●2体の英霊
北海道にある、とある公園。
夏の間は夜でもにぎわいを見せる公園だが、9月に入って気温が下がり始めると人は少なくなっていく。
人のいない一角で、体長2mもある怪しげな魚たちが宙を泳いでいた。
3体の怪魚たちが青白い光を発しながら泳ぎ回ると、その軌跡があたかも魔法陣のように浮かび上がった。
もしケルベロスがいれば、死神と呼ばれるデウスエクスのうち下級の存在であることがわかっただろう。
死神がかつて命を落としたデウスエクスをサルベージしようとしているのだ。
やがて、魔法陣の中心に、人影が出現する。
赤いオーラをまとった異形の人影。強大なオーラは血のように赤く、あたかも常に血煙の中にいるように見える。腰ミノに似た形のステラクロスが、かつてそれがエインヘリアルだったことを示していた。
「ンーンッンーゥ」
かつてはセオグリフという名を持ち、公園で夏祭りを襲撃したエインヘリアルはうめき声をあげた。
聞きようによっては、ハミングしているようでもある。その音に合わせて、異様に肥大化した手足をバタバタと動かす。それだけで、空が引き裂かれ、大地が砕けた。
異変はそれだけでは終わらなかった。
空からもう1人のエインヘリアルがその場に飛び込んできたのだ。
両手に剣を装備したデウスエクスは周囲を見回す。
「フン、夜か。つまらんなあ。せっかく解き放たれたというのに、このエルミードの剣舞を見せる相手がいないとは」
ゾディアックソードを振り回し、新たに現れたエインヘリアルは凶暴な笑みを浮かべて見せた。
●ヘリオライダーの依頼
集まったケルベロスたちに、北海道の某所で死神によるエインヘリアルのサルベージが行われると石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は告げた。
「死神は知性を持たない怪魚型の下級のものです。かつてケルベロスが倒した罪人エインヘリアルを変異強化させた上でサルベージし、デスバレスへと回収しようとするようです」
ここまでは、よくある死神による事件だ。
「ですが、今回はさらに追加で敵が出現します。サルベージされるタイミングに合わせて、新たな罪人エインヘリアルがその場に送り込まれてくるようなのです」
エリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)が危惧していた通り、サルベージを援護しようとするエインヘリアルの妨害行動であるものと考えられる。
「サルベージされたほうのエインヘリアルは、7分後に死神に回収されてしまいます。できるならば、その前に撃破していただくようお願いします」
芹架は静かに頭を下げた。
今回の敵は2体のエインヘリアルと、3体の怪魚型下級死神だ。
「サルベージされた方は、踊るような動きで範囲攻撃を仕掛けてきます。この技は見る者に身も凍るほどの恐怖を与え、氷つかせてしまう効果があります」
血の色をしたオーラが常に取り巻いているが、それを飛ばして攻撃することが可能だ。やはり範囲に向けて飛ばされたオーラはそれ自体に意志があるように敵を追いかけてくるという。
また、オーラをまとった近接攻撃は、敵の命を喰らって自身を回復する効果を持つ。
「後から現れたエインヘリアルは、ゾディアックソードを二刀流で装備しています」
他に無数の剣を召喚して操る攻撃を行う。数多の剣に囲まれた者は、武器を封じられてしまうという。
サルベージされた者は知性を失って暴れるだけの存在だ。また、生きているほうは会話は可能ではあるものの闘狂で、ケルベロスたちを見れば問答無用で攻撃を仕掛けてくるだろう。
3体の死神はさして強くはないが、それでも侮れば痛い目を見るかもしれない。噛みつきによる攻撃や、怨念を集めた弾丸を爆発させる範囲攻撃などを行ってくる。
なお、罪人エインヘリアルは好き勝手に暴れるだけだが、死神たちはサルベージされたエインヘリアルのほうを守ることを考えて戦うようだ。
「戦場は広い公園です。公園内には人が入らないよう手配していますが、あまり広範囲に避難を行うと死神が狙う場所を変えてくるかもしれませんので、周囲の街には一般人が残っています」
極力、戦場を広げないようにする工夫をしたほうがいいかもしれない。
