雄々しきしるべは

作者:ヒサ

 出先で人を助けたら、花を貰った。傷んだり咲ききったりしてしまっては売り物にはし難いから、と、彼を恩人と呼んだ店主は困ったように笑った。
 これもまた人助け──お嫌いで無ければ、と拝まれて、持ち帰って飾るには多過ぎる花を抱える事となった空波羅・満願(お前の帰るべき場所へ・e01769)がそれを、供えるか、と思い立ったのは、少し足を伸ばせばそれが叶う地での出来事だったからだろう。

 崖上の頂までは登らずに、広がる草地へ花々を手向ける。正式なそれとするには準備不足だからと今は、そっと目を閉じ束の間祈るに留め。それから踵を返し去ろうと、彼はした。
 だがそれを許さぬ影に、遭ってしまった。その気になれば一息に間合いを詰めてしまえるであろう距離に、その『ひと』は出でた。
「──父、さ……」
 驚愕に彼の声は半ばで掠れた。人のかたちをしたその姿はしかし既にヒトではあり得ない事を眼前に突きつけ来るその威容を見上げる。
(「なんで、此処に……いや、此処だからか……?」)
 見上げた瞳は同じに紅く、されど虚ろ。語る言葉は持たぬとばかり、龍人の姿をした死神は、氷を纏う拳を握った。

「帰りはご自身で、とのことで、うかがっていたのだけれど」
 眉を寄せた篠前・仁那(白霞紅玉ヘリオライダー・en0053)が重く息を吐いた。
「これでは待ってもいられないわ。なのであなた達に、お迎えに行って来て貰いたいの」
 満願の危機を伝えたヘリオライダーは、ケルベロス達へ救援を依頼した。連絡がつかないと発覚したのが夕のこと。彼が敵の襲撃を受ける頃、及びケルベロス達が現地へ到着するのは明け方となる。
「場所は、視た限りでは、山奥の……廃村? かしら。彼らのほかに人は居ないようだし、動物も、この時は遠くへ逃げているようよ」
 思いきり戦ったとて被害はそう大きくならず済むだろうと彼女は言い、現れる死神は体術を得手とするようだと警戒を促した。その見目は、黒い鱗を持つ竜派のドラゴニアン。重く、堅く、強く──満願に執着するが如く、言葉の代わりに拳を振るうだろう。満願が戦意を失わぬ限り、きっと彼は退く事など無い。
「……でも、まんがんさんが倒れてしまったら、わからない。皆無事に済むように……敵を逃がすことの無いように、終わらせて来て欲しい」
 低く呟いてのち、彼女はケルベロス達を深夜の空へと誘った。


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
空波羅・満願(雄々しく勇ましく在る為に・e01769)
リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)
フェル・オオヤマ(氷焔操る紅の竜姫士・e06499)
コール・タール(マホウ使い・e10649)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
ミゼット・ラグテイル(没薬は巌きしるべの為に・e13284)
サロメ・シャノワーヌ(ラフェームイデアーレ・e23957)

■リプレイ


 獄炎は、熱鉄は、怒りの色をした。
「その姿でこの世に留まれると思うなよ、糞神」
 膚と共に覆い隠すのは、護るのは、かつての。
「必ずこの手で屠ってやる──!!」
 この殺意が罪だというのなら。堕ちる覚悟など、とうに。

