イチの誕生日~御召し替え

作者:志羽

●無駄にはしたくないということで
「趣味が高じて困ってるんだよねー」
「へー、それは私の方ではー」
「あ、俺じゃなくて友達が。それでちょっと手伝いで処分と写真撮影をすることになって」
「処分で写真撮影とかちょっと意味わかんない」
「行けばわかる。で、俺はスタイリスト的な事を手伝うわけでー」
 やだー、その先が読めてきた―と零したザザ・コドラ(鴇色・en0050)は手元の端末から夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)へと視線を向けた。
「つーまーりー! いつも通り! 夜浪に遊ばれても良い人募集ってことでしょ」
「そそ。良く分かってるよねぇ。でも、メリットはあるんだよ」
「メリットぉ?」
「うん、趣味がっていうのは服作りなんだよね。それでついでに小物も。で、作ったはいいけど置き場所に困り、処分に困ってるわけ」
 つまり、処分をするのは服飾品。どれも一点ものばかりで、サイズが合うなら譲る。倉庫の肥やしになるよりはその方が幸せということらしい。それは服だけでなくアクセサリーなどもあるのでそれも、ということなのだ。
 が、譲る前に、折角作ったのだから後々見返す為にも写真集とか作りたいじゃない? ということで、撮影つきらしい。なお写真集は作品集みたいなものなので個人観賞用とのこと。
 でも普通に立ちポーズだけでは面白くない! と、豪奢な椅子とか撮影セットも用意したとのこと。
「わーい、行く行く! で、どんな服があるの? ふりふり? ひらひら?」
「ふりふりひらひらもあるね。なんていうか……ゴシック、風? 中世ヨーロッパ的、な?」
「なにそれ! お姫様ドレス的なのもある?」
「うーん、そういうのモチーフの物は色々あると思う。シンプルなのもあったから色々かなー」
 それは行ってのお楽しみ。
 ということで、写真撮影されてもオッケーな貰い手さんを募集中なのであった。

●御召し替え
「――と、いうわけで皆も貰って欲しいなー。ついでに俺に髪を弄らせてくれたら俺が幸せー、素敵な誕生日プレゼントーって感じなんだけど、暇?」
 事のあらましをさらっと話した後、イチは暇なら遊びに来てね、と笑う。
 服の好みはそれぞれあると思うので最終的に、気に入った物があればお持ち帰り、という感じで良いからと続けて。
 場所はここー、とイチが教える姿を見つつザザは考えていた。
 いつも好きにされるばかりではちょっと面白くない。いや、髪型セットしてもらえるのはありがたいのだが。だがしかし、イチも偶にはされて見るのも良いのではないかと。
 そういうのも、面白いのではないかなーと思ったのだから、やるしかない。
「そもそも、あいつ顔はいいのよね。何でも似合いそうな……スカートとかハイヒールもいけそ……あっ、どこの貴族的なのも面白そう。見てから決めよーっと」
 と、一人で小さく笑い零しながら楽しそうにしているものだから、どうしたのかと尋ねられればすぐに応えてしまう。
 イチも何かする気だなぁとお察しなのだが、そこは大人なので訪ねはしない。
 そんな感じで。
 その時たまたま暇でイチに捕まったケルベロス御一行様は、趣味で作られた服がずらららーっと並び。
 隅っこによくわからないけどとにかく力は入れたんだな、とわかる撮影セットのある倉庫へと連れて行かれたのだった。


■リプレイ

●そっけない倉庫の中は絢爛たる衣装庫でした
 同じ師団仲間フラフラっと付いてきたミリム。
 倉庫にずらーっと並んでいる服に目がキョロキョロと。
 けれど沢山あり過ぎて逆に選べずミリムは悩みザザにヘルプを。
「ザザさんは何を着るんでしょうか? このスチームパンク風なドレスとかどうでしょうか?」
「スチパン!」
 ザザは受け取ってきてみると楽し気だ。
 ミリムも似た感じの緑色基調の服をミリムも選ぶ。
「夜浪さんもどうです?」
 折角なのでと似た雰囲気の服を選んで渡す。
「あと尻尾通す所があればいいのですけれども……あっ、これはいける……!」
 髪もセットし、小道具からランプ見つけてそれを手に笑顔で一枚。

