8つの眼

作者:坂本ピエロギ

●襲われた工場
 工場内に、突如警報が鳴り響いた。
 作業員達が状況を確認する間もなく工場の中へと飛び込んできたのは、作業用ヘルメットを被ったモノアイの機械人形たち。
「おい、何だあれは!?」
「歩く機械……? 逃げろ、ダモクレスだ!」
「ギギギギ!」「ギギギギギ!」
 ダモクレスはツルハシをふるい、スコップを振り回し、殺害した作業員たちのグラビティを次々と略奪してゆく。
「逃げろ! 早く逃げろ!!」
 命からがら工場の外へと逃れた作業員たちが目にしたのは、解体した工場の資材を積み込み奪ってゆく巨大なダモクレスの群れ。先ほど襲撃をかけてきた奴らの仲間だろうか。
 ダモクレスに殺されていく同僚たち。奪われていく工場の資材。それらを作業員たちは、逃げ延びた遠くから、ただ茫然と黙って見守るしかなかった。
 程なくして工場の資材を奪取しつくしたダモクレスたちは、現れた魔空回廊へと飛び込んで悠々と自分達の陣地へ撤退していったのである――。

●ヘリポートにて
「まずは、ご苦労だった。お前たちの働きで、ダモクレスの海底基地は完全に破壊された」
 ヘリポートに集合したケルベロスを招き入れ、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)はそう話を切り出した。
「本作戦の成功で、日本各地を襲撃していたディープディープブルーファングの製造は中止されることだろう。ダモクレスが行っていた研究の全貌を暴くには至らなかったが、奴らが死神に対して一方的な供与を行っていなかった事が判明しただけでも、大きな収穫だ」
 先の作戦に参加したケルベロスの持ち帰った情報により、判明した事が幾つかある。
 破壊した基地の他にも、ダモクレスの資源採掘基地が海底に存在する可能性があること。
 そこを発見し破壊できれば、彼らの大規模な作戦行動を牽制できるかもしれないこと。
「とはいえ、喜んでばかりという訳にもいかん。今日お前たちを呼んだのも、その為だ」
 王子はそう言って、作戦の本題へと入った。

「海底基地の破壊によって供給を断たれたダモクレスが、地上の向上を襲撃する事件が予知された。直ちに現地へ向かい、奴らを阻止してほしい」
 王子によると、敵は建築用のダモクレスだったらしく、戦闘力は高くないようだ。
 だが、頭数が多いうえ、統制の取れた行動を取ってくるので油断は禁物だという。
「敵は全部で8体。複数のタイプの混成部隊だ。こいつらが工場を東西南北から襲う」
 襲撃前に作業員を避難させるとダモクレスは別の場所を襲うため、事前に避難誘導を行う事は出来ない。
 幸いというべきか、この工場内に作業員はそれほど多くない。犠牲になったとしても数人程度で済むだろうと王子は付け加え、敵の詳細を説明していく。
 まずは、作業用ロボ『シモーベ』。
 ツルハシとスコップを武器とする。戦闘力は標準的なケルベロスよりもやや弱い。
 次に、戦闘ロボ『戦闘用ライドロイド』。
 シモーベの上半身に巨大な二足歩行ロボットを接続した個体でチェーンソーと盾を装備。戦闘力はシモーベ4体程度に相当。
 最後に、作業ロボ『作業用ライドロイド』。
 戦闘用ライドロイド同様、シモーベと二足歩行ロボットを接続した個体。武器を持たず、戦闘力もシモーベ2体程度と低めだが、防御力が高い。

