咎ノ徒花

作者:朱乃天

 丘の上にある展望公園に、桃色の花の絨毯が敷き詰められている。
 秋の薫りを感じる夜風が吹き抜け、ピンクの花弁がゆらゆらと、右に左に舞い揺れる。
 一面に秋桜の花が咲き乱れる公園を、満天の星の光が淡く優しく照らし出す。
 穏やかな秋の空気に満ちた夜の花園は、周囲に人の気配も見当たらず、自然が織り成す静かな世界に包まれていた。
 ――しかしその静寂を打ち破ろうとする、不気味な影が暗闇の中で蠢いた。
 虚空を漂う三つの青い光。それは冥府の死神達が放つ死の光。
 怪魚の姿をした死神達が、空を泳ぐと青い光が尾を引いて、大きな魔法陣を描き出す。
 するとそこから眩い光が溢れ出し、その中心部に不気味な影が顕れる。
 それは嘗てこの地で災厄を撒いた異形。ゴシック調の黒衣を身に纏い、レースの布で目元を覆ったエインヘリアル――『ウィキッドアイ』だった。
 一度ケルベロスに滅ばされた筈の魂が、死神達に召喚されて再び現世に蘇る。
 斯くして新たな生命を得たエインヘリアルは、変異強化によって下半身が巨大な眼球状に変貌し、浮遊しながら歓喜の叫びを響かせる。
 その声を聞きつけたのか、上空から更にもう一体の巨躯の戦士が落下して、地響きを轟かせながら降り立った。
 黒い拘束衣に身を包み、口元をカラスマスクで隠したスキンヘッドの大男。
 全身から異質な気配を醸す罪人エインヘリアルは、ククッと冷笑しながら公園から見える街明かりに視線を移す。
「……ここは血の臭いがする。飢えと渇きを満たすには――丁度良い場所だ」

「嫌な予感はしていましたが……まさかこんな事態になるなんて……」
 秋桜の咲き乱れる丘にデウスエクスが現れる。
 百鬼・澪(癒しの御手・e03871)の推測は現実となり、事件を予知した玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)がケルベロス達に招集をかける。
 最近活発な動きを見せている死神勢力による、ケルベロスが倒した罪人エインヘリアルをサルベージする事件。死神達は変異強化させたエインヘリアルを、デスバレスへ持ち帰ろうと企んでいる。
 更に今回は、新たな罪人エインヘリアルが現場に出現することまでも予知されている。
 これについてはおそらくは、エリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)が危惧していたような、サルベージの援軍をエインヘリアル側が送り込んだのだと思われる。
「サルベージされたエインヘリアル、ウィキッドアイは7分後には死神によって回収されてしまうんだ。それまでに撃破できればいいけれど……」
 今回の事件における最大の障害は、死神達ともう一体のエインヘリアルだ。
 ただでさえ、二体のエインヘリアルを相手に戦うことは、かなり厳しい状況だ。しかも、増援のエインヘリアルを討ち漏らした場合は、一般人にその被害が及んでしまう。
 周辺に人はいないが、戦闘区域外の避難は行われていない。事前に避難させると、相手はサルベージの場所を変える為、この事件を阻止できなくなってしまう。
 従って、増援のエインヘリアルを倒す以外に被害を食い止める手段はないというわけだ。
「今回戦う二体のエインヘリアルの内、サルベージされたウィキッドアイは変異強化の影響で理性を失っていて、攻撃パターンも違うんだ」
 例えば魔力で目玉の形の爆弾を作って飛ばしたり、下半身の巨大眼球から、目も眩むような光を発して意識を混乱させるらしい。
 そしてもう一体、『ジャックロウ』と名乗るエインヘリアルは、刃が湾曲した奇怪な剣を使い、呪いの力で相手を甚振るように攻撃してくるようである。
 また、三体の怪魚型死神は戦闘力自体は高くないものの、エインヘリアルを守るように行動するので厄介だ。
 二体のエインヘリアルを倒せるならば、それに越したことはない。しかし敵との戦力差がある以上、こちらも相応の覚悟で立ち向かう必要がある。
 ウィキッドアイが回収されれば、死神の戦力増強に繋がってしまう。片やジャックロウを取り逃すと一般人が虐殺される為、そうした事態になることだけは阻止したい。
 何れにしても、この戦いは苦戦が予想されるので、どちらか一体だけでも撃破できれば構わないと、シュリは言う。
 そう伝える彼女の言葉に、澪は大きく頷いて、強い決意を込めて誓いを立てる。
「ええ、この手で必ず倒してみせます。死神の思い通りになんて――絶対させません」


