絡め取られて

作者:小鳥遊ちどり

●糸を断ち切るには
「……いやっ!」
 投げ捨てたスマートフォンの画面が、部屋の隅で青く光る。
 そこには、
『ミナちゃんの新居、見ーつけた』
 という文面が、引っ越したばかりのハイツの写真と共に。
「どうやって、あのストーカー男はこの部屋を……」
 あの男につきまとわれるようになってから、ミナの人生は一気に暗転した。誤解した恋人や友人に去られ、意に沿わぬ夜逃げのような引っ越しや転職までするハメになった。
 恐怖に打ち震えている間にも、スマホは続々と着信を知らせてくる。その文面は見なくても分かる。書いてあることはいつも同じ。
『警察に届けるなんてひどいじゃないか』
『君が逃げるから追いかけてしまうんだ。つまり君のせいってこと』
『君の綺麗な髪を今すぐ愛撫したい』
『運命に逆らわないで。僕と君は赤い糸で結ばれているんだから』
 いやだいやだいやだ。あんな男と赤い糸なんて絶対嫌。
 どこで出会ったかも分からない、爬虫類のような不気味な男。
「どうしよう……もう逃げられない」
 遠からず、あの男はまたミナにつきまとい始めることだろう。
 またあんな怖くて惨めな思いをするくらいなら、死んだ方がマシ……!
 涙で滲む視界の中、引っ越しに使った荷造り紐の残りが目に入り。
「……そうか」
 震える手を伸ばす。
「私が死んじゃえば……」
 その時。
「お待ちなさい」
 突然現れたのは、褐色の肌で黒い翼を持つ女性であった。
「王女レリの命により貴女を救いに来ました」
「え……?」
 誰何する間もなく。
 ドサリ。
「!?」
 床に投げ出されたのは、件のストーカー男であった。気絶して白目を剥いている。
 男を運んできたのは、天井に届くほど大きな白い鎧兜姿の女性だ。
「貴女を追い詰めたのは、こいつだろう?」
 白い女性に問われ、ミナが頷くと2人は。
「貴女は、貴女を虐げた男を殺し、自ら救われなければなりません」
「その男は、死に値する程貴女を苦しめたはずだ」
 ……そうだ。何度こいつが死んでくれればと思ったことか。
「私が……殺せるでしょうか?」
「あなたがエインヘリアルとなれば、この男を殺し復讐する事ができます」
 褐色の女性はスラリとナイフを抜いた。
 しばしの逡巡の後。
「……分かりました……こいつを殺す力が欲しいですから……!」
 ミナは荷造り紐を握りしめたまま目を閉じた。

 儀式めいた一時が過ぎ。
 ミナだったエインヘリアルが手にしているのは、闇が連なったような漆黒の鎖。
 そしてその足下には、その鎖で絞め殺された、ストーカー男の死体が転がっていた。

●ヘリオンにて
「シャイターンの選定により、エインヘリアルが生み出される事件が発生します」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は難しい表情で話しだした。
「シャイターンは、不幸な女性の前に現れて、その元凶である男性を殺す事と引き換えに、エインヘリアルとなる事を受け入れさせようとしています」
 この取引に応えて、女性がエインヘリアルとなると、男性を殺してグラビティ・チェインを略奪してしまう。
「皆さんに行っていただくのは、ストーカーに追い詰められている女性のアパートです。選定を行うシャイターンと護衛のエインヘリアルの2体を撃破し、可能ならば、新たなエインヘリアルが生まれるのを阻止してほしいのです」
 現場にはシャイターンと被害者の男性、ミナの他、護衛として白い鎧兜の騎士風のエインヘリアルが1体いる。珍しい女性型で、戦闘力は高く無いようだが油断はできない。
「このまま急行すれば、ミナさんがエインヘリアルとなる事を受け入れる直前に現場に突入する事が可能です」
 ミナは、ストーカー男への憎しみから取引を受け入れてしまうが、
「説得が成功すれば、拒否する可能性がわずかですが存在します」
 取引を拒否した場合も敵がミナを攻撃する事は無いので、説得に成功した場合は、2体のデウスエクスを撃破すればよいだけだ。
「説得が失敗した場合は……」
 エインヘリアル化したミナは、まずは男性の殺害を優先する。説得が不可能そうな場合は、男性を戦場外に助け出す必要があるかもしれない。
 また、ミナがエインヘリアル化すると、白騎士とシャイターンは、ミナを撤退させ、ケルベロスと戦うことを優先する。
 その際ミナは、戦闘には参加せず撤退を優先するので、彼女をも撃破するには、何らかの作戦が必要となる。
「ミナさんの説得は、彼女としては精一杯逃げたわけですし、精神状態もタイミングもギリギリですから、非常に難しいと考えられます。また、説得が無理と判断した際、ストーカー男を助ける事も簡単ではないでしょうね」
 エインヘリアル化したミナは戦闘に加わらないので、説得を諦めて戦闘に集中する……という選択もあるかもしれない。
 また、ミナのエインヘリアル化への決意は、男への復讐が原動力となっている。もし、彼女が決意する前に男が死亡した場合は、取引が行われる事は無いだろう。
「成すべきことは多く、全ての課題をベストで進めることは難しいかもしれません……まずは皆さんで相談なさって、よりよい方針を選択なさってください」
 セリカは硬い表情を崩さないまま一礼した。


