早朝――京都府京都市は北西に広がる山中に、忽然と現れる異形なる影。
赤い翼を広げ、髪に花を咲かせた女性は、淡々と肩越しに言い放つ。
「お行きなさい、ブルチャーレ・パラミータ、メラン・テュンノス。ディープディープブルーファングの戦闘能力を自らの力としてみせるのです」
すい、と宙を滑るように泳ぐのは、片やカツオ、他方はマグロにも似た魚の妖――死神だ。となれば、命令を下した女性も。
――――!!
彼女が鎌で示した方向、人里ある山麓目指し、2体の死神は甲高い咆哮を上げて突き進む。よくよく見れば、カツオのような死神は、弾丸のような形の卵を抱いているのが判るだろう。
ゴバァァッ!
そして、マグロ型の死神の腹から、内臓を捻り出したような触手が飛び出す。奇怪なる触手は突進の勢いに逆らうように、或いは獲物を求めるようにグニグニと蠢いた。
「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
ヘリポートに集まったケルベロス達を、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は静かに見回した。
「ヘリオンの演算により、京都府京都市を2体の魚型死神が襲撃する事が、察知されました」
今回の事件にも、黒幕がいる――鮫型ダモクレス、ディープディープブルーファングを操っていた死神だ。
「ディープディープブルーファングの量産基地は、先の『海底基地攻撃作戦』に於いて破壊されました。これを受けて、作戦を変更したと考えられます」
2体の魚型の死神は、カツオとマグロの姿を模している。下級死神ではあるが、戦闘力は強化されているようだ。
何れも全長5m程の死神で、人里目指して空中を泳ぐように移動している。
「京都と言っても広いですが……死神は京都市北西、右京区にある沢山の辺りからやって来ます」
山麓は長閑な田園風景に在って、右京区の梅ヶ畑一帯の産土社である平岡八幡宮は「花の天井 秋の特別拝観」が始まったばかり。観光客も少なからずだ。死神が一般人と遭遇すれば、虐殺は必至だろう。
「ディープディープブルーファング事件と、今回の事件がどう関係しているかまでは不明ですが……皆さんの為すべき事は変わりません」
2体の魚型死神を撃破し、死神の目論見を阻むのだ。
「死神は、カツオ型がブルチャーレ・パラミータ、マグロ型がメラン・テュンノスと呼称されているようです」
何れも突進攻撃が強烈であり、時に空中を泳ぎ回って態勢を立て直す事もあるようだ。
「更に、ブルチャーレ・パラミータは『産卵のような魚雷攻撃』を、メラン・テュンノスは、『腹部から内臓を捻り出したような触手攻撃』を行います」
死神の通過ポイントでもある平岡八幡宮の参道は、それなりの広さがある。待ち構えて戦うには申し分がないだろう。
「あらあら、平岡八幡宮の周りは民家が多いのね……殺界の人払いが必要かしら?」
創のタブレット画面に映った、現場の航空写真を覗き込み、小首を傾げる貴峯・梓織(白緑の伝承歌・en0280)。
「殺界形成の効果範囲は半径300m。相当に広範囲ですので、市街地での使用は考慮すべき点も多いですが……今回の敵は『人里』目指して移動していますので」
予めの避難が完了していれば単に通過するだけで、死神の進行ルートが大幅に変更する事はないだろう。
「判ったわ。殺界形成も含めて、周辺住民の一時避難は、わたくしが担当しましょう。皆さんは存分に戦って下さいね」
おっとり笑顔の梓織に頷きながらも、創は怪訝そうな面持ちで眉根を寄せる。
「今回の敵は戦闘力が強化された下級死神ですが、この強化が黒幕の狙いだったのでしょうか……まだ他にも、目的がありそうで不気味です」
ともあれ、まずは死神の凶行を止めるのが、最優先だ。
「そう言えば、平岡八幡宮の『花の天井』は一見の価値があります。宮司さんが解説して下さいますし、大福茶も頂けるようです。一仕事の後に宜しければ。拝観の時間ぐらいでしたら、融通します」
参加者 | |
---|---|
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032) |