参加者
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)
リシティア・ローランド(異界図書館・e00054)
フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)
平坂・サヤ(こととい・e01301)
百鬼・澪(癒しの御手・e03871)
茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258)
ピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)
款冬・冰(冬の兵士・e42446)

■リプレイ


 銀色の星の光に照らされた、幻想的な桃色の花の園。
 鮮やかに美しく咲き乱れるコスモスの花とは対照的に、そこに怪しく蠢くのは災い招くエインヘリアルの魔女。
 以前にこの地でケルベロスによって倒された『ウィキッドアイ』。その怨念の如き魂が、死神の力で変異強化され、再び現世に蘇える。
 黒衣を纏った元の人型に、醜く膨れ上がった眼球状の下半身。巨大な目玉に人の上半身が乗っているかのような禍々しい異形に変じているのは、正に死神の為せる業であろう。
 新たな生命を得た魔女を、もう一度闇に葬り去るべく、因縁の地にケルベロス達が集う。
 嘗て自身を殺した忌むべき敵を前にして、ウィキッドアイは怨嗟を籠めた叫び声を上げ、迫るケルベロス達を威嚇する。
「――嗚嗚呼呼阿阿亜亜亞亞呀呀ァァッッ!!」
 耳を劈くような金切り声が、大気を震わせ脳に直接響いて番犬達の足を竦ませる。
「気持ちで負けてはいけません。皆さんのことは、私達が支えます」
 常に絶やさぬ笑顔も今回ばかりは引き締めて。百鬼・澪(癒しの御手・e03871)が黒と赤とに塗られた木筒に霊力込めて勇壮なる風を巻き起こし、仲間の戦意を呼び起こす。
 しかし今回戦う敵はウィキッドアイだけではない。魔女に仕える鴉の如き、黒い拘束衣に身を包んだカラスマスクの大男。増援としてこの戦いに送り込まれた『ジャックロウ』が、行く手を遮るように立ちはだかった。
「罪深き番犬共の、血の臭いがする……。貴様達ならば、俺の渇きを満たしてくれそうだ」
 不気味な巨躯の怪人が、呪われし力を帯びた瘴気を発してケルベロス達の攻め手を阻む。
「エインヘリアルと死神さん、最近どこでも仲良しですねっ! でも、元気だけならわたしも負けないのですっ!!」
 身体を蝕むような呪詛であろうと、ピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)の前向きなまでの明るい輝きが、眩しい光を放って闇の力を打ち消していく。
「それでは、先ずは邪魔な死神達から片付けましょう」
 十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)が靴の踵をコツンと鳴らして願掛けし、魔女を守りし死神狙って地を駆ける。
 貴方が歩み出す先に、幸あれ――と。炎を纏いし両脚は、夜明けに昇る朝日のように煌いて。挨拶代わりに放った紅蓮の蹴りが炸裂し、直後に茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258)が巨大な鎌を投げ飛ばして追い討ちを掛ける。
 遠心力を加えて廻る刃は、血に飢えて。獣のように、死神を貪り喰らうが如く斬り刻む。
「さァて――二兎を追って獲りに参りやしょうか」
 三毛乃の言葉の意味通り、彼等が狙っているのはエインヘリアル二体を撃破することだ。その為には二体を守る死神達を先に始末しておく必要がある。
「道を塞ぐなら、そこを踏み越えていくまでです」
 平坂・サヤ(こととい・e01301)が脚に魔力を載せて放った蹴りは、星が煌めくような蒼い光の標となって。行く手を遮る死神に、道を切り拓かんと叩き込む。
「今ここからが私の氷源郷よ。一面、返り咲くは極寒の輩。紅蓮の華……眠りなさい」
 ミステリアスな空気を醸す、リシティア・ローランド(異界図書館・e00054)が発動させる召喚魔法。抑揚のない、リシティアの冷たい声が響いて異界に通じる路が開かれる。
 身を鮮血に染め変える程の絶対零度の風が吹き荒れて、死神達を凍てる眠りの世界の涯に誘う。そこは桃源郷とは程遠い、紅色の地獄の園だった――。
「ドローン射出……攻撃開始」
 款冬・冰(冬の兵士・e42446)の周囲に飛来する、折り紙で作った椿の花の形を模したナノマシンの群れ。冰は波長を合わせるように指示を出し、死神を取り囲んで全方位からの粒子砲を撃ち込んでいく。
 ケルベロス達は死神の一体へと火力を集中させて追い込んで。そして手負いの死神に、止めを刺そうとフェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)が魔力を杖に集束させる。
「命を弄ぶ、それは神様の領域。その神域を犯した君たちを、神様は許さないから――」
 集めた魔力は刃の形を生成し、フェクトがそれを振り下ろす。力などは必要ない、神話を再現させた神の奇跡の一撃は――海を割るかのように死神を真っ二つに断ち、幸先よく最初の一体を撃破する。


