●発端
赤い翼がばさりと羽ばたく。
「お行きなさい、ブルチャーレ・パラミータ、メラン・テュンノス。ディープディープブルーファングの戦闘能力を自らの力としてみせるのです」
黒いマントが風に乗りそよぐ。
ブルチャーレ・パラミータはカツオ型、メラン・テュンノスはマグロ型だ。
女性が指さしたのは街の方角。命じられた2体の魚――魚型の死神は、人間を虐殺しようと街を目指して突き進み始めた。
●概要
アーウェル・カルヴァート(シャドウエルフのヘリオライダー・en0269)は集まったケルベロスたちに説明を始めた。
「京都府京都市で、2体の魚型の死神に襲撃される事件が起きようとしています。事件を起こすのは、ディープディープブルーファングを使役していた死神です」
ディープディープブルーファングを量産していた海底基地が破壊されたことで、作戦を変更したのだろう。
2体の魚型の死神は、カツオ型とマグロ型で、下級死神ではあるが、戦闘力がかなり強化されているようだ。
下級死神2体は全長5m程で、空中を泳ぐように移動して市街地に到着次第、住民の虐殺を行う。
「ディープディープブルーファング事件と、今回の事件がどう関係しているかは不明ですが、ケルベロスがやるべきことは変わりません。2体の魚型死神を撃破してください」
出現ポイントは京都の嵐山付近、観光客の多い地域だ。渡月橋、桂川、土産物屋、近くには竹林もある。
「2体の攻撃方法ですが、スターゲイザー、バスタービーム、制圧射撃、ストラグルヴァイン、猟犬縛鎖、それぞれのグラビティに似た攻撃をするようです。効果や範囲は一緒なので、これまでの戦闘経験から役に立つと思います」
周辺には山林もある。戦場となる場所も、山林か川や橋の上か、観光客が多い店が並ぶ遊歩道か。どこに陣取るかも重要になるだろう。
アーウェルはケルベロスたちの顔を見回した。
「まだ他にも目的がありそうですが、まずは目の前の被害を阻止しなければなりません。皆さん、宜しくお願いいたします!」
参加者 | |
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夜桜・月華(まったりデイズ・e00436) |
翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814) |
御子神・宵一(御先稲荷・e02829) |
タンザナイト・ディープブルー(流れ落ち星・e03342) |
志藤・巌(壊し屋・e10136) |
多留戸・タタン(知恵の実食べた・e14518) |
シフォル・ネーバス(アンイモータル・e25710) |
シトラス・エイルノート(碧空の裁定者・e25869) |
●戦闘開始!
京都市、嵐山付近の山林。2匹の魚が現れた。全長5メートル、カツオ型とマグロ型の下級死神は空中を泳ぐように移動する。
人が来るような場所ではないが、少し離れた場所に寺があるため、万が一来ないとも限らない。殺界形成をし、地形の確認も出来ている。
「……来たわ。食べ応えはありそうだけど、おなか壊しちゃいそうね」
翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)が駆け出す。まずはカツオ型から。稲妻を帯びた超高速の突きは、貫いた敵の神経回路をも麻痺させる。
「さあ、これは炙り!!」
ロビンと同時に多留戸・タタン(知恵の実食べた・e14518)が仕掛ける。ガトリングガンの連射音。爆炎の魔力を込めた大量の弾丸を放った。続いてサーヴァントでミミックのジョナが、偽物の財宝をばらまき敵群を惑わす。
人のいるほうへ行かせるわけにはいかない。続いたのは志藤・巌(壊し屋・e10136)だ。
「掛かって来い、魚野郎!」
巨大な鉄塊剣を腕力だけで御し、単純かつ重厚無比の一撃。
マグロ型が人里へ向かおうと方向を変えた。その巨体のために、山林の木々が薙ぎ倒され、周囲に轟音が響く。
「逃がしません、よ?」
狐媚の珠・改――コビノタマ・カイ。
マグロ型の足をこちらへ向けさせようと、御子神・宵一(御先稲荷・e02829)がグラビティを放つ。体内のグラビティチェインを解放して敵に投射し、その魂を強く惹きつける業。投射するグラビティチェインに強い指向性を持たせ、対象は1体に限られるがより強力な効果を発揮するよう改良したもの。この名は民話などに登場する、妖狐が所持し人を惹きつけ魅了する魔力をもたらす宝玉に由来する。
シトラス・エイルノート(碧空の裁定者・e25869)が、続けて一手を放つ。
「ハハハハハハ!!さあ行きなさい!!貴方達の積もり積もった恨みを!地の底で淀み続けた嘆きを!!全てぶつけてあげましょう!!」
深い闇の底に集いし怨嗟の呼び声――グリーフシンドローム。