 くちなしを枯らしたあの日を越えた空波羅・満願(雄々しく勇ましく在る為に・e01769)に最早迷いは無く。ただ、抱く真名に恥じぬように。
 凍気を纏い迫る黒鱗の拳を盾で受ける。蒸気に煙る視界の中、衝撃に重く眩む。
 感慨は今は不要。地を踏む反動で伸び上がり相手の懐へ。堅く重い巨躯が退くより速く、鋭く蹴りを。
 だが。鎧を帯びれど相手に比せば未だ華奢に過ぎる青年の脚は阻まれた。鱗纏う片手が脚を掴み、そのまま青年の体が吊り上げられるよう浮かされる。
 そして青年は抗う暇も得られぬまま、唸りを上げた豪速の脛に打たれ宙を舞う。為した死神は更に、追撃を浴びせるべく地を蹴った。
 それを阻んだのは、炎爆ぜる砲撃。重低音が冷えた空気を震わせ耳を塞ぐ。不意を突く二連射が、山地を不似合いなまでに暖めた。
「──ああ、満願くん、お早うございますのよー」
 撃ち墜とした死神をその金瞳で捉えたまま。言葉ばかりはおっとりと挨拶を寄越したのは、砲撃手を務めたフラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)。だが即座に応える余裕は青年に無く。長い腕を伸べたコール・タール(マホウ使い・e10649)によって軌道を変えられて、腰を落としたイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)の胸にしかとその身を受け止められて、ようやく。
「無事か」
「やあ、間に合ったようで何よりですな」
「すまん、手間ぁ掛けた。──オハヨウゴザイマス」
 狭まっていた視野を広げて空の色を知る。馴染みの顔に青年は少しだけ、緊張を緩めた。
 その間に体勢を立て直し彼らへと迫る死神の掌に熱がわだかまる。赤く揺らめき力を放つべく振るわれんとするその正面へは、竜翼を翻して降下したフェル・オオヤマ(氷焔操る紅の竜姫士・e06499)が割って入った。蒼剣で受け止めた熱が散る。逸らしきれずに鎧下の肌を灼かれる彼女の苦痛を和らげるのはリコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)が引く黒鎖。微かな音と共に術が守護を成した。
「おはよう、満願くん。応援に来たよ」
 テレビウムを後方支援に残し盾役として前へ出たサロメ・シャノワーヌ(ラフェームイデアーレ・e23957)は敵を見定め、しかし物憂げに唇を結ぶ。
「──けど、これは本当に『応援』に徹する方が良いのかな」
 黒い鱗、竜の角、赤い瞳。彼女にしてなお喉を晒さねば視線を交わせぬほどの相手の姿に、見過ごすべきでは無い徴達を見た。
「頼めんなら有難ぇ」
 答える青年の声は短く低く。けれど示すのは憎悪や焦燥などでは既に無く、信頼と決意。仲間の力を借りられる状況になったのだと、彼はその目で見たから。
 そして、己が周囲に魔力が集う気配に気付いたから。織られるその色を、その匂いを、その、成し手を、青年はよく知っていた。
 小さくて臆病な、けれど強かで優しい、琥珀の色纏う魔女の守護。鎧と炎の内側の肌に、握る拳の力宿す脈動に、刻まれる熱。
「……ミレイ」
 呼べば、諾と答える声がある。
「わたしのものをわたしが護るのは当然でしょう?」
 ねえミツキ。声は、『ユウ』でも『満願』でも無い音列を柔らかに呼び。
「私達がついています。ですからどうぞ、貴方の望むままに」
 ミゼット・ラグテイル(没薬は巌きしるべの為に・e13284)の瞳は強く、彼の手で斃すべきものを、己が手で支えるべき男を、見据えた。


