組技や打撃技で攻め来る罪人達

作者:なちゅい

●罪人のサルベージと新たな罪人
 佐賀県伊万里市。
 夜の市街地へとゆらりと宙に浮かんでいたのは、3体の怪魚達。
 全長2mあるこの怪魚型死神達は青白く発光して、空中を泳ぎ回る。
 その軌跡は魔法陣のように浮かび上がり、その中央から1人のエインヘリアルが姿を現した。
「ひゃ、ひゃーっはっはっはっ!」
 狂ったように笑う、赤い鎧にモヒカン頭の大男。
 ムルエルという名の男はかつて罪人エインヘリアルとしてこの地に舞い降り、ケルベロスに撃破された過去を持つ。
 怪魚型死神はそのムルエルを変異強化し、サルベージしてみせたのだ。
 そこへさらに、街へと新たなエインヘリアルが降り立つ。
「さて、タッグマッチと行こうか」
 戦う気満々の筋肉隆々の大男、ランドルフ。
 そいつはにやりと口元を吊り上げ、ケルベロスの来訪を待つのである。

 夜であっても、ヘリポートには多くのケルベロスが訪れ、新たな死神による事件の説明にと駆けつけていた。
「現場は、佐賀県伊万里市だね」
 説明をするリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)によると、死神はかなり下級の存在で、浮遊する怪魚のような姿をした知性を持たないタイプとのことだ。
「この死神はケルベロスが撃破した罪人エインヘリアルを変異強化した上でサルベージし、デスバレスへ持ち帰ろうとしているようだね」
 また、面倒なことに、罪人エインヘリアルがサルベージされると同時に、新たな罪人エインヘリアルが出現してしまう。
 これは、エリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)が危惧していた罪人エインヘリアルの出現であり、サルベージを援護するエインヘリアルの妨害行動と思われる。
「サルベージされた罪人エインヘリアルは出現の7分後に、死神によって回収されてしまうよ」
 新たな戦力として回収される前に撃破したいと、リーゼリットは話す。
 まず、戦場を泳ぎ回る怪魚型死神3体は噛みつきのみ行う。
 こちらはさほど強さを感じることなく、撃破はできるはずだ。
「問題は、2体の罪人エインヘリアルだね」
 1体目、死神によってサルベージされたエインヘリアル。
 モヒカン頭で赤い鎧を纏ったムルエルは以前の襲撃の際、視界に入ったものは全てぶっ潰すと、バトルオーラを纏って殴りつけていた男だ。
 以前、ケルベロス達が討伐した際と戦闘スタイルは変わらないが、サルベージによって強化変異されて知性を感じさせぬ挙動をとり、意思疎通ができない状態となっている。
「新たに出現する罪人エインヘリアルはランドルフといって、組技と得意としているよ」
 2体目は、アンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)が予見していた、『拳士系だけど、打撃でなく組みしか使わない敵』のようだ。
 非常に攻撃的なエインヘリアルのようで、自らの技でケルベロスを始末しようと攻撃を仕掛けてくる。
 次に状況だが、現場は佐賀県伊万里市の市街地。
 敵は夜の出現となるが、ケルベロスが駆けつけた時点で、周囲の避難は行われている。
 ただ、広範囲の避難を行った場合、敵はグラビティ・チェインを獲得できなくなると判断して、サルベージする場所や対象を変える可能性がある。
「事件阻止が出来なくなる危険があるから、戦闘区域外の避難は行われていない」
 サルベージされた罪人エインヘリアルは、グラビティ・チェインの補給を行わなくても7分後に回収される為、一般人への被害は考えなくて良い。
 ただし、新たに現れた罪人エインヘリアルは回収など行われることはないようだ。
 ケルベロスが撃破に失敗した場合、被害は避けられないので確実に撃破したい。
「以上だけれど、状況は大丈夫かな」
 参加を決めたケルベロスに、リーゼリットは確認する。
 怪魚型死神はともかく、2体の罪人エインヘリアルを如何に対処するかが問題だ。
「私も、助力になるとよいのだが」
 雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)も参加を決めたようで、作戦主導となるメンバー達に支援方法を確認していたようだ。
 ある程度作戦について語ったメンバー達に、リーゼリットが準備はよいかどうか確認する。
「手強い相手だから、気を抜かないようにね」
 相手は油断を突いて攻めて来る。だからこそ、気を引き締めて事態に当たらねばならない。
 メンバー達はそれぞれ作戦に対する意気込みを語り、ヘリオンへと搭乗していくのだった。


