夜の街を死が回遊する

■リプレイ

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　住宅街へと続く坂道は、薄暗闇に包まれていた。そこを泳ぐのは、カツオ型とマグロ型の死神二体だ。それは、傍から見れば夜の海を泳ぐ優雅な姿に見えたかもしれない。
「おいおいマジかよ……前回のヤツよりデカくないか？」
　暮葉・守人（墓守の銀妖犬・e12145）は、ライティングボールを地面に叩きつけて呟いた。守人の言葉に、思わずきゅるるとジェミ・ニア（星喰・e23256）はお腹を鳴らす。
「死神なのに、何であんなにぴちぴち活きが良いのですか！？」
「鮪に鰹に……小腹の空く見目です」
　同意は示すものの、藤守・景臣（ウィスタリア・e00069）の目は笑っていない。
「どうせならちゃんとしたマグロとカツオが食べたいわねえさくっと倒して海鮮丼でも食べようかしら……太る？」
「お寿司やお刺身の話じゃないのよねぇ……チャロ、その冷たい目をやめなさい」
　大弓・言葉（花冠に棘・e00431）は海鮮丼に思いを馳せ、アミル・ララバイ（遊蝶花・e27996）はウイングキャットのチャロの視線をたしなめた。いや、正確には視線でたしなめたのがチャロなのだが。
「煮ても焼いてもマズそうなんだケド、図体だけはデカいから焼き甲斐はあるかな、このクソ死神」
　……つか、デカくて目障りだから焼くと小早川・里桜（焔獄桜鬼・e02138）が言い捨てる。
「あちらも手を変え品を変え、よく侵攻を続けてくるものだ。相手の掌の上というのも少々気に入らないが……倒すしか選択肢が無いのなら、早急にご退場いただくとしよう」
　ビーツー・タイト（火を灯す黒瑪瑙・e04339）は目を細めた。魚型死神達が、こちらに気づいて加速してくるのに気づいたからだ。
「来ます。落ち着いて対処しましょう」
　リリベル・ホワイトレイン（微睡・e66820）が、そう仲間達に呼びかける。内心では初仕事で緊張している。しかし、回復役が頼りなくては仲間が不安になる――だからこその、余裕の演出だ。リリベルは呼吸を落ち着け、身構えた。
「活きの良い獲物は、此処で三枚おろしにしてさしあげましょう――さあ、御覚悟を」
　景臣が、眼鏡を外す。淡い藤色の瞳に、力がこもる――それは、死神を討ち滅ぼすという強い意志だ。
　段々と、死神達は加速する。加速して、止まる事なくケルベロス達へと突撃した。

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　ゴォ！　とカツオ型とマグロ型の突撃が地面を砕く。アスファルトは、意味をなさない。体長５メートルの存在が、高速で突っ込んでくる――質量とは、単純に脅威なのだ。
「早っ！？　暴走車かよ！！」
　守人の感想は、あながち間違いではない。まともに食らってしまえば、痛いではすまないだろう。
「見掛け倒しではないようですね」
　演舞がごとく優雅にステップを刻み、景臣がケルベロスチェインを操った。描かれる鎖の魔法陣、その中から里桜が跳んだ。
「まずは落ちろ、クソ死神！」
　里桜は、空中で大きく体を捻る。里桜の鋭い胴回し回転蹴りが、カツオ型の鼻先を強打した。大きく、カツオ型の巨体が沈む。そこへ、アミルが続いた。
「似ても焼いてもおいしくない魚なら、さっさと倒しちゃいましょ。そして深夜もやってる回転寿司屋に皆で行くのよ」
　キリっとした表情で言うが、中身が伴っていない。しかし、放たれたアミルの燃える回し蹴り、グラインドファイアがカツオ型の皮を焼き切った。
「メカのサメ型が出てるって聞いたから、こっちもメカかと思ったけど、生魚そのものね？」
「そもそも大きさが違うよ」
「そうね……大きさはちょっと違うみたいだけど」
　守人の指摘に、アミルが納得する。チャロが浄化の翼で風を吹かす中、守人は月華ー牙ーに雷をまとわせ、カツオ型に刃を突き立てた。
「おっと」
　猛攻を受けていたカツオ型が、急上昇する。守人は、素早く後退。ビーツーはドラゴニックハンマーを即座に変形させ、榴弾を叩き込んだ。爆発の飲み込まれ、カツオ型が失速する。
「逃がすか」
　ビーツーが、小さく手を振る。それと同時、ボクスドラゴンのボクスが尾の白橙色の炎を燃え上がらせ属性インストールで里桜を回復させた。
「行くよ、ぶーちゃん」
　言葉が時空凍結弾を、ボクスドラゴンのぶーちゃんがブレスを、同時にカツオ型へと撃ち込んだ。妖精弓から放たれた漆黒の矢が突き刺さり、ブレスが弾ける――カツオ型は、もがくように身をくねたせた。
「まだまだ――！」
　ジェミが胸部を変形展開、コアブラスターの光線を撃ち放つ！　ゴォ！　と鈍い爆発音が響き渡るものの、カツオ型は悠然と泳いでいた。
「まだ、足りませんか」
　ウイングキャットのシロハが吹かせる浄化の翼に合わせ、マインドシールドを里桜へと与え回復させてたリリベルがこぼす。強い……いや、硬いと言うべきか。五メートルの巨大さにふさわしい、耐久力を持っているのだ。それが二体、決して気を抜ける暇は存在しない。
　カツオ型とマグロ型が、空中で回遊する。それをケルベロス達は、取り囲んでいった。ここから先へは進ませないという決意を持って、ケルベロス達は死神達を迎え撃った。

