●新たな刺客
荒波打ち付ける夜の埠頭に、赤い翼の女性死神は舞い降りた。
即時展開する青白い魔法陣。召喚されたのは大鮫ではなく、魚の姿をした2体の下級死神である。
片やカツオ、片やマグロに酷似した姿で、青白い光を引きながら宙を泳ぐ2体。
「お行きなさい、ブルチャーレ・パラミータ、メラン・テュンノス。ディープディープブルーファングの戦闘能力を自らの力としてみせるのです」
魚ほどの知性しか持たぬと見える2体はしかし、赤い死神の言葉にはしかと応えて身を翻した。
互いに先を争うように人口密集地へと向かう魚たちを、満足げな笑みで見送ると、赤い死神の姿は闇夜に溶けるように消えた。
●カツオとマグロの死神
佐賀県玄海町にて、2体の魚型死神による襲撃事件が発生する。
その予知を持ち寄った戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)は、きっぱりと断定した。
「事を起こさんとしているのは、ディープディープブルーファングを使役していた赤い翼の死神に相違ございません」
ディープディープブルーファングを量産していた海底基地をケルベロスに破壊されたことで、作戦を変更してきたのだろう、とヘリオライダーは推測する。
「2体はカツオ型とマグロ型。下級死神ではございますが、戦闘力はかなりの強化を受けている様子」
双方とも、全長5メートル程度。空中を泳ぐように移動し、市街地に到着し次第、住民の虐殺を開始するだろう。
「現状、ディープディープブルーファング事件との詳細な関連性は不透明ではございますが、ケルベロスがなすべきことに変わりはございません」
2体の魚型死神を撃破し、人々を守る。それが皆に課せられた任務である。
2体の魚型死神は『突進攻撃』を基本として攻撃してくるようだ。
「加えて、カツオ型のブルチャーレ・パラミータは、魚雷攻撃に似た『卵のようなものを発射する産卵攻撃』を使用します。
また、マグロ型のメラン・テュンノスは、腹部から内臓を捻りだしたような触手を露出させ『触手攻撃』を行ってまいります」
敵が現れる場所は深夜の埠頭。周辺に一般人はいない。
ケルベロスは赤い翼の死神が去った直後に現場に駆け付けることになる。人的被害の心配なく、存分に戦いに集中できるだろう。
おおまかな流れはディープディープブルーファングの事件に酷似している。敵が手を変えてきたということは、海底基地の破壊成功によって、死神の作戦にも打撃を与えられた証左なのだろう。
ただ、2体が下級死神としては不相応に戦闘力を強化されているのも気になるところだ。敵の目的はこの強化にあったのか……。
「あるいは他にも目的があるやもしれませぬが……疑問を解消するよりも、まずは被害を阻止することが肝要と存じます。調査は後に回し、迅速な撃破をお願い致します」
参加者 | |
---|---|
葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830) |
チェリー・ブロッサム(桜花爛漫・e17323) |
天羽生・詩乃(夜明け色のリンクス・e26722) |
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869) |
人首・ツグミ(絶対正義・e37943) |
蟹谷・アルタ(美少女ワイルド研究者・e44330) |
蔓荊・蒲(サクヤビメの選択者・e44541) |
皇・露(記憶喪失・e62807) |
●美味しくなさそうな魚たち
夜の埠頭を、先を争い泳ぐ青白いマグロとカツオ。
その進路を唐突に複数の人影が塞いだ。二匹は驚いたように身を反らし、急旋回して混乱も露わな軌跡を描く。
「サ、サカナ……! まるごとサカナな死神もいるんだねーっ! うわ実物でっか!」
元気いっぱいに声を上げ、素直に感心するチェリー・ブロッサム(桜花爛漫・e17323)。
「ほう、これもまた死神か」
蟹谷・アルタ(美少女ワイルド研究者・e44330)の密やかな声音には、別種の関心が混じって響く。
