鋼の略奪部隊

作者:雷紋寺音弥

●強襲、ライドロイド軍団!
 モダンな設備の工場内に、規則的に響く機械音。様々な部品が流れて行くコンベアの横では、工員達が忙しなく動き回っている。
 それは、何の変哲もない機械工場。今日も特別な異常はなく、生産は順調に進んでいると。そう、誰しもが思っていた矢先のことだった。
「うわっ! な、何だ!?」
 突然、轟音と共に工場の壁が破られ、工員のような姿をしたダモクレスが現れた。
「生体反応、確認」
「グラビティ・チェイン、回収開始……」
 そう言うが早いか、工員達に襲い掛かる2体の機人。悲鳴と怒号、そして鮮血が飛び交う中、別の場所には青い機械兵が出現し。
「資材、確認。回収開始……」
 工業製品や工場そのものさえも解体し、次々と資材の山に変えて行く。
「コチラハ、警戒ヲ担当スル。各機、異常ガアレバ、報告セヨ」
「了解! ……敵対勢力ノ反応、確認サレズ。異常ナシ!」
 同じく、工場の入り口に出現した赤い機械兵の号令と共に、3体の機人達が周囲の警戒に当たっているようだ。そうしている間にも、工員達は次々と機人の餌食となり、工場も解体されて行く。
 やがて、必要な分量の資材を手に入れたのか、赤い機械兵の下に通信が入った。それを受け、工場を襲撃した軍団は、次々に工場の中へと集まって行き。
「任務完了! 任務完了! コレヨリ、帰還スル! 各機、撤退セヨ!」
「了解! コレヨリ、帰還スル!」
 最後の機人達が復唱したところで、唐突に開かれる魔空回廊。奪取したグラビティ・チェインと多数の資材。その二つを手土産に、彼らは略奪の限りが尽くされた工場を後にした。

●略奪部隊迎撃任務
「招集に応じてくれ、感謝する。まずは、ダモクレスの海底基地破壊、御苦労だったな」
 この作戦の成功により、ディープディープブルーファングは完全に製造を停止させられた。ダモクレスの行っていた研究や死神との関係は未だ不明だが、当面は同様の事件を引き起こすことはできないだろうと。そう、ケルベロス達に告げるクロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)ではあったが、しかしその表情は険しいままだ。
「調査の結果、お前達が破壊した海底基地とは別に、ダモクレス達は海底に資源採掘基地を設けていることが判明した。これを発見して叩ければ、敵の作戦行動を大きく妨害できるのかもしれないが……」
 何を隠そう、その資源採掘基地に所属しているダモクレス達が、次なる事件を起こそうとしている。彼らの目的は、海底基地が破壊された結果、補給が十分に行われなくなった分の資材を略奪によって入手することに他ならない。
「狙われているのは、静岡県にある海辺の工場だ。出現するダモクレスは、本来であれば工場建設に従事していた連中のようだな。個々の戦闘力は高くは無いが、資材の強奪や敵への警戒、グラビティ・チェインの略奪を狙った作業員の襲撃などを手分けして行なうなど、統制の取れた行動を行なって来る」
 今までのように、単なる力技だけで押し勝てるような敵ではない。状況を正しく把握し、適切な行動を以て迎撃に向かわねば、翻弄されるだけで終わってしまうとクロートは警告する。
「出現する敵のダモクレスは、シモーベと呼ばれる工員タイプの型が5体だな。それに加え、大型作業用機械のライドロイドが2体と、それを戦闘用に改造したものが1体の、合わせて8体が確認されているぞ」
 本来は作業員であるシモーベ達は戦闘力も低く、ケルベロス1人よりも少しばかり弱い。彼らの武器はスパナやドリルといった工具であり、グラビティ・チェインの略奪をする2体は撹乱特化。それ以外の3体は狙撃手として、工場の入り口で警戒活動に付いている。
 また、作業用のライドロイドは2体とも防御に特化しており、それぞれ別の場所で資材の奪取を行っている。作業用のため目立った武器はないが、そのパワーから繰り出される拳の一撃は、決して侮れるものではない。安全に撃破するためには、少なくとも2人以上のケルベロスが必要だ。
 それらに加え、戦闘用に改造された赤いライドロイドが、やはり工場の入り口で警戒活動を行っている。こちらは戦闘用だけに攻撃力も高く、キャノン砲やミサイルといった武装が施されている。それでも、最初から戦闘用として作られてはいないため、4人ほどのケルベロスがいれば、なんとか互角に戦える程度の相手なのは幸いか。
「今から向かえば、敵のダモクレスを撃破しつつ、略奪を阻止することも可能だぜ。だが、今回は戦場が大きく4つに分かれているからな。一度に全てを相手にしようとして、戦力不足にならないよう気を付けてくれ」
 工場の正面入り口には戦闘用ライドロイドに加え3体のシモーベが警戒活動を行っており、戦闘用ライドロイドはケルベロスが邪魔をしなければ、戦闘になっている他の戦場に救援に駆け付ける。
 その奥では作業用ライドロイドが、それぞれ別の場所にて工場を解体中だ。彼らは7分で作業を終えて撤退しようとするが、魔空回廊の開く地点へ向かうのに1分、そこで資材を纏めるのに1分を要するため、その間は隙だらけとなるのが弱点か。
 また、工場の中心部では2体のシモーベが工員達を虐殺している。戦闘に入れば彼らも工員の虐殺より戦いを優先するかもしれないが、敵が1体だけと判断すれば、2体の内の1体は、引き続き虐殺を続ける可能性があるので油断できない。
 目標は戦闘用ライドロイドを含めて5体以上のダモクレスを撃破するか、作業用ライドロイド2体の撃破。或いは資材の略奪だけでも阻止できれば、敵も略奪を諦めて撤退するだろう。
「それぞれの戦場を移動するのには、だいたい2分の時間が必要だ。移動に掛かる時間や敵の動きを考慮して、適切な作戦を考えてくれ」
 成功の鍵は、時間への意識と人数の割り振り。それをしっかり頭に入れて、最良の作戦を練って欲しい。
 最後に、それだけ言って、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
戯・久遠(紫唐揚羽師団の胡散臭い白衣・e02253)
叢雲・紗綾(無邪気な兇弾・e05565)
ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)
星乃宮・紫(スターパープル・e42472)
クロエ・テニア(彩の錬象術師・e44238)
武蔵野・大和(大魔神・e50884)