「いったん情報を整理しよう。まず、敵の布陣はこのような形になる」
 王子はヘリオンのモニターを操作し、敵の戦力を簡略化した図を表示した。
 北――作業用ライドロイド1体。
 東――戦闘用ライドロイド1体とシモーベ3体。
 南――作業用ライドロイド1体。
 西――シモーベ2体。
 以上が敵の数と配置だ。
「『5体以上の敵を撃破すること』。『作業用ライドロイドを2体とも撃破するか、資材の略奪を阻止すること』。このどちらかを達成できれば、この依頼は成功だ」
 東西南北の各エリアは互いに距離が離れており、別エリアへの移動は、どんなに急いでも2分はかかるという。開始時点で複数の班に分かれて行動する方が、タイムロスは少ないだろうと王子は付け加えた。
「さて。これから私が言うことは、参考程度に聞いて貰いたいのだが――」
 そう言って王子は、依頼達成のプランをふたつ例示する。
「ひとつは人命の救助に専念するプランだ。6人程度で東の敵戦力を押し留めて、その間に残る2人で西のシモーベを撃破する。これで依頼は達成だ」
 ただしこの場合、作業用ライドロイドはほぼノーマークで活動を続けてしまう。東西の敵を撃破して合流していたのでは、南北の敵を全滅させるのは難しい。よほど上手く工夫を凝らさねば、作業用のどちらかは高確率で討ち漏らし、資材も奪われてしまうだろう。
「もうひとつは資材の奪取阻止に専念するプランだ。東の戦力を押し留め、南北いずれかの作業用ライドロイドを撃破した後、全員で残るもう片方を撃破すれば依頼達成となる」
 ただしこの場合、作業員の犠牲は避けようがない。グラビティは奪取され、ダモクレスはそれを元に戦力を増強してゆくだろう。
「あくまで私のプランは例にすぎん。重要なのは、お前達が何を最優先に守り、そのためのゴールをどこに設定し、いかなる方法でそれを達成するかだ。選択肢は無限にあり、それを決められるのはお前達しかいない」
 最後に王子は、ケルベロスに向き直って言った。
「目標達成だけなら、そう困難な戦いではなかろう。だが作業員の命を守り、資材を守り、敵を全滅させる……すなわち『完璧な成功』は、かなりの困難が予想される」
 綿密な作戦計画。正しい戦力の把握。そして何よりチーム間の連携。どれひとつ欠けても成功は覚束ないだろう。
「戦いの結末は、全てお前たちの働きにかかっている。さあ乗るがいい、出発するぞ!」


参加者
倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)
小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)
カトレア・マエストーゾ(幻想を紡ぐ作曲家・e04767)
ゼラニウム・シュミット(決意の華・e24975)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
弘明寺・一郎(突撃取材リポーター・e44533)
ナザク・ジェイド(甘い哲学・e46641)
蟻塚・ヒアリ(蟻の一穴天下の破れ・e62515)

■リプレイ


 襲撃を受けた工場内に、非常事態を告げる警報のベルが鳴り響いていた。
 資材略奪のために襲撃してきた作業用ダモクレス達。東西南北すべての場内に、侵略者の手は伸びている。
 それは、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)達が駆け付けた東エリアも同様だ。そこは戦闘用ライドロイドとシモーベが陣取る、最大の激戦が予想される場所でもある。
「よお、建築用。破壊はてめえらの任務じゃねえだろ」
 広喜――建造物破壊に特化するダモクレスだった彼の言葉など聞く耳は持たぬと言わんばかり、迎撃態勢を取るダモクレス達。最前列でチェーンソーを構える戦闘用ライドロイドが西の方角へ視線を送るのを見て、倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)は別動班の戦闘開始を察知する。
「さあ始めましょう。命も、資材も、貴方達には渡しませんよ?」
 柚子の発射した星形のオーラが、最後尾のシモーベに命中した。装甲を剥ぎ取られて悲鳴を上げる敵のツルハシを、柚子のウイングキャット『カイロ』が尻尾のリングで打ち砕く。
 一方のダモクレスも、ケルベロス達の狙い――集中砲火による各個撃破を理解したのか、武器を手に一斉に殺到してきた。それを見た広喜は、敵との壊し合いを喜ぶように、
「いくぜ。壊すのは、俺の任務だ」
 巨体から展開したコアブラスターを笑顔と共に撃ち込んだ。高出力の光線を全身に浴びたシモーベに、広喜へと飛んできたスコップの一撃を受け止めた蟻塚・ヒアリ(蟻の一穴天下の破れ・e62515)の赤い大鋏がキラリと光る。
「ぎっちょんぎっちょん」
 彼女が放つのは『全てを刈る影』。蟲術によって具現化した影がヒアリの鋏に重なって、シモーベの胴をバキバキと切り砕いてゆく。
「スコップにツルハシか。ダモクレスはそんな道具がないと穴を掘れないのかな?」
「ギギ……ギ……!」
「センチピード。ボクスタックルだ」
 シモーベの1体が弄って強化した戦闘用ライドロイドの武装を、ヒアリのボクスドラゴンがすぐさまタックルで破壊する。その背後でエリア周辺に飛行ドローンを展開するのは、弘明寺・一郎(突撃取材リポーター・e44533)だ。
「ドローン展開OK! これより撮影を開始します!」
 チェーンソーと火花を散らす刃。壁ごとシモーベを砕くハイキック。回転しながら飛んでくるスコップを撃ち落とす銃撃。戦場と化した工場を視界に収めながら、一郎は固定砲台のフォートレスキャノンを展開する。
「決定的瞬間は見逃しません! 『スクープチャンス』!」
 ドローンの記憶装置にアクセスして弾き出した一郎が砲撃開始。直撃を受けたシモーベが部品をまき散らして吹き飛んだ。
 自分達を上回る戦力を相手にしての、初手からの全力攻撃――。ケルベロスの捨て身ともいえる突撃を受けたダモクレス達は、4人を排除の対象と定めたようだった。そんな敵を真正面から見据えながら、柚子は純白のフィルムスーツから展開したアームドフォートの砲撃をシモーベめがけて撃ち込む。
「どうやら、西への合流は阻止できたようですね」
「だな。奴らの破壊活動、絶対に止めてやる」
 斧状に補強した拳を広喜が握り固めると同時、ダモクレスが一斉に突撃してきた。
「さあ行こう。僕達も攻撃だ」
 ヒアリの言葉に頷いて、ケルベロス達はダモクレスと戦いの火花を散らし始めた。


