弾薬製造工場を守れ!

作者:そうすけ


 出荷用の製品が揃いだし、倉庫いっぱいに荷が積みあがっていく。とはいえ、まだ製造途中の物もあり、社員一丸となって「ラストスパート」だと意気込んでいたときに、事件は起きた。
 非常事態を告げるサイレンが鳴り響いたのだ。
「きゃー!」
 最初にダモクレスの襲撃を受けたのは、発射薬を袋に入れてミシンで縫う作業場の女性たちだった。
 特殊なツルハシやスコップで武装した工業工作用ダモクレスのシモーベが2体が、次々と従業員たちを殺害していく。
 流されるおびただしい量の血に蒼ざめ、管理者らしき年配の男性は壁に背を当ててうわずった声をあげた。
「ひ、避難場所へ! 早く、早く逃げるんだ!」
 生き残った者たちは慌てて作業所の出口へ向かった。
 テロ対策訓練で定めた避難所は分厚い特殊防壁に囲まれており、助けが来るまで持ちこたえられる。
 だが、あともう少しというところでシモーベたちに先回りされて、出口を塞がれてしまった。
「グラビティ・チェイン、スベテ回収スル。オ前タチハ、ココデ死ネ」
 女性従業員たちはしゃがみこんで震え出した。男性従業員たちが庇うように肩を抱いて覆いかぶさる。
「きっと来てくれる。きっとケルベロスたちが助けに来てくれる……」
 自分自身も震えながら必死に女性を励ます男性の頭に、無情にもツルハシが振り下された。


 その頃、工場敷地内の別の場所では、作業用ライドロイド2体がそれぞれ別方向から工場を襲い、資材を略奪しようとしていた。
 広大な敷地内に点在する数々の作業場で避難が始まり、同時に安全のための措置がなされていく。
「緊急停止!」
 ちょうど、爆薬が化学反応を起こしているときだった作業場では、即座に停止措置がとられた。
 どんなことが起きても火の気を断つことが何より大事だと、従業員たちはみな平素から叩き込まれていた。弾薬製造工場なので、火薬類取締法や武器等製造法などにより厳しい規制を受けてたこともあるが、いま火災爆発を起こせばダモクレスたちを利するだけで、生き残れるものも生き残れなくなってしまう。
 逃げ出す従業員には一切関心を示さず、作業用ライドロイドたちはそれぞれ別の場所で黙々と資材を強奪していた。積み込みの邪魔をされない限り人間に用はない。グラビティ・チェインの回収はシモーベたちの仕事だからだ。
「ゼンブ持チカエル、ヒトツ残ラズ」
 海底基地が破壊された事で供給が途絶し、地上のダモクレス部隊の多くで様々な資材が枯渇し始めていた。早急に資材を確保し、次の作戦に備えなくてはならない。
 搭載量ギリギリまで資材を積み込み終えると、作業用ライドロイドは魔空回廊へ戻って行った。


 ゴルフ場が3つくらい入る広大な敷地の周りには、延々と有刺鉄線を巻きつけた高い鉄柵が張り巡らされており、監視カメラでの24時間警備を含めて工場の防犯体制は極めて高かった。
 工場内部にしても、蛍光灯からコンセント、イスに至るまで――1つあたり数十万円もする特殊な防爆仕様であったが、戦闘用ライドロイドはそれらすべてをあっさりと破壊した。
 一瞬にして甚大なダメージを受けてしまった工場内に、非常事態を告げるサイレンが鳴り響く。
 戦闘用ライドロイドと3体のシモーベは、ケルベロスの襲撃に備えて魔空回廊の警備についた。
 ほどなく、作業用ライドロイドたちがそれぞれ別方向から戻ってきた。順次、大量の資材を魔空回廊の中への搬入する。搬入が完了すると、作業用ライドロイドも魔空回廊に入った。グラビティ・チェインの回収を行っていたシモーベたちも血まみれになって戻ってきた。作業用ライドロイドたちとともに魔空回廊を通って何処かへ帰っていった。
「――良シ、撤収スル」
 戦闘用ライドロイドは警備についていたシモーベたちを先に行かせると、最後に燃える工場をひと眺めしてから魔空回廊を閉じた。


