暴力の代償

作者:三ノ木咲紀

 深夜の学校の屋上に、一人の女子中学生が立っていた。
 鍵は開いていたのだろう。柵もない屋上の縁に立つ女子中学生ーー塚本・千秋は、虚ろな目で眼下に見えるグラウンドをぼうっと見ていた。
「……もう、どこにも行けないよぅ」
 千秋は物心ついた頃から、養護施設にいた。
 小さい頃はまだ良かった。でも施設長だった「おばあちゃん」が亡くなって、新しい「お父さん」に変わってからは毎日暴力を振るわれた。
 お腹や背中を蹴られたり殴られたりは当たり前。食事を抜かれたり酷い暴言を吐かれたり、一晩中施設を掃除させられたり。子どもたちの間もぎくしゃくして、誰も信じられない。「お父さん」はあの施設の王様だ。
 思い切って担任の先生に相談した。でも先生は『「お父さん」はそんなことはしていないって言っていた』『教育委員会の重役だった「お父さん」が、そんなことするはずがない』と言って取り合ってくれなかった。
 今日。帰ったら皆の前でひどく殴られた。先生に相談した報いだって。
 隙を見て逃げ出した。だけど、千秋に行く場所なんてどこにもない。今もきっと探している。捕まるくらいだったら、いっそーー。
 衝動的に身を投げようとした千秋の腕を、強い力が掴んだ。
 千秋の体を安全な屋上へ引き上げた女性型シャイターンは、驚いて何も言えない千秋の肩をそっと叩いた。
「王女レリの命により、あなたを救いに来ました」
「王女レリ、って……」
「あなたが決して逆らえないって知っていて暴力を振るうなんて、酷い男。ですが、そんな男のために自ら命を断ってはいけません」
 真摯そうに響くシャイターンの声に、千秋は首を横に振った。
「でも、でもどうしたらいいか分からなくて、誰にも言えなくて……!」
「あなたは、あなたを虐げた男を殺し、自らを救われなければなりません」
 シャイターンが告げた直後、千秋の足元に一人の男が投げ出された。
 千秋の施設の「お父さん」ーー山本・卓哉を放り出した白百合騎士団の団員は、乱暴な扱いにも意識を取り戻さない男を一瞥すると千秋に向き合った。
 見上げるほど大きな体に思わず怯む千秋に、白薔薇騎士団員はしゃがみ込むと視線を合わせた。
「あなたがエインヘリアルとなれば、この男に復讐して殺す事ができるでしょう。勇敢なあなたを虐げ、追い詰めたこの男を殺せば、あなたは全てから解放されるのです」
 その言葉に、千秋は山本を見下ろした。
 この男は、これからもずっと千秋や、千秋のきょうだい達を虐げていくだろう。そんなことは許せない。千秋は小さく頷いた。
「いい子ね」
 優しく微笑んだシャイターンは、千秋の首筋に冷たい手を伸ばした。
 頸動脈に触れた直後、千秋はその場に崩れ落ちる。
 命を絶たれた千秋は、やがて何事もなかったかのように立ち上がった。
 そこにいるのは、かつて塚本・千秋と呼ばれていた女性型エインヘリアル。三つ編みにした長い黒髪も、そばかすの残るあどけない頬も変わらないが、その目に宿るのは冷徹な復讐者のもの。
 かつて千秋だったエインヘリアルが、山本の首を撥ねる。
 無感動にそれを見下ろした千秋は、二体のデウスエクスと共に夜の闇へと消えていった。