■リプレイ

●崖っぷちの略奪部隊
「うわぁぁぁっ! 助けてくれぇぇぇっ!!」
 真昼の工場内に響き渡る悲鳴。突如として現れた二体の機人を前にして、逃げ惑う工場の職員達。
「ターゲット、確認。グラビティ・チェイン、回収開始……」
「抹殺! 全テ、抹殺セヨ……」
 ドリルやスパナといった物騒な工具を片手に、シモーベと呼ばれるダモクレス達が、近くにいる工員に標的を定めて襲い掛かった。が、その手に握られたドリルが工員の頭を貫こうとした瞬間、一筋の閃光がシモーベの身体を大きく後ろへと吹き飛ばした。
「往生際の悪いポンコツ野郎共ですね、黙ってスクラップになってれば良いものを」
 壁面に叩きつけられたまま凍結しているシモーベを、未だ白煙を上げているライフルを担いだ叢雲・紗綾(無邪気な兇弾・e05565)が静かに見降ろしていた。
「血潮よ燃えろ、加速しろ――荒れ狂え……!!」
 続けて迫り来る巨大な剣。左右に連結することで重量を増した篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)の鉄塊剣が、シモーベの身体を押し潰す。そのまま、至近距離からプラズマの奔流を叩き込んだところで、早くも敵の腕が吹き飛んだ。
「敵機、確認。パターン解析……ケルベロス」
「作戦中止。コレヨリ、障害ヲ、排除スル!」
 未だ無事な方のシモーベも加わり、ドリルや火炎放射器を武器に、紗綾や佐久弥へと向かって来る。だが、二人にとってはそちらの方が、むしろ好都合というものだ。
 工員達に簡単な避難指示を促して、再びシモーベと対峙する二人。刹那、凄まじい炎がうねりを上げて襲い掛かって来たが、その程度は最初から覚悟の上。
「こんなガラクタに、時間をかけるわけには行かないですね」
 ボクスドラゴンのアルゴルより力を受け取り、紗綾は身体に纏わり付いた炎を軽く振り払う。
「同感っす。さっさと片付けて、資材の搬入阻止に向かうっすよ」
 佐久弥もまた鉄塊剣を持ち直し、そのまま一気にシモーベ目掛けて駆け出した。
 工場の中に響き渡る、激しい金属音と爆発の音。紅蓮の炎を纏った刃が、極限まで研ぎ澄まされた鋭い一撃が、それぞれにシモーベ達を蹴散らして行った。