「もちろん、そうはならないけどね」
 ゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)は鼻をならした。
「いまのは予知されず、ケルベロスが助けに行かなかった場合。これからみんなで行ってこの結末を変えて欲しい。もちろん、いい方向にね」
 先日、ケルベロスはみごと、駿河湾海底にあったダモクレス基地を破壊した。
 この成功により、ディープディープブルーファング事件で使われるダモクレスの製造がほぼ止めることができたのは大きい。
 海底基地の探索では、ダモクレスが行っていた研究の全貌は明らかにならなかったが、死神との関係は一方的なダモクレスの供与では無いことが判明した。
 また、手に入れた資料などから、ダモクレスの資源採掘基地が海底に存在する可能性もでてきた。資源採掘基地を発見して破壊する事ができれば、今後起こりえるダモクレスの大規模な作戦行動を止める事が出来るかもしれない。
 そんな中、海底基地が破壊された事で資材の補給が充分に行えなくなったダモクレスたちが、工場を襲撃する事件が多数予知されたのだ。その一つが、先ほどゼノが語ったものだった。
「現れるダモクレスは、工場建設に従事していたダモクレスみたい。彼らの戦闘能力は高くないけど、やっかいなことに資材の強奪とケルベロスへの警戒、グラビティ・チェインの略奪目当ての従業員襲撃を手分けしてやるんだ」
 要するに、いま集まっている人数で四か所に散らばるダモクレスを速やかに排除しなくてはならないということだ。
 更に襲撃場所が銃砲弾火薬メーカーの工場であるということが事態を深刻にしていた。
 ただ、それぞれの襲撃ポイントは予知されているので、敵を探し回る手間はだけは省ける。戦場が4か所にわかれているため、戦場と戦場を移動する時間を考慮しなくてはならないのは厄介だが。
「戦闘用ライドロイドと3体のシモーベは、襲撃を警戒して魔空回廊の防衛に当たっているよ。
 シモーベ2体は、襲撃する工場の作業員を襲ってグラビティ・チェインの獲得……。
 作業用ライドロイド2体は、それぞれ別方向から工場を襲い、資材を略奪してさっさと撤退する」
 敵の編成は「戦闘用ライドロイド1体」、「作業用ライドロイド2体」、「シモーベ5体」の計8体の混成部隊だ。ライドロイドはシモーベを強化改造したダモクレスで、シモーベの上半身に大型ダモクレスの体を繋げたような形になっている。
「ライドロイドは分離して2体になったりしないから、そこは安心して。ちなみにシモーベの全長は150cm程度、ライドロイドは全長350cm程度だよ」
 数は多いが、敵は作業用である為に弱く、シモーベ1体の戦闘力はケルベロス1人よりも少し弱い程度だ。
 作業用ライドロイド1体の戦闘力は、ケルベロス1人で戦うのは厳しいが2人ならば互角以上に戦う事が出来る。
「戦闘用ライドロイドだけは『戦闘用』だからそれなりに強いよ。一緒に警備についているシモーベ3体と含めて、撃破するにき6人必要だからね。良く考えて作戦を立てて」
 続いてゼノは、敵の予測行動について説明に移った。
「戦闘用ライドロイドは、ケルベロスが邪魔をしなければ、他の戦場へ救援に向かうよ。
 従業員を襲撃するシモーベ2体だけど、『複数』のケルベロスと交戦した場合は従業員じゃなくてケルベロスに向かってくる。
 作業用ライドロイドは持てるだけの資材をもつと、魔空回廊に戻る。
 魔空回廊は、作業用ライドロイドが襲う2つの工場建屋の中間地点に開いているよ。どちらからもけっこう離れているからね。移動は全力で」
 4か所同時に抑えるのは人数的に難しいだろう。
 分担と順番が大切だ。
「戦闘になれば資材の搬入ができなくなる。資材が送れなければ襲撃の意味がなくなる……ものは考えようだけど、搬入中に攻撃を仕掛けて撤退を邪魔する事もできるね」
 もちろん、最終的に作戦を立てて実行するのはケルベロスたちだ。
「移動にかかる時間や敵の動きを考えつつ、移動中にみんなで作戦をよーく練ってね。さあ、出発しよう!」