 残る死神は後二体。その最奥にいるエインヘリアルの魔女に攻撃を届かせるには、早々に邪魔者を排除する以外に手段はない。
 ケルベロス達は勢いに乗って攻勢を掛けたいところだが、更なる試練が番犬達を襲う。
 ウィキッドアイの巨大な目玉が輝いて、漆黒の光が前衛陣を呑み込んでいく。ケルベロス達は光を直視せぬよう瞼を閉ざすが効き目なく、邪悪な光は彼等の心までもを眩ませる。
 醜悪な魔女の眼球は、番犬達の目には甘美な果実に映って視えているようで。
 魔性の光に魅せられ惑わされ、魔女が差し出す毒林檎の味は、悲劇を悦ぶ蜜の味。
 禁断の果実を求めて仲間同士で奪い合う、魔女が描いた残酷劇のシナリオに、彼等は踊らされてしまうのか――。
「そんな悲しい結末にはさせないのですっ! わたしが、みんなを笑顔に戻すのですっ!」
 ピリカが真っ赤なハートの形のスイッチを、押すと極彩色の煙が派手に立ち上る。
 カラフルポップな煙の彩が黒き悪夢の世界を塗り替えて、仲間を現実世界に引き戻す。
 ピリカと澪の、癒し手二人の支援のおかげで最初の危機を切り抜けて。彼等はその後も順調に、残った死神達を各個撃破で葬っていく。
「回収まで後4分。これより標的を、『邪眼の魔女』に切り替える」
 3分で死神全てを倒し終え、冰が時間経過を確認しながら仲間に伝達。
 残り4分間でエインヘリアルを撃破するのは容易なことではない。それでも可能性がゼロではないのなら――ケルベロスなら自らの手で掴み取ることも不可能ではない筈だ。
「私達ケルベロスの力を、あのエインヘリアル達に思い知らせましょう」
 泉が伸縮自在のステッキを、紳士然と振り抜きながら踏み込んで、鋭い突きが放たれる。
「ええ。やれるだけのことは、やり通してみせましょう」
 サヤが魔法の杖を揮うと鴉の姿に変化して。魔力を籠めてウィキッドアイに射出、羽搏く鴉の嘴が、鋭利な槍のように魔女の脾腹を貫き穿つ。
「一度、潰えた身なのだからそのまま消えてしまえばいいものを。死して尚、害を為すのは鳥以下ね」
 語る言葉は淡々と。無機質とすら言える鉄面皮のリシティアの、敵を見据える瞳に宿るは冷酷なる殺意。
 心の内に秘めたる闘志が、脚を伝って炎と化して燃え上がり。リシティアは表情一つ変えることなく、熱く灼けつく蹴りをエインヘリアルの魔女に見舞わせる。
「お前さん、目玉にとかく執心していたそうじゃァありやせんか」
 地獄の炎が盛る右目を見開きながら、三毛乃が魔女の邪眼を睨め付ける。
 右腕一本で、軽々と重い機銃を振り回しながらの乱れ撃ち。烈しく火を噴く弾雨がエインヘリアル目掛けて降り注ぐ。