サルベージされたエインヘリアルは、仮にグラビティ・チェインを補給できなくても7分後には回収されてしまう。仮に倒せなくとも被害は出ない。
とはいえ、後々のことを考えると単純に被害が出ないから放置していいとは言いにくい。
もう1人は回収されることなく暴れまわるため、取り逃がせばかなりの被害が出るだろう。両方倒すことがもちろん望ましいが、単体でも強力な敵をまとめて倒すならそれなりの戦術が必要になってくるはずだ。
「敵が強い上に数も多い、厄介な戦いになります。完全な勝利を目指すより、エインヘリアルのどちらか一方だけでも撃破することを目指すのが現実的かもしれませんね。もっとも……」
芹架はケルベロスたちを静かに見回す。
「そんな無難な判断ができるのは、私が戦場に出ないからなのでしょうが」
そして、最後にそう付け加えた。
参加者 | |
---|---|
幸・鳳琴(黄龍拳・e00039) |
巫・縁(魂の亡失者・e01047) |
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623) |
ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320) |
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023) |
ダリル・チェスロック(傍観者・e28788) |
葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485) |
アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743) |
●大きな公園で
死神がサルベージを行うという公園には、ひと気がなかった。
「この地上で倒れたならば彼らは何処にも行けぬまま、ただ彷徨っているということでしょうか」
日が落ちると肌寒く感じる北国の夜に、ダリル・チェスロック(傍観者・e28788)の特徴的な声が流れていく。
「何にしろ、死んだのなら死んだままで、どうぞ」
「キヒヒ、その通りだねぇ」
一つ目の描かれた大きな眼帯で顔を覆っている葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)が、奇妙な笑い声と共に同意する。
言葉を交わしながらも、ケルベロスたちは暗い公園を危なげなく進んでいく。
巫・縁(魂の亡失者・e01047)の手にしたライトや、街灯と異なる青白い光が見えた。
光に照らし出される、人とは似ても似つかぬ異形の戦士。
「サルベージは完了済み、か」
「死を踏み躙る死神も、軽い気持ちで殺戮に来る罪人も大嫌い。狙うは鏖殺」
仮面の男の呟きに、ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)がぼんやりとした表情のまま言葉を発した。
感情の読みにくい淡々とした声だったが、親しい者には表情や声色の微かな違いから強い嫌悪を感じられたかもしれない。
「ああ。行くぞ、アマツ」
頷いて、縁は相棒であるオルトロスへと声をかけた。
「死神とエインヘリアルが繋がってんのは今さらだな。ここであったが百年目、一匹たりとも生かして返さねぇぞ、死神共!」
浮かぶ死神たちへと神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)が叫んだ。
射程内に敵をとらえるべく、棍を構えて彼は走る。
少年と同じ蒼色の髪を持つ姉も、険しい表情で死神を見据えていた。
だが、神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)は蒼い瞳を空へ向ける。
「気を付けて、もう1人ももう来てる!」
ケルベロスたちが攻撃できる距離に入るのとほぼ同時、どこから飛び降りてきたのか両手に剣を構えたエインヘリアルが地面を揺らした。
「夜だというのになかなか盛況だな! このエルミードの剣舞……貴様らに見ていってもらうとしよう!」
3mの高さからデウスエクスが告げる。
「一体だけでも厄介ですけど、こうも数で攻められると困りますね。でも、私達の連携も負けて無い事を知らしめてあげましょう」
