失意の裏を穿つ剣

作者:幾夜緋琉

●失意の裏を穿つ剣
「……う、うぅ……ぐすっ…何よ……いつもいつも……嫌らしい眼で見てきて……」
 埼玉県のビジネス街にあるビル。
 そのビルの最上階、半分ほどの灯が消えた周りのビルを眺めながら……泣いている女性。
 当然周りに他の人はおらず、彼女一人だけ……それがしくしくと、彼女を更に涙で濡らす。
 ……そんな彼女の下に、そっと近づいてくる者……。
「……大丈夫ですか?」
 優しく声を掛けてきた彼女にはっ、と振り返る。
 騎士の様な姿をした女性……見慣れない姿ではあるが、そんな彼女の優しい声掛けに、泣いていた女性は。
「私の上司が……セクハラと、パワハラをしてくるの……嫌らしい眼で見てきて……お尻を触ってきて……嫌って言うと、左遷するぞ、とか言い出して……」
 と、ぽつりぽつりと訴える彼女。
 そんな彼女に、その騎士の様な姿の、シャイターンの女性は。
「大丈夫です……私は、王女レリの命により、あなたを救いに来ました。あなたは、あなたを虐げた男を殺し、自ら救われなければなりません」
 ……唐突の言葉、そして……別の女性……真っ白な騎士の装備に身を包んだ巨躯の女性が、その脇に抱えてきたのは……その、セクハラ・パワハラ上司。
 気絶した彼を、彼女の前に放り投げると。
「あなたがエインヘリアルとなれば、この男の復讐し、殺す事が出来るでしょう」
 ……その言葉に、こくり、と頷いた彼女……そうすると、シャイターンは、抱き留める様にして……そっと、彼女の命を奪う。
 すると彼女は、元の女性の姿形に似た、2m半程度の体格へと成長。
 そして……彼女は、自分へセクハラ・パワハラを及ぼしていた男性を、殺害するのであった。

「ケルベロスの皆さん、集まって頂けましたね? それでは、早速ですが、説明させて頂きますね」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロスに一礼すると共に。
「今回、シャイターンの選定によって、エインヘリアルが産み出される事件が発生しました。どうやらシャイターンは不幸な女性の前に現れて、その不幸の原因だった男性を殺す事と引替えに、エインヘリアルとなる事を受け入れさせようとしている様です」
「この取引に応え、女性がエインヘリアルとなると、男性を殺してグラビティ・チェインを略奪してしまうのです。皆さんには、この現場へと急行し、選定を行うシャイターンと護衛のエインヘリアルの二体を撃破し、可能であれば新たなエインヘリアルが生まれるのを阻止して戴きたいのです」
 そして、更にセリカは詳しく。
「今回、現れたのは埼玉県のとあるビルの屋上です。夜になり、ビルの中には残業している人達は居るものの、多くは帰宅している頃の時間になります」
「屋上に居るのは、シャイターンと被害者の男性、そして導かれている女性と、その護衛として白い鎧兜の騎士風エインヘリアルが一体付き添っているようです。珍しく女性型のエインヘリアルで、戦闘力は高くない様ですが……決して油断は出来ません」
「幸いこの導かれる女性がエインヘリアルとなる事を受け入れる直前に、皆さんは現場へと突入可能です。女性は目の前の男性への憎しみなどから、エインヘリアルになる事を受け入れるでしょう。ですが、ケルベロスの皆さんの説得が成功すれば、導きを拒否し、エインヘリアル化を防ぐ事が可能です」
「エインヘリアルにならなかった場合でも敵が女性を攻撃する事は無いので、説得に成功した時は、二体のデウスエクスと戦って撃破出来れば撃破は成功……逆に説得に失敗すれば、女性も倒す対象になってしまいます」
「エインヘリアル化した女性は、まずは男性の殺害を優先します。説得に失敗しそうな場合、男性を先に助け出す必要があるかもしれません」
「又、女性がエインヘリアル化すると、白い鎧兜のエインヘリアルとシャイターンは彼女を撤退させ、ケルベロスと戦う様です。撤退しようとする女性エインヘリアルを撃破するには、何らかの作戦を立てる必要があります」
 そして、最後にセリカが。
「珍しい女性型エインヘリアルとシャイターンの起こす事件……それに導かれる対象も女性である事から、これまでとは違う派閥のエインヘリアルかもしれませんね……」
 と、ぽつり呟くのであった。