 工場の壁を破壊して現れた2体のシモーベに、西エリアは大混乱に陥っていた。
「た、助けてくれ! ダモクレスだ!」
 成す術なく右往左往し、逃げ惑う作業員。
 そんな彼らを狙うシモーベを、小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)とその仲間達は、すぐさま妨害にかかった。
「おっちゃん達、助けに来たで!」
「皆さん、 ここは戦場になってしまいました。今すぐに避難を!」
 工場内に響く、ゼラニウム・シュミット(決意の華・e24975)の透き通る声。我に返った作業員の一人が、怯えた顔でゼラニウム問いかけた。
「ひ、避難って、どこへ?」
「西は安全です! 西の方角へ逃げて下さい!」
「わ……分かりました、ありがとう!」
 ゼラニウムの声に背中を押されるように、作業員は一人また一人と西の方角へ駆け出してゆく。ありがとう、気をつけてと、口々に感謝の言葉を残しながら。
 いっぽう、そんな作業員達の背中を、指をくわえて見逃す事しか出来ないシモーベ達に、真奈とナザク・ジェイド(甘い哲学・e46641)は先陣を切って襲い掛かる。
「あまり時間をかけてられへん。手短に行くで」
「ダモクレス。あまり私を舐めない方がいい」
 ナザクの投擲する光り輝くメスは寸分過たず、シモーベの装甲を切開した。露わになった内部機構に狙いを定め、真奈は炎の拳を握り固める。
「刃の錆や刃より出でて刃を腐らす――」
 小柄な体で床を蹴ると、真奈はひと跳びでシモーベの間合いへと飛び込んだ。シモーベの振り下ろすツルハシを受けるに任せ、彼女が叩き返すのは『因果応報の理』だ。
 小柄な少女のアッパーは凄まじい衝撃を伴って敵のボディを吹き飛ばした。工場の天井に叩きつけられて床へと激突するシモーベに、ゼラニウムは無造作に右手を差し出す。
「今は少しでも時間が惜しい状況……やりますよ、土蜘蛛」
 掌に生成した魔力塊が、シモーベの弱点を弾き出す。飛んでくるスコップの傷に眉ひとつ動かさず、ゼラニウムはブラックスライム『土蜘蛛』に攻撃を命じた。
「今回容赦は必要ありません……対象の『核』を……喰らいなさい!」
 ゼラニウムの声に応じた土蜘蛛が、標的のシモーベを貫いて風穴を開ける。火花をあげて転げ回るシモーベを見てカトレア・マエストーゾ(幻想を紡ぐ作曲家・e04767)が手に取ったのは、戦闘用の楽譜だった。
「さぁ舞台は整った。開演と行こうか」
 タイトルは「轟音」。カトレアのグラビティを注がれた楽譜が召喚するのは、重機の組み合わさった巨大ロボットのごとき御業だった。
「二人とも、時間は大丈夫かな?」
 巨大ロボットの打ち込む杭でシモーベを破壊した事を確認し、振り返るカトレア。
 タイマーを手にしたナザクが、その言葉に小さく頷いた。
「ああ、そろそろ頃合といったところだな」
「後は任せました。どうか気をつけて!」
 信じる仲間に後を託し、ナザクとゼラニウムは次なるエリアへと走り出す。


