●ある幸せの終わり
がた、と何かがぶつかる音がして、膝を抱えたその女性は身を竦ませた。
部屋着らしきシンプルな服に、片方無くなったサンダル。廃工場の片隅には、どうやっても合わない恰好。
「ごめんなさい、ごめんなさいぃ……!」
そこには誰もいないというのに、染みついた癖のまま謝罪を口にする。
何が悪いのか、何に謝っているのか、そんなものは本人も分かっていないのだろう。
恐らくは、経験則。そうやってうずくまって耐えていれば、いつか嵐は過ぎ去っていく。
すまなかった、そう謝って。
君が居ないと生きていけない、そう泣いて。
愛している、そうやって抱き締められて、そして。
「……ごめんなさい、私、わたし……!」
女が涙を拭うために顔を上げると、手のひらほどのガラス片が視界に入る。月光を反射するその表面には、ぐずぐずと泣く惨めな女が映っていた。
泣き腫らした目元には、青黒い痣。一度服を捲れば、その下に似たようなものが幾つも見つかるだろう。
――それでも彼を愛していた。
抱き締められれば、全て癒されるような気がしていた。
それで良いと思っていた。幸せだった。なのに。
「……もう、疲れちゃった」
彼女は逃げ出してしまった。
嵐はきっと激しさを増しているだろう。もう帰れない、探しているかもしれない、見つかってしまうかも知れない。
恐怖に突き動かされるように、彼女はガラス片に手を伸ばす。
手首か、首筋か、裂いてしまえば、それで終わりに――。
ぱき、と音を立てて、ガラス片は目の前で踏み割られた。
「ヒッ――!?」
見上げれば、仮面をした褐色の肌の女性が、そこに。
「王女レリの命により、あなたを救いに来ました」
「……え?」
「あなたは、あなたを虐げた男を殺し、自ら救われなければなりません」
「わたし? 私が、私を?」
呆気にとられている内に、もう一人が廃工場の扉を潜ってくる。純白の鎧、そして足音が示すように、人を超える巨躯。
「あなたがそうしているのは、弱いから」
そう言って、その純白の巨人は抱えていたものを投げて寄越した。
どさり、と音を立てたのは、気絶した『あの人』。
「エインヘリアルとなれば、この男との立場は逆転する事になるでしょう」
どうするのか、という問いに、彼女は頷いて返した。
シャイターンの持つ刃が走り、彼女は眠るようにして倒れる。
次の瞬間、事切れた弱々しい肉体に代わり、新たに生まれたエインヘリアルが立ち上がる。
「ああ……」
恍惚の声。広げたその両腕は、何本もの鋭い棘で覆われていた。
「今度は、私が抱き締めてあげる、ね」
彼女は眠ったままの男を胸に掻き抱く。呻き声、苦し気な吐息、溢れ落ちる熱い液体。愛してる、と彼女は囁いた。
●抱擁の君
「皆さん大変です! エインヘリアルの新勢力が動き出しましたよーっ!!」
ハンドスピーカーを構えた白鳥沢・慧斗(暁のヘリオライダー・en0250)が、ケルベロス達にそう呼びかける。現れるのは、シャイターンとエインヘリアル。その二体は不幸な女性の前に現れて、その不幸の原因だった男性を殺す事と引き換えに、エインヘリアルとなる事を受け入れさせようとしているらしい。
「今回の女性は、その……旦那さんのDVにずっと悩まされてきた方のようです。予知からすると状況は既に限界……自殺さえ考えるほどです」
それ故に、女性はその提案を容易に受け入れてしまう。人としての生を終え、エインヘリアルと化すのだとしても。
「皆さんには、この現場に急行し、選定を行うシャイターンと護衛のエインヘリアルの2体を撃破し、可能ならば、新たなエインヘリアルが生まれるのを阻止してほしいのです」
女性は現在、夫の暴力から逃げ出し、偶然行き着いた廃工場に身を潜ませている。そこにシャイターンと白い鎧兜の騎士風のエインヘリアル、そして気絶させられた女性の夫が訪れる。
「このエインヘリアルは珍しい女性型です。戦闘力は高く無いようですが油断はできません」
シャイターンはリバルバー銃相当の武器を得物とするほか、幻覚作用をもたらす砂の嵐を、敵群に解き放つような攻撃を行ってくる。
そしてエインヘリアルの側は、ゲシュタルトグレイブを携えた甲冑騎士のような戦法を取る。
「また、皆さんが現場に到着できるのは、最速でも『女性がエインヘリアルとなる事を受け入れる直前』になります」
前述の通り、女性はエインヘリアルになる事を容易に受け入れてしまうが、ケルベロスの説得が成功すれば、導きを拒否してエインヘリアル化を防ぐ事が可能となる。
エインヘリアルとならなかった場合も、敵が女性を攻撃する事は無いので、説得に成功した場合は、2体のデウスエクスと戦って撃破できれば作戦は成功となる。
説得が失敗した場合、エインヘリアル化した女性は、まずは男性の殺害を優先する為、説得に失敗しそうな場合は、男性を戦闘班に外に助け出す必要があるかもしれない。