「行くあてのねぇ子どもたちに暴力を振るって王様気取りだなんて、男の風上にも置けねぇ!」
 怒りも顕に拳を壁に叩きつけた黒瀬・ダンテは、なんとか落ち着くとケルベロス達と向き合った。
「もう知ってるかも知れねぇが、シャイターンの選定でエインヘリアルが生まれる事件が発生した」
 シャイターンは不幸な女性の前に現れて、その不幸の原因となった男を殺すことと引き換えにエインヘリアルとなることを受け入れさせようとしているのだ。
 この取引に応じて女性がエインヘリアルとなると、男を殺してグラビティ・チェインを略奪してしまうのだ。
「皆にはこの現場に急行して、選定するシャイターンと護衛のエインヘリアルの二体を撃破してほしい。ーーそして、可能なら、千秋のエインヘリアル化を止めてやってくれ」
 敵は二体。
 一体は、白薔薇騎士団と呼ばれる女性型エインヘリアルで、戦闘力はさほど高くないようだが油断は禁物だ。
 白薔薇騎士団の団員であるエインヘリアルは、シャイターンと千秋の護衛としてそこにいる。腰に大剣を二本帯びていて、ゾディアックソードを使って戦うことが予想されている。
 ポジションはディフェンダー。
 導きを行うシャイターンは、妖精弓を装備している。
 ポジションはスナイパー。
 現場は学校の屋上で広く、一般人が立ち入ることもない。
「屋上には、千秋がエインヘリアルになっちまう前に突入することが可能だ。千秋がエインヘリアルになる前に説得することができれば、導きを拒否してエインヘリアル化を防ぐことができる。エインヘリアルにならなかった場合も、敵が千秋を攻撃することはねぇから、その辺は安心だな」
 説得に成功した場合は二体のデウスエクスを撃破できれば作戦は成功となる。
 失敗した場合は、千秋は山本を殺そうとする。そのため説得に失敗しそうな場合は山本を避難させる必要があるだろう。
 千秋がエインヘリアル化すると、二体のデウスエクスは千秋を逃がすことを最優先として戦ってくる。千秋も戦線には加わらず逃げようとする。
 撤退する千秋を撃破するのならば、何らかの作戦が必要になるだろう。
「信じていた担任に裏切られたショックもあって、千秋の説得は非常に難しいだろう。そうなると、山本の救助も簡単じゃねぇ。ーー最悪、山本を殺して千秋を救う、ってのも考えなきゃならねぇかも知れねぇな。千秋がエインヘリアルになる前に山本を殺せば、理由もなくエインヘリアルになることはねぇからな。皆の判断に、委ねるぜ」
 シニカルに微笑んだダンテは、現場の地図をデスクへ広げた。


参加者
エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)
新条・あかり(点灯夫・e04291)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
山蘭・辛夷(フォックスアイ・e23513)
ジゴク・ムラマサ(心ある復讐者・e44287)
アーシャ・シン(オウガの自称名軍師・e58486)
ライスリ・ワイバーン(外温動物料理人・e61408)
天羽・猫助(女好きの子供の護り手・e66435)