「ダモクレスと組んだらしいが、まあ相性が良いような悪いような、か。じっくり観察させてもらおう」
不敵な瞳に光るのは、マッドさいえんてぃストのアブない好奇心。
「おっきいお魚さんですわね……暴れる前に露達が一本釣りしてあげますわ!!」
皇・露(記憶喪失・e62807)はすでに準備万端、露出度の高い戦闘服を着こなし、スーパーヒロインかくやのいでたちでキリリと構えをとった。
「これは活きのいい大きいお魚さんではありませんか。ステーキにします? ルイベにします?」
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)は右手に地獄の炎を、左手に氷のグラビティを小さく瞬かせると、兜の隙間から愉快そうに炎を零して笑った。
「冗談です。あれは調理しても食べられたものじゃあありませんねえ」
「うん。普通のサイズだったら美味しそうなのになあ……」
傍らで素直に頷く天羽生・詩乃(夜明け色のリンクス・e26722)はちょっと残念そう。
「幾分美味しそうな種類の魚ではあるっすけど、食欲は湧かないっすね 」
蔓荊・蒲(サクヤビメの選択者・e44541)はジト目で二匹を見据えながら、フルジップパーカーに隠した口許を動かして無気力そうにぼやき同意する。
「……なんて言ってる場合じゃないね。被害が出る前にきっちり倒しちゃおう。いくよ、ジゼルカ!」
「深海での戦いが終わったと思ったら、今度は地上で魚と戦うことになるとは……」
詩乃は相棒に声を投げつつ、蒲はぼやきを垂れ流しながら。仲間たちも各々が臨戦態勢に移行する。
「それでは、早速殲滅を始めましょーぅ!」
腰に下げたライトを埠頭の闇に閃かせ、人首・ツグミ(絶対正義・e37943)はどこか怪しく微笑む。
「虐殺という凶行を行おうとは、不埒極まる。其の身、三枚下ろしで捌くとしよう」
呟くや、葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830)の忍らしいシルエットは、巨大な魚影に向けて闇を駆けた。
●魚介大戦
銀狐の忍が誰よりも疾く踏み込む。闇に閃く斬霊刀、神仏拵の軌跡。
非物質化したその刃が振り下ろされたのは、幾分かふくよかなフォルムをしたメラン・テュンノス――すなわちマグロ型死神だ。
五メートルに及ぶ巨体は霊体を斬り裂かれ、汚染される感覚に激しく身を震わせる。悲鳴の代わりに、コポコポと水中で気泡が流動するような音が、斬り込んだ影二の耳に届いた。
続けざま躍り出たのは元気に揺れるロップイヤー。
「勇往邁進! ……避けられるかなっ!」
雷鳴拳聖の発勁。著しく強化した身体能力を駆使し、チェリーは雷の如き速さで巨大マグロに勁を正確に打ち込んだ。
打ち据えられたマグロをカバーするように、ブルチャーレ・パラミータ――カツオ型死神が突撃を仕掛けてくる。凄まじい素早さで激突される影二。鋭利なヒレで斬り裂かれたそこを、一拍遅れて猛追してきたマグロ型の突進に追撃され、大きく後退を余儀なくされた。
「ちゃんと連携してるね……ジゼルカ、お願い」
地面に展開したCode:Alpheratzで、仲間を守護する魔法陣を描き出す詩乃。主人に攻撃を託され、ライドキャリバーは激しいスピンにマグロ型の巨体を巻き込み足止めする。
「敵方は此方の耐久を下げるジャマーに火力のクラッシャーでしょうか。対策を万全にせねばなりませんね」
飄々と見抜きつつ、ラーヴァは地面に守護星座を描き出した。守護の光が溢れ、前衛に耐性を振り撒いていく。
「では、露は後衛から参りますわね! 皆様は必ず守りぬきますわ!」
同じくゾディアックソードによる守護星座を展開する露。中衛陣の連携により、仲間を守る耐性が振り撒かれていく。
「ふたりにも、守護を」
無防備になりがちな肝心の中衛にも、近衛木・ヒダリギ(森の人・en0090)が実らせた黄金の輝きが耐性をもたらしていく。
「魚のくせに生意気だネ。なかなかに興味深い」
アルタはフェアリーブーツを駆り、天高く飛び上がる。美しい虹を纏いながらの急降下蹴り。脳天を直撃する衝撃に、マグロは激しくのたうち、その両眼に『怒り』を露わにした。
