ビューティフル・ライフ

作者:東間

●襲撃
 温かなもちもち食感。ほのかな甘み。その後に控えていた生クリームは、舌の上で滑らかに。その後に広がる、チョコソースの香りと真っ赤な苺の甘酸っぱさときたら。
「シンプルだけどすっごい美味し……! えー、他のも買えばよかった。売り切れてそう」
 そう言って桜庭・萌花(蜜色ドーリー・e22767)は苺クレープをもう一口。
 SNSで話題になっていたので寄ってみた、移動販売型のクレープ屋。店もとい車の前は結構な賑わいだったから、こうして移動し、クレープとのツーショットを撮ってから味わっていたのだが。
「んー、また今度行けばいっか。ごちそーさまっと」
 残った包み紙はくしゃくしゃにしてベンチ脇のゴミ箱へ。
 カサカサ、スコン。いつもより大きく聞こえた音が何だか引っかかる。
 誰かがコンクリの壁に残したクールなスプレーアート。隅に置かれたベンチ複数に、それとセットになっているゴミ箱。この時間帯なら、学校帰りの学生や散歩中の子連れなど必ず誰かいるものなのに。
「……帰ろっと」
「それは許可出来んな」
 頭上から声。自分を覆うように落ちる影。
 咄嗟に飛び退き振り返ると、ふわり踊った淡いピンク髪の向こうで美丈夫が微笑んでいた。つま先から頭の天辺まで、じっくり見られる。
 相手がただのイケメンなら問題はないが、その背丈は普通の人ならばあり得ない程。見上げ続けていると首が痛くなりそうな、その特徴は。
「エインヘリアルのおにーさんが何か用?」
「いやなに、貴様、若い上になかなか美しい。特に目だ。海や空を集めた宝石のようだ」
「ありがと。じゃね」
「待て。美しいまま時を止めてやるからそこに立て。なに、汚しはしない。美しく終わらせるのが俺の信念だ」
「……えー、自分勝手。ていうか絶対その剣でやるでしょ? お断り。それに、ね」
 指に絡めた髪が引っかかる事なく流れ落ちる。乾燥し始めた空気に唇や肌が悲鳴を上げる気配はない。それもこれも全て、萌花自身が培ってきた努力とテクニック、そして日々進化を遂げるコスメの賜物だ。
「女の子って自分の頑張りで綺麗になれんの。最近は男の子もだね。だから、おにーさんの手は必要ないよ」
 とは言え、ゆっくり距離を詰めてくるエインヘリアルから逃げ切るのは至難だろう。
 萌花は『どうしよっかな』と考え──くすっと笑った。多分、大丈夫。
「でも、いーよ。もなが相手してあげる」

●ビューティフル・ライフ
「花房、桜庭を知らないかい」
「? ええ。……何かあったのね」
 普段は笑顔で、それなりに落ち着いているラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)が見せた厳しい表情。
 それで察した花房・光(戦花・en0150)の目は、萌花がエインヘリアルの襲撃を受けると告げられた瞬間、見開かれる。
「大変、急いで加勢しないと……!」
「頼むよ。予知の中でも桜庭はいつもの彼女だったけれど、たった1人でデウスエクスの相手をするのは流石に骨が折れるだろうから。さ、ヘリオンに乗って!」
 萌花を襲撃したのはジュールという名の、若く美しい姿をしたエインヘリアルだ。
 恐らくは、『標的の美しさを保たせる』といった口実のもと、これぞと思った標的を殺しているのだろう。標的を殺す際、ジュールなりの信念を持って行っているようだが──。
「美しいからって理由で殺されるのはごめんだね。うん」
「私も嫌ね。それに、『美しい時』って、この先の未来にも沢山ある筈だわ」
 ジュールの攻撃手段は、手にした剣による斬撃や魔法だ。
 ヒールグラビティは持っていないらしい。必要ないと考えているのか、それとも、標的の美しさを残す為に不要という考えなのか。そこは、ジュールにしかわからないだろう。
「ジュールが何かしたのか現場に一般人はいない。近付く事もなさそうだから、みんなは桜庭の救援とジュールの撃破に集中してくれ」
「ええ。勝手なひとに、桜庭さんをやらせはしないわ」
 光が凛と頷き、ラシードも表情を和らげてこくりと頷く。
 現場には萌花と、彼女を狙うジュールだけ。
 そこに仲間という存在が降り立つまで──あと、少し。


