緋と蒼のイグザクトリー

作者:麻人

 海沿いに立ち並ぶ板金工場の中から、不気味な機械音が聞こえてくる。
「…………」
「――、――」
 駐車場に繋がる大きなシャッターの前を警戒するように行き来するのは、赤いロボットのようなものに搭乗している戦闘用ライドロイドと複数のシモーベだ。
 一方、青い作業用ライドロイド達は黙々と工場内にあった機械や金属部品を解体し、荷台へと積み上げていく。
「う……あ――……」
 血を流して床に倒れた作業員の唇から微かなうめき声が上がる。彼らの襲撃に際して、逃げ遅れた者たちだった。
 工場を制圧したシモーベは大きなモノアイをそちらに差し向け、機械的に腕を振り上げるとドリルのように回転させたそれを作業員目がけて突き込んだ。
 山のような資材を抱えた作業用ライドロイド達が戻ってきたところに魔空回廊が開き、殿を務めた戦闘用ライドロイドは最後まで周囲を警戒しながら空間の向こう側へと消えていく――。

「まずはダモクレス海底基地の破壊成功、おめでとうございます」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は集まったケルベロス達にお辞儀をしてから、依頼の説明に入る。
「ダモクレスが行っていたという研究についてはまだ分からないままですが、死神との関係は互いになんらかの目的があったと思われる以上、今後も警戒が必要になるでしょう。また、ダモクレスの資源採掘基地が海底に存在する可能性もあります。もし、これを発見して破壊することができれば、ダモクレスの大規模な作戦行動の進行を阻む大きな一手となり得るかもしれませんね」
 だが、海底基地を破壊されたことで資材が補給できなくなったダモクレスたちが、資材供給のために工場を襲撃するという事件が予知されたのだ。
「彼らは工場建設に従事していたダモクレスらしく、戦闘能力はそれほど高くはありません。目的は資材の強奪とグラビティ・チェインの略奪。そして、ケルベロスへの警戒です」
 気をつけて下さい、と彼女は続ける。
「しかも、ダモクレスたちは統率された動きでそれぞれの役目を手分けして遂行しようとしています。被害を最小限に留めるには、こちらも効率的に動く必要があるでしょう」

 場所は湾岸近くの板金工場で、ダモクレスたちは四手に分かれて襲撃を開始する。
「まず、駐車場側にある大きなシャッター前にチェーンソー剣を装備した戦闘用ライドロイド1体とシモーべ3体が待機しています。戦力としてはこれが最も大きいグループですね」
 セリカはホワイトボードに書かれた工場の地図の前面にダモクレスの配置を示した。ちなみに、シャッターは全て開いた状態のようだ。
「次に資材の略奪を行う2体の作業用ライドロイドですが、工場の左右に分かれて資材を持てるだけ回収した後、合流して撤退を行います。この間、残りのシモーベ2体は作業員への襲撃を行うようです」
 シモーベ2体は戦闘用ライドロイドたちのいるシャッター側とは反対側の事務所付近から襲撃をかけてくる。戦場同士は場所が離れており、応援に駆け付けるにはいくらかの移動時間が必要だ。

「もし、一度に全てを倒そうとすれば戦力が足りなくなるかもしれません。移動にかかる時間も含めて突入の際には綿密な作戦をお願いします」
 彼女は微笑み、説明を終えた。
「それではどうか、ご武運を」


参加者
マイ・カスタム(一般的な形状のロボ・e00399)
山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
ミスティアン・マクローリン(レプリカントの鎧装騎兵・e05683)
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)
風戸・文香(エレクトリカ・e22917)