参加者
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)
槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)
ウォリア・トゥバーン(獄界の双焔竜・e12736)
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)
バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)
マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)
本田・えみか(スーパー電車道娘・e35557)

■リプレイ


 作業用ライドロイドは資材を積む手を止め、耳のマイクから入ってくる情報の処理に集中した。人間どもの悲鳴と逃げ去っていく足音が急激にトーンダウンしたのはなぜだ?  音の中に混じりだしたのは、まさか、歓喜の声?
 ダモクレス版『虫の知らせ』とでもいうべき警告音がどこかで小さく発せられ、肩を掴まれるようにして振り返る。
 ガラスが砕け散る音。きらめくグラビティの星々の流れに乗って右のブーツ底と左の竜足裏が飛んできた。
「クソがァ!!」
「そこまでだ!」
 顔面にダブル蹴りを食らって派手に吹っ飛ぶ。
「今まで散々舐めてかかってきた癖に今更チーム分けだあ? めんどくせえだろうが。まとめて殺されに来いよッ、殺すぞッ!!」
 相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)は顔の横で中指を立てた。猛犬流の宣戦布告だ。
 起き上がる作業用ライドロイドを、太い腕を組むウォリア・トゥバーン(獄界の双焔竜・e12736)が睨み下ろす。
「コソ泥ダモクレス、地獄に堕ちる覚悟はできているな?」
 作業用ライドロイドは返事をするかわりにガチャガチャとレバーを動かした。ケルベロスが現れたことを知らせる警笛が胸のスピーカーから発せられ、弾薬製造工場じゅうに響きわたるまで耳ざわりな音を大きくしていく。
「やかましいでござる!」
 もう十分。仲間を呼ばせるという目的は達した。
「竜人殿、ウォリア殿、お下がりくだされ」
 マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)は二人の間から飛び出すと、目にもとまらぬ速さでウサギさんパンチを繰り出して胸のスピーカーを粉砕した。
 『剣豪将軍ナノテル様』が、うむ、と深く頷いてマーシャの一撃を褒める。
「警報、発令されましたね。増援に警戒を」
 槙島・紫織(紫電の魔装機人・e02436)はアイズフォンを起動した。珍しく妨害電波は張られておらず、耳障りなノイズは一切聞こえない。
 にっこりして親指と人差し指で輪を作り、仲間たちに電波状況が良好であることを伝える。
「おや? 電波妨害無しか」
「珍しく頭を使っていると思ったら抜けていやがった。クソだな、やっぱり」
「所詮はコソ泥でござるよ」
 紫織は人命救助に向かったB班へ戦闘開始を手短に告げると、ロッドの先を作業用ライドロイドへ向けた。
「では、人命や施設の被害軽減のためにも粛々と片付けて参りましょうか」
 ロッドの先からほとばしった雷が、光る蛇のように大きな体に巻きつく。電気ショックで壊れた胸のスピーカーが発火し、火花が散った。
 まあ、なんて小汚い花火。バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)が、冷たく光る目を細めて笑う。
「これ以上の被害を出さないために、頑張りましょう」
 バジルの体から染み出た毒霧が指の爪に集まる。
「じわじわといきたいところだけど……早めにけりつけないとね」
 ぴんと伸ばした指先から黒々とした毒の弾が発射された。
 毒弾は作業用ライドロイドの体に穴を穿って入り、毒をまき散らしながら後ろへ抜けていった。
 不利を悟って逃げ出そうとした敵の前に、本田・えみか(スーパー電車道娘・e35557)が立ちはだかる。
「ダモクレスも転げ落ちる、工場場所の開幕っす!」
 えみかが勢いよく吹きだした炎が床を走り、たちまちのうちに輪となって炎の土俵を作りだした。
『同じ土俵に立ったからには、えみかの相撲に付き合ってもらうっすよー!』
 パンッと柏手をひとつ響かせてから腕を開く。右手を差し伸べ、左手を脇腹に当て、高く片足を上げて大きく四股を踏んだ。ゆっくりせりあがって、両腕を広げる。
 見事な土俵入りを毛色の変わった挑発と受け取ったか、立ち合い一番で興奮が頂点に達した作業用ライドロイドが猛烈に突っ張ってきた。太い腕を回転させて胸を狙ってくる。
「どすこーい!」
 相手のつっぱりを受け流して、左へ回り込む。四つになろうしたが、相手は必死で腕を払いにきて組ませてくれない。なおもつっぱる相手の脇の下になんとか手を差し込むと、はず押しで土俵を割らせた。


