力で攻めくる罪人達

■リプレイ

●様々な思惑と力を振りかざす罪人
　広島、新天地。
　この地に現れる死神、エインヘリアルの討伐の為、ケルベロスのチームが降り立つ。
「死神が本気を出してきたようですね。こちらも気を締めていくとしましょうか」
「はい、がんばる、です」
　白いヒゲを生やす赤い鱗の竜派ドラゴニアン、据灸庵・赤煙（ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357）の言葉に、白衣を纏う自称闇医者の少女、シェスティン・オーストレーム（無窮のアスクレピオス・e02527）が小さな拳を握って気合を入れる。
「精一杯頑張りましょうね！」
　傍では、ユリア・フランチェスカ（慈愛の癒し手・en0009）も笑顔でこの場のメンバーを元気付けようとしていた。
　現場に到着したメンバー達の前に現れたのは、３体の怪魚型死神。
　手前には、そいつらは呼び出した大男が立つ。
「ああ、ああぁあ……」
　以前、この地で別のケルベロス達が戦い、倒したはずのエインヘリアル、フィリペ。バトルオーラを纏い、徒手空拳で攻めて来る男だ。
「今回の相手に個人的な因縁は無いけど、反吐が出る思いよ」
　ワイルドな見た目のベルトーシカ・ランケ（ラブイズブラインド・e00482）にとって人生とは、各々が紡ぐ唯一無二の冒険譚。
　死によって締めくくられたそれをサルベージで弄る死神に、彼女は悪印象しか抱くことが出来ない。
「捨て駒にされて、くたばって、無理やり叩き起こされて尚、駒扱いとはよ」
　ぼさぼさ髪をした銀狼のウェアライダー、狗上・士浪（天狼・e01564）は同情さえ覚えかける相手に仕掛けるべく間合いを取る。
「……まぁ、喰い尽くすまでだが」
「死者が生き返らせるなんて、あってはならない事……絶対にね」
　士浪に同意したベルトーシカはサルベージされた相手の存在を否定すべく、臨戦態勢に入っていた。
　そして、もう１体。
「ようやくおでましか、ケルベロス」
　新たにこの地へと送られてきた罪人エインヘリアル、グンター。２本のゾディアックソードを使う剣士だ。
「死神の活動に合わせた、エインヘリアルの動き……」
　当主モードとなって真剣な表情を見せるイピナ・ウィンテール（剣と歌に希望を乗せて・e03513）は、先日のダモクレスと死神の強調を思い出して。
「水面下で何が起きているのでしょうか……」
「この罪人エインヘリアルも王女レリの手によるものなのだろうか……。それとも、別の王子が動いている……？」
　一方で、和装の少女、四方・千里（妖刀憑きの少女・e11129）はエインヘリアル側の事情を推察する。
「まあ……、聞いても答えてくれそうにない相手だけれど……」
　７分後、死神にサルベージされたフィリペが死神勢力に回収されるとあって、千里は時計のアラームをセットしていた。
　首のチョーカーが目を引くミリム・ウィアテスト（リベレーショントルーパー・e07815）は抱く疑問を、目の前の脅威……エインヘリアルへとぶつける。
「誰の命令で、ここに来たのですか？」
「さあな。俺は暴れられりゃ、それでいいからな」
　返答は期待してなかった為、ミリムも平然と敵と対していく。
「罪人だろうが、戦闘狂だろうが大歓迎だ！　存分に殴り合おうではないか！」
　状況は夜の大通りのど真ん中で、ある程度人も避難も進んでいる。
　予めそれを確認していた狐のウェアライダー、遠野・葛葉（鋼狐・e15429）はノリよく相手に応じると、互いに睨み合って仕掛けるタイミングはかる。
　千里の瞳が緋色になった直後、互いにグラビティを繰り出し始めたのだった。

●持てる力を存分に発揮して
　まず、ケルベロス達が狙うは、７分後に死神勢力から回収されてしまうフィリペの討伐だ。
　そいつの胴に向けてミリムは発動させた虚無魔法を撃ち込み、そいつの身体を削ろうとしていく。
　そこで、大きく口を開け、怪魚型死神どもが近づいてくる。
「おっと、残念。そこでストップです」
　怪魚の噛みつきを防ぐ赤煙がそのミリムや士浪へと妖精弓を引き、祝福と癒しを宿した矢で力を与えていく。
　再び前線を見れば、ベルトーシカが切りかかってきたグンターを強烈な視線で抑える。