 ――可能な限りの全ての火力をウィキッドアイに重ねるケルベロス達。
 エインヘリアル二体の猛攻撃に耐えながら、戦闘開始から一人の脱落者も出さず、5分が経過した。後は残された2分でどう戦うか、相手の消耗度を見極め、次の一体への対処も視野に入れ、彼等が下した決断は――。
「各員、このまま標的への継戦持続。これより総攻撃を開始する」
 それぞれの意思が一致して、冰の合図と同時に一気呵成に攻め立てる。
「悪い人だからって、死んだ後に好き勝手されていいワケがない!」
 生前は極悪非道の罪人だろうと、死んだ魂を、思うが儘に操る死神達にフェクトは憤りを隠せない。だから二度と目覚めることのないように――ライフル銃から生命力を凍結させる冷気のビームを冰と合わせて発射する。
 片やエインヘリアル二体も威力の高さで押し返し、攻防はより激しさを増していく。
「捨て身の覚悟で来るのは、実にそそるな。嬲り甲斐がある」
 ジャックロウが喉を鳴らしながら愉悦して、鉤爪のような湾曲した奇怪な刃で薙ぎ払う。その一閃に、ここまで盾役として仲間を守り続けてきた花嵐とプリムの箱竜二体が、ついに体力尽きて消滅してしまう。
 更にウィキッドアイが魔力で無数の目玉を造り出し、眼球型の爆弾が、澪の方へと向けられ彼女に襲い掛かろうとした、その時だった――。
 サヤが咄嗟に澪に飛び付いて、覆い被さるように身を挺して彼女を庇う。直後に邪眼の魔女の眼球爆弾が、一斉爆発してサヤはその衝撃を一身に浴びてしまう。
「……サヤのことは、大丈夫です。それよりも、早くあっちの方を何とかしないと……!」
 背中に受ける痛みを堪えつつ、少女が促す言葉に澪は大きく頷いて。弓に妖精の加護を宿した矢を番え、狙いを定めて撃ち放つ。
「死神の思い通りになど、決してさせません!」
 不諦を告げる弦の音と共に、矢は風を切り、桃色の花弁を散らして一直線に魔女の邪眼に突き刺さる。が、それでもウィキッドアイはまだ倒れない。
「――ならばこの一太刀で決めましょう」
 次の一撃こそが最後のチャンスだと、泉が宵の刀身秘めたる太刀を抜く。
 ヒトツ――と、呟きながら距離を詰め、無駄な動きを一切省いた正確無比の剣術は、目にも止まらぬ速度でエインヘリアルの魔女の巨躯を斬る。
 煌く刃の軌跡に朱色の飛沫が夜空に舞い、その手に伝わる手応えを、泉は噛み締めながら相手の方を振り向くと――薄く微笑み浮かべて佇むウィキッドアイの姿が視界に入る。
 ――ケルベロス達は『彼女』を倒し切れなかったのだ。
 7分間の制限時間は無情に過ぎて、ウィキッドアイの真下に敷かれた魔法陣から青い光が溢れ出る。そして光はウィキッドアイの巨体を包み込み、邪眼の魔女は魔法陣に吸い込まれるように消えて回収されて行く――。
 全力を尽くしはしたが、後一歩が届かなかった。運が向かなかっただけ、と言ってしまえばそれまでなのかもしれないが。しかし彼等の戦いは、まだ終わったわけではない。
 何ともし難い歯痒い思いを押し殺し、残っているもう一体との戦いに備えて、急いで体勢を立て直そうとする。だがそうして生じた僅かな隙を、ジャックロウは見逃さない。
「甘いな。脇がガラ空きだ」
 カラス男の鉤爪刃が、泉を襲って斬り裂いた。
 総攻撃の代償か、回復役の手番は間に合わず、防御も及ばず、直撃を食らった泉に抗う力はもはや無く――握り締めた刀が手から離れて膝を突き、意識を失い身体は糸が切れるように崩れ落ちてしまう。
「泉さん……っ!?」
 目の前で倒れていく彼を、澪が必死に支えるように抱き留める。
 ケルベロス達は一人を欠いた厳しい状況で、今一度凶悪なエインヘリアルに立ち向かっていかなければならない。
 この難局を乗り切る為にはどうするか……澪はピリカに回復は任せましたとだけ伝え、自身は前に出て、盾役として仲間を守り抜こうと覚悟を決める。
 斯くして、舞台は邪眼の魔女と番犬一人が退場し――死闘の第二幕が切って落とされる。