水色の髪をヘッドドレスで飾ったアクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)が、柔らかな表情で深い海のような青い宝珠を掲げる。
「さぁ、全員打ち砕く!」
幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)が拳を固めた。
心に灯した紅蓮の魂が、オーラとなって彼女の身体から立ち昇る。
ケルベロスが8人にサーヴァントが2体、そして体の大きなデウスエクスが5体……広い公園が狭く感じるほどの戦力が、動き出した。
●強敵2体
異形のエインヘリアルが、血も凍る恐ろしい踊りを見せつける。
かと思うと、虚空から現れた剣が舞い踊りながらケルベロスへと襲いかかる。
邪悪な踊りから鈴のボクスドラゴンであるリュガが主の弟をかばい、さらに鳳琴がダリルを剣から守って幾度も貫かれる。
1体でも厄介な敵が、2体。
しかし、だからといって退くわけにはいかない。
咲耶がオウガメタル粒子をばらまいて前衛の感覚を強化する。
「大地に眠る祖霊の魂…今ここに…闇を照らし、 道を示せ!」
鈴は後衛から、狼のエネルギー体を呼び出した。
光輝く狼たちが、傷ついた前衛の仲間たちへと近づいていく。
真偽は確かめようもないが、それはウェアライダーだった父の祖先が魂となった姿だという。夜の闇に輝く彼らは、仲間たちに敵の行く手を指し示す。
(「セオグリフさんが回収されるまで、7分しかないから……確実に当てていかなくちゃ!」)
2人の支援を受けたダリルと煉が踊り狂う敵に攻撃を仕掛ける。
死神の頭上を飛び越した青年が、炎を吹き上げる如意棒で薙ぎ払おうとした。だが、死神のうち1体がその攻撃を阻む。
「こんな夜更けに魚介類を連れて、そんなにタコ踊りを見せてぇのかデウスエクス」
挑発の言葉をかけつつ、煉は蒼炎をまとったハンマーでかばった死神に痛打を与える。
「厄介ですね。死神たちは予想通りディフェンダーで、セオグリフだけは中衛……おそらくジャマーです」
ダリルが攻撃に対する敵の反応を確認して告げる。
ソーンダイクはおそらく打撃役。サルベージした敵を守ろうとする者たちを気に留めず、ただケルベロスを倒すことを考えている。
「外さない……。受けろ、心蝕む呪いの矢」
ノーザンライトがその男へ戦闘意志をくじく漆黒の矢を放った。
一瞬動きを止めたが、しかし剣士はなおケルベロスへ向かってくる。そのまま、手にしていた機械弓を放り出してしまう。
支援を得ても、まだ変異強化された敵には攻撃が必ず当たるとは言いがたかった。
アクアは後衛からしっかりと狙いをつける。
「その素早い動きを、先ずは封じてあげましょうか」
砲撃形態へと変化させたハンマーから竜砲弾が飛び出して敵を打つ。
セオグリフはなおも攻撃を仕掛けてくるが、その足は一瞬前よりわずかに鈍い。
仲間たちが踊るエインヘリアルを守ろうとする死神を狙う間に、アクアはさらに足を止めるべく狙いを付けた。
1体の死神が倒れるまで、さして時間はかからなかった。
ダリルは傷ついている死神に魔法の矢を放つ。
集中攻撃をかけていた敵は、その矢に貫かれて青白く光る体を公園に横たえた。
踊り続ける敵は自分を守ろうとした者が倒れたことにさえ気づいていない。
「死んだ者は蘇らないし蘇らせていいものではない。例え利用されるのであれ情であれ、碌でもないということは分かり切っているだろう?」
シルクハットをかぶり直して、ダリルは残る2体の死神を無視し、その向こうにいる敵を見据える。
「夜だから――おやすみ、君」
鎮魂の言葉と共に、彼は次に狙うべき相手へ接近する隙をうかがった。
変異強化された敵がどれだけ頑丈かわからなかったが、ケルベロスたちは全力で攻撃を加えていく。
「奔れ、龍の怒りよ! 敵を討て! 龍咬地雲!」
縁が重たい鞘を地に叩きつけ、衝撃波を起こした。
その衝撃波を飛び越えて、アマツがセオグリフの首筋を切り裂く。
反撃を受けながらも、足が止まり、守りがゆるんだ敵に煉が接近する。
ノーザンライトが煉の背後から氷の槍を放った。少年の頬をかすめて槍が突き刺さる。
「敵の死角……許して」
思わず視線を向けた少年に、魔女は悪びれることなく告げた。