御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327) |
白雪・まゆ(月のように太陽のように・e01987) |
ニケ・セン(六花ノ空・e02547) |
エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672) |
小車・ひさぎ(約束カラット・e05366) |
巽・清士朗(町長・e22683) |
アメリー・ノイアルベール(本家からの使い・e45765) |
●死魚来襲
京都府京都市、平岡八幡宮――右京区は梅ヶ畑一帯の産土社は、住宅地も程近い緑の中に佇む。その参道で待ち構える人影は、数えて8。
「ここは民家が近い事もあって、幾らか落ち着いた雰囲気がありますね」
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)が見渡す限り、営みが動き出す朝にも拘らず静かなものだ。逸早くエリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)が殺界形成しており、癒伽・ゆゆこの手も借りて、貴峯・梓織(白緑の伝承歌・en0280)は周辺住民の一時避難に動いている。
「私もゆゆこさんに負けてられません。周りの民家にも被害は出させないのですよっ」
『鋼の軍曹』なるハンマーを担ぎ、白雪・まゆ(月のように太陽のように・e01987)は意気軒昂だ。
(「突進力勝負もちょっとしてみたかったですけど、今回はしっかり援護に務めるのです」)
今日はメディックとして、戦線を支えると決めている。
「はい! 敵はここから1歩も通しません!」
アメリー・ノイアルベール(本家からの使い・e45765)にも否やはないが、ふと、微かに眉を顰める。
「海底基地を潰しても、死神の攻勢はまだ続くのですね……この企みも、叩き潰すまでですが」
「メカ鮫の供給が断たれた途端、即別の手段投入してくるなんて。随分とフットワークの軽い死神さんのようでー」
応じた小車・ひさぎ(約束カラット・e05366)は、小さく肩を竦めている。
「海も山も構わずなんて、無節操な魚もいたものだね……さて、どーなるのかな」
いっそのんびり呟くニケ・セン(六花ノ空・e02547)の傍らに、和柄の桐箱のようなミミックが寄り添う。
「カツオにマグロねえ……食材としてなら大歓迎なんだけど」
見た目がそれでも中身が死神では、煮ようが焼こうが食えたもんじゃない。
「ま、精々3枚にオロして頭を信心のもとにでもしてやろうかね……あ、でも斬ったら消えちゃうか」
軽口を叩くエリシエルは、死神が襲来するという沢山の方向を油断なく見据えている。
――――!!
時刻にして、午前9時――突如轟く甲高い雄叫び。ついで、バキバキと生木が裂ける音が騒がしく。果たして、大きな魚影が2体、弾丸の如く飛び出してくる。
「此奴らが、ブルチャーレ……何気に舌を噛みそうなので略してカツオとマグロ。折角拝観にいらした皆さんの為にも、さくっと倒して観光して帰るぞ」
その行く手を遮り、巽・清士朗(町長・e22683)が誰にともなく声を掛ければ、ひさぎも死神を睨んだまま。
「ま、ちゃっちゃと終わらせるんよ。この後、おばさまと『花の天井』見るんだから!」
全力投球はいつも変わらぬだろうが、仕事の後にお楽しみがあれば、よりやる気も出るというものだ。
ケルベロス達が待ち構えた参道は、ちょっとした広場のようになっており、戦闘に支障のない空間がある。すぐ近くに民家が見えるが一応木々にも囲まれており、その樹上に御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)は控えていた。あわよくば奇襲を、とも考えたが……当人に隠密の備えはなく、何より他の面々は堂々といた。本気で奇襲先制を狙うならば、全員で仕掛ける作戦とするべきだっただろう。
「死を撒くモノは冥府にて閻魔が待つ。潔く逝って裁かれろ」
故に、白陽も潔く、樹上から飛び降り二刀を構えた。
●死魚の立ち位置