「熱烈なアタックね？　私には心に決めている夫(ヒト)がいるのよ？」
「知るか、少し付き合ってもらおうか」
　彼女は蹴り飛ばして前線に出したミミックのエンテと共にチームの盾となり、グンターの抑え、牽制に当たるようだ。
「若人は存分に暴れ、活躍してちょうだいな！」
　そうしやすい場を作るのが大人の仕事だと、ベルトーシカは主張して身構えていた。
　他メンバーはもう１体のエインヘリアル、フィリペの討伐を急ぐ。
　千里は冷静に自らの技の命中力も見て、相手に攻め込む。
　そうして千里は妖刀「千鬼」を手に取り、刃に空の霊力を付与させてから一気に相手の体を切り裂いていく。
　そこに跳び上がった士浪がフィリペの頭上から、流星の蹴りをくらわせていった。
「我も続くぞ、覚悟するがいい！」
　さらに、葛葉も嬉々として、巨躯の相手に電光石火の蹴りを浴びせかけていった。
「さあ、どんどんくるがよいぞ！」
「ああ、ああぁあ……」
　目の前のエインヘリアルは、両目の焦点すら合っていないようにも見える。
　呻くフィリペは葛葉へと拳で殴りかかってきたが、その力は以前と変わらぬどころか強化されており、一撃でもかなりの痛打となってしまう。
　思わぬ一撃を受けてもこれぞ喧嘩だと殴り合いに一層喜ぶ葛葉へ、シェスティンは癒杖「アスクレピオス」を手にとって電気ショックを飛ばす。
　そのシェスティンに頼まれる形で癒しに当たるユリアは、緊急手術によって回復の補助に当たっていたようだ。
　同じ後方からミリムが次なる攻撃をと仕掛け、全てを飲み込む星辰の剣に緋色の闘気を纏わせ、素早く斬りかかる。
「裂き咲き散れ！」
　複雑な斬撃は緋色の牡丹を描き、相手の体を切り刻む。
「例えエインヘリアル２体でも死神３体であっても、私達番犬は逃しません！」
　叫ぶミリムは一撃を相手に加えると、すぐに身を退いて次なる攻撃のタイミングをはかっていた。
　しばし、グンターの抑えに当たるベルトーシカは敵の斬撃に対抗しながらも、降魔の拳で殴りかかって自らの体力の補填による戦線の維持と、攻撃の両方に当たっていた。
　そんな仲間の支援の為、九尾扇を持つイピナはまず自らに幻影を纏わせて。
「これで準備は万端」
　その上で、彼女は清らかな声で歌を歌い始める。
「闇を切り裂き、死に誘うは我ら猟犬。雄叫びと共に喉笛を喰らい裂く！」
　イピナの歌は、仲間を鼓舞する行軍歌。
　デウスエクスのもたらす闇を裂き、死をもって償わせる決意を勇壮に歌う曲。聴く者に並々ならぬ攻める為の力を与えてくれる。
　彼女の歌を聴いたメンバー達は力を漲らせ、エインヘリアルを攻めていく。
　そんな両者の戦いを死神達は不気味に見つめつつ、さらにケルベロスへと食らいついてくるのである。

●時間経過を気にかけて
　しばしの間、街中ではケルベロスと死神、エインヘリアルの戦いが激しく繰り広げられる。
　時間制限もある為、メンバー達は体術を駆使するフィリペの対処に当たるが、ベルトーシカは防御、回復に比重を置いて立ち回っていた。
「くくく、おらおらあっ！」
「そうしやすい場を作るのが大人の仕事ってね」
　彼女はグンターをメインで抑えるのだが、さすがに１人では抑えるのが厳しい相手だ。
　そこに、少しでもメインで戦うケルベロスの支援の為にと、サポーター達が駆けつける。
「アメジスト・シールド、最大展開！！」
　フローネは前線メンバーを覆うようにして、自らの二つ名でもある紫水晶の盾を展開させていく。
　ドゥーグンなどは実際に、ディフェンダーとしてエインヘリアルの攻撃から、この場のメンバーを守ってくれていた。
　聖星樹もまた前に立ち、箱竜ロールと相手の鋭い刃を防ぐだけなく、気力を発して回復にも当たってくれる。
　サポーター達の援護は大きい。葛葉は回復して貰うことで攻撃にその手を割くことができ、全身にオウガメタルを纏ってフィリペの身体を殴りつけていく。
　次の瞬間、宙を一直線に飛ぶ凍結光線。
　それは、イピナの持つバスターライフルから放たれたものだ。
　彼女は仲間達の攻撃をさらに効率よくダメージ源にできるよう、フィリペの身体に少しずつ氷を張り巡らせていた。
「ああぁ、あああぁあ……」
　とても肉体派のエインヘリアルとは思えぬ呻きを上げ、オーラの弾丸を飛ばしてくる。