●自棄っぱちの攻撃部隊
 工場内で、紗綾と佐久弥がシモーベ達との戦闘を開始した頃。
 時を同じくして、工場の入り口に降り立った残りのケルベロス達を出迎えたのは、警戒活動を行っていたダモクレス達による攻撃の雨だった。
「ちょっと! いきなり撃って来るなんて、マジで聞いてないし!?」
 身構える暇もなく攻撃されたことで、クロエ・テニア(彩の錬象術師・e44238)が早くも文句を言っている。もっとも、彼女に飛んで来た砲弾は、戯・久遠(紫唐揚羽師団の胡散臭い白衣・e02253)が盾になることで、しっかりと防いでいたのだが。
「さあ、いっちょやりますか」
「統制の取れた行動ならば、ケルベロスも負けません」
 稲妻の障壁を展開し、久遠が不敵に笑った。それに合わせ、武蔵野・大和(大魔神・e50884)が味方目掛けて球状のオーラを蹴り出したところで、残る者達は一斉にライドロイドの後方を固めるシモーベに狙いを定める。
 敵は攻撃特化の殲滅スタイル。だが、それはこちらも同じこと。使える時間が限られている以上、ここから先は一気呵成で叩くのみ。
「我が嘴を以て……貴様等を破断する!」
 ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)の号令に合わせ、散開して行く仲間達。まずは倒し易い敵から叩くべきだとばかりに、クロエは後方のシモーベ達へと凍結手榴弾を投げ付けた。
「とにかく全部ぶっ潰す!」
 閃光と共に炸裂する白煙。爆発の代わりに周囲に広がるのは、全てを凍らせる絶対零度の凍気の渦。
「虐殺など絶対させないわ! このスターパープルが守ってみせる!!」
「……大丈夫。オレ達なら出来る!」
 星乃宮・紫(スターパープル・e42472)の呼び出した氷河期の精霊が猛烈な吹雪を巻き起こし、ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)の放った銃弾の雨もまた、敵軍へと容赦なく降り注いで行った。時間が限られている以上、1体ずつ丁寧に相手をするわけにも行かず。
「ここで手間取る訳には行かんな。悪いが、道を開けてもらうぞ」
 横薙ぎに振るわれたジョルディの斧が、シモーベの首を刎ね飛ばす。頭部を失った敵の身体が崩れ落ち、激しい火花を散らして爆発した。

●激突、回収部隊!
 工員達の逃げ出した工場内にて、黙々と作業を続ける大型機械。グラビティ・チェインの略奪とは別に、資材の回収を目的として送り込まれた、作業用のライドロイド。
 鉄骨にパイプに装甲版、そして何だか良く分からない細かな部品まで。大小様々な資材を積み重ねているライドロイドだったが、突如としてその青い巨体に、銃弾とブレスが炸裂した。
「さて……工員を狙う雑魚は片付けましたし、ここからが正念場ですね」
 アルゴルと共に馳せ参じたのは紗綾。工員達を襲っていたシモーベを手早く片付け、作業用ライドロイドの妨害に回ったのだ。
「搬入、中止……。任務ノ障害排除ヲ、最優先……」
 紗綾の姿を確認し、作業用のライドロイドが巨大な腕を射出して来た。すかさず、身体の中心で受け止めた紗綾だったが、その一撃の重たさに思わず顔を顰めた。
 見た目通り、敵はなかなかのパワーの持ち主だ。戦闘を主目的としていないが故に、これでも火力は抑え気味なのが救いだが、本気で殴られればどうなっていたか。
 防御に特化した間合いに移動はしていたが、それでも彼女1人で支えるには、なかなか負担の大きな相手だった。ましてや、シモーベとの傷も癒えぬままの連戦である以上、これは耐えるのが精一杯かもしれない。
 だが、それでも敢えて気丈に振る舞うことで己を鼓舞し、紗綾は再び駆け出した。
 自分の背中はアルゴルに任せ、振り返ることは決してしない。ここで退けば、敵に逃げる隙を与えてしまう。それだけは、絶対にさせてはならないと知っていたから。
「業用の癖に戦場に出てくるぐらい余裕がないですかね? でも同情はしないです。何の成果も得られないまま処分してやるです!」
 気力を溜めて体勢を整え、改めて敵と対峙する。せめて、他の仲間達が到着するまで、少しでも時間を稼げれば。そう、考えた矢先、再び繰り出された敵の巨腕が、彼女の身体を横薙ぎに吹き飛ばし、工場の壁に叩き付けた。

