●半月の夜に
深海のような夜に半月が浮かんでいた。灯台の灯が静かにそんな夜を照らす。
その灯台に舞い降りた赤い翼の死神は、二体の下級死神を召喚する。それぞれ全長五メートルほどで、一体はカツオ、もう一体はマグロに酷似した姿。
「お行きなさい、ブルチャーレ・パラミータ、メラン・テュンノス。ディープディープブルーファングの戦闘能力を自らの力としてみせるのです」
下級死神に知性は見えなかったが、その命令には従い、街を目指し競い合うように泳ぎ出した。
●予知
「二体の魚型死神による襲撃が起きようとしています。事件の首謀者は、ディープディープブルーファングを使役していた赤い翼の死神だと思われます」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が説明を始めた。
敵はディープディープブルーファングを量産していた海底基地をケルベロスに破壊されたことで、作戦を変更してきたのだろう。
「今回の敵はカツオ型とマグロ型の死神二体。下級死神ですが、戦闘力はかなりの強化を受けているようですね。全長は五メートル程度。空中を泳ぐように移動し、市街地に到着し次第、住民の虐殺を開始するでしょう。ディープディープブルーファング事件との詳細な関連性は不透明ですが、ケルベロスがなすべきことは変わりません。二体の魚型死神を撃破し、人々を守ることです」
セリカは敵についての詳細な説明を始める。
「敵は二体とも『突進攻撃』を基本として攻撃してくるようです。これに加えて、カツオ型のブルチャーレ・パラミータは、魚雷攻撃に似た『卵のようなものを発射する産卵攻撃』、マグロ型のメラン・テュンノスは、腹部から内臓を捻りだしたような触手による攻撃を行うようです」
敵が現れる場所は深夜の灯台。人気はない。戦闘に集中できる。
セリカは拳を固めて、ケルベロス達を激励した。
「まだ他にも、目的がありそうで不気味ですが、まずは目の前の被害を阻止しなければなりません。みなさんの働きに期待します」
参加者 | |
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叢雲・蓮(無常迅速・e00144) |
花道・リリ(合成の誤謬・e00200) |
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426) |
一条・雄太(一条ノックダウン・e02180) |
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366) |
ロウガ・ジェラフィード(金色の戦天使・e04854) |
颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841) |
萌葱・菖蒲(月光症候群・e44656) |
●月夜に動き出す魚影
灯台の灯が、二匹の魚型の死神を半月の煌めく夜に浮かび上がらせた。ブルチャーレ・パラミータ、メラン・テュンノス。一体はカツオ、もう一体はマグロ型。その二匹が行軍を開始したとき。気配に気づいたのか、灯台の周りをぐるぐる泳ぎ出す。
「……今宵も、いい月、ね……」
萌葱・菖蒲(月光症候群・e44656)が魚影など目にも留めず月の光を浴びながら呟き、機嫌よく鼻歌を歌い始めた。
ケルベロスたちはすでに灯台の回廊に舞い降りていた。
「夜の海の近くでお魚さん型の死神と戦闘……うん、なんか不思議な感じなの!!」
叢雲・蓮(無常迅速・e00144)は滅多に来ることのない深夜の灯台にワクワクしているらしい。
「灯台って足元も照らしてくれるのかな? けどけど、灯台下暗しって学校で習った気がするし……」
そう言って、ランタンを足元に置く。
「えらいえらい、戦闘中の視界はしっかり確保しないとねー」
そう颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)に褒められて、嬉しそうに屈託のない笑顔を見せる蓮。
ちはるは二匹の魚影を見上げ、自分にだけ聞こえる程度の声で呟く。
「それに敵さんにも、アタシたちが見えていたほうが都合がいいからね」
つまり殺し合いをやるには。万が一にも敵がこちらを見失い、あらぬ方向へと行軍を始めるよりは、その心配なく戦闘に集中できる方が望ましい。
思った通り、二匹の死神はケルベロスたちを視認するや否や、狙いを定め、襲い掛かってきた。