「では行こうか。キミを独りになどしないよ」
「ええ、お支え致しますぞ!」
 サロメの歌が高らかに、イッパイアッテナの励ましが力強く、援護の力を発す。握る拳に高揚を、見定める瞳に明敏を。フェルの蒼剣が描く護りは、彼が何をも恐れず済むように。射手達が標的に荷重を掛けて、その上に塗るのは数多の星にて刻む曇色。岩めいた鱗を脆く突き崩すためのヒビを描く。
 一度剣を納めたフェルは、鎧の下に抱く貴石を想う。肌に触れる、黒と白の絆の証。
(「どうか、彼を護る力に」)
 彼女の拳が混沌の色を纏う。踏み込んで、潜り込んだ懐へ殴打を。
「お前の相手は私だ、満願さんを痛めつけなどさせるものか!」
 介入する意志を告げる。黒鎧纏う竜姫は、その身を以て友の盾にと。硬い鱗、防御を意識した身のこなし──堅固な敵への衝撃は微々たるものなれど、龍人の青年ただ一人を標的と見定めていたその意識を乱す事は叶う。活力奪う一撃を受け止めた彼女の為、ミゼットが急ぎ鎖を振るい治癒を為す。
「アルバ、手伝え」
 主の言葉を受け、シャーマンズゴーストが胸の前に手を組み顎を引いた。
「ステイ、彼女達の事は任せたよ」
 治癒が不要な時は攻めに。医師達の補佐と護衛に任ぜられたテレビウムが画面を瞬かせた。敵の目を眩ませられれば、皆を護る助けとなり得る。
 そう、足元を固めるのが彼らならば。
 進む道を切り拓くのは射手達の務めだった。
 片手に、獄炎盛る灯籠を。逆の手に、ゆらり揺れるかがちの灯を。そう塞いだ白い手にフラッタリーは更に、縄を編む。
(「巌トテ、吾ガ縄ハ捕ラヱ得ル。削リ断ツ事スラモ──」)
 最期、砕くにあたっては、担うべき人が他に居る。だから己は其処への案内を導きの灯で以て。獄炎揺らし、金瞳燃やし。炎縄放ち、絡め──肉を、此処に、繋ぐ。常ならば捩れ嗤う声は、唇に吐息だけ。
 何故なら、届けるべき声が、他にある。
「覚醒せよ、聖剣──今此処に、奇蹟成す架け橋となれ」
 たとえ言葉ならずとも、音ならずとも。映す瞳が、触れ得る肌が、未だ在るのだから。
 清白の神話が死神の腕を捉える。巌の拳が少しでも緩むよう、友が半ばで倒れてしまわぬよう、暴威もたらす豪腕へ傷を創る。
 噴いた血は、赤々と。頬を汚した命の色を、コールは手の甲で乱暴に拭った。
(「──それでも死神だ。アイツはこの程度で揺らぐような奴じゃない」)
 信じるのは、友の優しさと強さを知っているから。恩人でもある尊い彼をしかと支えるためにこそ、『いつも通りに』とコールは正確に精密に術を繰る。

 岩山を削る如く、鱗に傷を刻み、肌を裂き。少しずつ少しずつ、それでも着実に、ケルベロス達は攻め続けた。唸る鋸刃が痕を抉るに至り、射手達は一つ身軽になる事を許された。
 混沌と閃光の色を以てしてなお釘付けにとは行かぬのは、敵の一歩ごとが大きいからもあろうか。深く踏み込み満願へと手を伸べる死神を、イッパイアッテナが阻む。拳を受けて、凍てる痛みに肌を灼かれ、されど彼は泰然と。小柄な体とて、差し出した手が届かぬのならば駆ければ良い──堅牢な盾たる覚悟ならば、彼が敵に劣る事などあり得ない。
 斯様に鉄壁たる彼らの背後、リコリスは手にした宝玉を稼働させた。
「──御足に、其方の瘡蓋を」
 炉は熱を灯し、傷を視る。此の地が抱くそれ、過去という幻。
 風の音が、空咳めいた。
「嘗て引き裂いたその手で、今度は結ぶ手伝いを。あなたの爪は私が折っておきましょう」
 彼女の瞳が、見上げる。かつて楽園を荒らした狼藉者。幼き黒龍にとっては激情の遣り場であったモノ。朧に結ぶ、像の色。
「な──」
 青年が、鎧の下で目を瞠る。
「まあまあお久しゅうー。と申しましてもー、あなたは私達と遭う前のあなたかしらー」
 口の端を上げたのはフラッタリー。その瞳はかの死を憶えている。
「──ああ、そうかい」
 干涸らびた色をした手が伸びる。まるで黒鎧の腕に添えられるかのように。
 陽炎めいた悪夢の形は、夢幻に過ぎぬからこそ、今。
「てめぇは俺の腹ん中ぁ居候してんだ、ちったぁ役に立ちやがれ」
 為すべき事の、標たり得た。