■リプレイ

 千秋が頷こうとした瞬間、屋上によく通る声が響いた。
「ドーモ、千秋=サン、デウスエクス=サン。ケルベロスのジゴク・ムラマサです」
 左掌に右の拳を当ててオジギするジゴク・ムラマサ(心ある復讐者・e44287)に、千秋は驚いて顔を上げる。
 同時に駆け出したアーシャ・シン(オウガの自称名軍師・e58486)は、千秋と山本の間に割り込もうと駆け出した。
「させない!」
 山本を庇うように踏み出した騎士団員の盾に阻まれ足を止めるアーシャに、騎士団員は冷淡に言った。
「この男は千秋が殺す。それまでは殺させない」
「奇遇だな。俺もだよ。ただし、殺すのは千秋じゃなくて社会がだ!」
 騎士団員が離れたのを確認した天羽・猫助(女好きの子供の護り手・e66435)は千秋にゆっくり近づいた。
「千秋ちゃんだね、自分はケルベロスの天羽・猫助っす」
「近づくな、猟犬ども!」
 威嚇するシャイターンが攻撃する前に、ライスリ・ワイバーン(外温動物料理人・e61408)が組み付いた。
「説得の邪魔はさせない!」
「この、離れろ汚らわしい男がぁっ!」
 怒りも顕にしたシャイターンは、ライスリを振りほどくとホーミングアローを放った。
 肩口に刺さる矢を引き抜いたライスリは、挑発するように矢をへし折る。
 デウスエクスの気を引く仲間達に目礼した猫助は、隣人力あふれる笑顔を浮かべながら千秋へゆっくり近づいた。
 怯える千秋の前にしゃがんだ猫助は、その気持ちを聞くように話しかけた。
「お父さんにされたこと、辛かったんだね?」
 小さく頷く千秋に、猫助は続ける。
「皆との仲を変にされて、悲しかったんだね?」
 もう一度頷く千秋の手を取った猫助は、接触テレパスも使い裏表のない自分の気持ちを伝えた。
「山本に皆辛い思いをさせられて先生に訴えたんだね。よく頑張ったね。君は間違ってないよ。絶対! 間違ってなんかいない!!」
「あなたや施設の子に暴力を振るうのを私達がやめさせます。なぜなら、ケルベロスは未来を創っていく人の味方だからです」
 千秋は施設長に虐げられ、教師にも信用して貰えない。
 味方がいない、孤立した不安を感じ、デウスエクスの言い分にすがった。
 そんな千秋に安心を与えるように微笑むエステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)は、戸惑う千秋に語りかけた。
「私はあなたの味方となります。だから奴らより私達を信じて」
「……でも、どうやって? 先生だって、信じてくれなかったのに」
 教師とのやりとりを思い出したのだろう。同時にフラッシュバックする痛みに自分を抱きしめた千秋は、泣きながら叫んだ。
「そんなことしたら「おとうさん」に殴られる! 帰ったら、きっともっと叩かれる! 昨日も今日も明日だって!」
 猫助の手を払った千秋は、首を横に振りながら後ろへ下がる。
 山本の体につまづきかけた千秋は、恐怖と憎悪のないまぜになった目で山本を見下ろした。
 そこへ、騎士団員の声が響いた。
「エインヘリアルにおなりなさい! あなた自身もきょうだい達も、救われるにはそれしか無い!」
「黙れよ」
 騎士団員に相対していたアーシャは、叩きつけるように言うと千秋に向き合った。
「山本が居なくなっても、上が変わらないと……もっとクズなのが来るかもしれない。お嬢さんの仲間だったみんなが……もっと苦しむかもしれない」
 弾かれたように顔を上げる千秋に、アーシャは続けた。
「だから。根本から変えるためにも、山本の行いを白日の元に晒して責任とらせないと意味がない。それに、こいつ殺してエインヘリアルになったら、仲間を見捨てて自分だけ逃げるのと同じよね」
「あなただけが手を汚し、犠牲になる必要は無いの。本当は『おばあちゃん』が居た頃の施設を取り戻し、そこに帰りたいのでしょう?」
 静かに語りかける円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)の声に、千秋は目を見開いた。
「……無理だよ」
「無理じゃないわ。ケルベロスの信用は、とても高いの。教育委員会の元重役よりもずっとね。わたしたちが千秋の証言を保証すれば、警察を動かして山本を逮捕、刑罰に処すことが出来るはず。証拠も充分だし」
「そんなことが、できるの?」
 希望を見出しかける千秋の耳に、シャイターンの声が響いた。
「千秋さん。あなたは悔しくないの? 憎くないの? 理不尽に殴られた心と体の傷は、その男が生きている限り、決して癒やされることなんてないわ!」
「……」
 無意識にお腹をさする千秋に、新条・あかり(点灯夫・e04291)は語りかけた。
「復讐したい気持ち、否定しない。暴力で全てを終わらせたい気持ちも。でもね」
 言葉を切ったあかりは、足元で眠りこける山本を一瞥した。
「今彼を殺すっていうのは、彼にとっては一番楽な道。あなたが感じた苦痛の一部も感じないまま死んで、社会的にも同情が集まるのは彼」
 何も言えない千秋に、あかりはにっこり微笑んだ。
「どうせなら、一番ヒドイ復讐を一緒にしよう。一緒に病院に行って、お医者さんに診断書を書いて貰おう。そして訴える」
「訴える、って先生だって……」
「学校よりも、もっと上に。彼から名誉も地位もお金も全て奪って苦しめよう。醜く泣き喚く姿こそ、彼にはふさわしい」
「その通り」
 あかりの隣に歩み出た山蘭・辛夷(フォックスアイ・e23513)は、山本を軽く睨みつけると続けた。
「山本にはこうなった以上、今回の事件について責任を果たしてもらうために警察に強制同行してもらう。私らケルベロスが関わる以上、事の経緯は聞かにゃいかんからな。こうなっては山本の今までの所業は隠せん」
「その男は、どんな手を使ってでも今回の件を隠蔽するでしょう。男とはそういうものです!」
 吐き捨てるように言う騎士団員に、辛夷は首を横に振った。
「いやいや、どんな手を使ってでも犯罪として立件してやる。あとは、この赤い髪の子の言ったとおりだ」
「け、警察の方ですか?」
「まあそんなところだ」
 目を見張る千秋の目を覗き込んだ辛夷は、あかりの肩を軽く叩いた。
「君がよければ、あいつを表社会に出れん身にしてやる。残りの人生、君が受けた以上の生き地獄を味あわせてやれるぞ」
「それで飽き足らない、というのであれば……」
 今まで黙っていたライスリは、山本の首根っこを掴むと吊り上げた。
 右手に持った易牙の包丁の腹を、山本の体に押し当てる。
「指し示せ。切りたい部位を。生命維持に必要な部位は最後、それ以外、お好きにどうぞ。……勿論、やるのはオレだ。君は、まだ未来がある。このクズが原因で手を汚すな」
「そこまでは思ってないよ!」
 慌てて手を振る千秋に、ライスリは無造作に山本の体を投げ捨てる。
「けど……」
 それでも目覚めない山本を睨む千秋に、あかりは続けた。
「振るった力は止まらないんだ。いつかそれ以上の力で押しつぶされるまで。優しくて、勇気ある千秋さんにそんな思いは味わってほしくないよ」
「ケルベロスは皆、未来を良い方に向かわせるよう頑張ってます。千秋さんにも、自分で未来を求めるようになってほしい」
「自分で……未来を……」
 真摯なエステルの声に、千秋は放心したように呟く。
 皆の説得に涙を収めた千秋に、ムラマサは一歩前へ出た。
「考えるのだ、千秋=サン。そのゲスを殺して化け物となり、我らと戦うか。その男を今は生かし、人の身で然るべき罰を与えられるところを確認するか」
「千秋さん! エインヘリアルとなりなさい!」
 シャイターンの声に、ムラマサは冷徹な目で千秋を見た。
「他の者はどうかわからぬが、お主がエインヘリアルになるというのならば、私は躊躇せぬ。確実にお主を殺さねばならなくなる。その化け物に人生をくれてやる必要はない」
「他のきょうだいだけじゃない。あなた自身も幸せになって良いのよ、千秋さん」
 千秋に手を差し伸べるキアリの隣で、猫助もまた力強く手を差し伸べた。
「昨日までの悪い事、全部ぶっ飛ばそうぜ! みんなと笑って過ごせる、おばあちゃんがいた時みたいな場所を取り戻す! 俺達も力を貸す! だからこっちに来いっ! 一緒に帰るぞ!」
 差し出される二人の手に、千秋は歩み寄る。
「……うん! 私、皆さんを信じる!」
 キアリと猫助の手を取った千秋の目に、迷いはない。
「ハッハー、残念、交渉決裂みたいだな」
「おのれケルベロス!」
 煽る辛夷の声に、騎士団員は腰に帯びた大剣を抜き放った。