参加者
青葉・幽(ロットアウト・e00321)
千歳緑・豊(喜懼・e09097)
東雲・憐(光翼の戦姫・e19275)
カグヤ・ブリュンヒルデ(ドリルキュリア・e60880)
トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)
カミュ・アルマデル(だったモノ・e61762)
ソフィア・フォーサイス(宵の境界・e63889)
アルベルト・ディートリヒ(昼行灯と呼ばれて・e65950)

■リプレイ

●涙の影に
 埼玉県某所にある、ビジネス街の一角にあるビルの屋上。
 そこに涙を零す女性と……利用するシャイターンが現れるという話を聞いた、ケルベロス達。
 ……そのシャイターンの特徴と、指示をした者の話を聞いた青葉・幽(ロットアウト・e00321)が。
「白兜。それにレリ『王女』の遣いですって? ……まさか、アイツ、本当に……」
 拳をぐっと握りしめる幽、その肩を軽く叩く東雲・憐(光翼の戦姫・e19275)。
「……そんなに気負わなくていい。私がサポートする。存分に暴れれば良い、幽ちゃんは……そっちのほうがらしいからね」
 義妹だからこそ、幽の内心が穏やかではないのは理解出来る……だから、逆に無理して仕舞わないか、も。
 それに対して幽は。
「大丈夫。アタシは大丈夫だから」
 と、敢て気丈に振る舞ってみせる。
 そんな二人の会話を聞きつつ、ソフィア・フォーサイス(宵の境界・e63889)はビルの下から屋上を見上げ。
「ちらほら、灯がついているな。まだ仕事中の人も多いという事か……」
 少しずつ、少しずつ……灯は消えていくものの、まだまだ残業している人は多い様である。
 そして……そんな残業している人達の頭上で激しい戦いを繰り広げる必要がある訳で……。
「余り騒ぎ立てる事も良しとは出来ないな……取りあえずソフィアには、キープアウトテープを頼みたい」
「了解」
 アルベルト・ディートリヒ(昼行灯と呼ばれて・e65950)に頷くソフィア。
 そしてビルの中へ入るとともに、上層階へ階段を登っていくケルベロス。
「それにしても、この上司とか言う男、本当に救いようがありませんわね」
 と、肩を竦めるカグヤ・ブリュンヒルデ(ドリルキュリア・e60880)。
 それにトリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)も。
「うんうん、本当だよね! パワハラにセクハラ……やっちゃいけない事のフルコースだよね!」
「ええ、やはり上司という立場を利用して卑劣な悪行三昧、と」
 と、二人の言葉に対して、ため息一つつきつつの燐が。
「全くだ。私も上司のパワハラなんかには、昔手を焼いたからな……だから、彼女の気持ちは解る。だが、人を殺せば戻れなくなる。人の道から落ちる前に、何tおかしてあげないと」
 唇を噛みしめた燐、そしてカミュ・アルマデル(だったモノ・e61762)と千歳緑・豊(喜懼・e09097)も。
「そうだ。この手の上司は許せんが、そこにつけ込む輩はもっと許せん。彼女が人間を辞めては困るので、何とか説得せねばな」
「ああ。人殺しは非とされるが、デウスエクス殺しは是。さぁ……そろそろ屋上だ、みんな、準備はいいかい?」
 と仲間達へ確認。
 ……そしてケルベロス達はビルを駆け上がり……屋上のドアを蹴破り、屋上フロアへと突入するのである。