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)
イルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)
スノードロップ・シングージ(抜けば魂散る絶死の魔刃・e23453)
二階堂・たたら(あたらぬ占い師・e30168)
ミミ・フリージア(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e34679)
天喰・雨生(雨渡り・e36450)
田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)

■リプレイ


「私が……殺せるでしょうか?」
「あなたがエインヘリアルとなれば、この男を殺し復讐する事ができます」
 褐色の肌の女性が抜いた大ぶりのナイフを、ミナはじっと見つめる。
 心折れたミナには、刃物の鋭い輝きは力の表出のように感じられた。刃の力に身を任せれば、この男を抹殺できる。楽になれる。力を得ることができる……。
 と、その時。
 バキイッ。
 狭い部屋に破壊音が響き渡った。
 振り向けば玄関がぶち破られ、8人の男女が勢い良く飛び込んできていた。
「ちょっと待った! 嫌いな人と添い遂げるようなモンですよそれ!」
 ミナとシャイターンの間に割り込んで叫んだのは、田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)。
 ミナとデウスエクス達が驚き竦んだ一瞬に、二階堂・たたら(あたらぬ占い師・e30168)は気を失ったままのストーカー男を確保して。
「おぉっと動かないでねぇ、儀式の前に生贄が死んでしまいますぜ? ちょいと話がしたいだけさぁ。お互い、無駄死は避けたいのでは?」
 ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)の手も借りて、ミナの手の届かない位置へと、じりじりと移動させる。
 ルースは男を移動させつつ、牽制するようにミナとデウスエクスたちを睨み付け。
「ミナよ、アンタが自ら手を汚さなくて済む復讐方法があると言ったら……どうする?」
 え? というように、涙で潤んだミナの目が見開かれた。
 その表情を見て、スノードロップ・シングージ(抜けば魂散る絶死の魔刃・e23453)は、話を聞かせるチャンスを逃すまいと、すかさずハッタリ含みでまくしたて始める。
「今住民避難のために、警察を呼んでマス。そこに転がっている男をそのまま警察に、逮捕という名の保護をさせマショウ。家宅侵入はアタシタチが証言デキマスシネ。そこに転がってるスマホの画像と合わせれば確定逮捕デショウ!」
 続いてシィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)も、
「おねーさんがソイツに復讐するために殺人なんて罪を犯す必要なんてないのデス! しっかりと警察に捕まえてもらって二度と同じことができないように、しっかりと罰を与えてやればいいのデス! 刑務所の中で犯した罪を償う生活を延々と遅らせればいいのデス、ブタ箱行きってヤツデス! ボクたちも協力は惜しまないのデス! ボクたちはおねーさんの味方デスよ!」
 まずは警察にも信用の厚いケルベロスの立場を生かし、ストーカー男を確実に逮捕してもらおうと提案し、エインヘリアルになるのを思いとどまるように説得する作戦である。
 ミミ・フリージア(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e34679)は、座り込んだままのミナの顔を、同じ高さから覗き込んで。
「殺す事で本当に救われるのかの。殺す価値もないもののために手を汚した後、こやつらの仲間になってしまえば、そなたに自由はないのじゃ。わらわ達がきたからには、この男も相応の裁きを受けさせることができる」
「相応の……裁き」
 色の悪い唇が微かに動いたが、ミナの目はうつろなまま。
「そいつらの手を取るので本当にいいの?」
 デウスエクスたちをぞんざいに指したのは天喰・雨生(雨渡り・e36450)。
「そいつらはあんたを駒として欲しいだけ。その手を取れば人にはもう戻れない。ストーカーがいなくなったら取り戻せるはずの穏やかな生活も、エインヘリアルになれば無いんだよ。そうなれば命だって残らない、僕らが狩り取ることになるから」
 その手にギラリと光るは愛刀。
「これまで沢山我慢して結果がそれじゃ勿体ないと、僕は思うけど。ストーカーを警察に突き出すだけで、穏やかな暮らしが取り戻せ……」
「……それだけで取り戻せるって、保証できるの?」
 雨生の言葉を、ミナの低い声が遮った。
「警察だって、現状でできることはしてくれたわ。接近禁止命令はとっくに出てるし、ここに逃げるのにも力を貸してくれた。それでもコイツはこの部屋をつきとめたのよ?」
 充血した目には怒りと、そして絶望が籠もっている。
「法律には限界がある。この男は狡猾だから、決定的な脅迫や暴行はしていない。だから、警察も接近禁止命令以上のことができなかったの。そこに住居侵入が加わったたところで、収監されてもほんの数ヶ月から長くても2年程度だわ」
 ミナはぐっと拳を握って。
「下手すれば罰金だけで済んでしまうのよ。刑罰を受けた後のこいつが、私のことを放っておくと思う?」
 ――そうだった。
 ケルベロスたちは唇を噛む。
 ストーカー規制法は、禁止命令に違反しても2年以下の懲役または200万円以下の罰金。住居侵入罪、3年以下の懲役または10万円以下の罰金。
 確かに、男を法の力でミナから遠ざけられる時間は短い。
「刑務所から出てきた後、つきまといが酷くなったらどうしてくれるの? 絶対逆恨みするわよ、そういう男よコイツは。そうなったら、あなた達が私のことを一生護ってくれるわけ? それともこの男を死ぬまで見張り続けてくれる? あなた達がこの男を殺してくれれば、一番いいんだけど!!」
 ……拙い。
 ミナが激高している。
 警察の手を借りて、それでもこの状況なのだから、彼女にとっては、ケルベロスたちの提案が最善の策とは思えないのだろう。
 説得材料をもっと細部まで考えて用意してくるべきだったかもしれない。法の裁きの元、男をどの程度ミナから遠ざけておけるか、その間にミナをどう保護し、出所後の男と完全に接触を断つための案等々、もっと具体的に……。


