●競い合う2体の死神
そこは、光もほとんど入らぬ広い空間。
人気が全くないその場所にて、赤い翼を持つ女性の死神が何やら詠唱をしていた。
程なく召喚が完了したのか、非常に大きな魚の姿をした2体の下級死神が姿を現す。
1体はカツオを、もう1体はマグロを思わせるそれらの死神へ、女性の死神が言い放つ。
「お行きなさい、ブルチャーレ・パラミータ、メラン・テュンノス。ディープディープブルーファングの戦闘能力を自らの力としてみせるのです」
ゆらりと宙を泳ぐ大型魚の死神達はそれを聞き終えると、競い合うように人里を目指してこの場から離れていったのだった。
死神による新たな事件が確認されている。
「静岡県清水市で、2体の魚型の死神が街を襲撃する事件を予見したよ」
ヘリポートに集まるケルベロス達は、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)より説明を受けていた。
事件を起こすのは、ディープディープブルーファングを使役していた死神だ。
ディープディープブルーファングを量産していた海底基地が破壊された事で、作戦を変更したのだろう。
「2体の魚型の死神はそれぞれ、カツオとマグロを思わせる姿をしているね」
それらの魚型は下級死神ではあるが、戦闘力がかなり強化されているようだ。
下級死神2体は全長5m程で、空中を泳ぐように移動して市街地に到着次第、住民の虐殺を行う事だろう。
ディープディープブルーファング事件と今回の事件がどう関係しているかは不明だが、ケルベロスがやるべきことは変わらない。
「皆にはこの2体の魚型死神を撃破して、現地の人々を守ってほしいんだ」
魚型死神はそれぞれ全長が5m弱あり、突進攻撃を行う。
それぞれ、個別の攻撃としては、カツオ型、ブルチャーレ・パラミータはディープディープブルーファングのサメ魚雷に近い、『卵のようなものを発射する産卵攻撃』を行う。
また、マグロ型、メラン・テュンノスは腹部から内臓を捻りだしたような触手を出して攻撃する、『触手攻撃』も行ってくることが確認されている。
「現場となるのは、清水駅の前の通りだね」
死神は昼間の街中に突然現れ、人々へと襲い掛かろうとする。
少し経てば、警察なども駆けつけてくるはずだが、それまではケルベロスだけでうまくやりくりせねばならないだろう。
そこでリーゼリットは一旦話を区切り、主観を語る。
「海底基地の破壊に成功したことは、死神にも作戦の変更を余儀なくさせたのだろうね」
襲ってくるのは下級の死神ではあるが、戦闘力が強化されているようだ。この強化が敵の目的だったとも推測されるが……。
「ともあれ、被害が大きくなる前に死神の撃破を。どうかよろしく頼んだよ」
そうして、彼女はこの一件をケルベロス達へと託すのだった。
参加者 | |
---|---|
篁・悠(暁光の騎士・e00141) |
安曇・柊(天騎士・e00166) |
シェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237) |
エンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668) |
紫藤・大輔(機甲武術師範代・e03653) |
新城・瑠璃音(相反協奏曲・e44613) |
夜巫囃・玲(泡沫幻想奇譚・e55580) |
風柳・煉(風柳堂・e56725) |
●奇妙な死神を相手に
静岡県清水市。
昼間に駅前へと降り立つケルベロス達はすぐ、この地に敵影を発見する。
ゆらりと大海を泳ぐかのように、街を泳ぐ大型肉食魚を思わせる死神達。
周囲の人々がそのデウスエクスの出現に驚いている事に気付き、メンバー達はすぐさま作戦を開始していく。
「ここは我々が引き受けます! 避難を!」
アルティメットモードを発動させた白猫のウェアライダー、篁・悠(暁光の騎士・e00141)は白銀を基調としたヒーローを思わせる衣装を纏い、デウスエクス出現で動揺する人々を元気付ける。
「わたし達が抑える……早く逃げて……!」
白から黒へとグラデーションする翼を持つシェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)も異形と化した右腕を広げて周囲の人に呼びかけ、この場から離れるよう促す。