参加者
ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)
伏見・万(万獣の檻・e02075)
アンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)
天音・迅(無銘の拳士・e11143)
鍋島・美沙緒(神斬り鋏の巫女・e28334)
クレア・ヴァルター(小銀鬼・e61591)

■リプレイ

●本気のバトルを前に
 夜中、ケルベロスが降り立ったのは、佐賀県伊万里市。
「まさか、わたしの予見がこんなことになるとは、です……」
 まだ幼さも残すピンクのウェーブヘアのアンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)。
 戸惑いを見せる彼女の傍で、濃藍色のおかっぱの髪から猫耳を生やす鍋島・美沙緒(神斬り鋏の巫女・e28334)が一言。
「伊万里の人達を守るんだよ」
 佐賀県で生まれた彼女は、例えその身に変えてでも成功させたいという強い気概でこの作戦に臨んでいる。
 そんなメンバー達の前に、ふわりと空中を泳ぐ怪魚の姿が。
 奇怪な姿をした怪魚型死神は、サルベージした罪人エインヘリアルを引き連れている。
「ひゃ、ひゃーっはっはっはっ!」
 狂ったように笑うモヒカン頭の男、ムルエル。
 赤い鎧を纏ったこの大男は、倒すべき敵が近くにいることを察したのか、以前と同じようにバトルオーラを纏って構えてみせる。
 そして、もう1体。
 空中から飛び降りてきたもう1人の罪人エインヘリアル、筋肉隆々の大男ランドルフ。
「ほお、こいつが今回の俺のパートナーか」
 悠然と構えるその姿は罪人として剣呑さを漂わせ、強者の余裕を感じさせた。
「死神にエインヘリアルに……多いなぁ、もぅ!」
 目の前に立ち塞がるデウスエクスの数に、子供っぽさを残す夢魔の女性、円谷・円(デッドリバイバル・e07301)は辟易とする。
(「サルベージと同時出現には、何か因果関係があるのかな?」)
 2つの勢力の敵が同時に並ぶ状況に、円は様々な想像を巡らしていた様だ。
「死んだ奴ほじくり返して、ケッタクソ悪ィなテメェらは」
 黒い狼のウェアライダー、伏見・万(万獣の檻・e02075)はスキットルを懐にしまい、怪魚型死神を睨みつける。
「まァ、全員残さず喰ってやッから、そこは心配要らねェぜ」
 相手を威嚇しつつ、万はアラームを4、6、7分後にセットする。
 サルベージされたムルエルは7分後、死神勢力によって回収される予知がなされているからだ。
「倒した相手や取り逃がした相手が片っ端から、死神にパワーアップさせられたらやってられないからね」
 エーデルワイスの花を髪に咲かせたジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)は相手を見回して。
「ここはキッチリ始末をつけて、活発になって来たエインヘリアルの活動の出鼻をくじいてやろうか。よーし、がんばるぞい!」
「そうだな」
 意気込むジューンに合わせ、雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)もライトニングロッドを手に気合を入れていた。
 戦闘態勢を取るケルベロス達を、ランドルフは鼻で笑って。
「ふん、小さき貴様らが鍛え上げた俺達を倒せると、本気で思っているのか?」
 組技を得意としているというランドルフは両腕を上げ、ケルベロスに向かってくるよう挑発すらしてみせる。
「まぁ、でもやる気があるのは結構。だって……」
 そこで、円は毅然と妖精弓「イーバウ」を構える。
「私達も本気で、殺る気で来ているんだからッ!」
「肉体言語で戦うお姿はなかなか魅力的ですが……。それが殺戮の為となると、些かならず魅力が殺げてしまいますね」
 大きすぎる胸が目を引くクノーヴレット・メーベルナッハ(知の病・e01052)もやはり倒すのみと、狂った笑い声を上げるムルエルを注視していた。
「罪人エインヘリアルを野放しにはできねえ。特に格闘技を悪用するヤツは」
 白い翼を広げる天音・迅(無銘の拳士・e11143)も降魔拳士として、ふわふわ浮かぶ怪魚型を含め、肉体派のエインヘリアル達の侵攻を阻もうと動く。
「格闘戦なら臨むところだ。最後まで耐え切ってみせる!」
 叫ぶ小柄ながらも凛々しさを見せるオウガの少女、クレア・ヴァルター(小銀鬼・e61591)。
 仲間が散開したのを見ながら、クレアは如意棒を両手に握って。
「さぁて、2人とも倒すぞ。覚悟だっ!」
 向かい来るデウスエクス達を前に、ジューンもケルベロスコートを脱ぎ、フィルムスーツを露わにする。
 さらに、ジューンが首元のスイッチをONにすると、透明のスーツに色鮮やかなカラーパターンが刻まれて。
「鎧装天使エーデルワイス、いっきまーす!」
「戯言はそこまでだ。こちらから行くぞ!」
「ひゃーっはっはっはーっ!!」
 威嚇するランドルフが業を煮やして仕掛けてくるのに合わせ、怪魚とムルエルも口を開いてケルベロスへと迫ってきたのだった。