●敵中突破!
 白煙と爆音の入り混じる正面入口。戦闘用ライドロイド率いる警戒部隊とケルベロス達の戦いは、更に苛烈さを増していた。
 後衛を担うシモーベ達は、既にその全てが機能を停止している。人間より優れた能力があるとはいえ、あくまで彼らはダモクレス達の工場で生産を担う工員に過ぎない。一般人が相手ならまだしも、百戦錬磨のケルベロス達を相手にしては、さすがに不利は否めない。
 もっとも、それに対して戦闘用のライドロイドは、なかなか厄介な相手だった。
 大型の建設重機に匹敵するパワーと、圧倒的な重装甲。機動力こそ低いものの、個としての戦闘力では、ケルベロスのそれを凌駕する。武器こそ外付けの間に合わせ品だが、それでも火力は侮れない。
「目標、捕捉……。ミサイル……斉射……」
 左肩に備え付けられたポッドが展開し、内部から発射されるのは多数の小型ミサイル。だが、小型だからといって油断はできない。元の火力が高い上に、このミサイルには生物の神経を麻痺させる効果もあるのだから。
「させるか! 破壊ミサイル弾、発射だ!」
 アームドフォートのラダー部分に仕込まれた砲塔から対空弾を発射して、敵のミサイルを撃ち落とすロディ。しかし、敵のミサイルは発射後に分裂する拡散仕様。他の者達に向かって飛んで行った分までは、さすがに落とせるものでもなく。
「化学兵器を搭載しているのか。なかなか油断できないが、相手が悪かったな」
 ここで動きを止められては堪らないと、久遠が薬液の雨を降らせ、仲間達の身体に染み付いた爆風の効果を消して行く。予想以上に戦闘が長引いている今、ここで全員が行動不能にさせられては洒落にならない。
「用事があるのはその奥です、力づくでも通してもらいます!」
 場合によっては、地面諸共強引に排除する。叫びと共に大和が大地を踏み締めれば、敵の増したから噴出するのは灼熱のマグマ。
 正面からのパワー押しで敵わないなら、真下から攻めるという手もある。さすがに、バーニアの類もなしに巨体を空中で制御することはできず、敵のライドロイドはバランスを崩して落下を始め。
「術式、セット! 食らえ、増やせ、呪え……その身を呪詛で覆い尽くすまで! 咆哮の紫、シュート!」
「こっちも行くわ! 紫の連撃、味わいなさい!」
 クロエの放った銃弾が咆哮する蛇と化して襲いかかれば、間合いを詰めた紫の拳が、腕が、そして脚が、次々に敵へと炸裂し。
「パープルパンチ! パープルエルボー! パープルヒップ! パープルアッパー! パープルゥゥゥゥ……キィィィック!」
 止めの蹴りが炸裂したところで、赤いライドロイドの巨体が工場の壁面にめり込んだ。
「二人とも、離れてくれ! ……ターゲットロック! 奔れ、青い流星!」
 動けなくなった敵目掛け、ロディがアームドフォートのラダーを担ぎ、駄目押しの冷凍砲をお見舞いする。周囲の空気はおろか、地面にさえ氷の軌跡を残す一撃を受け、敵の身体は完全に凍結し。
「貴様の墓標……その身に刻んで地獄へ墜ちろ! Funeral! Reverse! Cross! ……Fire!!」
 最後はジョルディの放ったスナイパーキャノンの4連射が、敵の頭部と胸部を撃ち抜いた。
「その弾痕が貴様の墓標だ……心置きなく地獄へ落ちよ!」
 そう紡いで敵に背を向けた瞬間、刻まれた逆十字の弾痕から光が溢れ、戦闘用のライドロイドが木っ端微塵に爆発する。後に残ったのは原型を留めぬ程にまで大破した敵の残骸と、工場の壁に空いた巨大な穴。
「なんとか倒せましたね。ですが、予想より時間が掛かってしまいました」
「文句を言っても仕方がないぜ。彼我戦力差で12対13程度の状況を、火力で強引に突破したんだ。これでも及第点ってところだろうさ」
 少しばかり焦りの色を見せた大和に、久遠が苦笑しつつも答えた。
「でも、時間がないのは同じよ。いっそのこと、この穴から中へ入らない?」
「賛成~。っていうか、今から入口のシャッター開けたりなんだり、そんなことしてる時間も勿体ないし~」
 紫の言葉にクロエが頷き、他の者達もそれに続く。残すは作業用のライドロイドが2体のみ。だが、彼らに残された時間もまた、極僅かな状況となっていた。