■リプレイ

●事務所にて
「う、うわああッ!?」
 事務所に悲鳴が連なった。ちょうど休憩中で、工場勤務の作業員十数名はこちらに集まっているところだった。そこへ現れたシモーベ達は、無慈悲にもマルチプルミサイルの砲門を開き、虐殺を開始しようとして――新たな気配に顔を上げる。
「悪いが、貴様らの作戦行動は阻止させてもらうよ」
 マイ・カスタム(一般的な形状のロボ・e00399)の表情は仮面に隠れて不詳だが、その口許に浮かぶ頼りがいのありそうな微笑みは、確かに作業員たちの恐慌を鎮める効果があった。
「――くらえ」
 その両腕で振り抜いたドラゴニックスマッシュが、攻撃態勢に入っていたシモーベの体に激しい衝撃を与える。
「テレーゼ」
 テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)の目配せを受けたライドキャリバーが炎を纏って突撃――! テレサはS.G.E.Pを起動。三人の武装を寄せ集めて出来た即席の長距離超重力電磁パルス砲が、今開眼する。
「!?」
 それまでテレサの存在に気づいていなかったシモーベが、動揺も露わに振り返った。
(「遅い」)
 アサシンメイドたるテレサの真髄は、だがS.G.E.Pの派手な主砲発射によってこれまでとなる。
「とにかく、倒されてちょうだい!」
 ミスティアン・マクローリン(レプリカントの鎧装騎兵・e05683)が滑り込むようにしてシモーベの眼前へと迫り、巨大な五芒星の手裏剣を「えいっ!」とばかりに放り投げて留めを刺した。
「あ、あんたたちは……!」
「ここは任せて、早く逃げろ」
 マイが促し、テレサが無表情のまま微かに頷いて彼らを逃がす。「すまない」「ありがとう」作業員たちは口々に感謝の言葉を告げながら戦場と化した工場から離脱していった。足音が次第に遠ざかり、遠く聞こえなくなっていく。
「ここは通さないよ」
 山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)は事務所の出口を塞ぎ、残るシモーベへとガントレットを装備した拳を思い切り撃ち付けた。どこか回線がショートしたのか、耳障りな音を立てながらシモーベが尻餅をつく。
「決めるぞ」
「かしこまりましてございます」
 シモーベのモノアイに映る、 マイのFINAL FRASHとテレサのジャイロフラフープ・オルトロス――自らを滅ぼす凶器たる得物たち。半瞬の後、粉々に吹き飛ばされて、弾けた部品が床の上に飛び散った。

●シャッター前にて
 事務所の方角で派手な爆発が起こったのを戦場後方から確認した軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)は、「よし」と頷いた。
「あっちはうまくいったようだな。逃げ遅れた一般人はいないみたいだし、遠慮なく足止めに専念できるぜ」
 ――と言いつつ、真っ先に敵陣へと突っ込んでいきそうな程に凶悪な面構えをしていながらも、双吉は癒し手として活躍をする。
「援護、感謝します!」
 双吉のマインドシールドによって防御を固めた風戸・文香(エレクトリカ・e22917)は、その時にはもう工場の天井近くまで跳躍しており、虹の軌跡を描きながら戦闘用ライドロイド目がけて急降下攻撃を敢行。
「いったい何を作ろうというのかしら? 材料費おいていくのであれば、私もおつきあいさせていただけるかしら?」
 ガション! という電工技師にしてガジェッティアという経歴の文香を否応なく沸き立たせる機械独特の音を奏でながら体勢を立て直す戦闘用ライドロイドに、彼女は武者震いしつつ叫んだ。
「ああ、欲しい! このライドロイド、私欲しいです!」
 思わず口走ってしまった後で、慌てて言い訳をする。
「電工技師と、ガジェッティアとしての興味、です! ……って、軋峰さん何をしてるんです!?」
「いや、ちょっとこいつを奪えないかと思って……ぶおっ!」
 隙を見て戦闘用ライドロイドに飛び掛かった双吉が、乗っているシモーベのような機体をつまみ出してそれを奪おうとしてみるも、見事に弾き飛ばされた。
「面白いことを考えるね」
 ちょうど双吉が吹っ飛んできた方向にいた館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)はバスターライフルを連射モードに切り替え、彼と入れ違うように嵐のような弾幕を張り巡らせた。
「補給を阻害するのは常套手段。……致命傷とは行かないだろうけれど、蟻の一穴、穿たせてもらうよ」
 肩口をシモーベの放つミサイルが掠めていく。それが攻撃の邪魔になるものではないと判断した詩月は、構わず戦闘用ライドロイドへの牽制を続けた。
「――いけ」
 ほとんど手品か何かのように、詩月はL.R.C――咲杜流に伝わる遠距離戦闘術を駆使して敵の動きごと、進退を阻もうとする。その麻痺と、メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)がビハインド・ママのポルターガイストと一緒に撃ち込んでいた轟竜砲による足止めが発動。動きを封じたところへ、メアリベルはすかさず時空凍結弾を放った。ハンマーから発射された弾丸が戦闘用ライドロイドの側面に潜り込み、そこから絶対零度の氷が侵食していく。
「資材を調達して新しい基地でも作るつもり? 人のモノを勝手にもってく悪い子にはおしおきよ! ねえママ?」
 ビハインドは薄っすらと微笑み、メアリベルを首肯するように戦闘用ライドロイドを金縛りの海に沈めていく。