桜色の光を纏う球体を発動させる蒲。目元は真顔のままだが、隠された口許には微かな笑みが浮かんでいる。
「とっておきを見せるっすよ、新しいこいつの姿っす」
正式依頼で初お披露目となるグラビティの名を、咲耶姫第二形態『八咫鏡』。ガジェット『サクヤビメ』は神鏡『八咫鏡』模倣形態へと変形し、鏡面からあふれ出た陽光で治癒結界を構築していく。
「くふ、お刺身にしても食べられなさそうですがーぁ……」
怪しい笑い声を漏らして敵に肉薄するツグミ。
「戦闘経験の糧としては、美味しくいただきますねーぇ♪」
日夜悪の粛清に励む見事な体捌きが、凝怨刀ザロビから緩やかな弧の斬撃を繰り出し、えげつないまでに的確にマグロのヒレの付け根を斬り裂いた。
ケルベロスの狙いは、各個撃破。守備を盤石にしてカツオの妨害に対抗しながら、まずは火力が厄介なマグロから黙らせる作戦だ。
「がっしがっしいくよーっ!」
妖刀、桜花一門・影打を手に、素早く斬り込むチェリー。
マグロの身を刺し貫いた刃は、呪詛と凄まじい火力をもってして敵の魂を汚染した。
●夜に消える魚影
押し込められた魚たちも、ただやられるばかりではない。
マグロは素早く体勢を立て直すと、腹部を不気味に脈動させた。かと思えば、ぶしゃあっ、と汚い音を立てて内臓器官らしきものを捻り出した。
「あ、無理ですね。あれは無理なやつだ」
心なしか兜の炎をすぼめて、ラーヴァが悟ったようにぼやいた。
「というかそもそも死神って屍体みたいなものでしたっけ? じゃあ無理だわ」
……ステーキもルイベも、半分は冗談でもなかったらしい。
マグロが攻撃動作に入る前に、カツオが身を翻し下腹部から無数の卵を排出し始めた。恐ろしく細かな粒々がケルベロスを襲い、足元に粘着質にまとわりついていく。
すかさず、マグロの内臓触手が『怒り』に任せて伸び迫った。ぎっちりと全身を捉えられながらも、してやったりとアルタは笑う。
「この程度?」
創世幻像。アルタは混沌の水を己に集中させ、触手を弾いて傷と不浄を打ち払っていく。その周囲に、守護するように立ちのぼるモザイクの影を纏いながら。
連携を欠かさず、手数の約半数をかけての陣営固めは瞬く間に終了した。
「守護はこれで十分、ですわね!」
最後の耐性を付与し終え、露が高らかに声を上げる。攻勢の合図だ。
守備に回っていたケルベロス達も順次攻撃に加わり、絶え間ないグラビティをマグロへと浴びせ始めた。
「火力に寄らせて殲滅殲滅、ですよーぅ」
命中も十分に安定したと見て、威力を重視した攻勢に切り替えるツグミ。腕をドリルの如く回しながら、デウスエクスを絶対悪と見做す瞳が怪しく煌めく。
すでに攻撃手の影二、チェリー、ツグミによって体力を削り取られていたマグロは、さらなるグラビティの雨にあっという間にボロボロに追い詰められていく。
しかし戦意は決して失わない。マグロのみならずカツオもまた『怒り』に呑まれ、狙い通りにアルタへと体当たりを仕掛けては、容易くいなされ凌がれる。
知能の低い本能的な敵の動きを読み切り、影二は二刀を鞘に納めると、一挙にマグロの間近へと距離を詰めた。瞬間、螺旋状の気流に包まれ、忍装束の姿が掻き消え――、
「実は虚であり、虚は実……我が刃は影を舞う」
――刹那、敵の死角に閃く、抜き放たれた二振りの刃。
マグロことメラン・テュンノスは鮮やかに斬り裂かれ、コポコポと水音を立てながら泡となって消え果てた。
残るはカツオ一体のみ。すでに陣営を整え終えているケルベロス達は、遠慮なく最大限の攻勢を浴びせていく。
「はあああああーーー!!」
高エネルギー体を掌から発生させ、頭部に纏う露。
「露の頭はカタいですわよ!!」
破纏撃。ロケットの如く突っ込んだ露の頭突きが、カツオを強烈に打ち据える。
「キミの可能性の姿を見せてくれヨ!」
稲妻を帯びたゲシュタルトグレイブで、超高速の突きを繰り出すアルタ。カツオの神経が焼き切れる匂いは、決して食欲を刺激するそれではない。
「やっぱ、似てる気がするっすね……」