「間もなく開始から4分目に入ります! ここ東は、攻撃が非常に苛烈です!」
 一郎のドローンが上空から捉えるのは、スクラップと化したシモーベ2体の残骸だった。辛うじて生き残る1体も、じきに同じ運命を辿る事だろう。
 一方で、無茶を通して戦い続けたケルベロス達も、無傷で立っている者は一人もいない。両者の戦いは、まさに正念場といったところか。
(「さて、そろそろ動きましょうか」)
 一郎は目立たないよう、南へと足を向けた。作業用ライドロイドとの戦闘を開始しているであろう、仲間達の援軍に向かうために。
(「ジェイドさん、マエストーゾさん。今行きます!」)
 気配を殺しながら、一郎は忍び足で歩を進めてゆく。
 しかし――。
「ギギッ!?」「ギギ!」
 ダモクレス達の目は、一郎を見逃さなかった。
 今まで戦っていた相手が、作業用ライドロイドのいる南へ向かおうとしている――。そう判断したのだろうか、ダモクレス達は一郎を排除すべく死に物狂いで突っ込んでいく。
「あ、ちょっとまずいかも」
「弘明寺、走れ!!」
 スコップを投擲するシモーベ。盾を構えてエンジンをふかす戦闘用ライドロイド。
 2体の注意を引き付けるため、ヒアリと広喜が敵へと飛び掛かる。
「ぎっちょんぎっちょん。終わりだよ」
 鋏に重ねたヒアリの影が、シモーベの首を一撃で切り落とした。
 いっぽう広喜は、盾を構えてエンジンをふかす戦闘用ライドロイドの機体に駆け登り、
「さあ、一緒に壊れようぜ」
 腕部に装着した斧を、ライドロイドの頭めがけて振り下ろした。
 ライドロイドのシールドに弾き飛ばされ、宙を踊る広喜。柚子は一郎が南へと駆けて行くのを確認すると、濃縮したサキュバスミスト『恋愛色塗料』を広喜の傷口に塗布した。
「これが私の万能薬です」
 桃色の液体が負傷を癒やすも、広喜の怪我は軽いとは言えないレベルに達している。
 自分達を上回る戦力を相手取り、攻撃に全力を注ぎ、回復を最低限に戦い続けた代償は、今やボディーブローのようにケルベロス達を蝕み始めていた。
「時間がありません。北へ急ぎましょう」
 怒り狂うライドロイドの攻撃から広喜を庇いつつ、柚子は言った。
 頷く広喜とヒアリ。
 なおも南へ向かおうとする敵をあの手この手で誘導しながら、3人は北へと急ぐ。


 一方、南エリア。
「さて、敵もさっさと倒れてくれると有り難いが」
「不届きなロボットにはこの一撃を贈ろう」
 作業用ライドロイドのパンチを防ぎ、殺神ウイルスの投擲で回復能力を封じるナザク。
 そこへカトレアはエアシューズで加速し、流星の蹴りを敵のボディに叩き込んだ。
「……!」
 手ごたえの固さに、カトレアが僅かに眉をしかめる。
 ナザクのメスで剥がれた装甲の隙間を突いた攻撃は、敵がリペアで増強した盾に防がれ、その威力を減じられてしまうのだ。
「じきに7分……だな」
 ナザクの無情な宣告に、カトレアの頬を冷や汗が伝った。
 このままでは倒しきれない。いや、劣勢に追い込む事すら難しいだろう。
(「襲撃直後から攻め続けなければ、届かなかったかな……?」)
 脳裏をよぎる仮定を振り払い、カトレアは楽譜を手に取った。
 後悔は後でいい。今はすべきことをするしかない。
「もう少し装甲を剥げそうだ。マエストーゾ、強力な奴を頼むぞ」
「分かった。なかなかにしぶとい敵のようだからね」
 メスの投擲体勢に入るナザクに笑って返すと、カトレアは楽譜から式神を召喚した。
「この曲に込めた想いはただ1つ。『迷える子羊たちよ、それでも勇敢に進め』」
 第1番、”羊飼いの行進曲”。カトレアに呼び出された羊の式神の大群が、ナザクのメスで装甲を完全に剥ぎ取られたライドロイドに殺到し、圧し潰すも致命打には成り得ない。
(「駄目だ。せめてあの盾が壊れていれば……」)
 歯噛みするカトレアの背後から、耳障りなエンジン音が迫ってきたのはその時だった。
「ジェイドさん、マエストーゾさん! 遅くなってすみません!」
 一郎である。
 一郎は、資材を担ぎ中央へと向かう作業用ライドロイドめがけ、
「まだです! まだ勝負は分かりませんよ!」
 騒音刃の一撃を叩き込んで、増強された護りを粉々に打ち砕くのだった。