●
　その戦いを眺める者は、いなかった。何故なら殺界形成によって、一般人は近づかない空間だからだ。住宅街の明かりが人々の営みならば、ここで行なわれているのは文字通り死を与える作業だった。
　特に、魚型死神には知能がない。そこにあるのは、ただ衝動と命令に従うという行動原理のみだ。
「来るよ！」
　守人の言葉と同時、カツオ型が弾丸のように卵を飛ばしてきた。その卵を、景臣が此咲で受け止め切り払う。
「動かないでもらいましょう」
　ジャララララララララララン！　と景臣のケルベロスチェインがカツオ型を空中に縛り付けていった。ギシギシ、と鎖が軋む。長時間拘束するのは、景臣でも無理だろう――しかし、一瞬でいいのだ。一人ではない、仲間と共に戦っているのだから。
「ここだ」
　カツオ型の上空、ビーツーとボクスがいた。臙脂色と白橙色の炎が、ヴァルカニクリザードへと――二つの炎をまとったファミリアシュートが一直線にカツオ型を捉えた。
「ねぇねぇ、クソ死神ー！　自分が殺られそうな気分はどう？」
　笑い、里桜が右手を頭上に掲げた。その動きを見て、ジェミも動いた。
「ま・しぇりみたいに上手くないケド……下手な鉄砲、数撃ちゃ当たるってね！」
　ガガガガガガガガガン！　と緋色の符がマスケット銃となってアスファルトに突き刺さっていく。安全装置など無い、炎による弾は込められ、撃鉄は既に起こされている――里桜はマスケット銃を取っては撃ち、取っては撃ち、炎弾の雨を撃ち込んでいく！
「餮べてしまいます、よ？」
　光源によって薄く伸びたジェミの影の中から、無数の矢が生み出された。その矢はジェミの意志によって、自由自在に動き、降り注いでいく！
　右から里桜の呪符：焚鬼の呪（ジュフ フンキノシュ）の炎弾が、左からジェミのDevour（ディバウア）による漆黒の矢が、縦横無尽にカツオ型へと迫り、撃ち抜き、貫き、穿っていった。原型など、残りようもない。カツオ型死神ブルチャーレ・パラミータが爆発四散した。
　その爆発の中を、マグロ型が通過する。その速度は海に泳ぐマグロの最高速度に匹敵、あるいは凌駕した。その突進を真っ向から受け止め、アミルが吹き飛ばされる。
「可愛くなあーれっ！」
「あら」
　即座に、言葉が掛け声ととも可愛らしい花でアミルを包む。その花が夜風に散ると、アミルの傷が治癒されていた――言葉の女の子は正義（キューティフル・ガーリー）だ。それに加えチャロが浄化の翼を羽ばたかせ、リリベルが聖光の癒し（セイコウノイヤシ）でアミルを優しい光で包んだ。
「……大丈夫ですか？」
「ええ、大丈夫よ。ありがとう」
　気遣うリリベルに、アミルは笑顔で答える。加速したマグロ型がもう一度Uターンしてくるのに対してシロハがキャットリングを放ち、ぶーちゃんが必死にブレスで迎撃していた。
「この子達も、とってもやさしいの」
　アミルは、様々な色のビオラを嘴に咥えた燕達を召喚。燕達が落とす花びらが、一時の癒やしをアミルに与えてくれた。そこで、アミルはようやく人心地ついたように息をつく。
「こっちだよ」
　守人はマグロ型にそう言うと、並走。電柱を足場に駆け上がると、空の霊力を帯びた月華ー牙ーをマグロ型へと振り下ろした。
（「なかなかに、厄介だ」）
　ビーツーは、マグロ型の動きを視線で追う。その動きは直線的で読みやすく思えるが、その速さと大きさが問題だ。あの速度で突っ込まれれば、巨体であることもあって回避も難しい――簡単に言えば、技量ではなく身体のスペックだけで戦っているのだ。
　だから読みやすく、だからこそ厄介だ。事実、受け方を間違えれば致命傷になりかねない。そうならずにすんでいるのは、リリベルやサーヴァント達の回復であり、適時回復に回る者達の判断ゆえだ。
　特に、ディフェンダーの動きが大きい。それぞれがフォローしあい、無理はしない。だからこそ回復が間に合い、危険な橋を渡らずに戦線を維持できていた。
　二体であったからこそ、脅威であった。だから、カツオ型が落ちてしまえば戦況はケルベロス側へと傾いていく――。
「――！！」
　マグロ型が、空中を舞う。その動きは優雅でさえあった――触れれば命が危ない、という事を抜かせば。
　不意に、マグロ型の腹部から内蔵が飛び出した。その内臓の触手は、真っ直ぐにアミルへと伸びる！