●語るは己の肉体で!
 包囲陣形を取るケルベロス達は、近づいてくる死神、エインヘリアル混成部隊を相手にする。
 向かい来る敵よりも、やや速くクノーヴレットが動き始める。
 狙うは、この場から離脱の危険のある罪人ムルエルだ。
 クノーヴレットはミミックのシュピールに仲間のカバリングに動くよう指示を出し、クノーヴレット自身はファミリアロッドを突き出してその先から氷河期の精霊を召喚する。
 精霊達はエインヘリアルの周囲を踊り、怪魚型死神を巻き込みつつ凍てつく空気で包み込む。
 仲間達の様子を見つめていた迅も初撃、九尾扇の羽を鞭のようにしならせて敵陣へと叩き付けていた。
 広範囲に攻撃を仕掛け、ムルエル含めて死神の排除を目指す作戦。
 迅はムルエルだけを狙おうとしていたが、初撃のみは仲間に合わせた形。続くジューンも両手に持つバスターライフルから魔力の奔流を敵陣へと浴びせかけていた。
 そこで、シュピールがエクトプラズムで作り出した武器で、笑い叫ぶムルエルを殴りつけて身体を徐々に石となるよう硬直させていく。
「させません」
 続き、アンジェラがバイオレンスギターをかき鳴らし、弾き語りを始める。
「あなたの肩に 手を載せ さあラッタッタ ラッタ 踊りましょう……♪」
 逡巡を肯定する心の曲はムルエルだけでなく、怪魚型死神達の心を迷いで徐々に蝕み、体にまで影響を及ぼしていく。
「ひゃはっ、ひゃーっはっはっはっはぁっ!」
 しかし、そのムルエルはまるで応える様子もなく、けたたましい笑い声を上げてシュピールの身体へと音速の拳を叩きつけて行く。
 その一撃だけでも、シュピールの体がひしゃげるほどの威力だ。
 そしてもう1人、強力な力を持つエインヘリアルが。
「俺の力、思い知れ!!」
「肉弾戦相手! 望むところ」
 向かい来るランドルフに対し、オウガのクレアも打ちかかる。
 ランドルフは巨躯を活かしながらも、半分ほどの背丈しかない彼女の身体を強く締め付けてきた。
「ぐぇぇっ……!」
 ガッチリと締め付けられる全身の骨が大きく軋み、クレアは痛みに悶絶してしまう。
 何とか逃れた彼女だが、体が満足に動かないのを実感する。
 クレアは息を整え、ムルエル目掛けて如意棒をヌンチャク状にして殴りかかっていった。
 攻撃と、抑えと、彼女はしばし対象を変えながら、立ち回っていく。
「蓬莱、そっちは任せたからね!」
 円が自身のウイングキャットの蓬莱に指示を出すと、アンジェラと共にパクパクと口を動かして襲ってくる死神の抑えへと回ってくれる。
 蓬莱が翼を羽ばたかせて回復にも当たる中、主の円は回復手としての役割を果たそうと動く。
「そちらの回復を頼む」
 円は呼びかけを行い、快楽エネルギーを桃色の霧へと変えて傷つく仲間の周囲に放出して癒しに当たる。
 そして、リュエンが円の呼びかけに応じて、前線メンバーの手前に雷の壁を構築させていく。
 彼はさらに、ランドルフの締め付けを受けていたクレアへとオーラで癒そうと力を溜めていたようだ。
 同じ後衛に立つ万は、敵の前衛陣目掛けて召喚した無数の刀剣を解き放つ。
 それらの刃が死神やムルエルを切り裂く間も、万はじっと戦況を観察していた。
 万の飛ばす刃が一斉に引いたタイミングで、美沙緒も仕掛けていく。
「狂った亡者に今を生きる人を、命を奪わせたりしないんだよ」
 黒い刀身の剣「神斬り鋏・陰」の刀身に集まる呪いを解放した美沙緒。
「もう一度、冥府に墜ちろ!」
 その上で、敵陣に飛び込んだ彼女はその刃を一閃させていった。
 ムルエルはさほど変化は見られなかったが、巻き込まれた死神は美沙緒によって大きく身体を切り裂かれ、かなり苦しんでいるのが目に見えてわかるようになってきていた。