「俺がブラインドかよ。腕は信用してるが心臓に悪いぜ……姉ちゃん、なんか真似しようとしてねぇか?」
さらに背後にいた鈴の動きに煉は気づいた。
「え? あ、あはは……真似したらもっと当たりやすくなるかなって」
「大丈夫。鈴々もう一撃ぞな」
「うん、レンちゃんなら、少しくらい平気平気っ!」
軽口を叩きあいながら、鈴は天扇を降って矢のように時を凍らせる弾を放った。
「好き勝手言ってくれるぜ……ったく!」
怒りを敵に向けて、凍った体を煉が如意棒で打ち砕く。
だが、それが空元気だということは、きっと3人もわかっていただろう。
サルベージされたエインヘリアル1体に死神で、1チームのケルベロスと渡り合える戦力になる。そこにもう1体が加われば、その攻撃力は恐るべきものとなる。
幾度めかとなるソーンダイクの攻撃から鳳琴がダリルをかばう。
「……お前達の攻撃なんて、効くものかっ」
気勢を上げるが、その傷が軽くないことは明らかだ。
「回復は控えめ……とか、言ってられなさそうだねぇ」
咲耶は眼帯の一つ目を鳳琴に向けて呟く。
セオグリフが回収されるまでは、倒れる者さえいなければ十分と考えていたが、しっかり守らなければそれさえ危うい。
「負けません、……折れない! 私達ケルベロスはっ!!」
龍状に輝くグラビティを放ちながら、鳳琴が自らを鼓舞して立ち上がる。
「戦いは苦手だけれど……ここはアタイががんばらなきゃねぇ」
葛乃葉の御札を貼り付けた九尾扇を振り、咲耶は鳳琴を支えるべく幻影を付与する。
だが、最初に味方が倒れたのは、まだ5分の合図が鳴る前だった。
「リューちゃん!」
煉をかばったボクスドラゴンが公園に落下し、鈴が短く悲鳴を上げた。
●倒れ行くケルベロス
戦いが続く中、慌ただしいメロディが戦場に鳴り響く。
縁は思わず仮面の下からノーザンライトに視線を向けた。
「雰囲気重視……した?」
無表情に舌を出して見せる魔女に心の中で息を吐く。
「まったく……ノーザンライトらしいな。行くぞ! 残り2分で、倒して見せる!」
数秒遅れたが、縁は皆に呼びかける。
激しい攻撃に耐えながら、ケルベロスたちは全力でセオグリフに攻撃を加えた。
敵の攻撃力の高さから、計画していたほど攻撃に注力はできなかったし、死神に防がれることも少なくなかったが、それでもセオグリフにはかなりのダメージを与えている。
6分が経過し、最後の反撃でアマツが倒れた。
「アマツ……! 悪いが、そこで待っていてくれ」
一瞬だけサーヴァントへと視線を向けるが、縁は攻撃の手を止めない。
炎をまとう鳳琴の拳がセオグリフを喰らった。
「雷纏いし精霊を、振り切れぬ物はないと知れ!」
咲耶もこの時だけは葛乃葉の御札から球電を放って攻撃に加わる。
「これが貴方のラストダンス!」
御業が放つ炎を追って、煉と鈴が炎と光の顎でエインヘリアルを噛み砕こうとする。
「鳴り響けよ雷(いかづち)、その閃光を知らしめよ」
ダリルがロッドを一振りすると、空から雷光が降った。
そのうち何度かは死神に阻まれる。けれど、すべてではない。
ノーザンライトが氷の槍騎兵を召喚するのが見えた。
「あと少し……倒しきる」
「氷漬けにして、元居た場所に返してやるぞ!」
騎兵の槍に合わせて、縁はハンマーを振り上げた。超重のハンマーが蘇らされた敵の可能性を奪い、凍り付かせる。
「お願いします、倒れてください!」
アクアの放った透き通る炎が、氷を撒き散らしながらなお踊るセオグリフを切り刻む。
異形のエインヘリアルの体のパーツが水晶の炎に裂かれて落下し、砕け散った。
間に合った、と幾人かが呟いた。
だが、攻撃に力を注いだ代償が休む間もなく襲いかかってくる。
「なかなかの強者だな。次は俺の相手をしてもらおうか!」
楽しげに告げて、もう1人のエインヘリアルが十字に剣を振りかぶった。
鳳琴はとっさに敵の前に飛び出した。
召喚された剣の舞は彼女を守る潜龍と相性がよかった。ここまで持ちこたえられたのはそのおかげだ。だが、今、敵が放とうとしている技はそうではない。
それでも防がないわけにはいかない。
回避のしようもない速度で剣の一方が鳳琴の肩口に食い込み、そしてもう片方の剣が逆の脇腹をしたたかに打った。
2方向からの斬撃が超重力となって少女の体を襲う。
「ああぁぁぁっ!」