 弾薬製造工場の東の一角。資材倉庫を物色していた作業用ライドロイドは、仲間が発した警笛を聞くや否や、すぐさま品定めをやめて猛烈なスピードで手あたり次第、運搬カートへ物資を投げ入れだした。
 同じころ、戦闘用ライドロイドとシモーベ二体もケルベロス襲撃を告げる警笛を聞き、慌てて西の薬莢製造所へ向かった。


 渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)は別班からの連絡を受けた直後、発射薬袋の製造所へ入っていく二体のシモーベを見つけた。
 霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)も敵に気づく。
「ダモクレスが何を計画しているかわかりませんが、工場の方々はお守りしないといけませんわっ」
「急ぐぜ!」
 製造所に駆け込むと同時に、女性の悲鳴があがった。
「お前達の相手は俺達だ!」
 ツルハシを振り上げるシモーベたちに向かい、数汰が大声で叫ぶ。
 振り返ったシモーベのうち一体がツルハシを振り上げたまま体をくるりと回し、突進してきた。
「よし、こい!」
 鋭い気合とともに、ケルベロスコートの内から武器が取りだされる。
 次の瞬間、景色が白く飛び、紫電がドーム状の天井より掲げられた鎌めがけて落下した。一拍遅れて空を引き裂いた轟音が、製造所全体を震わせて響く。
 ケルベロスの内に宿る重力が、閉鎖空間内に落雷をひき起こしたのだ。
『我が手に宿るは断罪の雷霆――その身に刻め。裁きの鉄槌を!』
 帯電した鎌を振りぬく。
 圧縮され、半月の型にしなった稲妻がシモーベの頭を直撃した。頭部から左胸にかけてギザギザの三日月状に切り裂ける。
 シモーベは半壊し、よろけながらも、残った右胸部の発射口を開いてエネルギー砲を発射した。
 数汰は肩先のあたりを掠られながらも攻撃をかわし、シモーベに向けて鎌の先を鋭く伸ばし威嚇した。
「次で仕留める!」
 もう一体のシモーベは、視界がホワイトアウトしたところで体を回し、高いところで止めていたツルハシを振り下した。
 翼をはためかせて急行した『エクレア』がシモーベに体当たりして、ツルハシの先を横へそらせる。ツルハシは女性工員の頭ではなく、リノリウムの床材とその下のコンクリートを砕いて先を食い込ませた。
 ちさはミシンが並ぶ大きな作業テーブルを回り込むと、床にへたり込んでいる女性の脇に腕を差し入れて立たせた。
「ご無事でなりよりですわ」
 『エクレア』がツルハシを引き抜いたシモーベを威嚇している間に、他の工員たちを連れて非常出口に向かう。
「みなさんには急いでここから避難して戴きますわ。安全が確保できましたら工場の対応をしてほしいですの。ですがまず、お命を大事にしてほしいですわっ」
 工員たちの退避を確認すると、ちさは製造所中のテーブルの上を見て回った。硝酸セルロースに有機溶媒を加えて練ったプラスチックのような発射薬は、火をつけても燃えるだけだが、強い衝撃を加えると爆発を起こす。危険だ。できる限り回収した。
「これで安心して戦えますわっ。エクレア、よく頑張りましたの。さあ、代わりましょう」
 数汰が達人の域に達した鎌捌きでシモーベを一体撃破した。
「わたしも負けていられないですわっ!」
 ダン、と床を踏んで長い脚を槍のように伸ばし、『エクレア』の尻尾を捕まえようと腕を伸ばしたシモーベを突き蹴る。
「エクレア、回復をお願いしますわっ」
 小さな翼が起こす風の流れに舞いながら、二度、仲間からの援護射撃を受けてスパイラルアームをかわす。その間、シモーベを翻弄するように長い髪と腰を揺らして踊りながら、快楽エネルギーを高めていった。
「最後は『お母様より受け継ぎしこの技で打ち砕きますわっ』」
 赤いチャイナドレスの前で指を組み合わせ、手の先から図太いレーザービームさながらの光の束を打ち放つさまは、実に美しかった。
 シモーベはまばゆい光に刺し貫かれ、焼かれた。雑魚には贅沢な終わり方だった。
 数汰は携帯を開き、A班に撃破の報を入れた。つながった途端、耳に激しい戦闘音が飛び込んでくる。
「こちらB班、撃破成功。いまから――」
 報告を終える前に切れてしまった。