●過ぎ行く時間を感じながら
 しばしの間、互いにグラビティの出し合いが続く。
 エインヘリアルの攻撃はかなり強力で、ケルベロス達もその対処に苦慮する形だが、死神は別。
 クノーヴレットが投げ付けた燃え盛る火球が、死神1体を消し飛ばしていく。
 ジューンが続けざまにアームドフォートから焼夷弾をバラ撒いて敵陣を炎へと包み込んでいった。
 すると、怪魚2体も地面へと落ち、その姿を消してしまう。
「ほう……」
 ケルベロスの力に唸るランドルフ。クレアやミミックのシュピールが抑えているというのに、余裕綽々といった態度だ。
 残る敵がエインヘリアルが2体となり、ケルベロス達は激しい攻防を繰り広げて瞬く間に時間が経過していく。
 鳴り響く万のアラーム。
 ケルベロス達は一層攻撃の手を強め、ムルエルの討伐に当たるが……。
「ひゃはっ、ひゃーっはっはっ!!」
 バトルオーラを纏って暴れ続けるエインヘリアルは、なかなか手をつけられない。
 美沙緒は仲間の攻撃の合間に敵の赤い鎧を砕きにかかるが、その攻撃も仲間の連携を考えて立ち回る。美沙緒の一撃が起点となり、連携攻撃を組むこともあったようだ。
 その間、クレアは苦しみながらもランドルフを抑える。
「まだ、まだだー!」
 相手に腕を折られそうになっても、クレアは果敢に背中の阿頼耶識から光を放って少しでも相手の動きを止めようとしていく。
 その彼女には、リュエンが気力を飛ばして癒しに当たる。
 死神からの食らいつき、そして、ムルエルの打撃のダメージは円が回復役として癒していく。敵の攻撃が威力のある単体攻撃ばかりだった為、彼女は桃色の霧を展開し続けていた。
 また、サポートで駆けつけた紅葉も癒しの拳を振るい、回復支援に当たる。
 彼女は合間を見てムルエルに砲撃も叩き込み、援護攻撃にも動いてくれていたようだ。
「ひゃっ、ひゃはっひはははっ!!」
 笑い続けるムルエルはただ、ケルベロスを殴り続けるが、迅がそれを食い止めつつ言い放つ。
「黄泉返っても、人を殺めるだけだろ? ここで止めてやる」
 電光石火の一撃を食らわせ、彼は相手を止めようとする。
 ただ、倒すことが出来ないまま、万のアラームが2度目の合図を報せた。
 一行が死神の討伐も合わせて当たっていたことで、ムルエルへと効果的な攻撃ができていない部分もあったのだろう。
「おらおら、どうしたどうした!?」
 さらに、ランドルフが邪魔してくることもあり、攻撃の手が鈍ることもある。
 ジューンは2丁のバスターライフルで魔力の奔流をムルエルへと浴びせかけ、追い詰めようとしていた。
 立て続けに回復の手を止めた円が翼猫の蓬莱に回復を任せ、夢魔の翼を広げた円自身は新円の月を背にして。
「これ以上……、好き勝手にはさせないっ!」
 伝説の生物である月竜を模した三日月形の鱗を円は投げ飛ばし、ムルエルの身体に突き刺して動きを封じようとする。
「狩られるのはテメェだ、逃げられると思うなよ!」
 相手の虚をつき、万は自らを構成する獣の幻影を飛び出す。
 地を這うその幻影はムルエルへと絡みつき、その動きを止めようとしていた。
 ただ、討伐できぬまま、3度目のアラームが鳴り響く。
 周囲に魔空回廊が口を開き、ケルベロス達に焦りも見え始める。
「うふふ、捕まえました……♪」
 クノーヴレットはそっと相手に忍び寄って。
「さぁ、私のこの指で奏でて差し上げますから、素敵な声で歌ってくださいね……♪」
 敵の体を優しくさするクノーヴレットは、ムルエルを惑わせようとする。
 だが、狂気に包まれたエインヘリアルが惑う様子は見られない。
「デカイの狙うぜ、支援頼む」
 それを見た迅も大技を仕掛けようとして、ムルエルに向けて躍り込む。
「我は無銘なり……」
 自らの白い翼にオラトリオとしての時間干渉能力を結集した迅は、それを一気に放って相手の動きを奪う。
「我が連撃は型を纏わず、我が乱撃は夢幻なり」
 その上で、自らの強化に当たった彼は自身の幻影を飛ばし、鹵獲術士として周囲に幻影を投射して相手を惑わせていく。
「この一撃を受けてみろ!」
 ジューンは大仰なポーズをとり、高めたグラビティを集めて高速に近い連撃を浴びせかける。
 その打撃はまるで流星のように煌き、ムルエルを追い詰めていく。
「さぁ、行くぞ! これが銀鬼の力だぁっ!!」
 直後、力強く叫ぶクレアがグラビティで作り出した銀の角を体から打ち出してムルエルの体を幾度も突き刺すと、ようやくムルエルの態勢が崩れる。
「これ以上好きには……させません、です!」
 アンジェラは近場の電柱を蹴り、自らの翼を使って高く飛び上がった。
 翼と重力の力で勢いをつけ、アンジェラは全身を使って体当たりを繰り出し、敵の身体を押し潰す。
「ひゃ、はっ……」
 ついにムルエルの笑いが止まり、サルベージされたその体が崩れ落ちてしまう。
 死神勢力もその回収を諦めたのか、魔空回廊はすぐに閉じてしまったのだった。