女性がエインヘリアル化すると、白い鎧兜のエインヘリアルとシャイターンは、彼女を撤退させて、ケルベロスと戦う。
撤退しようとする女性エインヘリアルを撃破するには、なんらかの作戦が必要になるだろう。
「お聞きの通り、状況はかなり切迫しています。女性の説得は困難を極めるでしょう。また、女性がエインヘリアル化した場合に、気絶した男性を助ける事も簡単では無いことが見込まれます」
苦い表情で、ヘリオライダーの少年はそう告げる。救うものを選択する必要があるのかも知れない。
「皆さんの健闘を祈ります……!」
いつもより抑えた低い、苦し気な声で、慧斗は一同を送り出した。
参加者 | |
---|---|
サイファ・クロード(零・e06460) |
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532) |
アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058) |
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598) |
葛城・かごめ(幸せの理由・e26055) |
名雪・玲衣亜(不屈のテンプレギャル・e44394) |
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360) |
村崎・優(未熟な妖刀使い・e61387) |
●交錯
生まれ変わることを受け入れろ。虐げられた女性にそう呼びかけたシャイターンの前に、シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)が飛び出した。
「そこまで、よ」
抜き放った剣の切っ先が、シャイターンの白い仮面に向けられる。
「何だ、貴様……?」
「戦闘準備完了……所属も含めて、全部喋ってもらうわ」
腕に鎖を撒きつけながら、シフカは低く呟いた。
そうして彼女が気を引く間に、ケルベロス達は自死の決断をしかかっていた女性、レナを敵から引き離すように布陣する。
「邪魔をするつもりか! その女性を、離せ!」
女性の夫、マコトを運んできた白い甲冑のエインヘリアルがその動きに反応、槍を手に突進を仕掛けてくる。
「よく言う。窮地に付け入って利用する奴なんざ、お呼びじゃないよ」
「やり方はともかく、おかげで一人の不幸な女性を発見できました。それだけはお礼を言います」
割り込んだ塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)がそれを受け止め、葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)がケルベロスチェインで守護の陣を形成、それに対抗する姿勢を見せた。
目の前で始まった戦闘に、レナは戸惑いのまま口を開く。
「誰、あなた達? 私は……」
混乱のさなかにある女性を落ち着かせるように、アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)が「ブラッドスター」を奏でる。生きる事に罪は付き纏う。けれどそれを肯定する、そんな曲。
死を、そして復讐を選んだ彼女を思い留まらせるために、さらに彼女は言葉を重ねる。
「……あなたの彼を愛する気持ち、それは間違いなくその通りでしょう。
今あるあなたの傷は、癒せます。これから受ける傷は、私たちが止めてみせます」
献身的な言葉にレナの瞳が揺れる。だがある一点で、彼女が身を竦ませた。響く銃声と槍の音色。エインヘリアル達が黙って待っている道理はないのだ。
「とりま、あっちの相手もしますか」
「くひひ、そうだね。……雷光団第一級戦鬼、九十九屋 幻だ。手合わせ願うよ!」
迎撃にかかる名雪・玲衣亜(不屈のテンプレギャル・e44394)、そして九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)に続き、村崎・優(未熟な妖刀使い・e61387)が二本の喰霊刀を抜き放つ。
「罪もない人の傷ついた心を利用するなんて、やはり貴様らこそが最低最悪のクズだ」
じゃり、と擦り合わされた刃が鳴り、彼の右目が紫の炎を上げる。牙零天伐・電煌之太刀。稲妻のような一撃が、エインヘリアルへと叩き込まれた。
敵が向かってきている状態だ、説得はせめて出来る状況の者から試みるしかないだろう。おろおろしているレナに、サイファ・クロード(零・e06460)が声をかける。
自然と目を引くのは、打撲の痕。医者の卵の彼から見れば、姿勢から腹部など日常的に殴られていただろう箇所も明らかだ。