「そっ、それは収監されてる間に絶対何とかしますんで……っ」
 それでも説得を諦めることはできないと、マリアが慌てて口を開いた。
「殺したらグラビティチェインで一生一心同体状態、今まで貴方の味方をしていた人も全て貴方の敵に、彼にしたら邪魔者全部排除して恋を成就と同じ事やないですか? こない心底気持ち悪い人の願いを叶えるような事止めた方がええです」
 ルースも頷き、
「殺せばこの男は“アンタに殺された男”として永遠に存在し続ける。それでもその華奢な手にこの男の残滓をこびり付け、殺し続ける存在として生きたいと言うなら止めぬ」
 ストーカー男を殺すことで、むしろ囚われてしまうのではないか、という訴えに、ミナはわずかに身震いしたが、
「それはない」
 冷徹な声が響いた……ここまで沈黙を守っていたエインヘリアルの声だ。
「エインヘリアルになれば、人間と違ってグラビティ・チェインを体内に内包し続けることはない。また、人間のように殺した者について思い煩う精神は持たない」
「そう……なの」
 ミナはホッとしたように白鎧の巨躯を見上げ……しかし、そのミナを引き戻そうと。
「ミナさん! こんな人の命を奪うためだけに、これからまた取り戻せるはずの人としての幸せを、なげうつ必要なんてありません。たくさんのものを失って、きっと、すごく辛かったと思います。そんな中、自分にできることを精一杯やってきたミナさんは、とっても、強いひと」
 イルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)が必死に彼女の名を呼んだ。
 こうなっては情に訴えるしかない。
「ここまでたくさん頑張りましたよね、だからあとは、わたしたちがそれを助けます。このデウスエクスからだけじゃない。あなたを苛んできた、すべてのものから……ね? まだ、終わりなんかじゃないんです。だから諦めないで、掴みましょう。あなたの、幸せな未来を」
「デウスエクスの誘いという異常事態に縋ろうとしてるんじゃから、相当苦しいんじゃろうのう……本当の意味でわかってやれぬのは残念じゃ」
 ミミも悲しげに。
「しかしわらわ達はその苦痛を相談できる身近な存在になりたいのじゃ。新しいスタートのためには、人のままでいなければならん。見知らぬデウスエクス達の言う事をそのまま聞いては危ないと思わんかのぅ」
 ふふふ……と、低い含み笑いが聞こえた。
 一体誰が……と、見回すと、笑っているのはミナであった。
「あのね私は、今度こそ、と一大決心して逃げたところを捕まったのよ。新しいスタートなんて考えられるわけないでしょう? 私はこの男の奸計のせいで全てをなくしたの。婚約寸前だった恋人も、長年の親友も、やりがいのある仕事も……」
 涙に塗れた……けれど、ギラギラと怒りに赤く輝く瞳が、ケルベロスたちを睨めつける。
「もう心底疲れたの! この男を社会から抹殺しない限り、生きていける気がしないの! あなたたちの言うことからは、この男が存在しない未来が、ちっとも見えないわよ!!」
 ひび割れた声。
 そして。
「決めたわ、私は力を得て生まれ変わる!」
「ミナ!」
「ミナさん!!」
 止める間もなく、シャイターンの刃めがけ、自ら身を踊らせた。


 ああ――彼女を説得するには、もっと即効性のある具体的なアイディアを用意しなければならなかったのか。そこまで彼女は追いつめられていたのか……。