参加者
レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)
草間・影士(焔拳・e05971)
香・褐也(盲目ディストピア・e09085)
藍染・夜(蒼風聲・e20064)
桜庭・萌花(蜜色ドーリー・e22767)
柳居・可祝(長閑人・e36906)
近衛・皐月(幼きゲートバスター・e41817)

■リプレイ

●美と番犬
「時よ止まれ、汝は美しい。的なことをもし言うなら、ねぇ、おにーさん負けちゃうよ?」
 悪戯な猫のように、桜庭・萌花(蜜色ドーリー・e22767)の目が街灯の白を映して煌めいた。それを見てか、はたまた『負ける』と予告されてか。ジュールが楽しげに首を傾げる。
「あたしが少女にして悪魔だとしたら、おにーさんの魂を貰い受けるのにこれ以上の適任なんて存在しないんだから……なぁんて、ね?」
 自分を求める誰か。自分に向けられる感情。
 それを喜びとする自分の心は、間違いなく『今を』楽しんでいる。
「若く美しいあたしが欲しいというなら死合うまで。さぁ、どちらが若さと美しさの前に膝をつくか、命を賭けて競いましょ?」
 じっと萌花を見ていたジュールが、くつりと笑う。
「──面白い娘だ。そして、思った以上に美しい」
 同時。降り注いだ気配の群れが、2人の間でぴたり留まっていた時間を動かした。
 巡る鎖と小型無人機の羽音。ジュールに突き刺さる流れ星。
「おっさんの剣幕に何事かと思ったが。なんだ、お楽しみ中でした?」
「萌花ねーちゃん、大丈夫!?」
 サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)は鎖奔らせながら振り返って、ニィと笑み。近衛・皐月(幼きゲートバスター・e41817)はジュールを目にとめ、むぅっと頬を膨らます。
「お待たせ。巨人に負けない美丈夫の揃い踏みだよ」
 間に割り込み微笑む藍染・夜(蒼風聲・e20064)の所作は舞うように。
 そして一気に羽ばたいた紙兵が戦場を更に彩った。
「先日の依頼でも世話になった故、手助けに参じた次第。さて、戦いを始めよう」
 レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)に続いた流星は、一気に駆けた香・褐也(盲目ディストピア・e09085)。蹴撃を受け止めた腕からみしりと音をさせ──間近にあるジュールの顔立ちに、褐也は『ははあ』と笑う。
「こりゃイケメンにナンパされよってからに。数増えたで? 幸せ者やんなあ萌花」
「ね。駆けつけてくれたのが美貌の集団とは嬉しい限り。類は友を呼ぶのなら、美貌もまた美貌を呼ぶってことかな。遠慮なく力を借りて目の保養にするね」
 そう言ってジュールへ視線流せば、刹那に視線も感情も全て交わり、巨躯を誇る美丈夫に甘美な痛みを残していく。
 くすっと笑った少女と出会った、あの日。襲撃の夜。きらきらとした瞳の奥に底知れぬ広さと深さを見て──その不気味さに逃げたが。
「……また奴はそんな風に相手しよってからに」
「なんか言ったー?」
「なぁんも」
 手をぴらぴら振ってジュールを見れば、向こうは萌花を助けに来た自分達を興味深そうに見下ろしていた。
「邪魔が増えた、が。ふむ……ふむ、ふむ。まあ、悪くない」
 楽しみが増えた。そう言って浮かべた笑みは美しく、薙いだ剣から放たれた星色の轍も目を見張るほどの輝きを放ち──後衛へ。同時、レーグルが竜尾で地面をバシッと打って飛び、小さな体を抱き込む。
 鋭く裂けた皮膚はそのまま、次に備えすぐさま敵へと向き直る背を見上げながら、皐月はまだ若い己の練度に唇を噛み締めた。悔しいがこれが事実だ。だからこそ。
(「皆の傷は僕が必ず治すんだ……!」)
 花房・光(戦花・en0150)の揮う扇は後衛陣に破魔の力と癒しをもたらし、ほぼ同時にスイッチ音。まずいと気付いても、草間・影士(焔拳・e05971)の爆弾が爆発する方が早い。
 それでもジュールは涼しげな表情のまま爆発の起きた腕を振り、迫った柳居・可祝(長閑人・e36906)の拳をひらりと躱す。しかし可祝は動じず、あらあらと敵に向き直った。
「毎日頑張ってて、活き活きとしている若い子はきらきらして美しいわよね。でもわかってないわ。この子はもっともっときらきらするのに」
 孫のように愛しく、そして自分を、活躍を応援したい1ファンにさせる少女。彼女の命、生き方が描く輝きを『止める』だなんて。
「そんな惜しいことはさせないわ」