カツオ型のブルチャーレ・パラミータと、マグロ型のメラン・テュンノス。その形だけでも見分けられようが、決定的なのは、腹に抱いた卵と蠢く触手だ。
「……っ!」
前衛をすり抜け、マグロの触手がアメリーを強襲する。打ち据えられ、体勢を崩した所にすかさずカツオが突進! 咄嗟にその軌道を清士朗が遮った。スピードに乗った破壊力に、長躯がギシリと軋む。
「まずはカツオから!」
卵を目印に、端的に叫んだ白陽の達人も斯くやの剣捌き。本来なら、狙い付けずとも命中する得意技。それがまさか、かわされようとは。
「これは……」
続いて如意棒を構えるレオナルドだが、怪訝そうに眉を顰める。如意棒を真っ直ぐ伸ばす一撃は、前衛に在っても狙い易い。にも拘らず、眼力が示す命中率は。
「……まさか、キャスターです!?」
「それは、些か困りものだな」
紙兵を前衛に撒きながら、清士朗は呟く。撃破の優先順位はカツオからと決めてある。近距離攻撃でも良いのは幸いだが、どんなに強力な攻撃もまず命中してこそだ。
「南無八幡大菩薩!」
お題目と共に繰り出されたエリシエルのデスサイズシュートも、産卵魚雷の煙幕に紛れてしまう。
「お膝元なんだし、加護の1つくらいくれたっていいじゃない」
思わず唇を尖らせるエリシエルだが、戦いが神頼みだけで通らない事はよく判っている。
「大丈夫ですか! 頑張りましょう!」
刹那迷いつつも、まゆはアメリーへ気力を注ぐ。実戦経験からすれば、まゆは5番手。息を合わせれば、先手の仲間と一緒に動ける場合もあるが、生憎とまゆにその意識はなかった。ちなみに、グラビティ発動の兼合いで「攻撃を遅らせる」行動も不可能だ。動けるタイミングで、最良の行動を取るしかない。
だが、メディックのヒールで初撃を凌げたお陰で、アメリーは予定通りにオウガ粒子を放出する。前衛の超感覚を大いに覚醒させるジャマーのメタリックバーストは、対キャスター戦の援けとなるだろう。
「マグロは……」
後方より、ニケは敵の動向を見据えている。カツオはキャスター。では、マグロは……スターゲイザーが届く距離感から、後衛ではないだろう。カツオに狙い付けた飛び蹴りが辛うじて届いた事に安堵し、マグロのポジションに推測を巡らせるニケ。続いて、ミミックがばら撒いたのは愚者の黄金。偽の財宝はカツオのみに降り注ぎ、これでマグロは前衛と確定する。
「舞え、『鉄引』」
ひさぎの手印に応じ、帯状の御業が翻る。狙い定めた封置封帛掌は、確実にカツオの機動力を削ぐ。
――――!!
甲高い叫びを上げて、マグロは急旋回。勢い増す突撃は、再びアメリーへ。凡そ前衛より強化される傾向にあるが、敵も律義に前衛を攻撃するとは限らない。そして、怒りの技でない限り、敵の狙いを強制するのは相当に厳しい。
「このっ!」
カツオの産卵魚雷の軌道を遮るレオナルド。爆風が、オウガ粒子や紙兵を消し飛ばす。ちなみに、ディフェンダーは刹那の間隙に滑り込んで仲間を庇う。その挙動は反射的で、特定の攻撃を見越したり、誰かを目して庇う余裕はない。故に、全ての攻撃から庇うのも難しい。
「お魚、わたしも捌きたかったんですけどね」
だからこそ、回復は大事だ。ヒールドローンはさて置き、まゆは再びアメリーへ気力を注ぐ。だが、相当の回復量にも拘らず、アメリーの傷が癒し切れていない、となれば。
「クラッシャー、だろうね」
「キャスターにクラッシャー、連携する気ないのでしょうか」
ニケの断言に、些か呆れた風情でアメリーは後衛にメタリックバーストを撒く。代わりに、清士朗の気力が少女の傷を出来得る限り癒さんと。
「魚の癖にキーキーうるさいんよ!」
荒っぽく吐き捨て、ひさぎの轟竜砲が轟く。あくまでも、カツオをキャスターから的に追い落とすべく。
そして、構えすら見せぬ白陽の空の斬が奔り、刀を振るうと見せ掛けてエリシエルのグラインドファイアが唸りを上げた。
●花天の蹂躙を阻止せよ
喩えキャスター相手に命中率が下がろうと、その確率は零ではない。連携を意識しない者は複数いたものの、弛まず攻撃を繰り出すケルベロス達。白陽は機動力を、エリシエルは奇策を駆使し、何れもカツオに標的を定めて。
――――!!