 説得成功を確認したムラマサは、電光のような素早さで山本の体を担ぎ上げると千秋の手を取った。
 千秋を避難させ最寄りの男子トイレの個室に山本を押し込めたムラマサは、千秋に語りかけた。
「千秋=サンは、ここにいてください」
「はい」
 頷く千秋に頷き返したムラマサは、一足飛びに戦場へと駆け戻った。
 ムラマサの背中を見送ったアーシャは、山本のだらしない背広に苛立ちを覚えた。
「あームカつく。自分より弱いの痛めつけて、なにが楽しいんだっつうの。自分より強い相手とやりあわねーと、全然修行になんねーだろ!」
 苛立ちを叩きつけるようにスカートをたくし上げたアーシャは、猛ダッシュすると騎士団員に迫った。
 不意打ちの足払い。転倒した騎士団員を踏みつけて戻ったアーシャに、立ち上がった騎士団員は憎々しげな声で吐き捨てた。
「エインヘリアルになることこそ千秋の幸せだというのに!」
 騎士団員の声に眉をピクリと上げたキアリは、獣化させた拳を握りしめると騎士団員へ向けて叩きつけた。
「ヴァルキュリアの女性たちがアスガルド勢力内で奴隷同然の扱いを受けていた時、あなたたちは何もしていなかったわ。それが今さらどの面を下げて女性の味方を謳うわけ?」
 咄嗟に防御した騎士団員は、キアリの言葉にギリ、と歯を食いしばる。
「お前たちに……何がわかる!」
 もの凄い気迫と共に放たれた蠍座のオーラが後衛を薙ぎ払う。
 騎士団員を蹴りつけた猫助は、間近に着地すると騎士団員に話しかけた。
「第四王女レリって、目的は何なんすか? もしそれが女性を救うことなら、一度会ってみたいっす!」
「王女がお会いになる訳がないだろう!」
「ところで王女レリって美人っすか? なら絶対口説きに行くっす!」
「戦闘中ですよ」
 たしなめるように言ったエステルは、ケルベロスチェインを地面に展開させた。
 描かれる魔法陣から光が放たれ、前衛を防護で包み込む。
 同時に、雷の壁が前衛を守護するように出現した。
 防護を得た辛夷は、零式十手を握りしめるとエクトプラズムの刃を形成した。
「夜明けの光、闇を切り拓くッ!」
 車輪のような光波は騎士団員を切り裂き、その防護を弱めていく。
 あかりとエステルの回復に矢傷を癒やしたライスリは、床を蹴ると大きく飛翔した。
「狩りの時間だ! 急上昇、急降下爆撃機に如く! ゼロ距離の全力ファイヤー!」
 鷹のように急上昇したライスリは、騎士団員めがけて突撃急降下を仕掛ける。
 ゼロ距離に迫った時、全力のドラゴンブレス。猛烈な爆風が収まった時、騎士団員の姿はそこに無かった。
「おのれケルベロス!」
 叫んだケルベロスは、ライスリへ狙いを定めるとハートクエイクアローを放った。
 心を貫くエネルギーが、ライスリの心を強く揺さぶった時、疾風が駆け抜けた。
「乱れ打つこと、迅雷の如し。参るぞ! イヤーッ!」
 シャイターンへ向けて踏み込んだムラマサ。その手に持つのは如意棒。
 瞬間、無数に分身した如意棒がシャイターンを無慈悲に連打する。
 ポーズを決めるムラマサに、シャイターンは自分に祝福の矢を放つ。
 シャイターンが倒されるのに、時間はかからなかった。