菖蒲が鼻歌をやめて刀を鞘から抜くと、鍔から閃光が迸り、三日月のような刃を形成した。
「気分がいい……から、少し、付き合ってあげる……C'mon! Bring it on!」
●ムーンライト・パレード
二匹の死神は互いに絡み合うように泳ぎ、灯台を掠めて突進。
その攻撃を四方に飛んでかわすケルベロス達。
「深海から返ってきたと思ったら今度はマグロにカツオか。空中を泳ぐとかB級映画じゃねーんだぞ!」
一条・雄太(一条ノックダウン・e02180)は灯ろう屋根から敵を見上げ、
「とりあえずマグロから始末するぞ!」
「マグロ?」
花道・リリ(合成の誤謬・e00200)が首を傾げる。
「どっちがマグロなのかしら? 魚には疎くって」
「今、手前にいる方かな」
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)が応じる。
「あぁ、そう、前にいるほうね。OK」
「とりあえず仮りの呼び方でデスカツオ、デスマグロって呼んどこうか?」
黒ビキニにケルベロスコートを羽織った姿の恵は、照明付きヘルメットのライトを点灯させて戦闘態勢に入る。
二匹の死神は灯台の周囲をぐるぐる旋回しつづけ、隙あらば襲わんと狙っている。
「油断なりませんね……それにしても、この死神さん達は、どこからいらしてるんでしょうか…? とにかく、被害だけは止めなきゃ……」
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)が膝を折り、祈る。
「お願い、白い薔薇さん達。女王様に染められる前に、みんなを癒して」
アリスの髪に白い薔薇が咲いたかと思いきや、それと同じ薔薇が灯台の回廊に咲き乱れた。月夜に咲く白薔薇は、味方を加護する芳香を放つ。
「よし、行くぜ!」
雄太が吼え、精神を研ぎ澄ました念動力でマグロを爆破、その爆炎に乗じて蓮が居合の構えのまま屋根を蹴り、抜刀、月に煌めく一閃で斬りつける。
マグロは奇妙な声で哭き、腹から抉り出てくる触手で蓮と雄太を捕縛する。
「――っ!? 魚に触手ついてんのは反則だろ!」
宙に放り出された二人目掛けて、カツオが卵のような小型魚雷を無数に発射!
灯台の周りにパっと光が瞬いた。
「一方を集中的に狙うには、片方の牽制が必要というわけか。俺が引き受けよう」
半月を背に金色の髪を靡かせて舞うロウガ・ジェラフィード(金色の戦天使・e04854)、物静かにそう告げ、剣を抜いた。
「死神の尖兵よ、例えその方らの目的がなんであろうと、俺は戦士として力なき民に断じて手は出させない。守るべき“時間”は絶対に守る、それが我が使命、だ……!!」
カツオ型は夜を裂く勢いで突進、ロウガは翼をはためかせ躱すが、高速で宙を泳ぐ敵相手に剣で立ち向かうのはいささか分が悪いと踏む。急旋回し、再び突っ込んでくる敵に掌を向けた。
「時を喰らう戦の竜よ、その力を示せ!!」
解き放たれたのは、天使の翼を持つ黄金の竜の幻影。それはかつて彼自身が命とオラトリオの誇りを賭けて倒した竜の力の片鱗。金色の竜は、敵を呑みこみ、夜の姿を変えるような爆発を引き起こした。
一方、マグロ型に集中するケルベロス達は。
「Here I come!」
菖蒲がバチバチとスパークを上げながら唸る閃光の刃で敵を斬り裂く。さらには、闇の最中から飛来したちはるが刀に月の光を瞬かせて追撃。
傷口から血の尾を引いて宙を泳ぐマグロは、身を返して、触手を伸ばしつつ迫る。リリはその攻撃をかいくぐりつつ、
「ふふ、焼き魚にしてあげるわ」
御業を召喚。御業が放つ炎によって、マグロは炎に包まれる。
しかし斬り裂かれようと炎を浴びようと、魚特有の無表情さからはどれほどのダメージが通っているのか窺い知れない。
「思いのほか、長引きそうかな」
マインドソードでマグロに一撃を加えた恵だったが、触手に捕まり、逆さ吊りに。マグロ型はそのまま錐揉み状に、リリ目掛けて突進。当然、恵はジェットコースターさながらのスリルで振り回される。
暴走するマグロに追いすがり、抜刀、触手を断ち切り恵を救ったのは、蓮だった。
「助かったのだよ」
恵になでなでされて、蓮は満面の笑みを浮かべる。
そのとき、空に再び魚雷の火花がぱあっと広がった。
無尽蔵に放たれる魚雷がロウガを追いまわす。その攻撃を避けるのに手いっぱいで反撃の糸口を掴めないロウガだったが、一瞬攻撃が止んだ隙に翼をはためかせて急旋回、バスターライフルで狙いを定めた――その刹那。
ゴウンッ!!