●嫌いなものを殺す
 そして、ケルベロス達が踏み込んだビルの屋上。
 ……蹴り破ったドアの先には、白い鎧兜のエインヘリアルとシャイターン。
 彼女の目の前で跪いている女性と……地面へと転がされた、中年男性。
 正しく、彼女は白い鎧兜のシャイターンによって、今導かれようとしていた、その瞬間。
 ……ただ、ケルベロス達の突然の登場により、ちょっと驚愕した様で、ケルベロス達の方をじっと揺れる瞳で見つめている。
 そんな女性への対応を前に、すっ、とソフィアは蹴破ったドアの所にキープアウトテープを張って封鎖。
 そして早速、カグヤは揺れる瞳の彼女に向けて。
「辛かったですわね。でも……その男の命に、貴女の人間としての生を終わらせる価値はありませんよ」
 投げかけられたその一言に……えっ、と目を僅かに見開く彼女。
 更に幽、豊の二人が。
「そいつはエインヘリアル。確かに力を与えてくれるかもしれないけど、力を受けたら最後……貴女は人外の存在となり、私達人類の敵になるって事よ?」
「うん。今がとても辛いのだよね、先など考えもしないくらいに……だからこそ、君の残りの人生の全て……未来の全てを彼に使うべきではない。彼の為に人間を辞めるだなんて、それこそ、その男に人生の全てを捧げるようなものじゃないか? その男の為に人類の敵になるなんて、割に合わないよ」
「そうよ。アンタ、本当に良いの? コイツを殺したら、アンタは被害者じゃなくて加害者になってしまう。それで良いの? アンタにだって家族や友人が居るでしょ? そんなになったら、皆がどんな顔をするか考えてみてよ」
 幽は隣人力を使い呼びかけるのだが……その声音は多少厳しい。
 ただ、カグヤが。
「エインヘリアルとなれば、貴女はその手で家族、友人を殺す存在になってしまいますわよ? とはいえ、現状を変える必要はあります。法的にも社会的にもその術はありますわ。その為に、必要とあらばわたくし達が協力いたします。どうか、人間を諦めないでくださいませ」
 と優しく声を掛ける一方、ソフィアは務めて冷静に。
「そもそも、一時の情に任せた結果で、その後がどうなってもいいのか? 自分以外の誰かが苦しんでもか? ……それでは、ただの殺人鬼と同じだ。己の中で正義化していても、いずれは大きな綻びとなる。変えたいのなら、己の思いを、曲がらぬ意志を……言葉として、反論出来ぬよう、ぶつければいいのではないか? そうすれば、その言葉は己の剣となり盾となる。それに、心配しなくていい。私達ケルベロスは、貴女の味方なのだから」
 ……ケルベロスの言葉に、その視線は揺れていて……まるで小動物の様。
 そんな彼女に少しずつ、近づく影。
 もう、後一歩の所まで近づいてくると……そっと抱きしめて、接触テレパスを発動。
「お姉ちゃん、哀しいのね? でももう一人じゃない。一緒に泣く人もいるし、受け止めてくれる人も居るよ? ね……一緒に泣こう?」
 そう言いながら……目尻より涙を零すトリューム。
 そんなケルベロス達の説得に、エインヘリアルとシャイターンは冷たい視線と共に……武器を構える。
 ……そんな二人に対し、豊が。
「待たせたね」
 と、声音は何処か嬉しそうに構える。
 そんな中、足元に転がっていた中年男性は、アルベルトがいつの間にやら、自陣側へと運ばれていた……何度か蹴られながら。
 流石に気絶していたその男性も目を覚ますのだが……そんな彼へアルベルトは軽く頭を更に足蹴にしながら。
「こんな下衆野郎、あっさり殺さず法に訴え、社会的、経済的にじっくり嬲り殺しにしてやれ。これだけ悪質な奴なら、他にも被害者がいる筈だ。彼女等と組むのも効果的だろう。それに助けてくれる者も探せばいくらでもいるだろうし、俺も助言とか費用とか、出来る事は協力する。労力が必要だが、お前なら出来る。それに……」
 とそこまで言うと、上司の髪を引っ張りながら。
「こいつから搾り取った金を何に使うか考えるのも悪くはない。親兄弟や智己を捨てて、人類の敵になるよりはずっといいだろう?」
 と、中年男の酷い扱いを見せつけるアルベルト。
 更にカミュもプラチナチケットと、高級そうなスーツを着て、蹴破ったドアの中から登場。
「話は聞かせて貰った。今迄君を辛い目に逢わせてきた上司は、責任を持って処罰する。君が法的手段に訴えてもいい」
 務めて冷静な言葉で、会社の重役を演じるカミュ……と、それに彼女の眦から、一筋の涙。
 そして燐が。
「気づかなくて悪かった。随分とつらい思いをさせてきてしまったようだね。だけど、こいつを殺してしまったら罪を償わせる事も出来ないだろう? だから生かして、君への謝罪をさせる、必ず」
 と言うと……彼女はトリュームの胸の中で。
『……ありがとう……ございます……』
 絞り出す様な声で、頷く彼女。
 真摯、かつ目の前で男性への酷い扱いを見て、幾分気が晴れた様で……エインヘリアル化は避けられた模様。
 そして……白い鎧兜のエインヘリアルとシャイターンが。
『邪魔です』
 一言を言い放つと共に、豊へ接近……鉾と斧の様な物を、左右から連携して叩き込んでくる。
 その一撃をぐっと堪えた豊……直ぐにアルベルトが前衛列にスターサンクチュアリでBS耐性を付与し回復する。
 続けて豊が。
「じゃあ、やろうか」
 と短く気合いを込めて、エインヘリアルへ近接。
「フォロー」
 と『猟犬』を放ち、噛みつかせると、更に幽と燐の二人は息の合った連携で。
「突っ込む! ゴメン、援護お願い」
「ああ!」
 と短く声を掛けて、幽がフレイムグリード、燐はビハインドと共にダブルバスタービームとポルターガイスト。
 そしてトリュームのボクスドラゴン、ギョルソーがボクスブレスで炎に焼く。
 ……と、前衛陣が行動一巡した所で、続くソフィア。
「私からの贈り物だ……頑張って耐えてくれ」
 と『Curse gifts』を放つと、続くカミュが稲妻突き。
 更にカグヤのハウリングフィストで殴りつけていく。
 ……彼女を弄び、騙そうとした事に対する怒りと共に、一撃、一撃を確実に必中させていく。
 そして次の刻、エインヘリアル達の攻撃に変わり無いものの、燐はディフェンダーと共に壁となる。
 無論、食らったダメージはすぐにアルベルトがスターサンクチュアリで回復。
 その一方、ソフィアのドラゴニックミラージュと、カミュの戦術超鋼拳、そして彼女へ。
「ごめんね、ちょっと待ってて」
 と短く声を掛けつつ。
「ワタシのこの手が光って唸る! アンタを倒せと轟き叫ぶ! オープン・ユア・ハート!」
 と『ハートキャッチ!グラブる!!』の一撃を叩き付ける。
 ……吹き飛ぶエインヘリアル、そして豊のクイックドロウ、幽と燐が、同時にキャバリアランページを放ち……エインヘリアルは崩れ墜ちる。
 残るはシャイターン一体……ケルベロスら全員で包囲し、逃げ道を無くす。
 敵の攻撃を上手く誘い込みながら……反撃を確実に叩き込んで行く。
 そして……数分熾烈な攻撃が続き……更に数分が経過。
 シャイターンの身体に、かなりの傷跡が遺り……息も荒い。
 そんなシャイターンの動静を見て、幽が。
「合わせるわ、燐お姉ちゃん。次で決めちゃって!」
 と声を掛け、そして幽が。
「肉を切らせて骨を断つ! リミッター……強制解除!」
 『デモリッションオーバードライブ』の一撃、そして連携した燐が。
「これがお前の、終焉だ! 塵も残さず消えて無くなれえっ!!」
 と『終焉の衝撃』を叩きつけると……シャイターンは、完全に崩れ落ちたのであった。

