神! いや巫女だけど」
 久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)もまた畳みかけるように、世辞を並べる。完璧超人と巫女さんの関連性については謎であるが、航の言葉に紗羅沙は祝詞と神楽の踊れる巫女ですからね~と笑みを浮かべる。
「ふむ、すべてを包みこむような優しい笑顔と、包容力のある尻尾。女神か、確かにこの言葉は君によく似合う。それにその細い指が――」
 それから紗羅沙のふんわりとした笑みを見た、ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)が大仰に頷いて見せ……紗羅沙の爪の先から狐の耳の先までを褒めちぎる。
 ダレンにしろ航にしろ演技で褒めちぎっているのだが……立て板に水のごとく甘い言葉が出てくるダレンを見て、航は大人なお店で接客をするお兄さんのようだと感心する。
「ねぇねぇ、尻尾の手入れ方、教えてくれてもいいにゃ?」
 そんな航の視線に気づいたダレンがウィンクを返していると、ほかの部分は演技でも尻尾については本気で羨ましいと思っていた雨音が、自分の尻尾をぱたぱた振りつつ聞く。
「尻尾はふわふわすぎて、そのまますやすやになっちゃう人もいるくらいですからねー」
 紗羅沙は触ってみます? とふわふわした尻尾を差し出して、雨音はきらきらした目で尻尾へ手を伸ばす。
「ふわふわですね!」
 そんな紗羅沙の尻尾を、斬宮・紅緒(憧憬の雪路・en0267)も、雨音と一緒にもふもふしてみていると――。

●襲撃者
「……あんなふうにちやほやするものなのか……遠目に見ても確かにふわふわだなぁ……」
 少し離れたところから紗羅沙たちを見つめていた零は、世辞を並べたりふわふわをもふもふしている仲間たちを見て頷いていると――紗羅沙たちが足を止めた街灯の上に違和感を覚える。
「来ましたね」
「行こう!」
 違和感を覚えた刹那、零が駆け出し、ほぼ同時にミントと姶玖亜、それから白も街灯の下へと身を躍らせた。

 得も言われぬ悪寒に雨音の耳が反応し、零の行動を視界の端でとらえたダレンは振り向きざまに陽炎斬へ手をかける。
 振り返った瞬間、モザイクでできた巨大な口がダレンを包み込もうとして……その巨大な口が閉じる寸前、抜き放った陽炎斬と足を盾に巨大な口の上顎と下顎を押さえて自身が噛み砕かれることを阻止した。
 だが、阻止したといっても無傷では済まない、牙の先が足を貫き……さらには、受け止められてもなお体を喰いちぎらんと閉じようとする巨大な口の圧力がダレンの骨子を圧迫する。圧迫するモザイクの口を前にダレンは一瞬力を抜いて……、
「良い刀じゃないか」
「ああ、トマトも綺麗に切れるぜ」
 素早く身をひるがえすとモザイクの口から抜け出して軽口をたたきながら、目にも止まらぬ速さで弾丸を放つとモザイクの口に風穴をあける。
 ドリームイーターはモザイクの口を思わず引っ込めるも、引っ込んでいく口の陰に隠れるようにドリームイーターの足元へ潜り込んだ零は流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを、その膝へと炸裂させる。
 膝へ痛烈な一撃を受けたドリームイーターは左手で零の頭を掴もうとするが、その手は高速で飛来した礫によって弾かれる。
 左手を弾かれた瞬間、ドリームイーターは礫の飛来した方へと視線を向けると、そこには礫を投げたままの姿勢の雨音の姿と、その雨音の左右を通り抜けて自分へと接近するミントと航の姿があった。
 足元から退くように右横へ飛んだ零と入れ替わるようにドリームイーターの目の前に接近したミントは、小さく横に一回転するとドリームイーターの左側から魔力を宿した茨で覆われたエアシューズで電光石火の蹴りをドリームイーターの顔面へ向けて放つ。
 ドリームイーターは右手でミントの蹴りを防ぐが、防ぎきれなかった威力にモザイクに覆われた顔を歪め、ほぼ同時に雷の霊力を帯びた日本刀を手に真正面から突っ込んだ航が、ドリームイーターの腹へ神速の突きを捻じ込む。
 モザイクの上からでも苦痛に歪んでいるように見えるドリームイーターの様子を確認しながら、紗羅沙はマインドリンクから浮遊する光の盾をダレンの前へ具現化する。具現化した光の盾はダレンの傷を吸い取り、
「さあ、踊ってくれないかい? と言っても、踊るのはキミだけだけどね!」
 紗羅沙の盾がダレンを癒している間に、姶玖亜は銃握に鐘をあしらいよく使い込まれた練達の38口径拳銃をドリームイーターの足元へ打ち込む。
 絶え間なく撃ち込まれる弾丸にドリームイーターはたたらを踏むように後ろへ下がり……その姿はまるで滑稽に踊っているようだ。
 姶玖亜の銃撃でドリームイーターが足掻いている間に、白は自分たちの足元へ味方を守護する魔法陣を描く。その間に白のビハインドである一之瀬・百火は周囲の物品に念を籠めて飛ばし、紅緒は魔力を籠めた咆哮を発してドリームイーターの動きを封じる。
 意図せず下がらされたドリームイーターが苛立たし気に左腕を振るうと腕の一部であるモザイクが姶玖亜へと放たれる。
 だが、そのモザイクは姶玖亜の前へと駆け込んだ白が渦状に巻いたケルベロスチェインを盾に受け止め、間髪入れずに零が極限まで高めた集中力によってドリームイーターを爆破し、爆発に紛れて近づいた航が日本刀を一閃すれば緩やかな弧を描く斬撃は違わずドリームイーターの腱を裂く。