一方、勝手に動いているように見えて、死神とてアメリーに攻撃を集中させる位の連携は取る。
「っ!!」
産卵魚雷の煙幕の中、突進の衝撃にも耐えながら少女は妖精弓を手繰る。神殺しの矢は2度に1度命中すれば重畳ながら、マグロの牽制には十分か。
「よっさこーい♪」
時に庇われながら懸命に耐えるアメリーに、まゆは気力を注ぎ続ける。盾の方も各自適時のヒールで凌いだ。
「……よし」
一斉攻撃が叶う戦況に持ち込むまでが苦しい。サーヴァント伴うニケは厄付けが些か不得手ながら、それでもひさぎの足止めに更なる積上げを果たせば――ミミックの大口がカツオに喰らい付くに至り、チャンス到来と判断する。
敵は2体と言えど、ケルベロスの手数はその数倍。その刃が届くようになれば、加速度的に戦況は優位に傾いていく。
「押し切れ!」
やはり好機を見て取り、思わず声を上げた清士朗の飛礫が弾幕を張ると同時、レオナルドの如意直突きが、空纏う白陽の斬撃が唸る度、アメリーが浴びせた弾がカツオを取り巻く時空を凍らせていく。
山辺が神宮石上、神武の御代に給はりし、武御雷の下したる、甕布都神と発したり――。
「万理断ち切れ、御霊布津主!」
脱力からの加速。体勢を立て直す暇も与えず、エリシエルの斬撃がカツオを両断すれば、すぐさま反転したケルベロスの牙はマグロへと殺到する。
――――!!
クラッシャーの火力は脅威ながら、ケルベロスとて篤い回復を用意している。単身が重い突撃を繰り返そうと、猟犬の勢いはもう止まらない。
「我が心より生まれし畏れの炎、この一撃に纏て悪を断つ!」
レオナルドの胸元より溢れる白き地獄の炎が、如意棒を覆うや突撃。逃れるを許さぬ斬を放つ。
「死に染まれ――」
冷ややかに吐き捨て、白陽は全身のバネを使い跳躍。更に空を蹴ってマグロの頭上を取るや、傷口をも凍らせる達人の一撃が閃く。
ひさぎのヤマネコの拳が唸り、ニケの黒影弾をミミックのエクトプラズムが正確に模倣すれば、ビキビキと霜浮く体表を、エリシエルのシャドウリッパーがジグザグに切り裂いていく。
「天蠍宮の大天使よ、彼の者にさらなる罰を与えるです……」
初めて攻撃に転じたまゆのサイコフォースが爆ぜれば、続いてアメリーの魔力が生み出した巨蠍の幻がマグロを貫く。まるで毒に侵されたように裂傷がじわりと広がり、身をのけ反らせる魚体より奇怪が迸る。
「悪いが我らが仰ぎ見たいのは、死神のワタではなく。永き時を超えた、御目麗しい花の天井でな」
尚も触手のたくるマグロに言い放ち、清士朗の全身は鋭敏と化す。
天真正伝鞍御守神道流剣術 朧――己が内に敵を写し盗る「写の位」から、膝を抜き進める運足は孤篷の如く居付かず流れ、戦場が湖面をただ自在。
「まあ、ぶっちゃけてしまえば、眼の前からの不意打ちだがな」
しれっと呟き、縛霊手の貫き手がマグロの胴に閃いた。
●花天を仰ぎ
一気呵成の猛攻に堪らず墜ちた魚影は、忽ち霧散する。
「皆さん、お疲れ様でした」
「おばさまも、避難誘導お疲れ様!」
撃破の連絡に梓織達も合流。殺界も解除され、程なくいつもの朝に戻るだろう。
「後片付け、ですね」
幸い民家に被害はなかったが、死神の突進でへし折れた木々の枝が痛々しい。折れた枝葉を集め、ヒールを掛けるケルベロス達。
「お先に失礼するよ」
先んじて帰還する白陽と別れ、他は平岡八幡宮へ。お目当ては「花の天井 秋の特別拝観」だ。
「これが花絵の天井……一面に色とりどりの花が咲いて、とても美しいですね」
本殿天井の黒漆と赤漆の枠に描かれた花卉図は44面。内陣鴨居には熨斗に包まれた梅や紅白椿が描かれ、虹梁や組物にも極彩色の装飾が施されている。ぶつからないよう、座ってじっくり見上げるレオナルド。
「このお茶も美味しいです……あちっ!」
何気なく口にしたお茶が思いの外熱く、慌ててふぅふぅと冷ます。