　そこはしっかりと赤煙がガードに入りながらも、癒しに当たって。
「回復に無駄がないよう、満遍なくいきましょう」
「はい、赤煙お兄さん」
　そんな赤煙の呼びかけもあり、シェスティンは桃色の霧を展開して前線で戦うメンバーの癒しに当たる。
　シェスティンは時にドローンを飛ばし、味方の盾を展開していた。
　ユリアも相手の挙動を注視し、グンターが地面に守護星座を描いて自身とフィリペに守護の力を纏わせたのを対処しようと動く。
　しかし、サポートに駆けつけたミリムが星座の重力を宿す剣で、その加護を切り裂いてみせる。それもあり、ユリアは時空凍結弾を飛ばして攻撃に回っていたようだ。
　その間にも、周囲を泳ぐ死神も邪魔はしてくるが、メインメンバーは１体ずつ撃破を。そして、フィリペの離脱阻止が優先事項として攻撃を集中させていく。
　千里は時計を気がけがてら、相手の拳に神経を集中させて爆発を巻き起こす。
　さらに、彼女は妖刀「千鬼」を抜き、畳み掛けるように斬りかかっていた。
　士浪もドラゴニックハンマーを手に強くフィリペの身体へと超重の一撃を叩きつけ、衝撃と共に相手の身体を少しずつ凍りつかしていく。
「ああぁあ、あああぁあ……」
　それでも、かなりタフなフィリペはその体躯を生かした素早い回し蹴りで、前線メンバーを痛めつけてきた。
「時間が……」
　シェスティンは時間が過ぎてきているのに、未だ倒せぬことを懸念して攻撃に移る。
　癒杖「アスクレピオス」をシェスティンは直接相手の腹へと叩きこみ、星霊甲冑に亀裂を入れていく。
　間髪入れず、イピナが攻め入る。
「あなたはどこにも行かせません。ここでもう一度、斃されなさい！」
　バスターライフルを構えるイピナはその一撃に空の霊力を込め、至近距離からフィリペの身体にエネルギー光弾を撃ちこみ、傷を大きく広げていった。
　すでに、戦闘開始から６分。
「もう時間がないぜ」
　士浪がそう仲間へと促すと、ケルベロス達はフィリペへと一層攻勢を強めていく。
　敵も呻きながらも拳を振り上げるが、そこはまたも赤煙が抑える。
　さらに、サポート右院が失われた面影を悼む歌を響かせ、この場のメンバーに力を与えてくれていたようだ。
　相手のグラビティの威力は大きく、万全とは言えぬ状況。
　それでも、ケルベロス達は一気に攻勢を強める。
　ミリムはフィリペの頭に再度緋色の牡丹の花を咲かせ、赤煙は直接相手に拳を叩きこむ。
「喝ッ！！」
　打撃でダメージを与えるだけでなく、彼は干渉した相手の気のバランスを崩してしまう。
「ちっ……」
　グンターもフィリペの旗色が悪いことに気付くものの、ベルトーシカが流星の一撃で牽制してきたことで、彼女の撃破をと２本の剣で切りかかっていたようだ。
　さて、フィリペの全身はボロボロになってきている。
「ああぁああ……」
　呻きとその姿がようやく一致した感もあるが、葛葉が仲間の回復に甘えて鋼の鬼と化したオウガメタルで連打を浴びせかけていく。
　よろけたフィリペに、士浪が迫る。
　貫手の形に固めた彼の拳には、瘴気が収束していて。
「これだけデケェなら、当て放題だわな。――喰い千切れ……！」
　士浪は拳でフィリペの腹を抉り、瘴気を相手の体内へと送り込む。
「あぁ、ああぁあぁ…………」
　瘴気に蝕まれたフィリペはもはや動くことが出来なくなり、その場へと身体を崩してしまう。
　その頭上に魔空回廊すら出すことなく、メンバー達はエインヘリアル、フィリペを沈めてみせたのだった。

●強すぎる力をいなして反撃を
　死神が揺らめきながらも大きく口を開けてくる中、もう１体のグンターは鼻を鳴らす。
「所詮、１度負けた野郎ってことか！」
　サルベージされたフィリペがやられたことに呆れをみせ、グンターは剣を握る手を強めて豪快に切りかかってくる。
「なんて荒々しい攻撃……！　目を離しておける相手ではありませんね……！」
　改めてイピナは敵の攻撃の熾烈さに慄きながらも、仲間達を見やる。
　これまで戦線を維持してきた赤煙、ベルトーシカとミミック、エンテ。
　彼らも一撃で大きく体力を削られる相手だと危険視はしており、それぞれ回復も織り交ぜ対処している。
　ユリアが極光を放ってサポートし、シェスティンも蜂や蟻型のドローンを展開して回復へと当たり続けていた。