カツオ型の側面が被弾。ちはるの轟竜砲による援護射撃だった。
「あれ? 余計な手出ししちゃったかな?」
あどけない笑みを浮かべて問いかけるちはる。
ふっと微笑むロウガ。
「もうしばらくの間、一人で大丈夫?」
「愚問だ」
ロウガが答え、カツオの前に躍り出る。
同時にちはるは屋根を蹴って、マグロの背に飛びつく。
「この前相手にしたサメよりは、やわいよね。ぐさぐさいっちゃおう、ぐさぐさ」
即効性の非常に強い神経毒を塗り付けた短刀で滅多刺しにする! マグロは刺されていることにも毒が効いていることに気づくのにも一定の時を要した。苦しげに悶え、ちはるを振り落とさんと身を激しく振る。
深追いはしない、ちはるは飛び下り、迎えに来ていたライドキャリバーのちふゆに跨った。
マグロは明らかに失速していた。力なく降下してくる。これを好機と見てとり、アリスは祈るように歌った。
「世界を護る方達に紡ぎます……聖王女さまの歌声を!」
その歌声に導かれ、雄太が敵の顔面に渾身の一撃を叩きこむ。その一撃がよほど痛かったのか、マグロはよれよれと方向を変え、覚束ない様子で宙を彷徨う。だが、先が長くはないと察したのか、目を光らせ、捨て身の突進で灯台に突っ込んでくる。
蓮が居合の構えに入った。しかし刀を抜く前に、恵が飛び出した。
「灯台を破壊させるわけにはいかない。ボクが隙を作るよ!」
恵はオーラを練り、気合一閃、敵のエラに渾身の蹴りを叩きこんだ。その攻撃によって突進の進路がずれる。
柄に手をかける蓮の目に光が宿った。
「攫うよ、お前の魂を……」
もはや突進というより墜落してくるマグロ目掛けて飛翔。居合の構えから抜刀、その刀は暴力的なまでの威力でマグロの腹を斬り裂いた。
血飛沫を上げて大地に衝突したマグロは、そのまま微動だにしなくなった。
●半身半月
片割れを失った死神は、狂ったように魚雷を撒き散らした。被害を抑えるべく、なるべく灯台から離れて敵を引きつけていたロウガだったが、周囲が魚雷の海と化しては、さすがに躱し切る手立てがなかった。爆発に呑まれ、墜落する天使。かろうじて体勢を立て直し、着地する。そして遠くを見るように灯台の方を眺め、仲間たちがマグロ型を葬ったと確認した。
「悪あがきだな、これ以上の戦いは。半身を失っては、どうにもなるまい」
後退を知らない敵を前に、ロウガは剣を振って迎え撃たんと構える。
残された死神は敵を道連れにせんとばかりの迫力で迫っていた。
その前に立ち塞がったのは御業、巨大な網を張り巡らせて、敵を捕縛する。
「待たせたわね、ジェラフィード」
リリが降り立ち、潮風に流される髪を手で押さえながら、御業に翻弄されてもがく死神を見上げた。
「さあて、さっさと残りも料理しちゃいましょうか。といっても、あんまり美味しくはなさそうだけれど」
死神は御業の拘束を噛み切り、魚雷を撒き散らした。辺りが爆炎に包まれる中、血の雨が降る。
「……Same pain、I'm a ghost……」
菖蒲が自らの腕を刀で斬る。彼女の呪われた血は呪力となって緋色の雨を呼び、血と代償に味方を癒す。
撒き散らされる魚雷の弾幕を逆手に取って強襲するちはる。斬りつけた刀を返しては再度斬りつけ、一瞬のうちに幾太刀も浴びせた後、相手の腹を蹴っては逃れる一撃離脱戦法。
「畳みかけます!」
アリスが放った時空凍結弾に凍てつく死神。さらにその凍てつきを加速させんと宙を舞いあがるロウガ。
「刃に舞うは末期の華、踊り狂うは刹那の剣風、乱れ華やぎ美しく――生命の理、この刃にて封ず!!」