「貴様等番犬共は楽には殺さぬ。悶え苦しみながら、地に這い蹲るが良い」
 ジャックロウから放出される昏く澱んだ瘴気が大気を穢し、旧き呪いの力がケルベロス達を蝕んでいく。
「ヒールはまかせてくださーいっ!! みんなを明るくフィーバーさせちゃいますっ!!」
 すると今度はピリカが負けじと、薬液の雨を降らせて仲間を冒す滅びの力を解呪する。
 彼女を始めとし、長期戦への備えは対策済みだからこそ、仲間が倒れた時も動じることなく対応できる。互いを信じて支え合う、それが勝利に導く力だと――。
 ケルベロス達の強固な意志は強敵相手だろうと屈しない。何よりも、守るべき尊い生命の存在が、彼等の戦う歩みを進ませる。
「死んだからって、天国にも地獄にも行けるなんて思わないことだね!」
 金髪のツインテールが風に揺れ、フェクトが黒い鎖をジャックロウに投げつける。鎖はフェクトの念動力により、男の四肢に絡んで巻き付き、動きを抑え込もうと締め上げる。
「こっちも逃がさない。お前が死ぬまではね」
 更にはリシティアも、フェクトと同じように鎖の枷を投擲し、拘束させてジャックロウの巨体を捕縛する。
「おまえだけでも、此処で殺しますよ」
 サヤが書物を開いて頁を捲る。綴られている言の葉は、通りすがりの兆しの欠片。因に対する果をほんの少しだけ、不運に傾けるというだけの――。
 交わる点の上澄みが、反映するは曖昧且つ不確かなる因果律。希望と祈りは思想に非ず。感受性のみを追求した外法を以てして、男の罪を、負の塊を、顕現させてその根源たる魂に――裁きの楔を打ち込んでいく。
 ケルベロス達は流れるような波状攻撃で、手数を重ねて一気に畳み掛けて行く。敵の火力を封じることで被害を最小限に食い止めて、彼等はいよいよジャックロウを追い詰める。
「目標固定。ミケノ、後は遠慮無く」
 冰がアームドフォートの主砲の一斉発射で深手を負わせ、三毛乃に声を掛け、彼女に最後を託して入れ替わる。
 寡黙な女侠は口を閉ざしたままジャックロウに歩み寄り、左手の着物の袖から、愛用の銃を抜いて構えて突き付ける。
「――ブチ抜いてやりまさァ」
 三毛乃が人差し指に力を込めてトリガーを引き、虚空に轟く銃声六発。それら全ての弾丸が、寸分違わずジャックロウの眉間を撃ち抜いて――エインヘリアルの罪人は、命潰えて地に這い蹲るように倒れ伏す。
 一拍の間を置いて、戦場は静かな空気に包まれる。ジャックロウは二度と起き上がることはなく、男の骸が灰と化すのを見届けて――ケルベロス達の勝利で戦いの幕が降ろされた。

 戦闘で負った傷を癒しつつ、ケルベロス達はそれぞれに勝利の余韻を味わっていた。
 この激戦を乗り越えられたのは、歴戦の戦士でもある仲間達の協力があればこそ。
 そんな彼等の力でも、死神の回収を止めることは敵わなかったが、一般人に被害がなかっただけでも幸いだと言えよう。
 吹き抜ける秋の夜風を浴びながら、三毛乃は街明かりが灯るこの日の夜の風景を、眇める眸に焼き付ける。
 今回逃した獲物は大きいが、もしもまた再戦できる機会があったなら。その時は、改めて借りを返そうと、新たな決意を胸に誓う。
 昏倒していた泉も意識を取り戻し、目を覚ますと瞳の中には大切な人の顔が映り込む。
 そして横たわる彼の頭の下からは、柔らかくて暖かい感触が伝わってきて――泉は澪に膝枕をされながら、彼女の手厚い治療を受けていた。
「誰も、手折らせなどしません――花車、賦活」
 生命を活性化させる微弱電流を、彼の身体に流し込む。すると弾けた電流が、桃色の花弁のように風に舞い、愛しい人の表情に、生命の色が再び宿る。
 敷き詰められた秋桜の花の絨毯に、二人は暫しの間微睡むように身を委ね、互いの生の温もりを、肌と心で感じ合っていた――。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月2日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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