『仮面は全てを覆い隠す――』
 土俵を割った作業用ロイドを、燃える仮面をつけた竜人が迎え撃つ。闘志をむき出しにして、固めた拳で敵の体を乱れ打ちに打ちまくった。
「時間が惜しい、とっとと沈めやオラッ!」
 ベコベコに凹んで変形した作業用ライドロイドの肩のハッチが開き、中からチェーンソーが出てきた。低い機械音をうならせて、刃が回転する。
「下がれ!」
 ウォリアが神威銃カガセオの引き金を引いてフロストレーザーを発射、氷結させて動きをとめる。
 その短い間にマーシャが竜人の庇いに入った。遅れて振りおろされたチェーンソーに腕を切り裂かれて、床に血を飛び散らせる。すぐに『剣豪将軍ナノテル様』がハート形のオーラを切り傷に張りつけて癒した。
「大丈夫?」
 バジルはマーシャを気遣いながら、オウガメタルたちを集めて黒い半月刀を形作らせた。
「それにしてもしぶといわね。攻めは稚拙でたいしたことがないようだけど」
 ゆらり影を踏むステップでスクラップ寸前のダモクレスへ近づくと、チェーンソーを繰るアームを切り落とす。
「敵、増援の接近を確認しました。間もなく到着します!」
 紫織はヒールドローンを展開させた。目の前の敵を落とす前に合流されたら、戦いが厳しくなる。いまの内に仲間が受けた傷を全開させておかねばならない。
「うーん、こんなに固いなら最初に手加減する必要、なかったっすね」
 えみかが降魔真拳を繰り出しながらぼやく。
 戦闘用ライドロイドたちを早々におびき寄せるため、わざと攻撃の手を緩めて警笛を鳴らす余裕を与えたのだが、最初から全力で叩いてもよかったかもしれない。
「とにかく、合流前に削れるだけ削るんだ!」
 ここで時間を食えばその分、B班の元に駆けつけるのが遅くなる。
 炎を吹くウォリアの体が揺らぎ、複数に分かれた。右側の人格が腹に響く低い声で詠唱を行い、御業を発動させる。
『……来たれ星の思念、我が意、異界より呼び寄せられし竜の影法師よ……神魔霊獣、聖邪主眷!!! 総て纏めて……いざ尽く絶滅するが好いッ!』
 竜の爪が床を砕いて食い込み、空いた穴から地獄の炎が迸る。ごうごう轟々と吼え猛る大気の流れが炎を巻き上げ、分身を飲み込む七つの御柱を立てた。炎の柱の中から太刀、槍、弓、鎚等の様々な武具を構えた分身が飛び出し、恐れをなして後ずさる作業用ライドロイドを一斉攻撃する。
 攻撃目標を中心にして放射状に熱風が吹き、工場内が赤々と染め上がった。
「ちっ、あれだけの技を食らっておいて……もう、いいからさっさと死んどけやッ!」
 全身黒こげだが、作業用ライドロイドはまだ動いていた。レバーをガチャガチャさせて、やみくもにスパイラルアームを振り回す。
 すかさずマーシャとえみかが防御に入り、『剣豪将軍ナノテル様』がバリアを張る。竜人、バジルと続けて攻撃を仕掛けた。
「通信入りました。撃……え? 敵、三機――後ろっ!」
 紫織がよく通る声で警告を発したが、わずかに遅かった。
 ケルベロスたちの背に大量のミサイルが被弾し、轟音を響かせ爆発した。黒煙と炎の隙を突いて二本のエネルギー光線が差し、踏みとどまった者の腹と肩を吹き飛ばす。
「く……」
 腰を捻り落としつつも紫織はヒールドローンに指示を飛ばし、治療行動をとらせた。
 だが、ダモクレスたちはチャンスを逃さない。ケルベロスたちの膝が次々と地に落ちると、一気に片をつけるべく固まって突っ込んできた。
「おのれ、悪人。図に乗るでない!」
 マーシャは一喝で敵の動きを封じると、それを気合いがわりにタッと抜きうちをかけた。
 たたらを踏んだシモーベの前に一足飛びするや、幕末の志士に迫る気迫を刃に変えて胴を薙ぐ。
「ナノテル様、いざ!」
 落ちるダモクレスの頭を、『剣豪将軍ナノテル様』の尖った尻尾が刺し砕いた。
「ナノッ(成敗)!」
 よし、と気を吹き返したケルベロスの後ろで、黒い影が立ちあがる。
「――ガ、ガガガ・ケル――倒・ス」
 作業用ダモクレスはバジルに倒れかかりながら回転する腕を突きだした。
「ごっつぁんでっす!」
 正面からえみかがぶちかましで叩き止める。
 バジルは床に伸びる己の影に毒弾を撃ち込んだ。毒を帯びた影がするりと伸び、作業用ライドロイドの足裏をじわりじわりと侵食する。
「『足裏から毒素を取り込みましょう』。おやすみなさい、二度と目覚めないでちょうだいね」
 作業用ライドロイドが毒に倒れたところで、再びロケット群がケルベロスめがけて飛んできた。
「B班、敵撃破とのこと! 現在、第二目標に向かって移動中だと思われます。私たちも頑張りましょう!」
「おう!」
 紫織が降らせた薬液雨のベールに包まれて、マーシャとえみかがディフェンスに立った。大きな爆発音がとどろき、工場建屋が音を立てて揺れる。
 人間大の影が、爆発の煙に紛れて二人に向かってきた。
「ケルベロスなめてんじゃねぇぞ、雑魚がッ!」
 竜人が太い尾を振るってシモーベの足を払う。スっ転んで床に伸びたところにウォリアが、死病ヲ刻ム刃【ナムタル】を振り下し、首を焼き切り落とした。
 残るは戦闘用ライドロイド一体。
「間に合わなきゃ意味がない。この後を考えるな、全力でいくぞ!!」
 ウォリアが激を飛ばす。
 地鳴りのような咆哮をあげ、ケルベロスたちは一斉に得物に襲い掛かった。