●傷つけし
 ……シャイターンとエインヘリアルを倒したケルベロス達。
 そして、その場に残るは彼女と、上司。
 ……目の前で繰り広げられた光景に驚き、完全に青ざめている上司に対し、再度プラチナチケットを使ったカミュと燐。
 中年男の襟を掴み上げ、二人の目の前へ正座させて。
「君の下劣な行いは白日の元にサラされた。君は我が社の恥だ。最早、どの様な言い訳も通用しないぞ」
「そうだ。もうお前に次は無い」
 と、二人の言葉と共に、彼の目の前に置かれたのは……紙と辺、そして……封筒。
『こ、これは……』
 ……封筒には『辞表』の文字が書かれており、もはや明白。
「最後位潔くしなさい……書かないのなら、懲戒処分になるだけだがな」
 とカミュの言葉にアルベルトも。
「そうだ。お前の地獄はこれからだからな……楽しみにしてろよ」
 と、敢て耳打ち。
 そんな男性陣に詰め寄る一方で、女性に対しては幽とトリュームが親身に接し。
「パワハラとかする輩ってね。実は自分が弱いって自覚があんの。だから自分に噛みついてこない相手を選んで攻撃するのよ。標的にされない為には毅然とした態度を取る事。然るべき所に相談する事。要するに、戦う意志を持つ事が大事よ」
「そう、お姉ちゃんはこれから戦うの。大丈夫……絶対に勝てるからね」
 と、励ましの言葉を掛けていく。
 そして中年男は辞表を書き、彼女は……ケルベロス達に頭を下げ、一旦は会社を去る。
 そんな二人を眺めながら、ソフィアは。
「私が人を殺めることを諭すなんて……アホらしいな。私は、主人を殺めたというのに……」
 と……そっと一人呟くのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 1
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