 誕生日おめでとうさんと光流は言って、それにしてもと視線向ける。
「俺はこないに綺麗には作れへん。お姫様ドレス的な何かとかな……いやちゃう」
 俺が着たい訳やないねんと光流は首を振り。
「話すと長いんやけど、好きな人にお姫様願望があってやな」
「お姫様願望」
「俺も頑張ってスーツとかは着てみてんけど、なかなか釣り合わへんねん」
 それはどんな、とイチが訪ねると光流は。
「お姫様とバーテンダー、もしくは誘拐犯みたいになんねん」
 隣にいてもおかしくない恰好がしたいのだと光流は言って、イチ先輩お願いしますとすがりつく。
「自分もお姫様方向……」
「それは無しやな」
 釣り合いたいねんと零す。
 アドバイスお願いしますと紡ぐ光流にフォーマル度を高めてみようかと、まずは試着から。

「わ、わ」
 鮮やかな、母国ポルトガルの服を見慣れているからこそ雰囲気の違いや黒っぽいのがルラにとってはとても新鮮。
「すごいたくさんの服であります! 豪華! かっこいい雰囲気でありますね!」
 どれにしようかな! とすでにいくつか手にしているルソラ。
「ソラったら素早い……え、と、方向の違うもの、は」
 と、ルラはルソラをちらちらとみる。
「こんな中華でゴシックに可愛い感じはどうでありますか?」
 と、黒ベースの可愛いフリルの中華風の服を手に取り身体にあててみる。
「この鳥籠みたいなものは……クリノリン? パニエの代わり?」
「姉君の衣装は変わった形の衣装であります! ゴシックな衣装が決まってる! 良いコーディネートでありますね!」
 ルラの手にあるのを覗き込んでルソラは言う。
「形が綺麗だからスカートの中に隠れるのは勿体ないです ね」
 それに合わせるものはこれとルソラはいくつか選んでみる。
「えっパンツを合わせられるんです?」
 これをメインにお任せしてみても、とルラ。
「ソ、ソラくらい自分で開拓出来たら良いのだけど、こういう処は我ながら保守的 で」
 双子だからこそ、お互いに見て、着たイメージができる。
 ふむふむーと零しながらルソラも服を選んで。
 大人っぽく、と選んだ服を着て一緒に写真を。

「トエルさんの普段の恰好って割とクラシカルだよね?」
 そんな結の言葉を聞きつつ、かわいくしないと、とトエルは燃えていた。
「今日はメインカラー白にしませんか?」
「ん? んん? えとえと……?」
 アクセサリーや小物を黒と深緑。
 靴もちょっとだけヒールのあるものをトエルは選んでくる。
 何となく。物凄く、僅かにだけれどトエルがうきうきしてるようで、結はされるがままに。
「大人っぽさ入れていきましょう」
 そして、髪型。
「イチさん、結ちゃんの髪アップでお願いします。ちょっと大人っぽく」
 任せて、と額を出すように整え、くしゅりと癖付ける。
 その間に結は。
「トエルさんの服はイチさん、見繕ってあげてね! 絶対綺麗で可愛いから! 後、お誕生日おめでとうなの!」
「ありがと。いいよー、やるやる」
 そして写真撮る姿にトエルは頷き。
「私の任務はこれで完了ですね。欲を言えば」
 あのまっくろくろいのにタキシード着せてエスコート役で横に並べたかったんですが。
 逃げられたので仕方ないとトエルが零していると。
「じゃあトエルさん、これで」
 と、いつの間にか選ばれてきた服が。セピア色のワンピースはパッと見てフリルが多い。
「え……私、今日は結ちゃんの引率ですけど……これは……」
「勿論! トエルさんも着るんだよー!」
 そう言ってお着替えブースへご案内。
 しぶしぶ着替えて、髪を整えて、結とトエル二人で写真を。