●輝ける牙
「見守るということを覚えたら良いと思うわ。貴方の気に入った瞳の輝きが褪せることなんてありえないのに、せっかちね」
 年長者だからこそ説得力のある言葉に全くだ、と頷いたのは影士だった。
「時を止めるだ何だと。口説き文句ならキザなだけで済んだんだがな」
「随分と不評だな。若く美しいものは、永遠となるべきだろう?」
 だが、肩を竦めてみせたジュールが紡ぐ言葉は『殺し』文句にしかならない。
 支援に駆け付けたアイヴォリー・ロムも同意見で、萌花を狙ったイケメンをきっ! と睨む。
「美しいものを愛でる気持ちはわかります、が、その瞳は輝いて物語るから価値があるのです。時を止めるなんて――言語道断! 夜、イケメン度の違いを見せつけて!」
「俺には美しき女神がついている……いや、憑いている?」
 彼女の紡ぐ至極の一皿、贈られる絢爛の光に包まれながら夜は片目を瞑り、悪戯な笑みひとつ。美し過ぎて眩い姿に、乙女は『あっ今のウインク最高、世界一!!!』と、くらり。
 その向こう、箱竜・咲々の癒しが光を癒す中、大和・久遠は『あの日』の満月めいた軌跡を描きながら迫る。
「人は生きてこそもっと綺麗になっていくんだよ。萌花ちゃんの命の美しさは君に止めさせない」
「そう言われてもな、俺は永遠に留めたいと思った美を逃す気はない。まあ……」
 菫色の目がケルベロスを1人ずつ見て。笑った。
「一等青い輝きだけでなく、他の美を『そのままにする』のも一興か」
 端正な笑みだった。そこに添うのは『目的の為に』ただ『殺す』という、ある意味純粋ともいえる意志だが──それは、サイガの心に響かない。ただの宝石よりも強い宝石が好みだというなら多少趣味が合うかもしれないが、全ての輝きは生きてこそ。死ねばその煌めきは消え、そして見えなくなる。
「美しさ、ねぇ。まあ確かにピンクと青ってのはコレクト欲くすぐられっかも。喜べ、近い色にゃ染めてやれっから」
 鎖を鞭のようにしならせ、空を裂く勢いで青炎ごと叩き付けば、巨躯はサイガが言った通りの色に染まる。
 ふいに、腹が満たされた気がした。
 サイガと目の合った可祝はうふふと微笑み、彼女が展開した愛情という守りに包まれながら、レーグルも敵を見上げ竜尾をゆらり。
「本当に背が高いものだな」
 命短し恋せよ乙女、とはいうが、本当に短くなってもらっては困る。そう言って迸らせた地獄焔を攻撃に重ねて見舞えば、乙女たる萌花が『だいじょーぶ』と笑って駆けた。
「今年のクリスマス限定コスメ楽しみなんだよね」
 ジュールの心臓目がけ蹴りを叩き込んだその目は、自分を狙い襲撃仕掛けた男へと。
「そんなもなが目を惹く美少女なのは同意するし、」
「あは、ありがと」
 夜は飛んできたウインクを笑顔で受け取め、『詠月』の生む輝きを剣に変える。
「美学は人其々だけど、歩き続ける生の中でより輝きを増すのだと思うから」
 蝶の標本のように時を止めてしまっては、きっと――『勿体ない』だろう?
 一瞬で振り抜いた光剣とジュールの剣がぶつかり、幾度も火花を散らす。
 最初に落とした流星。敵が見せた星の轍。今は弾ける星屑のようなそれ。まるで此処が宵空化したようだ。
 こういう瞬間も、日々を煌かせ、美しい人生、美しき命となるのだろう。夜は自然と楽しげに笑む。侮りの色はない。均衡が僅かにずれた瞬間、逃さず光剣に力を込めジュールの胴を深々と斬り裂いて──ほらやっぱり、とショコラ色が細められる。
(「意志ある姿でなくては、こんなに魅力的には見えないのですよ」)
 溢れた血はアスファルトを一気に染め変え、巨躯が揺らいだ。
「っ……ヒールがあれば良かったか。だが、まあ」
 剣を支えにジュールが顔を上げる。コスモスに似た色の目が、笑った。
「動けるのなら問題はない。『続けられる』からな」
 確実に重ねられていくダメージを軽視しているのではなく、己に抗う輝きをただ楽しんでいるような。そんな目が、ケルベロス達へと注がれた。