シトラスのグラビティだ。黒き光を放つ指先で魔法陣を描く。その地に眠る幾万という怨嗟の念を残した亡霊の思いを引き摺り出し、魔法陣から影のような黒い手の群れと変貌させて、敵を捉えて纏わりつかせる。
「天地を……繋げっ!」
アセンションブレイズ。
タンザナイト・ディープブルー(流れ落ち星・e03342)のグラビティ。地獄から星界まで吹き上がる光芒を呼び出し、悪しき神を地球から祓った。
刻一刻と変化する戦況。包囲の隙を突くように、カツオ型が逃げ出そうとする。
「マグロって物忘れに効果あると聞きましたけど、さすがにこれは食べられませんわよね……あらあら、逃がしませんわ」
シフォル・ネーバス(アンイモータル・e25710)は、杖を小動物の姿に戻した上で、ペットに魔力を籠めて射出した。
夜桜・月華(まったりデイズ・e00436)が魔術回路を限界まで活性化する。
「すべての魔力を癒やしの力に――今、癒やしの波動を纏うのです」
月華剛健波動――ゲッカゴウケンハドウ。
月華の放つ驚異的な魔力の波動を対象にまとわせることで、ヒール能力を爆発的に増幅させる。月華がヒールについて真剣に考え、開発した技だ。
木々が攻撃の衝撃で揺れる。紅く染まった葉が地に落ちた。季節は秋の入り口、真っ盛りとはいかずとも、中には紅い葉も見られる。
「死神共の企みなんてロクでもねえことだろう。まとめてブッ壊してやるよ」
巌がカツオ型に電光石火の蹴りを放つ。
命中。
しかしカツオ型が囮だったのか、横からマグロ型が突進をかけてくる。
「……っ!」
吹き飛ばされる衝撃。
「ええと、何だったかしら。ああ、そうですわ」
シフォルはオーラを溜めてを回復させると同時に、状態異常を消し去る。
ロビンが大鎌を振り上げ飛んだ。
「頭の良いことね」
カツオ型の上空、刃に死の力を纏わせ、敵の首筋をめがけて振りおろす。
「そのまま、タタキにしてしまうのです!!」
タタンがハンマーを手に駆け出す。生命の進化可能性を奪うことで凍結させる、超重の一撃を放つ。
そのタタキを食べるつもりなのか、ジョナがタタキ……カツオ型に喰らいついた。
月華が攻性植物を黄金の果実を宿す収穫形態に変形させた。その聖なる光は味方を進化させる。
「ヒールは任せて欲しいのです。全力でみなさんを癒やすのです」
「……また厄介なことになったか」
脳裏での思案、そして宵一はぽつりと呟いた。刀を構え、走り出す。繰り出すのは、雷の霊力を帯びさせた神速の突き。
マグロ型がタンザイナイトへ向けて、腹部から内臓を捻りだしたような触手を放とうとする。
それをシトラスが遮る。
「死神の目的も不明といえど、今は退けることが先決ですね!」
流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りをカツオ型の頭上へ炸裂させ、敵の機動力を奪う。
シトラスがマグロ型の足を止めている間に、タンザナイトがカツオ型へと踏み込む。
「魚類のくせに、いい感じのお名前を!タンザにも分け……何でもないです!」
獣化した手足に重力を集中させ、高速かつ重量のある一撃を放った。
●中盤戦
2体を相手にした戦闘が続いていた。
マグロ型を足止めし、カツオ型に戦火を集中させる。土埃が、または木の葉が舞い、時に折れて鋭利になった枝が風に乗って舞った。
カツオ型から卵のようなものが多数発射される。制圧射撃に似たそれ。皆、回避をするがかすってしまったり、直撃を食らったり、複数人に及んだ。
「ううっ……これは、いたいのですよ」
タタンが膝をつく。腕や肩を押さえている仲間もいる。
「そういえば朝ごはんはまだでしたかしら……お腹すきましたわね。けれど、その前に……」
シフォルの死霊魔法、大地に塗り込められた惨劇の記憶から魔力を抽出し、仲間達を癒やす。
「まさか、基地の撃破も織り込み済み……ってか」
巌が踏み込み、巨大な鉄塊剣を腕力だけで御す。単純かつ重厚無比の一撃。
カツオ型がその一撃で飛ばされる。それを待ち構えていたロビンが古代語魔法で、古代語の詠唱と共に魔法の光線を放った。
「タタン、今よ!」
「では、いくのですよ~!!」
タタンがしゃがみこみ、高速で体を回転させながらジャンプして突撃する。ジョナはマグロ型を足止めしようと、エクトプラズムで林檎飴型こん棒を作り出し、それを振り回している。
「カツオはズケ、マグロはたたきで……美味しそうですね」
月華が攻性植物を黄金の果実を宿す収穫形態に変形させた。聖なる光が皆に向けられる。
事前にある程度役割や手段を決めているため、月華は回復役に回っている。
暴れるために木々が倒れ、轟音が響く。時折この戦闘から逃れようとしている鳥の声が聞こえる。
「そのズケやたたきにする2匹、ブラックスライムに食べさせてあげましょうか?」
シトラスがブラックスライムを捕食モードに変形させ、敵1体を丸呑みにしようとするグラビティだ。
ブラックスライムが捕まえたカツオ型に、タンザナイトが獣化した手足に重力を集中させた。