 大事な友達の誕生日。
 希月は並ぶ服の数々にキラキラと瞳輝かせる。
「ぼ、僕は可愛いもの……イチ様が選んでくれたものなら、きっと……どれも素敵だと、思うから……!」
 お任せしますと希月が言うとイチは問う。
「こういうの着た事ある?」
「フリフリ……僕あまり着た事がない……ゴシック? もです」
 じゃあとイチが持ってきたのは黒いワンピース。けれどフリルとレースたっぷりで、希月には初めての服だ。
「こんな感じですか……?」
 くるりと回ってみればスカートも広がって。
「凄く可愛くて……新鮮な気持ちです……!」
 そう言うのだけど、まだだよとイチは言う。
「まだ?」
「そう、髪もしないとね」
 その言葉にはいと希月は頷いていると、色々選んできたザザがやってくる。
 どんな服をお選びに? と問えばまだ決まってない様子。
 楽しい時間はまだ始まったばかり。

 誕生日おめでとうと瑞樹は声をかけつつ、一着ずつに目を向ける。
「迷ってる?」
 イチに問われ、瑞樹は俺は着たり撮られたりって言うのは苦手で、どっちかというと作る方なんだよなぁと零す。
「可能なら製作者とそれぞれ一着一着をどんな感じに作ったが話したいなーと、思うんだができなんだよな。ちょっと残念」
 そう言いながら、縫製や素材など普段カジュアルな服装しか作らない瑞樹には新鮮な物ばかり。
「そういや前に雑誌で見た、スチームパンク系のゴシック服は面白かったなー」
「そういうのもあっちにあったよ」
 そう言われ、瑞樹はそちらに足を向けた。
 自分で着るより、作り手して誘われるものばかり。

 自分とは縁がないけれど、千舞輝はと誘って遊びに。
「こんな至れり尽くせり会、行かへん選択肢は無いな!」
 と、目の前の光景に千舞輝は倉庫の奥地へ。
「お、これは」
 白陽が手に取ったのはシルクハット。
 それを見てこれだと探したのはタキシードだ。
「気球から梯子垂らして逃げていきそうな奴だ」
 また会おうーと物語の中の怪盗をまねて羽織ったマントを閃かす。
 そして千舞輝はゴシックドレス。
 首元まできっちりつまった繊細なレース使いのドレスは、布を重ねて豪奢なものだ。
「あーれー助けて警部ー、ってこういう時助けに来る側が怪盗違うん?」
「おお。仲間。謎のグラマー美女枠だね、解るよ」
 そう言いながら、写真の為のポーズの研究。
 小道具の梯子を立てかけ、それを掴んで、と試行錯誤。
「攫われ中ポーズってなんかイメージムズいなぁ」
 そう言って千舞輝は支援タイプの怪盗の仲間っぽいイメージでどうと再度提案。
「じゃあ二人でカッコつけるか」
 方向が決まれば幾つもポーズをとって、また衣装替え。

 エルスは誘いの御礼と祝いをイチに。
「何か見つけた?」
「うーん、どれもこれも綺麗すぎて、迷っちゃうの」
 そう言ってこういうのがと紡ぎつつ、ちらりとエルスはアドバイス求める視線。
 それにお任せとイチは数着持ってきてそのうちのひとつをエルスは選んだ。
 首元は黒いレースで覆われ、ウエストを大幅のリボンできゅっと絞りつつ。シルエットは細身なのだけれど、裾には精緻なフリルの飾られた黒基調で差し色に赤が入るワンピース。
 そして椿のコサージュは胸元に。
 それを纏い、エルスは足まで届く銀髪を掬い上げ、髪のセットのお願いを。
「これはちょっとたいへんかもしれないけど……よかったら、お願いしたいの」
「それはもう喜んで」
 しゅるしゅると指から零れる髪に赤いリボンも織り込み編み上げられていく髪。
 髪を結い上げれば、頭の上にもうちょっと何かと探してきたのはヘッドドレス。それをつければ完成。
 ビスクドールのように目を伏せて最後に一枚を。