「く、やっぱり堅いな」
「そうですね。予想はしていましたけど……」
 顔をしかめる真奈に、頷くゼラニウム。
 作業用ライドロイドを相手取る彼女達の声には今、微かな焦燥が滲んでいた。
 炎で包み込む真奈の拳も、装甲を剥ぎ回復力を阻害するゼラニウムの妨害も、未だ敵への致命傷には至っていない。
 だが、二人の焦燥はそれが理由ではなかった。
 来ないのだ。
 東エリアに向かった広喜とヒアリ、柚子の3人が、予定の時間になっても来ない。
 既に真奈の眼前では、収奪を終えた作業用ライドロイドが中央へと向かい始めていた。
(「まさか……3人に何ぞあったか?」)
 今からでは、もう東班のメンバーの攻撃は間に合わない。ライドロイドへの妨害を必死に試みながら、真奈は何度も東の方角を振り返る。
「小山内さん、あそこに!」
「来たか。デカブツのおでましやな……!」
 ゼラニウムの指さす先、真奈の目に映ったのは、傷を負いながらも戦闘用ライドロイドを連れてきた広喜達の姿だった。
「良かったわ――生きとって」
 思わずそんな言葉が口をついて出るほど、3人は傷だらけの状態だった。
 恐らくは、敵を北へと誘い出すのに時間を取られたのだろう。3人の負った傷の深さは、誘導の際に敵から一方的に攻撃を受けたことを示していた。
「3人とも、大丈夫ですか!?」
「すみません、遅くなりました」
「無茶は禁物やで倉田。大丈夫、あと1分残っとるわ」
 作業用ライドロイドを追いかけて中央へと走るケルベロス達。広喜とヒアリが必死に牽制する戦闘用ライドロイドは、ほぼ無傷のままだ。
「中央に着いての集中攻撃……全力でやるしかねえな」
 広喜の言葉に黙って頷く仲間達。
 ――最後まで諦めない。
 最後の戦いに挑むべく、ケルベロス達は工場の中央へと走ってゆく。


 合流したナザクは、北の状況をすぐに察したようだった。詳しい話は後とばかりに、
「南の奴を狙おう。ダメージは同程度だが、護りは一郎が剥がしてくれた」
 5人が頷くと同時、ケルベロスの攻撃が一斉にライドロイドに殺到する。
「あきらめんな! あと少しやで!」
「待ってろ。必ず壊してやる」
 真奈のエクスカリバールが、広喜の腕部換装パーツ八式が、カトレアの召喚する御業が、ライドロイドの生命力を怒涛の勢いで削ってゆく。
「行きますよ……土蜘蛛!」
 追撃で放たれるゼラニウムの『朔』に核を叩かれ、柚子のフォーチュンスターを浴びて、一郎の放つ『スクープチャンス』を撃ちこまれ――。
 一気呵成の攻撃の嵐に、作業用ライドロイドは悲鳴を上げはじめた。
 だがその間も、戦闘用ライドロイドの攻撃は容赦なくケルベロスへと降り注ぐ。
「く……っ」
(「まずいな。このままでは戦闘不能者が出る」)
 盾を構えての突進から広喜を庇うヒアリの体は、すでに血で真っ赤に染まっている。
 攻撃を諦め、ヒアリと共に前衛を癒し始めるナザク。その眼前で、作業用ライドロイド達はどこか無念そうにも見える背中を向けながら、魔空回廊の中へと消えていった。
「ダメだった、か」
「残るは1体……ですね」
 戦闘用ライドロイドのチェーンソーからヒアリを庇いながら、柚子は恋愛色塗料で自身の傷口を塞ぐ。彼女もまた、重傷の手前で辛うじて踏み止まっている状態だ。
 対するライドロイドはケルベロスを排除するまで撤退する気がないのか、シールドを構えて再度の攻撃態勢を取る。
「よし、最後のひと頑張りといこうか」
「せやな。気を抜いちゃだめやで」
 楽譜を手に取るカトレアの言葉に、拳を固めた真奈が頷いた。
 いかに戦闘用ライドロイドが強力といえど、2倍の戦力が相手では勝ち目はない。程なくしてライドロイドは破壊され、工場は再び静寂を取り戻した。


「お疲れ様です。資材は奪われましたが、作業員の犠牲者はゼロで済んだようですね」
 プスプスと煙を吹く敵の残骸を背に、ゼラニウムは被害状況を仲間に報告した。完全成功を逃したのは惜しかったが、作戦目標は達成できたようだ。
「怪我は大丈夫ですか?」
「ああ、平気だ。ありがとよ」
 周辺の修復を済ませた柚子に、広喜は感謝の言葉を返す。
 掴み損ねた完全勝利。
 それを惜しむように広喜は掌をギュッと握りしめ、仲間達と共に帰還の途に就いた。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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