 床の上に置かれる山本を掴んだエステルは、襟をつかんだ手をより手前にもっていくように背負投を放った。
 頭を打たないものの、背中に一瞬息が止まるくらいの衝撃を受けた山本は、起き上がると目を見開いた。
「千秋ぃぃっ! ここにいたのか!」
 千秋の姿を見た山本は、怒鳴り声を上げると萎縮する千秋に向けて拳を振り上げながら駆け寄る。
「やめなさい」
 振り上げた拳を掴んで止めたエステルは、眉を吊り上げる山本に毅然と言い放った。
「デウスエクスほう助罪。責任をとって。養護施設を辞めるか、もう一度、今度は屋上の外に向かって投げられるか。今すぐ決めて!」
「は? 俺が誰だか分かって……」
「お前が誰だろうと。自分がしたことの罪は贖わせるぜ」
 山本や教師、そして今まで千秋を救えなかった自分に対して怒る猫助は、山本に対して罪状を述べていく。
 顔を真赤にした山本は、千秋に向けて怒鳴りつけた。
「お前のせいでこんな! 覚えていろ……」
「黙れ下種」
 怒りを湛えた目で山本を睨んだアーシャは、縛られた山本の肩をゆっくり叩く。
「あんたには、ケツの毛毟ってでも責任とってもらうぜ。何なら、今、目の前で毟ってやろうか?」
 凄むアーシャの迫力に、今度は顔を青くする。その様子に、小さく肩をすくめる。
「……冗談よ? こんな汚そうなケツなんて、みたくも触りたくもないわ! 専用バリカンが要るわね?」
「もしあなたが千秋に逆恨みするなら……」
 キアリはケルベロスカードを取り出すと、千秋に手渡した。
 事態を飲み込めない千秋の肩を叩いたキアリは、山本に向けて宣言する。
「私は千秋に対して、最大限の支援を約束するわ」
 口をパクパクさせる山本をよそに、アーシャは千秋に歩み寄った。
「あなたは、山本を追い込むのを頑張る気はある?」
「……はい! きょうだい達も……ううん、私みたいな子どもたちを守るためにも、がんばります!」
「いい子ね。ならわたくしも手伝うわ」
 微笑んだアーシャは、ケルベロスカードを千秋に手渡した。
 二枚のケルベロスカードを手にした千秋に、猫助もまたケルベロスカードを手渡す。
「自分はケルベロスの活動を少し自粛してでも、千秋達の施設、組織の改善に全力を尽くすっす! 軌道に乗るまで施設運営の手伝いもするっすよ!」
「今度は一人じゃないよ、僕たちがついてるから」
 決意を新たにする千秋に、あかりもケルベロスカードを手渡す。
 立ち上がったあかりは、もはや紙のような顔色の山本を振り返った。
「この四枚のケルベロスカードが何を意味するか、あなたなら分かるわよね?」
 がっくりとうなだれた山本の縄を掴んだ辛夷は、毅然と宣言する。
「山本さん、署まで同行をお願いするよ。任意じゃない強制でだ。こうなった原因を明らかにしなくてはね」
 連行される背中を見送ったムラマサは、月を見上げて呟いた。
「此度は無事に済んだが……人の悲壮を利用するなど言語道断。デウスエクス……許すまじ!」
 拳を握って決意を新たにするムラマサの肩を、ライスリは叩く。
「無事終了で何より。……よし、焼き肉だあああ」
 ライスリの宣言に、ケルベロス達は焼肉屋へと向かうのだった。

作者:三ノ木咲紀 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 5/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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