●輝く時
 皐月はびくりと震えるも正面から視線を受け止めた。皆の傷は僕が必ず治す。その想いは何よりも強い本物で──視界がぐんっと動いた。
「って、わ、わわっ!?」
 腕を引いた可祝はにっこり笑顔。地面から空目指し突き上がった雷撃に『あらら』とふらつくが、光からの満月に微笑み、手にした杖を変化させる。
「子供は未来の宝だって知らないのかしら。さ、ハムスターさん。お願いね」
 小さくも頼もしいパートナーの魔弾が見事ジュールを捉えた直後、次いで浮かんだ白月はゆるり笑う褐也の月。
「分かってへんなあ、分かってへん」
 本当に。本当に。一発で終わりとか、なんて呆気ないんだろう! 自分のものにしたいなら、寧ろこの少女は遊びたい相手だろうに。
「勿体ないわぁ」
 殺す事で永遠に。頷けるのだが、軽いコレクションというのはやはり理解が出来ない。
 褐也が音もなく笑みの鋭さ増したその向こう、果てない白湛えた月光がジュールを魅了し──密かに蠢いたものが巨躯を縛っていって、
「……てか死体腐敗せえへん?」
 もっともなツッコミにジュールがあっさり頷いた。アイヴォリーや久遠の支援が素早く飛び交う中、楽しそうに微笑む。
「だが殺して保管するのが目的ではないのでな。故に問題はない」
 『美しい』と思った時に殺せば死ぬ。そこで生は終わり、時が止まる。故に美しさは永遠のものとなる。語る声に小さな番犬は首を振り、全身満たしたオーラを可祝へ贈った。
「それムジュンしてるもん。怪我したらちゃんと綺麗にしてから消毒って、お姉ちゃんにも口酸っぱくして言われるし! だから、ボクたちが綺麗な萌花ねーちゃんを……守るんだ! お前なんかに汚させはしないんだよぅ!」
 有無を言わさない否定と共に『お姉ちゃん』の姿が浮かび、萌花はくすりと笑って1歩。2歩。ヒール彩る桜色揚羽蝶がプリズムを散らし──愛でるには苛烈な星でもって巨躯を強かに蹴る。
(「ふむ」)
 初手からこれまで、ジュールの攻撃は後衛に向かっていた。特定個人を狙ったというより、癒し手3人がいる事と、まだ練度の若い2人を狙ってだろう。
 レーグルは仲間達へと一言告げ、両腕から噴き上がらせた地獄焔で『虹華鱗夜』を包む。焔纏った巨大な拳は自分より上にある顔面へと豪速で。
「皆よりも我の方が目線は近い。首が楽なのではあるまいか」
「っ、ふ。はは。ああ、そうだな」
 剣握った瞳に一瞬宿った激情が、その剣先をレーグルへと引き寄せる。
 さくり。ほんの少しの間、揮われた剣は漆黒の体にただ射し込まれたかのように沈む。
「見てみろ。なかなか美しく斬れたぞ。だが首を落とすつもりが腕を斬っていた。下手をすれば美しさを損ねていたな」
 残念そうだが、それでもジュールは微笑み、軽く剣を振って血を払う。
 影士はぴしゃりと飛ばされた血から敵へと視線戻し、大したものだと納得した。標的の美しさを永遠のものとする。その為に磨いてきたのだろう技はどれも無駄がなかったが、今のもそうだ。
 スナイパーであるジュールの攻撃を躱す事は難しく、複数のグラビティや武器を同時に駆使しての防御も、そういった技がなければ恐らく不可能だが、ジュールの動きを縛る術は幾重にもなっている。
 全身に炎の闘気を纏って突っ込めば、剣で受け止めいなそうとしたか。構えたジュールが、おや、と瞬きした。己の感覚と躱すタイミングにズレが生じたと、そう判っても既に炎は目の前。
(「美学より一つの勝利が今の俺には重要だからな」)
 全身から片腕に集まり、一気に解放された爆炎と拳打が巨躯を呑み込んでいく。
 真っ赤に染まる中、きらり輝いて見えたコスモス色。自分達を楽しげに見下ろす美丈夫を、サイガは凪いだ表情で見上げた。強さ抱く番犬仲間を狙った時点で、この敵は詰んでいたんじゃないかとすら思える。
 レーグルへと、ふわり踊らせた木の葉。それに続いてくれと光へ目で示し、そして萌花と目を合わし──ニヤリ笑えば、お茶目な笑顔とOKサインのセット。
(「自らの死によって永遠ってのが完成されちまうんだよなあ、おめでてえヤツ」)
 やはり『生きてこそ』ではないか。
 続いた風切る閃きは月の詠い。空へと終焉の軌跡描く一撃を目で追った敵から、己を彩った煌めきと同じ輝き受ける少女へと、夜は最後を託し微笑んだ。
「さぁ、存分に絶望的な幸せとやらを与えてやって」
 笑って。アスファルトを蹴って。巨躯の前に飛び込んで。
 そしてコスモスを捉えた色は、恋や愛とは違って泡沫と消えぬ、覚めるような青。
「あたしという美しい幻想の中、どうぞ至上の絶望に蕩けて朽ちていって」
 それはきっと、幸せなのだから。
 刹那交えた視線が、ひとつの輝きを地に堕とす。それでも伸ばされた手は──空を切って。はは、と笑う声がした。
「ああ、成る程、なあ──……」
 こんな永遠の美しさも、あるのか。