浮き上がった鳳琴の体が錐揉みをする。
目まぐるしく回転する視界が暗くなっていき、そして少女は意識を失った。
仲間が倒れたことをエルミードが気にする様子はないようだった。
残っている死神をケルベロスたちが片付けようとしている間も、容赦のない攻撃がケルベロスたちの体力を削り取っていく。
ノーザンライトは三日月と似た形に口の端を上げた。
邪悪な笑みを浮かべて、魔女はカードから殺戮機械のエネルギー体を召喚する。
「原型留めず惨めに死ね」
暴走する機械が敵の間を駆け抜けて、エインヘリアルごと死神たちの傷口を切り開く。
積極的に狙っていたわけではなかったが、セオグリフをかばっていた死神たちはすでに傷つき、また動きは鈍っている。
それにエルミードへ最初にしかけておいた魔弾の効果も残っていた。
エルミードが次いでノーザンライトを狙ったのは、それをうっとうしく感じたからかもしれない。
剣の舞が魔女の体を切り刻む。
「怪我くらい恐れない……最後の根競べ」
仲間たちが死神を片付けるのにさして時間はかからなかった。咲耶や鈴の回復を受けながら、ノーザンライトはさらに使い魔を飛ばして傷を広げていく。
だが、それをはるかに上回る攻撃力が魔女を襲った。
「付き合ってやるほど人が良くはないのでな。早々に倒れてもらうぞ!」
十字に振り切られた剣が、鳳琴に次いでノーザンライトを打ち倒す。
縁の、そして鈴や煉が魔女の名を呼ぶが、もはや動く力は残っていない。
次いでエルミードは回復役の鈴を狙ってきた。狂ってはいるが、愚かではないらしい。剣の舞が、星座のオーラが、少女の体力を確実に削っていく。
ただ、範囲攻撃交じりであることと、ノーザンライトが仕掛けた魔弾の効果が残っているおかげですぐには倒れない。
地面に守護星座を描いて回復しようとするが、鈴が煉にまとわせていた御業の鎧による加護が、敵の守りを破壊する。
そして、その間にケルベロスたちの攻撃も、エインヘリアルの体力を削っていた。
「キヒヒ、簡単に仲間は倒させないよぉ」
「あなたをここから出すわけにはいかないんです!」
咲耶がオウガメタル粒子を散布するのに合わせて、アクアも薬液を降らせて回復に加わっている。鈴自身も気を溜めて回復に努めている。
「どうにか……態勢を立て直さないと……」
だが、ディフェンダー抜きで立て直しきることはできなかった。
「いい加減、倒れるがいい!」
数分後、焦れた声と共に放たれた無数の剣が鈴へと襲いかかる。
踊る剣が留まることなく鈴のドレスと、そして色白の肌を切り刻む。血の海が足元に広がり、紙のように真っ白な表情で、鈴は倒れた。
「姉ちゃん!」
煉が叫ぶが、意識を失った姉からの返答はない。
「3人か……だが、周囲の被害を抑えるため、そう簡単に諦めるわけにはいかない」
縁が重たい鞘で卓越した一撃を放つ。
「そうですね。少しでも回復しながら戦うしかないでしょう」
ダリルは降魔の拳で敵の体力を奪い取る。
星座のオーラが鈴に次いで咲耶を追い込むが、ケルベロスたちの必死の攻撃でエインヘリアルもまた限界を迎えていた。
煉は右腕に蒼い焔を宿す。
「決めるぜ、姉ちゃん! これが俺達の絆っ!」
叫ぶ少年の横に倒れたはずの鈴が並ぶ。
姉の右腕には白い光が宿っていた。
左右から焔と光がエルミードへと襲いかかる。狼の咢を形作ったそれらはエインヘリアルへと噛みついた。
「満足したか? 戦闘狂。砕け散れ!」
閃光と爆炎が広がり、敵を燃やし尽くす。
同時に鈴の姿が消え去る。光が収まった後、意識を失ったままの姉の姿が煉の目に入って、少年は奥歯を強く噛み締めた。
包囲するように動くことを心がけていたおかげで、公園の外に戦場は広がっていない。
守り切った街の明かりが、傷ついた者と、倒れた者たちを静かに照らしていた。
作者:青葉桂都 |
重傷:幸・鳳琴(天高く羽ばたく龍拳士・e00039) 神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年9月26日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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