「……痛みや絶望を一人で抱きしめて耐えてたんだな、よく頑張ったよ。あなたは強くて優しい人だ」
気遣うようにして、サイファは語る。
「でも、今はもう休んで良い。気力や体力が回復したら、今とは違う未来が見えてくるかもしれない」
これは『逃亡』ではなく『退避』、次に踏み出す為の最初の一歩だと、彼はそう言い聞かせる。
「今は少しだけ目を閉じて、耳を塞いで、ここは私達に任せてくれないか」
これではまるで、詐欺師じみた、誰かのような。自らの言動に、サイファは思わずそう考える。けれど追い詰められた彼女を、無理に煽るよりは良いだろう。続けて、同様の考えを持つ幻が口を開く。
「人間、頑張り続けていると疲れてしまい、判断力も鈍るものさ。一度マコトさんとは距離を取ってゆっくり休んでみるといい」
逃げる際に、「疲れた」と口にしたレナに、幻は言う。
「君は十分頑張ってきたんだ、自分への褒美と思って休暇を取ってみよう」
「そう、なの? 私は休んでも良いの?」
苦しい思考から逃げるように、彼女の瞳に霞がかかる、が、ゆらゆらと動いた視線は二人から逸れて、またヒステリーを起こしたように固まった。
「だ、だめ。できない、そんなの」
強張った表情と震える声、これ以上の追及は厳しいか、とサイファが見て取ったところに。
「惑わされるな! 思い出せ、お前が何をされてきたか!」
「余計な口を叩かないで! 今、相手をしているのは私よ!」
言葉を投げ込んだシャイターンを、シフカが黒影弾で抑える。サイファもまた『聖杯』でその動きを止めにかかった。
「悪いな、取り込み中なんだ」
それでも、届いた言葉はレナを一層頑なにさせるもの。それを和らげるように、翔子が言葉を選ぶ。
「……そうだね、貴方は理不尽な目に遭ってきた」
愛だの恋だのは人それぞれ。歪んでしまうものもある。だからこそ、他人だから言えることがあるはず。
「よく頑張ったね。これだけ傷つけられても耐えて。
貴方の様な辛抱強い、イイ女はね、ゴメンナサイなんて言わなくても抱きしめられて良いんだ」
その言葉にレナが我が身を掻き抱く。思い出と、優しい言葉が彼女の目に涙をにじませる。
「それに、もう貴方は抜け出す為の一歩を踏み出せているよ。アタシらは今、貴方を守る為に此処にいるんだ。一人じゃない。だから――」
「どうしたい、か?」
レナのしたい事は、そう問いかけた翔子に、助けを求めるような、縋るような眼が向けられる。だが、しかしそれはまた。
「私が、したいのは……」
揺れたレナの瞳が、『そこ』で見開かれる。暗がりの中、それはまるで色が変わったように見えた。
「(――そうか)」
遅まきながら翔子が、そして様子を探っていたサイファが気付く。話し手から時折逸らされるレナの視線は、その度に廃工場の一角、気絶させられ運ばれてきた、マコトの方に向けられている。
愛する人。恐ろしい人。気絶したままのため、ケルベロス達は対応を後回しにしているが、彼こそがレナにとっての『病巣』に違いない。彼がそこに居る以上、『退避』も『休養』も、彼女にとっては絵空事。だから。
「私は、彼を――」
そうして極論に至りそうなレナを、待って、と優が引き留めた。
「やめましょう、人を傷つけるなんて救いになれないでしょう」
そして破滅に向かう彼女に、真摯に言葉を重ねる。
「僕達はキミに幸せを取り戻させたい、何もかも輝いていたあの日々を取り戻させたい。だから希望を捨てないで、僕達を信じよう! これから、ケルベロスがキミの力になるんだ!」
「でも、あなた達が何をしてくれると言うの?」
優の意思は、実際レナの状況を解決する大きな助けとなったはずだ。夫を牽制、レナへの経済的援助。けれどそれは、この段階では証明できていない。
それは言葉を継いだかごめも同様。
「その男性との立場を逆転するなら、DVで訴える等手段はいくらでもあります。私達が来たからには可能な限り支援します。
エインヘリアル化の必要はありません。だから諦めずに生きましょう?」
「……ッ!」
追い詰められて弱った精神は、ケルベロス等の説得に毎回反応を見せている。
……もう一歩踏み込んで、なおかつ手段を先に示すことができれば、結果は違っただろうか。だが今の彼女は、シャイターン達の提案を『より具体的な解決策』と見ていた。
「今、あなたが人を辞めてしまうと、彼からの愛を受けることはできなくなるでしょう。
……どうか、人として生きてください。私たちに、あなたが彼と仲良く暮らすためのお手伝いをさせてください」
悲壮な表情を目にし、アトがレナを引き留める。暴力を経てもなお依存する姿勢が彼女には分からない、が、レナ達の幸せを望むのは本心からだ。同様に、玲衣亜もまた言葉を重ねた。
「復讐すんのは全然イイと思うんだけど、アナタが不幸に、死んじゃったら悲しーよ。てかそいつらにレナサンの不幸を利用されるのはアタシは嫌!