「さあさあ、ここからは命を懸けた幻想夜行。命が欲しければ早く離れるんだね、けひひっ」
狐の面で顔を隠す夜巫囃・玲(泡沫幻想奇譚・e55580)は滑空するように空から降り立ち、隣人力を使いながら割り込みヴォイスで周囲へと避難を呼びかけていく。
デルフィニウムを咲かせた黒い長髪を靡かす新城・瑠璃音(相反協奏曲・e44613)は翼を羽ばたかせ、プリンセスモードに変身してみせる。
「皆さん、慌てず安全な場所へ移動してください。ここは私たちが引き受けます」
市民の注目を集める瑠璃音は、死神からは見えない駅舎内へと逃げるよう指示を出していた。
程なく、パトカーや消防車のサイレンの音が近づいてきたこともあり、多少やさぐれた態度をとる少女、風柳・煉(風柳堂・e56725)は殺界をつくるタイミングをはかっていたようだ。
さて、街ではすでに巨大な魚影が2つ、悠然と空中を泳いでいる。
「死神の姿が泳ぐのに適した魚の姿……というのは知っていたけれど」
人的避難を行いながら、玲は改めてこれから戦う死神の姿に仮面の下で目を見開いていた。
「まさか、こんな海産物で来るとは思ってなかったね」
それぞれ、全長5mあるカツオ型、ブルチャーレ・パラミータ。そして、カツオ型、ブルチャーレ・パラミータだ。
「うわ、生臭い敵……。たっく、鮪だの鰹だの、すぐに捌いてやるから食材は食材らしく大人しくしてろよ」
鮮やかなコーンフラワーブルーの瞳で相手を見つめたエンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)も多少顔を引きつらせ、殺気を放ちがてら相手に言い放つ。
そのエンデと友人にも似た腐れ縁の関係にある、ネモフィラの花を茶色の髪に咲かせた安曇・柊(天騎士・e00166)。
「一般の方々に被害を出す訳にはいかない、から。……気は抜けるけど、うん……」
現地の人々を守る為、柊は巨大な敵に臆しながらも自分に言い聞かせ、自身の大きな翼を広げて敵の前に立ち塞がる。
街中を泳ぐ死神の姿は、大海を泳ぐ大型肉食魚のそれと変わらない。
だが、この場に現れたその姿は……。
ゆったりとした態度で空中を揺らめく死神達はそれぞれ水中で泳ぐ魚とは別物だと主張するように、カツオ型は産卵を行い、マグロ型は内臓を触手のように蠢かせていた。
「死神め……、不気味な動きをしやがる……。だが、ぶっ潰してみせる!!」
ワイルドな顔立ちの紫藤・大輔(機甲武術師範代・e03653)は、相手を睨みつけ、誘導を始める警察隊を背にして死神の攻撃が及ばぬよう身構える。
「奇妙な相手だね……見た目普通の魚っぽいし、ここは三枚に下ろす練習にさせてもらうかな……!」
料理勉強中のシェミアにとって絶好の相手にも見えるが、彼女の獲物は大鎌だったりするので、料理に役立つかどうか微妙なのはさておき。
奇妙な動きを見せる死神2体はほぼ同時に、ケルベロスへと攻撃を開始してきたのだった。
●大型肉食魚を攻め立てろ!
爛々と目を輝かせ、襲い来る巨大な2体の死神。
陸上を泳ぐ巨大マグロと巨大カツオが狙うは、海中の魚ではなく生身の人間だ。
生み出した卵を弾丸のように発してくるマグロ。そして、触手を伸ばして周囲を破壊しようとするカツオ。
死神達の攻撃は、ディープディープブルーファングを彷彿とさせる。
「避難の時間を稼ぐよ……!」
それらに対しシェミアが抑えに入りつつ、その後ろからエンデが黒青グラデの猫の尾の様な髪を揺らし、素早くマグロの身体へと蹴りこむ。
その直後に、柊が仕掛ける。
何度も組んで戦っていることもあって2人の息はピッタリなのだが、柊は用意してきたグラビティに難があったらしく動きが冴えない。
彼はマグロを引きつけようとしていたのだが、その為のグラビティがないことで身を投げ出すように前に出る。
その隣、尾長の鳥のような姿をした花属性の翼竜の天花も主と共に、身を挺していたようだ。
散弾のような卵の攻撃を浴びた柊は痛みに怯えるが、それ以上に周囲で避難する人々が傷つくことに恐怖を感じて我慢する。
その上で彼は全身に力を溜めてマグロ型へと飛び込み、相手の身体を強く蹴りこんでいた。