「もう、産卵も触手も気持ち悪いったら！　そう簡単に絡めとられる訳にはいかないの」
　アミルは左右へステップ、内臓の触手を見事に掻い潜っていく。それでも追おうと触手が動くが、その触手をチャロのキャットリングが弾き飛ばした。
「我が敵を穿て雷光！！」
　守人が、膨大な霊力を宿した月華ー牙ーを、下段から振り上げる。放たれた紫電の斬撃が、内蔵触手達を根本から刈り取っていった。
「これはオマケよ」
　そして、アミルの腕から伸びたブラックスライムが槍となってマグロ型を刺し貫く。まるで銛に貫かれたかのようにもがいたマグロ型へ、リリベルがシロハと共に駆けた。
　リリベルがマインドリングから放つ漆黒の弾丸と、シロハのキャットリングが同時にマグロ型を撃ち――。
「お願いします！」
「ああ」
　ビーツーが翼を羽ばたかせ、上昇。マグロ型がそれを視線で追おうとした瞬間だ、真下へと潜り込んだボクスがタックルした。細かい指示など、必要ない。ビーツーの動きを読んでのボクスの行動だった。
　だからこそ、上空でビーツーが攻撃を放つ時間が生まれた。
「収束、指向。――駆け抜けるといい」
　ビーツーが、電荷を蓄積させたヴァルカニクリザードを振るう――ドン！　と正確無比な直線軌道を描く光の弾丸となった電光が、マグロ型を捉えた。
　ビーツーの雷銃纏荷（トリガードアーム）を受けたマグロ型が、地面に叩きつけられる。
「マグロの解体はしたことないなあ……」
　言葉の脳裏に、マグロの調理法が思い浮かぶ。刺し身、たたき、スシもいいし、丼もいい。少し視点を変えてマグロのステーキとか、フライトかも……。
「ま、デウスエクスだからそこまで考えなくていいわよね☆」
　言葉に「自分、食べるならお魚よりハンバーグがいいっスぅ」と言いたげなぶーちゃんが続く。言葉のスターゲイザーの跳び蹴りと、ぶーちゃんのボクスタックルが同時にマグロ型を地面に釘付けにした。
「カツオだろうが、マグロだろうが焼き尽くしちゃえばどっちも同じ……ってね！」
「ちょっといい匂いするだよねぇ」
　里桜の熾炎業炎砲が、ジェミの崩枝の投擲が、マグロ型を捉えた。ジュア！　と皮が炎にあぶられ、いい感じに焦げていく――そこへ、景臣が駆け込んだ。
「――火加減は苦手でして」
　踊るは幽けき紅蓮、剣舞がごとき美しい一閃がマグロ型を両断した。此咲を鞘へと納め、景臣は呟く。
「――――」
　その名は、景臣にしか届かない。否、あるいはその名の主には届いたか――弔いの炎のように、マグロ型死神メラン・テュンノスは焼き尽くされた……。

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　戦いが終わった後に残されたのは、盛大な破壊の跡だった。
「これを直して、終了ですね」
　やり遂げた、その事に安堵の笑みをこぼしてリリベルが言った。ケルベロスとサーヴァント達が手分けをすれば、大した手間ではない。瞬く間に、破壊の跡は消えていった。
「それにしても『ディープディープブルーファングの戦闘能力を自らの力とする』って、どういう意味だろう」
　ふと、思い出したようにジェミがこぼす。それを知るのはきっと、赤い翼の死神だけだろう。
「あの死神達の名称や外見に、魚の学名の類似性があったのも興味深い」
　ビーツーも、自分の中に浮かんだ疑問を口にする。デウスエクスのやる事だ、その隠された意図にどんな陰謀が隠されているかわかったものではない。
　まずは、被害を出さずに終わった事を喜ぶべきだろう。住宅街の明かりを見て、景臣が呟いた。
「――後は、穏やかな夜のしじまが残りますよう」
　夜が明ければ、朝が来る。いつもと同じ、繰り返しの朝が。それまでしばしの静けさを――そのために、ケルベロス達は戦ったのだから……。

作者：波多野志郎	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年9月28日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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