「……1匹め! 次はマグロ! ご期待するです」
高速かつ重量のある一撃。本当の魚よろしく、びちびちと跳ねたカツオ型が跡形もなく消えた。
「残りはマグロか」
宵一は祭壇から霊力を帯びた紙兵を大量散布した紙兵が仲間たちを守護した。
●決着
残りはマグロ型1体。攻撃と回復を繰り返し、確実に追い詰めている。これが決着の一手となるはず。
土埃、風に舞う木の葉、折れた枝が攻撃による衝撃波で吹っ飛び、時に枝はケルベロスたちの体を掠める。
「穿て……羅漢把心掌!!」
羅漢把心掌――ラカンハシンショウ。
巌のグラビティだ。心臓狙いの掌底。右掌で虎爪を形作り、心臓目がけて抉り込むようにして打つ。直撃した瞬間には大量の気を流し込み、相手の肉体と気脈を破壊する。威力こそ高いが、相手の気の流れを見切った上で寸分の狂いなく打ち込む必要があり、難度の高い技でもある。
「残りはおまえだけだ」
巌の攻撃により、飛ばされたマグロ型めがけて宵一が刃を向ける。空の霊力を帯びた刀で、敵の傷跡を正確に斬り広げる。しなやかな剣技と無駄ない動きは、刀剣士の名にふさわしい。
「パパ~ん、マンション買ってぇ~ん」
万蜜因果――ハニーマジック。
空気の読めない妹の為の問答集より。明らかに困難なお願い。しかしそんな台詞をタタンが詠唱として使用することで、多大なダメージを受けた仲間を可能な限り癒し、元気に立ち上がらせる技である。
ダメージは蓄積している。倒すまでもう少し。
「くちづけするわ、あなたに」
死招く乙女――メイデン。
ロビンの呪われたナイフによる一撃。口吻けは毒を孕んでいる。マグロ型の後方に回り込み、白き腕が触れる時、死はたやすく寄り添う。
アセンションブレイズ。タンザナイトの光芒が星界まで吹きあがった。
「これでタンザたちの勝ちであります! さあ、天地を……繋げっ!」
「すべての魔力を癒やしの力に――皆さんもう少しです!」
月華剛健波動――ゲッカゴウケンハドウ。
魔術回路を限界まで活性化し、月華は驚異的な魔力の波動を放つ。
「これで終わらせましょう、シフォルさん! ……貴方達の積もり積もった恨みを! 地の底で淀み続けた嘆きを!! 全てぶつけてあげましょう!!」
深い闇の底に集いし怨嗟の呼び声――グリーフシンドローム。
魔法陣から影のような黒い手の群れと変貌させて、マグロ型へと纏わりつかせる。
「時の彼方、空の彼方より来たれ、死をも飲み込む苦しみの水よ」
咎人の水――トガビトノミズ。
シフォルの苦痛魔法。世界にあふれる苦痛を力に変換し、グラビティで生み出した水の礫に乗せて敵に放った。
●その後
2体の死神が暴れた山林は、無残な景色に変わっていた。木々が倒れ、草花が萎れていた。
今は戦闘で破壊してしまった周辺の修復にそれぞれ当たっていた。
夏から秋に移り変わる狭間、山の色は葉の緑と紅が混ざり合っている。
シフォルが片付けの手を止めて、携帯を手にとった。
「あら、メールが来てますわね……帰りにコンビニで1万円のなんとかカードを10枚……それから裏の番号を送ればいいのですわね」
「……シフォルさん、それ本当に大丈夫なんですか……?」
それを偶然横で聞いていたシトラスが少し首をひねりつつ、問いかけた。
一方、少し離れた位置で修復や片づけをしていた月華がわくわくしながら笑みを浮かべて呟く。
「お土産を買いに行かないとなのです。レストハウスに帰ってみんなでカツオとマグロを美味しくいただくのです。楽しみなのです」
月華の言葉に真っ先に反応したのはタタンだ。サーヴァントのジョナも主人の手伝いをして、瓦礫を集めている。
「それは楽しそうなのです! ロビンさん、タタンたちも買って帰るのですよ」
「いいわね、お料理できる子にお願いしてみるのもありかしら」
ロビンの表情は薄いが、その変化は瞳に出る。慣れないと分かりづらいかもしれないが、付き合いのあるタタンには彼女が楽しみにしているのが、充分に伝わったようだ。
そんな話を聞いていたタンザナイトが呟いた。
「そういえば、カツオが美味しい季節でした。こいつらも、もしかしたら季節物デウスエクスなのでしょうか」
宵一は折れた枝を集めながら、戦闘中に途切れた考えを再びまとめようと口にしする。
「新たな技術を奴らが得ているのなら……」
「確かに厄介なことだが、そんなもん、俺らが潰してやるまでじゃねえか」
宵一の言葉が聞こえた巌が地下強く答えた。
周囲の修復を終えたケルベロスたち。この後の楽しみを思い浮かべながら、あるいはこの先の戦いに思いを馳せていた。
作者:宮下あおい |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年10月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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