 ケルベロスたちは、シャイターンのナイフに貫かれ、床に崩れ落ちるミナをなす術なく見つめながら、後悔と虚無感にさいまなれていた。
 だが。
 思い煩っている暇はない。
 ミナの遺骸からたちのぼるかのように、鎖を手にした女性型インヘリアルが現れたのだから。
 ミナだったインヘリアルは、実体化したかと思うと、今やベンテールに隠された視線を、後方に隠されるように寝かされているストーカー男に向けた。
「!」
 いち早く我に返ったのはたたら。男を乱暴に担ぎ上げると、破った玄関へと踵を返す。
「こうなったら――!」
 せめて男を殺させまいと、イルヴァが持ち前の素早い身のこなしでバスターライフルの銃口を上げ、ミナの横顔めがけて光線をぶっ放す。
 しかし銃撃によろめきながらも、ミナは男を運ぶたたらに長い腕を伸ばし――。
「レッツ、ドラゴンライブ!」
 それを、ギターを激しくかきならし、高らかに歌いながら体を張って遮ったのは、シィカ。
「ロックにオンステージなのデスよー!! イェーイ!! レッツ、ドラゴンライブ……スタート!!……うあっ」
 巨体となったミナの怪力に、シィカもはねとばされてしまったが、たたらはかろうじてその手を逃れ、アパートから飛び出していった。
 こうなっては、最低でもこの場でグラビティ・チェインを奪われることだけは避けたい……そして、できればミナを。
 雨生が愛刀をミナに向けた。その背にはマリアが、
「底上げは任してください!」
 ロッドから戦闘能力を高める電撃を浴びせかける。
 しかし。
 ガキッ!
 白鎧が、美しい軌跡の斬撃を止めた。
 インヘリアルは鎧を凹ませながらも、ミナを振り向き。
「ここは逃げろ。あの男を殺す機会は今後もあるだろう」
 冷静に告げた。
 ミナは一瞬の逡巡も見せずに頷き、破れた玄関へと巨体を踊らせる。
「逃がさん」
 ルースが圧縮したエクトプラズムの霊弾を投げつけようとしたが、シャイターンがナイフに映し出したトラウマのせいで狙いがずれ、ミナは嵐のように部屋を脱出してしまった。
「お、追わねば! 離脱させるわけにはいかぬ……菜の花姫、皆のフォローを頼むぞよ!」
「ストーカー大変なのはわかりマス。 アタシもこないだストーカーみたいなメンヘラ夢食い宿敵倒したばっかりダシね……でもこうなったら叩きkillしかナイヨ!」
 ミミとスノードロップが慌てて追おうとするが、
「いや、今はこいつらをやるのが優先だ」
 マリアの手当をうけながら、ルースが2体のデウスエクスの方を顎で指し、冷静な……しかしどうしても悔しさがにじみ出る口調で止めた。
 そこに息を切らして戻ってきたたたらも、
「男はちょいと手を出し難い所に預けてきたから、とりあえず大丈夫だよ」
 と、愛槍を取り出した。
 ミナを逃がすのは悔しいが、状況を鑑みれば、更にミナのような新たなエインヘリアルを生み出す力を持つこの2体を逃がすのはもっと拙いことは確かで。
「そうですね……ミナさんとはまた遭遇する機会もあるかもしれません。まずはこの2体を」
 ひとつ深呼吸して気持ちを切り替えたイルヴァが、シャイターンめがけ氷呪文を唱え始める。
「――討ち果たすは闇をこそ。凍て尽くすは影をこそ。白氷の波濤、凍河の鋭爪、疾く捉え、尽く穿て!」