その人をどーするかはさて置き、とりま落ち着こう?」
普段は天真爛漫な様子が目立つ彼女だが、今回ばかりは少しだけ、余裕に欠ける。
「これまで苦労してきたんだから、幸せにならなきゃ!
もう、色んなことイヤになっちゃったかもしれないけど、それでも、何かたのしーこと探そ? アタシ、そーゆーの得意だからさ!」
それでも前向きに告げられる言葉に、レナは眩しいものを見るように目を細めた。
「ごめんなさい」
「なんで? アタシの言葉、信じられない?」
「違う、違うの。私は逃げたの、痛くて苦しい愛から、それを与えてくれる彼から。でもね、あの人は私が居ないとダメだから、きっと――意識が戻ったら、『追いかけてきてくれる』」
喜びに、恐怖に、ぶる、と彼女の指先が震える。逃げることも、目を瞑ることも、楽しむことも、あの人が居る限りは。
だから。
「おねがい!!」
レナは、身を乗り出すようにそう懇願した。
「ああ、――その願いは、きっと果たされる」
その声と視線を請け、シャイターンは頷く。銃声が一度、夜気を揺らした。
●開花
「そんな……そんな……っ!」
優の声が響く中、額を撃ち抜かれた女性が倒れる。赤と灰が廃工場の床を濡らす。そして、白百合がそこに咲いた。
「……そうか、生まれ変われたってわけだ」
立ち上がった新たなエインヘリアルを目にし、おめでとう、と苦い表情のまま翔子が呟く。状況は変わってしまった。
説得失敗も考慮に入れていたケルベロス達の行動に迷いはない。エインヘリアルと化したレナは、マコトへの復讐に動くだろう。彼を確保しなくては。
――けれど、今から? 一同の脳裏を、当然の疑問が過った。
廃工場の一角に放置されたままだったマコトに向かって、翔子が駆け出す。
怪力無双を発動し、マコトを掴み上げた彼女を庇う様に、かごめ達がそれぞれの位置へ動く。
しかし。
「彼を愛したいなら私たちを倒すことですね――」
「何故? あの人はすぐそこに居るのに」
振り向いたかごめの上方、既に跳び上がった空中で、レナが小首を傾げるのが見える。
「邪魔をするな、その男に生かしておく価値はない!」
「お前達の相手は、後だ」
エインヘリアルの投じた槍が分裂し、立ち塞がろうとしたメンバーを襲う。そしてシャイターンの巻き起こした砂嵐が、翔子の足に絡みついた。
今回の敵達はさほど好戦的でもなければ、ケルベロスを倒す事を最重要と考えてもいない。説得失敗と同時にスタートを切っていたのでは、すぐに戦域外に逃れることは難しい。
ましてや対象は一般人。一撃通れば、それでお終い。
「捕まえたわ」
未完成の囲いを悠々と跳び越えたレナが、翔子からマコトを奪い取る。そして。
「ああ――愛してる。私も、愛してあげるから。さよなら」
棘だらけの鎧で、彼女は夫を抱き締める。そして漏れ出た断末魔の吐息を、その唇で受け止めた。
「復讐は成された。行きなさい、レリ王女の元へ」
「はい。皆さんも、ご無事で」
エインヘリアルの言葉に従い、マコトの亡骸を横たえたレナが踵を返す。
「逃しはしない!」
そこにかごめの放った『闘気の鎖』が、そしてサイファの『聖杯』により澱んだ空気が、まとめて相手に絡みついた。
怒りに、足止め。こちらもせめて、もう少し、それらを積み重ねる時間があれば。
玲衣亜の燃える右拳を大きくなった掌で受け止め、レナは切なさの入り混じった瞳でそちらを一瞥する。
「そんな目をするくらいなら……ホント、バカなんだからっ!!」
けれど、もう、後戻りはできない。アトが気合溜めを行い、疲弊した仲間達を援護する。立ち去ろうとするレナに、シフカが先回り。だがその刃の前に、シャイターンが立ち塞がる。止める者のいなくなったレナは、廃工場から離脱していった。