 街灯が照らすケルベロスたちの戦いはドリームイーターを圧倒している……と紅緒は判断するが、
「油断せずにいきましょ~」
 戦いの中にあっても何時も通りふんわりと微笑む紗羅沙の言葉に頷いて、まっすぐに前を見据えた。

●許されざる者
 再び放たれたモザイクの巨大な口がミントへ襲い掛かる。
 心なしか先ほどより勢いの衰えたその巨大な口を、ミントはミステリアスさを秘めた優しさのオーラで受け止め、
「それじゃァ、正義の名の下にオシオキと行きますかね……ッ!」
 ミントが受け止めている間に、ドリームイーターの横顔へダレンが青白い螺旋の閃光をまとった拳を叩きつける。
 正義の意志やら闘志やらなんやかんやで、相手の悪意そのものを打ち砕かんとするそのグラビティは確実にドリームイーターをとらえ……ドリームイーターはわずかに体勢を崩す。
 体勢を崩したドリームイーターを見つめ、右目を抉る一時の間に零は考える。
 人気者になりたいなどと考えず、静かにのんびりと生きていれば女性も犠牲にならずに済んだのにと……だが、そんな願いで殺されるのは堪らない。だからせめて弔い替わりに、このドリームイーターには退場してもらうと。
「――さぁ、貪欲に喰らえ」
 それから発動した地獄眼を使用して地獄製の銃を構えると、間髪入れずに地獄製の弾丸を打ち放った。弾丸は体勢を崩したドリームイーターの左手を抉り取って虚空へと消え、
「ぷにぷに・にくきゅう・あたっく!」
 ドリームイーターの左側へ踏み込んだ雨音は両手を獣化して、柔らかくて高反発な肉球をドリームイーターの脇腹へ無数のパンチを打ち込む。
 瞬間的に撃ち込まれたそのパンチは内勁によってドリームイーターの肉体を内部から破壊し、苦悶でドリームイーターの体が歪み、歪んだところを姶玖亜が精神操作で伸ばした白銀の鎖で締め上げる。
「共に往こう、百火――」
 雨音と姶玖亜の攻撃でドリームイーターが悶絶している間に、白は八卦龍紋呪符で八卦陣を形成し、ビハインドである一之瀬・百火の権能を一時的に借り受け、
「心魂を縛りつける緑鎖、貴様に耐えられるか……!」
 一之瀬・百火の武装の緑鎖を用いて、悶絶するドリームイーターの全身をさらに拘束しつつ、精神――心魂に侵入し、幻影を見せる。
 権能を借り受けた影響か一之瀬・百火のような姿になっている白の横をすり抜け、航は手にした日本刀を握りしめる。
「貫け! 流星牙!」
 それから鎖で拘束された上に、白によって幻影を見せられ呻くドリームイーターの胸へ、紋章の力を借りた神速の突きを捻じ込む。
 エンブレムミーティアからヒントを得て会得したというその突きはドリームイーターの胸を貫き、胸を貫かれたドリームイーターはたまらずに膝を折る。
「これは護摩符のちょっとした応用なんですよー、可愛いでしょう?」
 膝を折ったドリームイーターを前に、紗羅沙は護摩符へ耐魔の力を付与することで可愛いアザラシを模した式神を作り出す。銀狐巫女だけが会得出来る秘術であるその技によって作り出されたアザラシが一つ鳴くと、やさしさオーラで防ぎきれなかったミントの傷をみるみるうちに吸い込み、
「大空に咲く華の如き連携を、その身に受けてみなさい!」
 傷の癒えたミントが大きく息を吸い込むと、虚空から現れた無月が槍を縦横無尽に振るう乱舞攻撃を仕掛け、その間隙を縫ってミントが銃撃を放つ。
 息もつかせぬ連撃はドリームイーターの体を徐々に削り、最後に無月がドリームイーターの腹を裂くと同時に、ミントの弾丸が脳天を打ち抜いた。
 そして、脳天を打ち抜かれたドリームイーターは声を上げることもなく……風に溶けるように消えていったのだった。