輪舞【至封蓮華】(プリズム・フロスティア)――高速の剣閃が美しく舞う。一太刀閃くたびに色の異なる薔薇が生じるようだった。その薔薇は熱量を魅了して敵の肉体から剥離させ、剣戟から発生する剣風が一気にその熱を吹き飛ばす。
「Frozen fish? What a joke!」
凍てついた死神に居合で斬りかかる菖蒲、迸る光の刃が敵の腹をザックリ裂いたが――。
「Damn、not done yet!!」
死神はうねりつつ夜空高くへと昇っていき、半月と重なった。そして、そこから急降下! 自身の内蔵する爆弾と共にケルベロスを道連れにしようとでもいうのだろうか。
「いけません! 物凄い突進力です!」
アリスは仲間たちを守護すべく光の盾を具現化させていくが、間に合わないだろう。
「やらせるかよ!」
果敢にも死神に取りついたのは、雄太だった。拳を固めて、エラに手を突っ込む。死神は苦しそうに身悶え、蛇行し、雄太を振り落とそうとするが。
「魚相手に投げ技なんて初めてだけどな! お前を野放しにはできねえんだよ!」
死神の突進の勢いを利用して、雄太はエラに突っ込んだ手を取っ掛かりにして無理やり暗闇脳天落としの体勢に持っていく。
「魚は大人しく海に還れ! うおおおおおお!」
死神は凄まじい勢いで灯台を越えた向こうの海に墜落、然る後に爆発、月に届かんばかりの盛大な水飛沫が上がった。
雄太は? 爆発に巻き込まれたのでは?
みんながそう懸念した。しかし、精も根も尽き果てた様子ではあったが、雄太は海から上がってきて、駆け寄ってくる仲間たちに親指を立てて答えた。
●静かな灯台にて
カツオ型は海中に没したが、マグロ型は腹を捌かれて海辺に横たわっている。
「んー、空腹感……死体のマグロじゃあ、食えないかー」
そう言ったのは、ちはる。
「私、魚より肉派なのよねえ。それに些か大きすぎるわ」
とリリ。潮風でパサつく髪を気にして溜息を洩らす。
「だよね。さすがに食えないよね」
いくらか残念そうに肩を落とすちはるの肘を、ちふゆがつついた。
「うん?……あー、死体なのは、普段食べてるのも同じか!……だからなんだって話じゃん。結局食えないし……」
「さすがに魚を食いたくなるって感じにゃならねーよな」
雄太は大の字になって砂浜に倒れ込んだ。そして月をぼんやり眺めつつ、
「あの死神たち……どっかに棲み家があるはずなんだが、それも探さないと。ったく忙しいな」
アリスは難しい顔でうなずく。
「死神さんやダモクレスさん、攻性植物さん達に限らず……何だかデウスエクスさん達それぞれが……連携している気がします……」
「敵の動向は気がかりだが、今は考えても仕方なかろう」
ロウガは物静かに言って、剣をおさめる。
蓮がうんうん頷き、何やらうずうず落ち着かなさそうな様子。
「そうだよね。敵さんが攻めてきたら、また倒すだけだし……後ね、後ね、なんだか灯台の上に登ってみたくなっちゃった♪ 戦うのに夢中で余裕なかったけど、きっと綺麗な景色が見えるんじゃないかな?」
「そうだね。じゃあ一緒にのぼってみよっか」
恵がニコニコ笑う蓮の手を取った。
「みんなも一緒に行こうよ!」
空に浮かぶ銀色の半月。その月を見上げてプラシーボを口に咥え、菖蒲は再び陽気に鼻歌を歌い、駆けていく子供たちの後をゆったりした歩調で追う。まんざら潮風の香りが嫌いではないリリも上機嫌に続いた。
作者:MILLA |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年9月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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