 独りでは無いからこそ、宿る力は幾重にも。纏う銀と桜の龍もまた盛り猛る。向き合うべきひとを捉まえるべく伸べる手が、指の先からも思いを叫ぶ。
 己に叶う全力を、ぶつける事を許された。
 ゆえに今度こそ正しく、静かな眠りをと、誓いは強く。


「蒼星瞬きて守護を成せ!」
 盤石たれと術を織りながらもフェルは、満願を護るべく彼の傍にと動く。積極的に前へ出る彼女には、既に幾つもの傷があった。
(「まだまだ……!」)
 疲労に乱れる呼吸を晒す事は拒み、四肢は気力で以て力強く。守護を果たしてみせると彼女の心は滾る。
「ザラキ、任せます!」
 そしてその気高さにも寄り添う者達が居る。主の指示を受け、死神の蹴りから彼女を護りにミミックが動いた。
「すぐに手当を致します!」
「動けなくなっては大変だからね。私にも手伝わせておくれ」
 傷を塞ぐだけならば、医師達の手で足りる。だが、動きを妨げる痺れをもとなれば念には念を。不安を数で補い得るのは、誰もが決して孤独では無いから。
 死神が満願を狙うとて、そうはさせぬ為の囮が、盾が在る。身を尽くす彼ら彼女らを支える為に、癒し手達が。
 ケルベロス達の技により重みを増した体を引き摺る如き敵を、されど赦さず。リコリスの鎖が更に幾重にもかの身を縛る。地へと引かれる彼へフラッタリーが大ぶりの灯籠を軽々と振るいその肉体を打ち据える。苛烈な攻めは火力を追求し標的を追い込むためにこそ。コールが構える長銃は炎の力を立ち上らせ、収束する光を撃つ。
 そう畳み掛けて行けば、皆の支えに徹していた盾役達にも余裕が出来る。加速の為に力を添え、かのひとの為に鎮魂を乞う──苦しみは短く少ない方が良い。
 その中で、斧を振るうイッパイアッテナが、次撃を試みる手をふと緩めた。同じくサロメは手を翻し、高揚の歌を今一度。
 揺らぐ様を見せぬ厳めしい黒龍人とて、重なる負傷ゆえの苦痛と疲労を隠し続ける事は難しい。握る拳に、踏みしめる足に、最早鈍いと表し得るまでに重たげな佇まいに、近づく限界を悟り得た。その様に、リコリスの炉が静まり行く。
「ケジメは自分でつけて来い」
 銃口を下へ向けたコールの声が友の背を押す。お前に出来ぬ筈が無いと。信頼は、明け行く空に熱を持ち響いた。

 ミゼットの目は、彼の背を見上げる。その眼前に立ちはだかる山のようなひとは、とてもとても大きく見えた。
 けれど彼女は呑まれ掛かる己を叱咤し、足に力を込める。
「アルバ、よく見ていろ。お前なら全部見えるだろ」
 斜め後ろへ声だけを遣って、視線は変わらず前へ。これより暫しは、彼の背だけを。
(「熱を、貴方に。……わたしの熱を」)
 紡ぐ黒糸が赤熱する。焦げて焦がれて白い肌へと添い、徴を刻む。
「大丈夫」
 魔女が微笑む──貴方を、信じている。
「貴方の傷は、全部、何でも、私が癒すから」
 円い金目が、弧を描く──貴方の苦痛も吐気も愁傷も、わたしのもの。

「母さんが、先に逝って待ってる」
 炎が盛る。龍を象るそれが、黒鱗に爆ぜる。
 伸べられる、大きな手。硬くて、それでも優しいてのひらの記憶に、満願の喉がひゅうと、微かに啼いた。
「……全部、俺が引き受ける。美墨の血は、絶やさない」
 背を追うばかりではもう、いられない。穏やかで強い手を離さざるを得なくなってそれでも、新しい家族を得られるくらい、大きくなった。
「だから、あとは安らかに」
 赤い瞳を、しかと見詰めた。微笑めない代わり、震えぬようにと声を抑えた。優しく雄々しく勇ましく。安心して任せて貰えるように。
「──おやすみ、父さん」
 祈りが届けば良いと、願った。