●逃走、ライドロイド!
 工場内の通路を駆け抜け、重たい鉄の扉を開け放つ。そのまま作業用ライドロイドのいるであろう部屋へと雪崩れ込んだロディ、紫、そして大和の3人。
「大丈夫か! 状況はどうなってる!?」
「俺は問題ないっす。ただ……思ったより固くて、全然ダメージが通ってないっすよ……」
 ロディの言葉に、歯噛みしつつも答える佐久弥。合流を意識し、敢えて戦闘開始から6分目という節目を狙ったのが災いして、満足な戦闘時間を得られなかったか。
「時間がないわね。一気に行くわ!」
「さっさと潰れてください!」
 紫と大和が一斉に作業用ライドロイドへと攻撃を浴びせ、ロディと佐久弥もそれに続く。もっとも、敵としては、やはり戦闘よりも資材の奪取が優先事項なのだろうか。
 佐久弥と合流してから1分少々で、敵は早くも資材を纏め、早々に工場の中心部へと向かって逃げ出した。
「くそっ! 逃がすか!」
「ここで見逃すくらいなら、少しでもダメージを稼ぐっす」
 逃げ出すライドロイドの背中に、次々と炸裂する砲弾と炎弾。だが、それらは強固な装甲を完全に貫くことは叶わず、とうとう敵は工場の奥へと姿を消してしまった。
「追い掛けるわよ! 絶対に、逃がさないんだから!」
 紫を先頭に、残る者達もライドロイドの消えた通路の奥へと駆け出して行く。
 戦いに使える時間は、残り1分。敵の撤退を阻止できるか否か、勝負の行方は最後まで分からなかった。

●遅すぎた援軍
 佐久弥の方へ援軍が向かっていたのと同時刻。
 ジョルディ、久遠、そしてクロエの3人は、同じく作業用ライドロイドと戦っているはずの、紗綾の元へと駆け付けた。
 もっとも、部屋に突入するなり彼らが目にしたのは、頭を掴まれたまま持ち上げられ、力無く両手を落としている紗綾の姿。佐久弥とは異なり、最短で敵と対峙した結果、より危険に晒されてしまったのだろう。
 敵の足下では必死にアルゴルが体当たりをしているが、そんなことはお構いなしに、敵は満身創痍となった紗綾の身体を無造作に工場の壁目掛けて放り投げた。
「くっ……なんということだ。間に合わなかったというのか!?」
「守りに回っても、流石に1対1では苦しい相手だったみたいだな……」
 残り時間が僅かとなる中、厳しい選択を突き付けられるジョルディや久遠。それはクロエも同じであり、思わず紗綾に駆け寄りたくなるものの。
「紗綾は……大丈夫です……。それよりも……早く……敵を……」
 かなり酷いダメージを負っていたが、それでも紗綾は戦う力を完全に失ってはいなかった。だからこそ、ここは敢えて心を鬼にし、敵を倒すことを優先せねば。
「短期決戦か。望むところだ」
「貴様の蛮行……その身を以て、償ってもらおうか!」
 久遠の拳とジョルディの斧が炸裂し、続けて盛大に火を吹くのはクロエのガトリング砲。しかし、やはり時間が足りなかったのか、敵は資材を手早く抱え、早々に撤退を開始した。
「逃がさないよ! アタシの勢いは、いつでも最後までノンストップ!」
 クロエが慌てて追いかけ、他の者達もそれに続く。広い通路を抜けて工場の中心に出たところで、残る仲間達とも鉢合わせたが。
「……これ以上は、追撃も不可能だな。仕方あるまい」
 敵の消耗度合いを考慮した場合、仲間が全員揃っても、残り1分で倒せるとは思えない。苦渋の策として、ジョルディは2体の作業用ライドロイドを敢えて見逃し、積まれていた資材へと砲弾を叩き込んだ。
「時間ダ! 撤退スル!!」
「可能ナ分ダケデモ、回収セネバ!」
 どこか悔しそうに、しかしそれでも既に両手で保持していた分の資材はしっかり持って、ライドロイド達は魔空回廊の奥へと消えて行く。もっとも、戦闘用ライドロイドを含めて5体以上のダモクレスを撃破できたのだから、作戦は成功と言ってよいはずだ。
「どこか痛いところ、ない? おっぱい揉む?」
 工場を修復する傍ら、ドサクサに紛れてクロエが紗綾に何か言っていたが、それはそれ。
「あ……紗綾のも……揉んで良いです。特別ですよ?」
 返答から察する限り、なんだかんだで、紗綾もすぐに負傷から立ち直りそうだ。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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