 息詰まる攻防が数分ほど続いた頃。
 ザクリ。
 エインヘリアルの斧の一撃が、雨生の腕をロングコートごと深く裂いたが、彼は痛みとショックを堪え。
「血に応えよ――天を喰らえ、雨を喚べ。我が名は天喰。雨を喚ぶ者」
 雨の呪いをエンヘリアルの内へと撃ち込んだ。
 水気と魔の波動が巨体をよろめかせ、その隙を逃さずシィカが横手から流星のような跳び蹴りを見舞い、転倒させた。
 転げる巨体をかいくぐってルースがその懐に入り、
「何処が痛いんだ。此処か、其処か。ああ、言わなくていい。全部知っている」
 傷口とツボを的確に捉える殴打を見舞う。
 相棒を救おうとナイフを掲げるシャイターンには、たたらの禁縛の呪文が襲いかかって動きを妨げ、スノードロップは、
「とっておきを見せちゃるデース!! わが声に従い現れヨ!! 抜けば魂ちる鮮血の刃!! ダインスレイブ!!」
 紅の魔剣を召還し、青息吐息のエインヘリアルへと深々と突き立てた。
「ぐ……」
 生き血を吸いつくすまで鞘に収まることのない魔剣は、思う存分敵の血を味わい……エインヘリアルは白い光となって消えた。
 残るは、王女レリの使命を帯びているらしいシャイターンのみ。
 マリアが献身的に破壊力を高める電撃を送り、それを受けた攻撃陣は、今夜の鬱屈をぶつけるかのように残った敵へと殺到していく。
 シィカはウィルスカプセルを褐色の肌に埋め込み、イルヴァはナイフを狙い澄ましたバスタービームの一撃でたたき落とした。テレビウムを引き連れたミミは、
「わらわの力見せてやるのじゃ。こんなのはどうかのう」
 強化した猫のぬいぐるみを投げつけて敵の動きを鈍らせる。
 集中攻撃を受け、また折に触れバッドステータスを与え続けられてきたシャイターンには、もう戦う力は残っていない。
 ルースのチェンソー剣がうなり、たたらの愛槍・ヘダキィバルが稲妻のように突き入れられて――。
「……使命は果たした」
 そんな呟きを残して、シャイターンもどろりと溶け消えた。

 敵も、主も消えた荒れ果てた部屋。
「……ストーカー男はどうしたの?」
 仲間の悔しげな問いにたたらは。
「近所の交番にぶちこんできた……事情説明に行かなきゃ。面倒くさいなあ」
 ミナを救えなかった今、全てが面倒で厭わしいのは皆同じ……。
 だが。
 ――いつか、きっと。
 また邂逅するだろう……そんな気もするのだ。

作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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