●ライフ・イズ、
 満足そうな声を最後にジュールは動かなくなり、淡く輝き始めたと思った次の瞬間、煌めく粒になって弾け飛ぶ。
 その勢いで煽られ、ふわっと飛んだ髪を押さえれば──戦闘終了直後でも変わらない、絹のような指通り。萌花はくるくると弄り、解く。
(「永遠、ねぇ。たしかにおめでたいこと」)
 ぽすんっ。
 体を揺らした衝撃は目線より下。見ればそこには、果敢に立ち、皆を癒していた小さな番犬さん。
「萌花ねーちゃん、怪我はない? って、あった! ちょっと待っててね……。痛いの……とんでけ……ってね♪」
「ふふ、皐月くん、くすぐったい。でも、ありがとね」
 無事とお礼の言葉にえへへと笑った顔が、駆け付けた姿を見てパッと明るくなる。如月ねーちゃん、の声に近衛・如月はというと。
「? 如月ちゃん、どーしたの、そんな膨れっ面して」
「な、何でもないのよぅ!」
 くっつく弟。萌花を囲むイケメンケルベロス達。嬉しそうな萌花。
 むぅっとした顔は暫し反対側へ。何故なら、ちょっぴりのジェラシー以上に安堵していたのだから。
 そうと知らない少女は改めて周りを見て、ふふ、と笑う。レーグルが不思議そうに竜尾揺らせば、だってさ、とまた笑顔。
「なんとも目の保養だったー」
 笑いを漏らしたのは影士だった。自分に向けられた青い眼差しに、軽く手を挙げる。
「まあ、無事なようだな。兎も角、何よりだ」
 そう。何よりだ。褐也にとっては『まだまだ遊び足りない獲物』でもある少女。その素顔を知りたいという気持ちと機会は──まあ、守られたわけで。
「……別にアンタのこと心配してへんからな」
「っふ、」
「何や夜」
「ん? 何が?」
 華麗なるすっとぼけ。萌花は出かかった笑いを指先で押さえる。まだ、大切な事が残っていた。
「……駆けつけてくれて、心配してくれて、ドーモありがと」
「戦場で助けられたのはこちらの方でもあるしな。気にしないで良いさ」
 影士は気さくに言い、いつの間にかベンチに腰を落ち着けていたサイガも、向けられた視線に薄く笑う。
「まっさか、舞台観に来たファンみてえなモンよ」
「じゃ、どっかサインする? それか記念撮影とか?」
 見守っていた可祝が、それじゃあ、と小首傾げて尻尾をパタパタ。にっこり笑顔。
「またお喋りしましょ。勿論おやつ付きで!」
「え、いいの? じゃ、天才的に美味しいパンケーキがいいなー」
 楽しい時間に、美味しいおやつ。
 そのひとときも、今この瞬間のようにキラキラと輝いて──永遠になる。

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
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