「イチおにーさん、お誕生日おめでと。今年はヘアアレも頼めるんだよね?」
「うん、やらせてもらうよー」
 萌花はせっかくだから衣装も、とお願い。
「祝いも兼ねて、好きにやってくれていいよ。なぁんて」
 信用してるから楽しみにしてるよ、という萌花。
 と、あれ? と萌花は如月に声かける。
「どれも見て見たいけど凄く迷うのよぅ!」
 と、パンクにゴシック、えとせとら。
 何を萌花に着せようかと如月は迷っていたのだけれど。
「あは。迷って決まらないんだ?」
 それじゃあと萌花はイチに視線向け。
「ねぇ、イチおにーさん、ぜひ如月ちゃんにも選んであげてくれない?」
「って私も!?」
 格好良い系、という言葉に憧れつつも如月はあたふた。
 イチが萌花に選んだのは差色が青の黒ワンピースとブーツ。重なるスカートの色と長さは互い違いで、それがボリューム感を出している。
 如月にはしゅっとしたラインのロングスカート。それにフリルシャツにジレとブーツ。
 萌花は髪をくるりと巻いて、如月は編み上げる。
 普段しない格好はお互いに新鮮。
「ホントに新鮮だけど……うん、すっごく似合うのよぅ、もなちゃんっ♪」
「如月ちゃんもとっても似合ってるよ」
 モデルなら任せてと、二人並んで写真を撮って。
 他にもと次はお互いで選びに。

「イチ、華ロリは知ってる?」
 着てみたくて、と口ごもるメロゥにあるよとイチは手招く。
 色の希望を伝えれば。
「じゃあこれかなぁ」
 と、イチが持ってきたの裾へ向かって白から緑のグラデーションかかった細かい花柄舞うスカート。それははふわふわと揺れる。
「かわいく……、とびきりかわいくしてください」
 それを纏って、メロゥは髪をイチに弄ってもらう。
 その間にザザはこれーとアクセサリーを。
「こういうひらひらしたお洋服、好き」
「私も! メロゥちゃんふわふわひらひら、似合う!」
「……似合いそうって言ってくれたから、着ているところを見せたくて」
 かれしに、と小声で零したのをザザは捉えてによによ。
 準備できれば写真を撮ってまだ探し物。それは自分の為ではなく、彼への物。
 お揃いコーデの為にもう一着。

 アイヴォリーがこれ、と自分の為に手に取ったの淑やかで禁欲的なドレス。
 大きく派手な装飾はないものの、細やかに手のはいったドレスは淡い色合いのもの。
 夜に選んだのは格調高く豪奢なフロックコートだ。絶対に似合うわとアイヴォリーはそれを夜に合わせてさぁと着替えに。
 着替え、お互い向き会えば夜は余裕の微笑みで、アイヴォリーは言葉失う。
 冴え渡る気品と美、微笑む様は凶器の域――しげきがつよい、というのにさらに。
 にっこりと笑って発した言葉は。
「結婚式みたいだね」
「……えっ、今結婚式って、えっ」
 何を言われたのか理解できないようでできていて。アイヴォリーは夜の腕に縋りつつ、お次は髪のセットに。
「アイヴォリーは纏め髪が良いな、項が見たい」
 ドレスが淑やかだからこそ、脱がせる時を想像する背徳感でねと夜は悪戯な思惑をアイヴォリーの耳元に。
 もう、と零しながらイチの前に座れば髪は編み込み纏め上げられていく。
 リクエスト通り? というイチに夜は頷いて次は自身の番。
 こういう服の時はこうだよねと緩やかに前髪あげて撫でつけるのに、無理矢理ではなく自然。
 その姿にアイヴォリーは。
「もう思い残すことはありません。ありがとうございます最高です……!」
 とてもいい笑顔を浮かべ崩れ落ちる――のを、夜が笑って支え撮影だよと促す。
「ハッ、呼びましたか、夜」
 貴方のためなら地獄からも帰ってきますとアイヴォリーは居住まい正し寄り添う。
 カメラ前に二人並ぶものの、夜の視線はアイヴォリーの美しい姿と首筋につい寄せられる。
 視線向き互いの目が合えば。
「またわたくしを呼吸困難に陥れる怖ろしいひと」
 と、小さく零すのは愛しさの表れ。
「だって、カメラよりも君を眺めていたい」
「もう、ちゃんとカメラを見て」
 どきどきして倒れてしまいそうな気持を零さずとも、知っている。