「傷は深くは無さそうだが……歩けるかい?」
「ああ」
 武装を解き顔を晒した満願は、はっきりと頷いた。ただ、サロメを見上げた白い顔には、未だ感情の色は見えない。
 戦いが終われば、辺りは静けさに包まれた。動ける者達はまず、ヒールを施す。仲間の心配を受けてフェルは取り急ぎ己の傷を癒し、大怪我を負った者が居ない様子である事を確かめ安堵した。

 最期を看取ったその場所に屈んだ満願は手を伸べて、土の上にきらめく氷の色した石を拾い上げた。
「それは……ご父君の?」
 リコリスの問いに青年は、頷きを。そうですか、と目を伏せ彼女は土へと手をかざした。デスバレスの残滓の全てを祓うべく、今一度炉を回す。
 青年の手が、石をそっと握り込む。その様をフラッタリーが、穏やかに目を細め見守っていた。彼女の手はやがて、己が胸へ。その懐には、未だ抱いたままの古い刀片がある。
 音の形を取っては減衰する言葉よりもずっと、形遺すよすが達は雄弁だ。
「──満願くんも大人になりましたわねぇー」
 だから、妨げず寄り添うのはこの声で無くて良い。いつからか見下ろす必要が無くなった青年の横顔へ、彼女はゆるりと笑み掛ける──彼も彼女も、憎悪を憤怒を咀嚼して火葬してようやっと、ここまで来たのだ。
「ああ。……フラッタリーの姉ちゃんも、あんがとな」
 青年が、微かに目を細めた。消化を終えるまでには、もう少し時が要る。
 そしてそれが済めば、抱えて行くのも置いて行くのも、最早。

「マンガン、これでどうだ?」
 手分けして周辺の治癒を終え、コールが問うた。塞げる傷を塞がれた様を見、手を尽くしてくれた仲間達へ、満願は頭を下げた。
 幻想が交じる景色は、元通りとは言えない。だがきっと、これで良いのだ。新たに生まれた今の形は、時を止めた如き此処がそれでも、生きて移り変わる力の証だから。
 そうある姿を確かめて安堵を吐いて、けれどミゼットは改めて、助手の手を引いた。
「アルバ、お前の祈りがもう一度欲しい。また此処が花で満ちるように」
 皆の手で、抉れた地形を戻し、萎れた草花を励ました。それでも疲弊した土や変質した野花がその記憶を呑み下すにも、暫しの時間を要すだろう。その冬が、長く厳しいもので無ければ良いと、彼女は思う。
 ただ、戦いの規模の割には被害の範囲は小さく済んだと言えよう。少し歩けば望み得る墓前は、戦いなど無かったかのように静穏そのものだった。
(「ご尊父がそう望まれたのやも」)
 イッパイアッテナは目を細める。見遣るのは、怯まず立ち向かった健気な青年の背。
 想いを堪えるに似て多くを語らず居るままの満願は、今一度墓石へと向き合った。悼まれるべき人々の存在を伝える石の碑は、変わる事なく静かにそこに在り続けた。
 だが、未だ瑞々しさを残す切り花は、遠からず朽ちてしまうのだろう。無常から目を逸らすに似て視線を落とした彼はしかしふと、花と共に押しつけられた種の存在を思い出した。季節が巡り空の色が深くなる頃、それを映したような花が咲くのだという。
 なら、と彼は小さな種達をそっと蒔く。過去を、想いを、慈しむよう。そうして瞳に柔らかな色を灯した青年は、頭を垂れて、目を伏せる。改めてまずは、此の土に眠る人々へ。
(「遅れたけど、ごめん。安らかに──」)

作者:ヒサ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 1
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