前衛陣が死神を抑える間に、警察、消防も現場に散開し始めたようで、そちらに避難を託したメンバーも駆けつけてくる。
「けひひっ、死神さんこちら、鈴のなる方へ」
周囲の建物を利用して素早く跳び回る玲はマグロ型をかく乱し、鞘に収めた喰霊刀の柄に手をかけて一気に迫った。
「さぁ、幻葬の刻だ」
冥府の海から来た相手目掛け、玲は妖力を纏った刀を一閃する。
敵は下級死神ではあるものの、個々の能力は決して侮れぬ相手だ。
「随分な大物だ。些か大きすぎるな」
宙を泳ぐ相手を見上げる悠はチームの強化支援から動き、後ろに位置取って回復、狙撃に当たる仲間の地面に描いていく。
「ピスケスよ、輝け! 勇者の戦いに勝利を!」
それは双魚宮の紋章を象り、守護の力が後方メンバーを包み込む。
「この世界はあなたの色でした」
その1人、瑠璃音も前線メンバーへと歌声を響かせる。
瑠璃音が見つめる前方では仲間達が果敢に巨大な魚へと攻め、その侵攻を食い止めようとしていた。
後方からマグロ型を狙う煉は、そいつに流星の蹴りを叩き込む。
さらに彼女は漆黒の狙杖「黒麒麟」を突き出し、迸る雷を放って敵の身体を強く灼いていく。
大輔も同じく重力を宿す蹴りでマグロ型を牽制するが、触手を伸ばしてくるカツオ型にも気にかけ、時にその抑えに当たっていたようだ。
一行の盾となるシェミアも仲間の攻撃が途切れぬようにと、グラビティを死神に叩き込む。
「その鱗……、剥ぎ取らなくちゃね……!」
あくまでこの戦いを料理の練習と捉えるシェミアは、燃え上がる蒼い地獄によって刃を形成した大鎌「蒼き炎獄の裁首」を投げ飛ばし、相手のウロコを剥ぎ取ろうとしていく。
もっとも、大鎌はウロコだけではなく、その身も確実に切り裂いてダメージを与えていたようだったが。
すかさず、玲が呪われた刀の呪詛を込め、マグロ目掛けて見とれるほどに美しい斬撃を描き、相手の体を捌いていく。
そこに、攻撃準備を整えた悠が相手へと叫びかける。
「貴様達が凶事を為そうとも、我々がそれを叩き潰す! 状況が良くなりはしない! 人それを『以魚駆蠅』という!」
以魚駆蠅(いぎょくよう)……対処を間違えれば、状況が悪化すること。
死神の動きもまさにこれだと、悠は主張する。
「総ては! 牙無き人の未来の為に!」
『Infinity Slash!』
悠が煌くブローチを掲げると、コール音声と共に7枚の薔薇の紋章が前方に生成させた。
その紋章を前方へと通り抜け、悠は「神雷剣・夢眩」を振りかぶって。
「受けよ! 極煌ッ! 一閃ッッ!!」
虹とオーロラの輝きを纏い、マグロ型の身体を切り裂く。
彼女の一太刀を浴びた死神は全身を刻まれ、少しずつその動きを鈍らせていたようだった。
●害なす死神の討伐を
ケルベロスの相手は、巨大な肉食魚の姿をした死神。
ただ、その攻撃は産卵、触手以外はそれぞれ突進しての食らいつきを繰り返すくらいの単調なもので、攻めやすい相手と言えた。
それでも、威力は数で攻め来る敵より十分にある為、気を抜かずにシェミアは対応する。
相手の突進に耐えたシェミアの後ろから、大輔が攻撃パターンを変化させつつ高速演算によって相手の弱点……、ヒレを狙って黒炎滅龍刀『真武・荒魂』の刃で大きく切り裂き、マグロ型を追い詰める。
その間に、シェミアは大鎌「蒼き炎獄の裁首」を振りかざして。
「3枚に下ろす為に……その頭を、叩き落とす……!」
彼女もまた相手の頭と胴体の間、エラの付近へと刃を振り下ろすと、マグロ型は思った以上にタフさを見せつけ堪えてみせた。
とはいえ限界は近いらしく、宙を漂う姿に登場時の力強さは感じられない。
「死ぬことのなき亡国の姫、出会う者に祝福を謡う。やがては別れになると知っていても」
永遠の命を望まずと得た姫の詩を瑠璃音が紡ぎ、仲間に決して諦めない不屈の響を歌い聞かせる。
箱竜天花にブレス攻撃を任せる柊は、自身はグラビティの状況もあって回復寄りの立ち回りを行っていた。
「――星の童話を」
――煌く小さな星は大切なきみの為、痛いことも苦しいことも全て持っていってあげるときらきら笑う。
柊の紡ぐそんな微笑ましいエピソードは、仲間達の傷を大きく癒すのだ。
さて、弱ってきていた相手の状態を、エンデは冷静に見ていた。