●夢の終わりに
 消えていくドリームイーターの姿を確認するように、零は右目を開く。
 零の右目が完全に開くころには、残骸すら消え去っていて……夢のあとのようだった。
 もっとも、ドリームイーターが起こした事件自体は夢などではなく、現実のもので……零たちは被害者の女性の部屋を探すことにした。

 ドリームイーターが現れた場所から、推測して探すと窓の割れた部屋が見つかり……その中へ入れば、放置されたままの女性の遺体が見つかる。
 紗羅沙は、目を見開いたままこの世を去ってしまった女性の目に手を当てる。
 努力もなしに欲しいものがただで手に入る道理はないが、そう望んだからと言って命を奪われる道理も待たないはずだ。
 せめて迷わないようにと、道理の通らないことの元凶を作ったドリームイーターを倒したことを伝えてやりながら、紗羅沙は女性の目を閉じてやる。
「人気者なぁ」
 そんな紗羅沙と女性を見ながら航は考える。美少女たちにちやほやされれば言うことはないし、人気者にはなりたいなと。
 だが、ある日突然人気者になったらと考えると恐ろしくもある。何かの罠ではないかと警戒して喜べないなと航は思うようだ。
「人気者になりたい、ですか。その気持ちも分かりますけど、人気者になったところで、どの道、広く浅くの人間関係に過ぎないでしょう。私は、狭く深くの人間関係の方が良いですね」
 航の呟きに頷きつつも、ミントははっきりと女性の生き様を否定する。
 広く人々に知られたとしても、自分の芯を知る人間が居なければ心の平穏を手に入れることは難しいだろう、ならば狭い範囲で深く付き合い自分を知ってもらう人間関係こそが健全だ。
 ミントの言うことはもっともだが……芯を知られることによって人が離れる者もいるのもまた事実だ。
「分不相応は身を滅ぼしかねんからのう」
 いずれにしても己を知り、己の制御できる範囲での最善を尽くすことこそが重要だろうと白は小さく息を吐き、
「一目置かれたいならソレなりの対価ってモンが必要だからな」
 ダレンも頷く。自然と回りに人間が集まってくる人は、見えるところでも見えないところでも努力を重ねている。それは人の心を知る努力だったり、言葉の選び方の訓練だったりだ。それは天性のものと思われがちだが、ちゃんとした理論のある技術だ。
 理論のある技術である以上は誰にでもある程度は習得可能なものだ……だが、一朝一夕で上手くいくものでもない。そこを飛ばして他人の心を鷲掴みなんて都合の良いことはありはしない。
「だが……お嬢サンは悪くねーさ。ちょいと運が悪かっただけだ……どうしようもなくな」
 そしてダレンは自分の一通りの考えを振り払うように原点へ戻ると小さく首を振ると手向けの言葉を並べる……それは、そんな言葉で片付けたくはないが、そうとしか言いようがない……そんな言葉だった。

 後のことを警察に任せた一行は、部屋の外へと出る。
 部屋の外に出ると、雨音が紗羅沙をもふりながら紅緒の尻尾ももふもふし、三人揃ってもふもふ合戦の様相を呈していたが、女同士のじゃれあいという奴だろう。
 そんな雨音たちの様子をしばらく眺めていた姶玖亜は、警察が近づいてくるサイレンの音に少しばかり肩を震わせると、
「さぁ、帰ろう」
 仲間たちへ向かって力強く主張した。
 一行は一瞬顔を見合わせて考えるも、姶玖亜の主張を拒否する理由はなく――各々の帰路へとついたのだった。

作者:八幡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 1
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