●資材泥棒たちの顛末
「気を付けてな」
「承知致しております」
 事務所を襲撃していたシモーベの撃破に成功したマイとテレサは、仲間たちが戦闘用ロイドロイドの足止めをしている間に手分けして作業用ライドロイドの撃破へ向かった。
「こちらにきたのは2人か」
「はい! まとまって戦う方がよいかと思ったので」
 ミスティアンは頷き、渾身のスターショットを食らわせる。資材を積み込んでいた途中の作業用ライドロイドがよろめき、その隙を逃さずマイは全身から怒號雷撃を漲らせてその動きを封じにかかる。
 一方、テレサと涼子を相手どる作業用ライドロイドは彼女たちを近づかせまいとビームを無造作に撃ちまくる。その射線を潜り抜け、涼子の足元から迸った焔鮫が襲いかかった。エンジンを吹かして戦場を自在に動き回るジャイロフラフープの黒い方――テレーゼに守られたテレサは、全開にしたジャイロフラフープ・オルトロスから連続でキャノンを撃ち放つ。
「戦力はこちらが上回っている、が……」
 間に合うか、とマイは時間を気にする素振りをみせた。確かに2人がかりでなら、作業用ライドロイドと互角以上の手ごたえがある。
 敵が撤退を始めるのは7分後。
 最初のシモーベの撃破に2分、移動に2分。作業用ライドロイドとの戦闘開始までに4分を使ってしまっている計算だ。
(「急ぐ必要がございますね」)
 同じく、テレサもまた微かな焦りを覚え始めていた。無論、表情には出さないまま。こうなると、事務所からの移動に費やした時間が惜しい。が――どうしても、作業員たちを見捨てることはできなかった。
「ここで止めないと……」
 涼子はほぞを噛み、ひたすらグラビティを撃ち込んでいく。

「まずいね。作業用ライドロイドの撃破に時間がかかっているみたいだ」
 ドッ!! ――とバスターライフルを撃ち出した後の反動を抑えながら、詩月はアイズフォンによる連絡手段を諦めた。
「事務所を経由してからでは遅かったのかしら?」
 文香はラピッドファイアBC-150の銃口を敵に差し向け、ビームを発射――!! 腕を損傷した戦闘用ライドロイドは、それでももう片方の腕を使ってチェーンソー剣を振り下ろす。
「よそ見しちゃだめ。アナタたちの遊び相手はメアリよ」
 颯爽と飛び出したメアリベルは、万が一にも敵を合流させることのないようにその身を盾にして立ち塞がった。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ!」
 グォン、とチェーンソー剣を振り回す戦闘用ライオロイドの切っ先を、掲げたハンマーで受け止める。
「くっ……」
「頑張れよ……!」
 双吉の翼が開き、オラトリオヴェールの紗がメアリベルを援護。
 ――その時、左右に分かれていた作業用ライドロイドが撤退を始めた。それを追いかけるように、交戦していたケルベロス達も戦場を移動する。
「せめて、資材の積み込みだけは阻止する……!」
 マイの雷撃を受けて、作業用ライドロイドの体が傾いだ。もう1体にはテレサの砲撃が降り注ぐ。
「――、――。――」
 作業用ライドロイドたちは仕方なく資材の搬入を諦め、自分たちだけ回廊の向こう側へと消えていった。
「何とか、資材の略奪だけは防げたようでございますね」
 テレサはそのままテレーゼに乗り込み、最後の合流を果たすために疾走する。そのエンジン音が背後から聞こえた時、双吉は思わず笑みを浮かべていた。
「こいつらだけでも倒しちまうぞ!」
 詩月は無言で頷き、バスターライフルを過収束モードに切り替える。可能な限りは撃破を敢行したい。幸い、こちらのシモーベや戦闘用ライドロイドたちは自ずから退く気はないようだ。
「そ、ぉれ!」
 メアリベルは身軽に戦場を駆け巡り、ドラゴニックハンマーをガンガンと打ち振るう。いつの間にか、戦闘用ライドロイドの機体はへこみだらけになっていた。
「あははっ、とっても楽しい!」
 モグラ叩きみたいねと微笑むと、戦闘用ライドロイドを挟んだ反対側で文香がソルダリンアイロンを掲げてみせた。
「正直、貴方方が『どんなモノを作ろうとしているか?』は興味がありますが、今は、そんな暢気な事は言ってられそうにありませんね!」
 高熱に熱されたその切っ先を突き込まれた戦闘用ライドロイドは、全身がショートしたように痙攣してから動かなくなる。
 ここぞ、と双吉は敵陣に向かって突撃。蝙蝠のような大翼持つ疑似デウスエクスを顕現させて、残るシモーベを蹴散らしてゆく。
「! ――ッ、――」
 最後のシモーベが倒れ伏した時、ケルベロス達も息は上がり体中は傷だらけとなっていた。

「なんとか撃破、だね」
 涼子は周囲を見回して、もう敵が残っていないことを確認する。テレサは建物の損害を修復しつつ、戦闘用ライドロイドに視線を向けた。できれば作業用ライドロイドの調査がしたかったが、あれでも代わりにはなるだろうか?
「遠隔装置とか、通信機器とかないかしら?」
 文香は体力が回復するなり、スパナとドライバー、それに愛用のハンダごてを手にライドロイドの残骸を弄り始める。平穏を取り戻した工場に機械を分解する音が響いていた。

作者:麻人 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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