暗殺人形として育てられた過去を持つ彼は音もなく、マグロ型へと肉薄して。
「――さようなら、美しい世界にお別れを」
その言葉は、エンデが相手に送る唯一の餞の言葉。
徒手空拳にも見える彼の左右の腕のガントレットには鋭い仕込み爪が隠されており、それが巨大なマグロ型へと浴びせかかっていく。
頭を切り刻まれたマグロ型、メラン・テュンノスは地面に落ち、のたうち回るように尾ヒレを地面に叩きつけていたが、やがて力尽きて姿を消していった。
「ナイス、エンデ」
「ああ、後は――」
柊の労いに応じたエンデはもう1体の死神、カツオ型を見上げる。
すると、煉がすかさず、そのカツオ型目掛けて流星の一蹴を見舞っていく。
相手は残り1体。しかも単体攻撃しかしない敵のみとなったことで、幾分か負担が軽くなったと実感するシェミアは、極限まで魔力を研ぎ澄ませて。
「動きは見切った……。三枚に下ろしてやる……!」
素早く相手に迫り、瞬時に相手の体を3枚に切り刻もうとしていく。
とはいえ、敵もやられてばかりではない。
素早く伸ばす触手でシェミアを縛りつけ、動きを封じようとしていた。
隣のエンデはシェミアの回復を仲間に任せ、無数の霊体を憑依させた喰霊刀「彩無」の刃でカツオ型の身体を切りつけ、相手の体を毒で汚染していく。
続き、玲も喰霊刀で達人の領域に達する鮮やかな一撃で死神に見舞う。
切り裂いた傷口がグラビティの力で凍り付けば、煉が「黒麒麟」に過剰な程の魔力を込めて。
「これは痛いぞ、覚悟しろ……」
その杖の尖端より、煉は強力な雷撃を飛ばす。
放たれた紫電は漆黒の雷となり、カツオ型の全身を灼いていく。
「いまこそ見せよう……覇者の拳を!」
死神が怯む間に、大輔も畳み掛けるべく極限まで闘気を高める。
「機甲拳、奥義! 超絶! 覇王紅蓮拳!!」
それを大輔は両腕の拳へと集め、敵へと正拳突きを叩き込んでいった。
大輔の一撃で身体に炎を燻ぶらせ、一層怯んでいたカツオ型死神。
瑠璃音も星型のオーラを打ち込んで追撃し、さらに悠が「神雷剣・夢眩」で斬りかかる。
「斬り裂け!」
空の魔力を纏う雷の刃は、カツオ型、ブルチャーレ・パラミータの身体を真っ二つに寸断してしまう。
「成敗ッ!!」
悠の言葉と共に、死神は地面に落ちることなく姿を消していく。
「もう大丈夫ですね。お疲れ様でした」
デウスエクスの全滅を確認し、仲間へと向き直った瑠璃音はにっこりと笑顔を浮かべたのだった。
●見えない敵の思惑
カツオ型、ブルチャーレ・パラミータとマグロ型、メラン・テュンノス。
それらの死神を両方とも撃破し、ケルベロス達は戦場となった清水駅前の通りで事後処理を始める。
エンデ、煉が殺界を解いた後、柊は地面に守護星座を描き、戦闘の影響で破壊された駅前の通りを修復していく。
そこで、柊は自身を眺める視線に気付いて。
「もう、エンデも見てないで手伝って……。って、あーそうだ駄目なんだっけ……」
「やだ。だから、俺はヒール苦手なんだっての。……あ、柊、帰りに寿司食って帰ろう」
「エンデ、実はお腹空いてたの……?」
作業の手伝いを断わるエンデには本気で死神が食材に見えていたのだろうかと、柊は呆れてしまっていた。
「ああ どこまで歩んだら わたしの想いは届くでしょう……♪」
歌声を響かせる瑠璃音は修復がてら、清掃を行う。
大輔を始め、他メンバーも死神の因子、痕跡などがないかと戦場跡を見回していた。
「死神。……ずいぶん直接的な形で仕掛けてきたな」
悠は改めて、死神勢力の動きをそう捉える。
ただ、それらしき痕跡は一切残されてはおらず、ケルベロス達の調査も徒労に終わってしまったようだ。
一通り周囲を確認し、狐の面を外した玲は静かに一言。
「魂の行方、死神の魂は何処に行くのですかね」
跡形もなく消えた死神を背に想像を巡らせる玲は、仲間と共に帰って寝ることにしていたようだった。
作者:なちゅい |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年9月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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