●締めは自らの敗北をもって
 気付けば自身1人となっていても、罪人ランドルフはまるで動揺する素振りを見せない。
「まあいい。貴様らなど俺1人で十分だ」
 技を仕掛け続ける敵へクノーヴレットが仕掛けようとするが、グラビティの装備に手違いがあったらしく石化光線を撃ち出すことができない。
 その為、黒色の魔力弾で代用して彼女は攻撃しようとするが、迫ってきたランドルフから腕を極められてしまって。
「あっ……、そんなはげしい……っ」
「ぬう」
 艶っぽい声にランドルフはやや怯むが、その力を弱めることはない。
 それまで相手を抑えていたクレアは幾分負担が軽減していたが、ダメージがかなり深まっていたこともあって自身の傷を癒しの拳で殴り飛ばす。
 リュエンが気力を飛ばしてランドルフの締め技の及ぼす効果を取り払い、円もまた翼を羽ばたかせる蓬莱と共に桃色の霧を振り撒き続け、戦線を維持し続ける。
 メンバーが倒れずに済んでいるのは、円の癒しによる部分も大きいだろう。
 さて、前線メンバーとランドルフの攻防はなおも過熱して。
「アンタは武術を極めちゃいねえよ。それを教えてやる」
 迅は再度、幻影を使った自身特有の連撃でランドルフの判断を惑わせようとしていく。
 ジューンも流星の蹴りを浴びせかけ、敵の動きを止めようとするが、パワフルに攻め来るランドルフは止まらない。
 しかしながら、その逞しい筋肉にもかなりの傷が増えており、限界が近いことを窺わせる。
 さらに、頭上から体当たりを叩き込んだアンジェラ。相手の態勢が崩れたことにくすりと笑って。
「わたしに予見されたばっかりにこんなことに……。ほらほら、何も出来ずに終わっちゃいます、ですよ?」
 すると、すかさずランドルフはアンジェラの身体をつかみとり、強く地面へと大きく投げ飛ばす。
 しかし、時間稼ぎには十分。
「斬撃で攻めるぞ!」
 相手を分析した万が幻影の獣を向かわせて、相手の足元へと纏わりつかせると、美沙緒が正面から仕掛ける。
「なんの罪なのかは知らないし、興味もないけど、此処はお前が居るべき場所ではないんだよ」
 この地に生まれた彼女としては、エインヘリアルの存在を野放しにはできない。
 美沙緒は二振りの刀、陰と陽の神斬り鋏を握り、相手の首を跳ね飛ばす。
「……冥府の海にでも墜ちるといいんだよ」
「く、そおぉぉっ……」
 嗚咽を漏らし、罪人エインヘリアルは重い音を立てて街路に沈んでいったのだった。

●勝利を実感して
 なんとか、全てのデウスエクスを討伐したケルベロス達。
「な、なんとかなりました、です……?」
「そうだね、私達の勝利だよ!」
 地面に寝そべったままぐったりするアンジェラが仲間へと問いかけると、円が嬉しそうに彼女の顔を覗きこんで応える。
 すると、アンジェラも破顔し、これ以上ない笑顔を見せていた。
「ふぅふぅ……。あははは、大したことなかったな!」
 クレアもボロボロであったが、空元気で笑う。
 そんな仲間を見ていた万は、スキットルを手に口元を吊り上げていた。
「協力感謝だ」
 少しは慣れた場所では、迅が近辺の避難に当たってくれていた現場付近の住民達へと感謝の言葉を口にしていた。
「なんば言いよーとか」
「おい達ば守ったのは、ケルベロスやろが!」
 しかし、逆にケルベロス達へと現地の人々から感謝と祝福の言葉が飛び交う。
 そんな声を耳にし、メンバー達はこの戦いの勝利を改めて実感するのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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