後方で絶え間なく強化を付与し、陣営を支え続ける蒲がふと呟いた。敵の攻撃方法や動きのクセ。端々に、深海で戦った鮫型ダモクレスの姿が重なる。
「死神たちも色んな手で、自分たちの戦力を増やそうとしてるのかな」
二体の姿に敵の試行錯誤を見た気がして、詩乃はぽつりと零した。
「でも、思い通りにはさせられない。みんなの平穏のために、死神のたくらみは挫いてみせるよ!」
A.A.code:ALNAIRによるアルタの治癒を終え、詩乃は人体自然発火装置を操り攻勢に加わった。
グラビティが嵐の如くカツオを攻め立てる。埠頭の夜陰に、その輝きが絶えることはない。
ラーヴァがつがえるのは、まばゆく輝くほどに灼けた重い金属矢。
「我が名は光源。さあ、此方をご覧なさい」
ラーヴァ・ルミナンス。連続して一点に叩き込まれた矢は、カツオの横っ腹に見事突き刺さり、熾火の如き熱と光で動きを阻害し続ける。
その傷を空の霊力を帯びた影二の刃が斬り広げ、さらに動きを鈍らせたカツオを、チェリーの拳が捉えた。
「ぶっとべー!」
音速を超える拳が敵の腹部を抉る。どうん! 遅れてやってきた振動音がロップイヤーをたなびかせ、五メートルの巨体はあっけなく吹き飛ばされていく。
「自分は貴方を救いません。願いもしないし祈らない」
飛ばされてくる巨体を待ち構え、敵の抹消すなわち正義であると自己暗示をかけるツグミ。その手には、今までに喰らった魂の残滓から練り上げられた大鎌が生じる。
「ええ、ええ。神の手など払いのけましょう。それが貴方の結末ですよーぅ♪」
毒麦と見做せば。カツオことブルチャーレ・パラミータの命諸共、芽生える前の悪すら刈り取り、業火は渦巻く。
炎の中で激しく黒々とした魚影は激しくのたうったのち、灰の一片も残さず焼却されたのだった。
●ちゃんと美味しい魚介を求めて
二体の撃破を見届け、影二は二振りの刀に纏いついた体液らしき残滓を振り払う。
「……討伐完了」
小さな呟きと共に、カチリと心地よい音を立てて、二刀は鞘に納められた。
「では、ヒールと参りましょう!」
きわどい戦闘服から素早く私服に戻った露は、白のTシャツ、デニムのロングパンツに、長そでのポロシャツを羽織ったラフな姿で、戦場となった埠頭にヒールを広げ始めた。アルタも混沌の水をばら撒いて加勢し、他の面々の協力もあって、夜の埠頭は瞬く間に元の静けさを取り戻した。
「なんかお魚食べたくなってきちゃった! 帰りにお寿司屋さん寄ってこー!」
作業を終えるや、チェリーが声を上げた。詩乃もうんうん、と同意する。
「だよね。やっぱりあの見た目が良くないと思う! 今日のごはんはおいしいお魚料理にしようっと……」
「ああ……そういや」
二人の話を片耳に、ふと思い当たって蒲は顔を上げた。
「隣町の呼子はイカが有名なんすよ。このままここの市場や寿司屋が開くまで待つのもなんだし、呼子の朝市、行ってみないっすか?」
誰にともなく誘ってみると、次々に同意の声が上がった。
「朝市……素敵な響きですねーぇ! ちょうど動いてお腹も空きましたし、ちょっとたくさん買い込みたいですぅ」
いの一番に食いつくツグミ。機械化した右腕の燃費を補うためだのなんだのという、暴走する食欲を満たすため、今回の死神の質量分を買い込む気満々である。
「いいですねえ。こんな頭でも調理はたのしいので、いい素材があったらいいねえ」
調理(工作)好きのラーヴァも喜ばしげに炎を零す。死神ではそちら方面では遊べなかったため、代わりのものを調達する算段だ。
「……偶には良いかも知れぬな」
普段は寡黙でクールな影二も、口当ての下に隠した口許を少しだけ緩め、そう呟いた。
かくて一つの町を死神の脅威から救ったケルベロス達は、日常の美味を求めて暗い埠頭を後にするのであった。
作者:そらばる |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年9月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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