 数汰とちさたちは、西の端を目指して急いでいた。
「ニャ!?」
 『エクレア』が翼を翻して別方向へ飛んで行く。
「ど、どうしましたの?」
 ただ事でない様子に足を止め、『エクレア』の後を追った。
「あっ!!」
 角を曲がった先に、略奪した資材を両脇に抱えて走る作業用ライドロイドの後ろ姿があった。魔空回廊目指して走っていく。
 すぐに後を追う。
 魔空回廊前でケルベロスに追いつかれた作業用ライドロイドは、体を振るようにして右脇の資材を投げ入れ、体に格納した資材を慌てて足元に降ろした。仲間の助けを信じて、反撃に出る。
「生憎だが助けは来ないぜ。頼みの用心棒は今頃俺の仲間達が相手してるからな」
「エクレア、私たちの攻撃を補助し回復をお願いしますわね」
 決死の攻防が始まった。ダモクレスは基地へ送る資材を守ろうとして、数汰とちさは資材をこれ以上送らせまいとして。一進一退を繰り返す。
 突然、作業用ライドロイドが止まった。二人の後ろをじっと見つめている。A班が駆けつけて来たのだ。
 ちさが叫ぶ。
「早く!!」
 一瞬の隙をつき、作業用ライドロイドが魔空回廊に飛び込む。
「逃がすか!」
 急ぎ惨殺ナイフを振るうも僅かに届かず。
 魔空回廊は資材の山を残して閉じ、消えた。

作者:そうすけ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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