「紅葉は、流石にまだ早すぎるか……散らない花ってのも、これはこれで風流でいいもんだよね」
粋や風流を好むエリシエル。境内の高尾もみじも有名だが、見頃は11月とまだまだ先。花の天井にその高尾もみじを見付けて、思わず碧眼を細める。
他にも、極彩色の花絵は山桜や紫陽花、水仙とよく知られた花もあれば、薯蕷葵、万年青と聞き慣れぬ植物もある。
「おばさまはどのお花が好き?」
好きな椿の画を見付けて思わず笑み零れるひさぎの問いに、梓織が指差すのは蓮の画。
「清楚だけれど華やかで、大好きよ」
「失礼。ご一緒しても構いませんか? 梓織さん」
ひさぎと並んで天井を見上げる梓織に、声を掛ける清士朗。
「えっと、あたしが所属しているの防衛隊の上司というか……飼い主というか」
「恥かしながら、早い所ウチの猫に会いたくて、迎えに来てしまいました」
「まあまあ。ひさぎさんのお知合いだったのね」
(「一々迎えに来なくていいのに」)
にこやかな2人を横目にツンとそっぽ向くひさぎだが、ヤマネコの耳はピクピクと。
「この宮は椿も見事だとか……そう言えば、ひさぎは誕生日ではないか、椿の1輪も贈るか?」
「天井の花絵で十分なんよ」
応えも至って素っ気ないが、彼女の尻尾はピンと立っている。
「白もいいが……ひさぎに似合うのはやはり『控えめな素晴らしさ』と『謙虚な美徳』の赤かな。梓織さん、どう思われます?」
「そうねぇ。完全美を謳う白椿も、若い方に贈るのは素敵と思うけれど……わたくしからもお祝いを。ひさぎさんという花が、鮮やかに咲く1年になりますように」
「貴峯さん、俺もご一緒しても良いでしょうか?」
「勿論」
おっとり微笑み、梓織はニケとミミックの為に場所を空ける。
「何だか、ほっとするな」
大福茶の碗を手に煌びやかな天井を眺め、ニケはほぉっと息を吐く。
「44面の中で最も上座に当る場所に、牡丹が描かれています。牡丹は中国で皇帝の花、日本でも帝を表します。至高の地位への、時の権力者の切望が窺えますね」
大福茶で一服の後、神社の由来や花の天井に纏わる逸話と、宮司の説明に聞き入るケルベロス達。
「ほわあぁ……これが昔の日本人の技術、なのですね」
宮司の話はフランス出身のアメリーには難しい所もあるが、これも勉強と熱心だ。
「1つ1つでも綺麗なのに、これだけ集まると壮観だね!」
一緒に拝観するヴィヴィアン・ローゼットも、薄紅の眼を瞬く。
「アメリーちゃん、日本好きだよね~。日本育ちのあたしより詳しいし」
「お父様は元々日本好きな方でした。ご先祖様も代々そうだったみたいです。その影響を、わたしも受けたのですね」
「……そっか、親日家のおうちなんだね」
「ヴィヴィアンさんも同じですよ。日本、お好きですよね?」
アメリーの真っ直ぐな眼差しに、ヴィヴィアンはぎこちない笑みを浮かべる。
「日本は、好きだよ。あたしが育った国で、守るべき大切な国……」
彼女と親戚同士だなんて、まだ実感が湧かないけれど。
(「あたしにもご先祖様の魂、引き継がれているのかもね」)
「何だか、凄いですね!」
らぶらいくなまゆとゆゆこは手を繋いで、花の天井を見上げている。
「このお茶、だいふく、ではなく『おおふく』なのですねー」
供される大福茶は、宮司が漬けた梅干しと結び昆布の入った縁起物。
「お茶を飲んでいたら……甘い物も欲しくなっちゃいますねー」
帰りに甘味のデートも約束して。八幡宮の神様に祈る2人――これからも、ずーっと一緒に仲良くいられますように。
作者:柊透胡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年9月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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