　それらのドローンとオウガメタルを合体させた機巧騎士「Argo」はかなりの破壊力を持つのだが、シェスティンは回復役としての仕事を全うすることになりそうだ。
　イピナも仲間達が敵をうまく攻めていることに感嘆しながらも、自らは雷刃突代わりの一発をバスターライフルから撃ち出し、グンターの装甲を撃ち砕こうとしていく。
　鳴り響くアラームを消した千里は己のオリジナルグラビティの命中に難を感じ、胡蝶「黒鉄」を纏って降魔の一撃を叩き込んでいた。
　華奢な少女にも見える千里だが、ケルベロスの力は見た目だけでは測れない。
　思った以上に威力のある一撃に、グンターもにやけて。
「やるじゃねぇか」
　口元から流れる血を拭うグンター。
　周囲に死神が口をパクパクさせながら取り巻いていたが、ケルベロス達はそいつらにほとんど気を払わずにグンターを攻め立てる。
　葛葉は仲間達の状態に気を配りながら、グンターの装甲を崩すべく肉薄して。
「武芸者であるなら大歓迎だ！　存分に楽しもうではないか！」
　相手が剣技の達人であるなら、葛葉としては十分楽しめる相手。
　オウガメタルを纏う彼女は、グンターへと連打を浴びせかける。
　さらに、敵を注視し続ける士浪が再度、瘴気を纏わせた拳で攻め込む。
　まだ、グンターは十分に体力を残している為かフィリペのようにトドメとはならぬが、士浪の一打によって瘴気が徐々に敵の身体を蝕んでいたようだ。
「皆、気にはなるが、やはりてめぇから始末しねェとな！」
　グンターが狙うは、強く相手の気を引くベルトーシカだ。
　彼女はかなり疲弊しており、苦しい状況には違いない。
　ただ、ミミックのエンテが主を庇い、天地揺るがす敵の十字切りを受け止め、その身体を霧散させていった。
　絶好の隙を自身のサーヴァントに貰ったベルトーシカは高く跳び上がり、相手の上半身に重力を宿す蹴りを叩き込む。
　そして、シェスティンがすかさず癒杖「アスクレピオス」から電気ショックを飛ばし、ベルトーシカの体力の回復に努める。
　楽観視できる状況とはいかないが、シェスティンは仲間達の立ち回りもあって暴走までは及ぶ必要は皆無と判断していたようだ。
　さて、グンターもケルベロスの集中攻撃を受けて疲弊してきていたが、死神をあしらいつつ近づく赤煙が問う。
「貴方も死んだ後はあんな風になるんですよ？　やる気が無くなってきませんか？」
　赤煙が示したのは、フィリペが消えた跡。
　それは、死神によってサルベージされる可能性を示唆していた。
「だからどうした。死んだ跡のことなんざ知るかよ」
　その返答を耳にし、赤煙もエクスカリバールで相手の装甲を砕きに当たる。
　仲間達がうまく攻め立ててくれたことで、ミリムもうまくグラビティで攻め立てることが出来ていた。
「今一度、裂き咲き散れ！」
　青白い炎を纏う「ブルーフレイムソード」の上から緋色の闘気を纏わせたミリムは相手の頭を切り刻み、緋色の牡丹を咲かせてみせた。
　軽口を叩いて猛攻撃を行っていたグンターも、ついに膝を突く。
「へっ、悪くねェ……」
　己のあるがままに力を振るっていたエインヘリアルも、崩れ落ちるようにこの場から姿を消していったのだった。

●激戦を乗り越えて
　残る死神も全滅させ、ケルベロス達は一息つく。千里の瞳も茶色へと戻っていたようだ。
　街の被害状況の確認と合わせ、イピナは仲間達の怪我の具合を見ようと１人ずつ声をかける。
　しかし、そんな中でも満足できていない者が１人。
「次は、仲間内でのバトルロワイヤルだな！　……やらないのか？」
　葛葉がそう仲間達に尋ねるが、さすがに疲労の色の濃い者も多く、首を横に振っていた。
「まぁ、楽しかったし、今日はこのくらいにしておくか」
　豪快に笑う彼女は仲間と共に事後処理をと、戦場となった街に光輝く掌をかざして修復を始めていたのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年9月19日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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