 好きにしてくれ! とアラタはイチの前に。
 イチにやって貰うのも3度目だしな、信頼してるとアラタは紡ぎ破顔して。
「それにイチの手って優しいから好きだぞ」
「そう言って貰えて嬉しいよ」
 お言葉に甘えて、とイチが選んだのはワインレッドのワンピース。
 上半身はフリルシャツの様で、そしてスカートは幾重にか布重ねてボリュームたっぷり。
 髪はサイドを編み上げおろし、大きめリボンを。
「お~っ! 映画の登場人物みたいになった!? アラタだけどアラタじゃないみたい」
 ありがとうとアラタはくるりと回って笑む。
 そしてザザはどこかなと倉庫の探索へ。
 イチに着せる服はと物色中のザザ。
「燕尾風の上着ならウエストコートはどうだろう」
「なるほど……もう色々持っていっちゃいましょ!」
 と、シルクハットやほかにも色々、どれがいいかなと探す時間はとても楽しいもの。

 ふらりと足を運んだヒコは声かける。
「よぅ、イチ誕生日目出とう。今年も祝えて嬉しいぜ」
 祝いの品は花々彩られたつげ櫛。梳くに相応しい髪に使ってやってくれと渡す。
 そして主旨はしっかり理解しているともとヒコは頷く。
 けれど洋装についてはさっぱり分からずだ。
「折角だ、イチと揃いっぽくしてみるのも好いな」
 双子コーデ、とか云うんだろう? と紡げばザザが面白そうと乗ってくる。
「特別感が出るだろう。ほら、あの辺のヴィクトリアンは揃いっぽいぜ?」
 見て来る! とザザはそちらへ。
 その様子にヒコは笑って。
「さぁさ、人形のように着せては躍らせてくれ。操られるが儘着こなして魅せよう、ってな」
 そんな事いってると、とイチは苦笑する。
「ドレスとか持ってきちゃうよ?」
「――……え、女モンも着るかって? 望むなら喜んで」
 とは言ったもののやはりそれを人前で披露するのはと思うのだ。
「ただ……陰には隠れさせてくれ。他の奴に見られんのは勘弁だぜ」
「陰に隠れられると思う?」
「……思わねぇな……」
 そんな風に笑いあっていると、ザザが他にも色々抱えて戻ってくる。
 どれだけ着せたいんだと言う程に。

 暇ではないわ、暇ではないのよと紡いで。
「夏宵のほとりに賭けた一片をさっそく回収に来たのよ」
 と、存分によろしくとオルテンシアは笑む。
 イチは喜んでと早速服を選ぶ。
 その様に物は言いようよねとオルテンシアは零す。
 任せることで趣味趣向が知れるというのは決して悪い話ではないのだから。
 そう思いながら口端に浮かぶ笑み。
 黒いロングドレスは膝下からレース重ねてふわりと広がる。黒字に鈍い銀の刺繍は精緻なものだ。
「但し。自由には対価がつきものよ。ねえ、ザザ」
「そうそう! さっきの御貴族様の別の! 着なかったやつ!」
 と、すでに手に。
「私との壇上、光栄でしょう? ええ、私はとても光栄よ」
「これは逃げられない……でも御貴族様はもうちょっとどうこう」
「ならないわよ。さぁ、諦めて」
 災禍選べぬ未来視の向こう。あなたの瞼裏を癒す色彩をひとつでも多く映し、写して――そう思いながらオルテンシアが笑むと、イチも笑む。
 今日のこの日を留めおけるように。

作者:志羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月1日
難度:易しい
参加:19人
結果:成功!
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