●
残ったエインヘリアルとシャイターンを巡り、戦闘は続く。
「皆さんが動きを止めぬよう、私から送る曲です。どうぞ……」
アトの奏でるハーモニカの音色が味方を鼓舞する。少なくとも彼女が戦線を支えている間は、誰も倒れることはないだろう。
その間にシフカが放った刃は銃剣で受けられ、両者が接近。目の前の敵の仮面に、彼女の腹の底で炎が滾る。
「やはり、その仮面……!」
「我ら連斬部隊を知っていて、なおも楯突くのか、愚かしい」
「――!」
確信を得て、シフカが昏く瞳を輝かせる。
「そう、わかった。この先に居るのね、あのエインヘリアルが!」
「離れなさい、ケルベロス」
肩に力の入った様子のシフカに、側面からエインヘリアルが仕掛ける。だがその槍を、白蛇型のボクスドラゴンが絡めとった。すかさず発射される翔子の轟竜砲に、エインヘリアルの足が止まる。
「ほーれ、ようやく出番だよ。行ってこーい!」
「紅雷の力、受けてみるがいい」
玲衣亜のぶん投げたハリネズミ型ファミリアが釘付けにしたそこを、幻の放った真紅の槍が貫いた。
鎧を貫通する一撃に、エインヘリアルが膝をつく。
「レリ様……無事に帰れぬこと、お許しください」
倒れる様子を見て取り、シャイターンが突破口を求めて周りに視線を走らせる。が。
「逃がさないぞ、外道め」
優の放ったフォーチュンスターがその身を貫き、続くサイファがバールを振るって敵を追い詰める。そして。
「今すぐ此処で死に絶えろ。殺技肆式、『鎖拘・Ge劉ぎャ』!!」
シフカが敵の首に鎖をかけた。力づくの一撃に、敵は地に叩きつけられる。
そのままかごめの放ったグラインドファイアの炎に巻かれ、それでもせせら笑うように口の端を吊り上げて、シャイターンは力尽きた。
●静寂
廃工場に闇が戻る。白鎧のエインヘリアルと、仮面のシャイターンを倒すことには成功した。
だが敵が最期に見せた表情。それを思い出し、優の元で紫の炎が踊る。
滾り荒れるのは、憎悪と、そして。
「人の幸せを守るのこそケルベロスの使命だ。なのに……!」
「私も、彼女を癒す力になれればと……」
同様に、アトが肩を落とす。勝利とはとても言えない、そんな雰囲気。
「結婚て難しいなー。でもきっと、最初はこうじゃなかったと思うんだよね、どこで変わっちゃったんだろ」
地面に落ちていた白い欠片を、玲衣亜が蹴飛ばす。
「心の傷は、肉体の傷のようにはいかないのでしょうか――」
「体のそれと違って、見え難いものだからね」
かごめの言葉に翔子が応じる。けれど、それで納得のできる話ではない。
「それでも、一度離れて治療するって道は、あったはずなんだ……!」
途切れてしまったその道に、サイファもまた奥歯を噛み締める。謳われる救済は人それぞれ。だが、今回は手から取りこぼしてしまったものが、多すぎる――。
「あのエインヘリアルと、戦う日も来るのかね」
「さあ? けれど、連斬部隊が絡んできているというなら、必ず――!」
幻の言葉に肩をすくめたシフカだが、その目は既に、先に待つ復讐へと向けられていた。
傷を負い、失意を覚えて、それでもなお、彼等は進む。
作者:つじ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年9月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 5
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